蒼紅の決意 Re:start   作:零っち

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「24番 直井 文人」

「ねえ、何か足らないと思わない?」

 

「何がだ?ゆりっぺ」

 

いつも通りの部活中、皆がワイワイと騒いでいると、不意に仲村が難しい顔をしてそんなことを言い出した。

 

「何がだ?じゃないわよ!日向くん、あたしたちの部活の名前を言ってみなさい」

 

「SSS部」

 

「違ぁう!」

 

「ぐほっ?!」

 

何を間違えたのか思いきり平手打ちをかまされる日向。

 

「正式名称よ!」

 

「えぇ?えーと確か…」

 

「ああもうトロいわねぇ!ほら、遊佐さん言ってやんなさい」

 

「はい。やはり俺〇青春ラブコメは間違っている、です」

 

「違うわよ!そもそもそれじゃSが3つ付いてないじゃない!青春を数倍楽しむために集う生徒のクラブよ!」

 

「あー、そういやそんな名前だったなぁ」

 

遊佐の破天荒すぎる回答に関してはもう置いておくとして、部員にすら忘れられている部の名前というのはどうなのだろうか。

 

「いい?あたしたちは青春を楽しむためにこの部をしているの。音無くん、青春と言えばなにかしら?」

 

「え?うーん…人それぞれじゃないか?」

 

「置きにいった回答をどうもありがとう。けど、あたしが今聞きたいのはそんな答えじゃないわ。じゃあ次大山くん!」

 

「えーと…やっぱり友達と遊ぶことじゃない?」

 

「間違いじゃないわ。けどそれなら今やっているから訊いたりしないわよ。本当あなたたちは駄目ねえ…遊佐さん、言ってやんなさい」

 

「はい。やはり青春といえばラブコメです」

 

「うん…まあ、そうなんだけど…そろそろそこから離れてくれないかしら?」

 

ゆりと遊佐のやりとりは所謂天丼ネタというやつなのだろうが、しかしネタではあっても間違ってはいないらしい。

 

「つまり恋愛ってことか?」

 

「そう!」

 

呆れて肩を竦めながらそう言うと、必要以上に大きな動作で俺に指をさしてくる。

 

「青春を数倍楽しむという崇高な目的を掲げるあたしたちにとって、恋愛が不足している今の状態は死活問題と言っても過言じゃないわ!」

 

「思いっきり過言だろ」

 

崇高な目的どころかめちゃくちゃ不純な目的じゃねえか。

 

しかも別に恋愛しなくても死なねえし。

 

しかしそんな俺のツッコミは軽くスルーされる。

 

「あたしたちの中で恋人がいるのは千里くんくらいのものよ!」

 

「まあ他校だけどね」

 

「そんな細かいことどうだって良いのよ!問題は青春を数倍楽しもうとしているあたしたちの大半が非リア充ということにあるのだから!」

 

「で、結局何が言いてえんだよゆりっぺ?」

 

終止こじつけがましい暴論を唱える仲村についに日向が切り込んだ。

 

「恋愛が足りていない。それはつまりイベントが足りていないのよ。イベントがないからフラグが立たないのよ。だからあたしは強制的に恋愛イベントを起こすわ」

 

「はい?」

 

仲村は次々とイベントだとかフラグだとか訳の分からない台詞を口にしていく。

 

「先日ついに結成されたGirls Dead Monsterの一人一人に専属のマネージャーをつけるわ」

 

「マネージャー?」

 

「そうよ」

 

マネージャーというと、芸能人とかに付いているあのマネージャーのことだろうか?

 

しかも専属。

 

…嫌な予感がしてきた。

 

「岩沢さん、ひさ子さん、関根さんに入江さん。この四人に男子のマネージャーをつけるわよ」

 

「ちょっと待て!それに何の意味がある!?」

 

自分の頭やら心臓やらに走る嫌な感覚を振り払うように叫ぶ。

 

「だから恋愛イベントよ」

 

「マネージャーつけたら恋愛出来るんですか?!それにそんなことしたらもしかしたら他のやつと生まれたかもしれない恋の可能性を奪うことになると思います!」

 

「なんで敬語なのよ…?」

 

それぐらい必死なんだよこの暴君。

 

「まあでも柴崎くんの言い分にも一理あるわよね」

 

「じゃあ…」

「でも止めない」

 

語尾にハートマークでも付きそうなくらいご機嫌な口調で言い切った。

 

俺はその言葉に見えかけた一筋の光明が光速で離れていく感覚を覚えた。

 

「なんでだよぉ…!?」

 

思わず膝をついてしまう。

 

もうお先真っ暗な絶望状態だ。

 

「何をそんなに落ち込んでるのよ?ただマネージャーをつけるって言っただけよ?」

 

「どうせ俺は岩沢に付かされるんだろ?!」

 

「誰もそんなこと言ってないじゃない」

 

「え?じゃあ…」

「まあ当たってるけど」

 

「なんなんだよ?!」

 

人の心を弄んで楽しいのかと今まさに高笑いしている仲村に本気で問いたくなる。

 

するとおもむろに肩をポンと叩かれた。

 

「元気出せって。なんかあったら俺が愚痴くらい聞いてやっからさ」

 

「日向ぁ…」

 

「それに四六時中一緒に居ろってんじゃねえんだし…」

「え?居てもらうわよ?」

 

「ちくしょぉぉぉぉぉ!!」

 

「おいおいゆりっぺ!そりゃいくらなんでも横暴すぎだろ?!」

 

仲村のいきすぎた発言(とプラス俺の落ち込みっぷり)を見かねて日向が抗議の声をあげる。

 

「冗談よ冗談」

 

いや今の目は絶対嘘じゃなかったぞ…

 

「ただ部活動時および、学校行事の際は出来る限り固まってもらうわよ」

 

「出来る限りって?」

 

「楽器の練習してるならそれを見学、ペアワークの時は必ず組む、班分けの時も必ず同じ班、とかね」

 

「うう…まあそれくらいなら…なんとか…いやでもなぁ…」

 

仲村に出された条件に頭を更に悩ませ、必死にこの条件の中での俺へのメリットを絞り出す。

 

例えば、恐らくクラスでペアワーク、もしくは班分けになった時にあの岩沢のことだ。また毎度のごとく、一緒になろうなろうと大声で騒いで周りに白い目で見られるであろうことが請け合いだ。

 

それがこの条件さえあれば、少なくとも岩沢が騒ぐのを先んじて封じることが出来る。

 

何故なら既に決まっているのだから騒ぐ必要がなくなる。

 

そうすればクラスの皆からの鋭く突き刺さる例の視線を回避することが可能になるわけだ。

 

これは間違いなく俺にとってのメリットになる。

 

そう考えれば最初に聞いた時よりも幾分か魅力的な提案に思えてくる。

 

しかし、やはりもしかしたら回避出来ていたかもしれない岩沢とのペアというものが確定するというのは少し考えものだ。

 

「分かったわ。そこまで渋るなら岩沢さんにはあなたともう一人遊佐さんもつけるわ」

 

「遊佐…?」

 

突然名前を出されて思わず遊佐の方に視線を向ける。

 

「…なんでしょう?」

 

少しもじっと居心地が悪そうにしている。

 

そんなに俺に見られるのが嫌だってのか?

 

「…いや、良いよ。遊佐も嫌そうだし」

「嫌じゃありませんやりますよ」

 

ここで縋るのは遊佐に悪いと思い断ろうとすると、割って入ってきてそう早口に捲し立てる。

 

「え?でもさっき嫌そうな顔…」

「してません目が腐ってるんじゃないですか?どことなく比企谷っぽいですし」

 

「えぇぇ…?」

 

またもや異様に早口でこちらの台詞を遮ってくる。

 

折角やめてやろうとしたらこれとは…本当天の邪鬼なやつだな…あとマジでそろそろそこから離れて欲しい。つーか似てねえよ。

 

「…じゃあ遊佐もつける方向で頼む」

 

「はーい。じゃあ他の3人なんだけど…」

 

言いつつ値踏みするようにじーっと一通り男性陣を見回していく仲村。

 

誰が選ばれるのかという妙な緊張感が生まれる。

 

それもそうだろう。あのメンバーは全員美少女揃いだ。年頃の男子としてはそんな奴らにお近づき出来るチャンスを嬉しく思わないはずがない。

 

…俺を除いては。

 

はあ、俺もせめて入江とかならなぁ…

 

「この中なら大山くんと藤巻くんかしら」

 

「えぇ?!僕?!」

 

「俺もかよ」

 

「ええ。あたしの勘がそう言ってるわ」

 

驚く二人に仲村はそう自信ありげに胸を張って言った。

 

「ゆりっぺ。でもそれじゃああと一人足りないぜ?」

 

日向の言うことはもっともで、この二人が誰にあてがわれるのかは分からないが、どうした所で一人余ってしまう。

 

「それはそうなんだけど、いないのよ。あの子に合う人が」

 

「あの子って?」

 

「それはとりあえずあの子たちを呼んでからにしましょうか。遊佐さん」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆりに促された遊佐は迅速に、もうその命令が出されることを織り込んでるのかというほど速やかに、上の階で演奏をしている岩沢たちを招集しに向かった。

 

「呼んできました」

 

「用ってなに?良いところだったんだけど」

 

連れてこられた岩沢はというと練習の邪魔をされてご立腹な様子だった。

 

「ごめんなさいね。でも岩沢さんには良い知らせよ」

「ライブか?!」

 

「残念だけど違うわね…」

 

この会話の流れですぐさまライブかと思うのは流石は音楽キチというところだろう。

 

ひさ子なんかは、まだ練習が足りてないだろと至って冷静だというのに。

 

「あなたたち一人一人にマネージャーをつけることにしたわ」

 

「マネージャー?おいおいゆり、あたしたちは芸能人じゃないんだぜ?それに、そんなやつがいて気が散ったりしたら最悪じゃないか」

 

「岩沢さんには柴崎くんをつけるわよ?」

「よし!マネージャー採用だ!」

 

なんという心変わりの早さなんだ…

 

他の皆の視線も居たたまれない…帰りたい…やっぱり断れば良かった…

 

「ちょい待ち。一人一人ってことはあたしたちにもつくのか?」

 

「そうよ。ひさ子さんには藤巻くん。入江さんには大山くん」

 

「「はぁぁぁぁぁ?!」」

 

突然告げられた組み合わせにひさ子と藤巻の二人が完璧にハモる。

 

「「なんであたし(俺)がコイツなんかと!?」」

 

「息ぴったりだから」

 

「「納得出来るか!…真似すんな!」」

 

一応この二人は異議を申し立ててるんだろうけど、喋れば喋るほど息ぴったりなのが露呈していく。

 

いやしかし、いつもいがみ合ってるこの二人の波長が意外にも合っていることに気づくなんて仲村の勘ってのも捨てたもんじゃないな。

 

「はーい柴崎くんも受け入れてるんだから今さら文句言わないの。大山くんと入江さんは良いかしら?」

 

「え、あ…はい…」

 

「僕も入江さんが問題ないなら」

 

あれだけ拒もうとしていた俺の名前を出すことによって二人を黙らせ、その流れで入江と大山にも了承してもらう。

 

人見知りが激しいらしい入江は少し怯えているようだったが、相手が人畜無害そうな大山だったこともあったのか、断りはしなかった。

 

「えーと…あの~、あたしは?」

 

3組のペアが生まれたところで、関根が戸惑った様子でそろ~っと挙手していた。

 

それもそうだろう。一人につき一人つけるはずのマネージャーが自分にだけいないのだから。

 

軽く疎外感を感じているかもしれない。

 

「それがね、関根さんに合いそうな人がこの部に居なくてね」

 

「そうなんですか?」

 

ゆりの言葉に不思議そうに首を傾げている関根。

 

関根が首を傾げるのも無理からぬことだろう。

 

関根はあの四人の中で一番社交性が高そうに見えるし、きっと本人もそれは自覚しているだろう。

 

それこそこの部の誰とでも難なくやっていけそうな雰囲気がある。

 

なのに誰とも合いそうにないというのは、不思議だと言う他にない。

 

「そこで提案なんだけど、関根さん」

 

「なんでしょう?」

 

「あなた誰か気になる人が居ないかしら?」

 

「気になる人ですか?この部で?」

 

「部外に居るのならその人でも良いわよ」

 

「ならいますよ!」

 

「えぇ…しおりんまさか…」

 

「そのまさか!」

 

部外にならいると即答した関根を見てすぐさま入江が表情を曇らしていく。

 

それとは対称的に一気に表情が明るくなり、笑顔を見せる関根。

 

「いるのならその人がどんな人かちょっと教えてくれる?出来ればどういう経緯で気になったのかも」

 

「分かりました!彼はですね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼を最初に認識したのは入学式でした。

 

クラス表が貼り出されていて、みゆきちと同じクラスだねってはしゃいで教室に入っていった時、彼を見たのです。

 

一番に目に飛び込んできました。

 

男子なのに身体の線が細くて、色も白くて、中性的な顔立ちは文句のつけようがない美少年だったからです。ていうか、むしろ美少女にも見えました。

 

でもその時はただそれだけでした。

 

うわ~イケメンがいるわ~しかもあたしの斜め後ろにいるじゃん、程度の興味しか無かったです。

 

興味を持ったのはその後、自己紹介の時でした。

 

あたしは無難に、明るく自己紹介を終えて少ししてから彼の番が回ってきました。

 

「24番 直井 文人」

 

声を張っているわけでもないのに、よく通る良い声しているなぁと漠然と思っていると、次の瞬間とんでもないことを口にしました。

 

「僕は貴様らみたいな奴らと関わるつもりはない。この言葉が理解出来る程度には知能があるのなら一切話しかけるな。以上」

 

ハートを鷲掴みにされたような気分でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ストップ」

 

「へ?なんです?ここからが良いところなのに」

 

何故話を止められたのか本気で分かっていないご様子だ。

 

「なんで今ので鷲掴みにされんだよ?」

 

「面白いじゃないですか」

 

「え~…」

 

その思考回路がまるで理解出来ん…

 

「ちょっと柴崎くん話の腰折らないでよ」

 

「俺が悪いの?」

 

「さあ、続きをどうぞ」

 

「はーい、そしてですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの中二病全開な感じの台詞で心をガッツリ掴まれてしまったあたしは自己紹介が終わり、先生の解散の号令を聞き終わってからすぐに直井くんの席に行きました。

 

「ねえねえ直井くん」

 

「…チッ」

 

案の定心底嫌がっているって感じの表情を浮かべて舌打ちまでかましてきました。

 

もう背筋がゾクゾクしましたね。

 

でも直井はそれだけで呼び掛けには答えず教室を立ち去ろうとしました。

 

なので腕を掴んで引き留めました。

 

眉間の皺が最高潮になってました。

 

やっぱり面白い反応してくれるなぁ~って、あたしは既に直井くんの虜になっていました。

 

「…貴様はあの程度の日本語も理解出来ないマヌケだと思っていいのか?」

 

「あたしのこと覚えてくれるならなんでもいいよ~」

 

「チッ」

 

舌打ち2回目。しかも1回目より大きい。

 

「あたしさっきので直井くんに興味出ちゃった!これからよろしくね!」

 

「…離せ」

 

「あっ」

 

さっきまでの剣呑とした表情とは少し違った、どこか物悲しそうな表情を浮かべて、掴んでいた腕を振りほどかれました。

 

そして直井くんはこう言いました。

 

「僕はもう誰とも関わらない」

 

そう言った彼の表情は、常に醸し出していた怒りとも違って、かと言ってさっき一瞬だけ見せた悲しそうなものとも違っていて、あたしは何も言えませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、こんなところですね」

 

「で、その後話しかけてないのね?」

 

「毎日話しかけてますよ?」

 

「はぁぁぁぁ?!じゃあ最後のあれはなんだったのよ?!」

 

「その時は何も言えなかったんですけど、次の日になったらまあいっかな~って思いまして」

 

「…………………」

 

関根の行動の脈略の無さにさすがの仲村も言葉が出ないようだ。

 

「ま、まあいいわよ。とにかくその直井くんが気になるのよね?」

 

「はい!是非マネージャーにしたいです!」

 

「任せなさい。あなたのその恋の手助けをしてあげるわ!」

 

「恋?」

 

「え?違うの?」

 

「違いますけど」

 

「はぁぁぁぁぁ?!あなたさっき心を鷲掴みにされたって言ったじゃない!?」

 

「はい!完璧にあたしのツボでした!うっす!」

 

「………………」

 

この短時間で仲村相手に2度も黙らせるとはコイツはただ者じゃないな。

 

今後仲村が無茶な命令を出したら関根をぶつけてみるのもアリだな。

 

「もうどうでもいいわ!とりあえず全員にマネージャーつけられば良いんだから!」

 

「うわぶっちゃけ出したぞ」

 

「うるさい!」

 

「ぐへぇっ!」

 

痛いところを突いてきた日向に見事なローリングソバットを繰り出す仲村。

 

仲村はプロレスでもやっていたのだろうか。

 

「とにかく直井くんを勧誘するわよ!オペレーション・インビテーションSSS、スタート!」

 

 

 

 

 




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