ウルトラマンメビウス THE FIRST CONTACT 作:ルシエド
最近短編を短く纏める能力が失われて来た気がしたので一日で思い付いて一日で書いた短め作品
彼は森の中で一人歩いていた。
その表情を、悔しげな色一色に染めて。
「くそっ……!」
三雲修は「いいやつだ」と周りに言われるタイプの少年だった。
正義感もあり、倫理もあり、優しさもある。
そんな彼だからこそ、"自分のクラスでいじめが起きている"という現実が許せなかった。
気付いたのは今日のこと。
今日まで気付けなかった自分の鈍感さと、『気付いたその時に何も言えなかった』『止められなかった』自分の鈍感さに、修は辟易してしまう。
いじめは止めなければならない、と知っていて。
"そうするべきだ"とちゃんと自分は思えているのに。
いじめられている子のために戦わなければならなかったはずなのに。
その時の修には、いじめを止める『勇気』が無かった。
「……ぼくは……!」
いつだって自分自身を心は見ている。その目からは逃げられない。
凡庸な者ならば「仕方がなかった」と自分を守るために自分を誤魔化そうとするだろう。
そこで「だけど」と思ってしまうのが、三雲修という少年だった。
今、彼に足りないのは、するべきことをするべき時にやれる勇気のみ。
「ちくしょう!」
修は小さな体に生える小さな腕で、拳を手近な木に叩き付ける。
子供の力では木は揺れもせず、逆に手を少し痛めてしまう。
声の大きさ、込められた力が、彼の中の憤りを表しているかのようだ。
いじめを止められないまま、いじめていた者もいじめられていた者もどこかへ去っていき、修は教室に一人残されて。たまらなくなって走り出して、気付けばいつしかここに居た。
するべきことを出来なかった自分が恥ずかしくて、ただあの場所に居たくなかった。
そんな彼の行動が、出会いを果たさせる。
偶然か、必然か。
いや、これには奇跡という表現こそが相応しい。
「……え?」
森の中を進んだその先、木々が吹き飛ばされて綺麗な更地になったその場所で。
「―――!」
見上げなければ目も合わせられないような、とても大きな光の巨人と、彼は出会った。
「なん、だ……これ……!?」
身体の3/4は地面に埋まってしまっている。
だがそれでも埋まっているのは胸から下だけで、そこから上は全て地上に露出して見える。
胸から上だけでも10m以上。
体は半透明の橙色で、透き通った宝石か、燃える炎のような色合いだ。
その造形は人からかけ離れていて、されど明確に人に近く。
禍々しさよりも、神聖さをずっと強く感じる姿。
人のよう、という表現よりも、『光の巨人』という表現の方が相応しい姿であった。
『……光……』
「喋っ……!? ……? 光?」
『……光を……』
その光の巨人の声が、修に届く。
声は確かに修に届いているのだが、それは"声"という"音"が修の耳に届いているわけではない。
修はそれに気付いてはいないが、その声はテレパシーに近いものだった。
彼がその声に対し気付いたことと言えば、その巨人が光を求めていたことと、その声が酷く弱々しかったということだけ。
「もしかして、死にかけてるのか?」
修はそれに気付いた瞬間、駆け出そうとする。
だが一瞬迷い、足を止めた。
それはこの"よく分からないもの"に対する不理解からくる、恐れと躊躇。
そうしていいものかと言う理性と、そうするべきだと言う心が拮抗。
されど拮抗は一瞬。修はただの一瞬しか迷わず、巨人にひと声かけてから、森を飛び出して行った。
「ちょっと待っててくれ」
修は一旦自分の家に帰り、一つのレーザーポインタと一つの懐中電灯を持って来た。
そして両手で、その光を巨人の胸の宝石のようなものへと当てる。
数分か、数十分か。
"三雲修の光"を蓄えることで力を取り戻した巨人は、やがて弱々しさの無くなった声で、修へと話しかけてきた。
『ありがとう』
「元気になったみたいで、よかったよ」
『僕は"メビウス"。ウルトラマンメビウスだ。君の名前は?』
「修。三雲修だ」
ウルトラマンメビウスと名乗った巨人は、少年に問いかける。
巨人の目は、自分を助けるか迷ったものの、最後には助ける選択を選んでくれた、そんな少年の姿をちゃんと捉えていた。
『何故、僕を助けてくれたんだ? 君からは恐ろしく大きな怪物にも見えたんじゃないかな?』
「そうは見えなかったけど……うん、確かに得体が知れない怪物だ、とは思った」
この世界に、超常のものはない。
少なくとも"今のところは"、一般人にはそう認識されている。
光の巨人なんてものが現実に存在するなんて、修を含めた誰もが知らないはずだ。
怯えるか、訝しむか、警戒するか。
そう反応するのが当然で、「助けよう」などと考える方がおかしいに決まっている。
だが、修は助けた。三雲修は、メビウスを助けるために全力で走った。
「君の声が、あまりにも弱々しかったから……助けなきゃって、そう思ったんだ」
助けた理由は、それしかなく。それだけでいいと、迷いなく修は言ってのけた。
修はその時、硬質で形の変わらない巨人のその顔が、微笑んだような気がした。
『未知への慎重さを持ち、怪物であると認識し。その上で僕を助けてくれた。
他者への優しさ、恐れを踏み越える勇気。……君は、勇気ある者。勇者だね』
「ゆ、勇者って、そんな大げさな!」
燃える勇者、不死鳥の勇者とも呼ばれるメビウスにとって、それは気軽な賛辞だった。
だが修にとっては大仰な賛辞だったらしい。
少し照れ気味に、少年は後頭部を描き始める。
「……それに、ぼくは優しくなんてない。勇気もない。勇者なんかじゃないんだ」
『何かあったのかい?』
「ぼくは、そうすべきだと分かってたのに、見捨ててしまったんだ」
修はウルトラマンに全てを明かした。
今日、教室でいじめの現場を見てしまったことを。
教室に入ってきた修を見て、いじめっ子もいじめられっ子も蜘蛛の子を散らすように去って行ったことを。
修は迷いで足を止めてしまい、止めることも、やめさせることも出来なかった。
その時の彼は、何をすることもできずに佇むただの傍観者でしかなかった。
ヒーローでもなく、勇者でもなく。
「分かったろ? ぼくに優しさなんてない。勇気なんてない。勇者なんかじゃないんだ」
『そうか。君は、後悔しているんだね。辛かったろうに』
「本当に辛かったのは、ぼくじゃない。いじめられてたその子なんだ」
修は拳をギュッと握り、罪悪感から悔しげな表情を浮かべる。
そんな少年を、ウルトラマンは優しく諭した。
『勇気はもう、君の胸の中にある』
「え?」
メビウスは炎のような色合いの半透明な姿のまま、その人差し指を少年の胸に向ける。
『君がいじめを止められなかったのは、君が力を力で止めようとしなかったからだ』
「それは……」
『だけど力以外の止める方法が分からずに、迷ってしまった。
君はきっと、自分がいじめられた時、屈することも力でやり返すこともない人間だ』
ほんの少しの語り口でも、人格が見えてくるということはある。
ましてこの巨人は、地球人類よりもはるかに長い時を生きる長命種。
人を見る目は、並大抵の者よりもずっと培われているのだ。
だからこそ、メビウスの目には三雲修という少年の本質が見えていた。
まだ実を結んでいないその優しさも、勇気も、正義感も。
『だからこそ僕は、君を勇者と呼びたい。
力で他人に勝つだけでは、何かが足りないのだということを知る君を。
それでいて戦うことを恐れてはいない君を。
時に拳を構え、時に花を手向けられる君を。その二つを、正しく選べる君を』
ウルトラマンメビウスは、勇者である。
勇者は成功を仲間のおかげとは言うが、失敗を仲間のせいとは言わない。
自分より強い敵にも勝ち、絶対に勝てない相手には仲間の力を借りて勝つ。
それこそが勇者だ。
メビウスは、迷いを抱える小さな勇者を、正しく導く。
『僕をこうして助けてくれた勇気と同じように、いじめを止められる勇気も君の中にきっとある。
それは他の誰のものでもなく、君だけの勇気だ。君ならそれを、必ず探し出せるよ』
優しさから始まる
自分がそう呼ばれたからではない。
ウルトラマンメビウスが、それを持つ者を勇者だと思っているからだ。
それが悲しみのない世界を、微笑みを繋ぐ世界を、作っていく力だと信じているからだ。
「……ありがとう、メビウス」
修はウルトラマンに褒められ、励まされていることを理解したのか、照れて頬を掻いている。
そこでふと、修は思う。
何故メビウスは、こんなところで死に瀕し、地に埋まっていたのだろうか?
「メビウス、君は何故こんな所に?」
『僕はこの世界の地球を侵略者から守るために、ここではない世界からやって来たんだ』
「ここじゃない、世界……? 侵略者……?」
今はまだ、この世界の地球には"他の世界"という概念が浸透していない。
それゆえに修は冷や汗をかき、固唾を飲み込んだ。
ウルトラマンという超常の存在が話したことで、他の世界からの侵略者という眉唾な話が、真に迫る現実味を帯びて聞こえてくるようになっていた。
『昨晩、上空で戦っていて……相打ちになって落ちて、君のお陰で助かったんだ』
「昨晩!? ってことは……」
『侵略者は今日にも、この地を襲うだろう』
メビウスが修に、警告じみた声色でそう言った、その瞬間。
地面が、揺れた。
「わっ!?」
『……来てしまったみたいだね』
世界に黒い穴が力任せに開けられていき、穴を開ける衝撃が世界を伝わっていく。
大地が、空が、海が、いっぺんに、一斉に震えていた。
世界と世界を隔てる壁の向こうから、侵略者がやって来る。
メビウスは半透明な体のまま、立ち上がった。
『ありがとう、オサムくん。君のお陰で、僕は君達を守るために戦える』
「メビウス! さっきまであんなに弱々しかったのに、無茶なんてしたら……」
『大丈夫。僕は、"ウルトラマン"だ』
立ち上がるその姿が、半透明な姿から、物質的な姿へと変わっていく。
炎や宝石のような色合いだった姿が、赤と銀の二色に塗り潰されていく。
太陽のような光を放つ銀色の目。胸に輝くマークは流星のような青。
一度色がついたなら、その姿には神聖さ、逞しさ、精悍さ、力強さが漲っていた。
「う、わぁ……!」
40m以上の巨体を凛々しく見せつけるメビウス。
思わず声が漏れてしまいつつも、見上げる修。
そんな修を、メビウスは見下ろし、こう言った。
『見ていてくれ。君がくれた三分間を』
それは宣誓であり、勝利の約束。
飛んで行ったウルトラマンの姿から、修は一瞬たりとも目を離すことができなかった。
その姿にこそ、自分に本当に必要な物が宿っている気がしたから。