ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
【side:ことり】
「さーて、今日は冬休み前最後の授業になる。
クリスマスにお正月、浮かれたくなるかもしれないが、お前らはもう高校2年だということをくれぐれも忘れないように。
宿題は勿論、先月の進路相談で決めた方向で今後も進めるのか、しっかり考えておけよ!」
(・・・進路、かぁ)
この時期になると、将来の選択を再び真剣に考えなくてはならなくなる。
南ことりも、まさに今、そんな状況に置かれていた。
進路が決まらないのも深刻だが、かといってこうもあっさりと決まってしまっていいのだろうか。
合宿から帰ってきてすぐ、母から渡された一通のエアメール。
差出人は、パリに住む母のいとこ。
自分を服飾学校の生徒として推薦した、是非来年から生徒として通ってほしい―――内容はこうだった。
母は、まずは自分で悩んで、よく考えなさいとだけ告げた。
確かに自分は、将来はデザイナーになりたいと思っている。だから学校もその方面に進学するつもりだった。
でも・・・なぜ、よりによってフランスなんだろうか。英語だって日常会話がほんの少しできる程度なのに。
いや、語学の問題ではない。
日本を出ること、それは即ち穂乃果たちと離ればなれになることを意味していた。少なくとも3、4年の間は。
ずっとみんなと一緒にいられるわけではない。それは分かっている。
進学、就職を経て、やがては別れなければならないのも。
(でも・・・その日がこんな早く来ちゃうなんて・・・)
怖い。そんなの、嫌だ。
何よりみんながμ'sとして一生懸命頑張っている時、自分一人が抜けてしまったら・・・!
誰かに相談しようにも、責められることを想像してしまう。
情けないとか根性がないとか、逆に向こうでやっていける訳ないとか。
穂乃果たちには、もっと言いだせそうにない。タイミングがあまりにも悪すぎるのだ。
なら。
ライブが、ライブさえ無事に終われば。
その時こそ、みんなに伝えるんだ・・・。
【side:穂乃果】
「あの、先生。比企谷くんは・・・」
「ん?ああ、体調不良で休みだそうだ、全く冬休み前から・・・。
園田、お前らであいつにプリントをもっていってやってやれ。南と・・・それに高坂も!
寝なかったのは許すがボーっとしろとも言ってないからな」
「・・・は、はひっ!」
・・・・。
あれ・・・?
今日って、こんなに寒かったっけ。教室、暖房入ってるよね?
ふとそんな違和感を覚える。
・・・もしかして、風邪?
頬を軽く叩いて、下らない可能性を振り払う。
大丈夫だ、そんなはずない。昨日は帰ってすぐお風呂に入って、温かいコンソメスープとパンを食べて寝たから。
絶対、だいじょうぶ。
(・・・でも、比企谷くんは・・・)
あの時の自分は、確かにおかしかった。冷静じゃなかった。
いや、もっと前からだ。
合宿が終わった次の日、学校に行った時。理事長であることりの母が、教育委員会の偉い人たちと話しているところを、偶然覗いてしまった。
―――学校公開日の訪問者数、前年とくらべても2割減、ですか。・・・・はぁ、お話になりませんよ。
―――スクールアイドル?あれは元々人気のある学校が始めたから人気が出たんじゃ?音ノ木坂じゃ無理でしょ。
―――ま、どうしてもと言うなら来年までは待ちましょうか。もし入学者が定員割れするようなことが繰り返されるなら、次はありませんから。
・・・話を聞いている間、頭が凍り付いていた。
最後の"次はない"という言葉で、ようやく我に返った。
そうだ、次はないんだ。このままじゃ、学校がなくなるんだ。
そのことをすっかり忘れていた。昔からバカだバカだと言われてきたけど、この時ほど自分がバカだって思ったことはなかった。
だからその日から、みんなとの練習とは別に自分でも練習をすることにした。少しでも体力をつけて、上手く踊れるようにするために。
たとえ雨が降ってたって、台風が来たって。
学校をなくさないためには、なんだって・・・!
―――休むのも仕事のうちって教わらなかったのか?
・・・でも、それはやっぱり間違ってたのかもしれない。
急ぎ過ぎて、周りが見えなくなっていた。
何より自分が変に頑張り過ぎて、みんなを心配させるようなことがあったら。
それこそライブにとっては悪影響しかないのに。そのこともすっかり忘れていた。
―――おい!いいか、真っ直ぐ家に帰れ!必ずだ!
・・・そして。
あれ程真摯に忠告してくれた彼に、暴言を吐いて、その場を逃げ去った。
やっぱり、自分は、どうしようもないバカなんだ。
「・・・ごめんね」
「?どうした、高坂。・・・具合でも悪いのか」
「ハッ?!ち、違いますっ!」
「何だ、大げさだな」
教室に、また笑いが起こる。
いつもならつられて自分も照れ笑いを返していた。でも今日は、そんなことできない。
謝っても、許してくれるか分からないけど。
ごめんね、みんな。
ごめんね、比企谷くん。
【side:海未】
放課後
「ことり、今日はお母さんと話すことがあるから・・・練習はちょっと出られないな」
「そうですか・・・」
・・・このところ、自分たち3人の関係がおかしい。
まず、ことりが自分と穂乃果を避けるようになった。
最初は単に用事で忙しいという言い分を真に受けていたが、流石にこう何日も続けば変に思わない筈がない。
何か自分たちに知られたくないことがるのか・・・いや、そうとしか考えられない。
「・・・それじゃ、みんなにはそう伝えておくねっ!」
「うん・・・ありがと、またね」
・・・そして、穂乃果も。
ニコニコと笑っているのは一見いつもと変わらない。
だが、今日はどこか無理して笑っているように見える。必死で疲れを誤魔化しているように。
(なのに・・・何故私は、二人に声一つかけることも・・・)
昔から大人たちに、良い子だとか年の割にしっかりしているとか褒められてきた。
それは違う。
自分は弱いのだ。いつも友人に助けてもらってばかりで、自分から助けの手を差し伸べたことはない。
今までは穂乃果とことり、彼女らの頑張りでどうにかなってきた。でも、今回はその二人が元気をなくしかけているというのに。
(・・・でも・・・私に一体どうしろというのでしょう・・・?)
真面目さぐらいしかとりえのない自分に、二人をどうやってサポートできる?
お説教臭いことしか言えずに、余計に気力を失わせるようなことになったら、それこそまずい。
何より、怖かった。
本当に二人が深刻な問題を抱えているとして、自分にそれが背負いきれるのか。
解決できなくて、二人から失望されないだろうか。
もし、そうなったら・・・。
今まで通り、友人でいることなんて、できない。
そんなことになったら、耐えられると思えない。
(・・・ごめんなさい・・・ことり、穂乃果)
自分は臆病だ。
だから、自分を誤魔化して、臭いものに蓋をして、何とか取り繕って、今日も一日を過ごす。
【side:希】
「・・・希?どうしたの、柄にもなくボーっとして」
「・・・・」
放課後、生徒会室で書類整理をしていた絵里と希。
絵里はふと、俯き加減な友人に向けて声を掛ける。しかし、返事はすぐに返ってこなかった。
何かあったら向こうから声を掛けてくるのに、珍しい日もあるものだ。
だが希の中では、ある一つの懸念があった。
クリスマスイブまで、ライブまで、あと4日。なのに、日増しに事態は悪くなっている。
言うまでもなく、穂乃果、ことり、海未のことだ。
μ's創設者たる三人の関係がこのところギクシャクしている。三人が三人とも、お互いに距離を取っている。
いや、壁を作っているようにも思える。それはかなりまずい兆候だ。
「・・・タロット占いの結果、なんやけど。
どうも最近、あかん方へと向かってる気がするんよ」
「・・・つまり?」
「3日前は戦車、一昨日は魔術師。そして昨日は審判やった。
・・・どれも全部、逆位置で出とる。エリチ、意味分かる?」
絵里はしばし考え込み―――顔色を変える。
「暴走、臆病・・・再起不能・・・ねえ、ちょっと」
「そういうことや。ウチら、このままライブに突き進んでええんやろか?
エリチも気づいとるよね、穂乃果ちゃんらの様子。あれじゃ絶対本番で力なんて発揮できんと思う」
「それはそうだけど・・・でも、高坂さんはやるつもりでいるわよ。
ライブ出場を取り下げたら、それこそ士気もガタ落ちになるんじゃないかしら」
「・・・・」
確かにそれも一理ある。だが、このままライブに臨めば、きっと・・・。
希は、今日の占いの結果については敢えて言わないことにした。
"塔"。逆位置。
意味するところは、"必要とされる破壊"。
窓の外の暗雲が、明るい未来を覆っていく。
・・・どす黒い。ヤベえよこりゃ。
作者ですら思う、やり過ぎたと。こんなにしちゃってどうやってμ's復活まで持っていくんだ?!
まあ、何とかなるさ(棒)