蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「蒼…優しく…してくれよ?」

「蒼、今日のデートどこにいく?」

 

いつものように笑いかけられ、心臓のあたりが暖かくなるのを感じる。

 

「俺は雅美と一緒ならどこでもいいけどな」

 

「困ったな…あたしもだ」

 

お互い馬鹿なことで悩んでいるとは思うが、こんな馬鹿な時間も幸せだ。

 

「ならまた今日もお前の綺麗な声を聞かせてくれないか?俺の…この部屋で!!」

 

ん?

 

今まで外にいたはずなのに唐突に現れる俺の部屋。

 

いや待て。こんな部屋知らんぞ。

 

なんで三角木馬とか手錠がじゃらじゃらと置いてあるんだ?!

 

「さあ雅美ぃ!」

 

さぁ、じゃねえ!!?

 

「蒼…優しく…してくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずぁぁぁぁぁぁぁあいい!!」

 

はぁ、はぁ、と肩で息をしながら起き上がる。

 

「ゆ、夢…?」

 

って、そうじゃなきゃ困るよなあんなの…何かに乗っ取られてんのかと思ったぜ…

 

「いやいや夢だとしてもなんだありゃあ…」

 

多分岩沢と付き合ってた…んだと思う。かなり変態チックだったが。

 

…最近岩沢のことで頭いっぱいだからか?思春期恐ろしいな…

 

そしてあれが俺の深層心理での欲望なんだとしたらより恐ろしい…

 

「今日は…ちょっと優しくしてやるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柴崎!」

 

今日も今日とて勢いよく教室の扉が開かれる。

 

そして開口一番無駄に元気に人の名前を呼んでくる。

 

「今日も大大大大大好きだ!」

 

ここまでが一連の流れ。

 

いつもならここで適当に流すとこだが…うん。

 

「そ、そうか。ありがとな」

 

「…………っ?!」

 

一泊置いて驚愕の表情を見せる。

 

そして後ろの幼馴染、天地がひっくり返ったみたいな顔すんな。

 

「ど、どうかしたのか柴崎…?」

 

その上少し震えながら心配してくる。

 

「い、いやぁ?何もないぜ?」

 

「……嘘だな」

 

ギクッ。

 

「な、何を根拠に言ってるんだね?」

 

もうこの台詞が犯人のそれだった。

 

「嘘ついてるかついてないかくらい根拠がなくても分かるぞ。あたしがどれだけ柴崎のことを見てきたと思ってるんだ」

 

「いやまだ1年ちょいだろ…」

 

「時間じゃない、深さだ」

 

真顔で何を言ってるんだこいつは…

 

おっといかん、これじゃいつも通りだ。

 

「ま、まあ気持ちはありがたいけどな」

 

「やっぱり…やっぱり変だ!!」

 

そう言って何を思ったのか教室から飛び出していく。

 

「おい岩沢!お前…もうチャイム鳴るってのに…」

 

俺の声は当然届かず、岩沢はその後先生から怒られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はゆりに頼みガルデモメンバーのみで一室使わせてもらうことにした。

 

受験勉強中のユイを除いた3人を集め切り出す。

 

「柴崎が…おかしい」

 

あたしがそう言うと、一同は重い沈黙に包まれた。

 

これは一大事だからな…仕方ない。

 

「あの…岩沢さん」

 

「なに?入江」

 

「いつものことじゃないでしょうか…」

 

おずおずと、しかしはっきりと断言してきた。

 

「な、なに?!」

 

「あー…あたしもそう思うぜ?」

 

ひさ子まで!?

 

「え~、柴崎くんってこのクラブの中じゃまともじゃないっすか?」

 

ナイス関根。たまには良いこと言う。

 

「まあ普段はな?でもアイツ岩沢が絡むと…なぁ?」

 

「…はい」

 

謎のアイコンタクトで意志疎通する二人。

 

「いやでも待ってくれ、柴崎キチのあたしが言うんだぞ?」

 

「それ自分で言うのか…」

 

「もう音楽とかうどんとかと同じジャンルなんですね…」

 

なんだか話が逸れるなぁ。

 

「とにかく、なんだかいつもとは違うんだよ」

 

「しょうがねえなぁ。どう違うのか話してみろよ」

 

ひさ子にそう促され、今日あった一部始終を話す。

 

「それは……」

 

「変だろ?なぜか妙に優しいんだ!いやいつも優しいけど!」

 

いつもはぶっきらぼうに優しいのに、今日は甘やかされてるみたいなんだ。

 

…ちょっと懐かしい気分になったのは内緒だ。

 

でも記憶が戻った風でもない。

 

「あー…岩沢?それはあたしも藤巻から似たようなことをされた経験がある。多分十中八九、それと同じようなものだとは思う」

 

「なに?!」

 

「ただ…うーん…話してもいいものなのか…?なんていうか、柴崎の沽券的に」

 

藤巻と全く同じ理由とは考えづらいし…と尚も悩み続ける。

 

「ひさ子…頼む。あたしは柴崎のすべてを知りたいんだ。柴崎が社会的に死ぬような内容でも、あたしは受け止める」

 

「良い表情だが、もしそうなら柴崎のために絶対言わねえよ?まあ、今回のことくらいなら良いか」

 

つまりな、とひさ子は耳打ちで真相を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやく部活が終わり、遊佐と悠と自転車置き場まで移動していると

 

「柴崎ぃぃぃ!!」

 

なんか追ってきた。

 

「え?え?なんだ?!」

 

「とりあえず逃げてみたら?」

 

「よくわからんがとりあえずそうする!」

 

後に振り返ると、明らかに気が動転していた。

 

が、現在の俺には関係なく、とにかくあてもなく走って逃げる。

 

「あ、こら!なんだ逃げる!?」

 

「追われてるからだよ!」

 

それはきっとこの世の真理だった。

 

「違う!あたしはただ話をしたいだけなんだ!今日の態度について!」

 

「っ!」

 

その言葉を聞き、急ブレーキをかける。

 

後ろの岩沢もそれを見て徐々に速度を緩め、俺のすぐ近くに来て止まった。

 

「ひさ子に教えてもらったんだ。男子が女子に妙に優しくするときの気持ち…」

 

いや、なんかその形容の仕方だと誤解を生んでそうなんだが…

 

それじゃまるで俺が…

 

「柴崎があたしに……」

 

岩沢のことが好きみたいな…

 

「ちが━━━「何か、やましいことがあるんだろう?」

 

やま…しい?

 

「ひさ子が言ってた。藤巻が自分のことをおかず?にした次の日だけ優しかったって…」

 

なんか思ってたのと違う方向に勘違いされてる…!?

 

ていうかさらっと藤巻の恥が暴露されてる?!

 

つーか藤巻何やってんだ…?

 

……まあ、気持ちは分からんでもないが……

 

「なぁ岩沢、ひさ子から詳しいことは話さないで、とか言われてないか?」

 

「ん?ああ、そういえばそうだな。だけど、言葉の意味がよくわからなかったし忘れてた。フィルインのことかと思ったら違ったし」

 

この子ダメだ…何か1つのことに夢中になると本当ダメだ…

 

あとフィルインってなんだよ…

 

「柴崎は意味分かるのか?」

 

「………いや?全然」

 

すまん藤巻…この件は墓場まで持っていくからな…!

 

「で、柴崎はあたしにどんなやましいことがあるんだ?」

 

「やましいこと…?」

 

ないけど…いや、あの夢がやましいことってことか…?

 

まあ確かに勝手に付き合ったあげく何かよく分からない特殊プレイをしようとしてたしな…

 

「いや、今朝変な夢見てな」

 

「…夢?」

 

その一瞬、岩沢の表情が怪訝なものになった。

 

そんなに突拍子なかったかな?

 

「あ、ああ。それがさ、なんかお前と付き合ってて━━「なっ……!」

 

あまりの驚きっぷりに思わず話す口が止まる。

 

「わ、悪い。付き合ってるって、どんな…?」

 

「いや、それが…待ち合わせしたと思ったらいきなり俺の家に行って…」

 

これそのまま伝えるわけにもいかないしな…

 

「岩沢に手錠をつけて…置いといた」

 

………放置プレイ…?!

 

なんでそんなとこに着地した俺!?

 

「な、なんだそれ…?」

 

「いや、俺もそう思った。だから夢の中で悪いことしちまったし、今日はちょっと優しくしてやろうとだな…」

 

バツが悪くなってそっぽを向く。

 

「ったく…ちょっと期待したじゃないか」

 

「うっ…」

 

確かに、導入としては付き合ってるって状態だったしな…

 

「まあでも、夢の中で付き合ってたならいいか。一歩前進っぽいし」

 

「そ、そうか」

 

岩沢が微笑んだのを見て安堵する。

 

「なんだ、ひさ子が藤巻にすごく怒ったって聞いたから、もっと酷いことなのかと思ったよ」

 

「…は、はは」

 

まあ藤巻のに比べたら…うん、マシだよな。

 

「はは、おかげで今すごく気分がいい。今ならその、おかず?ってやつにされても怒らないぜ?」

 

ふふーんと胸を張って言ってのける。意味も分からず。

 

「お前は……!」

 

「ん?」

 

「意味くらい分かってから物を言えこの馬鹿!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、意味を調べたが、よく分からなかった岩沢であった。

 

「………??なんだこれ専門用語か…?」

 

 




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