悪魔に恋した代償は   作:きまぐれアップル

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十一話 悪魔のささやき

 月城悠馬はその日とある廃屋に入り、凶悪なはぐれ悪魔に出くわした。その悪魔は上半身が人間女性で、下半身が異形の存在という化け物。

 怪物の大きさは悠馬の数倍もあり、人間など簡単にひと呑みできた。非力な人間である悠馬はそこで間違いなくその哀れな命を散らすはずだった。

 

 しかしそうはならなかった。

 化け物が巨大な手を悠馬めがけて振り下ろした途端、化け物の両手が千切れとんだ。いち早く駆けつけたリアスの眷属、木場佑斗が彼を救ったのである。

 そして彼に遅れて何人もの悪魔たちが駆けつけた。

 駒王学園1年の塔城小猫、かつて悠馬と同じクラスだった姫島朱乃、いつぞやの屋上で出会った兵藤一誠。そして悠馬が想い焦がれているリアス・グレモリー――。

 

 彼らは人間ごときでは手に余る化け物を瞬く間に倒し、そして消滅させてしまった。

 それは夢か真か?

 今まで平和な日常を過ごしていた悠馬にとって、目の前の光景はとても信じられるものではなかった。こんな身近なところにあんな化け物が存在していたこともそうであるし、何より彼女たちが、彼女が手慣れたようにあの化け物を処理しているだなんて――。

 

 

 

「リアス、これはいったい……?」

「……」

 

 悠馬を見て驚愕の表情をしているリアス。そんな彼女に悠馬は問うた。あの化け物はいったい何で、どうしてリアスたちはあんな化け物と戦っているのか。

 しかしリアスは口を開かない。目を見開かせたまま、ただただ悠馬の前に立ち尽くしていた。

 

「部長、彼の記憶を操作しますか?」

 

 淡々とした口調で朱乃がリアスの前に出た。

 その声に悠馬は体を震わせる。二年の時から朱乃から朱乃と付き合いのあった彼であるが、今のような無機質で機械的な声は聞いたことなかった。そして記憶を操作するというセリフ。後ろが壁という状況ながらも悠馬は思わず後ずさった。

 するとリアスは目を据わらせて朱乃を手で制した。

 

「いいえ、その必要はないわ」

 

 酷く冷たい声。

 その声に込められた想いは怒りか失望か、哀愁か絶望か、はたまたそのすべてなのだろうか……。

 

「悠馬……。信じられないかもしれないけど聞いてほしいの……」

 

 リアスはそう言って自身の背中から悪魔の羽を展開させた。バサリッと音を立てたそれは人間には決して存在しない器官。リアスはその人ならざる証明を悠馬に見せつける。

 

「私たちはね。悪魔なの、悠馬。人間を(たぶら)かし魂を喰らう悪魔。あなたたち人間とは異なる存在」

 

 リアスは手を掲げて紅い魔法陣を発生させる。それは己と己の眷属を拠点へと飛ばす転移魔法である。

 

「だからね悠馬、お願い。もう私には関わらないで――」

 

 リアスは言葉を震わせてそう言った。

 悠馬はそんな彼女に手を伸ばそうと立ち上がる。しかしその手は届くことはなかった。

 魔法陣は眩しく輝くと、リアスと彼女の眷属たちを転移させてしまった。悠馬一人を残して。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔に襲われた次の朝。

 悠馬は昨日のことを考えながら学校への道を歩いていた。

 昨夜、悠馬は見たこともないような異形の化け物に襲われた。そしてあわや殺されるというところでリアスたちが助けに来てくれた。悠馬はリアスたちにこれはどういうことなのか聞こうとした。しかし彼女は自分は悪魔でこれ以上関わらないでほしいとだけ言ってそのままどこかへ消え去ってしまった。

 

 果たして悪魔とはどういう存在なのか。今までその存在を知覚したことのなかった悠馬にはさっぱり分からない。ただ世間一般でリアスの言う通り悪魔とは人を騙し、その魂を喰らうと恐れられている化け物。決して近寄っていい存在ではない。

 しかし悠馬は昨日間違いなく彼女たちに救われた。もし伝承通りならば彼は今こうして生きてはいない。

 

 本当ならば彼女の言う通り、悪魔という危ない存在から離れるべきなのだろう。関わればまた昨日のようなことが起こらないとも限らないし、そのうち魂を取られるかもしれない。

 だが悠馬はむしろもっとリアスのことを知りたいという気持ちが大きくなった。自分を助けてくれた悪魔という存在とは何なのか。彼女はなぜ人間同様学園に通い生活しているのか。そして昨夜の別れ際、どうしてリアスはあんなにも悲しげな表情をしていたのか――。

 

 

 

 するとその時、悠馬の目の前に身に覚えのある生徒が歩いていた。

 その生徒の名前は兵藤一誠。以前覗きで逃げ回っていたところを助けたことがある生徒だ。そして昨日リアスたちとともに悠馬を助けた悪魔の一員でもあった。

 

「――兵藤くんだよね?」

 

 兵藤一誠は後ろから呼ぶ声に振り返る。

 

「あっ……、月城先輩……。おはようございます……」

 

 一誠はぎこちなく挨拶をした。昨夜のあの後、一誠はリアスから悠馬とあまり関わることがないように釘を刺されていたのだ。

 

「ちょっと君たちのことについて話したいことがあるんだけどいいかな?」

 

 一誠は冷や汗をかいて固まる。

 自分たちが悪魔だとばれているからと言って、あまり深くまで話してしまうと後で主様(リアス)(もしくは女王様(朱乃))に何されるか分かったものではない。

 しかし一誠はお世話になった上級生からの頼みを無碍に断れるほど恩義を感じない男ではない。彼は非常に義理人情に厚い人間、もとい悪魔でもあった。

 一誠はしばらく悩んだ。話すべきか、それとも話さないべきか。しかし一誠はやはり主のためと思い、悠馬に悪魔のことを話さないと心に決め口を閉ざすことにした。

 

 

 

 

 

「――なるほど。つまり兵藤くんたち悪魔は物とか命とかを代償に人の願いを叶える契約を行っているんだね。そしてリアスは駒王の地を管轄している悪魔でもあり、昨日みたいなはぐれ悪魔を排除してこの地の安寧を守っているのだと」

「え、ええ……」

 

 どうしてこうなった。

 一誠は顔を蒼白にさせた。

 彼は悠馬に真実を話さないつもりであった。しかしあれよこれよと悠馬に言いくるめられてぽろぽろと自身が知っている悪魔の情報を零してしまった。

 それはただ単に一誠の頭のオツムがあまりよろしくないのか、それとも上級生である悠馬の方がやっぱり上手であったというべきか。一誠は後者であってほしいと信じたかった。もちろん現実は前者である。

 

「それにしても悪魔って本当にいるんだね……」

「そうなんですよね。俺もつい最近悪魔になったばっかりだからいろいろ驚くことばかりで」

「……悪魔になったばっかり?」

「やべっ……」

「まぁ兵藤くん。もうだいぶ話しちゃったんだからどこまでしゃべっても結局一緒だよ。それに僕は口堅いから大丈夫だって」

「……そうっすよね」

 

 そうして一誠は自身が悪魔になった経緯までもペラペラとしゃべってしまう。もし彼の主がいたら鬼の形相へと変わり果てるだろう。

 

「そういえばリアスはもう関わるなって言っていたけれど、やっぱりそれは……」

「……はい。きっと先輩を気遣って言ったことだと思います。あの後部長、すごい自分を責めていましたし……」

「そっか……」

 

 悠馬がはぐれ悪魔バイザーと出会った原因はリアスにある。リアスがあの時曖昧な条件を出さず、きっぱり断っていればこんなことにはならなかったはずであった。偶然の上に偶然が重なった結果だったとは言え、リアスは彼を裏の世界に一歩でも踏み込ませてしまったことに大きな罪悪感を抱えることとなった。

 

「先輩。一つ聞きたいことがあるんですが……」

「何かな?」

「先輩は今でも部長のことが好きですか? 部長が悪魔だと分かった上でも好きなんですか?」

 

 一誠の問いに悠馬は沈黙する。

 以前までの悠馬だったら照れながらも即答できるものであった。だが突きつけられた非情な現実は答えをだすことを難しくさせた。

 

「分からない。……まだ自分でも気持ちの整理がついていないんだ」

「そうですか……」

 

 一誠は悠馬の顔を見る。彼の表情は余裕を感じさせない緊迫したものであった。当然だろう。好きだった女性が、自分とは全く違う存在であると知ったのだから。

 

「だけどこれだけは言えると思う。悪魔だとか人間だとかごちゃごちゃしちゃって分からないけど、僕は間違いなくリアスのことが好きだ。たとえ彼女が悪魔だったとしてもこの気持ちだけは本当だって僕は信じている」

「先輩……」

 

 悪魔か人間か。

 両者に外見や内面の違いなんてほとんど存在しない。だからこそ悪魔は人間社会になじむことができ、人間は悪魔に恋することができるのだろう。

 しかし両者の間には間違いなく大きな壁が存在するのである。

 

 一誠はそんな悠馬を見て思う。

 彼、兵藤一誠は堕天使に恋し裏切られて一度死んだ。恋した者に裏切られた悲しみは彼の心に深く喰い刺さっている。

 しかし悠馬とリアスの場合はどうだろうか。お互いがお互いを想いやっていて、少なくとも悠馬は本気と見て取れた。存在するのは種族という大きな壁だけ。

 一誠はそんな彼らの恋を成就させたいと思った。単なる知人の恋にすぎないけれど、一誠は叶うよう強く願った。きっと一誠は自身の悲恋がトラウマとなり、それを周りが重ねていって欲しくなかったのかもしれない。理想の恋の在り方というものを見てみたかったのかもしれない。

 

 だから一誠は、絶対に話すべきではないことを持ちかけてしまった。

 

「――なら先輩。悪魔に転生するのってどうですか?」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 リアス・グレモリーはその日、思いつめた表情でオカルト研究部のソファーにいつまでも腰かけていた。

 その原因は昨日月城悠馬がはぐれ悪魔によって殺されかけてしまったからであった。自身のせいで彼を裏の世界に引きずり込み、死の危険にまでさらしてしまったのだ。

 

 

 

「失礼します部長!」

 

 その時、部室に入ってきたのは一誠だった。

 部室に入るときはいつもだらしないスケベな顔をしている彼だったが、今日はいつもと違い顔を引き締めていた。

 

「実は部長に折り入ってお願いがあります」

「何かしら、一誠。そのお願いというのは」

 

 いきなりのことにきょとんとするリアス。

 しかし次の瞬間、ある人物がリアスの視界に映る。その時、リアスの体内で熱い感情が駆け巡り彼女の体を震わせた。

 

「月城先輩を俺と同じように転生悪魔にしてくれないでしょうか?」

 

 リアスの前に立ったのは月城悠馬だった。彼は悪魔になろうと決意してこの場にやってきた。

 普通ただの人間がいきなり種族の違う悪魔に転生するなど、大半の者は難色を示す。当然悠馬も一誠からその話を持ち掛けられた時はためらった。

 しかし一誠は悪魔も人間社会で暮らすことができること、悪魔の体も案外悪くないこと、自分でも悪魔をやっていけるのだから悠馬でもやっていけるだろうことなどを話し、悪魔歴が短いながらも悠馬のことを後押しした。

 そして悠馬はどうするべきか悩みに悩み、悪魔になる道を選んだ。それは愚かな選択だったのかもしれない。しかし恋い焦がれるリアス・グレモリーと並ぶにはそれしか道がないのは確かであった。

 

 リアスはしばらく沈黙し、ゆっくり立ち上がった。

 悠馬はこちらにやってくるリアスに身構える。前回オカルト研究部に入部したいとやって来たときは、自身が無知であったために追い返された。しかし今は悪魔のことを知った上でこうして来ている。ならば可能性はなきにしもあらずだと悠馬は思っていた。

 しかしリアスは悠馬には少しも目を合わせることをせず、一誠の前に立った。

 

「一誠、あなたは悪魔の眷属を何だと思っているの?」

「えっ……」

 

 一誠はリアスの冷たい表情を見て驚いた。短い期間ではあったが、一誠は彼女をこの時ほど恐ろしいと思ったことはなかった。

 

「眷属はね、主のために存在しなければならない。強くなければならないの」

 

 リアスは一切悠馬を視線に入れず言い放った。

 

「それが何? 彼はただの、何の力も持たない人間じゃない。そんな輩を紹介するなんて、なってないわよ」

 

 眷属は悪魔の持ち駒であり、悪魔の武力。日頃の戦闘でもレーティング・ゲームでも眷属の強さはその主の優劣を決める要因である。

 しかし一誠はリアスがただ力だけを求めている悪魔ではないことを知っている。そうであるなら、まだまだ神器所持者として未熟な自分を生き返らせてまで眷属に加えるはずがない。そこにはきっと人に対する優しさや愛情といったものが存在しているはずなのだ。

 

「しかし部長! 俺を転生させた時は――」

「――黙りなさい!」

 

 否定しようとする一誠を、リアスは頬に平手打ちするとともに黙らせた。顔を打った甲高い音が部室を支配した。

 

「あなたは神器を持っていたからよ! そこの()()と違って特別な力を持っていたから転生させたの!」

 

 リアスは怒鳴るように一誠に言った。

 いや、半ば自分に言い聞かせるように言ったのかもしれない。彼女は世間一般で言う悪魔になりきらなければならなかった。悠馬に優しさや愛情だなんてものを見せてはいけなかった。

 

「一誠、分かったならその()()をさっさと帰してきなさい!」

「だけど部長、月城先輩は――」

 

 一誠は怒鳴り散らす主になおも反論しようとした。せめて悠馬がどんな想いで悪魔になろうと思ったのかだけでも伝えたかった。

 だが一誠が言う前に、悠馬が彼の肩に手を乗せて中断させた。

 

「……もういいよ、兵藤くん。リアスの言う通りだ。無茶な願いをした僕が悪い。迷惑かけて済まなかったね、リアス」

 

 悠馬はリアスに頭を下げ、そのまま部室を去っていった。それに一誠も何も言わず彼の後を追い、同じく出て行った。

 

 

 

 

 

「……リアス、さっきはどうしてあんなことを言ったんですか?」

 

 すっかり静まり返った部室。

 その場で立ち尽くしていたリアスに、朱乃はそっと隣に立ち、優しく声をかけた。

 

「眷属の条件は力もそうですが、信頼こそが一番だとあなたはいつもそう言っていたじゃありませんか。悠馬くんのことはともかく、ああ言っては一誠くんの誤解を招きかねませんわ」

「……」

「それに悠馬くんのことだって、彼のような人間でも立派に大成した悪魔なんてたくさんいるはずです。実際にソーナさんもそういった方々を迎えております。悠馬くんの覚悟は本気みたいでしたし、お話くらい聞いてもよかったのでは?」

 

 朱乃はリアスの瞳を見据える。いつも自分のなかに抱え込んでしまうリアスを逃がさないように。

 するとリアスはぽつりとつぶやいた。

 

「……いやだったからよ」

「えっ?」

「悠馬が自分の夢まで諦めて、私と同じ道を選んでしまうのが嫌だったのよ!」

 

 リアスは溜め込んでいた想いを大きな声ではき出した。

 リアスは悠馬をこちらの世界に引きずり込んでしまうことが嫌だった。悠馬にはミュージシャンになるという素晴らしい夢がある。彼にはその才能があって成し遂げることだってできるかもしれない。

 しかし悪魔になるということはその道をあきらめてしまうことだ。人間としての生を捨てるということでもある。もちろん悠馬が夢よりも恋を大切にしたいのであるならば問題はない。そういう生き方だって存在する。

 だがリアスは知っていた。自身はグレモリー家を継ぐ悪魔で、どんなことがあってもその恋は報われることがないということを。

 だからリアスは悠馬に先のない悪魔の道ではなく、未来輝く人間の道を歩んでほしかった。たとえ両想いだとしても、それは決して叶えてはいけない恋なのだから。

 

「だったらリアス。あなたはなぜ前に彼がこちらに来た時、ばっさりと入部を拒否せずにあんな条件を出して保留したのですか? なぜ昨日彼に記憶の操作をしようとした私を止めたのですか?」

「それは入部をただ断るだけじゃ怪しまれるし、記憶操作なんかしたらまた無茶するかもしれないからと思ったから……」

「嘘ですね、リアス。あなたは彼の記憶を操作しなかったのではなく、ためらったんです。彼の記憶に干渉したくなかったんです。それに入部の時ですが、あなたはただ自分の口からはっきりと返事したくなかっただけでしょう? 彼の目の前で彼を拒否できなかったんでしょう? さっきだって力の有無を棚に上げて何も言わせないで彼を帰したじゃないですか」

 

 リアスは押し黙った。朱乃の言っていることはどれも図星だった。

 結局のところ、リアスは非情に徹しようとしているつもりが、非情になりきれていないのである。彼を離そうとしているのに、心のどこかで彼を求めてしまっている。だからギリギリのところで彼にチャンスを与えることになってしまっている。

 

「リアス、お願いです。言い訳をしないでください。何も話さずに終わったことにしないでください。きっと彼はリアスと向き合えるまで期待し続けます。そうしたらさらにひどいことが起こるかもしれません。取り返しのつかないことになるかもしれません。ですからリアス、あなたのありのままの想いを彼にぶつけてください」

「……分かったわよ」

 

 朱乃の言葉に、リアスはうつむいて返事をした。

 朱乃は涙で滲ませるリアスの瞳を見て、親友がよりよい選択ができることをただただ願った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「悠馬くん、最近元気ないけど大丈夫?」

「いえ、大丈夫です……」

「ならいいけど……。じゃあ気を付けて帰ってね」

「はい……」

 

 悠馬は覇気のない顔でバイト先である喫茶店から出て行った。

 リアスにこっぴどくオカルト研究部を追い出されて以降、悠馬はバイト中にも物憂げな表情を見せるようになった。普段の生真面目な彼を知っている人からすれば、それは大変珍しいものであった。

 

 夕日に染まる帰り道、悠馬は途中にある公園のベンチに腰掛けた。

 さすがにここまでもくれば悠馬とてリアスが彼を心配してそばに近づけたくないということは理解できた。はぐれ悪魔バイザーのような化け物と対峙する悪魔に素人を転生させるなど愚の骨頂だ。

 しかし頭では分かっていてもそう飲み込めるものではない。リアス・グレモリーは彼が生まれてはじめて恋した女。種族は違えどその想いに変わりはない。

 それに悠馬のなかではこの恋はまだ不完全燃焼であった。リアスがどう自分を想っているかは定かではない。だがここまでの彼女の態度から悠馬のことが嫌いであるとか悠馬のことを好きではないとかいうことは感じられなかった。お互いの間にあるものは人間か悪魔かの壁だけなのである。

 

「僕は悪魔になれないのか……」

 

 悠馬はぼそりとつぶやいた。

 恋のために種族の壁を超えること。それは後先考えない愚かな行為。しかしそれだけがリアスの隣にいられる行いであった。

 

 

 

「――へえ、君。悪魔になりたいの?」

 

 ゾクリとするような声。それは突然だった。

 まだ日が傾いている時間だったのに突然辺りが暗くなっていた。悠馬は声のする方へ顔を向けた。そこには一人の青年がいた。それもただ立っていたのではなく、宙に浮いていた。

 青年は人当たりの良い笑みを浮かべると悠馬のところへふわふわと近づいていく。

 

「あ、あなたは……?」

「僕かい?」

 

 青年はもったいぶるように言い、その場に静止した。そして背中から大きく黒い翼を広げる。悠馬はその翼に見覚えがあった。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。リアス・グレモリーと同じ、正真正銘の悪魔さ」

 

 

 




次回、みんな大好き糸目のやさしいお兄さんが登場。主人公の助けになること間違いなし()
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