蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「いい加減にしなさいよ!!」

その日は朝から様子がおかしかった。

 

話しかけても心ここにあらずで、気づいたと思えば分かりやすい愛想笑いに空元気……

 

「ってことなんだけど、何か知らないかしら?」

 

「……ってことって言われても、なぁ?」

 

「あぁ…」

 

互いに目を合わせてあからさまに困った風な態度を取る音無くんと柴崎くん。

 

「何よ?はっきり言いなさいよ」

 

そんな態度に苛立ちが募って貧乏ゆすりが激しくなっていく。

 

音無くんはあたしの機嫌が悪くなっていっているのを見て慌てて弁解を始める。

 

「い、いやほら、幼馴染みのゆりや大山に分からないなら俺たちが分かるわけないし…な?」

 

「そ、そうそう」

 

「まぁ…そうなんだけどね」

 

そう…本当は大体の予想もついてる。

 

というよりも、それ以外にない。

 

「ごめんね、手間取らせちゃって」

 

「お、おう…」

 

困惑する二人を置いて、当人の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいわね、昼ご飯も食べないなんて」

 

「…ゆりっぺ」

 

遊佐さんに日向くんの居場所を特定してもらい、呑気に芝生で寝っ転がっているところに声をかける。

 

すると、少し驚いたような、でもどこか納得した面持ちで、こちらを見つめていた。

 

「何しにきた?なんて訊かないでよね」

 

「…あぁ、分かってるって」

 

寝転がっていた体を起き上がらせながら返事をする。

 

「ユイって子のこと?」

 

「っ…知ってたのか?」

 

今まで全部分かってたかのような表情を浮かべていた顔がようやく崩れた。

 

「知ってるも何も、あなた大声で話してたじゃない」

 

「いやでも、ゆりっぺ全く反応とかしてなかったし…いつもなら率先して見に来そうなもんなのに」

 

「そうね…」

 

本当にそう。

 

きっと『ユイ』なんて子を知らなければ、せめて運命なんてものを知らなければ…あたしは日向くんの言う通り率先して様子を伺っていたはず。

 

そうよ、知らなければ…

 

『ユイってやつなんだけど――』

 

こんな言葉だけで胸が抉られるような思いをせずに済んだんでしょうね…

 

「今はあたしも忙しいから、流石に構ってられなかったのよ」

 

でもそんなことを言うわけにいかない。

 

だから適当な嘘で取り繕っておく。

 

「で、いよいよ忙しさなんて気にしてられないくらい俺の様子がおかしかった…ってか?」

 

「ま、その通りね。正直気持ち悪いわ」

 

「きも…っ…いやいやいや、もうちょっと色々言い方あんだろゆりっぺぇ~…?」

 

「ないわよ。あなたはいっつも馬鹿みたいに軽くて、馬鹿みたいに変なツッコミして…」

 

馬鹿みたいにお人好しで、馬鹿みたいに人の心配して、それで……

 

「馬鹿みたいに笑ってないといけないのよ」

 

「それだけ聞くと俺すげえ馬鹿な奴なんですけど…?」

 

「あら、馬鹿じゃない」

 

「否定はしねえけどよ…」

 

「否定しないのなら、早く話を聞かせてくれないかしら?」

 

時間はあまりないわよ、と校舎についている時計を指さして伝える。

 

すると、少しだけ悩んだ後、事の経緯を話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピンポーンと、呼び鈴を鳴らす。

 

『はい…』

 

聞こえてきた声は、あの子の声。

 

「日向くんの幼馴染みの仲村ゆりよ。出てきてもらえる?」

 

出来るだけ抑揚を無くし、要件だけを伝える。

 

そうしないと、すぐにでも怒りが爆発してしまいそうで。

 

意外と素直に、いやもしかしたら何かを感じ取ったのか、ユイはすぐに玄関を開けて出てきた。

 

「なん…ですか?」

 

おずおずとした申し出に、またしてもあたしは短く言い切る。

 

「話があるから、ついてきて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を河川敷に移し、一旦気持ちを落ち着かせてから話を切り出す。

 

「改めて自己紹介させてもらうわね。仲村ゆり、日向くんとは小さい頃からの仲よ」

 

「そう…ですか」

 

あたしの言葉の端々から敵対心を感じたのか、少し躊躇ったような反応をする。

 

しかし構わず話を続けていく。

 

「あなたのことは日向くんから聞いてきたわ。今、関係が拗れてることも……その経緯も」

 

あたしの言葉を聞いて、肩がびくんと跳ねる。

 

それが何に起因するものなのかは分からないけど…

 

「ヒーローになって欲しいって言ったくせに、いざヒーローなんだからって言われたら突き飛ばしたらしいじゃない」

 

また、びくんと跳ねる。

 

次第に顔も俯き気味になっていく。

 

…あなたが日向くんに対してどう感じてるのかは分かるわよ。

 

「後ろめたい…のよね?」

 

がばっと、顔を上げた。

 

なんで…?

 

そう顔に書いてあった。

 

「図星、ね」

 

「な、なんで…」

 

やっぱり。

 

「まああなたの立場になったつもりで想像してみたってところ」

 

「じゃあ…」

 

「ええ、分かってるわよ。あなたが日向くんのことを好きになってしまったこと」

 

そう言い終えると、すぐさまユイの顔色が悪くなっていった。

 

そして…

 

「ち、違う!!」

 

否定した。

 

「何が…かしら?」

 

「ひなっち先輩のことなんか好きじゃない!」

 

「………はぁ」

 

予想出来なくもなかった台詞だけれど、思わず呆れて溜め息が出てしまう。

 

「日向くんから経緯は全部しっかり聞いたの。そんなので誤魔化されるわけないでしょ?」

 

「でも…違う…」

 

「まだ言うの?ならはっきり言わせてもらうわ。あなた、日向くんが軽口で言った言葉で自覚しちゃったのよね?」

 

『お前が俺のことを意識しまくってるからそんな風に思うんじゃねえか』

 

なんて、いかにもあの間抜けな無自覚タラシ男が言いそうなことね。

 

そんなので自覚しちゃうこの子もこの子だけど。

 

…いや、どのみちあたしの言えたことじゃないか…

 

「それで、自分から日向くんに下心持ってるとがっかりする…とかなんとか言ったくせに、自分が下心を持っちゃってたことが後ろめたいんでしょ?」

 

「ち、違う!下心なんて持ってない!ヒーローに助けてもらうヒロインも下心なんて持っちゃいけないんだもん!」

 

未だ認めようとはしない。

 

否定の言葉はまるで子どもが駄々をこねているよう。

 

もう…我慢の限界…

 

「いい加減にしなさいよ!!」

 

「っ?!」

 

きっとユイからすればそれまで冷静だったあたしが急にキレたように映るかもしれない。

 

けど、あたしは日向くんから話を聞いた時点でもう沸点なんてとうに越えていた。

 

「ヒーローとかヒロインとか…ふざけないでよ!あなたたち何歳?!ごっこ遊びなんてしてんじゃないわよ!!」

 

「……っ!?遊びなんかじゃない!本気だもん!」

 

あたしの言葉を聞いて、ただ怯えていただけの表情に怒りの火が灯った。

 

でもそんな小さな火じゃあたしの炎は消えやしない。

 

「遊びよ!ヒーローなんてこの世にいない!ヒロインだってこの世にいない!あなたはただのユイで、彼はただの日向くんなのよ!」

 

「そんなの…」

 

「分かってるって言うつもり?!分かってないでしょ!いいえ、気づかないふりをしてるだけ!あなたも日向くんも!!」

 

日向くんだって分かってる。ヒーローなんかになれやしない。

 

少なくともユイのヒーローなんかに。

 

だって彼も…

 

「向き合いなさいよ!ヒーローじゃなく、日向くんと!ヒロインじゃなく、ユイとして!」

 

「そんなことしたらひなっち先輩に…」

 

「幻滅される?かもしれないわね。あなたは自分から言った我が儘を自分からやめようとしてるんだから」

 

「………」

 

ここで、ここでもし、ユイに変な入れ知恵をすれば、日向くんを諦めるかもしれない。

 

そしたら、日向くんはあたしに振り向いてくれるかもしれない。

 

「でも…日向くんはそんなことで人を嫌いになんてなれない」

 

なのに…なんでこんなことを言ってしまってるのかしら…

 

「……え…?」

 

「あなたは…日向くんに酷いことをしてる…とあたしは思うわ」

 

きっと日向くんが最初に手助けをすると言い出したのは、本当ただのお節介だったんだと思う。

 

それを、日向くんの無自覚タラシスキルがあったとは言え、ユイは疑った。

 

そして、日向くんに釘を刺した。

 

好きになられるとがっかりするかも。

 

そんな、深い深い釘を。

 

彼はきっと、本当はもうユイのことが好きだって分かってる。それでも気づかないふりをしていないと、ユイに拒絶される。

 

それを避けるために、ヒーローになった。

 

仮そめのヒーローに。

 

これで大丈夫。隣にいてもいい。

 

そう思った矢先のこの出来事だ。

 

きっと傷ついた。絶望した。

 

今も悩んでる。

 

「だけど、彼はあなたを許すわ。必ずね」

 

「なんで…?」

 

「そんなこと本人に聞きなさい!あなたは人の力を借りないと立てないの?!歩けないの?!何も出来ないの?!違うでしょ!?」

 

そう、昔のあなたとは違う。

 

「今のあなたは彼のためになんでも出来るのよ!」

 

「なんでも…」

 

「そうよ…そして、彼の願いを叶えることは、あなたにしか出来ないの」

 

「先輩の願い…?」

 

「あなたの隣にいたい。助けたい。そういう願いよ」

 

本当はもっと先の願いもあるんだけどね…

 

「でも…」

 

しかしこれだけ発破をかけてもまだ俯き、暗い顔をしているユイ。

 

「でもじゃない!…あーもう!良い感じに話まとめようと思ったけどやめ!あたしの本音言うわよ?」

 

「は、はい…」

 

「あなたのことも日向くんのことも知ったこっちゃないわ!このまま最終的に何も関係が変わらなくたって良い。でもちゃんと向き合って話し合いなさい!あたしのためにね!」

 

「……は?」

 

突然割り込んできた、『あたし』という言葉に呆気に取られている。

 

「あたしも日向くんが好きなのよ。昔からね」

 

「え…それって…」

 

「そう、本来あたしとあなたは恋敵とでも言うべき間柄よ」

 

「じゃ、じゃあなんであたしにこんな風に助言してたんですか?!」

 

「あたしは…彼の運命の相手じゃないからよ」

 

そう言うとあからさまに、何言ってるんだこの人?みたいな目で見てくる。

 

「運命って…あの…ついさっきヒーローがどうなんてごっこ遊びとか言ってませんでしたっけ?」

 

「まあそうね。あなたの言いたいことも分かるわ。じゃああえてあなたの言葉を借りて言わせてもらうわ」

 

「は、はい?」

 

要領を得ないユイを放って話を続ける。

 

「あたしは何年想いを募らせたって、ヒロインにはなれなかった」

 

こちらで日向くんを好きになって、記憶を取り戻してから4年…

 

あちらの世界も含めれば…もう数えるのも億劫になるくらい長い片想い。

 

……それでもあたしはなれなかった。

 

「そんな立場にあなたはいとも簡単になったのよ?!もう、ふざけんな!って感じじゃない?」

 

「確かに…そうですね」

 

ここまでの会話の中でようやく聞くことが出来た、同意の言葉だ。

 

「まあ、ヒロインなんてこの世界にはいないって考えは変わらないけれどね、でも…女の子は好きな人の前ではヒロインになりたくなるものってのは、よく分かるわ」

 

あたしだって、何度夢見たか分からないもの。

 

「ああやって挑発すれば、あなたの性格なら発奮するかと思ったの。ごめんなさいね」

 

すっと、握手をするために手を差し出す。

 

「は、はい」

 

ユイも若干戸惑いながら手をこちらへと差し出し…

 

「あ、でもキレてたのは本気よ?」

 

…たのだけど、あたしの台詞を聞いて、さっと手を引いていった。

 

ふふ、と笑いをもらし、会話を続ける。

 

「あなたはヒロインもヒーローも下心は持たないって言っていたけど、果たして本当にそうかしら?」

 

「え、違いますか?」

 

「あたしの想像するヒロインとヒーローっていうのは、最終的に付き合ったり結婚したりするわね」

 

「た、確かにそうかも…」

 

うぐぐ…と頭を抱えてしかめっ面になっているユイ。

 

多分、会話の流れで言った言葉のせいで頭でっかちになっちゃってたのね。

 

「だから、良いのよユイ。好きになっても」

 

「良いんでしょうか…」

 

「良いの。ダメなんて言う奴がいたらあたしが社会から消してやるわ」

 

もちろん日向くん込みで。

 

「怖いですよ!?」

 

「あたし以外にあなたたちを邪魔させたりしないわ。だからほら、さっさと話し合って来なさいよ。きっと彼なら今頃野球の……」

 

と話していると、ピリリリリと機械音が流れた。

 

その音の正体はユイの携帯の着信音で、ポケットから携帯を取り出していた。

 

「せ、先輩?!」

 

「あら早速チャンスね。ほらほら、早く出なさいよ」

 

目一杯虚勢をはって茶化す。

 

ユイは照れながら、少し間をおいて通話ボタンを押した。

 

「も、もしもし…」

 

少し声を震わせながら応答すると、やけに大きな声で日向くんが何かを言っていた。

 

流石に内容までは分からないけど、かなり切羽詰まったような雰囲気だった。

 

そして、それを聞いたユイは瞳孔が開いているんじゃないかっていうくらい目を見開いて、口元を震わせていた。

 

「どうかしたの?」

 

様子がおかしいので、声をかけるも、返事をしないので肩を揺さぶる。

 

ようやくこちらへ振り返って、震える口を動かした。

 

「お母さんが…」

 

お母さん…って、確か病弱って言ってたわね…

 

「お母さんが、どうしたの?」

 

「お母さんがぁ…倒れて…病院に運ばれた…って…」

 

そう言うと、その場にへたりこんで携帯を手放した。

 

まだ電話は切れていなかったので、それを手にとって日向くんへ呼び掛ける。

 

「日向くん。あたしよ、ゆり」

 

『ゆりっぺ、やっぱユイといたのか』

 

「今はそんなことどうでもいいわ。ユイを連れていくからどこの病院か教えてちょうだい」

 

『場所はお前んとこの病院だよ……急がなくて良い。ゆっくり、時間かけて来てくれ』

 

「こんなときに何を…」

 

『頼む…ユイが落ち着いてから来てくれ』

 

……確かに今ユイを連れていったって何かを出来るわけでもない。呆然として、立ち尽くすだけだろう。

 

けど…だとしてもわざわざ時間をかけて、なんて日向くんが言うとはとても思えない…

 

だとすると、誰かが日向くんにそう指示をしてる…そして、日向くんもそれを了承してる…か。

 

「…分かったわ。でも稼げても精々一時間よ?」

 

『ああ、充分だ。サンキュ…ゆりっぺ』

 

「良いわよ、成りゆきだもの」

 

そう言って、通話を終えた。

 

そして、今度は自分の携帯を取り出して、使用人の一人に電話をかける。

 

ワンコールで電話を取る優秀な使用人に感謝をしながら、河川敷まで迎えにくるよう伝えた。

 

「…ユイ、とりあえず立ちなさい」

 

返事はないけど、手を差し出すとしっかりと取って立ち上がった。

 

目はまだ虚ろとしている。

 

「しっかりしなさい…日向くんがついてるから」

 

……こんなこと、失恋して間もないあたしに言わせるなんて…本当に神様ってのは悪趣味ね…

 

 




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