直井から相談を受けた翌日、案の定ゆりによって皆が集められた。
「はい皆ちゅうもーく!またしてもあたしを差し置いて青春への第一歩を踏み出した者たちが現れたわ!」
「ゆりっぺ!俺ならいつでも…「はい拍手~!」
野田には悪いが言われた通りに拍手を送る。
なんたってあの直井が付き合い始めたというのだから、拍手を送らないわけにはいかない。
初めは俺と音無以外とは関わるつもりがないとか言っていたアイツが……そう思うと感動も一潮だ。
アイツも丸くなったもんだ…
「くっ…こんな辱しめを受けるだなんて…いつか地べたを這いつくばらせてやるぞ…」
丸く……なったなぁ。誰が何を言おうと丸くなったなぁ。
「まあまあ照れないでよ直井くぅん」
「うるさい沈めるぞ」
「どこに?!折角出来た可愛い彼女をどこに沈める気?!」
「はいはい、皆の前で痴話喧嘩とか熱いわねー良かったわねー外でやっててねー」
「貴様いつか殺す…!」
でもま、やっぱこうやって照れて顔を真っ赤にしてるのを見ると、最初の頃より幾分かは人間味っていうか、親しみやすさはあるよな。
「照れんな照れんな~俺達も通った道だ!」
「なんだ居たのか洗濯バサミ以下の俗物」
「居たよ!つーかなんだ俗物って?!」
「ついでに今日はあたしも居ます!」
ユイは一体誰に報告してるんだろうか。
と、それは一旦置いておいて。
「直井、おめでとう」
「柴崎さぁん!恐悦至極ですぅ!」
「正直お前が関根と付き合うってことに違和感を感じなくもないけど、相談までしてきたくらいだしそれくらい本気━━「し、柴崎さんそれは…!」
直井に止められた所でハッとする。
「ふーーーーーーん」
こんな話をして、関根が調子に乗らないわけないということに。
「直井くぅん、そぉんなにあたしのことだーいちゅきだったんでちゅかぁ???」
うわー腹立つ顔…口調もこの上なくうざい。
「柴崎さん……」
「これに関しては本気で済まないと思ってる」
俺だったらビンタの一発くらいかましているかもしれない。
「でゅふ、でゅふふふ。直井くんって本当にあたしのこと好きなのか分かんないとこあるからね~。柴崎くんには感謝感謝」
「あんま調子に乗んなよ?あっさり捨てられんぞ?」
「そうだよしおりん…しおりんってそういうとこあるから…」
「そういうとこってなんじゃい?!彼氏に捨てられそうな感じとかあんのかい?!」
いやまあ…そういうとこだろ。
「正直僕の中の優先度は柴崎さんと音無さんが殿堂入りで、その次がお前くらいだから、あんまり柴崎さんに迷惑をかけるようなら捨てるぞ」
「彼女より先輩優先なの?!昨日あんなに激しく想いを確かめあったのに!!」
「いかがわしい言い方はやめろ!」
「あと本当にあたしをないがしろにしたら健人君にチクる」
「それは…本当にやめてくれ」
これは…よくわからんがある意味力関係は対等なのか?
「まあとにかく、これでこの部で青春をしていないのは残り少なくなってきたわ」
ゆりはそんな台詞と共にじっと俺に目線を送ってくる。
いやそんな睨まれても…
「ま、いいわ。今日はこれで解散!」
「おい貴様」
「いい加減リーダー様のことくらい敬って欲しいのだけれど…なにかしら?」
言って直るものじゃないことは分かってるだろうけど、言わずにはいれないという風に嗜める。
「柴崎さんの記憶を早く戻せ」
「あのねぇ、出来るならやってるに決まってるでしょ?」
呆れたようにそう言って、首を横に振る。
「それをやるのがリーダー様とやらの仕事だろう」
「無茶苦茶言うわね…あたしは神かなにか?」
「神は僕だ。図に乗るな」
「はいはいストーーップっ!」
あからさまにイラッとしたゆり先輩の顔を見て間に割って入る。
「直井くんはもう神でもなんでもないって言ってなかったっけ?あの言葉は嘘だったの?およよよ」
「なっ…いや嘘では…!」
「まあ嘘だとしても本当だとしても、後々黒歴史になるからやめた方がいいよー?」
「ぐっ…貴様ぁ!」
「なんで怒るの?!しおりんの優しい優しいアドバイスなのにぃ!」
「はいはい痴話喧嘩は後にしてくれる?そろそろ皆来るわよ?」
その言葉通り、ガチャッと部室の扉が開けられる。
「しおりん!」
「みゆきちぃ!」
まずやって来たのはマイベストフレンドみゆきち。
どちらからともなく抱きつき、再会(?)の喜びを噛み締める。
「しおりん…記憶が戻って良かったよぉ~…」
「泣かないでよみゆきち…あたしも…また会えて嬉しい…っ」
みゆきちの涙に当てられて、柄にもなく目から汗が。
「もう、あたしのクールキャラが崩れちゃうじゃん」
「だーれがクールキャラなんだ?」
「あたっ」
なんとか虚勢を張ると、後ろからツッコミと共に頭にチョップされる。
「ひさ子さん!!」
「どわっ!?抱きつくなっての!」
「だってだってぇ~…!」
「ったく…」
「だってだってなんだもん…」
「キューティー○ニーか?!」
嗚呼、懐かしきこのツッコミ…!
いや、まあ記憶がない間にもツッコミは受けてたんだけど、気分的に!
「関根さぁん!」
「おお!ユイ!!」
「良かったです!関根さんだけ独り身なんてことにならなくて!そうなったらユイにゃんどう接すればいいか………」
「おおん?減らず口を叩くのはこの口かな~?」
「ひーたーひーれーふー!!」
おお、このほっぺはよう伸びる伸びる。
「あれ、あたし最後?」
「岩沢さん!!」
相変わらず飄々とした風に登場してくるなぁ。
普通感動的なハグとかあってもいいだろうに。
でもそこに痺れる憧れるぅ!!
「不肖ながら、関根しおり!ただいま戻りました!」
「おう、おかえり」
あ、ヤバい…なんか…またちょっと泣きそう…
「大丈夫か関根?ひさ子の胸揉むか?」
「揉みますっっっ!!!!」
「揉ませねーよ!?ていうかなんであたしなんだよ?!」
「そりゃ誰かの胸を揉むならひさ子だろ…」
「なんであたしが頭おかしいみたいな言い方されなきゃいけないんだよ?!」
うーん、相変わらず天然ボケ…養殖ボケのあたしとは一味も二味も違う。
そんなことをしみじみと思いながら、ふと気になって直井くんの方を見てみる。
するとそこには、決して本意ではなさそうだけど、日向先輩や藤巻先輩たちと話をしている直井くんの姿が…
成長したんだね、直井くん…!しおりん嬉しい!
「どうした関根?」
「いや、これが母性ってやつなのかなって…」
「よく分からんが違うと思う」
んもぅ!ひさ子さんのいけずぅ!
「なんにせよ、これであたしたちは改めてスタートラインに立ったわけだ」
「改めて、ですか?」
「ああ。記憶が戻ってない頃のあたしたちを否定するわけじゃない…だけど、きっと記憶が戻ってなければあたしたちはプロになろうだなんて思わなかった」
それはそうだ。あたしたちは半ば岩沢さんに乗らされたような形でガルデモに加わったんだから。
そしてその岩沢さんが記憶を取り戻していたって言うなら尚更だ。
「それに、またバンドを組もうって約束したのは、あたしたちだろ?」
「…だな」
「はいっ!」
「えへへ、そっすね!」
「はい!でもそう考えると、あたしたちすごくないですか?!なんか確率とか計算したらヤバそうじゃないです?!ヤバパなくないすか?!」
「確かに、ヤバパない」
「岩沢あんた、言いたいだけだろ…?」
心なしか岩沢さんのテンションが高めな気がするのは、思い違いじゃないかもしれない。
「うおー!!あたしらヤバパねー!!」
それがなんだか嬉しくて、あたしは訳の分からないテンションで叫ぶのでした、まる
「お前もうっせえよ!」
「あいたっ!」
まあそこでチョップを食らうのはご愛敬ということで。
「そんなヤバパないあなたたちは、次のステップに向かうことになるわ」
「ゆり…あんたまでヤバパないとか…って、次のステップ?」
「ええ、意味は分かるわよね?覚悟して練習に取り組みなさい」
……次のステップ?
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