やあ、ジェイルだ。
フェイト君がようやく見つかったその日の夜、いよいよアリシア君の治療の日。私とプレシアは役目は八雲が行うアリシア君の治療の最中の様々なアクシデントに対応するため。
外科手術ではないから、普通に大和やフェイト君も同じ部屋にいるのだが。
そして、部屋の中心ですごい空気を出している八雲。私が今回治療に使う装置を試験した際に、扱うのにはかなりの集中力がいると感じた。魔力保有量の多さも必要になってくることも考えると、この装置は使いこなせる人間が少なすぎるから欠陥品と言っても良い。八雲という逸材がいるからこそ、今回の治療が出来るという事だ。
「八雲、始めていいかい?」
「いつでも良いよ」
八雲の返事を聞いて私は装置の電源を入れる。
ここからが長い。以前私が行った時は、想定されるアリシア君の魔力量の半分行くか行かないかくらいでかかった時間がおおよそ25分。という事は今回の治療で予測される時間は一時間位は掛かるだろう。八雲はそこまで集中力を持たせないといけない。
分けて出来れば良いのだが、この治療中に不測の事態があるかもしれないし、一回目と二回目の間にアリシアの体に異変が起こるかもしれないので八雲は一発で終わらせると言い切った。私達はそれを精一杯サポートするしかできない。
治療を初めて30分位立った時、私の体にいきなり軽い目眩と吐き気が襲い掛かってきた。横目で傍にいるプレシアを見ると彼女の顔色もあまり悪くない。
「ふむ、何か起こっているようだね」
「ええ、少し調べてみるわ。心当たりがないわけではないし」
「大和、フェイト君、君たちの体調はどうだい?」
「そういえばさっきから俺も少し調子が悪いんだよなあ」
「私も少しだけ」
見ていた二人にも私達と同じ症状が出ているらしい。
「やっぱり! この辺の空気中の魔力量が増えた事から起こった魔力中毒よ!」
魔力中毒は空気中の魔力濃度が増える事で起こるもので、吐き気やめまい、頭痛などが主な症状。特に子供がなりやすい。近くにいるが大人の私達と、少し離れているが子供の二人の症状の重さが近いのはそのため。プレシアの手元のモニターに表示されている空気中の魔力濃度は八雲を中心に濃くなっている。
多分、アリシアの細胞内に溜まった魔力を体外に出した弊害だろう。このままだと、こっちも倒れてしまう可能性がある。
「八雲君、体は大丈夫なの?」
「僕は……大丈夫です」
これは嘘だ。誰が見てもわかる位顔色は悪いし、脂汗も凄い。
「そんな訳ないでしょ! 魔力濃度は貴方を中心にしているのよ!」
「何とか、しますから」
それだけ言って八雲は治療を続ける。
少し経つと、気持ち楽になった。八雲が何かしたと思うんだけど、何をしたんだろう。
集中している八雲の顔を見てみるが、八雲の顔色は変わっていない。プレシアの手元にあるモニターに映し出されているこの部屋の魔力濃度は八雲の辺りのみ濃いだけになっている。
「八雲、ここで一旦止めるか? 幸い装置に異常はないから、体調が回復してからでも問題は無いと思うが」
私は八雲の体の事を考えて止める事を提案したけど、八雲は首を横に振る。明確な意思表示だが喋る事すら億劫な
様だ
「まったく……その頑固さは誰に似たんだろうね?」
「ジェイル!」
「大丈夫だよ。本当に限界なら有無を言わさず止めているさ。八雲、後30パーセントほどだ」
私のその言葉を聞いた八雲は一つ頷く。
コツを掴んだのか、ペースも上がっている。見る見るうちに正常値に近づいていく。
「3……2……1……終了だ」
私の終了の言葉を聞いた兄さんはその場でうずくまり、何かを吐き出した。カラン、と音を立てて落ちたそれは明るい水色の結晶体。結構な大きさだ。
「兄貴、あれ何?」
「アリシアの、細胞内の、魔力を、圧縮して、固めた、ものだよ」
あんな大きさのものを口に入れてずっといた八雲の呼吸は荒く、答えも途切れ途切れだった。
「魔力を圧縮して固めるなんて、専用の機械が必要なんだけど……」
呆れているプレシア。魔力を圧縮して結晶体にするのは魔法が使われている世界ではかなりポピュラーで、自分の魔力を結晶にしてそれをアクセサリーにする人も居る。
「兄貴の事だからやってみたら出来たとかじゃねえの?」
「それ、ありそう」
八雲は魔法に関してかなり感覚派だから、理論立ててというより、こんな感じかなとやってみて成功してしまう。中には変わった物も多く、それがミッド式との大きな違いを見せる。
「まあ、そんな感じ。疲れたし、寝るよ」
そう言って八雲はふらつきながらも自分の足で部屋に戻っていった。……我が息子ながら凄いと言わざる負えない。あの濃度の魔力空間にいたら、普通は大人でも意識を失っているか、そうでなくてもすぐに立ち上がる事なんてできない。
魔力に対する耐性の高さも去る事ながら、一度決めた事をやり通す強さが八雲らしさなのだと私は思う。
八雲が休みに行ってから少ししてアリシアが目を覚ました。
これで、亡き友の願いも叶えられて、私も一つ肩の荷が下りた。
次は今関わっているジュエルシードの一件を本腰入れて終わらせに行こうか。妻や息子達との思い出の詰まったこの町を守るために。
次回はジュエルシード事件最終戦です。