ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。 作:スパルヴィエロ大公
本年もよろしくお願いします。
今回は二期一話の「もう一度ラブライブ!」ですが・・・。
最後だけ、微シリアス成分なので、ご注意ください。
第二十九話 新たな日々は、波乱とともに幕を開ける。
ゴールデンウィーク。5月の大型連休。
この時期の最もベストな過ごし方とはいったい何だろうか。
それはずばり、家でのんびりと過ごすに限る。
行楽地もどこもかしこも人で埋まる、ホテルやツアー会社は軒並み高めの料金を取ってくる・・・普通に考えたら外出、どころか旅行なんて狂気の沙汰だ。
まあ金に糸目を付けぬ、人のたくさんいるとこがいいんだと言うなら好きにすればいいが、そうでないなら引きこもる方が賢明である。
例え両親や妹に、いい若い者がグータラしてとか予定はないのかとかと口うるさく説教されたとしても。
外の喧騒に巻き込まれるよりかはずっとマシだと言える。・・・大体親父、アンタだってこの時期接待ゴルフくらいでしか外行かないだろうが。
で、今年のゴールデンウィークもそんな感じで有意義に過ごすはず、だった。
もし俺が、ぼっち"だった"としたならば。
「・・・ふぅ」
そんな俺の目の前に広がっているのは、海と砂浜。
これが一人なら、マッカンを片手に人生とは何かと思いを馳せているところだろうが―――
「―――寒いっ!」
・・・ほおら、早速
「ううう・・・!やっぱちょっと寒いよー比企谷くぅぅぅん!!」
「当たり前だそらをみろおひさまがどこにある」
途中から声が震える。
今日は生憎の曇り空。いくら5月になって大分暖かくなったといっても、そんな日に海辺で水着姿でいればどうなるか。
答えは一つ・・・寒い。うちかえりたい。
女子の水着姿見れてよかったじゃんって?・・・こっちだって下は水着、上は裸の上にジャンパーでとてもじゃないが堪能してるどころじゃねえ。
大体何で俺まで同じ格好をしなければならん。
・・・もちろん、今日は海水浴に来て水辺できゃっきゃうふふなリア充イベントを満喫しに来たのではなく。
立派なアイドル活動、PV撮影である。よりによって我が地元千葉の、九十九里浜にて。
あ~せめてハワイとかバリとか行きたかったなぁ~。金ない?そっすか。
「は、早く練習終わらせないと、みんな風邪引いちゃうね~・・・」
「そっそれより、本当に私たちと比企谷くん以外に誰もいないのですよね!?
こんな姿を知らない誰かに見られたら、もう私はっ・・・!もう、生きていけません・・・っ・・・!」
おい園田、くっ殺な女騎士みたいだぞお前。
正確には後から撮影係のヒデコさんら三人衆、そしてうちの小町が合流することになっているが・・・同じ女なら大丈夫だろ。
因みに小町曰く「お義姉さんたちのことはしっかり守るからねっ、小町的にポイント高ーい!」だそうだ。いや、どうやってだよ。
まあ可愛い妹の言うことだと信じる他ない。あと断じて俺はシスコンではない、これは家族愛だ。
「ね、ねえ、ここでШашлык(シャシリク)をやるのってどうかしら・・・?ほら、バーベキューなら焚火代わりにもなるし・・・」
「・・・そんなのダメに決まってるでしょ。警察来るわよ」
でも実際後で怒られるとかどうでもいいから火に当たりたい気分だわ。
腹も減ってきたし。寒いと腹減るからな・・・。
「うぅ・・・恥ずかしいよ・・・誰か助けてぇ~!」
「み、みんなで向こうの砂浜までマラソンするにゃ!そうしたらきっと走り終わるころにはあったかくなるよ!」
おい小泉やめろ、俺が通報されちまう。
走ればあったか?いやいやいや、汗びっしょりで結局後から余計寒くなるんですがそれは。つか激しい運動したくない。
上着なんて薄いカーディガンぐらいしかないし。今日は西木野の別荘戻ろうぜ、な?
「ああもう!みんな気合足りないわね、ちょっと肌寒いくらいじゃないの!
こんなの身体に燃えたぎるアイドル魂があればどうってこと・・・クシュンっ!!」
「にこっち?無理せんと、カイロ使った方がええで」
その通り、気合いじゃ寒さは防げぬ・・・まだそんなの持ってたのか副会長。
まあ確かに恥を気にして風邪ひいたら元も子もないのだが。水着の上にカイロってシュールすぎないか?
「ひ、比企谷くん・・・今だけ、今だけでいいから穂乃果に体を貸してぇ・・・」
「・・・おいその表現はなんだ」
「二人で抱き合ってれば、すぐ体もポカポカだよ!ね、だからお願い・・・!」
・・・・。
そうかそうか。
そういえば、冬におしくらまんじゅうやるのも体を温めるためだよな。水着姿のうら若き男と乙女がー、だなんて言ってる場合ではないかもしれない。
今すぐ寒さから解放されたいなら、あったまりたいのなら。
だが、断る。
「あ!比企谷くん逃げるな~!」
すぐさまその場を逃げる、走る。俺の脚はカモシカには劣るが、このデスレース、断じて負けんぞ。
捕まったら一生ものの黒歴史になる。
「ふっふふふ、穂乃果の俊足には比企谷くんがいくら男の子だって逃げられないぞ~~!!
・・・へっくしょん!ってここ窪地になってうわああああ?!!」
「ほっ穂乃果!?ああもう、はしゃぎすぎるからそんなことになるんです!」
フッ、勝ったな。
うぬでは俺には追いつけないよ・・・
「・・・ひっっくしょい!」
・・・・。
ダメだこりゃ。やっぱり、家にいればよかった・・・。
一週間前
4月。
新学年となり、ついに俺の高校生活も残り1年を切った。
そのことに思いを馳せていればあっという間に月末だ。桜も既に花が散り緑の葉で覆われている。
葉が散って寒々しい姿を晒し、その姿を見て哀愁に浸る日もきっとそう遠くはないだろう。
「よぉし!今週を乗り切れば、ついにゴールデンウィークだよっ!」
・・・とまぁ、高坂を見る限りそんな先のことは考えてなさそうだ。もっとも俺だって本音は似たようなものだが。
受験だなんだとクソ忙しい冬のことを考えるよりかは来週の長期休暇のことを考えていたい。意識低い系?そんなの知るか。
「休みになったら、そうだ、ディスティニーランド行こうよ!
ことりちゃんも海未ちゃんも、μ'sの他のみんなも一緒に!もちろん比企谷くんもいっしょだよっ!」
「・・・あー、悪いんだが俺ちょっと用事あって」
「え!?もう比企谷くん予定決まっちゃってるの?!」
「ああ。朝起きてプリキュアを見てプリキュアを見てプリキュアを見て寝る」
「それ、ダラダラしてるだけだよね・・・」
ぐっ・・・南の苦笑が痛い。
だが別段不健全とも言えないんじゃないのか?社会人になって一人暮らしを始めたらきっとみんなこんなもんだろう。
あとプリキュアは神聖な朝アニメ、略して神アニだ。下手なラノベ原作異能バトルものより断然面白いまである。
だが今年は―――おそらくそんな優雅には過ごせないだろう、残念ながら。
「穂乃果・・・遊んでいる暇はありませんよ。
勉強もそうですが、私たちにはスクールアイドルとしての活動もあるんですから。
この前、にこも言っていたでしょう?」
・・・ああ、全くだ。
実際園田の言う通り、そこまで呑気にしていられるわけではない。
今月の頭の新入生歓迎ライブの評判はかなりよかったといっていい。が、それでもμ'sの人気がずば抜けて上がった訳ではないのだ。
7月に行われる、ラブライブ全国大会予選。その切符を掴むためには一にも二にも知名度が欠かせない。
だから夏まで呑気に過ごしていたら、あっという間に足をすくわれる。
加えてこの前矢澤が調べた情報では、その夏の予選では3曲新曲を用意する必要があるらしいとのこと。
2、3ヵ月、その期間内で曲を作り、振り付けも完成させる。案外残り時間は少ない。
「確か、新曲は夏を題材にした曲がベストって言ってたな」
「全部が全部、無理に夏うたのようにする必要はないかもしれませんが。
一曲は別ジャンル・・・例えばそれぞれのグループが得意だったり好きなものにする、という工夫もできるかと思います」
「μ'sの、得意で、好きな曲・・・今考えても、中々出てこないよねぇ」
確かに、明確にこう、とは言い切れない。曲を作って歌って踊るときは、全員楽しく熱くなることが主だったと思う。
その辺は議論して方向性を決めていくしかないだろう。
「うぅ~、穂乃果もう一度ディスティニーランド行きたかったよぉ・・・」
・・・まだ引きずってたのかお前。
ディスティニーくらい三連休でも行けるだろうが。いい加減そこから離れろ。
「とにかく、もう放課後ですし今からみんなでどのように曲作りを進めていくか、しっかり考えましょう。
ほら、穂乃果も―――」
「あーーーー!穂乃果、いいこと思いついちゃった!」
は。
はあ?
何か嫌な予感がする、ということは分かる。そしてどうも、それが現実になりそうだというのも。
・・・やはり無能な働き者は銃殺するしかないのか。いや働き者って言うのも変か?
「ほ、穂乃果ちゃん?いいことって」
「詳しくは部室で!さぁ、レッツゴーだよ!」
「・・・全く、もう」
園田よ、心中お察しします。
「それで・・・新曲のPVを作るときは、千葉の九十九里浜で、ってこと?」
「そう!新曲は夏がテーマなんだよね?それならやっぱり海に行くべきだよ。
これならちゃんとラブライブへの準備もできるし、ついでに帰りにみんなでディスティニーに遊びに行ける!
まさに一石二鳥だよ!」
困惑する絢瀬会長の問いに、えへんと胸を張って答える高坂。
・・・いや、あの、君、ちょっと待ちなさい。
あと新曲のこと真面目に考えてるように聞こえるが、それ人の受け売りだろうが。
「ちょっとちょっとちょっと!そもそも曲自体できてないのにPVなんて作れる訳ないでしょ!?」
矢澤が珍しく正論をかましてくる。だが当然だ。
「大丈夫っ!また合宿してその間で曲を作れば!」
「と、泊まる場所はどこに・・・まさかっ、野宿!?
みんなでサバイバルツアーですかっ!?い、今から飯盒とお米を調達しないと・・・」
「・・・多分、また真姫ちゃんのお世話になるんじゃないかにゃー」
やっぱしそれか。
なんか金持ちにたかる蟻みたいで恥ずかしい気もしないではないが・・・。
つうかそんな都合よく何軒も別荘持ってんのか西木野ん家は?
「・・・一応、その九十九里の方にも別荘はあるけど。
ただ古いしあんまり綺麗じゃないわ、群馬のとは違って。それでもいいの?」
あ、あるんすか。正直所有してるってだけでやたらヒエラルキー格差をひしひしと感じる。
古いっていってもトトロのおばけやしきほどじゃないだろうし。あれはあれでまた住んでみたくなるんだがな。
「うんっ!食べて寝られればそれでオッケーだよ!」
「貴・方・はっ、とにかく帰りにディスティニーランドに寄りたいだけでしょうッ!!」
「はうっ?!うっ海未ちゅぁ~ん、穂乃果の名に免じてここは許してよぉ~・・・」
お前それ、絶対何度も使い過ぎて信用失ってるだろ。謝るだけなら猫と杓子でもできる、これ真理。
あとルパンみたくちゅぁ~んとか言うな。
「まあ、泳ぐんじゃなくて撮影だけなら、この季節でもなんとかなるでしょうけど・・・。
希?貴方はどう思う?」
「―――エリチ、それ違う」
「え・・・」
ふと、東條副会長の声で皆、我に返る。
「ウチのことはええ。
何よりまず、比企谷くんの意見を聞いてみるべきやない?
千葉出身者、そして何より、μ'sのマネージャーとして。彼を無視するんは、許されんことやと思うよ」
・・・・。
そうだ、俺がそもそも音ノ木坂に来た理由、それは。
自分がやらかした、不始末のため。それを拭えずに放棄し、逃げてきた。
―――誰もお前を本気で探してなかったってことだろ。
あの時は、自分がどうなってもいいと覚悟していたはずだった。
だが当事者が逃げてしまい、やがて学校から俺に転校の勧めが来ると、それを受け入れた。
これが最善だと言い聞かせて。
それが本当は逃げなのだと、知っているにもかかわらず。
「・・・どや?比企谷くん。キミの考え、ウチらに聞かせてくれへん?」
もしかして、副会長はその事情を知っていたのだろうか。
生徒会役員なら転校生の人物調査とかいう名目で、聞き出せたのかもしれない。
その上で、俺を敢えて気遣ってくれているのだろうか。
他の皆も俺を見ている。その色に、賛成を強要するような集団主義は一切感じられなかった。
この合宿を提案した、当の高坂にさえも。
そうか、そこまで俺を気遣ってくれているのか。
「―――俺は」
ならば、それに応えるために。
「それが曲作りのために、μ'sのためになるなら。合宿をやるべきだと思うし、俺もできる限り協力する」
もう、逃げは許されない。逃げたりはしない。
終わりです。
いつになるか分かりませんが、次話について。
もちろん、二期の合宿編(原作と時間軸がずれてはいますが)が主なのですが、
「過去を切り捨てるのでなく受け入れること、乗り越えること、和解すること」
これが、八幡にとってのテーマになってきます。
今回と同じように、後半部分で取り扱うつもりです。
なお、「総武高生と鉢合わせして八幡がボコられる」とか、そういう意味でのトンデモなシリアスに進めるつもりはありません。
活動報告でも申し上げた通り、「雪ノ下ら奉仕部メンバーとの再会」も、この本編では取り扱いません。これだけはお約束します。