蒼き空の騎空団   作:闇カリおっさん来ない

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我が騎空団である『チーム満足』に誰も入ってこないので初投稿です(半ギレ)


騎空団、団員No.2

 この無限の空の下、騎空団がひしめき合う今の世の中。ある者は人を助けるため、ある者は星の島を目指して、またある者はまだ見ぬ宝を求めて、様々な思いが交錯しあう雲の上。

ここにも一人、旅をするために騎空団に身を置く男がいた。

 名を"ネツァワルピリ"、高山に住む誇り高き『翼の一族』の民の頂点に立つ若き長である。

 彼の団での役割は『翼の一族』で培った風の流れを感じる能力でそれを正確に読み、少しでも危険の少ない道へ導くことである。船のマストの見張りの足場に立つ彼、至るところに鷲を現すようなディティールがこされた鎧に、歴代の長に代々受け継がれてきた鋼の槍を担ぐ彼の姿はまさに人を導く長の姿に他ならなかった。その鋭き鷹の目は、ある一点を睨み付ける。睨み付ける先にはまるで重くのし掛かるような暗い灰色、その合間から覗く稲光が不安な行き先を暗示しているようだった。

 

 積乱雲、騎空団となった者ならば一度は襲われる自然の脅威。

ただの雲とて侮るなかれ、積乱雲の中は氷晶と雨粒が強烈な上昇気流により留まっており、この中を入るものならそれらがあらゆる方向から飛び交ってくる。また、積乱雲内部にはその厚すぎる雲のせいで光が全くといっていいほど届かない。時折氷晶同士がぶつかり起こる稲光が、暗闇を強烈に走るだけだ。

 

 入ったら最後、当たれば即死の雷が走り回り、先も見えずにただ乱気流にもみくちゃにされ、少しずつ体が凍りついていく音を聞くことになる。

 

 さらに上昇気流に打ち上げられ雲頂に登ったものならもう命はない。氷点下の中、荒れ狂う寒風に打ち付けられ、ただ静かに氷付けになるだけだろう。実際、そういうオブジェが島に流れ着いた事もある。

 

 この事から積乱雲は騎空団の中では恐れられており、年老いは死の象徴としてキツく子供たちに語るという。

その死が視線の先に広がっていようと、ネツァワルピリは狼狽えない。ネツァワルピリとて幼き頃には先代から積乱雲の恐ろしさは教わっており、流れ着いたオブジェも見たことがある。その恐怖は人一倍分かっているはずだ、だがそれでも恐れに体を竦めたりはしない。彼が『翼の一族』で、長だからだ。

 

 誇り高き戦士を恐怖させるにはこの程度のことではまるで足りないのだ。威圧も、殺意も、覚悟も。ただただ起こった事象に、何を恐れることがあろうか。いつだって恐れるに足りるのは、自身の恐怖に他ならない。だからこそ彼は克服の道を歩むことこそ勇気だと信じている。

 

 そう、まさに今がその道の一歩を踏み出すときなのだ。ネツァワルピリはただ一言、開戦の言葉を告げる。

 

「どうやって降りようか……」

 

◆◆◆

 

 騎空艇『アジンドゥーバ』を持つ騎空団こと『フライハイト』、本日は珍しく帝国や空賊、また見境のない魔物等に襲われる事もなく実に平和に航空中だった。目の前には恐ろしい積乱雲が広がっているが、そもそも積乱雲があることなど数時間前から気づいている。既にルートは変更済みで、上昇気流や下降気流に巻き込まれることもないだろう。

ガロンバで騎空艇を修理して数日がたった今、『アジンドゥーバ』は修理を行った技師に受けた借りとして押し付けられた仕事、故郷で待つ妻と息子へ物を届けるだけの仕事を果たすために静かな村島に向かっている。

 

 こんな仕事で気を付けることと言えば地図の向きや台風や積乱雲等の自然災害、襲いかかってくる空賊や魔物ぐらいな物だ。

時々エルステ帝国の騎空艇部隊である『鷹派』に目をつけられるが、彼らの本来の仕事は空賊や指名手配犯を拘束することである。流石に帝国を見かけたらルートを急変更するような怪しい挙動をする騎空艇には拘束に向かうが、のんびりと荷物を運ぶ程度であれば荷物からの魔力反応を確認されて終わる程度だ。

 

 だからこそ、ネツァワルピリは油断していた。

急ピッチですることがない今、他のメンバーが甲板に出てくることなどほとんどない。つまり、甲板に降りることが出来ないのだ。何故と気になるだろう。

少々話が変わるがこのネツァワルピリ、その戦法は自慢の脚力で空中を飛び回り、鋭い一撃で奇襲するという物だ。まさに『翼の一族』と名乗るのに相応しい見事な闘いぶりを見せてくれる。

ここで話が戻る、何故降りられないのか。実は彼、『高所恐怖症』なのだ。

 先程空中を飛び回って見事な闘いぶりを見せてくれると言ったばかりだが、事実彼は飛び回るのが嫌いだ。しかし、一族の伝統に基づく戦法を長の責任感を持つ彼はどうしてもそれを無視することが出来なかった。なので仕方なく内心震え上がりながら空中を舞う。

だが残念ながら今は戦闘中ではなくのんびりとしたおだやかな時間。当然気も抜けているし降りるだけで引き締めたくもなかった、だからこそいつもは誰かの力を借りてなんとか甲板まで降りている。しかし、今は上記した通りの状況だ。

 

 団長である彼は操舵士でもあるからいつもならこちらの様子を気にしてくれたりするのだが、ネツァワルピリにとっては運悪く次の島までは後はもう真っ直ぐ行くだけだ。これぐらいなら風による傾きを修正してくれるだけのオート機能に任せておけば団長が手綱を引く必要もない。多分、部屋でこれからの事を考えているだろう。

 

 狙撃主は今頃熱心に部屋で銃のメンテナンスを行っているはずだ。部屋に入っても声を出しても、肩を叩くまで気づかない、なんて事があった程に集中力を銃以外に割くことがない。ネツァワルピリの状況に気を向けることはないだろう。

ガンパウダーマスターであるクムユもシルヴァの為に銃弾を製作中だろう、しばらく技工室から出ることはない。

新しく増えた団員No.5のクラリスは十中八九寝ている。期待するだけ無駄だ。

団員No.6のカリオストロ、今は自室に籠り研究に耽っていて、もう二日も部屋から出てきていない。多分、今日も出てこないだろう。ネツァワルピリは籠る前に彼女が「胸はもう少し盛ってもいいかもしれない」と言っていたのを聞いていたが、彼自身はなんの事か理解せずに終わった。

 

「ぐぬぬ……。我としたことが、抜かった……」

 

 チラリと下を覗く。

 『アジンドゥーバ』は――本来この世界の物を語るとしては表現が間違っているが――風を原動力、推進力とする船の種類の『帆船』に分類されるもので、その推進力を得るために風を受け止める帆を張る柱『マスト』は二本の形式で、その中でもスピードに優れた種類である『ケッチ』だ。

大きさは約20メートルで、ネツァワルピリのいるメインマストの高さは大体10メートル程。けれど立っているのは頂点ではなく、見張りやいざという時の帆の角度を変える場所である8メートル地点にある足場にて悩んでいる。

そんな高い所から下を覗けばどうなるのか、言葉として書き示す必要もないだろう。

 

 覗いた事を盛大に後悔をした数分後、彼は一人脂汗を拭う。

 

「ど、どうする……」

 

 声にならない絶叫を上げてからというもの脚の震えが止まらない彼だが、それで思考力が落ちた訳ではない。選択肢は大きく分けて2つ見えている、降りるか、下ろしてもらうかだ。一つ目を選ぶとして、ネツァワルピリはどうすればいいのか。

一つはかけられたネットを伝って降りる方法がある、確実に安全に降りれるが、そもそもあんな穴空きで下が見えるような物では途中で動けなくなる可能性がある。ネツァワルピリは静かに首をふった。

もう一つは飛び降りることだ。これならば一瞬で終わる、何より『翼の一族』出身である彼ならば8メートルから落ちようと怪我なく着地する事など朝飯前だ。だがそもそも飛び降りる勇気があるならばこんな所で燻っている訳もなし、それに飛び込む一歩を踏み出せる気もしない。ネツァワルピリはため息をついた。

 

 ならば下ろしてもらう方法はどうか、一つは誰かを呼ぶことだが先程振り返った通り皆が皆集中をしているため、気づいてもらえるかどうかすら怪しい。もう一つは偶然大きめのグリフォンのような魔物が通りすがる事だが、積乱雲が近くにあることからそれも難しい。魔物とて自然の脅威くらい遺伝子に恐怖として刷り込まれているのだ、自分から突っ込むなど力を誇示しようとする阿呆のリーダーぐらいだろう。

 積みという言葉が彼に重くのし掛かる。越えようの、いや降りようのない現実が王手となって突きつけられた。

万策尽きたか、と思ったその時、ふと突き刺すような殺気を感じた。

 この世界において空を飛べる魔物はグリフォンのような幻獣種だけではない、昆虫種であるフライやロッド、鳥獣種であるホーンバード等も存在する。その中でも、特に人々に広く知られているのは幻獣種を越えた種である竜種。

仄かな熱を纏い、剥き出しにされている鋭牙よりも奥の火炎袋から火の粉を僅かに吐き出しながら、それは現れた。この世界では珍しくもない、だが存在はその認知度からは想像できない程の危険さを誇る竜種。名を『火竜 ヴレッザレク』、かの大戦でも尖兵として敵兵を万ほど焼き殺した凶悪な存在。その竜種が、ネツァワルピリを縦細く鋭い瞳孔が餌として捉えていた。

 

「……ほう、この自由を誇る我等が騎空艇に単身で乗り込んでくるとはな」

 

 カチリ、と意識が変わる音を確かに感じた。ネツァワルピリはメインマストにかけていた鋼の槍を手に取り、武骨に笑みを浮かべる。

 

 確かに竜種とは人々の恐怖の対象だ、この世界ではポピュラーな魔物、獣種であるウィンドラビットと比べればその差は圧倒的だ。

だがそれでも人々は歩みを止めない、恐怖が死神のように鎌を振るおうとも、空を我が物として翔け続ける。

 そう、それは単純に

 

「さぁいざ、仕合おうではないかッ!」

 

我らが勇気を持つ人々の方が強いからだ。

 

 その後ネツァワルピリはヴレッザレクをものの数分で狩り、いつの間にかメインマストから甲板に降りていたことに喜んだ。だが約一名だけ、その状況を開戦の一言から眺めていた彼は残念そうにため息をついたという。

因みにその日の番に、ヴレッザレクは皿の上に並べられたらしいが、それはまた別の話だろう。




勢いで書いたので誤字脱字が目立つかもしれません。こちらでも確認して無いと思ってから投稿をしていますが、もし目につくようでしたら報告をお願いします。

Q.レジェフェスって?
A.あぁ!(二万でパーシヴァルとアルタイルを引きながら)

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