ぼっちと九人の女神たちの青春に、明日はあるか。   作:スパルヴィエロ大公

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やだ・・・にこの扱い・・・酷過ぎ・・・?
と思った方、もう少しご辛抱ください。ファーストライブの下りさえ終われば・・・ッ・・・!


第三話 音楽で壊れる絆も、音楽で生まれる絆もある。

朝。

クラスの皆がわいわいとお喋りに花を咲かせる中、にこはただ一人席に座っている。

 

「・・・はぁ」

 

"sakura five!"が、LoveLive!一回戦で敗退したとき。

クラスメートでもあるメンバーがあっさりとアイドルへの情熱を失い、次から次へと抜けていったとき。

 

その時点で、彼女にクラスでの居場所はなくなったのだ。

 

でも、今はそれでいいと思う。

もう慣れ合うだけの友達付き合いはうんざり。臥薪嘗胆、切磋琢磨し、高め合わなくては、アイドルとしてやっていけない。

それすらも分かっていないで安直にアイドルになろうとしたかつての友人たちには、ただ失望するのみだ。

 

何より、家に帰れば可愛い妹と弟が待っている。自分は一人じゃない。

 

だから、にこは平気。そう思っていた。

今朝、家を出るときまでは。

 

「何なのよ、このチラシ・・・スクールアイドルやりたがるヤツが、まだいたなんて・・・」

 

その手に握られているのは、先ほど昇降口で隣のクラスの女子が配っていた"μ'sメンバー&ファン募集!"のチラシ。

 

古傷に塩を塗られるときの気持ちを、にこは存分に味わっていた。

 

 

「昼休み返上でやれってか・・・なーにが他のクラスに配りに行くからよろしくねだっつの」

 

つい最近も思ったことだが、どんどん奴隷への道を進んで歩んでいる気がする。

最後にはあいつらにぶたれようが何されようが、喜んでワンと鳴くんじゃなかろうか。そんな忠犬ポチ公は御免だ。

"地獄への道は善意で敷き詰められている"、まさに古人の言うことは正しかった。そして、"覆水盆に返らず"ってこともな。

 

それはさておき、俺は高坂から頼まれ学校中の掲示板にポスターを貼っている。

ついさっき食堂で一仕事終えたところ。女子たちが楽しく飯を食っている中、空腹をこらえ一心にポスターを貼る男の姿は実にみじめだったろう。

ま、もともと俺の存在自体がみじめなんだけどね☆・・・あとで高坂には穂むらで菓子奢らせよう、そうしよう。

 

と、音楽室の前を通りかかった時、またピアノの伴奏が聞こえた。

 

「・・・メンデルスゾーンの『結婚行進曲』か」

 

例によって親父が結婚式で使った曲だと自慢しやがった、曰くつきの曲だ。

ホントにあの親父、息子に何度惨めな思いをさせる気だ。精神的虐待で訴えたら有罪じゃね?

冗談だけど。路頭に迷っちゃうからしないけど。

 

ま、ともあれ空腹を紛らわし疲れを癒すスパイスぐらいにはなる。

壁にポスター貼る振りでもして聴いていくか。

 

 

「お客さん?聴きたいなら入ってきていいわよ」

 

 

・・・ん?もしかして、俺に言ってる?

いや、気のせいだな。そもそも幻聴だろ、うん。

 

すると演奏が止み、音楽室のドアが開く。

中から出てきたのは、赤毛の少女。楽譜を抱え、真っ直ぐに俺の方を見ている。

 

「今聴いてたの、貴方でしょ」

 

「あ、ああ・・・悪い、邪魔したな」

 

「邪魔?とんでもない、むしろ大歓迎よ。入って?」

 

・・・え。

何か俺、あんたの興味引くことした?ただぼーっと聴いてただけなんだが。

恋の予感?いいえ、それは死亡フラグです。

 

「・・・どうしたの?ぬぼーっとして」

 

「あ、いえ、何でもないです」

 

何で急に敬語なのよ、と呆れつつ、彼女は俺を中に案内した。

 

 

素晴らしい曲を聴き、感動したとき。その時は素直に一言、こう言えばいい。

 

「完璧だな」

 

「小学生の時通ってたピアノの先生にも、同じこと言われたわ。まさに早熟の天才、メンデルスゾーンそのものですって」

 

いくらなんでも褒めすぎよね、と西木野真姫は笑う。

そう言えばメンデルスゾーンは、一度見た楽譜を完璧に覚えるほどの能力を持っていたという。小学生で今の伴奏ができるレベルならあながち間違いでもないだろう。

 

「私、この曲が好き―――というより、メンデルスゾーンの曲が好きなの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。知ってる?メンデルスゾーンってどんな人か」

 

「ドイツの作曲家・・・だよな。すまんがそれ以上は分からん」

 

実際結婚行進曲以外の曲はさっぱりだしな。そもそもクラシックそのものに造詣がない。

加えてリア充をdisりながら、学園生活を楽しむ内容のアニソンを好む奴だし、俺。音楽の神様からすりゃ呪い殺されてもおかしくない。

 

「・・・彼はね。ユダヤ人の家庭に生まれたの」

 

「ユダヤ?」

 

「ええ。そんな出自だからすごく差別を受けて、本人もキリスト教に改宗しないといけなかった。

でも彼は、洗礼を受けたときに貰った姓を自分からは使いたがらなかった。自分がユダヤ人だってことを屈辱とせず、誇りに思っていたの。

そこが、信念の人なんだって思ったわけ」

 

はあ。

ヨーロッパ人が不寛容で意地悪過ぎてメンデルスゾーンカワイソス、としか思えない俺はきっと幼稚なんだろうな。

加えて、ひねくれ者でもあるが。

 

「ねえ、今私が言ったことって変だと思う?」

 

「いや、全く。例えば歴史上の人物を好きになって、そこから歴史を好きになったって、変だなんて思わないだろ」

 

「・・・ふふ、ありがと」

 

西木野は静かに笑う。

その笑顔は、木漏れ日の差し込む音楽室と相まって、とても絵になる光景だった。

なるほど、こいつは生まれついての芸術家気質なのか。

 

「そろそろお昼休み終わるから、帰るわね。・・・あ、それと」

 

「何か?」

 

「今貴方が持ってる、そのチラシ。今朝も二年の人が配ってたけど、貴方も何かしら協力してるんでしょ。

誰か曲を作れる人、いるの?」

 

・・・いません、ハイ。

高坂を再び呪いそうになる。暴走特急は映画の中だけにしていただきたいんだがな、ホントに。

 

「・・・呆れた、作曲もできないのにアイドルやろうとしてたの?」

 

「面目ない、ってかそもそも高坂が何も考えてないのがな・・・」

 

「もういいわ・・・じゃ、その高坂さんに歌詞ができたら私の所に持ってくるように伝えて」

 

「・・・作曲、できるのか?」

 

「中学の頃は、自分で曲作って歌って、動画サイトに投稿したりしてたから。それなりに自信はある」

 

神よ・・・!

今まで無神論を通してきた罪深い我を許したまえ・・・!此の身を貴方に捧げる者也。

・・・いかんちょっと材木座っぽいぞ。要は捨てる神あればなんとやらなのである。

 

「すまん。恩に着る」

 

「できるだけ、急いでね。あとは、あの人たちと頑張って」

 

「ああ」

 

愛してるぜ、の台詞はどうにか呑み込んだ。だってそれじゃ俺変態じゃん。

 

久々に、人と別れるときに清々しい気持ちになった。

 

 

「もー!なんでその子ついでに勧誘してくれないかなー!」

 

「・・・あの、走りながら怒るのは止めてもらえますかね」

 

ただでさえ限界近いんで。もうホントバテそうなんで。

マラソン大会なんてびりっけつになって笑われるためのものだったしな・・・蘇る俺のトラウマ。

 

放課後、配るチラシがなくなったのでアイドルとしての基礎トレーニングを始めることにしたらしい。始めは柔軟体操、続いて神田大明神の階段をダッシュで昇り降り。

それがなんで俺も付き合わされてんだよ・・・。言っとくけど俺、ステージで踊ったり歌う訳じゃないからね?

 

「比企谷くん、もしお辛いようでしたら、その・・・休憩されては」

 

「・・・あと3往復だろ?流石にそれくらいは何とかなる」

 

「ふふ、でも比企谷くんのお蔭で作曲の問題はなくなったし・・・あ・と・は、海未ちゃんが歌詞を考えるだけだね♪」

 

「や、止めてくださいことり・・・!プ、プレッシャーでお腹が・・・」

 

「単に走り過ぎただけだろ、それ」

 

ともあれ、園田が歌詞を書くと聞かされた時はびっくら仰天した。

しかもそれが過去の黒歴史ノートの件をちらつかされて脅された末にだとは・・・同情するぜ、園田さんよ。

あとそういう類のものは古紙回収に紛れて捨てれば万事解決なのだ。覚えておくといい。

 

「本当に無理なら、少しは手伝うぞ?それに西木野に頼る手もある」

 

「いえ・・・ここまでして頂いたのに、これ以上甘えるわけにはいきませんから」

 

真顔で言い切られる。

自信はなくとも、芯はある。そう言いたげに。

なら、任せても大丈夫だろう。

 

「よっし!じゃあ一旦練習終わり!ほむまん食べよっ!」

 

「・・・走る前も食っただろ」「動いた後すぐ食べてどーするんです」

 

「うんっ♪」

 

ことりさん・・・あンた、甘すぎんよ。

 

 

「エリチ、見とる?」

 

「・・・ねえ、なんで私、こんなスパイの真似事やってるのかしら」

 

電柱の陰から、3人・・・とあと1人を見つめる人影2つ。

絵里と希。希の方はなぜか巫女服だったが。

 

「やっぱりあの子ら、本気なんやね。アイドルの基礎はまず体力やもんなぁ」

 

「・・・それで本当に、学校公開の時にライブを依頼するつもりなの?まだ彼女たち、自分たちの歌もできてないのよ」

 

「これから作るんやろ。あと1ヶ月あるんよ?そんな目くじら立てんと、慌てずどっしり構えとき、会長さん?」

 

「そんな楽観的な・・・それに、彼女のときのことを考えたら」

 

「・・・エリチ。にこっちの話はなしや。彼女は彼女、μ'sはμ's、違う?」

 

ここでも絵里は口をつぐまざるを得なかった。

飄々としているように見えて、希は時折ここまで真剣な表情を見せるときがある。その時はどうしても強く出ることができない。

 

「でも・・・!」

 

「―――にこっちの時は、にこっちと他のメンバーとの絆がうまく築けてへんかった。だからあの子がどんだけ頑張ったって、遅かれ早かれ崩壊してたと思うで。

でも、あの4人はそうやない。うちのカードは、"穏やか且つ温かな連帯"が4人を結んでると告げとる」

 

「・・・また、タロット占いの話?」

 

ため息をつきながらも、絵里は4人から目を離すことはない。

静かに、静かに見守る。聖母マリアの如く。

 

 

 




真姫ちゃんちょろいんかわいいな!
・・・短歌になってねーよ。まあ八幡への印象は悪くないとは言えますが。
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