よければ読んでやってください。
『…逢えるかな?あたしたち』
『…逢えるよ。言ったろ?絶対に俺が見つけるって』
『そうだったな…じゃああたしも見つけやすいように頑張るよ』
『どう頑張るんだよそんなの』
『歌うしかないだろ?大声で歌う。どんなに遠くに蒼が居てもそこまで届くように歌う…だから、ちゃんと見つけてくれよ…?』
『大丈夫、見つけるから…――が歌ってくれるなら、俺は絶対に迎えに行くから…』
『なあ、蒼…』
『なんだ…?』
『好き…』
『俺もだよ…』
『ずっと、待ってるから…』
『ああ、絶対に迎えに行く…』
『『また逢おう』』
俺はゆっくりと目を覚ます。
「またこの夢か……」
まださっき見ていた夢に意識が引きずられているような気がして、頭を何度か振る。
俺には物心ついた時からよく見る夢がある。
全く記憶にないようなバカデカイ学校にいて、そこで恋人までいる。
顔も名前も分からないけど、その娘のことがすごく好きで、愛おしくて、離れがたい。
けど何故か離れなければいけなくなる。
そして離れる直前になると、いつも目が覚める。
そんな夢。
目を覚ましてしばらくは彼女のことが頭から離れなくなる。
夢の中の俺の気持ちがそのまま残っているみたいな、そんな感覚だ。
「相変わらず変な夢だ…」
俺にはもちろんそんな記憶はない。
けど、何故かこの夢を見たらいつも鮮明に覚えている。他の夢なら見ても薄らぼんやりとしか覚えてないのに。
「お前は誰なんだよ…?」
なんて訊いてみてももちろん答えは返ってこない。
いかん。こんな夢にいつまでも引きずられてたまるか。
そう思い、起き上がってベッドから離れる。
「はぁ…ていうかまだこんな時間か」
ふと時計を見てみればまだ時刻は6時前後。
2度寝したいとこだが、この夢を見た後はとても寝る気にはなれない。
まあいいか。アイツらには悪いけど、先に行ってちょっと見て回ってみようか。
階段を降りて朝飯を食べるためにリビングへ向かう。
リビングのテーブルには父親からの置き手紙があった。
相変わらず汚い字で、しばらく帰らないとだけ書いてある。
この前帰ってきたばかりなのに今度はどこに行ったのやら…
まあこれはいつものことだし気にしないでいよう。それよりも朝飯だ。
と言っても俺は朝はあまり食欲のないタイプなので食パンを半分にちぎり、それにバターを乗せて焼いて食うだけだ。
パンを食べ終わり、軽く身支度を済まして家に出る。
今日は俺の高校の入学式だ。
俺がこれから3年間通う百合ヶ丘学園は、家から自転車で通えるくらいの距離で、そこそこの学力がありと、俺にとってとても良い条件が揃っていたから迷わずに進学先をここに決めた。
俺の幼馴染みの二人もこの百合ヶ丘学園に進学しており、ついに幼稚園から高校まで全て一緒という腐れ縁になっている。
本当ならその幼馴染みたちと一緒に登校する約束になっていたのだが、早く起きてしまったのもありメールで先に行っていることだけ伝えておいた。
そして、俺は今百合ヶ丘学園の正門前に居る。
校門をくぐり抜けると、まるで俺を迎え入れているかのように沢山の桜の木の枝が風で揺らめいていた。
その歓迎に誘われるように俺は前へ前へ足を進めていた。
そしてぐるりと校内を1周し、自動販売機で缶コーヒーを買って一息つく。
「しかし広いなここは」
ざっと周ってみただけだけど結構時間が経ってしまった。
それでも夢で見るあの学校ほどじゃないが…
「っと、夢と比べてどうすんだっての」
まだ夢から覚めきっていない自分に呆れて苦笑する。
でも…いつかあの娘に…
「ちょっとそこの!」
「は、はい!?」
考え事をしていたその後ろから急に大きな声で呼ばれて慌てて返事して振り返る。
しまった、一人で笑ってるの見られたか?
そんな不安は、一瞬で吹き飛んだ。
振り返ると、そこには一人の女の子が立っていた。
肩にかかるくらいの長さの、まるで燃えているかのような深紅の髪を靡かせ、同じく深紅の色と力強さを宿す瞳でこちらをじっと見据えている。
その少女の姿は風に舞う桜の花びらが霞んで見えるくらい、美しいものだった。
「そう…なのか…?」
「え?な、なにが?」
ただでさえその容姿に圧倒されて見惚れてしまっていたところだったので思わず聞き返してしまう。
すると、名前も知らないその娘はとても悲しそうな顔をした。
その顔を見た瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
何かとてつもなく取り返しのつかないことをしてしまったような気がした。
「そうか………のか…」
少女は顔を隠すように俯いて何か呟いたがその声は俺には届かなかった。
なんと言ったのか訊こうかと思った時、彼女はいきなり顔を上げた。
そして
「柴崎蒼!」
「は、はい?!」
突然名前を呼ばれて思わず返事をしてしまう。
って、なんで俺の名前を…?
そんなことを訊く隙すら与えないほど、間髪入れずに彼女はさらにこう言った。
「お前が好きだ!あたしと付き合ってくれ!!」
それが俺と、後に名前を知ることになる彼女―――岩沢雅美との出逢いだ。
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