ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
シリアス回、そろそろ終わらせたい。でもテキトーに済ませる訳にも・・・。
例によって改変が酷いということは申し上げておきます。
【side:μ's】
「・・・ことり。今言ったことを、もう一度言ってくれませんか」
「・・・・」
一人の少女を、四人の少女たちが取り囲む。
言うまでもなく尋常ならざる光景だ。
沈黙は金とよく言われる。が、必ずしもすべての状況に当てはまる訳ではない。
この場合も―――南ことりの沈黙も、この場の空気が一層悪くなることにますます拍車をかけていた。
2分ほどして、テーブルに矢澤にこの拳が叩きつけられる。
狭いカラオケボックスの中に、怒声が響いた。
「どうしてっ・・・そんな大事なこと、にこたちが聞くまで黙ってたのよ!
アンタとμ'sの今後に関わることでしょっ!」
「にこっち、今はそない言うたらあかん。ことりちゃんはまだ留学行くしか言うてへんやろ?」
「それがなんなの?!パリに服飾の勉強に行くんでしょ。
そしたら、これからまたライブに出場しなきゃって時にどうやって参加するつもり?アンタだけ欠番なんて訳にいかないでしょうが!」
「矢澤さんっ!・・・お願いだから、落ち着きましょう。もっと早くにこの事を聞かなかった私たちにも、責任があるんだから・・・」
今にもことりに飛び掛からん勢いのにこを、絢瀬絵里が制止し、にこは渋々席に座る。
そこで、再び沈黙。先ほどの嫌な空気が蘇っただけだ。
誰もがこの雰囲気を変えたい、変えなければと思っている。
でも、できない。雰囲気が、空気が、皆から勇気を奪ってしまうから。
―――ピリリリ!
その時、誰かの携帯が鳴り出す。
ギョッとしつつも、同時にホッとしてもいるだろう。
ああ、この嫌な空気から解放されるかもしれない、と。
鳴ったのは、園田海未の携帯。
「・・・すみません、少し席を外します。終わったら戻ってきますので」
足早にカラオケボックスの一室から立ち去る。
海未はそんな自分を恥じる。それでも心の中ではどこか安堵感を覚えていた。
少しでもいい、あの重苦しい空気から逃げ出したい。
だが、神はそれを許さなかった。
何故なら、電話の相手が高坂穂乃果だったから。
【side:八幡】
表立って女に逆らうな。せいぜい面従腹背でいけ。
でないとこの世は凄まじく息苦しくなる。
親父の忠言で役立った数少ないものの一つがこれだ。
いじめられていた女子を庇って村八分になった自分。相手を高嶺の花と知っていながら告白して袋叩きにあった自分。
懐かしい、だがクソッタレな思い出だ。
だから俺は女子には基本、逆らわない。
相手が大人気スクールアイドルのセンターだとしても。こちらの意思を無視して喫茶店まで連行されたのだとしても。
・・・だから周囲のお客さんよ、犯罪者みたいに見ないでくれます?ひそひそ話も止めてくれます?パパラッチでも三流芸能ライターでもないんで、俺。
あと店も止めろよ、こちとら客だぞ客。
「周りのことは気にしないで結構よ。どうしてもって言うならあとで私からオーナーに言っておくけど」
「・・・大丈夫っす。つか店のオーナーに物言いできるってどんだけですか」
「曲がりなりにもアイドルなのよ、私。・・・うーん、やっぱりちょっと五月蠅いわね」
そこで綺羅ツバサは店員の方をチラッと見る。慌てて店員が「どうぞお静かに願います」と客に促し、騒めきは止んだ。
・・・流石はトップアイドル、格が違う。この程度の店など簡単に揺さぶりをかけられる訳か。
どこぞの大魔王を思い出させる。あの人クラスになると、ただ笑っていても何を要求しているか瞬時に判断することを求められるレベル。
さぞかし店員の胃にはよくないだろう。早めの転職をお勧めする。
「よし。じゃ、まずどっちから先に聞く?」
「なら、俺から聞かせてもらいましょうか。―――あんた方A-RISEが、出場を取りやめたことについて」
―――そう。
この理由を教えると言われなければ、極低い確率で振り切ってでもあの場を逃げ出そうとしたかもしれない。
あのライブの時、A-RISEはμ'sの前の順番だった。
それを彼女ら3人―――綺羅ツバサ、統堂英玲奈、優木あんじゅ―――は突如辞退を宣言。
結果μ'sの出番が繰り上がった。その後の展開は、言うに及ばず。
もし、A-RISEの面々が予定通り出場していたら。
何とか俺は高坂達の元へ駆けつけ、話もでき、最悪の事態は避けられていたかもしれない。
そんな後悔と、少々の目の前の人物に対する怨念を俺が抱いていなかったかと言うと嘘になる。
恥ずかしく浅ましいことではあるが。
「あんた方、ね・・・まあ、あんな風に連れ出したんだし無理もないか」
「分かってるんでしたら、早く話を進めましょうよ」
「ま、ま、落ち着いて。―――貴方、青春とか友情とかライバルって聞いて、どう思う?」
胡散臭え。
ゲロ以下の匂いがプンプンします。
まあ最近はここまで酷くはないが、自称リア充(笑)どもが軽い感じでそんな言葉を使っているのを見聞きすれば軽蔑せずにいられない。
本当の青春ってのはなあ、苦くて息苦しくて辛いんだよ。多数の人間がそれを引き受けてるから、一部の連中は平和を謳歌できるんだ。
綺羅ツバサも、どうやら俺の苦々しい思いを感じ取ったらしい。
・・・うん、まあ、こればっかりは顔に出てたと思うししゃーないわな。苦笑いで済ませてもらえるだけありがたいものだ。
「その顔だと、あり得ないとか下らないとか思ってるみたいね」
「・・・まあ、ご自由に想像してください」
ぼっちの卑しい僻み根性とでもな。
「貴方自身がどう思ってようと、それはそれで構わない。
でも、その下らないことを本気で信じてる人間も、世の中には存在するの。私たちみたいにね」
「と言いますと?」
「もしかしたら、知ってるかもしれないけれど。
私たちが"A-RISE"としてデビューしたのは、UTX学園に入ってからなの。それ以前は、ド素人の女子中学生3人が雁首揃えた無名のアイドル。
当時はスクールアイドルが一大ブームになる前だったし、無理もないわね」
聞いたことがある。
矢澤から教えられた、スクールアイドル専門のニュースサイトの特集やインタビュー記事。
当然ながらA-RISEの記事もあるのだが、その中に"下積み時代"の彼女たちの物語があったのだ。
「嫌味に聞こえるかもしれないけど、その時は本当に大変だった。
まず親も教師も猛反対するし、同級生からも白い目で見られる。活動費も全部自分たちでこっそりバイトしてどうにか貯めてた。
そんな辛い時でも―――たった一人、私たちに力を貸してくれた人がいた。
それに、いつか私たちもこうなりたいと思った、憧れのライバルも」
それも知っている。
当時彼女たちが通っていた中学の生徒会長。彼女らを支え、浴びせられる心なき批判や中傷に対し堂々と反論した。
そしてじわりじわりと人気を上げていき、スクールアイドルの礎を築いたといわれるグループ、"Starlights!"。
もっともメンバーの高校卒業で一年前に解散したそうだが。
「あの時は苦しかったけど、同時にそれを乗り越えるのがすごく楽しかった。
それに、こんな自分たちに手を貸してくれる人がいたことが嬉しかった。初めて本気で憧れた人ができたことも。
それがなかったら、"A-RISE"としてデビューするまでにとっくに心も折れてアイドルなんて諦めてたでしょうね」
要は、人は一人では生きていけない、と。
友情は美しい、ライバルは貴いものだ、と。
俺は必ずしも当てはまらないだろうと考えているが、彼女が本気で信じているなら止めることはできない。
思想の自由は最大限尊重されてしかるべきだ。
「・・・それが?今回の辞退とどう繋がると?」
問題はこれだ。
こっちはあんたの思い出話に付き合いたくてこの洒落た喫茶店にいるわけじゃないんだが。貴重な休息――主にプリキュア――の時間が台無しだ。
そのくらい察してるよな?トップアイドルでUTX学園の優等生の綺羅ツバサさんよ。
「・・・それが、辞退の理由よ。
親友もライバルも存在しないライブに出場、私たちはあっさり優勝だなんて、そんな味気のないライブ冗談じゃないわ。
確かにファンのみんなには悪いと思ってる。でもやるからにはベストな環境で、ベストのパフォーマンスを見せたかったの。
だから、μ'sが参加すると知った時は本当に嬉しかった。・・・なのに」
「ちょっと待ってください。おたくはあいつらと個人的に付き合いでも?」
「あるわよ。私の母と南さんのお母さんは古い付き合いで、南さんとも会って話す仲なの。
それに私も貴方たちのPVを見たのよ。新人でここまでハジけてるのなんて久しぶりってね」
その時、綺羅の目つきが一変する。
俺を見据え―――と言うより、睨みつけるように、表情も険しくなり。
そして静かに、俺を問い詰める。
「だから、余計に許せなかった。
南さんが海外留学のためにアイドル活動を続けるか迷って苦しんでいるのに、力になろうとしない、話も聞こうとしない貴方たちが」
・・・・。
隠し事ってのは、それだったのか。
「・・・案外ショック受けてないのね」
「多少はありますよ。ただ、向こうから言いだしづらいってのも分かります」
「だったら!なんで貴方、そんな風にぬぼーっとして斜に構えてるのよ!
μ'sのマネージャーなんでしょう?!メンバーが苦しんでるのを放置してどうするつもりなの!」
だからいつ俺が・・・と、心の中ですら愚痴るのが許されないほど、綺羅の剣幕は凄まじかった。
一時静まり返っていた客が再びこちらに目を向ける。そちらに気を払うことも、やはり許されないらしい。
「・・・貴方だけに言うのは不公平だから、他の人たちへは英玲奈とあんじゅに代わって言ってもらうことになってる。
上から目線の余計なお世話って思われるだけかもしれないけど。それでも、このまま南さんを一人で追い込ませるわけにはいかないわ。
皆で本人の苦しみを分かち合うべきよ」
「俺も、南には話をしなければとは思っていたんですがね」
疲れからか、本人も認めるように上から目線の物言いに少々カチンときたのか、つい言ってしまう。
綺羅は一瞬ポカンとして・・・そして、鼻で笑い飛ばすかのように、言った。
「・・・今さら?ライブが終わってから?
失敗して、高坂さんも倒れて、μ'sが危機的な状態になってから?」
「遅すぎるのは分かってますよ」
「分かってた、思ってた、何から何まで言い訳がましい男ね。
・・・"分かってる"だろうから言ってあげるけど、貴方、マネージャー落第ね。
そのしょぼくれた面らしく、教室の隅っこで一人でぼけーっと過ごしてれば?」
「・・・・」
「貴方が今まで放置してた理由、私には分かるわ。
どうせ目が腐っててキモがられてるから、相手にされないだろうから、南さんには他にも友達がいるから。
だから自分が動かなくても問題ない。概ね、そんなところじゃないの?
そんな捻くれた情けない考えしてるから、みんなからキモがられるのよ」
「・・・ッ」
―――手前に俺の何が分かる。軽口も大概にしろ。
そんな感情的な反論ぐらいしか、今の俺には返せそうにない。
綺羅の指摘は、間違っていないのだから。
南だけでなく高坂への対応にも、当てはまっているのだから。
感情だけで動く人間をバカと呼ぶ。
そこまで堕ちきるわけにはいかなかった。
「ぐうの音も出ない?・・・ますますもって、マネージャー失格。
顔洗って出直してきなさい」
「・・・ご忠告、痛み入ります」
「・・・フン、そう」
そこでお互い支払いを済ませ、別れる。
後に残ったのは、失望と後悔。そして多少の不快感。
それは、昔の俺が味わったことと何ら変わりなかった。
終わりです。
ツバサが嫌味な感じのキャラだったり、八幡が何も役に立ってないとか色々駄目なところはありますが、作者に悪意はないということは分かっていただければ幸いです。
今後の予定としては、一期の内容が終わったら二期を飛ばして劇場版に入り、それを終えて本編完結・・・という風なのを考えています。あとは各μ'sメンバーの外伝とか。
来月劇場版がDVD化されますしね。
・・・いや、実の所まだ二期全部見てないんだよなぁ、ってのが本当なんですが。
夏合宿は外伝にしちゃう?
・・・それ以前に、本編を進めなきゃどうしようもないんだけれども。
余談ですが伊藤計劃の「ハーモニー」、見てきました。
八幡があの世界にいたら、どう思うんだろうなぁ。