蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「なら私を一人占めしたいと言ってくれれば入部しません」

断った。

 

もちろん断った。

 

断固として首を縦には振らなかった。

 

何度口で断っても諦めずに勧誘を続けてきたから最終的には走って逃げた。

 

まあ仲村の足が無駄に速いせいでそれもギリギリになったけど。

 

しかし俺は逃げ切った。

 

これであの超絶問題児お嬢様に関わらず済む。

 

と思っていたんだが……

 

「さあ柴崎くん、大人しくあたしの部に入りなさい」

 

何故か教室に着いて早々仲村に勧誘されている。

 

いや当たり前か。同じクラスなんだし。

 

「断る」

 

「つれないわね本当に…そんなに駄目かしら?あたしのクラブ」

 

「駄目駄目だろ」

 

「どこが駄目?」

 

本気で分かってないという風に顎に手をやりながら首を傾げている。

 

「どこって…全部だろ。名前も意味分かんねえし、何が目的なのかも分かんねえし、それに…」

 

それに、問題児と関わりたくねえし。とつい口が滑りそうになる。

 

「それに…何よ?」

 

急に言葉に詰まる俺を不思議そうに見詰めてくる。

 

いかんいかん。相手は一応理事長の娘だ。昨日は気を使う余裕が無かったからしょうがないが、あまり怒らせても俺の立場が危うい。

 

「…2年の今頃部活に入っても輪に加わりにくい」

 

咄嗟にそれっぽいことを言ってごまかす。

 

「あら、それなら問題ないわよ」

 

「え、何が?」

 

「あなたのお友達も勧誘するもの。さすがに3人揃って入れば大丈夫でしょ?」

 

まるでもう悠と遊佐がその勧誘を受けることが決まってるみたいな口振りだ。

 

「つっても、悠と遊佐は部活に入ったりするようなタイプじゃねえぞ」

 

「あら、そんなの分からないじゃない。あ、ほら丁度千里くんも来たし」

 

今日は朝から彼女と会うというので一緒に登校しなかった悠がこのタイミングで教室に入ってきてしまった。

 

目敏くそれを見つけた仲村はとてとてと悠に近寄っていく。

 

「おはよう千里くん」

 

「やあおはよう仲村さん。何か用?」

 

「あたしのクラブに入ってもらいたいんだけどいいかしら?」

 

「いいよ」

 

「やったぁ!」

 

「ちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇ!?」

 

まさかの即答でOKを出した幼馴染みに驚愕しながら詰め寄る。

 

「何?」

 

何もなかったようにけろっとしている。

 

そんな悠の肩に腕を回して耳元まで顔を近づけて話しかける。

 

「何?じゃねえよ。お前どういうつもりだ?」

 

「どういうつもりって、別に楽しそうだし良いかなって」

 

これは絶対に嘘だと断言出来る。

 

そもそも集団行動が嫌いなコイツがただ楽しそうだというだけでクラブに入るわけがない。

 

絶対何か企んでやがる。

 

「ていうか何?僕が何したって勝手でしょ?」

 

「ちっ、そうかよ。なら勝手にしろ。その代わり俺を巻き込むなよ」

 

そう釘を刺してから肩に回していた腕を離す。

 

「話し合いは終わったのかしら?」

 

どうやら俺と悠の会話が終わるのを待っていたらしい。

 

「じゃあ千里くん、入部届けはあたしの方で適当にやっておくからこれからよろしくね」

 

「うんよろしく」

 

「で、千里くんは入ったけどどうする柴崎くん?」

 

悠と握手を交わしてからぐるりと身体を回れ右して俺の方を向く。

 

「どうもしねえよ。とにかく俺は入る気はない」

 

「そう。まあまだ遊佐さんの勧誘も終わってないしね」

 

そうだ。まだ遊佐がいる。

 

あの無口、無表情、無感情のトリプルMを獲得している遊佐がこんな勧誘を受けるはずがない。

 

「誰がトリプルMですか」

 

「はぅっ」

 

いつの間にか俺の背後に立っていた遊佐が俺の股と股の間を軽く蹴りあげてくる。

 

軽くとは言っても急所だ。その痛みは尋常ではない。

 

「ゆ、ざぁ…!」

 

「え?ブヒブヒ、もっといじめて下さいお願いしますですか?ふぅ、仕方ないですね…柴崎さんの方こそマゾ、マゾ、マゾのトリプルドMなんじゃないんですか?」

 

「お前…後で、覚えてろ…!」

 

いきなり股間を蹴りあげただけでなく、意味の分からない発言の捏造までしてくる我が幼馴染み。

 

しかもやれやれと首をすくめるジェスチャーまでつけて。

 

すげぇ腹立つ…!

 

「た、楽しそうね遊佐さん」

 

その鬼畜極まりない行為を見て明らかにドン引きしている仲村。

 

恐らく勧誘すべきか迷っていることだろう。

 

「ゆ…仲村さん。すみません、気づきませんでした」

 

だからお前は何故会話を聞かず俺の言葉だけでそんな酷いことが出来るんだ。

 

周りも見えなくなるくらい俺をいたぶるのが楽しいのか?

 

「ちなみに全然楽しくないです。柴崎さんが悦ぶので幼馴染みとしての義理でやってあげているだけです」

 

「へ、へぇ、そうなんだ」

 

「てめえいい加減適当言うのやめやがれ!」

 

やっとこさ股間の痛みが和らぎ起き上がって抗議する。

 

「適当ではないです」

 

「適当だろうが!なんで俺が痛めつけられて悦んでんだよ!?」

 

「え?だって柴崎さんの部屋にあるA…むぐっ「お前何を口走るつもりだ!?」

 

とんでもないことを言い出しそうな遊佐の口を慌てて塞ぐ。

 

そしてお前は何故その秘蔵のブツのことを知っている?!

 

「ぷはっ、柴崎さんの性癖は網羅しています」

 

自力で俺の手を口からどけ、またもとんでも発言をする。

 

「何故?!」

 

「弱味を握りたい故」

 

「幼馴染みの弱味を握って楽しいか?!」

 

「とても」

 

「コイツやっぱり性格捻じ曲がってる!」

 

だがしかし!だがしかしだ!俺は肉体的ダメージは嫌いなんだ!適度に言葉とかで責められるのが一番好きなんだ!

 

「…と心で言っていますね」

 

「うわ…」

 

「蒼、それはちょっと…」

 

「なんでそんなところで読心術を発揮するんだ?!」

 

幼馴染みの度を過ぎた悪行に頭を抱えて絶叫する。

 

「うわ、認めた」

 

「しまったぁぁぁぁぁ!?」

 

自ら墓穴を掘ってしまいより深く頭を抱える。

 

「勧誘やめようかしら…」

 

「勧誘?」

 

「あ、そうだったわ。遊佐さん、あたしの部に入ってくれるわよね?」

 

「構いません」

 

「やりぃ!二人ゲット!」

 

「嘘だろ?!」

 

俺が落ち込んでいる少しの間に勧誘が成功してしまっていた。

 

あまりの驚きに抱えていた頭がはね上がる。

 

「なんですか精神M」

 

「やめて!もうやめて!…って誤魔化されねえぞ!なんで入るんだよ?!」

 

思わず耳を塞ぎたくなる言葉に屈しかけるが踏みとどまる。

 

「一々柴崎さんの許可が必要なんですか?」

 

「いやそうじゃねえけど…」

 

そう言われてしまうと何も言えない。

 

けど千里に続いて遊佐まで二つ返事で入部するなんておかしい。

 

長い付き合いだが二人ともそういうのとは無縁の人間だったのに。

 

「私が入部するのが嫌なんですか?」

 

「嫌…っていうか」

 

「なら私を一人占めしたいと言って下されば入部しません」

 

「はぁ?!」

 

突如として脈絡のないことを言い出す遊佐。

 

隣で仲村があら大胆などと言っているが無視だ。

 

「急になに言ってんだお前?!」

 

「柴崎さんが入部を止めたいならそう言って下さればやめます」

 

「なんで…?」

 

「なんでもです」

 

そう言われて考える。

 

そもそもなんで俺はコイツらの入部にとやかく口を出してるんだ?

 

仲村が他の二人が入部したら俺が入るみたいなことを言っていたからだ。

 

でもよく考えろ、あんなの仲村が勝手に言っていただけで俺が従う義務もない。

 

なら

 

「…良いよ。入部でもなんでもしろ」

 

「そうですか。なら入部します」

 

「じゃあ遊佐さん、入部届けはあたしの方で適当にやっておくから」

 

「了解しました。少し席を外しますね」

 

そう言って遊佐は教室を出てどこかに行ってしまった。

 

「で、どうする柴崎くん」

 

それを見送った後、完全に勝ち誇った顔でこちらを見てくる仲村。

 

「どうもしねえっつーの。二人が入ったからって俺が入部しなきゃいけねえわけでもねえし」

 

「強情ねぇ」

 

取りつく島もない俺の態度に仲村は顎に手を添えながら、さてどうしたものかしらと呟いている。

 

その時、ガラガラと教室の扉が開く音がした。

 

その音につられて扉の方に目をやると、岩沢がいた。

 

「岩沢…」

 

岩沢の顔を見て思い出す。

 

昨日自分がしてしまったことを。

 

謝らないと…

 

そう思ったが、気まずさが勝って目を逸らそうとしてしまう。

 

しかし逸らすよりも先にバッチリと目が合ってしまった。

 

岩沢は一瞬ビクリと身体を強張らしたと思ったその次の瞬間、ニッコリと笑った。

 

いつものように。

 

いつも通り、俺を見つけたときのように。

 

そしてタッタッタと早足に駆け寄ってくる。

 

「柴崎!今日も大好きだ!」

 

そして彼女は言う。

 

いつも通りに大好きだと。

 

まるで昨日のことなどなかったかのように。

 

そう考えてから気づく。

 

そうか…コイツは昨日のことをなかったことにするつもりなんだ。

 

俺が苛立って問い詰めたことも、机を叩いたらことも、初めてまともに話したことも。

 

…ああそうかよ。悩んでた俺が馬鹿だったな。

 

なかったことにしたいならそうしてやるよ。

 

「…またかよ。懲りねえなお前は」

 

いつも通り、冷たくあしらう。

 

これが岩沢の望んだことだ。

 

少し顔を悲しそうに歪めかけた岩沢を見て痛む心をそう言い訳して収まらせる。

 

「好きだからな!ていうか、ゆりと何話してたんだ?」

 

「別に何も」

 

「あたしたちのクラブに勧誘しようと思って」

 

「へえ、そりゃ良いな。入れよ柴崎」

 

「入らねえ。つーか、お前仲村と友達なの?」

 

やけに親しそうにしている二人を見て思ったことを口にする。

 

「ああ、ゆりにはあたしたちのバンドのバックアップをしてもらってる」

 

そう答えられて合点がいった。

 

昨日言っていた協力してくれてる奴ってのが仲村ということか。

 

このお嬢様のバックアップがあればさぞ有望なメンバーを引き入れられるだろうな。

 

「その代わりにあたしの部に入ってもらうって形でね」

 

「あっそ」

 

「あっそって…あなたから訊いたくせに素っ気ないわねぇ」

 

「他になんと返せと?」

 

悪いが俺は会話のバリエーションが豊富なわけじゃないからな。

 

返事も素っ気ないものが多い。

 

「雅美、愛してる。とかは?」

 

「ありえねえ。つーか席に戻れよお前」

 

「なんで?」

 

「ここはお前の席じゃねえからだろ。もうすぐチャイムも鳴るし」

 

と言ってもまだ5分近くあるんだが。

 

当然岩沢も納得いかないようで戻ろうとしない。

 

面倒くさいな…どうしたもんか…つーか、何か今のまま話してたらまた怒鳴っちまいそうだ…

 

「岩沢さん、今ちょっと大事な話があるから戻ってくれない?あ、ほらひさ子さんも来たし」

 

そこに思わぬ助け船をくれたのは仲村だった。

 

丁度いいタイミングで登校してきたひさ子を指差しそう言う。

 

「でもひさ子の席ってここだぜ?なら別にここでも良いじゃん」

 

「ひさ子さんにリズム隊の候補のリスト渡してあるから」

 

「行ってくる!」

 

さっきまで駄々をこねていたのはなんだったのか、仲村の言葉を聞いた途端にひさ子の方に向かって走っていた。

 

まあ助かったから良いけど。

 

「あなた岩沢さんと喧嘩でもしてるの?」

 

「はぁ?そもそも喧嘩するほど深い間柄じゃねえよ」

 

「あれだけ好き好き言われておいて?」

 

「あんなもんアイツが勝手に言ってるだけだろうが」

 

「じゃあ昨日あれだけ仲良さそうに話しておいて、かしら?」

 

不意にそう言われて、思わず目を見開く。

 

コイツ見てたのか…?

 

「まあ最後にはあなたが急に怒って終わっていたみたいだけれど?でもそんなことがあった風な素振りも見せないし、かと言って謝ったという風でもないしね」

 

「…だから何だよ?アイツがなかったことにしたいみたいだから合わせてやっただけだ」

 

そうだ。俺はアイツが何もなかったように振る舞ったからそれに合わせた。

 

アイツの望んだことをしてやっただけだ。

 

「ふうん…そう。でももし岩沢さんがそんな風になかったことにしようとしなかったらどうするつもりだったのかしら?」

 

「どうって…」

 

「謝らなかったのかしら?」

 

そう言われてさっき岩沢を見たときに謝らないとと思ったことが頭によぎる。

 

「そりゃ…謝ったかもしれねえけど、だから何なんだよ?」

 

「その機会を与えてあげることが出来るわよ」

 

「はぁ?」

 

「あたしの部に入れば岩沢さんもいるし、二人きりになって話す機会も作れるわ。そうすれば謝ることだって出来るわよ」

 

「だから入部しろって?」

 

「ええ」

 

馬鹿馬鹿しい。

 

そんなの俺になんのメリットがある?何もないだろ。

 

問題児に関わる羽目になって、せっかくうやむやになった問題を自分で掘り返して、しかも今まで避け続けてきた相手と二人きりになる機会まで作られる。

 

デメリットしかないじゃないか。

 

なのに、なんで俺は返事に迷ってるんだ?

 

「どうするの?」

 

「ああ?んなもん…」

 

反射で断ろうと口を開こうとした時、チャイムが鳴ってしまった。

 

それと同時に先生も入ってくる。

 

「あら時間切れね。答えはそうね…昼休みにでも聞かせてもらうわ」

 

「おい!」

 

「じゃあね~」

 

ひらひらと手を振って席に戻っていく仲村。

 

「蒼」

 

「…んだよ?」

 

今の今まで黙っていた悠が後ろからトントンと肩を叩いてくる。

 

「素直にならないと後悔するかもよ?」

 

「はぁ?なんだそれ?」

 

「はいはい。それ蒼の悪い癖だよ」

 

「だから何が…「本当は気づいてるのに気づかない振りをするところ」

 

「…知るか」

 

もう授業が始まるためそれだけ言って前を向く。

 

言いたいことは分かってる。

 

認めたくはないけど、確かに俺は岩沢の態度に対してモヤモヤしている。

 

今まで自分から接点を断ってきていたくせに、昨日の会話をなかったことにされたことに納得がいっていない自分がいる。

 

何を自分勝手なと言われるだろうけど、昨日のことをなかったことにはしたくない…気がする。

 

俺が笑ったことに泣いて喜んでいた岩沢のことをなかったことにはしたくないし、それを壊した自分の行為だってうやむやで終わらせたくない。

 

岩沢が昨日のことを引きずっていたらきっと気まずかっただろうけど、俺は謝っていたと思う。

 

いや違う。多分なんかじゃない。

 

俺は心の底では謝りたかったはずだ。

 

少なくともなかったことにしたかったなんてことはありえない。

 

理由かんて分からないし、謝ったその後どうなるかも分からないけど、そう思う。

 

なら、俺の答えはもう決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

4限の授業が終わるとすぐに俺の席までやって来て、顎でついてこいと命令され人気の少ない廊下の奥まで連れていかれる。

 

目的地に着くとくるりと俺の方に身体を向けて口を開く。

 

「さあ、お昼ご飯もまだだし早速答えを聞かせてもらいましょうか?」

 

まるで答えが分かってるみたいに優越感を感じさせる笑みを浮かべている。

 

思わず断ってしまいたくなる。

 

だがここで変な意地を張れば後々後悔するのは目に見えている。

 

「…入るよ」

 

「よっしゃあ!」

 

渋々そう答えると女子とは思えないほど豪快なガッツポーズを決め出す仲村。

 

「それじゃあ放課後部員たちを紹介するから帰らないでね」

 

「了解」

 

用事が済めばすぐにご飯ご飯~などと鼻唄混じりに教室へ戻っていった。

 

俺も教室一緒なんだけど…まあいいか。購買で何か買って中庭ででも食おう。

 

 

 

 

 

 

「貴様がゆりっぺの誘いを断った奴かぁ?!」

 

購買で焼きそばパンを買って中庭で食べていると、急に紫色の髪をした目付きの悪い奴が現れた。

 

まあ色々訊きたいことはあるけど

 

「とりあえずゆりっぺって誰?」

 

「貴様のクラスの仲村 ゆりのことだ!」

 

そう言われて得心がいった。

 

断ったってのは勧誘のことか。

 

つーかアイツのアダ名だせぇな。

 

「それならさっき入部することになったけど」

 

「……へ?」

 

「まあ座れよ」

 

「あ、ああすまない」

 

ポンポンと俺の正面の芝を叩くと意外にも素直に従って座り込む。

 

「お前名前は?」

 

「野田 一途」

 

「仲村の部の部員なのか?」

 

「ああ」

 

「そっか、これからよろしくな」

 

「ああよろしく頼む…って違ぁぁぁう!!」

 

「うわ、なんだよ?」

 

普通に会話をしていたら急に立ち上がって叫び出す。

 

情緒不安定な奴だな…

 

「俺は貴様と馴れ合うために来たわけではない!」

 

「え、何しに来たんだ?」

 

「ゆりっぺの誘いを断った貴様を叩きのめしに来たのだ!」

 

「いやだからもうそれは勧誘を受け入れたんだから良いだろ?」

 

「そ、それはそうだが…」

 

正論で返されて言葉に詰まってうーんと一人で考え込み始めた。

 

まあいいや、パン食っとこ。

 

「受け入れたなら今回は見逃してやる!が、今度またゆりっぺに逆らえばその時こそ叩きのめしてくれるから覚悟しておけ!」

 

あれから10分ほど考え込んでようやく口にしたのがそれだった。

 

もう昼休みが終わってしまう。

 

「それが結論でいいか?もう教室帰りたいんだけど」

 

「ん、ああすまない」

 

「じゃあ放課後な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無駄に素直な変なのに絡まれた昼休みを終え、更に午後の授業も乗り越え、ようやく放課後が訪れる。

 

約束通り放課後帰らずに残っているのだが…

 

「あれ?千里くんは?」

 

「彼女に弁当箱返さなきゃいけないからと言って帰りました」

 

「はぁぁぁぁ?!」

 

そう。悠が勝手に帰ってしまった。

 

アイツ面白そうとか言ってたくせに一人でさっさと帰りやがって…

 

「リア充死ね」

 

お陰で遊佐の機嫌が大変なことになっている。

 

コイツ悠となんか仲悪いんだよなぁ。昔はそうでもなかったのに。

 

まあ両方無駄に口が達者で頭も回るから反りが合わないってのはあるんだろうけど。

 

所謂同族嫌悪というやつだろう。

 

「あんな人と一緒にしないでください」

 

「ああうん。いやもう慣れたけどいい加減人の心読むのやめようぜ」

 

本当、エスパーかなんかなんですか?

 

「不愉快なことを考えてるからです」

 

不愉快って…そこまで言いますか。

 

「あんな自分は何でも分かってる風な人と一緒にされたら不愉快に決まっています」

 

「あ、そう…」

 

本気で嫌がってるようなのでこれ以上この件に突っ込むのはやめておこう。

 

余計不機嫌になられても後が怖いし。

 

「はぁ…ったくしょうがないわね。いいわ、とりあえず二人だけでも紹介しておきましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ついてきて、と言われて連れられた場所は、校舎とは違った校舎と比べると幾分小さい建物だった。

 

「ここが部室よ」

 

「これ全部がか?!」

 

「ええ、特別に作ってもらったのよ」

 

「成金ですね」

 

「誰がよ?!」

 

お前しかいないだろというツッコミはとりあえず置いといて、それでも流石は理事長のご令嬢といったところか。

 

外から見た感じだけでも十分な広さはありそうだ。

 

しかもこの建物全部ということはいくつも部屋があるんだろうし、部室としては破格のものだろう。

 

…いやこれ理事長の娘ってだけで済ましていいのか?

 

「まあいいわ。とりあえず入りましょう。皆待ってるわ」

 

そう言って扉を開けて中に入るように促される。

 

中に入るとそこには数人の部員がいた。

 

中には見知った奴も混じっている。

 

「よーよー歓迎するぜぇ。確か柴崎だよな?岩沢から話は聞いてたから気にはなってたんだ。同じクラスだしよろしくな!」

 

「あ、ああよろしく」

 

部室に入ってきた俺を見るなり声をかけてきたのは同じクラスの日向だった。

 

「私もいますが」

 

「うおっと?!き、気づかなかったぜ…えーと、遊佐、だったよな?お前もよろしくな」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

俺の後ろにいた遊佐には気がついていなかったようで、声をかけられ驚いていたがすぐにまた気さくに挨拶を済ましていた。

 

「柴崎!あたしも!あたしもよろしくな!」

 

「あ、ああよろ…「よろしくお願いします岩沢さん」

 

いきなり横から現れた岩沢にどんな態度を取れば良いのか分からず無難に返事をしようとしたところに遊佐が割り込んできた。

 

ちょうど俺と岩沢の間に身体を滑り込ましてくる。

 

「…よろしく」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

何がなんだかよく分からないけど今回は助かった。

 

仲村が謝るチャンスを作るまでどう接すれば良いのか迷っちまうし。

 

「ぷっ、くはははは!あんた良いねぇ、面白いよ。あたしもよろしくしてくるかい?」

 

「もちろんです」

 

「よっし、じゃあひさ子って呼んでくれ」

 

「はいひさ子さん」

 

「さんは別にいらないけどな」

 

どこを気に入ったのかは知らないがひさ子のツボに入ったらしい。

 

二人で仲良さげに会話をしている。

 

べ、別に俺はよろしくないのかよとか思ってないからね?!もう席だって前後だし今さらだし気にしてないんだから!

 

「えーっと、柴崎?」

 

「え、ああすまん。考え事してた」

 

心の中で気持ちの悪いツンデレ演技をしていたら気づかない間に話しかけられていたみたいだ。

 

「音無、だよな?同じクラスの」

 

「ああ、柴崎は常識人っぽいし安心したよ。これからよろしく」

 

非の打ち所のない爽やかな笑顔で手を差し出される。

 

くっ、すまない…ちょっと前にツンデレ演技をしていたばかりなんだ…!

 

「柴崎?どうした?」

 

「いや、なんでもないんだ。俺の方こそまともな奴がいて安心した。よろしくな」

 

これからは真っ当に生きようと心に誓いながら音無の手をとる。

 

「Hey!come on let's dance!」

 

「え、あ、いや…」

 

「コミュ障(笑)」

 

「んだとてめえ?!」

 

意味の分からない金髪でバンダナを着けている外人に突然話しかけられて言葉に詰まっていると横から遊佐が馬鹿にしてくる。

 

わざわざ口で(笑)までつけやがって…!

 

「Oh 驚かせてしまって申し訳ありません。今のはほんのjokeですよjoke」

 

「え…?」

 

ついさっき英語を話していた外人が急に流暢に日本語で話し出した。

 

「僕のことはTKと読んでください。あ、ちなみに京都出身のバリバリの関西人ですよー ha ha ha」

 

「紛らわしいわ!ていうかTKってなんだTKって?!」

 

「ニックネームですよ、やだなぁ~」

 

あ、ダメだコイツ。

 

なんか無理。嫌いじゃないけど生理的に無理。

 

つか、バリバリの関西人なら関西弁で話せよ。

 

「まあまあTKをすぐに受け入れられる人なんてそういないよ」

 

「つかそんな奴がいたらそいつ頭おかしいぜ」

 

「お前は確か藤巻…と、誰?」

 

「酷いよ柴崎くん!?僕も同じクラスだよ?!大山だよ!大山 誠だよ!」

 

「あ、ああすまん」

 

本気で覚えていなかった大山にとりあえず謝る。

 

まだ2年に上がってそんなに経っていないんだからそこまでムキにならなくても良いとは思うが。

 

「確かに僕はこれといった取り柄もないけどさぁ…」

 

地味なのが大山にとっての何かの地雷だったようでそのままブツブツとぼやき始めてしまった。

 

「あー、大山くんがその状態になったら放っておくしかないわ。で、あと挨拶してないのは…野田くんね」

 

「…必要ない。昼休みに既に済ましている」

 

「そうなの?まあ何となくは想像つくけど」

 

「ああ、まあ一応」

 

あの宣戦布告の真似事みたいなやつのことなら確かにそうだ。

 

まあ完全に挨拶したのは俺の方からだったけど。

 

つーか、想像つくってことはコイツいつもあんなことしてるのか?

 

「私はされてませんが」

 

「貴様になど余計に今さらだろうが!」

 

「え?知り合いだったのか?」

 

「あ、はい。去年同じクラスでした」

 

「へぇ、そうだったのか」

 

なんだか意外なところで知り合い同士だったんだな。

 

遊佐もそう言われるのが分かっててあえて言うってことはそこそこ打ち解けているみたいだし。

 

「で、顧問は椎名先生なんだけど今日は忙しいから来れないわ。そもそも担任なわけだから今さら必要ないし」

 

「まあそうだな」

 

「ってことで挨拶終了!次にやることはもちろん…」

 

パチンと指を鳴らすと、扉から執事のような人たちが一斉になだれ込んでくる。

 

「な、なんだなんだこの人たちは?!」

 

「あたしの家の使用人よ」

 

「使用人までいるのか?!」

 

「なんだ知らねえの?ゆりっぺの家って結構有名な会社経営してんだぜ?学校もその一貫なんだ」

 

「そ、そうなのか?」

 

全く知らなかった。

 

確かに理事長の娘だからって部室として建物を造ったり、金がありすぎると思った。

 

まさか会社の経営までしてるとは思わなかったけど…

 

「さあ準備出来たわよ!」

 

俺が仲村の家柄のことで驚いている内にてきぱきと使用人の人たちが何か用意をしていたらしい。

 

使用人の人が運んできたやけに豪華なテーブルの上に、たんまりと豪勢なお菓子とジュースの数々が。

 

「これって…」

 

「もちろん歓迎会よ!良い?今日は悩みとかそんなもん忘れてとりあえず騒げ野郎共!!」

 

「「「おぉう!!」」」

 

皆が仲村の号令に合わせて返事をしているのをポツンと取り残されてそれを見ている俺。

 

遊佐は返事こそ大人しくだったが皆に馴染んで普通に歓迎会の輪に溶け込んでいた。

 

「柴崎!あれ食べようぜ!」

 

「あ、ちょ…」

 

どう交ざろうかと考えていたところを岩沢に腕を掴まれて強引に皆のところに引き込まれる。

 

いや、それよりも岩沢にどう接したら…

 

と考えて遊佐がさっきみたいに割り込んでくれないかとキョロキョロと眼をさまよわせると、仲村と目が合った。

 

すると仲村は右目でウィンクをかましてきた。

 

何のつもりだ…?

 

と思った瞬間、すぐに仲村の意図に思い至る。

 

さっき悩みとかそんなもん忘れてと仲村は言っていた。

 

つまりそういうことだ。

 

今日、今現在だけ何も考えず岩沢と接したら良いんだ。

 

昨日放課後に話した時のように。

 

きっと仲村がいつか謝る機会をくれる。

 

だから今はそれを信じて、この会を楽しもう。

 

「ああ…分かった!」

 

 




ちなみに野田の下の名前は一途と書いて、かずとと読みます。

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