ウルトラマンメビウス THE FIRST CONTACT   作:ルシエド

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ネイバーバルタン・第五種接近遭遇

 空閑遊真(くが ゆうま)は、父の空閑有吾(くが ゆうご)へと問いかけた。

 

「いいのか親父、止めなくて」

 

「俺とお前、二人だけで止められると思うか?」

 

「いんや、無理無理」

 

 それに答えではなく、質問に質問で返してきた父に、遊真は『3』といった感じの口の形で応対する。手首から先をブンブンと振る仕草だけでも、その意が伝わってくるようだ。

 

「『バルタン』は止まらないでしょ。種族の存亡がかかってるんだから」

 

「そういうことだな」

 

「でも、そのバルタンが進行先に選んだのって親父の故郷じゃん?

 だから言ってんの、止めないのかって」

 

「それこそ心配ない」

 

 勇吾はニッと笑って、息子の頭をくしゃりと撫でる。

 

「あの世界に居る奴らは、そんなヤワじゃないさ。さあ、次の世界に行くぞ、遊真!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨取千佳(あまとり ちか)、小学四年生。

 彼女は森の中で一人歩いていた。

 始まりは千佳の友達のペットの小動物が、逃げ出してしまったと耳にしたことに端を発する。

 千佳は結構人がいい少女だ。

 加えて小動物好きでもある。

 彼女が逃げ出したペットを探して、森の中に入って行ったのは、ある意味必然だった。

 

「ハネジローちゃーん、どこー?」

 

 千佳はペットの名を呼びながら、森の中を歩き回る。

 運動神経があるわけでもなく、かなり小柄な彼女が見通しの悪い森の中を歩き回っているのは、かなり危なっかしい光景だ。

 そうこうしている内に、彼女は森の奥で何かを見つける。

 

「……?」

 

 それは最初、『何か』としか言いようのないものだった。

 ぼんやりとした性格の千佳は、ぼんやりとした動きでそれを見て、見上げるように視線を移す。

 そして、ぎょっとした。

 

「!?!?!?」

 

 それは、セミとザリガニを合わせたような、巨大な怪物だったから。

 

『おどろかせてすまない』

 

「しゃ、喋っ……」

 

『来た道を帰り、できれば家族を連れてここを離れなさい。ここはもうじき戦場になる』

 

「え?」

 

 雨取千佳は、修とは違い"違う世界からの怪物"の存在を多少なりと知っている。

 だから自分より巨大な生物を見た時の衝撃と恐怖は、修のそれとは比べ物にならなかった。

 彼女はすぐに逃げ出そうとし、怪物は彼女を追うこともなく、むしろ逃げるように勧める。

 そこで、彼女の足は止まった。

 千佳が耳にした、自分に向けられた怪物の声は、あまりにも優しいものだったから。

 

「……あなた、怪我してるの?」

 

『大したものではない。自業自得の産物だからね』

 

「ど、どうしよう」

 

 よく見れば、40m以上はあるであろうその体を、怪物は横たえたまま動かさない。

 腹には小さな傷があり、そこから青色の血が流れ出していた。

 千佳は手当てをしようとするが、相手の体があまりにも大きすぎるために何も出来ず、右往左往を始めてしまう。

 

『……君は、いい子だな』

 

「え、そ、そんなことないよ?」

 

『いや、いい子だ。どことなく……雰囲気が私の娘と似ているな』

 

「あなたみたいにでっかい娘さん?」

 

『君みたいにちっちゃい娘さんさ』

 

 大きな怪物は、小さな少女にくすりと笑って、名を名乗る。

 

『バルタンと呼んでくれ。君の名は?』

 

「雨取千佳です、バルタンさん」

 

 怪物は、"バルタン"と。そう言った。

 

 

 

 

 

 バルタンは、こことは違う世界から来たと言う。

 

『我々はこことは違う世界、違う星から来た。

 君達の世界より進んだ科学を持っていた私達の世界は、その科学で故郷を滅ぼしてしまった。

 新たな故郷を求め、幾多の世界へと先遣隊を送り、我々はようやく先月、この世界を見つけた』

 

「先月……」

 

 千佳は思考を巡らせる。

 この世界に来たのが先月なら、このバルタンは千佳と因縁のある異世界人ではない。

 少しホッとしつつ、千佳はバルタンの話に耳を傾けた。

 

『もう時間がない。我々の世界はもう限界だ。

 私はバルタンの民20億が生きられる新天地を見つける責任を、ようやく果たすことができた』

 

「にじゅ……!? ま、待って!

 バルタンさんみたいに大きな人(?)が20億も暮らせるほど、この星は広い場所じゃ……」

 

『問題はない、チカ。体が大きいのは私だけだ。

 数十億に一人のみ、バルタンは巨大化の力を持った固体が生まれてくる。

 今、バルタンの民の中で大きくなる力を持っているのは、私だけだ』

 

「あ、そうなんだ」

 

『大半は君達地球人と同じくらいの大きさだ。君と私の娘は、身長が同じくらいだったかな』

 

「おぉ……」

 

 友達になれるかな、と千佳は無邪気に思う。

 バルタンの表情に浮かぶ罪悪感など、地球人の目には理解できるはずもない。

 まして、千佳はバルタンの娘に向けるような優しい声色に、すっかり気を許してしまっていた。

 

「でも、まずはバルタンさんも病院に行かないと、娘さんが心配しちゃうんじゃないかな」

 

『かもしれないな。私の娘も、君のように私に似ず優しい子だった』

 

「私に似ず、って……そんな風には、見えないけどな」

 

『いや、私は酷い男だ。私ほど罪深い者はそうそう居ない』

 

 バルタンが右腕のハサミをカシャン、と鳴らす。

 するとハサミの中から桜色の煙が吹き出て、千佳に浴びせられた。

 とっさに顔を庇う千佳だが、煙に全身を包まれた途端、目がトロンとして体も左右にふらふらと揺れ始める。

 

『……君達からこうして、故郷を奪おうとしているのだから。

 他の誰もが行かなかったとしても、私だけは絶対に地獄に行くことになるだろう』

 

「……え?」

 

 千佳の疑問にバルタンは答えず、やがて気を失った彼女を念力で優しく地面に寝かせる。

 肌に擦り傷一つ残さないように、丁寧に優しくゆっくりと。

 

『君の体にマーキングを施した。バルタンにしか判別できないマーキングだ。

 これで君は未来永劫バルタンには狙われず、今日の記憶も失うだろう。

 全てが終わった後の世界でも、君と君の家族が生きられる場所だけは、残してみよう』

 

 この心優しい少女と、その家族だけはなんとか助けられないかとバルタンは思う。

 記憶を消し、バルタンと無縁に生きられる場所を提供できればなんとか……といったところか。

 ならば、最初から侵略などするなと言う者も居るかもしれない。

 されど、そんな道を選べるわけがない。

 

『地球人を打ち倒し、この星と世界を制圧せよと。

 そう命じられたならば、軍人である私に断る権利はない』

 

 このバルタンの双肩には、故郷の20億の同胞の命と未来がかかっている。

 後戻りなど出来ない。

 戦わない道など選べない。

 彼がこの世界と星を侵略することを嫌がれば、彼の娘の未来は失われてしまう。

 滅び行くバルタンの世界と、運命を共にしてしまうのだ。

 

『せめて、私の娘を滅び行く世界から救い、この星を生きる未来を……』

 

 立ち上がるバルタンは、羽を広げて飛び上がる。

 侵略者を見送る者など居はしない。

 バルタンは、愛する娘のために悪を成す覚悟を決め、正義の味方のもとへと向かった。

 

 

 

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