蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「…お前いつか悪い奴に引っ掛かるぞ」

ということで、俺たちは1ペアにつき数ある部室の内の一部屋を与えられた。

 

俺と岩沢は4階にある練習室のすぐ近くにある部屋になった。

 

そこで岩沢と二人きりで、対面する形になり席に着く。

 

そう、二人きりで、だ。

 

俺と岩沢の補助だとかぬかしていたくせに『あ、今日はゆりっぺさんに色々報告しなければいけませんので時間までお二人でどうぞ』と言ってさっさと下に降りていきやがった。

 

くそ…遊佐がいるからこの役引き受けたはずなのになんでこうなった…?

 

「柴崎」

 

「お、おう。なんだ?」

 

はぁ…また好きだ~とか連呼されるのか…?

 

「二人きりで話すのはあの時以来だな」

 

「え、あー、そうだな」

 

予想外に普通な話題で少し拍子抜けする。

 

ああいや別にがっかりしてるわけじゃないけど。

 

「あれから1ヶ月経ったか経ってないかくらいのはずなのに、なんかすごい久し振りな気がするな」

 

「いや、俺は色々ありすぎてあっという間だった気がするけどな」

 

「確かに柴崎はそうかもな」

 

と、俺が勧誘やらなんやらでやたらと駆り出されたことを思い浮かべたのか、クスクスと笑っている。

 

…普通だ。

 

…いやいや騙されるな俺。今までだって普通に話せたことはあった。けど結果はどうだ?いつも忘れた頃にいつも通りに戻っていたろ?

 

きっと今回も…

 

「そういえばさ」

 

ほら来た!

 

「どう?関根と入江とは仲良くなれたかい?」

 

…やっぱり普通だ…

 

「…入江とはまだ話せてないけど、関根とはお前に敬語なしで良いんじゃないかって言われた後もちょっと話してたから少しは仲良くなったんじゃねえかな?」

 

「そっか、良かった」

 

そう言って快活に笑う。

 

すごく、嬉しそうに。

 

「…今日は普通なんだな?」

 

「普通?」

 

「ほら、好きだ~とか言わねえし」

 

「ああそういうこと。それは柴崎が前に好きってのは禁止って言ってたからさ。今日もそっちの方が良いかなって思って」

 

そう言われて俺は素直に驚いた。

 

…コイツ、気を使うってことが出来るんだ…と。

 

だかしかしだ

 

「それなら教室で好き好き言ってくるのもやめて欲しいんですけど?」

 

「それは無理だ」

 

「なんで?」

 

「あたしがそうやって周りにアピールしとかないと他の奴が柴崎のこと好きになるだろ?」

 

「いやいやいやいや」

 

何故か自信満々に断言をしてくるがとてもその内容に納得出来るわけがない。

 

「なんで俺がモテるの前提なわけ?」

 

「だって格好いいからさ…それに、優しい」

 

「お前に優しさを見せた覚えはねえし…」

 

あまりにも真っ直ぐな言葉に、ついぶっきらぼうな台詞を返してしまう。

 

「優しいよ。見てればわかる」

 

「見てればって…」

 

「例えば今日も数学の時に隣の席の子が落とした消しゴムを拾ってあげてた」

 

「…それくらい普通だろ?」

 

ていうかお前俺よりも大分前の席なのになんで後ろの俺を見てるんだ?

 

「一昨日も落ちてた生徒手帳をわざわざ落とし主を捜してまで届けてたし」

 

「いやそれはたまたま眼が良いから見つけられただけで…」

 

「一週間くらい前には帰り道に迷子の子供を見つけて親を捜してあげてたし」

 

「え、なあ、お前の家って逆方向じゃなかったっけ…?」

 

「他にも沢山ある…去年からずっと見てきたからな」

 

「怖いわ!!」

 

そんな良い笑顔で言われても誤魔化されるか!?

 

「え?なに?お前ストーカーしてるのか?」

 

「ストーカー?いや、してないけど」

 

「ほ、本当か…?」

 

「うん。たまたま見かけたらついていってるけど」

 

「ストーカーと大して変わんねえよ!!」

 

まさかコイツ…自覚なしにストーカーになってたってのか…?

 

「い、一応訊いておくが…まさか俺の家のゴミを漁ったりしてないだろうな…?」

 

「はぁ?するわけないだろそんなの」

 

「郵便受け勝手に見たりは?」

 

「してない」

 

「俺の私物を盗ったり…」

「だからしないって!泥棒だろそんなの!」

 

それを聞いて安心した。

 

とりあえず今ならかなり軽度のストーカーだ。

 

見かけたらついていく…うーん、これもきっと俺に話しかけても逃げられるとか思っちまうからか…?

 

「じゃあもう今度から見かけても後ろからついてきたりすんな」

 

「えぇ?!」

 

「…そのかわり、話しかけてこいよ。今日みたいに好き好き言わねえなら相手くらいしてやるから…周りに人が居ないんなら普通に話せるんだろ?」

 

「良いのか?」

 

「気づかず後ろから見られてるよりよっぽどマシだ」

 

ふい、とそっぽを向きながら答える。

 

そうだ。後ろからつけられるなんてあまりに不気味だから仕方なく、だ。

 

別にコイツに心を許してるわけじゃない。

 

例えコイツがさっき眼のことを気にしなかったからと言って…

 

「あ」

 

「ん?」

 

そうだ。そういえばさっきちょっとだけ気になっていたことがあったんだった。

 

不本意とはいえせっかく二人になったんだ。ここは有効活用させてもらおう。

 

「さっき言ってた『気にしなくて良いぞ』って、あれなんのことだ?」

 

「ん?そんなこと言ったっけ?」

 

「言ったよ。藤巻に普通じゃないって言われた後お前がフォローしてくれて…」

 

「あー、そう言われれば言ったっけな。で、それが何?」

 

こ、コイツは俺の話を聞いてなかったのか…?

 

「いやだからあれはどういう意味なんだ?フォローしたのを気にすんなってことなのか?」

 

「違うよ」

 

「じゃあなんだよ?」

 

「眼」

 

そう短く言葉を切って自分の目を指さす。

 

「眼が良いこと、あんまり気にしなくて良いんだぞって意味」

 

そう岩沢は微笑みながら言った。

 

気にしなくて良い…?

 

「…そんなわけねえだろ」

 

動揺からか、声が震える。

 

少し、掠れているような気もしてくる。

 

「気にしなくて良いわけねえんだ!」

 

「……………………」

 

動揺を振り払うかのように叫ぶ俺を岩沢は黙って見つめている。

 

それがまるで責められているみたいに感じて、余計に言葉を重ねていく。

 

「もしこれを隠さずに生きていたらどうなるか分かるか?!まず俺を羨ましそうに見てくる!そしたら次に妬み出すんだよ!」

 

「……………………」

 

「それを過ぎると皆…皆俺を化け物を見るみたいな目で見てくるんだよ!!…ただ眼が良いだけだぜ…?他の能力は人並みだ!だけどその眼を使うと野球部よりも野球が出来る、サッカー部よりもサッカーが出来る!」

 

「……………………」

 

「それを妬んで絡んでくる奴らを返り討ちにしたら俺がおかしいって皆が言うんだ!!俺は…俺はただ普通に生きていただけなのに!!」

 

叫ぶだけ叫び、はあはあと息が切れる。

 

岩沢はその間、ずっと無言を貫いていた。

 

「はっ…失望したか?好きだって思ってた奴がこんなので…」

 

「するわけないだろ」

 

「―――っ」

 

ようやく口を開いた岩沢から出た言葉。

 

思わず、息が詰まる。

 

「失望って言ったか?どこに失望するようなところがあったんだ?もしあったとしても、あたしには分からない。だって、悪いのは柴崎じゃないだろ?」

 

「ああ違うよ…!少なくとも俺はそう思ってる…!…だけどな、世間ってのは普通じゃないだけで俺を悪者にするんだよ」

 

「そんなのあたしは知らない。世間がどう思っても、あたしは柴崎を信じてるから」

 

そう言われると、何故だか分からないけどすごく泣きたくなった。

 

言葉だけかもしれないのに、そういう経験は嫌ってほどしてきたのに、コイツの言葉が嘘だとは何故か思えなくて。

 

それに、こう言ってくれるような気がどこかでしていたんだ。

 

「…お前いつか悪い奴に引っ掛かるぞ」

 

悪い男、と言わなかったのはなんとなく言いたくなかったからだ。

 

なんでなのかは考えない。

 

でも、どちらにしてもコイツの答えは変わらないのだと思う。

 

まともに話した期間はまだ短いけれど、そう確信出来た。

 

「大丈夫だよ。こんな風に思えるのは柴崎だけだから」

 

…ほらな、予想通り過ぎて笑えてくる。

 

…ったく、

 

「…バーカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……これはどうすればいいのかな…

 

「…………………」

 

「…………………」

 

遊佐さんに言われるがまま1つ下の階の部屋に入ったのは良いんだけど…会話がまったく出来ないよ…

 

入江さんはすごく人見知りみたいだし、僕もそんなに話すのが上手いわけじゃないし…

 

けど、ここは先輩であり男である僕が何か話題を見つけないとダメだよね。

 

「ええっと」

「は、はい?!」

 

「そ、そんなに緊張しなくても良いよ」

 

「そ、そうですよね…すみません…」

 

話の出鼻を挫かれてしまった…

 

でもこんなにしゅんとされたら何とも言えないなぁ。

 

「そうだ、深呼吸してみよう」

 

「深呼吸、ですか?」

 

「うん。そうすれば落ち着くかも」

 

「わ、わかりました」

 

「じゃあ行くよ?せーの」

 

スー、ハー、スー、ハー。と何度か繰り返す。

 

こういう風に同じタイミングで同じ動作をすると、少し親近感が湧くから不思議だよね。

 

「落ち着いた?」

 

「は、は、はい」

 

どうも親近感が湧いたのは僕だけだったみたいだ。

 

むしろさっきよりもガチガチになってる気がする。不思議。

 

「本当に人見知りなんだね?」

 

「は、はい…すみません…」

 

「違う違う!責めてるわけじゃないよ?ただ今まで話してきた人に人見知りってあんまり居なかったから珍しくて」

 

怒ってないアピールのためにいつもよりもよけいに笑顔を浮かべる。

 

「人見知り…しないんですか?」

 

「僕?」

 

「はい」

 

その甲斐あってか、初めて向こうから話題を出してくれた。

 

「僕はしないかなぁ。この部の人達ともすぐに仲良くなったし」

 

「そうなんですか。なんとなく私と似てるのかなぁ…って思ってたんですけど」

 

「そうなの?」

 

「あ、すみません…勝手にそんなこと思ってて」

 

「全然気にしなくていいよ。それより何でそう思ってたのか訊いてみたいな」

 

これは話題作りとかのためじゃなく本心だった。

 

入江さんは、少し躊躇ってからおずおずと切り出した。

 

「…大山先輩って目立たないじゃないですか」

 

「ぐふっ!」

 

「せ、先輩?!」

 

まさかの心を抉ってくる攻撃に思わず倒れこむ。

 

特に語尾に?が付いていないところがダメージ大だよ…

 

「め、目立たないかぁ…」

 

分かってはいるけどへこむなぁ…

 

「す、すみません!すみません!」

 

「ああ、こっちこそゴメンね…気を使わせちゃって」

 

「いえ、私が失礼なことを言ったから…」

 

そう言って少しだけ目に涙を浮かべる入江さん。

 

「だ、大丈夫だよ!全然平気だから!ほら、続き聞かせて!」

 

「…でも」

 

「本当に聞きたいんだ!入江さんの話!」

 

「…はい。ありがとうございます…」

 

必死に精神的ダメージを誤魔化してなんとか入江さんが泣くのを止められた。

 

でも話の続きを聞きたいというのは本心だった。

 

僕が目立たないことがどう繋がるのか聞いてみたいと素直に思っていた。

 

「それで、僕が目立たないの続きは?」

 

「はい。なのに、大山さんの周りの人達はキャラが濃いですよね?」

 

「あー、そうだね」

 

キャラが濃いを通り越して常識がないところまで行っちゃってるけどね。

 

「私もなんです」

 

「入江さんも?」

 

「…はい。私も目立たなくて、でもしおりん…あっ、関根のことなんですけど…その、しおりんとかは昔からすごく目立つし、可愛くて人気があって…それに比べて私は…」

 

「え?入江さんもすごく可愛いと思うけど」

 

「へっ?!」

 

「え?…あ!ゴメンね!」

 

何の気無しに口に出した言葉で入江さんが真っ赤になってるのを見て、ようやく自分の言ったことが恥ずかしいことに気がついた。

 

うわぁ~やってしまったよ~。今まで女の子にそんなこと言ったこと無かったのに…

 

でも…

 

「でも、本当にそう思うよ?確かに関根さんも可愛いけど、そんなに卑屈になる必要なんてないと思うよ?」

 

「い、いやいや…でも…私なんか…」

 

目を伏せて全く僕の方を向いてくれない。

 

けど、それでも顔が赤いことだけは分かる。

 

…なんていうか、本当に可愛らしい子だな…

 

「それにほら、目立たないって言うけど入江さんはドラムやってるんだよね?それならすごく目立ったんじゃない?」

 

「ドラム…ですか?」

 

「うん」

 

「確かに目立ちはしました…悪目立ちでしたけど…」

 

「悪目立ち?」

 

「はい…私、ドラムがすごくすごく好きで、ドラムやってる時だけはなんていうか…すごく大胆になれて、周りの目なんて気にならなくなるんです」

 

「へぇ」

 

そんな風になってる入江さんを1回見てみたいな。どんな感じなんだろう。

 

「でもそれを見た人達は皆普段の私はぶりっ子してるんじゃないか、って思ったみたいで…」

 

「そんな!?」

 

「もししおりんが居なかったら、私いじめられてたかもしれません…」

 

だからしおりんにはすごく感謝してるんです、と笑う入江さんの顔を見て、ズキッと胸が痛んだ。

 

この子はいじめられても仕方がないって思い込んでしまってるんだ。

 

それが悲しくて、そんな風に思い込ませた子達に腹が立った。

 

「入江さんは悪くないんだよ?」

 

「え…?」

 

「入江さんはドラムが好きなだけだもん。そこが入江さんの居場所だったんだよね?だから普段は出せない自分を出すことが出来た」

 

「…はい」

 

ゆっくりと頷く入江さん。

 

「辛かったよね…自分をさらけ出しただけなのに、勝手なこと言われて…」

 

「…はい…!」

 

「ここなら大丈夫だから。もし何か言われたら僕が何とかするよ。だって…僕は入江さんのマネージャーだからね」

 

「────っ、は、はい…」

 

急にあたふたと慌てて目を伏せる。

 

どうしたんだろう?

 

「入江さん?」

 

「〇?×≦&¥$?!」

 

顔を覗きこもうとすると、謎の言葉を発してすごい勢いで部屋から出ていってしまった。

 

「な、なにかしたっけ…僕…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

空気が重い。

 

原因はお互いにある…と少なくともあたしは思ってる。

 

あたしがいらない一言を言ったりするのが悪いってのは分かってる。

 

「…たりぃ」

 

…でも、それはコイツがこんな風になってるのが悪いんだ、とあたしは藤巻に向けて内心舌打ちをする。

 

椅子にもたれかかり、大股を開いて腕をだらりとだらしなく脱力させている。

 

ネクタイは着けず、ボタンもいくつか掛けずに胸元を開け、シャツの裾も出されている。

 

…だらしがない。

 

「チッ、んでこんなたりぃことしなきゃなんねーんだよ」

 

そのまままた同じような愚痴をこれ見よがしに溢され、カチンとくる。

 

「うるっせえな…あんたがゆりの脅しにビビったからだろ」

 

「…ああ?」

 

「そんなに嫌だったんならゆりの命令なんて無視して帰ればよかったろ。それをビビって従ったくせに愚痴だけは一丁前に溢して…情けないね、あんた」

 

「んだとてめえ!」

 

あたしが詰ると決まってこの反応をする。…いや、あたしだけじゃない。誰に詰られたって、こんな反応をするばっかりだ。

 

目付きが悪くていかにもチンピラっていう見た目を使ってありもしない恐ろしさを見せようとする。

 

今日だけでもこの光景を何回見たことか。

 

「おいひさ子、今は柴崎居ねえんだぞ?」

 

「だからなんなのさ?」

 

「もし今殴られそうになったって助けて貰えねえんだぞって言ってんだよ!」

 

ダンッと思いきり床を踏み大きな音を立てる。

 

威嚇のつもりなんだろう。

 

でも、こんなのに意味はない。

 

「…あんたはいつだって口だけじゃないか」

 

「ああん?」

 

「見た目と口だけ悪ぶって、弱い自分を隠そうとしてるだけだろって言ってるんだよ」

 

「ざっ…けんな!」

 

あたしの言葉にキレた藤巻は椅子を派手に倒して立ち上がり、あたしに詰め寄ってくる。

 

「マジで殴られてぇのかよ…?」

 

そして襟元を掴んで凄んでくる。

 

「…あんたには無理だろ。そんなこと」

 

「上等だてめえ!」

 

ぐわっと拳を振り上げ、そして…

 

「…………っ!」

 

「…どうした?殴るんだろ?」

 

そのまま拳が振り下ろされることはなかった。

 

拳には力だけが入りプルプルと震えている。

 

「…せぇ」

 

「だから言ったんだよ。あんたには無理だろって」

 

「…るっせぇ!」

 

そう叫ぶと、そのままあたしの襟元を乱暴に離す。

 

「くそが!」

 

そして苛立ちを椅子を蹴ることで発散させようとする。

 

ガンッガンッと派手な音を立てて転がっていく。

 

それを見てあたしは、悲しくなった。

 

「…なんでそうなったのさ?」

 

「はぁ?」

 

「昔のあんたはそんなんじゃなかっただろ…?」

 

きっと今のあたしの顔はすごく情けないものになってると思う。

 

それくらい、今の藤巻を見てるのが辛い。

 

「昔はもっと…!」

 

『ひさ子は俺が守ってやっからな!』

 

そう言って笑う昔の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「くだらねえ…」

 

「藤巻…」

 

しかし藤巻の言葉と態度はその姿を容易に消し去っていく。

 

つかつかとドアまで歩き、そのまま出ていってしまった。

 

「昔と今じゃちげえんだよ」

 

そんな言葉を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、直井くんって普段なにしてるの?趣味とかは?家どこら辺にあるの?部活とかしてた?ねえねえ」

 

「…何故僕がそんなことに答えなければならない」

 

あの無表情が過ぎる金髪娘にこの部屋に連れてこられた途端、この調子でペチャクチャと捲し立ててくる馬鹿に嫌気が差しつつも一応会話をしてやる。

 

これも柴崎さんのためだ。

 

きっとここで黙っていては柴崎さんがガッカリしてしまう。

 

だが、質問に答えるというのはどうにも受け入れられない。コイツに僕のことを知ってもらったところで僕にメリットがあるとも思えない。

 

出来ることなら一言二言交わすくらいで切り上げたいところだ。

 

「そりゃやっぱりこれから相棒になるんだからお互いのこと知っておいた方がやりやすいっしょ?」

 

「僕は貴様の相棒になったつもりは微塵もない」

 

ついでに言うとマネージャーも大してやる気はない。

 

僕がやるとしたら柴崎さんと音無さんの身の回りのお世話だ。

 

「そんなつれないこと言わないで助け合おうや!俺らマブダチじゃん?」

 

「…相棒じゃなかったのか?」

 

いや、相棒も嫌だが。

 

「え~じゃあ何なら良い?」

 

「主従関係なら良いぞ」

 

「え!良いの?!じゃあそれで行こうー!」

 

冗談というか、絶対に嫌がるだろうと思って口にしたのだが何故コイツはこんなにノリノリで受け入れている?

 

もしかしてマゾなのか?

 

「じゃあオレンジジュース買ってきて。あ、果汁は20%のやつね」

 

「何故だ?!」

 

「え?あたし100%ダメなんだよね~酸っぱくない?」

 

「そういうことを言ってるんじゃない!」

 

何故僕が貴様などの好みを聞かなければならない!

 

「僕が従う側なわけがないだろうということだ!この間抜け!」

 

「ええ?!」

 

「ええ?!じゃない!」

 

心底驚いているような顔をしていることにこっちこそ驚きだ。

 

「でもですね、そもそもあたしのジャーマネということは本来あたしが上の立場にあるはずなのよ新人くん」

 

「ふむ…」

 

まあそれはコイツの言う通りだ。

 

マネージャーという肩書きならば僕が下につくということを意味するはずだ。

 

しかしコイツは僕の肩書きを何度変えれば気が済むんだ。話し方もコロコロと変えて統一性がない。

 

まるで終始コントでもしているみたいだ。

 

「分かった。ならば僕たちは対等ということをまず決めておこう」

 

「いいねぇ~対等、いい言葉だよね~響きがタイトに似てるもんね」

 

ピッタリ身体に合うことがそこまで素晴らしいことなのだろうか。

 

やはりマゾなのか?少しでも締めつけられたいのか?

 

「タイトと言えば、直井くんはタイツは好きかね?」

 

「何がと言えばだ。今そんなことは関係ないだろう」

 

「つれないな~もう一人の僕は」

 

「何故僕が貴様の分身なんだ!?」

 

「やだなぁ、もう一人の僕と相棒は同義語だよ?」

 

「そんなわけあるか!」

 

それは遊〇王の中だけの話だろう。

 

そして相棒はさっき却下したんだからさっさと諦めろ。

 

「はぁ、話を戻すぞ。僕らは対等、だが相棒でもマブダチでもない」

 

「あ、なんか今途中までラップみたいだったね」

 

「…………つまりだ」

 

いい加減声を張りすぎて疲れてきた。

 

もう極力労力を使わないようにしよう。

 

かの柴崎さんも言っていた。まともに相手をするだけ無駄だと。

 

「相棒でもマブダチでもない僕らはビジネスライクな関係でいく」

 

「ビジネスライク?」

 

「ああ、互いにプライベートには干渉しない、会話も役割を果たすための必要最低限で済ます」

 

「え?嫌だよ」

 

「何だと?!」

 

つい先程抑えようと思っていたというのにもう大声を出してしまった。

 

僕が完璧だと思って口にした案がこんな当然のように否定されたことはそれほど衝撃の大きいものだったのだ。

 

「何がいけないというのだ?!」

 

「いや何もかもでしょうよ」

 

「何もかも…だと?」

 

「まずあたしプライベートに干渉しないとか無理」

 

「何が無理なんだ?」

 

ただ無闇に関わらない。簡単なことだろうに。

 

「そもそも直井くんを勧誘するきっかけはあたしがマネージャーは直井くんじゃないと嫌だって言ったからなんだよね。あ、もちろんその後の柴崎くんたちが話しかけてたのは勝手にやってただけだよ」

 

「なっ…そうなのか?」

 

「そーっすよ」

 

「…何で僕なんだ?」

 

僕の記憶ではコイツとの接点なんて…いや、クラスの奴らとの接点なんて皆無と言っても良いほどだったはず。

 

確かにコイツは初めに話しかけてきたりもしたが、それも出来る限り冷たくあしらっていたはずなのに。

 

なぜそれで僕を選ぶ?

 

わざわざ勧誘から始めないといけない僕を。

 

そう訊ねると、それまでとはまるで違うある種困ったような笑みを浮かべた。

 

「…あたしさ、ほっとけないんだ。周りを拒む人」

 

そして口調もまるで別のものになった。いや、厳密に言うと口調とは言わないかもしれない。

 

それはトーンと言うのが最も適切だ。

 

トーン。もしくはこの場合テンションと言ってもいいかもしれない。

 

口調がコロコロ変わっていたさっきまでのコイツとは一線を画すものだ。

 

違和感ばかりが先行していたものが、ストンと落ち着くべきところに落ち着いた、とでも言うべきか。

 

「みゆきちいるじゃん?あのおどおどしてる子」

 

「ああ」

 

名前を言われても分からなかったがおどおどしてると言われすぐに合点がいった。

 

「あの子もさ、中学で初めて会ったときからあんな感じにおどおどしてて、周りと関わろうとしてなかったんだ」

 

「それは人見知りなんだからしょうがないんじゃないのか?」

 

あの人見知りを僕と同じカテゴリに当て嵌めるのは少し違う気がするが。

 

「まあそうかもしれないけどね。でもあたしから見ればみゆきちのあれって、周りを敵だと思ってるようにしか見えないんだ」

 

「敵…?」

 

「うん。だって、怖がるってことはさ自分に危害を加える可能性があると思ってるっていう風にも考えられるよね」

 

「それは…」

 

いささか発想が飛躍している気もするが、間違ってはいないようにも思えて言葉が出てこない。

 

「直井くんもそうなんじゃないかな?」

 

「僕?」

 

「直井くんも、怖がってるんじゃない?自分に危害を加えるんじゃないかって。具体的に言うと…信じたら裏切られる、裏切られたら傷つく、みたいに」

 

「───っ」

 

まさしく図星というほかなかった。

 

怖がっているなどと言われることは甚だ心外ではあったが、しかし的確に心情を察して突いてくるその様に僕は固まることしか出来なかった。

 

…なるほど、それで僕とあのおどおど娘を同じ枠に入れたということか。

 

「でもあたしはそういう人をほっとけない。だって悲しいもん」

 

「…なにがだ?」

 

「例えばさ、食わず嫌いってあるよね?」

 

「は?」

 

食わず嫌い?

 

「あれって案外食べてみるとすごく美味しくてなんでこんな好きなものを今まで食べてこなかったんだ~って後悔することない?」

 

「…あるかもしれんな」

 

「それと同じ。もしかしたら話してみてすごく好きになる可能性があるのに、それを見過ごしちゃう。それってすごく悲しくない?」

 

「…さあな」

 

確かにコイツの言い分には一理ある。どころか十理も百理もあるかもしれない。

 

だが、やはりコイツの言ってることはしょせん他人事だ。

 

自分が経験したことがないからこんなことが言える。

 

でなければ、食わず嫌いなんかと一緒には出来ない。

 

食べ物と人間が違うことに考えが及んでいないのだ。

 

愚かだ、と思う。

 

きっといつか自分が誰かに絶望した時、それを痛感する。

 

だがしかし、それでも少しだけ認識を改めてやろう。

 

コイツはそこらへんのただの愚か者ではないようだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大体皆一区切りついたみたいね」

 

「そのようですね」

 

盗聴器から発せられる音声を聴き満足気な表情をしているゆりっぺさん。

 

悪趣味な…と思いつつも私自身も参加しているので何とも言えはしない。

 

「じゃあそろそろ帰るって伝えてきてもらっていいかしら?」

 

どうせ断るわけもないのに一々断りを入れるなんて、律儀だなこの人は。

 

「了解しました」

 

「あー…あと1ついい?」

 

「はい」

 

「本当に良かったの?顔合わせの意味も込めてるんだし3人にしても良かったのよ?」

 

わざわざこういうことを確認するということはまだ入部当初に柴崎さんと岩沢さんを二人きりにしたことを気にしているのだろう。

 

…優しい人。

 

「私がそう言ったのですから」

 

「そう…よね。ごめんなさいね変なこと聞いて」

 

こんな顔をさせてしまうくらいならどうするつもりなのか教えておけば良かった、と少し後悔する。

 

「いえ、それでは行ってきます」

 

「ええ、頼むわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

あのあとすぐに、まるで見計らったかのようなタイミングで遊佐が部屋にやって来た。

 

そして『今日はもう部活を終わりますので下校の準備を』と短く伝え、結局そのまま解散となった。

 

一階に降りると他の部員の皆は既に帰っていて、俺たちと同じく話していたはずの藤巻と入江も何故か先に帰ってしまっていたようだ。

 

そして悠がいないので遊佐と二人で帰っているんだが…

 

「………………」

 

喋らねえな…

 

いつもは何かと俺に暴言を吐いてくるというのに。

 

まあ別に会話がないから気まずいとか思う間柄でもねえからいいけどよ。

 

「…バーカ」

 

「?!」

 

唐突に、本当に唐突に発せられた言葉に反応せざるを得なくなる。

 

「バカはどっちですか、全く」

 

「な、ななな…?!」

 

「もしかして岩沢さんに惚れてしまいましたか?」

 

「んなわけねえだろ!!ていうか、お前まさか…?」

 

「はい、聴いてましたよ」

 

「ざけんな!!」

 

信じられねえ…コイツ、こんないけしゃあしゃあと盗聴宣言とか…

 

「そもそも部屋を指定された時点で怪しむべきでしたね」

 

「そこまで世の中疑ってかかってねえんだよこっちは!」

 

くそ、じゃあ今日話してた内容は全部聴かれてたのかよ…?!

 

「…バーカ」

 

「うぐぐっ…!」

 

またも真似されて、赤面すると同時に変な呻き声をあげてしまう。

 

くっそ、性格悪りぃ…!

 

「本当にバカです、柴崎さんは」

 

「もう良いだろしつこいぞ!」

 

「違いますよ。ずっと一人で抱え込んでいたことが…です」

 

「う…」

 

思わずたじろぐ俺に更に釘を刺すように、それに、と言ってジトッと睨んでくる。

 

「何か勘違いしているようなので言っておきますが、今までも柴崎さんの味方はずっと貴方の隣にいましたよ」

 

ずっと…隣に…

 

「私は少なくとも貴方の味方だと思ってます…昔からずっと」

 

「あ…」

 

何が言いたいのか気づいた俺を見て、不満そうにそれと千里さんもですが…と付け足す。

 

そうか…そうだよな…

 

決して忘れてたわけじゃない。いつも俺は助けられていたんだから。

 

でも、それが当たり前すぎて改めて考えたことはなかったかもしれない。

 

音無や岩沢、関根に直井のように俺の眼を知ったって拒絶しなかった友達はいつだって居たんだ。

 

いつも俺の両隣に。

 

「…そうだよな、悪い」

 

「いえ、好きでやってますから」

 

「そりゃ物好きだな」

 

「よく言われます。あ、そういえば柴崎さん」

 

「ん?」

 

「ゴールデンウィークは何をしてましたか?」

 

「何をって…とりあえず部活に出て…」

 

唐突に向けられた質問に曖昧な記憶を辿りながら答えていく。

 

「それが終わった後は…あー、迷子の面倒見たりしたこともあったな…」

 

とにかく記憶がはっきりとしないので、さっき岩沢が言っていたことがちょうどゴールデンウィーク中の話だったことを思い出し口にする。

 

しかしそれ以外はこれといった出来事もなく、平々凡々とした日常だったはずだ。

 

特に家の中にいる時なんて余計に何もないし、外に出るのも部活の時が多く、その時には大抵遊佐は近くにいたわけだ。

 

となると大きな出来事というとそれくらいのものだ。

 

しかしそれがなんだと言うのだろう?

 

「勉強は?」

 

「勉強?なんで?」

 

「いえ、柴崎さんは理数系に関しては理解するのに時間がかかるタイプでしたので」

 

「ん?ああ確かにそうだな」

 

俺は文系ならそこそこ出来るが理数系の科目はてんで駄目だ。

 

もう何を言ってるのかよく分からない。

 

代入がどういうことなのか未だによく分かっていない程だ。

 

「いや代入だけなら日本語が分かれば理解出来ますよね?」

 

「数字が絡むと途端に分からなくなるんだよ…!つーか心読むな」

 

あとはXとかYとかも分からん。数字でやれよってなるし。

 

「数字が絡むと分からなくなるのでは?」

 

「XとYは更に分からないんだ…!いやだから心読むなよ…で、だから結局それがどうしたんだよ?」

 

ゴールデンウィークと俺の理数系が苦手なことに何か繋がりがあるのか?

 

「あともう明日と土日を挟んだあとすぐにテストですが大丈夫なんですか?」

 

「は?」

 

…テスト?テスト?!テストってあのexamination的な意味のテスト?!

 

「い、今何日だ?!」

 

「14日です」

 

「テストはいつだ?!」

 

「20日です。なので正確に言えば明日と土日を挟み、2日授業を終えた後にテスト期間に入ります。つまり猶予は今日を除けば5日です」

 

言葉通りの遊佐の詳しい説明を聞き、それならなんとかなるんじゃ…と一瞬期待が頭によぎる。

 

「ですが土日以外は部活もありますし、その他諸々の事情もあるので学校内の勉強というのはいささか無理があると思われます」

 

「そうだった…!」

 

中学までの学校生活とはまるで環境が変わっていることがすっぽり頭から抜け落ちていた。

 

中学までなら学校が終わればすぐに帰ってある程度の勉強時間も取れていたけど、今は夕方過ぎまで部活に行かなきゃ駄目だし…教室に居るときは岩沢とかが五月蝿いし…

 

「ん?いや待てよ。テスト一週間前だけ休みとかないのか?」

 

中学の頃は部活をやっている奴らは皆そんなことを言っていた気がするんだが。

 

「ゆりっぺさんの独断で部活厳守です」

 

「鬼か?!」

 

「はい、今の録音しておきましたので休めばこれをゆりっぺさんに聴かせてより怒りを煽ることにします」

 

「なんでだよ?!」

 

「皆さん同じ条件下で頑張ってもらいたいので」

 

う、嘘くせぇ…どうせただの嫌がらせだろこのドS…

 

しかし困った。そうなると土日以外は部活が終わって晩飯やら風呂やら何やらすべてを終わらせた後の時間しか勉強出来ない。

 

「いやちょっと待てよ。よく考えれば数学とかが初日じゃなければ間に合うんじゃ…」

「数学初日、物理2日目です」

 

「…終わった」

 

どう考えてもその2つは無理だ。

 

あわよくば数学はなんとかなるかもしれないが、物理までは手が回らない。

 

「はぁ」

 

そんな風に前方不注意も気にせず項垂れている俺に呆れたようなため息をはく。

 

「しょうがないですね、特別に私が勉強を見てさしあげますよ」

 

「ほ、本当か?!」

 

「はい。赤点を取ると補習で部活に行けなくなりますしね。そうなるとゆりっぺさんがかんかんですし」

 

「ありがとうな!やっぱ持つべきものは幼馴染みだ!」

 

俺としては心からの感謝を述べたつもりだったのだが、何故か不満そうにジト目でこちらを見てくる。

 

「…その代わりビシビシしごきますから。出来が悪ければ泊まり込みでやりますよ。寝れるとは思わないでください」

 

「は、はい…」

 

あ、あれ?なんか怒らせるようなこと言ったっけ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…その後、本当に5日間泊まり込みの付きっきりで勉強を見てもらいなんとか赤点を回避出来た。

 

 

 

 




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