♤ユウキサイド♤
「ということがあったから、こっちに来た」
「ずいぶんと大変だったんだね」
『本当だよ』
「そういえば、さっきすごく動揺した女の子がこっちに来たよ。周りの視線を気にしているように顔を隠していて。もしかしてさっきの話の子かな?」
「なんの用事だったんだ?」
「さあ?」
今俺たちはフィリアが担当している保健室で休んでいる。今あの寮にいたら何かが起きそうだからこっちに避難した(現場はおそらく織斑の部屋であろう)。実は以前の一件以来ちょくちょくここに来ていたりする(自室にある監視カメラからの避難場所として)。それにこの学園の女生徒はアリーナでの練習後にあまり保健室を使用しないそうだ。ISの絶対防御の恩恵だろう(ただし別の理由で来ることはよくあるそうだ。聞いてみたが「男は関係ない」と言われなんとなく察した)。だからここでは入学以前のように普通に会話できるのだ(知り合いだとばれたら俺の情報を吐かせるために拉致される可能性があるため普段は挨拶程度の関係を偽っている)。
ガラッ
「ん?いらっしゃい」
「あ」
入って来たのは織斑だった。ちなみに俺が座っているベッドは入り口から見えない。俺は声で判別したが向こうは気づいてないだろう(無言の居留守)。でもだとしたら何に驚いたんだ?
「あ、あの。擦り傷の」
「ああ。傷薬ね。ちょっと待っててね」
流石フィリア。潜入でも仕事はきちんとやっているようだ。
「はい」
「あ、ありがとうございました」
薬をもらった織斑は部屋から出て行った。なぜかしばらくフィリアの顔を見ていたようだが。
「あの子ちょっと緊張していたようだけど」
「あいつ、シスコンの気があるからフィリアに惚れたとか?」
「う~ん。ちょっと私には幼すぎるかな?年齢的にも精神的にも」
「やっぱりそうか」
「うん。経験の差が大きいと思うから仕方がないけど」
そうだよなあ。10年前くらいは女子高生が30代と付き合うことがあったり、小学生の女子が高校生と交際があったりする事例があったらしい(ただの都市伝説かもしれないが)。その背景には『同年代の男子は子供っぽい』というのがあったらしい。フィリアもやっぱり精神的に大人の方がいいよな。
「だったらなんでたまに俺にちょっかい出してくるんだよ」
俺とフィリアって8歳くらい違うけどな。
「君は確かに年齢は幼いけど精神的には早熟しているから」
「それってほめ言葉じゃないよな」
「大人っぽいってことだよ」
「子供らしさって大事だぞ」
子供っぽいということは頭の回転が柔軟だということだからな。
「でもたまに暴走よね」
「それは言わないでください。気をつけますので」
「うん。よろしい」
でも今問題なのはそこ(恋愛話)ではない。
「あいつまだ帰ってなかったのかよ」
今まであいつ何していたんだ?
「整備室に行っていたんじゃない?」
「あいつ、入学以来整備してないらしいぞ」
『それってやばくない?』
「やばいだろうな。精密機器の管理の大切さに気づいてないなんてな」
そもそもオルコットの試合も整備不良のせいで負けたといっても過言ではないのに。
『それより今帰ったらドンピシャかもね』
「だな。悪いけどもう少しここで時間をつぶさせてもらっていいか?」
「いいよ」
「ありがとう」
本当だったら帰ろうとしていたが、今ここに織斑が来たということはまだ惨劇(勝手な決めつけ)は起こっていないということだろう。ならもう少しここで待機させてもらったほうがいい。
「じゃあちょっと落ちるな」
「普通に仮眠って言えば?」
「気分の問題」
『なんか子供っぽいよ』
「永遠の13歳ですから」
「それってお子様「冗談に決まっているだろ(目が笑っていない笑顔)?」そうだね」
「じゃあおやすみ」
そうして俺は目を閉じた。
♡フィリアサイド♡
「うーん、これで今日の仕事は終わりかな」
『お疲れさま』
「ありがとう。そろそろ起こした方がいいよね」
書類を簡単にまとめて彼を起こすためにベッドに移動すると、普段の彼とは違う年相応の寝顔だった。
「こうして寝てると本当13歳ぐらいの寝顔だよね」
『フィリア・・・』
「寝顔見るぐらいいいでしょ。この子のこんな表情レアだよ」
『そうじゃなくて、彼が13歳って聞いたら間違いなくキレるよ』
「先に言い出したのこの子だから大丈夫だよ」
「今回限りだぜ」
「あれ?起きてたの?」
「今起きた」
そういうと彼は寝起きとは思えないぐらい俊敏で起き上がった。
『相変わらず生身の人間が近づくと敏感に反応するね』
「いろいろ経験すると自然とそうなるよ」
彼の過去を考えると仕方ないけど、こんな風になってしまったのは少し悲しいね。
「で、今は・・・もうこんな時間か。流石にもう終わっているか」
「また来てね。待っているから」
「おう」
『またね』
♤ユウキサイド♤
「・・・」
寮に帰る途中、何かいた。どこかで出会ったことあったか?
『中国の子がいるね』
『もう少し現実逃避させろよ』
どうやらイベントそのものは回避ができても後片付けを押し付けられているようだ。
『無視できるかな』
『どうだろうね』
こういう辛気臭い雰囲気だとそっとしておくのも手なのだが、中には他人に話して発散することを選ぶやつもいる。あいつがどっちのタイプなのか完全に運だな。
「ちょっと、泣いている女をスルーする気?」
どうやら逃げられないようだ。
「で、わざわざ人を足止めしてなんだ?」
「あんた、女子が泣いているのに容赦ないわね」
「悪いが俺は誰にでも優しくする気はない。たまに自分のことを話さないくせに『あんたに私の何がわかんのよ』と喚くやつだっているし」
え?お前がいうな?うん、知ってる。
「あっそ」
「でもあんたは少なくとも俺にSOSを出したからな。愚痴くらいなら聞いてやる」
「・・・ありがとう」
ファンの話を要約すると、俺が予想した通り彼女は織斑の部屋に引っ越そうとして同居人(篠ノ之)と口喧嘩。話が進まないので無視して織斑と話し始めたら(いや、無視するのもどうかと思うけど)竹刀で一刀両断されそうになった(木刀で扉を破壊できるスキルもち)のでISを部分展開して防御。相手の罪悪感に訴えかけて沈黙させた。そして織斑にかつて約束した『毎日酢豚を食べてくれる?』を覚えているか確認(それってプロポーズ!!)したら
「あいつ『ご飯をおごってやる』って覚えてたのよ!!!」
「ワーオー」
『落ちが落語みたいだね』
うん。女子のみなさん、朗報です。織斑は胃袋ではなくてサイフを握られていたようです。つまりあいつは将来ヒモになりたいのか?
「あんたはどう思う!!?女子に毎日食事を作ってもらえるって言われて」
「どうって一番最初に思いつくのは永久就職だろ?」
と言っても例外はある。アスナの実家は家政婦を雇っていたし、キリトなんかは兄妹で食事当番をしていた。そういう意味じゃ時代の変化によって廃れてしまう恐れのある言葉だろう。そもそもこんな世の中だから結婚率も低いし。まあそんなことは今はいい。
「そうでしょ!!」
今大事なのは相談相手が満足すること。でも一応確認しておこう。
「状況は?」
「はあ?」
「だからその『私の酢豚を食べてね』といったときの状況。流石に『給食のときに話しました』じゃないだろ?5W1Hで答えろ」
「え。え~と中学のとき、放課後の教室で夕日をバックに告白。なんでかっていうと好きだから・・・て何言わせるのよ!!」
「了解。把握した。それは織斑が全面的に悪い・・・というかおかしい」
放課後の教室、夕日をバックにって完全に告白の雰囲気じゃん。しかも中学の時ときてる。普通ならそのぐらいは異性が気になるころだろうに。これが小学生のころに言われたとかならまだわかるが。まさかあいつ同性愛者じゃないだろうな(背中に悪寒が走る)。
「なあ。あいつって他の女子に告白されたことはあるのか?」
「それは・・・あるわよ」
あるのかよ。これだからイケメ(以下略)。
「だったらなんで気づかないんだ?それともあれか?あいつは『何人の女子に告白されるかゲーム』でもしていたのか?」
「ううん。『付き合ってください』『いいぞ。買い物ぐらい』って言っていたわ」
「・・・それってやっぱり放課後に顔を真っ赤にしながら言っていたのか」
「うん」
「どこのギャグだよ」
流石に買い物に付き合ってはないだろ。常識的に考えて買い物に連れていくのは親兄弟(大体が荷物持ち)、もしくは信頼している異性だろう。なんでただのクラスメートと買い物に行くという発想ができるんだ?下手したら弱み握られるぞ。・・・あれ?こんな発想の俺って心が穢れている?(いまさら)
「でもそこまで鈍感とわかっているのになんでそんな回りくどい言い回しにするんだ」
「そ、それは。は、恥ずかしいから」
告白が恥ずかしいのに男と付き合えると本気で思っているのか?付き合っている男女は周りから注目されるぞ。俺はキリトとアスナしか知らないが、学校中が注目していたそうだぞ。あの二人は気にせずゴーイングマイウェイでいちゃいちゃしていたそうだが。
「言っておくが恋愛は早い者勝ちだぞ。さらに恋に落ちるなんていつ、どの状況で起こるかなんて誰にも分らないぞ。あんたみたいに転入してきた女子が一夏のタイプだったらどうする気だ?」
『そういえばさっきフィリアに見惚れていたよね。教えてあげないの?』
『そんなことしたら話が長引くから却下』
そもそもフィリアは相手にしないだろうからノーカンで。
「そ、それは」
俺が最悪なif話をすると顔面蒼白になった。
「あんたさ・・・ていうか幼馴染つながりで篠ノ之さんもだけど。織斑は誰とも付き合わないって思い込んでないか?」
「そ、そんなことないわよ」
本当か?にしても危機感が足りない気がする。
「でもこの学園での生活も一月が過ぎようとしているんだぞ。見ず知らずの相手でもこれだけ時間があれば分かり合うのは可能だぞ」
「た、確かに」
「それに織斑がハニートラップもどきにかかったらどうする気だ?」
「はあ!?ハニートラップ!!?」
そんなに意外なことか?織斑は引っかかってもおかしくないと思うが。あくまで「もどき」の方だが。
「あ、あの鈍感がそんなにかかるわけないじゃない!!」
「・・・はあ。そういえばあんたは日本育ちなのか?」
少なくとも10~14歳は日本にいたんだよな。でもそれ以前はどうなんだろうか。
「それがどうしたのよ!!」
「世界には『女性は男の家に入るだけで貞操が汚された』って認識の国もあるんだぞ?織斑が部屋に招いただけのつもりでも女子が『織斑くんに犯された』って主張しないとは限らないだろうが」
「!!!」
これが国際社会のもっとも恐ろしいところだ。外国の文化や価値観を全部把握しないとこのような言いがかり(少なくとも日本育ちの俺からはそう思う)を言われるのだ。しかも相手は本気で言ってくるというのがたちが悪い。嘘発券機でも判別できないんだぞ?そしてここはIS学園、つまりほぼ女子高だ。向こうの主張が無駄に誇張して広まるのは目に見えている。
「(パクッパクッ)・・・」
俺の言い方がよほど衝撃的だったのか、開いた口が塞がらずうまく発音できていない。
「だからあまり喧嘩が長引くのは良くないぞ。その間に『鈴。俺彼女ができたんだ~』ていい笑顔で織斑が報告に来ないとは限らないんだからな」
「わかっているわよ。でもあいつが謝るまでは会ってやらない。これは私の意地よ」
「話聞いていた?まあ、仲のいい友人が徹底的に無視してたら意識がむくだろうけどさ」
「そうでしょそうでしょ。そうやって私がどれだけ尊い存在か認識させるんだから」
「・・・まあそれでいいなら何も言わねーよ」
でもそれって親友に会えない寂しさを別の女で埋めようとかは考えないのか?少なくとも篠ノ之とオルコットが取り巻きにいるから寂しさは半減してそうだな。
「う~ん。なんかすっきりした。悪かったわね。愚痴に付き合ってもらって」
「別にいいよ」
逆に織斑の情報が手に入ったわけだし。ただあまり試合に活用できるものはないが。アルゴに流して小遣い稼ぎでもするか?
「じゃあまたね」
「ああ」
そしてファンは自分の部屋に帰っていった。ようやく解放されましたよ。
『お疲れさま』
『本当にな』
『でも本当にありそうで怖いよね。彼基本女子には甘い感じだし』
『それでなくても第三者が見ている時に自室に連れ込むだけでいろんな噂ができるからなぁ』
なんせ全校生徒が暮らしている寮の一室なのである(しかも織斑は通路の真ん中の部屋)だから常に見られていると考えた方がいいだろう。
『こっちに飛び火する前に解決してほしいね』
『まったくだ』
さて、今日もあっち(VRMMO)で訓練するか。
個人的に一夏はハーレム主人公でも異常だと思っています。こういうジャンルの主人公は『ヒロインの一人に惚れている』ことが多いです。でも一夏は心に決めた(というのも変ですが)相手がいないんですよね。・・・ある意味千冬が本命ですかね。