ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
でもやっとできて嬉しいのは間違いねえ。一期の内容がすっぽ抜ける前にササッとやっていかなければ。
人間は社会的動物である―――そんな言葉がある。
アリストテレスの遺した言葉が元とされているが、要するに人というのは善なる目的のために共同体をつくり、それへ向けて行動するということらしい。
まあ現実は、見ての通り人間善人もいるが悪人もいる、そして後者の方が大多数だ。
進んで良いことをする奴はおらず、むしろ誰かがやってくれると逃げに走る。挙句は「赤信号皆で渡れば怖くない」だ。
いじめやスクールカーストなどを目の当たりにすれば、太古の哲学者たちも裸足で逃げ出すだろう。いかに哲学が机上の理論で現実を反映していないかを示す証左だ。
ともあれ、それでも人は集団を形成して生きていく、それ自体は間違ってはいない。
そしてその中で役割を与えられ、各々の生業に励む。それを果たせない者、集団の意に反するものは村八分として冷たく扱われるわけだ。
結論、夏目漱石の言った通り、とかくこの世は生きづらい。
合宿二日目 西木野家別荘前
「・・・重い」
思わず呟いては、そりゃそうだろうと自分でツッコむ。
これ、もう何回目だっけか?少なくとも10回は超えたな。
・・・フッ、エリートぼっちはまだまだこんなもんじゃ終わらねぇ。一人寂しく過ごすには己と対話するテクニックがいるのだ。
逃げ?痛い?好きに言え。
しかしまあ、μ'sの連中もなかなかどうして人使いが荒い。というか人が悪い。
昨日は散々黒歴史ノートの件で一晩中笑い者にして、挙句今日はグンマーを生涯一度も訪れたことのない俺に、晩飯の材料を買ってこいときたもんだ。
(比企谷!ぬぼーっとしてんなら晩ご飯のおかず買ってきて!ちょっと歩けば近くにスーパーあるでしょ!)
(・・・うーんと、穂乃果たちは何でもいいかなー)
要するにお前が飯を作れってことですね、分かります。
あと何でもいいってのが一番困るんだが?主婦が旦那に言われてキレるワードにランクインしてなかったっけか?
しかもキッチンを覗いてみたら米もない。そのことを尋ねるとご丁寧にママチャリを貸してくれた、前後両方にかごの付いたやつを。
お前一人で行って来いってことですね、分か(ry
・・・そんな訳で片道30分ほど自転車を走らせ"近くのスーパー"まで向かい、5kgの米とカレーのルー、具材、おかず、飲み物等々買い揃え。
幾度と帰りの上り坂に足と心を砕かれそうになりながらもどうにか帰着。・・・せめて交通費ぐらい払ってもらってもよくね?
てかこれで食事も作ってやったらそれ家政婦じゃん。立派な職業、よって正当な賃金を要求するまである。
「・・・ハイっ!
まだみんな声が揃ってないわね、じゃあ一番からもう一度歌ってみましょう」
「あ、その前に真姫ちゃんが作った原本を再生してからにしたらどうかにゃ?」
「そうですね、しっかりと手本を学んでからでないとリズムも掴めませんし」
「その、私、サビのこの部分で上手く声が出せなくなっちゃうんです・・・」
「それならも一度腹式呼吸の練習した時の、思い出してやってみるとええかもしれんよ?」
・・・まあ、とは言ったものの、だ。
ご本人たちがライブに向けて必死に練習に取り組んでいるのに、俺一人何もせずぼんやりしていたらそりゃ腹も立つだろう。
つまりは同調圧力。これが単に先輩風を吹かせたいだけのオラオラ系のDQNなら遠慮なく軽蔑しているところだが、今回は違う。
ただ闇雲にガンガン練習するだけではなく、きちんと現時点での反省点を洗い出して、お互い共有する。それを次の練習に活かす。
考えてみれば当たり前のことなんだが、これがきちんとできていない組織がいかに多いことか。
そういう部活だったり企業というのはメチャクチャな精神論が幅を利かせ、何の結果も生み出せないままただただ時間と人を無意味に浪費していく。
つまり体育会系は害悪でしかないッ!・・・まあぼっちの僻みもあるんだがな。
その点においては、高坂達は十分に信頼できる。
ならば俺も素直に従うしかない。というか、筋トレと発声練習付き合う以外は何もしないって実際暇なんだよな。
何だかんだで俺にも役職を振ってくれたのは有難・・・社畜フラグ不可避じゃねーかどうしてくれる。
「あ、比企谷くんお帰りー!今日のご飯何?何?!」
「子供かお前は」「・・・穂乃果、はしたない真似は止めなさい」
「お米ですか?!お米ですよね、パンなんかじゃありませんよね!?」
小泉、何を血迷っている。そりゃ晩飯にパンなんて俺も嫌だけど。
「悪かったわね、一人で買いに行かせちゃって。作るのは私も手伝うわ」
「気にすんな、家事は暇人の仕事だ。お前らの仕事はライブの特訓だろ」
あーあ・・・フラグ折る唯一の機会を失ってしまった。これから一生社畜道まっしぐら。
なにそれ道とかあんのかよ。
ともあれ何度も言っているように、俺は別に歌って踊る訳ではない。
なら後方支援、裏方が俺の役目だ。そうでなければここに居る意味がない。
だからきっちり、与えられた役割を果たす。それでこそ人として生まれた上で最低限の義務を果たしているといえる。
「美味しいの作ってねー、期待してるよっ!」
「おうよ」
「男の人の手料理、楽しみだな~♪」
舐めるなよ、女子諸君。
カレー如き作れずして何が専業主夫ぞ、一人暮らしぞ。俺の隠された実力、今こそ発揮してやろう。
「ふぅ・・・」
「・・・比企谷くん、今鍋が終わったわ」
「あ、お疲れ様っす。あとはキッチン全体の片付けですかね」
「そこまで丁寧にしなくてもいいわよ?どうせ明日も使うんだから」
そうは言うがな・・・。
この狭いキッチンにこうまでカレー臭が充満しているとなると考え物だ。換気しても消臭剤をぶちまけても追いつかない。
作るのは前座、片付けこそ本番。母ちゃんがよく愚痴っていたが、まこと料理とはそんなもんである。
それも10人分となると相当だ。食器を一人で複数枚使ってしまうともう、皿洗いだけで気が滅入ってしまう。
これに外での労働が加わるとなると・・・鬱になるからやめよう、まあとにかく平塚先生は早く結婚してください。あとやっぱり専業主夫がいい。
「それにしても・・・お酒が入ったわけでもないのになんでみんな酔いつぶれたみたいになってるのかしら」
そこだよなぁ。
現在起きているのは俺、絢瀬会長、西木野。あと東條副会長がベランダで夜風に当たってくると言って外に出てしまった。
その4名以外は全滅。皆して好き放題に食って飲んだ後は持ち込んできたゲーム機やらダーツに励み、締めにカラオケで熱唱して朽ち果てたという訳だ。
「うぅ・・・穂乃果もう食べられなぁい・・・zzz」
・・・相変わらずだなあいつは。寝てても起きてても食うのかよ。
案外副会長辺りが料理に酒か薬でも盛ったのではないかと疑っているが、料理中は俺以外誰もキッチンに居なかったし、食事中も無理だろう。
結局は場のノリとかそういうもんだと結論付けた。
「夜はダンスを一度合わせてやってみるつもりだったんだけど・・・今からだと無理そうね」
「先が思いやられるわ・・・」
「まあ合宿なんてそんなもんだ、いつかどこかで羽目を外すときはあるだろ」
酒飲んで乱×・・・なんてよくあるよな、アホなリア充どもの集まりでは。
そうならなかっただけ奇跡だ。まあ男が俺一人だけという状況ではそれはないか。
ハーレム?いえいえ、生き地獄ですわ。
「はぁ・・・でも、みんな何だかんだで楽しんでるわよね、スクールアイドルを」
「どうしたんです?急に」
話変わり過ぎだろ。
俺が同じこと言ってたらドン引きされるぞ?どこで差が着いたか、慢心、環境そして男女の(ry・・・うん、この世は不平等だよね、分かってます。
「―――アイドルなんてやらしい、バカみたいだなんて心の奥底で考えてた頃の自分がバカらしくなって・・・。
私って昔から顔が怖い、冷たそうだなんて言われて仲間外れにされて、それでみんなで固まってワイワイやるのがすごく嫌だったことがあったのよね」
「でも、バレエは一人だけで演技するわけじゃないでしょ?その時はどんな感じだったのよ」
「ロシアで暮らして、向こうでバレエをやっていた時はあまり気にしてなかった。
でも日本に移った時から、貴方は表情の豊かさに欠けているってしょっちゅう指摘されるようになったの。そこで一度挫折しかけたこともあったわ」
まあ、ぼっちにはよくある話だ。
周りから排斥され、孤立すると、次第に集団というものを憎むようになる。ワイワイガヤガヤと騒ぐ連中を見下し軽蔑する。
それでも心のどこかでは奴らを羨ましいと思っていたりするものだ。俺はそれすら諦めていたが。
「でも副会長がいるでしょう、貴方には」
「希ね・・・そう、そうなのよね。
最初はなんで私にまで構ってくるのって思ってたけど。
でも考えてみたら、希が中学の時に私に声を掛けてくれなかったら、高校もずっと一人で過ごさなきゃいけなかったかもしれない。
高坂さんがμ'sを始めて、それに巻き込まれて、私もメンバーに入れてもらって・・・あの時から私、何も変わってないのよね。
誰かに背中を押してもらえないと、自分を変えられない、弱さを克服できないのが」
・・・やれやれ、贅沢な悩みだな。
少なくともあんたはぼっちでなくなったんだろ?一人じゃないんだろ?ならいいじゃねえか。
それこそ生涯孤独の身で過ごす人間だっているんだぞ。素直にラッキー、それで万事解決。うじうじ悩むくらいなら一人に戻ってしまえよ。
この人は優しいのかもしれないが、同時に優柔不断でもある。そこが少々目に付くのがぼっち同士としては癇に障る。
西木野も同じことを思っていたのか、ため息をついて言い放つ。
「気にしすぎよ。幸運に感謝して今を頑張って生きてればいいじゃないの」
「・・・気に障ったかしら。ごめんなさいね」
そりゃ黒歴史語りなんて痛いだけだもの。
ソースは俺、軽い自虐のつもりでやってみたらドン引きされました。
「謝るぐらいなら、生徒会長らしくビシバシ皆を指導してください」
「・・・そう?なら比企谷くん、明日の朝は皆でランニングしようと思うの。
貴方も付き合ってくれるわよね?」
・・・ぐっ。
急に目の色が変わった、というかその小悪魔的な笑いは何だ。
やはり女は怖い。老いも若いも油断がならぬ。
「ハイワカリマシタ」
「хорошо!(素晴らしいわ)男ならこういう時に活躍するべきよね」
チッ・・・男女平等どこ行った、男ならって何だよ。
渡る世間は鬼ばかり。親父が日々愚痴っていたその言葉、間違ってはいないようだ。
「―――おっ、どうやら片付けは終わったようやね、お疲れさん。
どや、折角だし夜の空でも見ぃひん?」
って・・・あんたいつの間に戻ってきてたのかよ。気配消すなよ。
「・・・クソ寒いし俺は遠慮しときます、てか少しは手伝ってくださいよ」
「ウチ?毛布持ってきてみんなに掛けたやんかー」
何プリプリしてんの、すげーあざとい。
てか全員ここで寝かせるつもりかよ。そりゃ一人ひとり寝室に運んでいくなんて御免被るが。
「まあ、それは言いっこなし。起きてる人間だけでプラネタリウム鑑賞しましょうか」
「ほら、比企谷さんも行きましょ。寒いならマフラー、貸すわよ?」
「おっおい西木野・・・」
だから勘違いしちゃうからやめれと何回も・・・。
それでも手を掴まれている以上、もう止められない。
窓をくぐり、冬の夜空へ駆け出す。
そこにあったのは、田舎特有の満天の星空。
「хорошо...プラネタリウムより綺麗ね・・・」
「わぁ・・・どこもかしこもお星さまだらけやね。ほな比企谷くん、ウチと写真撮ろ♪」
「カメラの光で夜景が台無しになるでしょうが」
「夜景モードに切り替えればなら大丈夫よ、ほら並んで。
会長も一枚目は私が撮るから、よかったら入れば?」
「いいのかしら?ならお願いするわ」
チッ・・・戸塚とツーショット撮った時はあんなにも嬉しかったのに。
よりによって魔王様とかい。おまけに小悪魔も。
ともあれ、青春という名のまっさらなキャンバスに、ようやく色が着いた瞬間だった。
【side:理事長】
「友達同士で合宿だなんて・・・何年ぶりかしら」
ホットミルクを飲みながら、感慨深げに呟く。
いくつになっても子供は子供。たまには無邪気な一面を見るのも悪くはないものだ。
・・・もっとも、音ノ木坂の現状を思えばそんな楽観的ではいられないのだが。
来週に入ってすぐ、教育委員会の担当者との会合がある。
そこで学校の現状を説明し、今後も運営を続行するか否かの判断がなされる。
もし将来性がないと向こうが判断すれば、廃校待ったなしだ。
かと言って、スクールアイドルで生徒を集める、そんな方針を理解してもらえるのか。
頭の固い委員の先生方には到底無理だろう。まずアイドルという時点で一笑に付され、或いは他所のマネしてどうすると頭ごなしにお叱りを受けるのがオチだろう。
でも、今の自分に選択肢はそう多く残されていない。
娘が今、友達と協力して夢を作り上げているのに。
それを母親である自分の無能で潰すことになったら、死んでも詫びきれない。
何としても、ここで踏ん張らなければ―――
・・・ピンポーン!
「夜分遅くに失礼しますー、郵便でーす」
―――暗闇にベルが鳴る。
それは、凶兆の知らせ。
ことりの母がその時受け取ったのは、フランスに住む親類からの、ことりの留学についての手紙であった。
他の方の小説に比べてえらい短いですが、合宿編は以上となります。
次回は、アニメ版でいう文化祭ライブ編。このssでは"クリスマスのアキバライブ"としていますが。
オリ展開って結構難しいよね(小並感)
ところでことり母の下の名前が「ひよこ」って、どこ情報?どこ情報よ?