悪魔に恋した代償は   作:きまぐれアップル

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八話 だからねリアス、僕の――

「どうやら楽屋には入れないみたいですね。せっかくですから悠馬さんに挨拶しようと思ったんですけど」

「しょうがないですわ。悠馬くんたちのバンド、どうやら人気のあるグループらしいですし」

「そっか……」

 

 蒼那、朱乃、リアスの三人はライブ終了後、悠馬に会おうと楽屋の前に訪れたのだが、その楽屋のドアには関係者以外立ち入り禁止の注意書きと本日のライブ来場のお礼メッセージが貼られていた。

 小規模のライブであるならば関係者問わず立ち入ることはできただろう。しかし大規模とまではいかないまでも、悠馬たちのバンドは100人以上もの人を動員した。そのためリアスたちが思っていたように気軽に楽屋に入れるということはなかったのだ。

 

「それだったらしょうがないわね。今日のところはメールでも送って、また明日改めて誘ってくれたお礼を言うことにするわ……」

 

 残念だけどしょうがない。リアスたちは心惜しい気持ちはあったものの、今日のところはとりあえず帰ることにした。

 しかしリアスたちがライブハウスを出てすぐ、背後から慌ただしい足音が響いてきた。

 

「良かった……間に合った……」

 

 やってきたのは悠馬だった。よっぽど急いできたのか息遣いはだいぶ荒かった。

 

「ゆ、悠馬!? どうしたのよ、そんなに急いで……」

「いや……リアスたちがもう帰っちゃってるかもと思ってさ……。せっかく見に来てくれたんだから僕からお礼が言いたくて……」

「そんな……、別にいいのに……」

 

 リアスは少し気恥ずかしそうにうつむいた。

 

「ところでどうだった? 僕たちのホワイトデーライブは。君がくれたプレゼントほどの価値はあっただろうか」

 

 悠馬は頬を掻きリアスに聞く。

 

「もちろんよ。とっても素敵なライブだったわ」

「そう……。よかった……」

 

 悠馬もリアスもお互い柔らかい笑みを浮かべた。それはとても絵になる表情だった。

 

「……バレンタインでしたら私も渡したんですけどね。私には何も聞かないんですか?」

 

 一方、二人の初々しい会話を隣で聞いていた蒼那は意地の悪い顔をする。悠馬の気持ちが分かっているのに、いや分かっているからこそ彼女は意地悪をしたくなったのだ。

 

「あ……、いや蒼那、これはその……」

「うふふ。本当に悠馬さんとリアスは仲がいいんですね」

「べ、別にソーナが思っているような――」

 

 リアスは大きな声で否定しようとした。だけどその時、自分たちは多くの視線を集めていることに気が付いた。

 ここはライブハウスの出口近くで、ライブも終わったばかり。そのためライブを聴いていた人がまだ何人もいたのである。

 

 するとその時、悠馬が突然リアスの手を掴んだ。

 

「リアス――」

「えっちょっと――!?」

 

 悠馬は顔を赤くさせてリアスの手を引き、観衆のなかを二人で飛び出した。リアスはその急なことに驚きつつも、そのまま悠馬に連れられてしまった。

 

 

 

「悠馬さんって意外と大胆なんですね。びっくりしちゃいました」

「ソーナさん……。ほとんどあなたがけしかけたようなものじゃないですか」

「ふふっ。けれどこれでリアスも一歩進めます。リアスが悠馬さんをどう想っていようとも」

「そうですわね……。それについては否定しませんが……」

 

 残された蒼那と朱乃はどんどん小さくなる彼らの姿を追うことなく見守った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「もう悠馬ったら、別に走り出すことないでしょ」

「ごめんごめん。あそこだといろんな人に見られて恥ずかしかったからさ……」

 

 悠馬とリアスはライブハウスから近くにあった公園へと駆けていった。二人ともなかなかのスピードで走ったために息も絶え絶えで顔も紅潮していた。

 

「前から思ってたけど悠馬って意外とやんちゃなのね。いくら何でもふつうあそこで女の子を引っ張っていくなんて考えないわよ?」

「あはは……。これでも昔に比べたらずいぶんと丸くなったって言われるんだけどね。小さい時は手が付けられないって先生にもよく言われたよ」

 

 悠馬はそう言って公園の中心にあった一本の木に近づき、上方を(ゆび)さした。リアスが悠馬が指した先を見ると、そこには『ユウマ 参上!』というかすれた文字を見つけることができた。

 

「あれはまだ小学校に入る前くらいに書いたものなんだけどさ、そのあと手が滑って大怪我しちゃってね。親にものすごく怒られちゃったよ」

「四、五歳くらいであんなに高くまで登るなんてずいぶんなわんぱく少年だったのね。私が初めてあなたを見た時はてっきり運動はあまり好きじゃない文学少年かと思ったわよ」

「確かにね。初対面の人にはよくおとなしそうだって言われるよ。けれど僕も最初リアスはどこぞのお嬢様だと思ってたんだけどね、それがこんなお転婆さんだなんて思いもしなかったよ」

「ふふっ、そうね」

 

 彼らのいるかつて悠馬が幼少期よく遊んでいた公園。ずいぶんも昔からこの町にある場所で、子供たちのよい遊び場だ。常に人であふれているとはいかなくても、放課後帰りの子供たちやランチ帰りのお母さん方々がよく訪れる。だけど今日は陽が傾き始めたからなのか、いつもと違って人足がほとんどなかった。

 

「そうだリアス、実は君に渡したいものがあってね」

「渡したいもの?」

「うん。バレンタインのお返しさ」

「けどそれってさっきのライブだったんじゃ……」

「確かにそれも一つだよ。だけどさ、やっぱりこういうのって形があるものの方がいいと思うんだ」

 

 そう言って悠馬は鞄の中から小さな包み箱を取り出した。ホワイトデーのお返しと言えばバレンタインと同じくお菓子の類が多いだろう。だけど今回悠馬が取り出したものは箱の外見からでもそういった類じゃないことが見て取れた。

 

「リアス、開けてみて」

 

 悠馬に促され、リアスは包装を解く。すると中には彼女の髪色と同じ、(くれない)に輝くペンダントが収まっていた。

 

「これ……本当にいいの?」

「うん。君に見合うと思ってね」

 

 そのペンダントは悠馬がいくつものアクセサリーショップを回って見つけたもので、バイト代の3か月分、とまではいかなくても高校生が購入するにはそれなりに値も張った。そうまでして悠馬は彼女にバレンタインのお返しを渡したかった。

 

「嬉しい……。ありがとう悠馬……」

 

 リアスはペンダントを持ち、それをまじまじと見る。おそらくそのペンダントよりグレモリー家の宝物庫にある宝石の方が価値が幾分も高いだろう。

 だけどそんな高価な宝石以上にその小さなペンダントは彼女の心を揺さぶった。どんなに悠馬が彼女のためにお金を苦心して、彼女に最高のプレゼントを渡そうと探し回ったということは儚く綺麗に輝く紅い光から見て取ることができた。

 

 そしてリアスはそこまで鈍感ではなかった。

 男が女に気持ちのこもったプレゼントを渡すということ。その意味をリアスは十分に知っていた。

 

「リアス……、その何て言うんだろうか……」

 

 悠馬は顔を赤くさせながら自身の頬を掻いた。

 リアスはこの半年悠馬とよく一緒にいた。だから彼女は悠馬の癖というものを知っている。彼が頬を掻く時は恥ずかしがっている時か、または緊張している時なのである。

 

「僕と君が初めて会った時を覚えているかい? 屋上でたそがれていた君と曲を聴いていた時だよ。あの時ね、僕の曲が多少なりとも君を元気づけられて嬉しかったんだ」

 

 リアスは鼓動を早くさせた。彼の身振り手振り、口調、言葉。そのどれもが彼が何を伝えたいのか如実に示していた。

 

「それからは君と一緒にいることが楽しいって思うようになって。一緒に音楽を聴いている時も、一緒に帰っている時も、下らないことで言い争いになった時も……。どれもが僕にとってたまらなく幸せだったんだ」

 

 リアスは悠馬の一言一言に全身を強張らせる。顔が火照って、どうしようもなく体が震えてるような気がした。だけどリアスはそれが不思議と嫌じゃなかった。

 彼女もまた悠馬のことが嫌いじゃなかったのだ。

 

「だからねリアス、僕の――」

 

 リアスは覚悟する。悠馬のセリフを聞いたら、もう今までのような関係に引き返すことはできない。自身の答え次第でこれからの関係は変わる。

 

 

 

 ――ゾクリッ

 

 

 

 だがその時、彼女の背筋が凍りついた。別に彼の想いに弱気になったわけではない。むしろその逆の気分だった。

 リアスは悪魔による魔力の奔流を感じたのだ。それはよく知っている人物で、今最も会いたくない人物のものだった。

 

「ごめん悠馬。ちょっと用事を思い出したからまた後で――」

 

 リアスは茫然とする悠馬を置いてそのまま駆け出してしまった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 リアスがやってきたのは先ほどの公園からしばらくのところにある裏路地だった。なかなか人通りも多くないだろうその場所に、一人の男が電柱に背を預けていた。

 

「ライザー……、何であなたがこんなところに……!?」

 

 ライザー・フェニックスはリアスの縁談相手の上級悪魔。縁談に反対しているリアスとしては最も会いたくない男だった。

 

「よう、愛しのリアス。俺の使い魔がな、何やらお前と仲のよさそうな男がいるって連絡してきてな。ちょっとその挨拶に来ただけだ」

 

 橙色の優雅な鳥がライザーの肩に留まった。その鳥はライザー・フェニックスの使い魔であった。

 リアスはその男が悠馬のことだと思い至り、ライザーに対して身構えた。

 

「しかしなんだ。いざ来てみればそいつはただの人間じゃないか。拍子抜けもいいところだ」

「彼に何かする気なの……?」

「はぁっ? 俺が人間に? 悪い冗談だろ、リアス。何でそんなことくらいでわざわざ手を下さなければならないんだ? 未来の妻の“恋愛ごっこ”ごときにいちいち口出すほど俺は狭量なやつじゃねえよ」

 

 リアスはライザーのその“恋愛ごっこ”という言葉に目つきを鋭くさせた。その言葉は悠馬の想いを侮辱し、自身の抱く淡い感情を否定するものだった。

 するとライザーは睨みつけてくるリアスの顔をその大柄な手でくいっと持ち上げた。

 

「もしかして本気だったのか? まぁお前に人間の愛人ができたところで俺は一向にかまわないがな。お前ほどの女だ。むしろ今まで男を囲わなかった方が不思議なくらいだ」

 

 ライザーはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

 リアスはそんなライザーを見て思わず顎を持ち上げる手を振り払った。

 

「おお、怖い怖い。しかし本当にかわいそうなもんだ」

 

 そのライザーの言葉にリアスは手を強く握りしめた。リアスはライザーが彼女をひどく憐れんでいるかのように聞こえた。

 

「そうでしょうね。だけどあなたに同情されるなんて心外だわ」

「ちげえよ。あの人間のことだよ」

「えっ?」

 

 リアスは驚いた。てっきり彼の言葉は家に縛られ自由を失った自分に向けられているものだと思っていたのだから。

 

「あいつ、お前が悪魔だってこと知らないんだろ? これからあいつを愛人にするつもりなのか眷属にするつもりなのかなんて知ったこっちゃねえが、少なくともこっちの世界に来たらもうあいつは人間としては生きられないぜ。絶対にな」

 

 リアスは悠馬が日頃語っていたことを思い浮かべた。それは将来あのメンバーとともにバンドで有名になるということだ。

 おそらくだが彼にはその才能がある。歌は上手く、ルックスもよく、不思議と人を惹きつける。すぐには無理でもいつかきっと叶う時がくるだろう。

 しかしもしここで悪魔である彼女と関わってしまったら? そうなったら彼は自らが抱える夢を追うことができなくなるだろう。悪魔のそばにいるということは、人間として生きるということを放棄することでもあるのだから。

 

「なんだ。そんなことも考えていなかったのかよ」

 

 リアスはただ駒王学園のリアス・グレモリーとして彼と関わり、恋をした。そこに悪魔の事情を計算した感情はまったく入っていなかった。だからこそ彼女は純粋に人間である彼にそのような感情を持つようになった。

 しかしだからこそそこまで思い至ることができなかった。自分が彼に及ぼす影響のことを――。

 

「まぁいい。てっきりどこぞの悪魔と駆け落ちするんじゃないかと思っていたんだが、その様子ならひと安心だ。じゃあ俺はそろそろ行くが、くれぐれも勝手なことだけはするなよ。そんなことないとは思うが、俺もお前も大きな看板を背負ってるんだからな」

 

 ライザーはそう言うと自らを炎で纏い、そのまま消え失せた。

 一方、リアスはただただその場に立ち尽くした。

 最初に彼を意識し始めたのはいつだっただろうか。バレンタイン? 学園祭のライブ? それとも初めて屋上で会った時?

 いずれにしても彼女は自分が恋をしていけない理由はグレモリー家としての宿命だけだと思っていた。

 しかしそれは違った。本当は根本的にお互いの生き様が異なるからなのだ。

 リアスは月城悠馬のことが好きだ。しかし同時に彼が夢を追い続けていく姿も同じくらいに好きだった。

 ならリアスはどうするべきなのか。彼女は息を呑み込み、一つの答えを導き出した。

 

「私は悪魔で、悠馬は人間。どうしてこんな単純なことに気付けなかったのかしら。そうよね……、私が悠馬の夢を壊していいわけがないわよね……」

 

 リアスは悠馬からもらったペンダントを握りしめ、一筋の涙を流した。

 

 

 

 




 ・ソーナ「バレンタインでしたら私も渡したんですけどね」
 →クラス中の男子のお腹を壊しといてよくのうのうと……。これだから無知は。

 ・ちなみに悠馬の告白セリフは「だからねリアス、僕のそばに居てくれないだろうか。ずっと……、これからも……」という予定でした。爆ぜろ。




それと次回からの更新は少し遅めになります。詳しくは活動報告に。
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