蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「…これくらいしないと……見てくれないじゃないですか」

頭がぼうっとする。

 

喉が痛い。

 

鼻が詰まって息がし辛い。

 

「完全に風邪か…ゴホッ」

 

おまけに咳も…か。

 

「つーか…」

 

キスされかけて眠れなくなって風邪ひくってなんだよ!?乙女か?!いや乙女でもならねえよ!!

 

「はぁ…学校休みで良かった…」

 

出来れば休みたくないし、何より岩沢と出掛けた次の日に風邪ひいたと聞いたら悠が岩沢に何があったか根掘り葉掘り訊くに決まってる。

 

そうならないだけマシだな、と自分に言い聞かせる。

 

しかし風邪なんていつぶりだろうな…

 

思い出してみようと試みるも、まるで思い出せない。

 

これがただ覚えてないだけなのか、それとも風邪のせいで頭が働いていないだけなのかそれすらも判然としない。

 

ああやばい…しんど…

 

うつらうつらと意識が途切れ始める。

 

誰か…いてくれたらなぁ…

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

頭にひんやりとした感触。

 

それによって一気に引き起こされるように意識が戻った。

 

うっすらと片目を開けてみる。

 

眩しい…つか今何時だ?そもそもこの冷たいのは何だ?

 

「起きましたか?」

 

「遊佐…?」

 

急に目を覚ましたことであまり目の前が判然としないが、眩しい光の中でより一層輝きを放っているこの金髪は遊佐だということを証明していた。

 

「…今何時?」

 

「7時ですね。午後の」

 

「そっか…」

 

ということは12時間近くは寝てたのか…風邪って恐ろしいな。

 

「あ、そういやなんでここに?」

 

風邪で頭が回ってないからか、もしくは寝惚けているからか、そんなまず気にならなければいけないことに気づかなかった。

 

「幼馴染みの家に来ることに理由が必要ですか?」

 

「え?いやそういうことじゃねえけど…でもお前用事もなしに来ないだろ」

 

「何を言ってるんですか?昔から何の用もなくても遊びに来てたじゃないですか」

 

「…なんだお前遊びに来たのか?そりゃ悪かったな風邪なんか引いちまって」

 

「この年になってただ遊びに来るバカなんていませんよ」

 

いやそれはいるだろ。お前は一体何人を敵に回すつもりなんだ?

 

「じゃあなんなんだよ…こっちは頭もろくに回んねえんだけど」

 

「いえ本当に特に用事はないんですけどね。強いて言うなら…岩沢さんとのデートどうでした?」

 

「思いっきり目的あんじゃねえか?!いてっ」

 

思わず叫んでしまい頭痛が走る。

 

くそ…体調悪化しちまうぞ…

 

「ほらほら興奮しないでください。身体に障りますから」

 

「誰のせいだよ…」

 

「勝手に岩沢のことを考えて興奮した柴崎さんのせいでは?」

 

「人聞き悪いわ!」

 

あ…やばいまたふらふらしてきた…

 

「はぁ…そんなことならもうお前帰れ…こっちは病人だぞ」

 

「冗談です。本当はなんだか今日は柴崎さんの家で人の気配が薄いと思ったので確認しに来ただけです。そしたら寝込んでいたので看病をしていました」

 

ほらほら、と額に置かれている冷えたタオルを指差す。

 

「ん…それは…ありがとう。助かった」

 

「素直でよろしいです」

 

「うるせえ」

 

「さて、柴崎さんお腹空いてますか?空いてますよね?ではおかゆ作ってきますから待っててください」

 

「おい何にも言ってねえぞ」

 

押しつけがひどい。

 

食欲なんてまるで湧かねえし。

 

「駄目ですよ、風邪の時は体力が落ちますから何か食べないと」

 

「わかったわかった、食べるよ。ありがたく頂きますよ」

 

ったく、お前はおかんか何かか。

 

「どちらかと言うと今日限定の専用メイドか何かだと思ってください」

 

「心を読むな。つーか専用メイドって…」

「響きエロいな…」

 

「勝手に付け足すな」

 

「いえ童…」

「童貞言うな」

 

「こほん。でーてーの方の考えることなどこのくらいかと」

 

絶望的に変えた意味がねえなこりゃ…

 

でーてーって、それほとんど伏せられてねえじゃねえか。

 

「お前な…少しは女らしくしろって」

 

「女らしいでしょう?」

 

「どこがだよ」

 

「例を上げるなら、ここですかね」

 

そう言って極めて無表情のままぐっと自分の胸を持ち上げる。

 

「ばっ…?!おまっ!」

 

風邪とは思えないほど俊敏な動作で布団の中に潜り込む。

 

見てない…何も見てない…!わりとデカかったとか思ってない!

 

「だから!そういうとこが女らしくねえって言ってんだろ!」

 

「我ながら見事に育ったと思うのですが」

 

「恥じらいくらい持てっつってんだ馬鹿!」

 

「…これくらいしないと……見てくれないじゃないですか」

 

「え?」

 

「おかゆ作ってきます」

 

「ちょっと…」

 

呼び止めには耳を傾けず、そのままバタンと扉は閉じられた。

 

「なんだよ…」

 

見てない?俺がか?

 

んなわけねーだろ…中学でいじめられたあの時からずっと気にかけてんだから…

 

それとも…

 

「なにか見落としてるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来ました」

 

「悪いな」

 

それからしばらくして遊佐が戻ってきた。

 

手には鍋で炊いたおかゆがもくもくと湯気を発している。

 

結局、俺が何を見落としてるのかは分からなかった。

 

「熱いですからね」

 

「ああ」

 

見るからに熱々のおかゆを2、3回息を吹きかけてから口に運ぶ。

 

「…うまい」

 

「なんですかその意外そうな顔は」

 

「いやお前の家庭的なところなんて見たことなかったし」

 

「これでもいつ嫁いでも大丈夫なように準備はしています」

 

「へぇ」

 

そんな先のことまで考えてるのか。

 

「案外乙女思考なのか?」

 

「案外だなんて心外ですね。私は昔から好きになったら一途なメンヘラ処女です」

 

「俺は乙女なのかどうか訊いたんだが」

 

誰がメンヘラかどうか訊いた。しかも処女とかものすごく余計だ。

 

「初物はお嫌いですか?」

 

「食べ物みたいに言うな」

 

「ある意味食べ物でしょう?」

 

「あーはいはい、今食事中だからこの話はやめだ」

 

いつまでもこんなおっさんみたいな会話やってられるか。食欲失せるわ。

 

つーか…

 

「どうかしましたか?」

 

思わずじっと見詰めてしまい怪訝に思われてしまう。

 

「いやなんでもない」

 

いつもと変わらないな…

 

いや戻ったって言うべきなのか?

 

『見てくれないじゃないですか…』

 

さっきの張り詰めた声音とは打って変わって平常通りだ。

 

下ネタ連発がいつも通りとは思いたくないけれど。

 

「もしかして胸が気になります?」

 

「………………」

 

…うーん、さっきのは本当になんだったんだ?

 

胸を鷲掴みにしている遊佐を見て悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる。

 

「あの、無視されると恥ずかしいんですが」

 

「そう思うんなら初めからするな」

 

というか、まるで恥ずかしがってるようには見えん。

 

せめて胸から手を離してからそのセリフは聞きたかった。

 

「あのなぁ、お前は女で俺は男だ。しかも今は二人だけなんだぞ?」

 

「分かってますが」

 

遊佐のためを思って忠告しているのだが、まるで響いていないようだ。

 

「…普通の男なら女子がそんな風にしてきたら誘ってるのかと勘違いするぞ」

 

「はあ」

 

「そうなったら襲われるかもしれないんだ。だからこういうことはもう絶対するな、分かったか?」

 

「はい。柴崎さん以外には元々するつもりはありません」

 

「俺にもするな!」

 

誠心誠意込めた忠告も届かず、痛む頭も関係なしに大声を上げてしまう。

 

全然伝わってねえじゃねえか…

 

「なあ、お前本当にもうちょっと恥じらい持とうぜ。確かに昔から一緒にいる俺のことを男として見るのは難しいかもしんねえけどさ」

 

「私は昔から柴崎さんのことを男として見てます。ギンギンの雄として」

 

「見てたら言っていいわけじゃねえっての」

 

あとギンギンの雄とか言うな。お前にそんな姿を見せた覚えはない。

 

「いえでも柴崎さんの秘蔵の…」

「なんのことか分かりかねます」

 

ちょっと待って怖い。もしかして本当に見られてないよね?

 

「そもそも女子だから恥じらいを持てというのはおかしな理屈だと思いませんか?」

 

「女子だからとかそんなつもりは…」

 

「いえ、柴崎さんの言葉の端々からそのような意図が感じられます」

 

そう断言されると、確かに心のどこかに女子だからと思っていたのではないかと感じてくる。

 

「まあでーてーの柴崎さんにとっては女子はおしとやかであれという、いかにもな押し付けがあるのはしょうがないですけどね」

 

「おい」

 

「しかし女子というのは実は大概がこんなものです。男子と変わらない程度の知識がありますし、女子だけの空間ならあけすけに下ネタだって飛び交います」

 

「え…そうなのか…?」

 

「はい。もちろんです」

 

女子が下ネタを言い合っている空間を想像してみるが、まるで思い浮かばない。

 

そもそも女子は下ネタを毛嫌いしていたような記憶がある。

 

「それは一種のカモフラージュです。所謂ムッツリのようなものですね」

 

もちろん本当に嫌いな方もいますが、と補足される。

 

ムッツリ?女子にもムッツリがいるのか?

 

「大半はそうだと私は思っています。JKだってそういうことに興味津々な年頃なのです」

 

「た、確かに…そうかもしれないな」

 

「あとは男子と同じです。それを内輪だけで盛り上がるのか、ところ構わず言ってしまうか」

 

そうか…そうだよな。

 

男にムッツリがいるのなら、女子にだってムッツリはいる。同じ人間なんだから、そんなことは当たり前だよな。

 

「そうです。私が発言をオブラートに包めないのは昔からです」

 

「そうだな。お前は言いたいことすぐに言っちゃうタイプだったもんな」

 

『あはは、蒼ちゃんチャック開いてるよ~?恥ずかしいんだ~』

 

なんて、こっそり言ってくれれば良いようなことも大声で言われて恥ずかしい思いもしたっけな。

 

「ですから、きっと私が昔のままだったとしても恐らくこんな風になってたでしょうね」

 

んんっ、と咳払いをする。

 

「蒼ちゃんはダメダメな素人童貞だからあたしのおっぱいが気になっちゃうんだよね?!やーらしいー!……という感じに…」

「なるか!」

 

いきなり声色変えて何を言い出すかと思ったらなんだこれ?!なんの意味があるの?!

 

「意味なんてないよん!キラッ」

 

「キラッなんて言わねえよ!」

 

「やりすぎちゃった?笑美、はーんせーい。てへぺろ。ほし」

 

「やめろ!そんなんじゃねえよ!」

 

なんなんだ?コイツの中で昔の自分はどうなってるんだ?

 

「あれは私の黒歴史です」

 

「そんなこと言うなって…」

 

「昔のことを思い出しては羞恥で顔から火が出そうになります」

 

んな大袈裟な…

 

「その度にどうにかして私の昔を知っている人たちの記憶を末梢出来ないか考えています」

 

「怖えよ!!」

 

それ思いきり俺も末梢対象じゃねえか!

 

俺としてはむしろ今の危険な考えの遊佐の方をどうにかしてほしい。

 

真剣に命の危機を感じる。

 

「ていうか、何が恥ずかしいんだよ?別に普通だっただろ」

 

「本当に普通だと思いますか?あれが…」

 

あれって…自分のことなのにまるで他人事じゃねえか…

 

「あの、中学生にもなってあんな…私、天真爛漫でぇす!キラッ!…みたいに恥ずかしげもなく振る舞っている姿がですか?」

 

「だから過去を歪めすぎだっつーの…」

 

それに中学生くらいならそんな子いくらでもいるだろうに。

 

中学生なんて、ついこの間まで小学生だったんだから。

 

「甘いですね…今時は小学生でも立派な女ですよ」

 

「んなこと…」

「でなければ私がいじめられるようなことは…」

 

言いかけたところでハッと目を少しばかり見開く。

 

「すみません、今のは…」

 

「分かってるって」

 

今のは軽口の延長線上のつもりだった。それでちょっと口が滑っただけ。

 

それくらい分かる。

 

でも、そこで冗談として言いきれないってことはきっとまだ…

 

いや、やめよう。

 

遊佐はもう前を向いている。それを俺が振り向かせてどうする。

 

「ああそうだ、おかゆうまかったぜ」

 

何か話題を変えようと、丁度よく完食したおかゆを使う。

 

「そうですか」

 

どこかほっとしてるようにも見えなくもない素振りだが、もしかして本当は自信がなかったのだろうか。

 

「ああ、心なしか体調も良くなってきた感じするし」

 

「それは沢山寝たからではないですか?」

 

「うっ…」

 

確かにそうかも…

 

「でも本当にうまかったからな。花嫁修業大成功じゃないか?この腕前なら毎日でも食いたいだろ」

 

「…そうですか」

 

「風邪治ったらまたなんか作ってくれよ。他のも食ってみたいから」

 

「そうですか」

 

「今度は悠にも食わしてみようぜ。きっと驚くぞ」

 

「そうですか」

 

おかしい。

 

さっきからこいつ返事がそうですかしか出来ていないぞ。

 

「……好きな色は?」

 

「そうですか」

 

「お気に入りの曲は?」

 

「そうですか」

 

「俺の名前は?」

 

「そうですか」

 

蒼ですね。

 

って何馬鹿なことやってるんだ俺は。

 

「おい、おーい。遊佐さーん、しっかりしなさーい」

 

肩を揺さぶり、目の前で手を二、三度振ったりしてみるが効果がない。

 

あれ?こいつそういえば瞬きしてなくないか?

 

このままじゃ目が乾いちまうな。

 

「とりあえず目を閉じて…と」

 

まるで遺体の目を閉じさせるかのように抵抗なく目が閉じられる。

 

え?生きてるよね?死んでないよね?

 

「どうしようか…」

 

とりあえず白い布を用意しないと…

 

「遊ばないでください」

 

「あ、気がついたか?」

 

「…初めからずっと正気です」

 

…嘘つけ。お前がやられっぱなしになるわけないだろ。

 

「まあそういうことにしとこうか。なんでそうなったか分からないし」

 

理由を訊いてもこの様子じゃ答えないだろうし。

 

「なんでもないです。食器洗ってきます」

 

バッと俺から食器を奪ってスタスタと階下に降りていく。

 

何をそんなに取り乱してるのか、さっぱり分からない。

 

ガチャ、と1度降りたはずの遊佐がまたすぐに戻ってきた。

 

「ん?」

 

「食器を洗っている間にお風呂済ましておいてください」

 

……なにからなにまですまないねぇ、ほんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、良い湯だった」

 

ん?風呂のシーンは飛ばすのかって?

 

じゃあ問おうか。

 

俺のサービスシーンなんて見たいか?

 

と、誰に語りかけてるのかも不明なモノローグは置いておいて。

 

「これなら明日には治ってそうだな」

 

少々の気だるさは残るが、吐き気もふらつきも頭痛も治まっているのを確認する。

 

別段学校が好きとかそんなことはないけど、もし休んだりしたら…

 

『柴崎が休み?!なんでだ?!つい一昨日にはラブラブデートをしていたのに!』

 

『先生!柴崎にプリント持っていきます!え?必要ない?』

 

『じゃあ看病に行かなきゃ!ごめんひさ子!』

 

……こんなことになりそうだしな。

 

「あがりましたか」

 

「ああ」

 

「こちらも食器洗いが終わりました」

 

まるで事務報告のようにエプロンを外しながら言ってくる遊佐。

 

そんな風に言われるとなんともないことのように感じてしまいそうになる。

 

だが、常識的に考えてここまでしてくれることがなんでもないわけがない。

 

たかが幼馴染みのために1日中(晩まで寝ていたから正確な時間は分からないが)看病をするなんて中々出来たことじゃない。

 

「あ~…遊佐」

 

「はい?」

 

いつも通り無表情に小首を傾げる遊佐を見ると、なんだか改まってお礼をするというのがどうも気恥ずかしくなってくる。

 

遊佐のことだし素直にお礼なんて言ったら、水を得た魚のように茶化してくるじゃないかと勘ぐってしまう。

 

でもまさかここまでしてもらって感謝の1つもしないわけにいかない。

 

こうなりゃ、冷やかしの1つや2つ受け止めるしかないな。

 

「その…今日はずっと付いててくれてありがとな」

 

「…どうしたんですか急に?気味が悪いですよ?」

 

予想通りの反応だ。

 

いや、でも看病してもらったらお礼くらい言うよ俺だって。

 

「目ぇ覚ました時、お前が居てくれてちょっと安心したっつーか…まあ、とにかく感謝してる。ありがとう」

 

「いえ、その…どういたしまして」

 

あれ?なんか思っていたのと違う。

 

俺の予想ではここで更に冷やかしてくるはずなのに。

 

それにひきかえどうだ?今の遊佐はあろうことか若干照れているように見えなくもない。

 

心なしかうすーーく頬が赤くなっている気もする。

 

…無表情だけど。

 

それに目も若干泳いでる気がするし、髪をいじり始めている。

 

……無表情で。

 

…………気のせい、かな。

 

「えっと…」

「私はまだ少し片付けなどしていますので先におやすみなさってください」

 

「いや、でも…」

「おやすみなさってください」

 

「あ、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊佐に言われるがままに眠る準備を終え、ベッドに潜り込み電気を消した。

 

……一体なんで遊佐は怒っていたんだろう?

 

これ以上会話を続けたくないかのようにことごとく食い気味に台詞を遮断されてしまった。

 

ただお礼を言っただけだったのに、何が気に障ってしまったのか…

 

まあアイツは昔から天の邪鬼なところがあったし、今回もそういうことなのかもしれないが。

 

でもまだ片付けとか引き受けてくれてるんだよなぁ…

 

…わからん。

 

アイツは俺のことをまるで心でも読むみたいに分かってくれてるのに、俺の方はまるで理解してやれていない。

 

悠だったら分かんのかな…

 

悠みたくなんでも悟ったようになるのは嫌だけど、たまに羨ましくもなる。

 

自分があんな風に聡ければどれだけ良かったかと。

 

俺が悠なら今の遊佐の気持ちも、それに…岩沢の真意も察することが出来たかもしれないのに。

 

…なんて考えても無駄なんだけどさ。

 

俺が俺のままで気がつかなきゃ意味がないんだから。

 

「ふわぁ…」

 

治りかけているとはいえ、やはり風邪で体力が落ちているからか、眠気が襲ってくる。

 

…明日遊佐に謝ろう。何を謝ればいいのか分かんないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もぞ

 

もぞもぞ

 

「ん~…?」

 

すっかり眠りに落ちていたところを謎の違和感によって目を覚まされる。

 

もぞもぞ

 

何かが布団の中では蠢いていた。

 

「?!!!?」

 

な、なんだ?うちは動物なんて飼ってないぞ?!

 

もしかして泥棒か?!俺のベッドの中に金目のものなんてありませんよ!?

 

もぞもぞもぞ

 

がばっ!

 

「ひっ!」

 

どうやら下から潜り込んでた謎の生命体がついに出口である俺の顔の付近にまで到達し、姿を現した。

 

そいつは冷酷な表情を携え、キラキラと光る金髪をたなびかせた遊佐だった。

 

「遊佐かよ?!」

 

「急に大声を出さないでください。近所迷惑です。それに冷酷な表情なんてしてません」

 

「あ、すまん。ってそうじゃないだろ?!」

 

「しー」

 

「むぐ」

 

困惑のあまりにたまらず叫ぶ俺の口を片手で押さえ、口元に人差し指を立てる。

 

あざとすぎる仕草だが、いかんせん無表情なところにちぐはぐさを感じる。

 

とりあえず分かったから離せというジェスチャーを取って口を解放してもらう。

 

「で、なんでまだ家にいるんだ?しかもベッドにまで潜り込んで」

 

「最後まで看病しなければ役目を終えたとは言えませぬ」

 

「言えませぬ?」

 

「………言えません」

 

噛んだのか?遊佐が?いつもペラペラペラペラ淀みなく喋るあの遊佐が?

 

「なんですか?少し語尾の部分を噛んでしまっただけで私が緊張でもしていると言いたいのですか?めでたい頭ですね。風邪だからだと思いたいですがどうでしょうかね?柴崎さんですから常時そのようなこともありえますね生麦生米生卵」

 

「ごめんなさいすみませんでした許してください」

 

早口すぎて聞き取れないほどに饒舌な遊佐の姿に恐怖すら覚えてくる。

 

ていうか、なんか本物の早口言葉混ざってない?

 

「本題に戻りますが、私は完治を見守るまでが看病だと思っていますので、ここで見守らせて頂きます」

 

「お前なぁ…わりとついさっき男にこういうことするなって言ったと思うんだけど」

 

「はい、私も柴崎さん以外にするつもりはありません。とお伝えしたと記憶していますが」

 

うん、言ったね。確かに言った。

 

けどそういうことじゃないだろ?!

 

「あのな、お前が俺の何を信用してるのか知らないけど、この状況で襲われたってしょうがねえんだぞ?男は獣なんだよ、特に思春期の男子は」

 

「獣ならそんな注意なんてしないと思います」

 

「そういう問題じゃねえんだよ」

 

話にならないと思い、話を打ち切る意味も込めて遊佐に背を向ける。

 

するとその直後に背中にきゅっと服が摘ままれる感触が。

 

「柴崎さんは、私のことどう見えてますか?」

 

「はぁ?」

 

何を言っているのかまるで真意が分からない。

 

声はあくまでも平淡でそこから何を感じ取ることも出来ない。

 

顔は体勢的に見ることは出来ないし、見てもきっと表情に変わりはない。

 

これじゃあ何も分からない。

 

ただひとつ読み取れることは、服を掴む手が微かに震えていること。

 

緊張している…のか?

 

それが男のベッドの中に潜り込んでいるという緊張なのか、この質問がそれほど重要だということなのは定かじゃない。

 

けど、きっとそれがどちらなのか分かっていたとしても俺が答えられることは決まっている。

 

どう見えているかなんて。

 

「大事な幼馴染みだよ…ずっと一緒にいる大事な、大好きな幼馴染み」

 

「そう…ですか」

 

俺の答えに満足したのか、はたまた呆れたのか、掴んでいた手を離す。

 

「よくそんなこと恥ずかしげもなく言えますね」

 

「お前が変なこと訊くからだろうが!」

 

「幼馴染みだけで良いじゃないですか恥崎さん」

 

「誰だそいつは?!」

 

くそ…真剣に答えたらこれだ…!

 

「もういい!ベッドはお前が勝手に使っとけ!俺はリビングで寝る!」

 

「ダメです」

 

「ぐぇっ!」

 

怒り心頭になった勢いで立ち上がろうとしたところで後ろ襟を掴まれて呻き声が出る。

 

「何すんだ?!」

 

「風邪なのに床やソファで寝ることは許可できません。あとうるさいです」

 

「どれもこれもお前のせいだってのがまだ分かんねえのか…?!」

 

「だからここで寝ればいいんです」

 

「だからそれが…!」

「今日だけです」

 

今日だけですから、と力なくもう一度繰り返す。

 

いきなり噛んだり、饒舌になったり、震えたり、元に戻ったり、また弱々しくなったり……

 

「あー、くそ…」

 

ぐしゃぐしゃと頭を掻く。

 

「…勝手にしろ」

 

「良いんですか?」

 

「今日だけだ。あと、風邪伝染っても知らねえからな。んで絶対引っ付くなよ」

 

そう言って遊佐に背を向けて眼を瞑る。

 

「私は柴崎さんみたいに弱くないですから大丈夫です」

 

「うるさい、寝ろ。もう声出すな」

 

その言葉を最後に、月明かりが微かに差す中、俺と遊佐の二人は昔に戻ったように横に並んで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝

 

「風邪を…引きました…」

 

「………………おばさん連れてくるわ」

 

 

 




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