蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「直井く~ん!ぅおぉ~い!」

最近僕にはある悩みがある。

 

その悩みに触れる前に断っておくが、僕は他人が嫌いだ。

 

もちろん、音無さんと柴崎さんは別ですが。

 

このお二人を除いた人間に全く興味がない。それどころか邪魔だ。出来れば視界にすら入れたくはない。

 

だというのに…

 

「直井く~ん!ぅおぉ~い!」

 

この馬鹿丸出しで叫んでいる女。

 

コイツが悩みの大元だ。

 

僕は他人に関わりたくないと、さっきも言ったが、何故かコイツは執拗に僕に絡んでくる。

 

朝、教室に入れば話しかけられ、休み時間はいつも僕の席までやってくる。

 

何故そこまでして僕に関わろうとしてくるのか。

 

その問いはとうに知っている。

 

放っておけないから…だそうだ。

 

くだらない。何を勝手に同情して勝手に関わろうとしてるのか、甚だ滑稽だった。

 

しかし奴は、ただの馬鹿ではなかった。

 

僕が他人と関わろうとしない理由をズバリ当てたのだ。

 

それ自体は慧眼だと褒めてやってもいい。

 

馬鹿ではなく道化なのだと認識を改めた。

 

しかし、コイツは馬鹿ではなく道化で、この会話においては慧眼であったかもしれないが、やはり言い分は他人事のものだった。

 

僕はその時思った。

 

愚かだ、と。

 

いつか裏切られたとき、絶望する。

 

絶望して、自分が愚かであったことに気づくだろうと思っていた。

 

しかし、奴は友人に手酷い目にあわされても…泣きはしたが絶望はしなかった。

 

悔しかったはずだ。辛かったはずだ。惜しかったはずだ。

 

だが、他人に絶望はしなかった。

 

ただ、それだけなら僕は驚きこそすれ、しかしたまたまだと干渉しようとは思わなかったはずだ。

 

だが奴は…

 

『直井くんはあたしのものだからさ!』

 

あろうことか僕を庇ってそうなったのだ。

 

まあ、その台詞は何様だと言いたくなるほど傲慢で、何を言ってるんだと呆れるものだったが。

 

どこかで僕を庇うなんて馬鹿な真似はやめるだろうとも思っていた。

 

なのにやめない。

 

どれだけキツく当たられようと、理不尽な目にあわされようと、最後の最後、向こうから絶縁宣言をされるまで気色の悪い作り笑いをやめなかった。

 

それが崩れて涙を溢したのを見たとき、僕は傍観をやめた。

 

僕はこれまでの鬱憤を下衆どもと、ついでにコイツにもぶつけた。

 

それで事態はおさまった。そのまま放っておいても充分な状況だったと思う。

 

しかし奴はあろうことか、下衆どもに謝ったという。

 

愚かだ。理解に苦しむ。

 

しかしその行動は…残念だが美しいものだ。

 

僕には出来ない。

 

僕は…僕には…

 

「な~お~い~くん!」

 

「―――――――――っ」

 

つい思考の渦にのまれていたようだ。

 

「うるさい。話しかけるな」

 

「やーだよ!」

 

僕の愛想も糞もない態度に対して、にこやかに笑う。

 

何故笑う?拒絶されているんだぞ?

 

「…貴様は、何故僕に付きまとう?」

 

ぽろっと口からもれた言葉に、僕自身が驚きを隠せない。

 

こんなことを訊いてどうなるというんだ…?

 

そもそも1度訊いたもののはずだろう…!

 

「楽しいからだよ?」

 

しかしコイツは、当然とばかりにそう言う。

 

いつぞやとは違う答えを。

 

しかし、楽しい…?会話にすらなっていないようなものなのにか?

 

「貴様、実はマゾヒストなのか…?」

 

「違うよ?!いや、そういう経験ないから分かんないけどさ!ていうか…どしたの直井くん?急にそんな質問なんかして。ま、まあ、あたしとしては興味持たれて悪い気はしないけどね?!」

 

「うるさい。興味などない」

 

「ちぇ~、まあ?あたしは直井くんに興味津々だけどね!」

 

興味津々?笑わせる…

 

「貴様は、僕が何故他人を避けるのか…大体察しがついているんだろう?」

 

「…ううん。あたしが分かるのは、直井くんが怖がってることと、それが裏切られたせいだってことくらいだよ」

 

「それだけ分かっていれば、正答など必要ないだろう?」

 

「嫌だよ!あたし、直井くんのこともっともっと知りたい!」

 

なんだ…?なんでここまで僕に拘る…?

 

僕は見限られてもしょうがない態度を取っているはずだ。

 

なのに…

 

「放課後…体育館裏に来い」

 

「……へ?」

 

「2度は言わん」

 

そう言ったところで始業のチャイムが鳴り、教師が教室へ入ってくる。

 

奴はおろおろと戸惑った様子だったがとりあえず自分の席へ帰っていった。

 

席へ戻ったあとも頭を抱えてうんうんと唸っている。

 

それほどのことか?とは、思わない。

 

僕はいつだってそう思われるよう行動してきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて放課後。

 

一足先に体育館裏で待っていると、奴はすぐにやって来た。

 

「ま、待たせてごめんね!」

 

「いや、さして待ってない」

 

そもそも僕が一緒に行くのを避けて早く着いただけで、コイツには何も非がない。

 

なのに、何を焦っているのか。

 

「貴様…「は、はいぃ!!」

 

……なんだ?

 

やけに畏まっているし、何度も前髪を整えている。

 

…まあいい。本題に入るか。

 

「貴様は、僕のことを知りたいと言っていたな?」

 

「…え?う、うん!知りたいよ!」

 

「なら、話してやる。僕が何故他人と関わらなくなったのかをな」

 

「え?え?いいの?!」

 

「それ以上しつこく訊くのなら話さん」

 

「分かった!聞く!大人しく聞く!」

 

その時点で全く大人しくはないが…まあいい。

 

元々、本気で話すのをやめるつもりはない。

 

そう思いながら、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから話すのは、とても聞くに耐えない、くだらない話だ。

 

自分でも、何故こんなことをいつまでも引きずっているのか分からない。

 

それでも、僕はこの出来事を契機に他人と関わろうとはしなくなった。

 

それは紛れもない事実だ。

 

その出来事が起きたのは、僕が小学生の時だ。

 

僕には、双子の兄がいた。

 

兄弟という贔屓目を抜きにしても、優秀な兄だった。

 

頭脳明晰であり、しかし運動神経も抜群。まさに文武両道を地で行き、品行方正…憧れの兄だった。

 

しかし憧れるのと同時に、コンプレックスの塊でもあった。

 

僕はどちらも中途半端で、とてもじゃないが比べ物にすらならなかったのだ。

 

同級生にもよくからかわれていた。

 

『兄ちゃんは天才だけど、お前は普通だよなー』

 

そんなことを言われるのは、日常茶飯事だった。

 

それでも僕にとって幸いだったのは、兄が優しかったことだ。

 

『文人には文人の良さがあるのに、なんで皆分からないんだよ!』

 

そんな風に本気で腹を立ててくれる兄だった。

 

流石に皆の前でそんな風に怒ろうとした時は泡をくって止めたが、しかし誇らしかった。

 

僕は平凡で普通の人間だけど、この兄がいるというだけで他の人よりも幸せだと本気で思っていたんだ。

 

そんな僕が5年生になった頃、兄に彼女が出来た。

 

その相手は、僕の片想いの相手でもあった。

 

当然僕はその気持ちを隠して祝福した。

 

『おめでとう兄さん!お似合いだよ!』

 

そう、なんとか空元気を振り絞って笑顔を向けた。

 

兄さんが相手ならしょうがない。だって、兄さんはすごい人なんだから。僕と兄さんなら、僕だって兄さんを取る。

 

だから、僕が諦めるのは当然だったんだ。

 

それからしばらく経ち、兄とその彼女は別れた。

 

理由は聞かされなかったが、きっと反りが合わなかったんだろうと勝手に解釈した 。

 

それと同時に、もしかしたら今なら僕にもチャンスがあるんじゃないか?と内心考えていた。

 

すると、本当にその子は僕によく話しかけてくれるようになった。

 

何故かは分からないけど、もはやそんなことはどうでもよかった。

 

とにかくその子と話せることに舞い上がっていたんだ。

 

しかし、そんな事が続いたある日、それは起きた。

 

下校中に忘れ物をしたことに気付いた僕は急いで教室へと戻り、ドアに手をかけた。

 

その時だ。

 

『文人くんさぁ、やっぱ微妙なんだよねー』

 

思わずドアを開けようとした手が止まった。

 

その声は間違いなく、僕の片想いの相手だった。

 

どうやら数人の女子で会話をしているらしく、その姦しい声は教室の外まで響いていた。

 

僕は何か悪い冗談だと自分に言い聞かせながら、その場で息を潜めた。

 

『健人くんに言われて話しかけてみたけど、やっぱり健人くんの方がいいな~』

 

『そりゃそうだよ~健人くんと比べたら駄目だよ~』

 

『そうそう。顔が同じなだけいいじゃん!』

 

『顔が同じだから余計残念かもね~』

 

きゃはははは!と、一斉に笑い始める。

 

それを聞いて僕も引き攣った笑みがもれた。

 

『でも、健人くんも意地悪だよね!このまま付き合っていたいなら文人くんと仲良くなって、なんてさ!』

 

『本当だよ~…仲良くなるまで別れる、とか言うしさぁ』

 

なんだこれ…?こんなの…こんなの嘘でしょ…?兄さん…!

 

そう思いながら、震える脚を必死に動かし、家へ向かった。

 

『どうしたんだ文人…?』

 

全速力で帰って、顔は汗と涙にまみれ、息も絶え絶えな僕を見て兄は驚いていた。

 

心配して肩に置いた手を、僕はぎゅっと握りしめた。

 

あんなの嘘だ…兄さんは…そんなことしない…

 

そう信じていたんだ。

 

『ねぇ…』

 

さっき起こった事を全て話すと、兄さんの顔は凍りついた。

 

その瞬間分かったんだ。

 

あれは、本当のことだったんだと。

 

『兄さんも…兄さんも僕のことを馬鹿にしてたんだ!兄さんが何かしないと好きな子と話すことも出来ないって思ってたんだ!』

 

僕の支えは、兄さんだけは僕の良さを知っていて、認めてくれている。そう思えていたことだったんだ。

 

なのに、そんなちっぽけな支えは容易く失われた。

 

『違…『もういいよ!もう…兄さんなんか嫌いだ!』

 

そう言って、背中から呼び掛ける兄の声も無視して僕は自分の部屋へ戻って、布団にうずくまっていた。

 

もうこんな風に信じていた誰かに裏切られるのは嫌だ…

 

だったらもう、誰も信じない!誰とも関わらなければいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうして、今の僕はある」

 

全てを語り終え、一息吐く。

 

こんなもの、きっとコイツからすれば鼻で笑うような事だろう。

 

さて、どんな顔をしているのか…

 

そう思い、顔を見ると…

 

「…ぅ、うぅ…!」

 

「な、何故泣いている?!」

 

想像していたものとは真逆の顔だった。

 

目からは涙を溢れさせ、ぐしぐしと手で拭っているのだが、しかし形相は明らかに怒っている。

 

「だって…だってなんか悔しいんだもん!直井くんには良いところがいっぱいあるのに、何も知らないで…ちょっと話しただけなのにそんなこと…!」

 

本気で言っているのか…?

 

いや、そんな疑問を覚える必要なんてない。

 

こんな体面を繕わず顔をぐしゃぐしゃにしている奴の、何を疑えばいいというんだ。

 

「今すぐそいつらブッ飛ばしてやる!」

 

「阿呆か貴様は」

 

本当に飛んでいきそうなので肩を掴んでひき止める。

 

というか、いつもの馬鹿みたいに能天気なキャラはどこに行ったんだ。

 

「もう相手がどこに居るのかも知らん。第一、今さら奴らをどうしたところで、僕はなんとも思わん」

 

…僕が一番気にしているのはきっと

 

「誰だって、兄さんと僕を比べれば兄さんを取る」

 

それはお前もだ…そう、暗に言い含める。

 

「~~っ!馬鹿っ!あほ!マヌケ!直井くんのおたんこなす!」

 

「はぁ?!」

 

いきなり飛んできた低俗な罵倒に思わず声が出る。

 

「あたしが好きになったのは、無愛想で、言動がおかしくて…それでもぶっきらぼうに優しい直井くんだから!!」

 

「――――――っ?!」

 

突然の言葉に、目を剥いて驚いてしまう。

 

好き…だと?

 

「……ってぇい!男女関係とかそーいうことじゃなくてぇ!友達的に?うん、友達的に?好きなんだよ?!」

 

何故か疑問系で必死に捲し立ててくる姿に、ふと笑いがもれてしまう。

 

「く…はは…」

 

「な、なんで笑うの?!」

 

そりゃ笑うだろう…

 

そんな赤面丸出しで膨れられては…な。

 

なんとか笑いを抑え、咳払いをする。

 

「いや…やはりお前は馬鹿だなと思ってな」

 

「だからなん―――「だが、嫌いじゃない」

 

頭をぽんと叩き、その場を去る。

 

きっと、今の奴を見るのは目に毒だろうからな。

 

 




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