「おめでとう、日向くん、ユイ」
そんな祝いの言葉をもらったのは、球技大会後初の部活の後だった。
「お、おう」
「は、はい」
二人して微妙な反応になってしまう。
いやでもこっちからしたらそりゃそうだろって話だ。
なんせ向こうでの記憶が戻った俺からすると、その…
「なによ?惨めに振られた女からの祝福なんていらないってのかしら?」
「ちちちちげえって!?嬉しいって!」
「そそそそうですよぉ!」
ただこう、ゆりっぺからの素直な言葉ってなんか慣れねぇんだよなぁ。
「まあいいわ。気持ちは分かるし」
怒られるかとひやひやしたけど、そうはならなさそうで安堵する。
「そろそろ記憶が戻ってるメンバーが帰ってくるわね」
「つっても、もうほとんど戻ってるんだろ?」
確か、あとは音無に直井と関根、そして柴崎だけだったはず。
部活のメンバーじゃないけど奏ちゃんもか。
「そうね。でも、残りが問題なのよ。特に直井くんね」
「あぁ…」
名前を出されただけで思わず納得しちまう。
アイツはそもそも向こうでだって何がどうなって関根とあんな風になってたのかまるで分からない。
「なぁユイ、直井と関根ってどっちが先に片想いになってたんだ?」
「関根さんだと思いますよ?」
「思いますよ、か」
「だってあの自称神さんがいつ関根さんのことを好きになってたのか分からないですもん」
自称神さんって…いや全くもってその通りだけどよ…
「近くで見ててもそんなもん…ってことだよな」
「今の彼も読めないわ」
「と言うと?」
「相変わらず関わられるのは嫌がるけど、関根さんがクラスでイジメにあいかけた時には助けに入ったらしいのよ」
「アイツがかぁ?」
いつもいつもやっかまれる身としては信じがたいぜ。
「じゃあもう好きなんじゃねえの?」
人と関わるのが嫌というか、もはや人嫌いの域に達してるアイツがそんなことをするというのは、もうそうとしか思えない。
「彼の場合、そこがよく分からないから厄介なのよ…」
確かに他のやつらなら良くも悪くも付き合いが深いから考えがある程度読める。
その点、直井は群を抜いて関わりが浅いんだ。
「ていうか、もうほっとけば勝手に付き合ったりするんじゃないですか?」
「はぁ?」
この話し合いを根底から覆すようなことを言い出すユイ。
「だって、今付き合ってる人たちって別に仕組んだ結果ってわけじゃないんですよね?」
「そうね。仕組んだわけではないわ」
「なら関根さんたちも勝手に付き合うんじゃないですか?」
「あのねユイ、確かにあたしは仕組んでまで付き合わせたわけじゃないけど何もしてなかったわけじゃないのよ」
「そうなんですか?!」
コイツ…俺たちも散々背中押されたこと忘れてやがるな…
あー、ほら、ゆりっぺがあからさまにイラッとした顔してるぜ…
「……そもそも、ガルデモにマネージャーなんてのを無理矢理付けたのも接点を増やして、恋が芽生える可能性を上げるためだしね」
「でもでも、それは関根さんもされてますよね?」
「それでも、それだけでは足らないのかもしれないでしょ?」
「それはそうですけど…」
「まあ、そもそもゆりっぺは無理矢理くっつけるつもりもないんだろ?」
このまま二人で話してても平行線を辿るだけになりそうなので、話に割ってはいる。
「…ええ。最大限の助力はする。けど、それがあの子達の未来を狭めるだけなのならやめるつもりよ」
「そ、それは困りますよぉ!関根さんにも記憶を…」
「おいおいどうしたんだ?そんなに騒いで」
ユイが抗議しようとしたその時、丁度部室に戻ってきたひさ子の声によって遮られる。
「ひ…」
「ひ?」
「ひさ子さぁぁぁぁぁぁん!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
さっきまでゆりっぺに迫っていたはずなのに、何故かひさ子に飛び付いていた。
「なんなんだよ?!離れろ……!この…!」
「あいだがっだでずぅ~…!」
「さっき帰るふりする前に会ってんだろうが…!」
「ぞうですげどぉ~…!」
めちゃくちゃ拒絶されてるのに尚抵抗を見せるユイ。
はぁ…とりあえずひさ子に手を貸すか。
「ん?何やってんの?」
「ユイ~ひさ子さんに迷惑かけちゃダメだよ~」
と思っていたら続々とガルデモメンバーが部室へとやって来た。
「岩沢さぁぁぁぁぁぁん!!入江さぁぁぁぁぁぁん!!うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「え、うわ?!」
「きゃっ?!」
次なる被害者はこの二人だった。
「ひなっち先輩……」
帰り道、ユイが神妙な顔をして名前を呼ぶ。
「……ああ」
言おうとしてることは明らかだった。
「岩沢のこと…だろ」
「はい…まさかあんな…」
ユイが動揺してるのも無理はない。
まさか岩沢があんな状態になるなんて思いもしねえしな…
あれはユイが岩沢と入江に抱きついたしばらく後、なんだかんだユイを引き離すことに成功し、他の皆が戻ってくるのを待ってる時だった。
「そういえば柴崎先輩って、なんで今日来てなかったんですか?」
「球技大会で活躍しすぎて追われてんだよ」
「え?!柴崎先輩そんなモテモテになってるんすか?!」
「ちげーちげー。運動部の連中にさ」
そんな会話をしていた。
今から思えば、この時点でおかしいことに気づくべきだった。
普段ならここで得意気に『ようやくあたしの柴崎の良さが伝わったんだな』とか言ってそうなもんなのに。
「いやいや、でも分かんないぜ?あれだけ活躍したんだから、一人や二人柴崎に惚れてたっておかしくないだろ。な、岩沢ぁ~?」
「ん?そうだな」
「い、いや岩沢…?柴崎がモテちまうんだぞ…?いいのかよ…?」
軽口を叩いた側のはずのひさ子が顔を強張らせて問い直す。
すると、岩沢は不思議そうに首を傾げる。
「あ…れ?そう…だよな。それは…困る」
異常だった。
柴崎が大好きなはずなのに、というのを除いても、その話し方はおかしいと言うほかなかった。
途切れ途切れに発する言葉からは、自分でも確信を得られていないことが伝わってくる。
「岩沢さん……疲れてるのね。今日は帰りなさい」
「え…でも…お祝い…あれ?なんのお祝いなんだっけ……?」
「おい…これ…」
言葉を失ってしまう。
なんのお祝いか忘れるって、まるで記憶喪失みたいな…
「岩沢さん、帰りなさい。帰って、何度も反芻して」
「……何を?」
「あなたの一番大切な人のことよ」
その後、岩沢は言われた通り帰宅した。
そして遅れて戻ってきたメンバーたちと合わせて、岩沢がどういう状態なのかの説明をうけた。
何故そうなったのか、誰がそうしたのか、そして、どうすれば治るのか。
「柴崎さん…どうするんでしょうか…」
「さあな…」
事態がどういうものなのか分かってればアイツは動くだろう。そういうやつだ。
ただ、アイツには何も知らせちゃいけない決まりだ。
昔のアイツなら、それでも岩沢が変なら行動をしてたはずだけど、今はそうはいかない。
「柴崎がどのくらい岩沢を想ってるのか…だな」
「それなら…それならきっと大丈夫です!二人はお似合いのカップルですからね!」
「ははっ、だな」
そうだ。アイツらはお互い他の相手なんて考えられないくらいお似合いだった。
なにも心配するようなことなかったのかもしんねえな。
「ま、あたしたちには劣りますけど!」
「よく言うぜ。昔はこっちから頼まなきゃ好きとも言ってこなかったのによ」
ん?あれ?よく考えたら今も好き、とは言われてない…?
「って、こっちでも言ってねぇじゃねぇか?!」
そう叫ぶとユイはギクッと肩を竦ませる。
「お前…成長しねぇなぁ…」
「ち、違いますよ!前は…時間がなかったからだし、今はタイミングがなかったというか…」
「いーや、あったろ。俺が好きだって言ったりプロポーズしたときに言えるだろ」
ジト目で抗議すると、ユイはうぅ~…と唸りだす。
「じゃあなんなんですか?!無理矢理好きって言わせて満足なんですか?!どうなんだごらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「逆ギレ?!ホワァーイ!?」
「へーんだ!ひなっち先輩のバーカアーホ!残念イケメーン!!」
「なんだ…とぉ……?」
最後のは罵倒だと受けとればいいのか…?
「好きって言うのは…ちょっと待っててください。馬鹿先輩」
「お…おう」
て、馬鹿は余計だわ。
「前は最期だったから、言われるがまま言いましたけど…今度は、あたしから言いたいですから!」
成長してない…は、撤回しねぇとな。
「おう。待ってんぜ」
「はい!……あ、でも無理矢理好きって言わされそうになったってお父さんには報告しときますね」
「それはやめてください!!」
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