『一週間後に試合がある!!』
休み時間にさっきあった事を菊岡に報告すると、普段からは到底考えられない声量が返ってきた。菊岡の周りに人がいたら絶対注目されているな。
「そう。しかも公式な行事でも罰則によるものでもなく、ただクラス代表を決めるためのもの」
『いやいやいや、こちらが把握しているスケジュールではどんなに早くても6月までは座学だけだ』
そう、こいつが行ったように本来専用機が必要なのは授業が実技に入ってからである(ただし、防衛を考えたら遅すぎるが)。だから5月の中旬を目標に改造計画が練られていたのだが、今回の試合で締め切りが一月も早まったのである。
「そうなんだよなぁ。そのせいで織斑に至っては知識も経験も不十分でのデビューになりそうだぞ」
『どんなに頑張っても、一週間は無謀だ。わかっているんだろ?君の専用機を《テスター用》から《操縦者用》への変更には、各国の承認が必要だということを』
「だから、俺にいうなよ」
テスターとは簡単にいえば品質管理のための被検体である。これだけなら操縦者も該当するが、操縦者がIS適性の高い人物であるに対し、テスターは特に適性を重視していないのが特徴である。
まあ、テスターは本来必要悪だからな。それを男にさせてたことがばれたら面倒だよな。隠蔽工作が必要なのである。
『さ、最悪訓練機を使って「やめた方がいいな。それ」何故だ?』
何故って。そりゃ、うん。
「今まで言わなかったが、入学前に訓練機に乗って稼動テストさせられた」
『なん、だと。つまり既にあれになっていると』
「そう、多分今頃「拗ねている」な」
拗ねるとは、ある現象に俺達が勝手につけた名前である。それは「俺が専用機を外した状態で他のコアに触れると、その後約半日、ISの動きが悪くなる」現象のことである。
通常のISではこのようなデメリットはないのだが、そもそもこの子(今後俺の専用機のコアはこう表記する)は俺以外を拒絶した例外中の例外なのである。このような限定的な現象があってもなんら不思議ではない。非常に不便ではあるが。以前のテスト前に専用機が来てからにしろと愚痴ったのは適性よりもこの問題が大きいためである。
ちなみにこの現象「IS(機械)が拗ねる」と普通では考えられない文章になるが、この名前はストレアの姉妹の一人が「なんか恋人が知らない間に他の子にちょっかい出していたことがわかって拗ねた女の子みたいな反応(時間とともに機嫌?が良くなることも含めて)だね」と言ったのが由来である。また、俺とキリトが考えた仮説に基づくというもうひとつの理由もあるが。
さらにいうと動作不慮が半日なのは1回目のみであり、連続2回他のコアに触れると動作不慮はなんと1週間まで延長するのだ。なので訓練機はもう使えないと考えるべきである。いや、個人的にも勘弁したい。
この拗ねている間の動作不慮には粒子変換にも影響する。よって1週間の間、ずっと展開したままPICなどの補助がないまま過ごしたこともある。あれは軽くトラウマものだったぞ。しかも念のため確認すると専用機を装着した状態で1週間必要なのが判明した。途中で外したら期間延長されるのである。俺はどこの犯罪者だよ(時効があった頃、犯人が国外に逃げると時効は延長されたらしい)。
あれ、今のピンチって全部織斑千冬から始まってないか!
「もういっそのこと初期化するか」
『・・・今、なんていった?』
「だから機体を初期化したらどうかといった。各国はとうせ自国より性能がひくければ文句はつけないだろうし、この子なら多分コアの情報までは初期化しないだろ」
『それだ!!!』
急に叫ぶな!頭に響くだろ。というか話し合いが難航しているなら思慮に入れとけ。ちなみに初期化すると訓練機どころか第一世代なみの性能だがこの際仕方ない。ぶっちゃけ捨て試合でいいだろ。勝ってもメリットないし。
「あ、でもそうなると緊急時の対処ができなくなるな」
『なぜ君が対処する前提なのかは置いておくとして、確かにそれはいけないな』
『ならさ、初期化とほぼ同じぐらいまで制限をつけて、非常時には制限をとる形にすれば?』
「それ大丈夫なのか、特に技術的には」
『確か、ISにはフラグメントと呼ばれる自身の進化の道しるべがあるよね。それを上書きする形にすれば元に戻るはずだよ』
そういえば、そんなことも言っていたな。間違って初期化してもフラグメントのコピーがあればなんとかなるって。
『それじゃ機体はコア以外を初期化、ただし現在のフラグメントは保管しておき、緊急時には元に戻せるようにする。さっそくこれで各国に要請してみるよ』
「さっきも言ったけど、多分拗ねているからできれば前日までには頼むな」
設定自体は2日(プログラム+バグチェック込み)で終わるらしい。その設定を決めるのにその10倍の時間がかかるのだ。承認されれば大丈夫だろ。
『了解。またかけ直す。それと
こんなことはやめてくれ。ストレスで潰れそうだよ』
そういい残しすぐに切りやがった。俺ただの被害者なのに、解せぬ。
菊岡への連絡を終わらせ教室に戻ると、先ほどとは違う視線が出迎えた。
(やっぱ、さっきのは言い過ぎだったかな?)
お俺がさっきの授業で言ったことは普通の15歳が受け入れるのは難しいのだろう。いくら世界トップの学力を要求されるとはいえ、感情面ではお年頃の子が多いのであろう。
『何かしらのフォローしておく?』
『いや、今はこのままにしておく』
人の感情は複雑で整理しにくいのだ。彼女たちが落ち着いて自分の考えをまとめるのを待つべきだろう。それに下手にフォローすると優柔不断でダメな奴という印象がついてしまう。
「ね~ね~、あ~ち~」
『でもあんまりマイナスからのイメージをもたせなくてもよくない?ボッチになっちゃうよ?』
『それは今後によるな』
だいたいキリトを見てみろ。妹枠以外は第一印象最悪な出会いなのに今のハーレムを作ったんだぞ。だったら、少しマイナスイメージでも友達になるのは不可能じゃない。
「あ~ち~?」
『でもあれはキリトの天然たらしすスキルがあってこそ成り立つ裏技だよ』
『・・・・あいつはどこまでいってもチートになるのか』
「あーち!」
うお、びっくりした。そして誰?
「あーち、さっきから呼んでいるのに無視する~」
「なぁ、さっきから君が言っていた「あーち」ってもしかしなくても俺のこと?」
「あーちはあーちだよ」
会話成立してるのか?
あーち、あーち。もしかして「青野っち」からあーち?にしてもさ、本人に確認せずに呼び名にするなよ。俺自分のことだとマジでおもわなかったぞ。
それに今まで「青野」から派生した呼び名はなかったからなあ。よく言われるのは「ユウキ」「ユキっち」「ユウの字」それに・・・
《・・じ》《け・・ゃん》
「あーち!どうしたの、急に泣き出して!」
「青野くん?」
「ちょっと大丈夫?」
やべ、スゲー恥ずかしい。まさか昔の呼び名を思い出して涙が出たなんていえないな。しかも他の人も何人か集まっているし。
「いや、あんなこと言ったあとだから、みんなに相手されないと思っていたから」
とりあえずごまかしておこう。
「そんなことしないよ。確かにあの発言にはびっくりしたけど、この学園は日本人だけじゃないからそういうことにも気をつけないといけないよね」
「そうそう。青野くんは私たちよりも考えているんだと思ったくらいだよ」
なんか普通に励まされたな。
『ストレア、この子たちはさっきの織斑の失言のときなんて言ってた?』
『一人は稼動時間で不利だと言ってた子で、もう一人は男は勝てないと言ってた子だよ』
なら俺の発言から考えを改めたのか?他人の考えを受け入れられるのはいいことだな。
『ちなみにこの子は?』
俺にあーちと名付けた子について聞いてみると。
『特に発言しなかった、というよりは観察していたね』
観察?見たところ専用機を持っていないようだが、候補生の一人か?
「ありがとう、えーと」
「ああ、全員女子だからわからないよね。私は谷本癒子」
「私は鏡ナギ」
「私は~布仏本音だよ」
「谷本に、鏡に、布仏だな。よろしく」
どうやらぼっちにならなくて大丈夫のようだ。
今回出したオリジナル用語「テスター」ですが、簡単にいえば候補生などがデータをとる前に、品質チェックをする役職と考えてください。
詳しい設定は次に出た時にまとめて載せます。