年が明けて早くも1月。
学園祭からもう2か月は経っているのだが、特に悠馬とリアスの関係に大きな進展はなかった。
というのもここ近年はぐれ悪魔が妙に多く駒王に現れ、リアスと彼女の眷属たちがその始末に追われたという背景があった。そのため彼らは
そして現在、リアスは生徒会室で蒼那とともに最近頻出していたはぐれ悪魔についての話をしていた。
「――なるほど。春先に有望な悪魔を欲したハルファス卿が眷属をリストラしていて、そのツケがこっちに来ているということですか」
「そうなのよ。困ったものよね。一応もう討伐し尽くしたと思うんだけど、頭きたからお兄様にガツンと言わせてやるわ」
リアスは出された紅茶を飲む。
この場にいるのはリアスと蒼那だけで、生徒会メンバーやリアスの眷属はいない。
だからだろうか、蒼那は思い出したかのように口を開いた。
「ところでリアス。うちのクラスでクリスマス会をやっていたの覚えてますか?」
「ええ、覚えているわよ。私たちは行かなかったやつよね」
リアスと蒼那は悪魔だ。それ故にキリストの祝日であるクリスマスイベントに参加はしなかった。本人たち的には非常に心残りなことなのであったのだが。
「その時、凛子さんが悠馬くんに告白したらしいですよ」
「ぶふぉっ――!?」
予想もしなかった話にリアスは思わず紅茶を噴き出した。そんな親友の様子を見て蒼那はニヨニヨとする。
「リアス、はしたないですよ」
「ソ、ソーナがいきなり関係ない話をするからじゃない!」
リアスは顔を赤くしながら横にあった布巾で机を拭く。その動作はやけにぎこちなかった。
「ふふっ、ただのガールズトークじゃないですか。リアスはもしかして悠馬くんのことが好きなのですか?」
「そ、そんなわけないじゃない! ただの友達に決まってるでしょ!!」
素直じゃない。蒼那は顔を背けているリアスをそう評価した。
どこまで好きかは知らないけれど、この反応はおそらく少なからず彼を異性として見ているということだ。まったくもって分かりやすい。
そこで蒼那は続けてカマをかける。
「そうなんですか。そういえばその時悠馬さんが言っていたそうです。僕には好きな人がいるって。いったいどこの誰のことなんでしょうねぇ」
蒼那は悪戯な笑みをして眼鏡をくいっとあげた。果たしてリアスはどんな反応をするのやら。
だけどリアスは蒼那が予想していたような恥ずかしがるでも照れるでもなく、ただただテンションを落とした。
「えっ悠馬って好きな人いるの……。知らなかった……」
蒼那はくらりと
「えっと、リアス。あなたは悠馬くんが好きなひとに心当たりはないのですか?」
「そんなのあるわけないじゃない」
「そうですか……。先が思いやられますね……」
「えっ?」
「いえ、ただの独り言です」
蒼那は深いため息をついた。
蒼那は悠馬がこれまでにリアスのために何をしてきたか知っている。彼女に自分たちの歌を聴かせるために生徒会と交渉したり、見せるからには盛り上がってるところを見せたいからということで寝る時間を惜しんでライブのビラ宣伝を作ったり、蒼那にリアスが好きそうなアーティストや曲を聞いてそれを本番でやろうと必死に練習したり……。
蒼那はなんだか目頭が熱くなった。本当になんて彼はかわいそうな子なのだろうか。
「そういう蒼那はどうなのよ。いい人とかいないの?」
「いませんよ、そんな人」
「シトリー家からの縁談も?」
「ないですよ。考えても見てください。私には姉がいます」
「ええ。けどそれがどうしたの?」
「姉は独り身です」
「……すべて理解したわ」
もし蒼那に縁談の話が来るとしたら、それは蒼那の姉セラフォルーが結婚しているときだろう。姉が未婚なのにそれより早く妹である彼女に縁談の話など舞い降りてはいけないのだ。そして世間体を考えず魔法少女趣味全開なセラフォルーが結婚できるかと言われたら……。
つまり、そういうわけで蒼那は縁談など気にせずパートナーを探すことができるというわけだ。
妹がそんな話をしていると知ったら、お姉ちゃんはおそらく泣く。
「けれどソーナはいいわね。親から無理やり縁談を迫られる心配もなくて」
「そうですね。ですがリアス、結婚相手は一生付き合うことになるんですからもっと自分の意見をもっと表に出したほうがいいと思いますよ。厳しいとは言え、本当にいやならグレモリー卿も分かってくれると思いますし」
「……ええ、そうね」
リアスはうつむいて紅茶を啜った。
彼女は負けず嫌いでプライドが高く、そして誰よりも優しい。だから困ったことがあっても自分の中にしまい込んでしまう。
蒼那はそんな彼女の悪い癖をよく知っていた。なんせ長く付き合っている親友なのだから。
だが彼女の長い友達でも、悪い癖を知っていても、解決できないことというのは存在する。今回の件はちょうどそれだった。部外者である蒼那にはグレモリー家の縁談に口出しすることはかなわないし、結局のところこの問題はリアス自身が解決しなくてはいけない。どんなに難しい決断でもそれは彼女の人生を決める重要な決定なのだ。だからどんなに悩み苦しんだとしてもそれは彼女自身が決めなければいけないのである――。
◇
「えっバンドを一時休止するって!?」
それは2月の初旬、悠馬がバンド練習しに地元に帰ったときの出来事であった。
「そうだよ。俺らって来年大学受験だろ。みんな受験するわけだし、それが終わるまではバンドをやめて勉強に集中したほうがいいだろうしな」
大悟の言う通り、〝Deafness Days“のメンバーはいずれも大学受験をする。もともと彼らのいる高校は県でもそこそこの進学校であるため、学生のほとんどが大学へ進学するのである。
「そうだなぁ、俺も親から塾通いなさいってうるさいんだよな。まぁ別に大学に入ってからもバンド続けるわけなんだから俺はかまわないけど」
「おっ万年赤点の翔もとうとう勉強をはじめるのか」
「うるせぇぞヨシ! ちょっとできるだからって調子乗るなよ!」
「冗談だよ翔。ところでそうなるってことは次回のライブで高校生最後ってわけか。いつやるんだ?」
ヨシは顎に手を当てて大悟に聞いた。
すると大悟はかばんの中をまさぐり、一枚の紙を取り出した。
「俺たちが次やるのは3月14日。つまりホワイトデーライブだ!」
「ホ、ホワイトデーだって!?」
悠馬は大きな声を上げた。
確かにホワイトデーはライブをやるにはいい日程だ。来る人もいつもより多くなるし、話題性も高まるだろう。
しかしそれは他のバンドも考えることは同じで、とてもじゃないが普通こんな時期にはもう予定が埋まっている。
「それがよ、ライブハウスのおっちゃんに受験で休業するかもって伝えたら、ならせっかくだから使ってけってわざわざスケジュール開けてくれたんだよ」
「あのおっちゃん……。なかなか粋なことをしてくれるじゃん」
「今思えば僕たちが組んだ時からお世話になってたからね、あの人には。本当に感謝しても足りないくらいだよ」
ヨシと悠馬は無精ひげにサングラスをかけたライブハウスオーナーの姿を思い浮かべてしみじみとする。
悠馬たちはオーナーからバンドのいろはをすべて教わったと言ってもよい。まだまだやり始めたばかりの彼らのことをオーナーは自分たちの息子のようにいつも気にかけてくれたのだ。
「ならさ、今度のライブ絶対に最高のものにしていこうぜ! もうテレビでオンエアされるくらいに!」
「翔、さすがにテレビでオンエアされるのは無理だよ」
「だけどよ悠馬。俺らはいずれテレビの前で華々しくデビューするんだ。だからそういう意気込みは悪くねーと思うぜ」
「そうだな、大悟の言う通りだ。それに悠馬お前、どうせまたあの子呼ぼうとしているんだろ? あんな上玉振り向かせるのにそれくらいできなくてどうするんだ」
「ヨ、ヨシ!」
メンバーは顔がゆでだこのように赤くなった悠馬を見てニヤニヤする。悠馬は大きく咳払いをしてごまかすのだった。
◇
悠馬たちのライブがホワイトデーにやると決まった日の翌週木曜日。
この日は男の子が女の子にプレゼントを渡すホワイトデーの対になるイベント、バレンタインデー。
この日を迎える週は男たちはみんな紳士になる。理由はもちろん女の子からチョコをもらうためだ。特に女子の比率の高いここ駒王学園では必死になるがあまり進んで女子たちの奴隷に成り下がるやつもいる。
しかしどんなに頑張ってもチョコをもらえるとは限らない。女の子は気まぐれな生き物だ。気持ち悪くまとわりつく男なんかより、ストレートに気になる男子に渡すのである。
「あ、月城くん。チョコあげるね」
「悠馬じゃん。はい、これ義理チョコ」
「つ、月城先輩! あ、あの受け取ってください!」
「悠馬くん! これ、私の気持ちだと思って受け取って!!」
男たちの殺気のこもった視線に刺されながら悠馬は女の子たちからチョコレートを受け取った。そのほとんどが義理チョコなのではあったのだが、なかにはあからさまなハートマークのものがあったり、中に重たい内容の手紙が入っていることもあった。
「おや、悠馬さん。ずいぶんとまぁチョコを受け取りましたね」
「あはは……」
両手いっぱいにチョコレートを抱えていた悠馬に、支取蒼那が声をかけた。
その蒼那の手にも可愛らしくラッピングされた小さな包みがあった。
「では、私からもプレゼントです」
「ありがとう、蒼那」
包みの感じからしてどうやら手作りらしい。清楚な美少女からバレンタインに手作りチョコのプレゼント。これに喜ばない男はいないだろう。
悠馬ももちろん一瞬ドキリとした。何だかんだ彼と蒼那はよく話すのでちょっとばかり疑ってもおかしくはなかった。
だが視線を教室内に移すと半狂乱に舞っている健が同じプレゼントをもらっていることから、いわゆるそういうものだと悠馬は解釈した。
「うふふ、今あからさまに安心しましたね。もしかして、こういうのはリアスからもらわなければ駄目だと思っています?」
「そ、そんなことないって! こういうのって誰からもらってもやっぱりうれしいよ!
「そうですか。ならよかったです」
蒼那は意地悪な笑みを悠馬に向けた。
学園祭以降、蒼那は悠馬をリアスのことで頻繁にからかっている。たいていその場にリアスがいることが多いため、悠馬はいつ察せられてしまうか冷や汗ものなのであった。
「そういえばリアス遅いですね。どうしたんでしょうか」
「そうだね。もうすぐホームルーム始まりそうなのに」
時計は8時30分を指し示し、もうじき担任の先生がやってくる。チョコを恵んでもらおうと廊下に赴いていた男子たちもほとんどクラスに戻ってきており、二人はリアスがいないことが気がかりとなった。
「リアスでしたら今日は遅刻すると言っていましたわ」
「うわっ!?」
するといつの間にやら悠馬の背後に朱乃が立っていた。
驚いた悠馬は思わず飛び上がり、持っていたいくつかのチョコレートをぼたぼたと落としてしまう。
「あらあら、ごめんなさいね悠馬くん。どうやら驚かせてしまったみたいで」
「いや、そんなことないよ。ところでリアスが遅刻するってどうして?」
「悠馬くん、女の子には聞いてはいけないこともあるんですよ」
「あ……」
「うふふ、悠馬くんってデリカシーがないってよく言われません?」
穏やかな口調ながらも朱乃はどこか棘のある言葉を悠馬に投げかけた。
朱乃は普段おっとりとしていて人当たりのいい性格をしている。実際悠馬も彼女のことをそう思っていた。
しかしいつからだろうか、時折彼女は悠馬に対して鋭い視線を浴びせたり、毒のあることを言い放つようになった。もちろん原因は彼がリアスに近づこうとしているからである。
そのため悠馬は朱乃に対して若干の苦手意識を芽生えさせていた。
ちなみにリアスが遅刻してくる理由は女性の神秘うんぬんということではなく、昨日のはぐれ悪魔退治で魔力を使いすぎたからである。
「そうだ、悠馬くん。私もあなたにマフィンを作ってきたんですよ」
「僕に……?」
朱乃は可愛らしく手を合わせて微笑んだ。その無邪気そうに見える笑みは世の男性を骨抜きにすること間違いなしだろう。
しかし悠馬は知っていた。自分の前で朱乃がその笑みをするときはたいてい良からぬことが起こるということを。
「嫌なのですか? さっきは誰からもらってもうれしいものだと言っていたのに」
「そ、そんなことないよ。ありがとうね、朱乃……」
うふふ、と朱乃は艶やかな笑顔を作り、そしてカバンの中からひとつのマフィンを取り出した。悠馬はそのマフィンを見てゾクリと鳥肌を立たせる。
一見するとただの紫色のマフィン。しかし悠馬だけには何だか禍々しいオーラのようなものがマフィンを取り巻いているように見えた。
「えっとこのマフィン綺麗な紫色をしているね。何を使ったの?」
ここで毒々しい紫色と言わなかったあたり、悠馬はジェントルマンの鏡と言ってもいいかもしれない。
「それはですね、冥界マンドレイクの実……、いえブルーベリーをふんだんに使ったんですよ」
「そ、そうなんだ……」
ちなみに冥界に棲息しているマンドレイクは錬金術の伝説の通り引っこ抜くと叫び声をあげて抜いたものは精神に異常をきたして死んでしまうというあれである。人間界のナス科マンドラゴラ属に属している薬効性のあるものとは別だ。
「そうだ悠馬くん。せっかくですから食べてみてくださいな」
「えっ今ここで?」
「はい。今ここで」
朱乃は太陽のような笑みを浮かべて悠馬に食べるよう促した。
はたから見ればバレンタインデーに作ってきた女の子のお菓子をもらったその場で食べるというリア充消えろ的な展開に違いない。
だけど悠馬は不吉な予感しかしなかった。食べてしまったら自分のなかの大事な何かを失うような気がした。
しかし悠馬には前に進むしか道はなかった。悠馬たちの周りには嫉妬に狂いそうな男たちが彼を凝視している。ここで突っぱねてしまったら彼は果たしてどうなるか……。
悠馬は唾液を飲み込み覚悟を決めることにした。ゆっくりとした動きで手を動かすとそのままマフィンを掴んだ。
すると掴んだマフィンはふんわりと柔らかく、甘い匂いが悠馬の鼻腔を刺激した。
(あれ、これもしかしたら普通においしいやつ……?)
悠馬は小さく口を開け、マフィンを軽く齧った。さっきできたばかりのようなふわふわの食感に、濃厚なミルクと卵の香り。先ほどは異様に警戒してしまったけど、どうやら取り越し苦労なだけだったらしい。
「うん、すごく美味しいよ」
「あらあら、それはよかったですわ」
しかしそれは間違いだった。
次の瞬間、悠馬は目の前が急にぼんやりとしはじめ、チカチカしてきた。目に見える光景もぐるぐると回転する。
次第に悠馬は足がおぼつかなくなり、椅子に足をとられてそのまま床に倒れこんでしまった。周りの人間は『ああ、美味しすぎて昇天したのか。はいはい爆発しろ』といった目線で悠馬を見つめた。
そして悠馬が最後に聞いたのは『あらあら、うふふ――』という妖艶な声だった。
◇
「えっ!? 悠馬が急に倒れて保健室に!?」
「え、ええ……。どうやらお腹の調子が悪かったみたいで……」
「そうなの……」
2限の終わりにやってきたリアスは昨日作ったクッキーの包みを握りしめてしゅんとする。せっかくバレンタインということで作ってきたというのに。
朱乃はそんな主の姿を見て冷や汗をかいた。なぜなら悠馬のお腹を壊したのは紛れもなく彼女なのだから。
しかし彼女とてまったくの害意があって悠馬のお腹を壊したわけではない。
朱乃は悠馬が自分に対して苦手意識があったことを知っていた。もちろん原因は自分が悠馬に対してリアスのことで敵愾心を向けていたことにあるのだが。
そこで今回朱乃は仲直りの意を込めて得意の手作りマフィンを渡そうと思ったのだ。確かにリアスと恋に落ちるのはまずい。しかしだからといってリアスの良き友人になりそうな悠馬を邪険にするのは優しい彼女にとっては心苦しいものなのであった。
だが当然普段冷たくあたっているような人からプレゼントをもらったら警戒もする。何を考えてるかまるで読めない朱乃ならなおさらだ。
だけど朱乃は笑顔で悠馬を黙らせた。多少疑念を彼に生じさせることになったがそれでも従わせた。結果、悠馬は有無を言わさず彼女のマフィンを食べることとなった。
しかしここで誤算が発生する。
彼女の計画通りならばマフィンの美味しさに場が和み、お互いのわがだまりが溶けて距離が縮まるはずだった。
だが姫島朱乃という少女は自分が思っている以上に天然なのであった。ひと手間かけて冥界から取り寄せた食材が逆に悠馬にとって害のあるものだと気付くことができなかった。
ちなみに倒れた当初も自分が作ったマフィンが倒れるほど美味しすぎたのだと勘違いしたのだが、後に自分のマフィンのせいだと気付いた時には気を失っている悠馬の横で治療を施し、意識を戻した際にはめちゃくちゃ謝罪した。
「で、でもリアス、保健室の先生が言うには放課後には治るそうですよ。ですからその時にでも」
「それもそうね……」
リアスは朱乃の様子がどこかたどたどしかったことに気になったものの、結局は朱乃の言う通り放課後に渡すことに決めた。
そしてその日の放課後
リアスは悠馬にバレンタインデークッキーを渡すために保健室に訪れた。
普段ならば先生が対応にやってくるはずなのであったのだが、この時はどうやら席を外しているようだった。
リアスはとりあえず悠馬はまだベッドで横になっているだろうと思い、ベッドのカーテンを引いた。しかし彼女はここでちゃんと断りを入れておくべきだった。
何も言わずに引かれたカーテンの先には上半身裸の悠馬の姿があった。彼は目下着替えの途中だったのだ。
「えっ……、えっ……!?」
「あっごめんっ!!」
リアスは顔を赤らめてカーテンを元に戻した。まさか悠馬が着替えているところだったとは予想外だったのだ。
「もう大丈夫だよ」
悠馬の声が聞こえ、リアスは再びカーテンを引く。さっきの反動か顔はまだ赤く、目線が下向いていた。
「リアス……。さすがに何も言わないでカーテンを開くのはどうかと思うよ」
「ごめんなさい。てっきり寝ているものだと思ってて」
リアスはそそっと小足で歩き、ちょこんとベッド横の椅子に腰かけた。
「けれどお見舞いに来てくれたんでしょ。ありがとう、うれしいよ」
「どういたしまして。ところで何を食べたらそんなに長く寝込むのよ?」
「あはは、ちょっといろいろあってね……」
悠馬は視線をそらしてはぐらかした。
原因は朱乃のプレゼントだが、彼女からはしっかりと謝罪を受け取ったしリアスに話したら何だかややこしくなる気がしたのだ。
「そう……。まぁあまり無理しないようにね。そうだ、あなたにバレンタインプレゼントを用意したわよ」
リアスはカバンの中から小さな包みを取り出した。赤く可愛いリボンでトッピングされたそのデザインは実に彼女らしいチョイスだった。
「バレンタインクッキーよ。普段お世話になっているからね。チョコかクッキーか迷ったんだけど、クッキーの方が作り甲斐あるから」
「ありがとう、リアス。本当に、本当にうれしいよ……!」
悠馬は心の底からうれしいと思った。慕っている女の子からバレンタインのプレゼントをもらうことができたのだから。
この日悠馬はリアス以外の女の子からいくつもプレゼントをもらった。なかにはリアスのものより大きなものをもらうこともあった。だけどこの小さな赤いプレゼント以上に感動を受けたものは存在しなかった。
一方リアスは心底嬉しそうにしている悠馬を見てある勘違いをした。
「あら悠馬。女の子からバレンタインをもらってそんなに嬉しいの?」
「そりゃあうれしいさ。最高にうれしいよ!」
「ふふ、そうなの。けど悠馬ってモテるって聞いてたからチョコレートいっぱいもらっていると思っていたけどね。その様子だとどうやら私からしかもらえてないみたいね」
「……えっ?」
「……んっ?」
その時、ドサリッという大きな音がした。
リアスが音がした方を見ると、そこには大きなビニル袋いっぱいにたくさんのプレゼントが入っていた。
「えっと、悠馬。その袋の中のチョコレートは?」
「あ、うん……。クラスの子からもらったやつとか……ね」
「も、もしかしてその腹痛って女の子からもらったのが原因とか……?」
「あはは……」
やましいことでもしたかのように目を逸らした悠馬に、リアスは不機嫌に鋭い視線を送る。そこには嫉妬という感情が含まれていたに違いない。
「け、けど、僕はリアスからもらえて本当に良かったと思ってるよ。」
「あら、そう言ってくれると嬉しいわ。けれど悠馬も大変ね。チョコをくれた女の子みんなにそんな甘いセリフを言うんだから」
「ち、違うさ! こんなに嬉しかったのはその……、リアスだけだからさ……」
「ふーん、本当かしらね。口だけならいくらでも言えるわよ」
リアスは腕を組んで悠馬を睨んだ。
珍しく苛立ちを見せるリアスに悠馬はオドオドしてしまう。こうなってしまってはどんなに弁解してもドツボにはまるだけだろう。この状態の女の子というのは揚げ足を取ってはネチネチと男を責め立てるものなのだから。
そこで悠馬は近いうちに彼女に伝えたかったことを思い出した。奇しくもそれはちょうどこのタイミングでいうのには最適であった。
「じゃあさ、ホワイトデーの時にとっておきのプレゼントを用意するよ」
「とっておきのプレゼント?」
「そう、とっておき。僕たちね、ホワイトデーに高校生最後のライブをやるんだ」
「高校生最後なの……?」
「来年僕たちは大学受験するからさ、高校三年では活動を休止するんだ。だから次のライブが高校生最後というわけ。だけどその分、最高に盛り上がるライブを作るつもりだよ。学園祭以上のね。どうだろうかリアス。来てくれるかい?」
リアスはキョトンとした。
前回のライブの時もそうだったけど、悠馬は本当に急に彼女を誘う。リアスが行きたそうにしているから誘うのではなく、彼が彼女を誘いたいから誘うのだ。
しかしリアスはそういう一方的な誘いは嫌いじゃなかった。もちろん誘われたら誰にでもついていくわけじゃない。多くの人を、リアスの心を魅了させるライブを実現させた悠馬だからこそいいのだ。
「そんなの返事は決まってるわ。そこまで言われたら行くしかないでしょ?」
「ありがとう、リアス」
「中途半端なものだったらそのプレゼント返してもらうからね」
「あはは、そりゃあ手厳しいね」
かくして悠馬はリアスをホワイトデーライブに誘うことに成功した。
悠馬とリアスが出会って約半年。まったくもって順風満帆とは言わないまでも、二人の距離は間違いなく縮まっていた。出会ったばかりの時は二人ともここまで仲良くなれるとは思ってもいなかっただろう。
そしてこの時、悠馬はあることを心に決めていた。
自分が立てる高校生最後のライブ。自分が最も輝ける最後の大舞台にて、人生最大の勝負に打って出ようと――。
朱乃さんの治療(意味深
なお、蒼那(腕が壊滅的で趣味がお菓子作りとかいう迷惑)からチョコをもらった男子は次の日みんな休んだ模様。悪魔の想いを受け入れられるほど人間って強くないんだね
そして今がバレンタインなのでそろそろ原作開始も近いですね。どうなることやら