蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「懐かしいな皆!」

結局その後はずっと岩沢の隣で皆が遊ぶ姿を観察するだけだった。

 

折角海に来たんだから泳ごうかとも思ったが、ただただ皆を見つめ動こうとしない岩沢を置いていく気がどうにも起きなかった。

 

まあ合宿は今日だけじゃないし、一日目くらいはこうやってのんびりしているのもいいかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぁ~!腹減ったぁ!!な、柴崎?」

 

夕時になり今日のところは海遊びはお開きとなり、部屋で着替えをしている最中にそう声をかけられる。

 

「あ~…だな」

 

本音を言うと、俺はそこまではしゃいだわけではないので日向や海遊びに興じていた皆ほど腹が空いているわけではないが、ここは合わせておくことにした。

 

変に詮索されたくもないしな。

 

「…しかし今日の晩飯はなんだろうな?」

 

「このあと外に集合だったか?」

 

「ああ、なんでも今日は皆で飯を作るらしいぜ」

 

皆で作る、か。

 

バーベキューでもすんのかな?

 

「ん、ていうか今日はってことは今日だけなのか?」

 

「そういやそうだな。まぁうちの面子は結構料理上手いやつ多いし、そいつらが作るのかもな」

 

「へぇ」

 

あのキャラの濃いメンバーのなかで料理している姿を思い浮かべるのは中々困難だけどな。

 

まあ入江とかは、ザ・女の子って感じで料理も出来そうだけど。

 

エプロンとかすごい似合いそうだし。

 

「ま、明日のことは明日考えるか!まずは今日の飯だ!行くぞ柴崎!」

 

「おいおい急いでも女子が来なけりゃ始められないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の献立は…あ、野田くんドラムロールお願い」

 

「任せろゆりっぺぇ!ドゥルルルルルルルル……ドン!」

 

「ヘッタクソね…まあいいわ。カレーよ!」

 

皆が揃ったかと思えばこんな茶番と共に今日の晩飯のメニューが発表された。

 

「いよっしゃあ!もう腹ペコペコなんだ、さっさとやろうぜ!」

 

日向の言葉に腹が減っている皆はおおー!と賛同の声をあげる。

 

しかしさほど空腹ではない俺はそこで1つ疑問を覚えた。

 

「ん?でも食材は?」

 

皿や鍋なんかは並んであるがカレーに必要な食材は一切揃っていなかった。

 

「おいおいゆりっぺ、今から冷蔵庫に食材取りに行くのかよ?段取り悪くねえか?」

 

「ふふ、甘いわね藤巻くん。あたしがそんな間抜けだとでも思う?」

 

「あさはかなり」

 

「じゃあどうするってんだ?」

 

藤巻の問いかけに対し、仲村は答える前に1度スマホで時間を確認する。

 

「そろそろね」

 

そしてにやりと口角をあげた。

 

「おおーい!ゆりっぺぇ!」

 

すると、その直後とても大きく野太い声が響いた。

 

「来たわね」

 

声のする方に目をやると、何やら荷物を抱えた大きな身体の男、そして二人の眼鏡をかけた男がいた。

 

「お?おお!ありゃもしかして松下五段か?!」

 

「高松くんに竹山くんも!」

 

どうやら何人かは面識があるようで、突如現れた3人を見て嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「懐かしいな皆!」

 

「1年ぶりといったところでしょうか?」

 

「はぁ…はぁ…あの…僕は肉体労働は専門外なのですが…」

 

「おいおい元気してたかよ?!3人とも!?」

 

誰だか分からない俺や悠、そして遊佐に直井、関根と入江を取り残し皆はその3人を取り囲んで盛り上がっている。

 

「ちょっと、近況報告なんてあとでいくらでも出来るんだから。今は今年加わった柴崎くんたちに紹介しないとダメでしょ」

 

「あ、そうだったな。わりぃわりぃ」

 

仲村の声で俺たちが置いてけぼりになっていることに気が付き3人の下から離れていく。

 

「じゃあまず、この人が松下くん。柔道がとても強くて皆からは松下五段と呼ばれているわ」

 

「よろしくな」

 

松下と紹介された彼は、身体はとても大きく、五段という謳い文句に名前負けしない迫力を持っていた。しかし同時に柔らかな目尻や声音から安心感のようなものを覚えた。

 

「そして彼は高松くん。インテリぶってるけどアホよ」

 

「ふっ、よろしくお願いします」

 

カチャッと眼鏡を上げる仕草は確かに知的なものを感じるのだが…否定しないということはきっとアホなんだろう。

 

「最後に、彼は竹山くん。パソコンを使った…まあ色々なことが得意なの。彼は高松くんと違ってちゃんと頭はいいわよ」

 

「クライストとお呼びください」

 

頭は…?という疑問はその直後の台詞で見事晴れた。

 

なんか…変わってるな…

 

この中ならあの松下五段って人が一番まともそうだ。

 

「この3人もうちのクラブのメンバーなの。と言っても学校は全然別なんだけど」

 

「学校が別で同じクラブのメンバーって…なんかめちゃくちゃだな」

 

「いいのよ。そういう肩書きがあればいつだってどこだって仲間だと感じられるでしょ?」

 

「ふん、言葉なんかに頼るような絆などなんの価値もない。本物の絆は僕らのようなことを言うんだ…ですよね、柴崎さん!」

 

「俺とお前も先輩と後輩っていう言葉で表すもんだけどな」

 

「そんなぁ!?」

 

むしろ他に言い表す言葉ねえだろうよ…

 

いつかはこいつとこんなへりくだったような態度とは無縁で仲良くしてみたいもんだ…

 

「じゃあ全員揃ったところで早速調理に取りかかるわよ!」

 

「おお~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と日向、そして松下五段に高松の四人は火を起こすための薪やらなんやらを集めることになった。

 

こんなに桁違いの金持ちなのに、何故薪くらい用意しておいてくれないのだろうかという疑問は一切聞き入れては貰えなかった。

 

「柴崎…だったな。改めてよろしく頼む」

 

「いや、こっちこそ。俺の方が入るのは遅かった…んだよな?」

 

言いながら自分でそこら辺があやふやなことに気が付き自信のない口調になってしまう。

 

「ええ、ですが実質的には柴崎さんの方が共に過ごしている時間が長いのですし、後も先もありませんけどね」

 

「まあお前らはこの時期くらいしか会えないもんな~」

 

「皆どこに住んでるんだ?」

 

長期休暇に入らないと会えないと言うことは、少なくとも都内ではないだろう。

 

「俺は鹿児島だ」

 

「私は石川です」

 

「ちなみに竹山は愛知な」

 

「確かに夏休みとかじゃないと難しいな…でも、じゃあどうして高松たちは日向たちと友達に?」

 

「うむ…説明が難しいんだが、俺たちは全員ゆりっぺと初めに知り合ってから、皆と仲を深めていった」

 

「あー、そういやそうだよな。ゆりっぺに中3の頃だったか?急に紹介されてよ。まあ良い奴らだったからすぐ仲良くなったんだけどさ」

 

「へえ」

 

仲村から接点を持ったのか。

 

それで部活の仲間に…いや、中学の頃にはこんなクラブは無かったのかな。

 

「そういや松下五段、彼女とは仲良くやってんのかよ~?」

 

「う、うむ…まあそれなりに、な」

 

明らかに茶化す気満々といった日向に対して赤面しながら答える松下五段。

 

「彼女がいるのか?」

 

「おう、しかもすっげえ美人だぜ。しかもなんと従姉妹!」

 

「い、従姉妹?!」

 

「そんなに驚くことないだろう…」

 

「い、いやでも従姉妹ってことは親戚とってことだろ?」

 

「従姉妹同士の結婚は法律で認められていますし、問題はありませんよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

うーん、でも親戚と付き合うってことは……まあ俺に年の近い親戚はいないけど、それっぽいのでいくと遊佐とかと付き合うってことだろ?

 

………想像がつかない…のが普段の遊佐の態度のせいなのかなんなのかよくわかんねえな。

 

「いいよなぁ年上美人~」

 

「日向も作ればいいだろう?」

 

「簡単に言うな!このリア充め!」

 

「落ち着いてくださいよ…別に焦って作るようなものではないでしょう」

 

「お前は…やっぱコッチなのか?」

 

日向が宥めようとした高松に向け、手の甲を口に添えるようなジェスチャーをとった。

 

コッチって…

 

「た、高松…!?」

 

「違いますよ!光村はただの仲の良い友達です!」

 

「光村?」

 

「こいつの地元の友達で陸上部のエースなんだが…やけに距離が近いんだ」

 

「スキンシップですよ!」

 

必死になって反論する高松なのだが…なんというか、こんな知的ぶった振る舞いの奴が距離の近いスキンシップをしている絵を浮かべると……何か特別なものを感じさせるのも事実だな。

 

「おいお前ら、早く集めて帰らないとゆりっぺに怒られるぞ」

 

「ちぇっ、しゃーねえから今回は問い詰めないでいてやんよ」

 

「はぁ…助かった」

 

「…………」

 

ていうか日向も十分コッチの人っぽいんだけどな、というツッコミは口にはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いわよあんたたち!」

 

結局急いでも文句は言われるのであった。

 

「すまんすまん」

 

「ちょっと近況報告が盛り上がっちまったんだ。な、柴崎」

 

「ああ、色々聞けてよかったよ」

 

「ふーん…まあ、ならいいわよ。さぁ、さっさと薪に火つけて!」

 

「お、おう!」

 

薪集めの次は火起こしか。

 

ていうか道具どこだ?

 

「はい、ここですよ」

 

「あ、サンキュ。えーと、竹山だよな?」

 

「クライストとお呼びください」

 

あ、そうだったやべえやつだったわ。

 

「えっと、竹山も高松たちみたいな感じでコイツらと知り合いに?」

 

とりあえずクライストと呼ぶのはいろんな意味で恥ずかしいのでやめておき、無難に話題を振ってみる。

 

「クライストです。まあ、そうですね。概ね同じ過程だと思います」

 

「てことはやっぱ仲村に誘われて?」

 

「そうですね。僕の運営してるブログからコンタクトを取ってきました」

 

「へえ、ブログやってるのか」

 

「はい。とても大事なものなんです」

 

大事…か。

 

松下五段は彼女。

 

高松は親友。

 

竹山はブログ。

 

皆それぞれ大事なものがあるんだな。

 

「しかしなんていうか竹山はコイツらとつるむ感じのキャラには思えないんだけど」

 

受け取ったチャッカマンで薪に火をつける。

 

ん…つきにくいな…湿気ってるのか?

 

「クライストです。確かに基本的にはあまり気が合うとは言えない人たちが多いですね」

 

「だよな」

 

「ですけど、楽しいです」

 

ニコリと、さっきまでの取っつきにくそうな雰囲気とは一変して笑顔を浮かべた。

 

それと同時に薪に火がついた。

 

「つきましたね。では鍋を持ってきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちが薪を集めている間に切っていた食材を鍋に入れ煮込み、ルーを入れ、何故か炊飯器ではなく飯盒で炊いたご飯にルーをかけ……ついに…

 

「出来たーー!」

 

「誰も飯盒の使い方覚えてなかったのに気づいた時はどうなるかと思ったよ!」

 

大山の言うようなアクシデントが他にもいくつかあったがどうにか完成した。

 

「はーい、皆行き渡った?」

 

「ばっちりだぜ!」

 

「早く食べましょーよー!」

 

「はいはい、じゃあ食べましょうか。はーい、皆手を合わせて。いただきます」

 

「いただきます…って俺たちは幼稚園児か?!」

 

ノリノリで手を合わせておいて激しいノリツッコミをかます日向。

 

「あなたたちはこれくらいしないと礼儀作法ってものを守らないでしょ?」

 

「俺と他の奴を一緒にすんな!」

 

「貴様…誰に向かって口を利いている?」

 

「やんのか日向?」

 

「お前ら自覚あるから反応してんだろ!」

 

「さ、アホ3名は放っておいて食べましょう!」

 

仲村がそう言うと本当に皆日向たちを放って食べ始める。

 

やれやれだな…

 

「いただきます」

 

ため息を吐きながら呟く。

 

そして一口カレーを食べてみる。

 

おお…旨いな。

 

家で食べるよりも遥かに旨い気がする。市販のルーなのに。

 

「珍しいね、蒼がいただきますって言うなんて」

 

「そうか?」

 

「んー、いや、最近は言ってたかなぁ…そうそう、岩沢さんとデート、した辺りからかなぁ」

 

「………そうだっけ?忘れた」

 

本当は心当たりがあったが態度に出すのを我慢する。

 

別に、ただ言うのが普通だってことに気づいただけの話だし動揺する方がおかしい。

 

「呼んだ?」

 

「………呼んでねえよ」

 

「あっそう?まあ呼ばれなくても来るけどね」

 

でしょうね。

 

そろそろそこら辺も耐性がついてきたよ…

 

「岩沢さんが調教してくれたの?」

 

「?なんのこと?」

 

「蒼がいただきますって言うようになったんだよね、岩沢さんとデートしてから」

 

「……うーん…分からないな。調教…そんな酷いこと柴崎には出来ないし」

 

「えっと…いや、調教っていうか、ね?」

 

「?なんだよ?」

 

「…うん、もういいや。ごめんね、ちょっと他の人と話してくるよ」

 

「ああ、分かった」

 

…悠が負けた。

 

負けたっていうか、まず戦いが始まらなかった。

 

天然恐るべしだな…

 

「千里って変な奴だよな」

 

「………」

 

否定はしないけど悠も岩沢には言われたくないだろうな。

 

「変に頭使って、変な言葉使って、変な態度取ってる。すごく変だ」

 

お前にそこまで言われてる悠が不憫になるが、悠の方を見ると遊佐をからかって発散しているようだし同情するのはやめよう。

 

今度から困ったときには岩沢を呼ぼうかな。

 

「ていうか、こっち来ていいのか?」

 

「なんで?」

 

「ひさ子たちと食べなくていいのか?ってこと」

 

「ひさ子たちはもう散らばって各々色んな奴らと食べ始めてるさ」

 

言われてから見渡してみると確かに散り散りになっていた。

 

ひさ子は松下五段や高松と話し込んでいるし、入江は大山と仲睦まじく食べている。

 

関根は音無と直井のところで直井に鬱陶しがられながらも楽しそうにしていた。

 

「なるほど、余ったか」

 

「そんなわけないだろ。あたしが柴崎と一緒にいたいから来てるんだ」

 

「ああそうかい」

 

こういう言葉を一々真に受けていたらキリがない…よな。

 

「それに…やっぱりこの画が好きなんだよ」

 

「この画って?」

 

「皆がはしゃいでいて、あたしはそれを静かに見てる…そして、隣には柴崎がいてくれる…この画が、ね」

 

それを聞いて思い返すのは海での光景だった。

 

メンバーは増えたが、それは賑やかさが増しただけで、やはり皆楽しそうに言葉を交わしている。

 

確かに良い画だった。

 

そして同時に懐かしさのようなものが込み上げてきた。

 

「どう?これで隣が恋人だったら、余計に幸せだと思わない?」

 

「悪くはないかもな」

 

「本当か?!」

 

「誰もお前と付き合うとは言ってない」

 

「うっ…くそ、いい雰囲気だと思ったのになぁ」

 

悔しそうにしている岩沢に苦笑する。

 

「まあ、なんだ…また来年もこんな画を見たいな」

 

「…来年、か」

 

「ん?」

 

「…ううん。そうだね、あたしも楽しみだよ」

 

この時の岩沢の言葉と少し曇った笑顔の意味を、俺はまだ知る由もなかった。

 

今この時は、ただ、本当にまたこんな光景を見れればいいなと思っていただけだった。

 

 

 




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