真剣で私に恋しなさい!~暦の五月~ 改   作:名枕(ナマクラ)

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第零話 狂信者は成し遂げる

 ◆――――――◆

 

 

――昔の話をしよう かつてその名を知らぬ者はおらず、そして今では忘れ去られてしまった、とある一族の話を――

 

 

――その一族は、日ノ本において最強の戦闘一族と称され、『味方にすれば負けなし、目を付けられれば滅亡あるのみ』とまで言われた――

 

 

――あらゆる歴史の転換点に裏で関わってきたとさえ言われているこの一族は、しかしある時を境にしてその舞台から姿を消した――

 

 

――最強の戦闘一族の突然の失踪に当時の有力者たちは不気味に感じ慄いたが、しかし時が経つにつれて彼らへの畏怖の念は薄れ、ついには彼らの存在自体記憶から消えていった――

 

 

――その一族が消えた理由は今では誰も知る由もないが、しかし彼らの血脈は今の時代も紡がれていた――

 

 

――その一族の名は、“暦一族”と言った――

 

 

 ◆――――――◆

 

 

 閉め切られた薄暗い空間。何かの計器や機械が発する光だけが部屋を照らし出している中に白衣の男がいた。

 

 

「ふ、ふひっ! ひひひ! 成功だ! 九鬼に潜り込んだのは正解だった! ヒトクローン技術の確立・運用をこうも早く可能にするとは……! そこに潜り込めた私の運も捨てたものではないな!」

 

 

 男は九鬼財閥が秘密裏に行っている計画、『武士道プラン』の関係者であった。しかし今いるこの施設は九鬼とは全く関係のない場所である。

 

 彼は九鬼財閥の技術を盗用して、己が願望を叶えようとし、そしてそれを成し遂げたのだ。

 

 

「――武士道プランの関係者がこんなところで何をしている?」

 

 

 その背後に、突如として金髪の鋭い眼光をした執事が現れた。彼の名はヒューム・ヘルシング。九鬼財閥に所属する従者の一人であり、かの武神・川神院総代である川神鉄心の好敵手となるほどの武力を持つ最高戦力である。

 

 

「……ヒューム・ヘルシングか。思ったよりも遅かったね。まあ九鬼の地盤を盤石にすべくその能力を振るっていたからなのだろうが……故に私の願いは成就した!」

 

 

 九鬼の所有する最強の戦力と言ってもいいヒュームを前にしても、彼の態度は変わらない。どうあがいても逃げる事が出来ないこの状況にあっても笑みを浮かべ、己が心中を嬉々として吐露する。まるで、この状況が危機ではないとでも言うかのように。

 

 ……否。正確に言えば、彼にとって危機というものが既に存在しなくなっているのだ。願いが成就した時点で彼は己が身に何が起こったとしても構わなくなった。たとえ九鬼に捕まり、その結果死に至ったとしても構わないと心の底から思ってしまっている。

 

 彼を一言で表すのならば『狂人』という言葉こそがふさわしい。

 

 

「私が、あの御方の敬虔なる僕であるこの私が! 教主より授かったあの御方の一部にて! この手であの御方を蘇らせたのだ! ああ、それは何と素晴らしい事か! あの御方がついに復活されたのだ!」

 

「貴様、何を言っている……?」

 

「貴様らにはわからんよ! あの御方の素晴らしさが! 全てを超越したあの力を! ああ、その御力で世界の全てを――」

 

「――もういい。黙れ」

 

 

 その言葉と共に放たれたヒュームの一撃は狂ったように己が思想を垂れ流す研究者の意識を刈り取った。その研究者に戦闘力があったわけではないのだからこの顛末は当然の帰結である。

 

 

「…………気に入らんな」

 

「――どうやら終わったようだね」

 

「マープルにクラウディオか」

 

 

 ヒュームが気絶した男を確保すると、この部屋につながっていた通路から、魔女のような装いをした女性――マープルと眼鏡をした執事――クラウディオが現れた。

 

 

「制圧自体は容易いものだ。コイツ自身は脅威になどならん」

 

「彼の周辺には人が雇われた形跡もありませんでしたし、抜け道もありませんでしたからね」

 

「――ま、とにかく一段落はついたって事だろ?」

 

 

 そしてその後から着崩したスーツに額の十字傷が特徴的な男が部屋に入ってきた。

 

 彼の名は九鬼帝。九鬼財閥のトップに立つ男である。

 

 

「一段落とは言っても、この男の背後関係を探る必要はありますがね」

 

 

 九鬼財閥による秘密プロジェクトに参加できるほどの能力を持つとはいえ、一介の研究者が個人でここまでの研究施設を持てるとは思えない。その辺りも詳しく調べていく必要があるだろう。

 

 

「コイツの処分は後ほど決めるとして、こちらの方はどうする?」

 

「武士道プランのヒトクローン技術を流用して生み出された命……一体どのような人物を蘇らせようとしたのでしょう?」

 

 

 クラウディオの疑問に答えたのは、既に部屋にある研究資料を調べ始めていたマープルであった。

 

 

「なるほどねぇ……確かにヤツは所謂邪教の狂信者とやらだったみたいだ。こんなヤツを蘇らせてどうしようってんだい」

 

「なんだ? 何か有名な悪人でも蘇らせようとしてたのか?」

 

「いや、頭にドをつけてもお釣りがくるくらいにはマイナーな悪鬼・都市伝説の類です。知っている奴も本当に数えるぐらいしかいないんじゃないですかねぇ」

 

「そんなマイナーなヤツまで知ってるとはさすがはマープル、星の図書館と謳われるだけの事はあるわな」

 

「というよりも実在するかも怪しいものではないですか?」

 

「だが危険性は凄まじいものさ。もしアタシの知ってる伝承通りに成長したら厄介な事になるね。そういう意味じゃここで始末しちまうのも一つの手だね。だけど……」

 

「クローンといっても、そのまま同じ人間になるとは限らないわけですから、疑わしきは罰するといったように処理してしまっても良い物か……悩みどころですね」

 

「……で、どうされます、帝様?」

 

「そうだな……ならよ――」

 

 

 

 

――――そして、物語は始まる

 

 

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