ウルトラマンメビウス THE FIRST CONTACT 作:ルシエド
「いいのか親父、止めなくて」
「俺とお前、二人だけで止められると思うか?」
「いんや、無理無理」
それに答えではなく、質問に質問で返してきた父に、遊真は『3』といった感じの口の形で応対する。手首から先をブンブンと振る仕草だけでも、その意が伝わってくるようだ。
「『バルタン』は止まらないでしょ。種族の存亡がかかってるんだから」
「そういうことだな」
「でも、そのバルタンが進行先に選んだのって親父の故郷じゃん?
だから言ってんの、止めないのかって」
「それこそ心配ない」
勇吾はニッと笑って、息子の頭をくしゃりと撫でる。
「あの世界に居る奴らは、そんなヤワじゃないさ。さあ、次の世界に行くぞ、遊真!」
彼女は森の中で一人歩いていた。
始まりは千佳の友達のペットの小動物が、逃げ出してしまったと耳にしたことに端を発する。
千佳は結構人がいい少女だ。
加えて小動物好きでもある。
彼女が逃げ出したペットを探して、森の中に入って行ったのは、ある意味必然だった。
「ハネジローちゃーん、どこー?」
千佳はペットの名を呼びながら、森の中を歩き回る。
運動神経があるわけでもなく、かなり小柄な彼女が見通しの悪い森の中を歩き回っているのは、かなり危なっかしい光景だ。
そうこうしている内に、彼女は森の奥で何かを見つける。
「……?」
それは最初、『何か』としか言いようのないものだった。
ぼんやりとした性格の千佳は、ぼんやりとした動きでそれを見て、見上げるように視線を移す。
そして、ぎょっとした。
「!?!?!?」
それは、セミとザリガニを合わせたような、巨大な怪物だったから。
『おどろかせてすまない』
「しゃ、喋っ……」
『来た道を帰り、できれば家族を連れてここを離れなさい。ここはもうじき戦場になる』
「え?」
雨取千佳は、修とは違い"違う世界からの怪物"の存在を多少なりと知っている。
だから自分より巨大な生物を見た時の衝撃と恐怖は、修のそれとは比べ物にならなかった。
彼女はすぐに逃げ出そうとし、怪物は彼女を追うこともなく、むしろ逃げるように勧める。
そこで、彼女の足は止まった。
千佳が耳にした、自分に向けられた怪物の声は、あまりにも優しいものだったから。
「……あなた、怪我してるの?」
『大したものではない。自業自得の産物だからね』
「ど、どうしよう」
よく見れば、40m以上はあるであろうその体を、怪物は横たえたまま動かさない。
腹には小さな傷があり、そこから青色の血が流れ出していた。
千佳は手当てをしようとするが、相手の体があまりにも大きすぎるために何も出来ず、右往左往を始めてしまう。
『……君は、いい子だな』
「え、そ、そんなことないよ?」
『いや、いい子だ。どことなく……雰囲気が私の娘と似ているな』
「あなたみたいにでっかい娘さん?」
『君みたいにちっちゃい娘さんさ』
大きな怪物は、小さな少女にくすりと笑って、名を名乗る。
『バルタンと呼んでくれ。君の名は?』
「雨取千佳です、バルタンさん」
怪物は、"バルタン"と。そう言った。
バルタンは、こことは違う世界から来たと言う。
『我々はこことは違う世界、違う星から来た。
君達の世界より進んだ科学を持っていた私達の世界は、その科学で故郷を滅ぼしてしまった。
新たな故郷を求め、幾多の世界へと先遣隊を送り、我々はようやく先月、この世界を見つけた』
「先月……」
千佳は思考を巡らせる。
この世界に来たのが先月なら、このバルタンは千佳と因縁のある異世界人ではない。
少しホッとしつつ、千佳はバルタンの話に耳を傾けた。
『もう時間がない。我々の世界はもう限界だ。
私はバルタンの民20億が生きられる新天地を見つける責任を、ようやく果たすことができた』
「にじゅ……!? ま、待って!
バルタンさんみたいに大きな人(?)が20億も暮らせるほど、この星は広い場所じゃ……」
『問題はない、チカ。体が大きいのは私だけだ。
数十億に一人のみ、バルタンは巨大化の力を持った固体が生まれてくる。
今、バルタンの民の中で大きくなる力を持っているのは、私だけだ』
「あ、そうなんだ」
『大半は君達地球人と同じくらいの大きさだ。君と私の娘は、身長が同じくらいだったかな』
「おぉ……」
友達になれるかな、と千佳は無邪気に思う。
バルタンの表情に浮かぶ罪悪感など、地球人の目には理解できるはずもない。
まして、千佳はバルタンの娘に向けるような優しい声色に、すっかり気を許してしまっていた。
「でも、まずはバルタンさんも病院に行かないと、娘さんが心配しちゃうんじゃないかな」
『かもしれないな。私の娘も、君のように私に似ず優しい子だった』
「私に似ず、って……そんな風には、見えないけどな」
『いや、私は酷い男だ。私ほど罪深い者はそうそう居ない』
バルタンが右腕のハサミをカシャン、と鳴らす。
するとハサミの中から桜色の煙が吹き出て、千佳に浴びせられた。
とっさに顔を庇う千佳だが、煙に全身を包まれた途端、目がトロンとして体も左右にふらふらと揺れ始める。
『……君達からこうして、故郷を奪おうとしているのだから。
他の誰もが行かなかったとしても、私だけは絶対に地獄に行くことになるだろう』
「……え?」
千佳の疑問にバルタンは答えず、やがて気を失った彼女を念力で優しく地面に寝かせる。
肌に擦り傷一つ残さないように、丁寧に優しくゆっくりと。
『君の体にマーキングを施した。バルタンにしか判別できないマーキングだ。
これで君は未来永劫バルタンには狙われず、今日の記憶も失うだろう。
全てが終わった後の世界でも、君と君の家族が生きられる場所だけは、残してみよう』
この心優しい少女と、その家族だけはなんとか助けられないかとバルタンは思う。
記憶を消し、バルタンと無縁に生きられる場所を提供できればなんとか……といったところか。
ならば、最初から侵略などするなと言う者も居るかもしれない。
されど、そんな道を選べるわけがない。
『地球人を打ち倒し、この星と世界を制圧せよと。
そう命じられたならば、軍人である私に断る権利はない』
このバルタンの双肩には、故郷の20億の同胞の命と未来がかかっている。
後戻りなど出来ない。
戦わない道など選べない。
彼がこの世界と星を侵略することを嫌がれば、彼の娘の未来は失われてしまう。
滅び行くバルタンの世界と、運命を共にしてしまうのだ。
『せめて、私の娘を滅び行く世界から救い、この星を生きる未来を……』
立ち上がるバルタンは、羽を広げて飛び上がる。
侵略者を見送る者など居はしない。
バルタンは、愛する娘のために悪を成す覚悟を決め、正義の味方のもとへと向かった。