蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「それで…付き合えるなら…やる」

今度は俺の番、と息巻いて早3日。

 

しかし全く手応えは得られていないのが現状だ。

 

部室で話しかければ…

 

『集中したいんだけど』

 

と、暗に話しかけるなと言われてしまい、それならと教室で話しかけると…

 

『はぁ…』

 

と、深いため息を吐いてどこかへ立ち去ってしまう。

 

追いかけてみても女子トイレへ入られてしまうと、それ以上どうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすればいい?」

 

時は部活中。

 

あまりにも厳しい情勢に、遊佐を部室の外へ連れ出して作戦会議を行う。

 

「いや知りませんよ…」

 

「そこをなんとか!こう取りつく島もないと心が折れそうなんだ!」

 

手を合わせて頭を下げながら助けを乞う。

 

「…焚き付けておいた身でなんですが、珍しいですね。ここまでされて諦めないというのは。今までの柴崎さんなら流石にもう投げ出していると思うのですが」

 

確かに遊佐の言う通り、今までの俺なら…いや、きっと本当は今の俺だって変わりはないはずだ。

 

それでも諦めていないのは

 

「アイツ…なんかつまらなさそうなんだよ」

 

この3日でそう感じた。

 

これまでのアイツはやることなすこと滅茶苦茶だったけど、心底楽しそうだった。

 

なのに、今はうって変わって退屈そうで…まるで何かを失ったみたいだ。

 

「それが見てられないんだよ」

 

もはや俺との関係修復なんかより、よっぽどどうにかしたい。

 

「本末転倒じゃないですか」

 

「それでも…今のアイツは見てられねえよ。知ってるか?今のアイツ、歌を歌ってても笑わねえんだ」

 

ありえるか?あの音楽キチがだぜ?

 

いつだって楽しそうにしてた…なのに…

 

「アイツには…笑っててほしい」

 

アイツにとって音楽は一番大事なもののはずなんだ。

 

その音楽に対して笑えないなんて…あっちゃいけない。

 

「……はぁ。なら勉強を教えてと言ってきてください。それも岩沢さんのお家で」

 

「え?は?」

 

「作戦ですよ。仲直りのための」

 

「こ、これがか…?」

 

話すことすら拒否されてるのにいきなり家で勉強会なんて…

 

「部活時は集中したいから。部活前にはトイレに行くから。その2つを崩すとすれば、放課後で、かつトイレへ行かれても待っていて当然の状況を作るべきです」

 

「いやいやいや、まず勉強会を断られるだろ?」

 

「岩沢さんは、故意に人を無視していて平然としていられる方ですか?」

 

「…いや」

 

そんなわけない。

 

そんなやつだったら、俺はこんなに必死にはなってない。

 

「態度が変わろうと、本質は変わりません。私がこうなった時のように、岩沢さんは岩沢さんなんです」

 

「…ああ」

 

「ですから、これが最善です。ですが、そこからは柴崎さん次第ですよ?」

 

「分かってる。ありがとな。また頼っちまって悪い」

 

「いえ、私はいつでもウェルカムです。もっと求めてほしいくらいですよ」

 

「あー、んじゃまた困ったときはよろしくな」

 

とは言いつつこれ以上甘えることのないよう心構えをする。

 

絶対この作戦でアイツを元通りにしてやる!

 

「お疲れ~っす」

 

と、息巻いたのもつかの間。

 

なんとも間延びした緊張感のない声が聞こえてきて気が抜ける。

 

って…お疲れ…?

 

「やっべ、もう下校時間か!」

 

もたもたしてたら岩沢が帰っちまう。

 

「今日調子よくなかったな」

 

「そう?」

 

そう思っていると聞きなれた、けれどどこか熱のない声が耳に入った。

 

岩沢帰ってんじゃねえか!

 

慌てて部室に戻り帰り支度を始める。

 

帰り支度と言っても鞄を取るだけなので脱兎のごとく部室を後にしようとする。

 

「柴崎さーん!」

 

「すまん!今日は急いでるからまた今度な!」

 

声をかけてきた直井を一蹴して部室を飛び出す。

 

既に校門近くに差し掛かっていた岩沢たちの背中を捉え、呼び止める。

 

「岩沢!」

 

「…何?」

 

「あ…岩沢、あたしたち帰るからさ、ゆっくり話しなよ」

 

俺のただならぬ雰囲気を察してくれたのか、すんなりとこの場を去ってくれようとする。

 

「え…」

 

しかしあからさまに岩沢は嫌そうな顔をする。

 

「ねえ柴崎、話すなら手短に用件だけ話して」

 

ここで嫌だと言えばそこで終わりだ。

 

「べ、勉強教えてくれないか?!お、お前の家で!!」

 

「……は?」

 

完全に呆気に取られていた。

 

ていうか、なに言ってんだこの馬鹿は?みたいな顔された。

 

「ほら!テスト近いじゃん!俺理数苦手でさぁ!」

 

「遊佐に頼めば?遊佐の方が成績良いだろ?」

 

その答えは想定内だ。

 

「遊佐はちょっと忙しいらしくてどうしても無理なんだよ!お前しか頼れないんだ!頼む!」

 

手を合わせて拝み倒す。

 

「いや…でも…」

 

「いいんじゃない?最近柴崎にえらく冷たかったし、それくらいしてやれば?」

 

「ひさ子…」

 

ひさ子ナイスアシスト!

 

目に見えて悩み始める岩沢。

 

大丈夫だ。

 

岩沢は岩沢。変わりやしない。

 

アイツなら…

 

「今日だけだぞ…」

 

そうこなくちゃな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人乗りを固辞され自転車を押しながらの帰り道。

 

会話をしようとしても中々弾まず不発。

 

かなり気まずかったがひとまずそれも乗りきる。

 

ようやく岩沢家に到着だ。

 

「ほら、上がりなよ」

 

「お、お邪魔しまーす」

 

岩沢に促され上がらせてもらう。

 

つーか…よくよく考えたら女子の家に上がるのなんて遊佐以外じゃ初めてだな…

 

「そんな畏まんないでいいよ。今他に人いないから」

 

「え……」

 

1つ注釈をつけておくと、俺は畏まっていたわけじゃなく、単に緊張していただけだ。

 

そして、その言葉でそれは更に強くなる。

 

コイツいつか襲われるぞ…!

 

「そ、そうか。親は?」

 

とりあえず平静を装いながら質問する。

 

「アンタに関係ある?」

 

「わ、悪い」

 

それは思わぬ地雷だったらしく、睨み付けられる。

 

「……あたしの部屋二階だから」

 

そう言って、階段を上がりだす。

 

ついてこい…ってことでいいんだよな。

 

黙々と階段を上がるとすぐにある部屋に入っていく。

 

俺も続こうとした時、歩みを止めてこちらをじろりと一瞥する。

 

「ちょっと待ってて」

 

「あ、ああ」

 

そうか、そうだよな。そりゃ突然の来客だし部屋の掃除だとか色々あるよな。

 

そう納得して数分待っていると、扉が開けられて岩沢が顔を出す。

 

「もういいよ」

 

「分かった。……じゃあ、改めてお邪魔します」

 

いよいよ岩沢の部屋に入ると思うとまた緊張がぶり返してくる。

 

一歩足を踏み入れると、ふわっと何度か嗅いだことのあるような匂いがする。

 

何だったかと頭を巡らせるとすぐに思い付いた。

 

「岩沢の匂いだ…」

 

「…はぁ?!」

 

やべ、声に出てたか?!

 

「アンタ…まさか変なことするつもりで家に来たのか?!」

 

「違う違う!嗅いだことある匂いだなって思ってつい何か考えちまったんだよ!好きな匂いだったから!」

 

「~~~っ!!い、いいから勉強道具出せ!そこ座れ!」

 

「は、はい!!」

 

あまりの剣幕に即座に従ってしまう。

 

まあ確かに今のは変態的な台詞だったししょうがないか…

 

「……で、どこがわからないんだよ?」

 

不機嫌そうに、机を間に挟んで真正面に座る。

 

「えっと、わりと理数は全体的にやばい…かな」

 

「なんだ、そんなに馬鹿だったのかアンタ?」

 

「理数だけだよ。他は平均以上ある」

 

「理数が出来ないってのが理解出来ないけどね。答えを弾き出すのが一番簡単な教科じゃないか」

 

へん、理数系のやつらは皆そう言うんだ。

 

「答えを弾き出すためには式を理解してたいと駄目だろ?それが苦手な奴には無理なんだよ」

 

「だから、なんでそれが理解できないのか分からないってことだよ」

 

「なんていうか、そもそも意味わかんないんだよ。数学なのにXとかYとか、それどこから急に出てきたんだよ?みたいな」

 

「そりゃ、基礎から学び直さないと難しいな」

 

「…はい」

 

冷静に分析されると恥ずかしい…

 

まだ馬鹿にされた方がテンションが保てて気が楽だったなぁ…

 

「じゃあちょっと中学の頃に使ってた参考書でも使おうか」

 

「ちゅ、中学の範囲からかぁ」

 

「嫌なら帰る?」

 

「やったー!岩沢さんの授業が受けられるぞぉ!」

 

ここで帰らされてたまるか!

 

てか、いつ本題切り出そう…

 

このまま勉強会に入ったら中々切り出すのは難しいぞ…

 

……ええい、ままよ!

 

「あのさ」

 

「なに?」

 

「なんか、久しぶりだな。こんな風に話すの」

 

「…そう?」

 

「ほら、最近忙しそうで中々話せてなかったじゃん」

 

実際は避けれてたわけだけど…それを言えばまた喧嘩腰になるかもしれない。

 

ここはあくまで気づいてないふりだ。

 

「アンタにとっては良いことじゃん。鬱陶しかったんだろ?」

 

「…昔そう思ってたのは否定しない」

 

「……ほらな、だから―――「でも、今は寂しいな」

 

「―――――っ」

 

参考書を探す手が止まる。

 

それが悪いものなのか良いものなのか分からないか、岩沢に反応があった。

 

なら今はとにかく本音を話すしかない。

 

「昔はさ、お前のことよく知らなかったし、ぐいぐい来られるのが苦手ってのもあって、関わりたくないと思ってた」

 

「…うん」

 

「でも、お前のことを知っていくうちにそういう気持ちはなくなってたよ。付き合うとかは…やっぱり難しいけど。それでも…良い友達だと思ってた…いや、今だって思ってる」

 

「…そんなのアンタの自己満足だ」

 

「え…?」

 

さっきまで普通だった岩沢の様子がおかしくなる。

 

わなわなと震えて、拳を握りこんでいる。

 

「こっちは友達じゃ満足出来ないって言ってんだよ!アンタはそれで良いと思ってるのか知らないけど、こっちは初めから恋人になりたいと思ってるんだ!それをなんなんだよ?!良い友達なんて…ふさげるな!」

 

「それは……でも、お前だって今までなんとも無さそうにしてたじゃないか」

 

「だからあたしが怒ってるんだよ!」

 

「なに…言ってんだ…?」

 

その台詞はまるで他人事…いや、他人事というには親身すぎるが…とにかく、自分のことを話しているような言い方ではなかった。

 

「―――――っ!くそっ!」

 

しまった、というような顔をして部屋を飛び出していく。

 

「岩沢?!」

 

急いで追いすがろうとするが、出足が遅く、玄関を飛び出た頃には岩沢の姿は見えなかった。

 

「なんだったんだ…?」

 

あの言い方…あれじゃあ今の岩沢は別人ってことになる。

 

確かにそうと言われても納得してしまいそうな雰囲気はある…だけど…

 

「別人じゃ…ないはずなんだ」

 

俺に対して良心が痛んでいたり、なんだかんだ基礎からきっちり教えてくれようとする優しさ。

 

それに、何よりあの歌声やギターの技術は、そんじょそこらの奴に真似の出来るもんじゃない。

 

「…君、誰だい?」

 

「………え?」

 

「人の家の玄関で何をしてるのかな?」

 

「……あ、いやこれは違うんです!」

 

唐突に声をかけられて混乱してうまく言葉が出てこない。

 

相手は40代くらいの優しげな男性で、多分口振りからして岩沢のお父さんだろう。

 

「えっと…」

 

だとしても、なんて言えば…?

 

「もしかして…雅美の彼氏さんかい?」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、本当に雅美に彼氏がいたなんてねぇ」

 

岩沢のお父さんに招かれて居間の机に腰掛けながらそう嬉しそうに話しかけられる。

 

ていうか、本当に…?

 

「いや、だから彼氏ではないんですけど…」

 

玄関で間違われてから何度か否定してるのだがこの調子だ。

 

「またまた、恥ずかしがらなくていいんだよ?僕は反対しないし、むしろ大歓迎だからね」

 

「は、はぁ…」

 

違うんだけどなぁ…

 

でもこれ、多分いくら否定しても納得してくれないな。

 

「あの雅美に彼氏かぁ…なんだか不思議な気分だよ」

 

「岩沢……雅美さんは美人だし、そんな不思議でもないんじゃ?」

 

「確かにね。うちの娘美人だよね」

 

「は、はい…」

 

なんだ?本当は親バカなのか?さっきは不思議とか言ってたくせに。

 

「ただね…雅美は、昔から人付き合いがどうにも下手というか…執着がなくてね」

 

「え?」

 

アイツが…?

 

あの、何度避けようとも諦めずに話しかけてきた岩沢が…?

 

「それは…何かの間違いじゃ?」

 

「いやいや、本当のことだよ?話をするのは私とくらいでね。それも、うんとかそうとか、一言くらいのもので。この子はこれから大丈夫なのかな…と不安だったんだ」

 

お父さんの話と俺の知る岩沢があまりにも違いすぎて困惑する。

 

「まあ、それも僕が悪いんだ。早くに妻と離婚してね…僕は僕でいつもは夜中まで仕事をしているし、きっと、人との付き合いかたが分からなかったんだろうね」

 

岩沢が親のことを訊かれたくなさそうだったのは、そういうことなんだろうか。

 

母親がいなくて、父親ともあまり顔を会わせない…なんか、頻度とか経緯は違うけど俺と似てるな。

 

「高校に入ってから少しの間、避けられ始めたこともあったなぁ」

 

「なんでですか?」

 

「分からないんだ…何故か、怯えるような目をされたこともあった。あのときはお酒を飲んでいたから、気のせいかもとも思ったけど…どうにもそうじゃなさそうでね」

 

「怯える…ですか」

 

避けられたと聞いて、何か今の状況と共通点があるのかと思ったけど、そうではないらしい。

 

少なくとも怯えられてはないはずだ。

 

しかし…そうなるといよいよ謎だ。

 

「でもね、ある日それがなくなったんだ。そしたらイキイキと学校のことを話すようになってね…もちろん君のこともね」

 

「え?俺?」

 

「そうとも。すごく優しい、大好きな彼が出来たってね」

 

だから何回否定しても信じてもらえなかったわけか…アイツ…!

 

「それが私は…とても嬉しかった」

 

「………」

 

これはなんとかそれが嘘だということから話して誤解を解こうと思ったが…その優しい微笑みに、そんな気を削がれてしまう。

 

「このままあの娘は一人ぼっちなんじゃないか…なんて、ずっと心配していたんだ。本当に良かった…生まれ変わったようにはしゃぐあの娘を見てそう思っていた…でも」

 

「でも?」

 

「最近、昔のあの娘に戻ったようで…酷くつまらなさそうな顔をしているんだ…」

 

初めのお父さんの話と俺の知る岩沢の食い違いはそこにあったのか。

 

確かに今の岩沢なら、最初に言っていたことも頷ける。

 

でも、なんだって岩沢はそんな急に昔のようになってしまったんだろう…

 

「あれではいけない…あの娘は折角変わったのに…!柴崎くん、何か原因に心当たりはないかい?私はあの娘にもう一度笑ってほしいんだ!」

 

「いえ…」

 

俺だってそれが知りたい。知りたくてここに来たようなものだ。

 

でも…なんでだ?

 

なんか…その言い方は少し嫌だ。

 

「あの、岩…雅美さんは確かに、最近少し変わった…いや、昔のように戻ったのかもしれません」

 

それを俺も戻したいと思った。

 

あんなつまらなさそうな顔をさせたくないって。

 

でも、そんな風に岩沢を否定するようなことを聞いて黙っていられないって気持ちが、今はある。

 

「でも、アイツはアイツです。そこだけは絶対変わってません。今のアイツは駄目みたいなことは…言わないでください」

 

こんな…偉そうなこと言えた義理じゃないけど、それでも、一番身近なこの人にだけは言わずにはいられない。

 

遊佐がどうあっても遊佐であったように、岩沢はどうあっても岩沢なんだって、知っていてもらいたかった。

 

「そうか…うん。そんなつもりはなかったんだけど…私はいつの間にか、あの娘を否定してしまっていたのかな…」

 

「あ、いえ!違うんです!俺も元々、戻ってほしいとは思ってたんです。でも、戻らないとしても…きっと何も変わらないと思います。それだけは、伝えたいと思いました」

 

遊佐が昔のようだったとしたら、過程は変わろうとも、きっと今も隣にいるってことに変わりはなかっただろう。

 

それはきっと、岩沢も同じだ。

 

「ううん…最近あの娘がまた私を避けるようになったのは、きっと私がこんなことを考えていたからだろう……それにしても、あの娘は良い彼氏さんをもらったんだね」

 

そういえばまだ誤解解いてませんでした…

 

「あの―――「柴崎ぃ!!」

 

「ぐえっ!」

 

訂正しようと口を開いた瞬間、後ろから飛び付かれて阻まれる。

 

「いきなり飛びかかってくんな!………て、あれ?お前……」

 

つい条件反射で怒鳴ったものの、ふと気づく。

 

これじゃ、いつも通りの…

 

「好きだぞ!柴崎!大好きだ…!」

 

いや、なんかいつも以上に岩沢なんだけど…?

 

「いや、ちょ、まず離れろ!離れてください!」

 

「雅…美…?」

 

お父さんもいきなり元に戻った岩沢に戸惑っているようで、信じられないという顔で見つめている。

 

てか離れろ…!

 

「父さん…心配してくれてありがとう。でも大丈夫、あたしには柴崎がいるから…今日、改めてそう感じたんだ」

 

「うん…それは私にも伝わったよ。柴崎くんがいれば、私も安心だ」

 

待て…待て待て待て待て!

 

なんで一気に親公認の仲みたいになってんだ?!

 

「違うんです!彼氏っていうのはコイ…娘さんの嘘で!」

 

「いいんだよ柴崎くん。あ、よかったら席はずそうか?」

 

「娘さん…って響きなんか良いな」

 

話になんねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのままお父さんは買い出し(何をかは不明)と言って、本当に家から出ていった。

 

呆然していたところで勉強しに来たことを思いだし、なんとか説得して岩沢の部屋で勉強会の続きをすることになった。

 

意外にも勉強会を始めると真面目に、しかも分かりやすく教えてくれ、あれよあれよと基礎を叩き込まれた。

 

そして小休止を取ることになり、雑談という体で気になっていたことを訊く。

 

「あのさ、なんで急にあんな態度になったんだ?」

 

「…秘密、だな」

 

「秘密って…こっちは結構お前のために頑張ったんだけど?」

 

「じゃあ、なんでだと思う?当たったら教えるよ。駄目なら今は教えない」

 

分かるわけねえ…と思いつつもとりあえず考えてみる。

 

実は別人の線はない。

 

よく聞くような恋の駆け引きというやつでもないはずだ。

 

なにせ、親にまで同じような態度だったみたいだし。

 

となると…

 

「機嫌が悪かった…とか」

 

遊佐が言っていたことしか思い浮かばん…

 

「ふ…ふふ…そこまで考えてそれかよ…」

 

「しょうがないだろ!こんなの当たるかよ!」

 

「ごめんごめん。でも今は言えないんだ」

 

そういえばさっきも今は、って言ってたな。

 

「ならいつなら言えるんだよ?」

 

「あたしと柴崎が付き合ったときかな?」

 

また悪戯っぽく笑いながらそう言う。

 

教える気がないってことだな…

 

「はいはい、じゃあもう良いですよ。お前がまた笑ってられるんならなんでもいいや……」

 

……って、あれ?なんか余計なことを口走った気がする…

 

こんなこと言ったら絶対調子に乗りやがる…と慌てて岩沢の方を見る。

 

「…………え、あの……馬鹿っ、何言ってんだよ…」

 

めちゃくちゃ顔紅くしてらっしゃる…!

 

「ちょっと、こっち見るな…」

 

しかもめちゃくちゃ恥じらってらっしゃる……!!

 

あっれー?なんかやっぱりいつもと違う?!

 

「岩沢?ど、どっか悪いのか?」

 

「い、いきなりそんな恥ずかしいこと言うからだろ…!」

 

「いやいや、お前いつももっと恥ずかしいこと言ってるだろ…」

 

好きだーとか、大好きだーとか、愛してるーとか…あれ?全部同じだ。

 

「あたしはいいんだよ、心の準備してから言うんだから!そっちから言われると嬉しいけど…嬉しすぎて、駄目だ…」

 

全く顔色が戻る気配がなく、なんとか顔を隠そうとしてるもののそうそう隠せるものじゃない。

 

耳まで真っ赤なのが丸見えだ。

 

しかしこう…恥じらっている姿ってのが新鮮で……うん…なんていうか普通に…

 

「な、なんだよそんなじろじろ見て?」

 

「あーっ、いや、悪い!」

 

わざとなのか天然なのか、上目遣いで見つめられ、いよいよまずいと思い体を逆方向へ回転させる。

 

こんな…本当に好きだって伝わりやすい言動初めてで…

 

いや、好きだってことを疑ってたわけじゃない。

 

だけどこんなあからさまなのは…初めて見た。

 

「なあ、岩沢」

 

「…なに?」

 

そこで、1つ確かめてみたいことが出来た。

 

本当にしょうもないことで、きっと何も変わらないと思うけど、一度だけ試してみたい。

 

そんないたずら心がふつふつと湧いてしまった。

 

「俺のこと…好きって言えるか?」

 

数拍の間が空いた。

 

それだけでも、今までと違う。

 

「…………そ…」

 

「そ?」

 

「それで…付き合えるなら…やる」

 

やっぱり、違う。

 

いつもなら事も無げに言っている場面だ。

 

なんだ…これ。

 

なんか…

 

「わ、悪い!急用が出来た!」

 

適当な嘘を言って立ち上がる。

 

急いで帰り支度をする。

 

「えっ?柴崎?!」

 

後ろから混乱した声が聴こえたが、振り向くことなく部屋を出る。

 

「お邪魔しました!」

 

そのまま家を出るのはあまりにも無作法なので、岩沢に届くくらいの声でそう言って玄関から外へ出る。

 

そして岩沢の家が見えなくなる程度まで自転車を飛ばす。

 

キーッとブレーキが悲鳴を上げながら止まる。

 

「なんだよ…アイツ…!」

 

あんな顔されたら…こっちまで恥ずかしくなるだろ…!

 

 




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