悪魔に恋した代償は   作:きまぐれアップル

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三話 むっつりすけべ

「――もしもし。おお、大悟か。久しぶり」

 

 悠馬が家でくつろいでいると、突然電話がかかってきた。相手は悠馬の前の学校の生徒で、悠馬と一緒にバンドを組んでいるメンバーの大悟である。

 彼らのバンド“Deafness Days”は悠馬と大悟を入れた4人で活動している。リーダーは大悟であり、彼が悠馬たちに声をかけたことによってバンドが結成されたのだった。

 

『おう、久しぶりぃ。急な電話ですまんな。今週の練習何だが学校が使えないみたいで、駅前のスタジオでやることになった』

「了解。あのスタジオかぁ……。あそこ設備いいんだけど金かかるんだよな。地味に痛い」

『お前ここまで来る交通費もあるもんな。大丈夫か? きつかったら別のところにしようかと思うが』

「いや、大丈夫。ちょっと愚痴っただけ。何とか新しいバイト先見つけたし、実際はそんなに問題ないよ」

『そうか。ならいいんだが。……ところで悠馬、そっちの学校馴染めてきたか?』

「まぁまぁかな」

 

 転校してきて2週間、悠馬はクラスのなかで特別孤立するようなことはなかった。悠馬は積極的に周りに話しかけ、クラスの輪に入れるよう心がけた。初期によく話しかけてきた晶や健とはよく遊ぶ友達にもなれた。

 また勉学の面でも後れを取ることはなかった。駒王学園は偏差値の高い進学校ではあるけれど、悠馬がもともといた学校もそこそこの偏差値を有していた。そのためひどくその落差に苦しめられることはなかった。

 むしろ生真面目な悠馬はクラスでもいい成績を残せていた。

 

『まぁ、お前がぼっちになるなんて想像できないけどな。そういやお前の学校共学だったな。やっぱり生の女子高生は可愛いか?』

「そりゃあね」

『いいなぁ。一緒の教室でムラムラする?』

「それくらいでするわけないだろう。大悟、何か発想がいかにも男子校くさい」

『お前も少し前までは男子校だっただろ』

「少し前までは、ね」

『くそっ、羨ましい!』

 

 もともと大悟がバンドをしようとしたきっかけはモテるからだった。そしてそのために小学校からの旧友である悠馬を誘ったのだった。

 もっとも実際にバンドをはじめて大悟がモテることはなかったのだが。

 

『そういや悠馬彼女とかもうできた?』

「2週間くらいでおいそれとできたら苦労しないよ」

『イケメンなのにか?』

「イケメンじゃない」

『じゃあさ、気になる子くらいはいるんだろ?』

 

 悠馬は紅髪の少女を思い浮かべた。同じクラスのリアス・グレモリー。

 まだ数回しかしゃべっていないけれど、彼女のことがやけに印象に残った。

 もちろん、学園でダントツに美人と言われていることもあるだろうけれど、彼女の浮かべる物憂げな表情や笑顔、ちょっとすねた姿が、無意識的に頭のなかに浮かんだのだ。

 

「……いないよ」

『ちょっと考えたな、悠馬。いるってことだよな』

「べ、別にそういうわけじゃなくて、ただちょっと……」

『このむっつりめ』

「……」

 

 きっと大悟は明日中にでもバンドメンバーにあることないこと言いふらすつもりなのだろう。電話越しで相手を殴ることができないのを悠馬は酷く恨んだ。

 

『まぁいいや。じゃ、その子を次のライブに連れて来れるようにしとけよ』

「余計なお世話だよ!」

 

 悠馬は通話を切り、携帯電話をベッドに放り投げた。

 全く持っていらないことを言う友人であった。あれでも、いやあれだからこそ最も一番つきあいの長い友人と言えるのだろう。腐れ縁とは面倒くさいものである。

 

 悠馬は机に置かれたミュージック・プレーヤーを手に取った。それは以前屋上で紅髪の少女と一緒に曲を聴いていたものである。

 

「リアス・グレモリーさん……か」

 

 悠馬はベッドに寝っころがってイヤホンをつけると、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 昼休みの教室。

 悠馬はサッカー部のチャラいエースこと北川晶と、廃部寸前バスケ部部長の折谷健と一緒に昼飯を食べていた。

 

「そういえば悠馬。修学旅行何だけど一緒の班にならね?」

「そういえばもうすぐ修学旅行だったね。いいよ。他に誰がいるの?」

 

 晶は購買のパンを口に頬張らせて悠馬に話した。

 駒王学園の2年生は秋に修学旅行に行く。場所は京都だ。

 

「とりあえず健がいる」

「おう。俺と晶と悠馬で三人。班は六人編成だから残り三人は未定だな」

「なるほど。残りはこれから集めるってわけね。当てはあるの?」

「もちろん」

 

 晶はくいっと顎で窓際を指した。

 その先には支取蒼那と姫島朱乃、そしてリアス・グレモリーがいた。

 

「マジかよ晶! 支取さんをこの班に……!」

「おうよ。その腹づもりだぜ。おそらくあいつらはあの3人で組むだろうからな。俺たちと合わせるとちょうど6人だ」

「そんなに上手くいくの?」

 

 懐疑的な悠馬に、晶は親指を立てて立ち上がった。

 

「大丈夫だろ。ちょっと交渉してくる」

 

 晶は飄々と彼女らのところへ向かった。悠馬の横にいる健は両手を合わせて蒼那たちと一緒の班になれるよう祈りを捧げている。

 

 悠馬は晶の様子を見守る。するとふと向こうにいたリアスと目があった。リアスは悠馬が見ていることに気付くとニコッと笑った。

 悠馬は心が躍った気がした。だけどもちろんそんなこと顔には出さない。悠馬はそれに軽く笑みを作って応えた。

 

 

 

「喜べお前ら。OKの返事をもらえたぜ」

「うおぉぉぉぉっ!! さすが晶だ! 俺お前に一生ついて行く!」

 

 健が晶に抱きついた。がっしりと大柄なバスケ体型の健がスリムな晶にしがみつく姿は異様だった。クラスの女子はガン見である。蒼那も苦々しく笑っていた。

 

「よかったな、健。支取さんと一緒になれて」

 

 悠馬は苦笑しながら健の肩に手を回した。すると晶がにやけ顔で悠馬の肩をド突いた。

 

「悠馬、お前も本当は嬉しいんだろう?」

「えっ?」

「リアスだよ、リアス・グレモリー。お前彼女のこと気になってるんだろう?」

 

 悠馬はちらりとリアスのことを見た。幸いにも聞こえてないらしく、リアスは朱乃と蒼那との会話に夢中だった。

 

「見りゃあ分かるよ。お前がリアスのこと気になってるって。授業中しょっちゅうリアスの方見てるじゃねぇか」

「だよなだよな。俺と晶は悠馬の後ろの席だからすぐ分かるぜ」

「べ、別にグレモリーさんの方を見ていたわけじゃないよ」

 

 悠馬は目をうろたえさせた。悠馬本人は別に恋だとか好きだとか思ってなどいない。ただ()()()()リアスの方を見る回数が多いだけなのだ。

 晶はあきれるようにため息をついた。

 

「お前よくむっつりって言われるだろ」

「……ないよ。言われるわけないじゃないか」

「そうかい」

 

 晶は疑いを込めた眼差しで悠馬を見つめた。隣にいた健もである。

 

「だいたい晶、お前1年のマネージャーの子と付き合ってるんだろ? なら何でわざわざグレモリーさんたちと組もうだなんて思ったんだよ」

 

 悠馬はごまかすように話を切り返した。晶はにべもなく答える。

 

「一緒に修学旅行に行けない以上、俺からしたら女子は誰でもかまわないし。だったらお前たちが楽しめそうな面子を誘った方がいいと思ってな。俺ら友達だろ?」

「……余計なお世話だよ」

 

 本当はただ一緒の班になったらいろいろと面白そうなことが起こると思っただけだろうに。悠馬はそう思った。それで修学旅行の夜に男どもを集めて根掘り葉掘り聞くのである。

 悠馬は本当にいい友達を持ったものだった。

 

(だけれど……)

 

 悠馬はもう一度リアスを見る。彼女はやっぱりこちらのことなどおかまいなしに朱乃と蒼那と話していた。

 悠馬はちょっとだけ同じ班になれたことに嬉しく思った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そして修学旅行当日。

 悠馬たちは京都駅に全員揃うと、さっそくしおりを取り出して次に向かう場所を確認した。

 この時第一声を放ったのは晶だった。

 

「よし! それじゃあまず班のルールを決めていきますか!」

「……ルールですか?」

 

 蒼那は首をかしげて晶を見た。他の班員もだ。

 すると晶はカバンから一枚の紙を取り出した。

 

「えー、まずルールその一、お互いのことは名前で呼び合う」

 

 合コンかっ! と悠馬は思わず突っ込みそうになった。悠馬は晶の(よこしま)な意志がルールに染みついているようにみえた。

 

「あら、面白そうね」

 

 しかし意外なことにリアスは賛同した。

 別に彼女に深い意味はない。ただ名前で呼び合った方が親近感が沸く、シンプルにそう思っただけだ。

 

「おっ! ノリいいね、リアス!」

「……グレモリーさん。別に晶のノリにつき合わなくてもいいんだよ」

「あら悠馬、グレモリーじゃなくてリアスよ。さっそく約束を破っちゃって、ダメじゃない」

「えっ」

 

 リアスは悪戯な笑みを浮かべて悠馬に言った。

 悠馬にとってリアスの口調はどこか艶やかに聞こえた。それに名前で呼ばれたことも加わり思わず顔を赤らめさせてしまった。

 

「ルールその二、観光地では目一杯写真を撮る!」

 

 ルールその二はその一に比べると至って普通の内容だった。朱乃は何かポーズに決まりでもあるのかと晶に尋ねたが、特にないとのことだった。

 それは晶にしては拍子抜けするような内容。だけどこれは次のルールの伏線だった。

 

「そしてルールその三! 観光地では……ペアで行動すること!!」

「なぁっ!?」

 

 つまり総括すると訪れたところではペアで行動したくさん写真を撮りつつお互いを名前呼びするということである。

 こればかりは普段から表情を崩すことが少ないと言われている美女三人組も驚きの表情を見せた。もちろん、悠馬も驚いており、健にいたっては女子陣に見えないように晶によくやった、とサインを出している。

 

「さすがにそれはちょっと……」

 

 蒼那は眼鏡をくいっと直し、否定の意を示した。

 

「盛り上がるための軽い遊びだって。くじで誰と誰が組むか決めるし、場所ごとにやり直すからそんな構えなくても大丈夫。ちょっとした交流をはかるゲームだと思ってさ、試しに一回やってみようぜ」

 

 晶はそう強引に進めると、どこからか六本の割り箸くじを取り出した。

 悠馬と健はそれに見覚えがあった。新幹線の席で晶が余った弁当の割り箸を集めて作っていたものだったのだから。そして同時に、晶がただ正直に6本のくじを作っていたわけでないことも、二人は見ていた。

 

 ――安心しろ、お前らの願いはちゃんと叶えてやるぜ

 

 晶はそう悠馬と健にアイコンタクトを送った。

 

「じゃ、さっそく引こうぜ。俺としては女の子と一緒になりたいなぁ。悠馬か健だったら最悪だぜ」

 

 実に白々しい発言だった。晶は細工しており、必ず最適なペアを作れるようにしていた。並みの人間なら難しいことだが、王様ゲームで経験を積んできた晶にミスの文字はない。

 

 少なくとも今までは――。

 

 

「晶くん。手に虫が……!」

 

 急に朱乃が晶の手をひっぱたいた。思わず晶は全てのくじを離してしまう。

 晶の手に握られていたくじは音を立てて床にばらまかれた。悠馬と健はその様子に茫然とする。

 なぜなら6本のはずのくじがどういうわけか12本になっていたからだ。

 

「あらあら、ごめんなさい。私の勘違いだったみたい。あら、どういうことかしら……。6本だったくじが12本に増えちゃってますわね?」

 

 朱乃のサディスティックな瞳が晶を刺した。

 晶は三対のくじではなく、六対のくじを作っていた。女性陣に全て異なる6本のくじの中から一本ずつ引かせ、隠し持っていたそれに対応するくじを男子陣に配る、それが晶の算段であった。

 

「あははは、余った割り箸まで落としちゃったみたい。めんごめんご。じゃあ気を引き締めてやりますか」

 

 

 

 かくしてペア決定はやり直された。晶による子ども騙しな細工がなくなった今、誰が誰と組むのかなんて、まさしく神が決めることとなった。

 そして悠馬はまさにこの時、その神に気に入られたのかもしれない。

 

「あら、どうやら私は悠馬とみたいね。よろしくね」

「こちらこそ。よろしく頼むよ、リアス」

 

 いや、もしかしたらそれは神ではなく悪魔なのかもしれなかった。

 

 




今回はちょっと少なめ。次回は修学旅行続きです。


男子がオリキャラなのでちょっとしたまとめ

○月城 悠馬:主人公。バンドマンでボーカル担当。
○北川 晶 :ちょっとちゃらめな友人A。サッカー部。
○折谷 健 :蒼那のことが好きな友人B。バスケ部。
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