ウルトラマンメビウス THE FIRST CONTACT   作:ルシエド

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輝けるものたちへ

 名も無きその母親は、子供の手を引きながら必死に逃げていた。

 右を見れば、セミとザリガニを合わせたような2mサイズの灰色の怪物達。

 左を見れば、虫のような甲殻類のような、そんな不気味な怪物達。

 前者の名はバルタン。後者の名はトリオン兵。

 だがその母子は怪物の正体など知る由もなく、その母子からすれば怪物が恐ろしいことに変わりはなく、個体差など気にする余裕もない。

 

「誰か! 誰か! 誰か居ませんか!」

 

「ママぁ……!」

 

 声を上げながら、母子は壊れ燃えていく街の中を走る。

 右を見ればバルタン。左を見ればトリオン兵。

 そして前を見ても後ろを見ても上を見ても、そこには怪物が居た。

 どこに逃げればいいのかも分からない。

 なのに逃げ遅れた人間は殺されるという、その事実だけは分かる。

 それがこの母子を絶望の中、走らせているのだ。

 

「あ……!」

 

 だが、一般人の母子の足ではこの怪物達から逃げられはしない。

 やがて追いつかれ、大きなトリオン兵が母子の前で大きな口を開ける。

 子は泣き、母は子を抱きしめるように庇い、死を覚悟する。

 それでも、それでもせめてこの子だけはと、母はどこかの誰かに助けを求めた。

 

「誰か、たすけ――」

 

 この世界に幾億の助けを求める声があるとして。

 その声のほぼ全てがどこへも届かずに、虚空に溶けて掻き消えてしまう。

 だけど。

 その中のほんの一部は、どこかに届くことがある。

 聞き届けてくれる"どこかの誰か"が、救ってくれることがある。

 

「あんたらは助かるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 トン、と母子の前に一人の少年が降り立った。

 スッ、とその少年は腰に携えた刀剣を抜刀し振るう。

 ズドン、と静かな剣技に似合わぬ壮絶な音が鳴り響く。

 母子が一呼吸するよりも短い時間で、母子を襲っていた怪物は綺麗に両断される。

 やがて少年に続いて降り立った青年が、母子に避難経路を示し、少年と揃って口を開く。

 

「こいつらのことは任せてほしい」

 

「我々はこの日のためにずっと備えてきた」

 

 そして少年と青年は、怪物の集団に向かって飛び出した。

 手にした刀剣が空を裂き、怪物を裂き、人を害する敵を討つ。

 

「油断するなよ、迅」

 

「分かってるよ、忍田さん」

 

 二人は建物の屋根に立ち、背中合わせに刀を構える。

 

「トリオン兵に、亜人型近界民(ネイバー)『バルタン』か。我々も運が悪い」

 

「まっさか複数の近界(ネイバーフッド)からの侵略とはね。

 俺のサイドエフェクトは有能なのに今回に限ってサボってたみたいだ」

 

「有能だが時々サボる。まさにお前だな、迅」

 

「うっわ、厳しいね忍田さん。ところで」

 

 迅と呼ばれた少年が、遠方をちらりと見やる。

 そこにはどこからか飛んで来た光の巨人と、それに比肩するサイズのバルタンが居た。

 両者は降り立ってから数十秒、なんらかの会話を行っているように見える。

 

「あれ、放置ってことで本当に良かったのかな?」

 

「お前が言ったんだろう、迅。

 あれは敵ではないと。お前のサイドエフェクトは嘘をつくのか?」

 

「いえいえめっそうもない」

 

 マイペースな様子のままニヤリと微笑んで、迅は武器を持ち直す。

 

「光の巨人の近界民(ネイバー)か。こりゃ盛大に未来が動きそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メビウスとバルタンは、同時に地に降り立った。

 周囲には街。

 街や人を巻き込みたくないメビウスの意志と、街を侵略しようとするバルタンの意志と、仲間達と合流しようとした巨大バルタンの意志がここで戦うことを強制していた。

 メビウスは最後通告として、バルタンに説得を試みる。

 

『自分の星に帰るんだ、バルタン!』

 

『私の星に未来などない。あの終わる世界に戻れとは、何と残酷なことを言う』

 

『それでも、それは他の世界を侵略することの免罪符にはならない!』

 

『免罪など求めてはいない。この身は悪だ。侵略は悪だ。

 それを分かった上で、罪を背負ってでも、手に入れたいものがある』

 

 メビウスと向き合うバルタンは、その大きなハサミをメビウスへと向ける。

 

『バルタンの民の未来だ』

 

『バルタン……!』

 

 メビウスは話し合う余地が無いことを再認識し、戦いの構えを取る。

 

『バルタンの民のために他者を踏み躙ることが悪であるのなら、私は何度でも悪を行おう。

 この星の住人の幸せを、未来を、笑顔を奪い、躊躇いもなく踏み躙ろう。

 そうすることでしかバルタンの子らに未来を与えられないのなら。私は何度でもそうしよう』

 

『共存の道を選べば、君達だって!』

 

『20億の民と70億の民が共存する道はない。私の上の存在は、そう判断した』

 

 同様に、バルタンも構える。

 そしてバルタンの姿が変わっていく。

 ただ大きいだけのバルタンに、歴戦の勇士メビウスが負けるわけがない。

 このバルタンは、バルタンの中でも群を抜いて強い個体であった。

 それこそ、才あるバルタンのみが持つ『固有の強化形態』すらも習得しているほどに。

 

『来るがいい、正義の味方(ウルトラマン)

 正しさを掲げ、正しい選択を選び、この星の者達のために……私に挑んで来るがいい!』

 

 バルタンの体色が、灰色から鮮やかな青へと染まっていく。

 セミやザリガニのようだった体は原型を残さず、鋭い流線型へと変わる。

 背中の羽もより飛行に向いた形状へと変化して、全身これ戦いのための形状となった。

 言うなれば、強化されたバルタン(パワードバルタン)

 赤色のメビウスと対になるような、鮮やかな青のバルタンであった。

 

『……それでも。その侵略を、許すわけにはいかない!』

 

 ウルトラマンメビウスVSネイバーバルタン。

 地球の命運をかけた戦いの幕が切って落とされた。

 

「フォッフォッフォッフォッフォッ」

 

「シェアッ!」

 

 念話ではなく、己が声をもって両者は叫びの声を上げる。

 メビウスは一度相打ちになった敵を見て、その懐に飛び込もうと考えた。

 身長の半分もある巨大なハサミを備えたネイバーバルタンの強みは、そのリーチだ。

 だがそれは懐に潜られては弱いという弱点と裏表の長所でもある。

 

 間合いを測り、素手でハサミの連撃を弾き、何度も飛び込もうとするメビウス。

 近寄らせてなるものかと、ハサミを振る前後の隙を考えつつ、一定の距離を維持するために弧を描いてハサミを振るい、時にハサミを突くネイバーバルタン。

 互いが一歩踏み込む度に、互いが一歩退く度に、互いが一歩跳ぶ度に、大地が揺れる。

 50mに迫るサイズの巨体が動けば、大気だって否応なくかき混ぜられる。

 大きいということは、ただそれだけで圧倒的だった。

 この世界を守ろうとする戦士達も、この世界を侵略しようとする戦士達も、皆一様にウルトラマンとバルタンから距離を取っていた。

 

「ヘアッ!」

 

 メビウスの顔を貫通しかねないハサミの突きが迫るが、メビウスは最小限の動きで左掌にてハサミの軌道を逸らす。

 チッ、と音が鳴って巨人の右頬をハサミがかすり、メビウスはそこから更に一歩踏み込んだ。

 懐に入ったメビウスは、左手に装着された『メビウスブレス』を操作し起動。

 途轍もない量の電気を発生させ、左拳に集束、強烈な左ストレートを叩き込む。

 

「ガッ……!?」

 

 バルタンも思わず念話ではなく、苦悶の声を上げて吹っ飛ばされる。

 拳のパワーも、拳が纏っていた電撃も、桁違いの威力であった。

 余談だが、メビウスはこの技でゼットンすら仕留めたことがある。

 吹っ飛ばされたバルタンは、殴られた腹を庇いつつ、両のハサミから衝撃波を打ち出した。

 不可視の飛び道具がメビウスへと迫り、襲いかかる。

 

「ハァッ!」

 

 それをメビウスは、飛び上がって回避した。

 空中のメビウスに不可視の衝撃波が迫るが、メビウスはハサミの向きからその攻撃の軌道を読み切り、ジグザグに落ちるように一気にネイバーバルタンとの距離を詰める。

 迎撃するバルタンは、空より迫るメビウスへとハサミを突き上げた。

 されどメビウスには通じない。

 メビウスは右のキックで突き上げられた右のハサミを蹴り飛ばし、追撃の左のキックでそのハサミを地面に杭のように突き刺し、動きを止めてからその場で空中回し蹴り。

 ネイバーバルタンの首を蹴って、広い空き地へと転がさせるのだった。

 

『ぐっ……何故だ、ウルトラマン。

 この星の環境は、私よりも貴様の方に不利に働くはず……!』

 

『読み違えたな、バルタン。僕はこの星の環境での戦いには特に慣れている』

 

 地球という環境は、バルタンの戦闘能力をほんの少し、そしてウルトラマンの戦闘能力を多大に削いでしまう。

 だが、"その環境を前提とした戦闘経験"であるならば、メビウスはバルタンのそれをはるかに上回り、地球という不利な環境を補って余りあるほどであった。

 

「シャアッ!」

 

 メビウスは跳び上がり、空中より飛行能力で加速した飛び蹴りを放つ。

 それをネイバーバルタンは、体を左右に二つに分けてかわした。

 バルタンのお家芸、分身能力である。

 分身は二つ、四つ、八つと増え、メビウスを包囲しての攻撃を放つ……予定であった。

 

『その技は、タロウ教官が対応策を皆に教えているありふれた技だ!』

 

 メビウスが先ほどと同じようにメビウスブレスに手をやり、起動。

 そしてそこから、輪のようなエネルギー波動を放った。

 エネルギー波動はバルタンの分身を全て飲み込んで、その肉体を一つに固定する。

 

「ッ!?」

 

 そしてメビウスは三度目のメビウスブレスの軌道を行い、光剣メビュームブレードを形成。

 すれ違いざまに、ネイバーバルタンの右腕と胴体を袈裟懸けに切り裂いた。

 この一撃で両断するつもりのメビウスであったが、歴戦のバルタンはそう簡単には仕留めさせてくれないようだ。咄嗟に右腕を盾にされてしまい、致命傷には程遠い。

 それでも、ネイバーバルタンの戦力を大幅に削ぐことは出来た。

 

『もうやめるんだ。自分の星に帰れ、バルタン』

 

『……帰れるものか』

 

 ネイバーバルタンは、残された左腕を掲げ、テレパシーからも執念と意地を感じさせる。

 

『ウルトラマン。私もお前と同じだ。

 お前がこの地球と、この世界の人々を守ろうとするように……

 私も、私の世界の者達を守る。絶対に、諦めはしない』

 

 そしてそのハサミを、己の胸に突き刺した。

 

『本当の戦いは……ここからだッ!』

 

『!? なにを!』

 

 ハサミが刺さった場所から、黒い液体が吹き出していく。

 黒い液体はネイバーバルタンを飲み込み、やがてその肉体をバキバキと砕き、飲み込んでいく。

 まるで、その肉体を捕食しているかのように。

 足が消え、ハサミが消え、胴体が消え。

 最後に残った口元が、ポツリと呟く。

 

『……ごめんな。父さん約束したのに、お前の下に帰れなかったよ』

 

 その声は、どこの誰にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城戸司令! 膨大なトリオン反応が観測されています!」

「付近住民の避難80%完了! トリオン兵、バルタン、両残数をモニターに表示します!」

「巨大バルタンの波形パターン、既存データと一致……最上宗一!? これは……」

「城戸さん、これは……」

 

(ブラック)トリガーだな、これは」

 

「!」

 

「おそらくはバルタンの独自技術だろう。

 黒トリガーの原理を使い、トリオン兵に近い兵士を作る……

 術者が命と全トリオンを注いで作る規格外が、黒トリガーだ。

 あのサイズのバルタンが作ったとなれば、その性能は生半可なものではあるまい」

 

「術者の命と引き換えに作られた、最後の切り札……」

 

「配置を変える。トリオン兵とバルタンの駆除も並行してな。

 各部隊をシフトし、忍田、林藤、迅、小南の配置を巨人どもに近い場所にずらせ」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い液体はバルタンを飲み込み、やがて『ネイバーバルタンの中で最も強いイメージ』を、ほんの少しだけ調整した形状を取る。

 色合いは黒と赤。

 メタ的なことを言うならば、初代ウルトラマンの色合いをそのまま変えたような姿であった。

 『ウルトラマンダーク』とでも言うべきそれは、黒トリガー特有の真っ黒な体色を見せつけて、メビウスの前に立ち塞がった。

 

『マン兄さん……いや、違う!?』

 

「―――」

 

「!?」

 

 ウルトラマンダークは、洗練された歩法をもって一歩で距離を詰める。

 そして拳を振り上げ、メビウスへと叩き込む。

 あまりにも速く流麗なその動きにメビウスは虚を突かれるが、何とか反応し腕で受け止めた。

 だが、そこで終わらない。

 

『な―――』

 

 ウルトラマンダークの初手の拳は、メビウスに受け止められた瞬間に解け、メビウスの腕を取っていた。そしてそのまま、メビウスを一本背負いで地面に叩きつけ、大きなダメージを与える。

 そして地面に叩き付けてから一秒の間も置かず、腕をクロスし光線を発射した。

 圧縮トリオンを放つ擬似スペシウム光線"トリオン光線"は、容赦なくメビウスへと着弾する。

 

「ェアッ!?」

 

 メビウスは光線によるダメージ、光線に押されて街の建物と次々ぶつけられるダメージが折り重なり、反撃も防御も出来ないまま街を壊すローラーのように使われてしまう。

 これがウルトラマンと戦えるほどのバルタンが、その命を注いで作った戦士の力だ。

 たった一度の攻防で、あらゆる面でメビウスを上回る戦闘能力を持っていることを証明してしまった。どうしようもなく、圧倒的。

 

 そしてメビウスのカラータイマーが、点滅を始めてしまう。

 ウルトラマンは地球上では三分間しか戦えない。

 そして肉体的に多大なダメージを負ってしまえば、その時間は更に縮まってしまう。

 カラータイマーはそれを知らせる危険信号なのだ。

 メビウスはもはや、長くて一分程度しか戦えまい。

 

『……う、ぐ……!』

 

 崩れたビルの中からなんとか立ち上がり、反撃しようとするメビウス。

 しかし、ウルトラマンダークはそれを許さない。

 仰向けに倒れていたメビウスの腹を、まず踵の部分で強く踏みつける。

 そして苦悶の声を上げたメビウスの顎をつま先で蹴り上げ、顎のガードがなくなった喉の部分を足裏で強く踏み付けた。

 

「ヘ、ァッ……」

 

 そして気絶しかけているメビウスに、トドメの一撃。

 顔面に向けて腕をクロスし、トリオン光線を発射した。

 光線の音、破壊音、メビウスのもはや声にもならないか細い断末魔が戦場に響く。

 やがてメビウスの目より光が失われ、ウルトラマンダークがメビウスを仕留めたと判断し、人類の方を向く。

 それがまるで、「次はお前達だ」と言っているかのようで。

 人類側の戦士の一部は、この戦いの敗北と、自分達の滅亡という想像に見を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メビウスの意識は完全に途切れていた。

 闇に飲まれた意識の中、メビウスは瞳を閉じてゆらりゆらりと微睡みの中を漂っていく。

 そんな中、ふと、小さな光が目に入った。

 自分に向けられる、小さな光。

 

『……暖かい……』

 

 ウルトラマンは光を糧として生きる生き物だ。

 だが、それは光量が大きな光ということを意味しない。

 彼らは"心の光"をもその糧とする。

 三雲修の小さな光でメビウスが復活したのも、そういう理屈だ。

 

『……この光は……』

 

 自身に向けられる心の光を感じ取り、メビウスはうっすらと目を開ける。

 すると、少し離れた場所から、レーザーポインタと懐中電灯の光を届けようとする少年の姿が見えた。遠すぎて人の目には見えないけれど、ウルトラマンの目には見える。

 その声だって、ウルトラマンは聞き取れる。

 

「メビウス!」

 

 三雲修少年が、そこに居た。

 

「これでちょっとでも回復したら、逃げてくれ!

 それ以上無理をしちゃダメだ! 本当に死ぬぞ!」

 

 変わらずブレず、メビウスを助けるための勇気を振り絞り、助けになろうと光を送っていた。

 

『……ははっ』

 

 心の中で、メビウスは笑ってしまう。

 彼を勇者と見たメビウスの見立ては、正しかった。

 ピンチの時に、地球人に逃げろと言われたことはあっただろうかと、メビウスは記憶を探る。

 あったかもしれないし、なかったかもしれない。

 なんにせよ、極めて希少な言い分だということだけは、確かだった。

 

 傷付いた誰かがどこかに居ると知ったなら、それを見ているだけじゃなく、助けに行きたいと思える優しさ、そして勇気。

 彼に備わっているものはその心の力しか無くとも、ただそれだけで勇者に相応しい。

 

『オサムくん』

 

「! この声、メビウス! 良かった、意識はあるのか!」

 

『頼みがあるんだ』

 

「ぼくに出来ることならするけど、ぼくに出来ることなんて……」

 

『逃げろ、じゃなくて、頑張れと応援して欲しい。

 僕の勝利を信じて欲しいんだ。君が勝利を信じてくれれば、僕はきっとあいつに勝てる』

 

「え? 応援?」

 

 修はきょとんとして、遠くに見えるメビウスの姿を凝視する。

 だがすぐにメビウスの言葉を信じ、メビウスの勝利を信じ、純粋にウルトラマンの背を押そうという気持ちだけで、声を張り上げる。

 

「頑張れっ! ウルトラマーンっ!」

 

 その声が。

 かすかな機械の光と、それに乗った修の心の光が。

 ウルトラマンメビウスに、再度戦う力を与える。

 

「―――?」

 

 ウルトラマンダークは、周辺一帯の人間達全てをトリオン光線で薙ぎ払おうとし、そこで背後から迫る足音に気付く。

 だが、振り向いた時にはもう遅かった。

 振り向きかけたウルトラマンダークの頬を、メビウスの右ストレートが打ち抜き、殴り飛ばして宙を舞わせる。

 

『僕は負けない……僕が一人でない限り!』

 

 息を切らせて肩を上下させるメビウスの体は、激しく燃え盛る炎に包まれていた。

 やがてメビウスの息が落ち着いていくにつれ、炎はメビウスの体表に沈着していく。

 それは金の炎の紋様(ファイヤーシンボル)となり、赤と銀のメビウスの体色を絢爛に飾る。

 

『僕が、ウルトラマンである限り!』

 

 絆こそがその力。

 繋がりこそがメビウスをその境地に至らせる。

 "メビウス・バーニングブレイブ"。

 燃える炎の力を宿した、燃える勇者の名を持つ強化形態だ。

 

「―――」

 

 ウルトラマンダークは立ち上がってきたメビウスを見て、空高く舞い上がった。

 空中戦に誘おうというのだろう。

 メビウスはまず修を光のキューブで包み、安全な場所まで飛ばして逃がす。

 そしてその後ウルトラマンダークの誘いに応じ、その後を追うように飛び上がった。

 

「ヘアッ!」

 

 ウルトラマンダークは雲の上で反転し、メビウスと地上に向けてスラッシュ光線を撃ち放つ。

 掌を合わせ、その間から放つ矢尻の形をした光撃。

 避ければ地上に被害が出る、そういう攻撃だ。

 メビウスは左手のメビウスブレスに右手を添え、抜刀術のように振るうことで放つ手刀型の光撃・メビュームスラッシュにてそれを相殺。

 ウルトラの星に伝わる同系統の攻撃同士がぶつかり合い、相殺されていく。

 

 そして落下してきたウルトラマンダークと、メビウスバーニングブレイブが同時に拳を構え、すれ違うその瞬間に同時に振るう。

 互いの拳が互いの顔面をほんの少しだけ剤って、両者は空中で衝突することもなく、上下にすれ違って行った。

 

 空中戦ならば、上を取れば基本的に有利だ。

 だが、ウルトラマンダークはそんな有利をただで譲る気はさらさらない。

 上を取ろうと動いたメビウスに対し、下より追撃の一撃を放ったのだ。

 ウルトラマンダークが全身より発した赤紫のオーラが凝縮され、いくつもの高密度エネルギー弾として形成され、放たれる。

 黒いウルトラマンのとりわけ強力な一撃(エスペシャリー)は、メビウスに生半可な防御や回避を選択することを許さない。

 

「シャアッ!」

 

 メビウスは螺旋を描くような軌道で飛び、全力で後退。

 エネルギー弾を回避しながら、自分の後を追ってくるエネルギー弾の習性を利用して、それぞれの位置を意図してバラけさせる。

 そして、バーニングブレイブの力を受け、強化されたメビュームブレードを抜刀した。

 

 燃える炎の剣が振るわれ、エネルギー弾が両断される。

 一閃、一閃、一閃、一閃。

 空を裂く光の剣の軌跡は、振るわれる度に炎の残滓を空中に残し、まるで空間をキャンパスとして絵を描いているようにすら見える。

 それほどまでに、万年単位で研鑽を重ねられたメビウスの剣技は、美しかった。

 

「シェアッ!」

 

 メビウスはエネルギー弾の全てを切り裂き、そのまま一気に接近、ウルトラマンダークの首を刎ねんと迫る。

 しかしウルトラマンダークは、両の腕を上げて『Y』の字に近いような姿勢を取り、その場で高速回転を始めた。それこそ一見、黒い真球の球体に見えてしまうくらいのスピードで。

 

「!?」

 

 メビウスは構わず炎を纏った光の剣を横一文字に振るうが、回転したウルトラマンダークに弾かれてしまった。

 おそらくはトリオン……ウルトラマンダークの体を構成しているエネルギーを、手と足の先だけに集中することで、圧倒的な防御力を得ているのだろう。

 球形のバリアを張るよりも、縄跳びの縄状にエネルギーを凝縮し、それを高速で回した方が物理攻撃に対する防御能力はおそらく高くなる。

 そういう、誰もが思い付いてもやらないトンデモな理屈による防御手段だ。

 回転すればなんとかなる理論、とも言う。

 

『なら……!』

 

 メビウスは剣での攻撃を諦め、メビュームブレードを収納。

 地上へと向かって飛んで行く。そんなメビウスを仕留めるために、ウルトラマンダークは回転しながらその後を追って飛んで行った。

 メビウスは敵が追って来ているのを確認してから着地し、着地と同時に折り畳まれた足をフルに活用して跳躍。飛行能力を使って上方向に更に加速。

 更には空中で回転し、炎を纏っての飛び蹴りを黒いウルトラマンへと叩き込んだ。

 

 大地から空へと落ちていく、天地逆と成す一撃必殺の回転炎上キック。

 ウルトラマンレオより直々に鍛え上げられた、メビウスの持つ切り札の一つだ。

 回転には回転。

 当然、この一撃がただの回転程度で止められるはずがない。

 空中で炎が弾け、両者の姿は一瞬見えなくなったが、その後綺麗に着地したメビウスと背中から地面に落ちたウルトラマンダークを見れば、差は歴然。

 

『これで終わりだ!』

 

 メビウスが師事したのは、レオだけではない。

 ウルトラマンタロウより受け継いだ技、消耗と引き換えに敵に大ダメージを与える自爆技・バーニングメビュームダイナマイトを発動せんと、メビウスは炎を纏う。

 このままメビウスが敵に抱きつき、自爆と言うべき大爆発を起こし、自分だけちゃっかり肉体を再構築するという反則技を放てば、それで戦いは終わる。

 ウルトラマンダークがいかに頑丈といえど、バーニングメビュームダイナマイトを耐えられるほどの耐久力を持ち合わせているはずがない。

 

 だが。

 起き上がる最中のウルトラマンダークを前にして、炎を纏ったメビウスはその足を止めていた。

 否。その足を止められていた。

 

『なっ……!』

 

 いつの間にかメビウスを囲むように、極めて広範囲に広がっていたバルタン達が一斉にメビウスの方を向き、念力でメビウスの動きを止めていたのだ。

 念力に体のサイズは関係ない。

 人形と人間くらいのサイズ差があっても、強い念力が効果的な攻撃手段となることはある。

 まして、目に見えるだけでも人間サイズのネイバーバルタン達は数十体と居る。

 数を頼みに念力で押さえ込めば、いかなメビウスとて動けはしないだろう。

 そしてここでメビウスを片付けてしまえば、それだけで戦況はバルタン有利に一気に傾く。

 

(しまった、このタイミングで……!)

 

 逃げなければ、とメビウスが何か手を打とうとしたまさにその瞬間。

 ウルトラマンダークが、こんな絶好のチャンスを見逃すわけがない。

 動けないメビウスの首元に、黒いウルトラマンが放った八つ裂き光輪が迫っていた。

 あと一秒後には首を切り裂く、そんな位置。

 その名の残酷さの由来を見せてやると言わんばかりの、その威力。

 動けないメビウスにこれをしのぐ手段はない。

 一秒後には、メビウスの胴と首は切り離されることとなるだろう。

 

「―――ッ!」

 

 それでも諦めず、目は瞑らず、前を見据え続けるメビウスを八つ裂き光輪が――

 

 

「助太刀する」

 

 

 ――切り裂く、ことはなく。逆に光輪が一太刀のもとに八つ裂きにされた。

 メビウスの首の前に跳び上がり、人が光輪を光の太刀で切り裂いたのだ。

 切り裂いたのは、先ほど少年に忍田と呼ばれていた男。

 その一太刀はどこか人間離れしたものすら感じさせ、軌道が分かりきっていたからとはいえ、まがい物の八つ裂き光輪ですら断ち切ってみせる。

 

「旋空孤月」

 

 そして落下の最中に、また一太刀。

 刀身を伸ばす、というシンプルな能力により延長された刀の切っ先は、150m先で三人固まってメビウスの動きを封じていたバルタンの首を、三人同時に刎ね飛ばした。

 メビウスが周りを見れば、地球人の戦士達がメビウスの動きを封じている人間サイズのバルタン達を片っ端から掃討してくれている。

 メビウスにウルトラマンダークを倒してもらわなければ後がないと冷静に判断したのか、今ならばバルタンを鴨撃ちにできると気付いたのか。

 なんにせよ、助かったことに違いはない。

 自由に動くようになった体で構えを取り、待ち受ける黒いウルトラマンに向かって駆け出すと、そんなメビウスの耳にどこからか届く声。

 

「あんたは勝つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 メビウスには言っている意味がよく分からなかったが、自分の勝利を信じてくれている人がまだ居るのだということだけは伝わった。

 踏み込む足に、構える腕に、力が湧いてくる。

 地面がひっくり返りそうな振動を生みながら、メビウスは走る。敵へと向かって。

 ウルトラマンダークはまたしても八つ裂き光輪を放とうとする。敵へと向かって。

 

 だが今度は、先ほどまでとはまた違う形での八つ裂き光輪であった。

 ウルトラマンダークが手をパン、と叩き、掌の間の空間を引き伸ばすように左右に手を動かす。

 すると、右の掌と左の掌の間に、幾つもの八つ裂き光輪が生成された。

 無論、一つ一つがメビウスの首を飛ばして有り余るほどの必殺の威力を内包している。

 黒いウルトラマンは、そこで生成と発射を平行して行い、発射した後の光輪全ての軌道を操作するというとんでもない行動を実行に移し、そして実際にやってのけるというとんでもないことをし始めた。

 

 光輪は10? 20? 30、40、まだ増える。

 それら全てが軌道を調整され、誘導され、追尾し、メビウスへと迫る。

 メビウスのそれに対する対応は、極めて冷静かつ堅実。

 左手のメビウスブレスを起動し、両手の手刀に光を宿して、足を止めずにただ走る。

 

 今のメビウスの両手の手刀は、比喩や表現の手刀ではない、本物の光の刃である。

 光のエネルギーで手刀をコーティングするということは、そういうことだ。

 メビウスは足を止めない。

 ウルトラマンダークへと向かって走る。

 そしてその過程で、八つ裂き光輪を片っ端から手刀で切り裂いていった。

 

「ゼァッ!」

 

 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。

 両の手の手刀を時に乱舞のように振り回し、時に剣舞のように揃えて斬っていく。

 その場で横一回転して円を描く軌道で切り裂く。

 前方宙返りに近い跳躍で前後上下の光輪を切り裂く。

 どんなに敵の攻撃が激しかろうと、メビウスはその足を止めはしない。

 前へ、前へと進み続け、その過程で全ての光輪を切り捨てていた。

 

 やがて、互いの間合いがある一点を越える。

 「ここまで奴に来られたなら大技で決める」と敵が想定していた地点。

 「そこまで行けば大技で決められる」とメビウスが想定していた地点。

 示し合わせたように同時に、ウルトラマンダークは八つ裂き光輪の生成をやめ、メビウスは手刀の光の刃を消失させる。

 

 ウルトラマンダークは腕に一瞬エネルギーをチャージして、腕を十字に構える。

 ウルトラマンメビウスは∞の字を描き、全ての力を腕に込めて十字を構える。

 それもまた同時。

 黒いウルトラマンが必殺技・トリオン光線を放つ。

 赤いウルトラマンが必殺技・メビュームバーニングシュートを放つ。

 これもまた同時。

 

 だが、互いが必殺を望むあまり、互いの距離はあまりにも近かった。

 十字に組まれた腕が光線を撃つのと、二人のウルトラマンが組んだ十字を"物理的にぶつけ合った"のもほぼ同時であった。すなわち、互いに必殺となる零距離発射。

 つばぜり合いのごとく、物理的にぶつけ合わされる十字と十字の間、ほんの少しの小さな空間の中で二種の光線がせめぎ合う。

 

「シェ、アッ……!」

 

「―――ッ!」

 

 両者は互いに地に足をつけ、負けてなるものかと踏ん張り続ける。

 十字で物理的に押す。光線でエネルギー的に押す。体全体で押していく。

 まさに、文字通りの全身全霊でぶつかっていく。

 加減などできようはずもない。

 今まさに、二人のウルトラマンは生命の全てをぶつけ合っていた。

 

 スパークするエネルギーの余波だけで瓦礫が舞い上がり、道路がめくれ上がる。

 ビルは倒れ、壊れた家は砂塵のように吹き飛ばされる。

 今やウルトラマンの周囲100mはそんな有様で、神話の中の神々の戦いのようだった。

 どちらが勝つかなど誰にも予想できないほどに、両者の力は拮抗している。

 腕の十字をぶつけあう二人のウルトラマンを見れば、それは歴然たる事実であった。

 

 だが、その拮抗が崩れ始める。

 両者の力は今ここに至り、互角だったはず。

 なのにメビウスが押している。徐々に、徐々に押している。

 理屈ではない。

 理屈の上では、今この瞬間のメビウスとウルトラマンダークは互角でなければならない。

 理屈ではない……だが、理由はある。

 

 ウルトラマンメビウスにはあって、ウルトラマンダークにはないものがある。

 

『最後まで諦めず、不可能を可能にする――』

 

 本当の本当に追い詰められた土壇場で。

 最後の最後の踏ん張りどころで。

 その者に限界を超えた力を与えてくれる……それこそが、"諦めない心"。

 

 ウルトラマンの持つ、光り輝く超人の心だ。

 

『――それが、ウルトラマンだ!』

 

 その心は、奇跡を呼び起こす。

 メビウスの光線はウルトラマンダークのトリオン光線すらも飲み込んで、ウルトラマンダークの胸部へと炸裂。その内部へと莫大なエネルギーを流し込む。

 やがて、黒いウルトラマンの体に亀裂が入り、そこから光が漏れ出して。

 大気を揺らす、大爆発。

 広がる爆炎がウルトラマンの身体を照らし、戦士達に戦いの終わりを告げる。

 

 それがこの日の戦いの結末だった。

 

 この事件の詳細は伏せられ、後に人々には"別世界からの侵略者による侵攻"とだけ伝えられることとなる。

 味方をしてくれた異世界の者のことも伏せられることとなった。

 そして一部の人間は、こことは違う世界の人間とも分かり合えるかもしれないと、そんな希望を持つ最初のきっかけを得た。

 これが後の世に人々に『第一次近界民侵攻』と呼ばれる、そんな事件の隠された真実である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修はメビウスの光のキューブに逃がされた後、何故か光に満ちた空間の中に居た。

 これはウルトラマンが人間と短い時間で、多くの言葉を交わすために使うものだ。

 メビウスがかつて、とあるレイオク二クスとの会話にも用いていたものと同じ物。

 精神世界での会話、という表現が一番近いだろうか。

 

『ありがとう、オサムくん。君のおかげで勝つことができた』

 

「ぼくは何もしてないって、メビウス。

 そういう、何もやってないのに賞賛されるのはなんというか……苦手なんだ」

 

『うん、君はそういう子だろうね』

 

「それより、ぼくらが言わないといけない。守ってくれて、ありがとうって」

 

 メビウスは表情の分かりづらい顔で、修に向かって微笑みかける。

 

『僕はこれから、バルタンの星と世界を救いに行く』

 

「え?」

 

『ここでお別れだ』

 

「そうか……ちょっと、寂しくなるな」

 

『大丈夫。時が離れていても、場所が離れていても、絆は途切れやしない。

 僕はそれを知っている。君が僕を、僕が君を忘れない限り、きっとずっと』

 

「……メビウス」

 

『だから一つだけ、未来のために僕と約束をして欲しいんだ』

 

「ぼくに約束できることなら」

 

『もしもこの先、友好的なバルタンのような異世界の者に出会った時……

 偏見や思い込みに囚われず、その人と仲良くしてあげて欲しい。優しくして欲しい』

 

「それは……」

 

 メビウスの言葉に、修は迷う。

 修の目に焼き付いているのは、恐ろしい怪物としてのバルタン達だけだ。

 もしもこの先友好的なバルタンと出会ったとしても、修は偏見を持たずに居られる自信がない。

 

『たとえその人が、侵略者と同じ世界から来た者であっても。

 君には自分の目で見て、信じるか信じないかを決める優しさを持っていて欲しい』

 

 だが、メビウスは修にそう在って欲しくなかった。

 

『優しさを失わないでくれ。

 弱い者をいたわり、互いに助け合い……

 どこの国の人達とも、どこの世界の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。

 たとえその気持ちが、何百回裏切られようと。それが、僕の兄さんの……いや、僕の願いだ』

 

「―――っ」

 

 それは夢の様な理想。

 嘘をつかれて、裏切られて、利用される。そんな人が掲げるような理想。

 人がそう在りたいと願い、けれどなれず。ウルトラマンが人にそう在って欲しいと願い、いまだ現実に実を結ばない、そんな理想の文面だった。

 けれど、真っ直ぐで正義感の強い修の心には、響くものがあったようで。

 

「……分かった。できるか分からないけど、やってみる」

 

 その瞳には、メビウスが初めて会った時には無かった煌めきが宿っていた。

 メビウスは微笑み、この出会いに感謝する。

 この小さな勇者との不思議な絆が得られたことに感謝する。

 そして、この少年の未来の幸福を祈る。

 

 

『オサムくん。君のこの星での"日々の未来"に、幸多からんことを』

 

 

 ウルトラマンメビウスは、三雲修にその言葉を残し、地球を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テレビや新聞では、連日この世界の外から来る者達は全て怪物であり、敵であり、手を取り合うことなど出来ないと報じている。

 それは一般常識のように語られている。

 あれから四年半の時が流れていた。

 三雲修は、あの日の出会いが夢だったのか現実だったのか、未だに自信が持てないでいる。

 

(あの頃、母さんに全部話したら、それは夢以外の何だってのよと言われた)

 

 第一次近界民侵攻の前後は事件の騒動とゴタゴタのせいか修は記憶が曖昧で、"あれは現実だった""あれは現実じゃない"という区別を付けきれていなかった。

 加え、テレビの報道はあれだけ大きかったウルトラマンのことを報じてもいない。

 友達に話しても、家族に話しても、夢だったんじゃないのかと連呼される始末。

 そんな日々を送る内に、修はあの日の出来事が本当のことだったのか、夢だったのか、自信を持つことができずに居た。

 

「あ、千佳。おはよう」

 

「修くん、おはよう」

 

 二人で通学路を歩きながら、修はぼうっと風景を見やる。

 

「千佳。もし、大切な記憶が現実か夢か分からなくなったら、おまえはどうする?」

 

「うーん」

 

 千佳は修のなんてことのない問いに、少し考えてから答える。

 

「いい夢だったら、起きた時に覚えていようって思えるよね?

 きっとどっちでも同じだと思うな。覚えていたい記憶だってことに変わりはないもん」

 

「……そっか、そうだよな」

 

 修は納得したようで、うんうんと頷いている。

 そうだ。どっちだっていい。

 その記憶が、記憶の中の言葉が、三雲修にとって大切なものであることに変わりはない。

 彼の在り方に勇気をくれる、そんな記憶であることに変わりはない。

 

「あっ……」

 

 千佳が声を上げたのに反応し、修がその視線の先を追えば、そこにはいじめがあった。

 気弱ないじめられっ子。横暴ないじめっ子。

 されどそれを見る修は、かつてのような何も言えない彼ではない。

 その胸の内には、一歩踏み出すための勇気がある。

 

(勇気を)

 

 修はいじめの現場に足を向け、凛とした姿勢で立ち向かっていく。

 暴力に暴力で返す気はない。

 殴られたって、殴り返しはしない。

 それでもいじめは止めてみせる。彼はそう考えていて、それを必ず現実にするだろう。

 

 その手を拳と握るべき時と、握るべきではない時の判断を、彼は間違えはしないだろう。

 修の中には、探し出された修だけの勇気が宿る。

 近界民(ネイバー)だからと、恐れぬ勇気。

 近界民(ネイバー)を悪と断じず、その者がどんな人間なのか知るために一歩踏み込む勇気。

 それは優しさから生まれた勇気だ。優しさを忘れないという約束だ。

 

 いつかきっと、それが彼を助ける日が来る。

 彼を唯一無二の相棒と引き合わせてくれる日がやって来る。

 その勇気が認められる日が来てくれる。

 

 それはきっと、そう遠い日の話ではない。

 

 

 




おしまい

誰かとりまる先輩が「三分……ウルトラマンモード……」と呟く作品か、緑川君が「うちのエンブレムはファイヤーシンボル」とのたまう作品か、小南先輩が可愛い作品ください
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