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「あなたが俺に死ねって言うなら、喜んでこの命を捧げるよ」
出会ってからまだ間もない彼女に少年は告白した。
―――――
4/6
少年、高月四木はその日、駅前で来客を待っていた。
明日は始業式のため早めに寝たいと思いながら右手に巻いていた腕時計で現在時刻を見る。時計の針は既に11を過ぎているが、辺りは建物の光や街灯のせいか深夜には不釣り合いなほど明るかった。
高月は駅前にあったガードレールに腰掛けながら、制服のポケットから携帯を取り出し、迷わず電話帳から自身を此処に追いやった本人を探し当てかける。
こういう時、友人が少ないと便利だな、っと自虐ネタを思いつつ電話をかける。
数回コールすると、繋がった。
「桐条だ。どうかしたか?」
自身の携帯にも関わらず、鋭い声で名乗りを上げた彼女。
律儀と言うか、なんと言うか。そう思い、苦笑しながら質問を投げかける。
「電車が来ないんだけど、何時になったら来るんだ?」
「待っててくれ。今調べる」
短く答えるとプツリ、っと電話を切る桐条。
保留という機能を彼女は知らないんだろうな、っと予想する。
高月は携帯を耳から離し、周りを見渡す。
深夜帯にも関わらず、沢山の人がそこにはいて、この場を去る。
残業帰りなのか、くたくたなサラリーマンらしき人。
元気にぺちゃくちゃと無駄に騒ぐ学生らしき人。
顔を赤くし、肩を借りながら歩いていた酔っぱらい。
そんな多種多様な人の中でも高月は異様に目立っていた。
ガードレールに腰掛け、首元が隠れるほど長く、金色の髪をいじっている少年が目立つ理由は、その服装だった。
月光学園館学園の制服を着こなしていた少年は、この時間帯にはミスマッチでしかない。
高月もわかってはいたが、今から来る来客は制服で来るらしいので、それに合わせてきたのだが、現在はかなり後悔中だった。
来客には事前に高月が制服で来ることをすでに伝えられてるため、今更変えるわけにもいかず、腹を括ってこの服装で来た。
周りの目線が痛い、今日何度目になるかわからない溜め息を吐くと、手にしていた携帯が震えた。液晶には“桐条美鶴”の文字を確認してから応える。
「どうやら、彼が乗っている電車は12時ちょうどに到着する予定らしい」
12時か。高月は再度腕時計で時間を確認する。
長針は11を越え、短針は6に差し掛かろうとしていた。
「だったら、“1時間半”あるし明彦みたく、見回りにでも行こうか?」
「いや、彼に“適性”がある可能性も0ではない。彼が来るまではそこで待機しておいてくれ」
「わかった」そう応えて電話を切る。
電話を切って直ぐにまた溜め息を吐く。
12時になるのは今から30分後だが、2人中には、いや、適性がある者には、異様な1時間を体験することになる。
高月達はその1時間を“影時間”と呼んでいた。
その1時間は12時を過ぎると毎日体験することになり、その間は機械が止まり、適性がない人は棺に変わる。高月はこの時期の影時間には特別強い思い入れがあった。
白い息を吐きながら、まだまだ肌寒いこの時期を恨み、未だこないvip待遇な来客を憎む。――もっとも来客が未だに来ないのは電車側の事故のせいであり来客の問題ではないのだが――
高月は空を仰ぎ見ると綺麗な夜空に浮かぶ月を見つめた。
今宵は月が綺麗だな。もうすぐ満月か?
特に天体に興味はない高月だが、この時期に、この時間は、高月にとって特別な意味をなす時。
それは、1年前自身が恋し、未だに夢中で、恋い焦がれている“彼女”の出会い。
高月は腕時計を見ると、思い出す。
昨日のことのように鮮明に思い出せれる、1年前の今ごろの記憶を――
―――――
好奇心は猫をも殺す。
高月は不気味な、薄気味悪い迷宮で走りながら、その言葉を思い出し、痛感していた。
もし、もしもあの時、変な好奇心に刈られてなければ今ごろは、自室にいて何時も通りの生活を過ごしてたのに!!
後悔しながら走っていると、すぐ先に何度も通った交差点が見えた。
真っ直ぐ走っていれば、この先は行き止まりだ。それは、何度もこの辺りを走っている自身が知っている。
次の交差点を右に曲がれば変な機械があり、左に行けば上へと上がる階段で、真っ直ぐ行き道なりに進めば行き止まり。そして後ろは――――
高月は首を動かして、後ろから自身を追い掛けてきている“化物”を怯えた瞳でチラリと見る。
じゃらじゃらっと鎖の音を鳴らしながら、自身を追い掛けてきている化物は、人に似た体に、絡み付いたように張り巡らされた鎖、両手に備えている細身の長い拳銃は、高月には必要ないと思われているのか、彼を狙うことはなく、不気味な恐怖感を煽るかのような白い仮面は、今の高月には直視することすら難しい。
高月は前を向きなおす。整った顔立ちは大量の汗で、狐のように細い目は涙を溜めて、華奢な身体に鞭を打ち、ただひたすらに走らせる。
制服は所々が破れており、そこから見える白い肌からは軽く血が流れている箇所もちらほらと。
立ち止まったら――死
そんな極限状態を今日だけで何回したことやら。
高月は交差点を左に曲がる。
こんな所から早く去りたい高月にとって、登りの階段を使うなんて論外、そんな発想は蚊帳の外だ。
ただ、真っ直ぐ行くよりも、右に曲がるよりも道が長いから、左に曲がる。
生きてる実感を少しでも長く維持したいから、左へと曲がった。
少しでも死を覚悟する時間を長く欲しいから、走る。
自身を追う化物は後に“刈り取る者”という名称があることを高月は知ることになる。
好奇心は猫をも殺す
この言葉を少し変えると、今の高月にピッタリな言葉に変わる。
好奇心は人をも刈る
ほらね、高月は自傷するかのように薄い笑みを浮かべる。
その顔には、絶望しか感じ取れず、もうすぐ自身を出迎える壁が絶望を明確に知らせることになるだろう。
死神の鎌が首筋に触れているかのように、刈り取る者の細身の長い拳銃が頭に突き付けられてるかのように、高月は絶望し、後悔し、泣くことしか出来なかった。
目の前に高く立ちはばかる壁を見つめながら。
高月は目を瞑る。
すると、今までの人生を猛スピードで振り返る。
―――――
高月四木は感情が乏しい子だった。
それは、自身の両親が原因だ。
母親は高月を産んで直ぐに亡くなり、本当の母親の顔はわからない。
父親は母親が亡くなると直ぐに違う女と結婚した。
新しい母親と父親は高月を邪険に扱って過ごした。
高月に残された両親の記憶には自身に暴力を振るっていたことのみであった。
だが、それはピタリと止んだ。
自身も明確には覚えてないが、7年前、両親は亡くなったのだ。
その後、高月は夏目夫妻に引き取られ、少中高と月光学園に通う。
自身を引き取ってくれた夏目夫妻に心配掛けないように健康には気づかい、大人になれば恩返しが出来るように勉強する。そんな学生の鏡のような高月だが、その日は少し違った。
もうじき2年生になる高月とその友人達は残り少ない春休みを満喫するべく、夜遅くまで出歩いていた。
「そろそろ帰ろう」高月は腕時計を確認しながら提案する。時刻は11時を過ぎ、もうじき針は、真上である12を指す。
友人達も帰る流れになり、皆で帰ることになった。
時計の針は――12を指した。
その瞬間、世界が変わる。
先ほどまで自身がいた場所は、薄気味悪い道へと
先ほどまで自身の傍にいた友人は棺へと
先ほどまで自身が見ていた月は、綺麗に輝き、空はまがまがしさを感じる色合いへと
世界が変わったことに着いていけないのか、機械は、人の流れは、止まる。
なんだ……これ!?
間違いなく異常事態だというのは高月は一瞬で把握できた。頭ではなく、直感が感じ取ったのだ。
周りを大きく見渡すと、直ぐに気付いた。
見覚えがある街が、別の街のような雰囲気を晒す中、“それ”は見覚えが無い建物だった。
一文字で言うなら“塔”付け加えるなら“不気味”感じ取れたのは“異様”
あんな塔はこの街には存在しない。
一度見たら二度と忘れることは出来ないような異常な形をした塔は、天に届くかのような高さであった。
当時の高月は、この異様な塔に魅入ってしまった。
好奇心に負け、塔に向かって駆け出してしまったのだ。
迷うことなく塔に入るとそこはエントランスだった。
神秘的な雰囲気で支配されているここは、あの不気味な雰囲気を感じさせた塔とどことなくマッチしていた。
フロアの中央には長い階段があり、その先には扉が見える。
階段の他には変な機械と時計のみで、高月は迷わず階段を駆け上る。
それが数時間後、後悔することを知らず、期待と興奮、何より好奇心に満ちあふれていた顔で扉を開いた。
―――――
扉の先は地獄そのものだったのは言わずともわかるだろう。
自身が潜った扉は気が付いたら無く、あったのは好奇心を満たすモノではなく命を刈ろうとするモノばかりだった。
始めは“影の化物”
影が浮き出たかのように漆黒で仮面を付け両手があった。
そこらの子供より小さく、小さかったゆえに、油断した。
化物の手が自身を引き裂く。
切り傷で済んだものの、その瞬間、好奇心は絶望感へと変わり、逃げ出そうとする。自身が開いた扉は、ない。
扉を探しつつ、化物達から逃げるためにこの迷宮を走り続るも、見つけたのは上へと続く階段と変な機械のみ。挙げ句の果てには刈り取る者が出る始末。
もし、あの時警戒してエントランスに踏みとどまっていれば。
もし、塔なんか無視して部屋に帰っていたら。
高月は笑みを浮かべながら目を開ける。
もう、助からないと諦めながら。後ろから聞こえる鎖の音が徐々に大きくなる。
後ろを向く。自身の好奇心から来た死を覚悟しながら。
刈り取る者は初めて、手にしていた銃身を高月に向ける。
白い仮面には不気味な笑みが写しだされたかのような錯覚に陥る。
死に……たくない。
死にたく……ない。
死にたくない!!
恐怖心からか上手く動かせない口の代わりに、内心盛大に叫ぶ。
誰も聞こえない声で、叫んでも意味ないことを知りながら。
顔を伏せ、無駄だと知りながらも両手で頭を抱えるように丸まる。
次に聞こえる銃声が、自身の最後を通告するものだと思いながら。
そんな時だった。
銃声だと思っていた次に聞いた音は――いや、声はこの場の雰囲気、絶望していた高月には不釣り合いな声だった。
「お客様」
いつの間にか目の前に、刈り取る者と高月の間に立っていた女、青いワンピースを着こなした謎の女が、この緊迫したシリアスな空気で聞けるとは思えない独創的な抑揚な口調で場を切り開いた。
高月は顔を上げると周りを見渡す。この場には自分と化物の1人と1体しかいなく、お客様が人を指すのであれば、呼ばれたのは高月しかいない。
「何をキョロキョロとしてらっしゃるんですか、お客様」
お客様って、俺のことですか?っと尋ねようにも口が動かない。
女の先には未だに化物である刈り取る者がいるからだ。
女は高月が刈り取る者を怯えて見てることに察したのか、「あぁ」っと短く口にして、手にしていた辞典を開く。
「お客様、契約しておきながら話を聞く前に死なれても困ります」
契約?
高月はその単語を女の口から聞くと、何かを思い出す。
それは不確かな思い出、自身が子供の頃に聞いたことがあった気がする。その程度のレベルだ。
「ですので、貴方は――――」
「あっ、危ない!!」
高月が危険を教える頃には後の祭り、刈り取る者は銃身を女に代え、無残にも引き金を引いた。
ドラマや映画でしか聞いたことのない銃声を現実で耳にする。いや、そもそもここは現実だと言う確証はない。これは夢かもしれない。
でも、夢だろうと目の前の謎の女は撃たれたもは事実。
至近距離に頭目がけて放たれた銃弾を先ず、人が避けるのは無理だ。それに、女の体付きは華奢そのもの、先ず不可能だろう。
そう思ったからこそ、空いた口を閉じることができなかった。
「私が話しているのを邪魔するとは……」
撃たれたと思っていた女は傷1つ無く、代わりに右隣にあった壁には先ほど放たれたであろう銃弾が埋もれていた。
意味がわからない……なんなんだよこれ。弾かれたであろう銃弾を見ると、ますますこれが夢だと思えてきた。
「それでは、お仕置きとまいります」
楽しそうな口調で言う女、高月には後姿しか見えていないがなんとなく楽しそうな笑みを浮かべてるんだな、っと勝手に予想。
手にしていた辞典から一枚のカードを取り出すとそのカードを刈り取る者に向けた。
「メギドラオンでございます」
先ほどとは一転、酷く冷たい淡々とした口調で女は文字通り言い放つと、刈り取る者の頭上に金色の大火球が現れた。
「あっ、お客様」
今思い出したかのような口振りで女は顔だけ此方にむけて警告した。
その顔は営業スマイルだな、っと一目してわかるような笑みだ。
「これより先、衝撃注意でございます」
「衝撃……?」
エレベーターガールよろしく、聞き取り易く、滑舌よく忠告する。
忠告して数秒、勢いよく火球が爆せる。
その強力な爆風に吹き飛ばされると、真後ろにあった壁に激突する。
今日一番の衝撃と痛みだった。
「衝撃に注意してくださいと申したのですが」
激痛に悶えながら、高月は女を見る。
白銀の髪に相反するような黄金の瞳は真っ直ぐ此方を見つめており。
不自然なぐらい白い肌はまるで生気を感じ取れず、人形のような美しさを兼ね備えていた。
そんな女を引き立たせるかのように、刈り取る者は光りながら、消えていった。
綺麗な人だ。素直に評価していると、女と目が合う。すぐに逸らす。
何故か女の顔を真っ直ぐ見るのに抵抗があった。
刈り取る者とは違い、なんというか、心が締め付けられるから。
「私、お客様のサポートを担当することになりました、エリザベスと申し挙げます」
エリザベスはいきなり名乗ると、未だ起き上がろうとしない高月に近づき、手を差し出す。
「以後お見知りおきを」
差し出された手を高月は取る。
その顔は赤く、未だにエリザベスから目を逸らしていた。
「よ、よろしくお願いします!!」
高月が立ち上がるのを目で確認するとエリザベスは手を離し、前を向く。
「今からお客様を主の元までご案内させていただきます」
「は、はい!!」
エリザベスは何の興味も示すことなく歩きだし、高月はその後ろ姿を見ながら着いていく。
高月は全くの逆でエリザベスに興味津々だった。
自身の命の恩人であり、異様に美しい彼女にたいし何時の間にかただただ惚れていた。
一目惚れというか、つり橋効果というか……いや、両方なのかもしれない。
愛かもしれないし勘違いかもしれない。
とにかく今は、彼女を見ておきたい。高月はそう結論づけると、彼女の後ろ姿を食い入るように見つめる。
2人の間に会話は一切無く、ただエリザベスの後ろ姿に見惚れていた高月は、道中にあった謎の機械から、二人はエントランスへと戻っていった。
それが高月が恋焦がれる彼女、エリザベスとの出会いだった。
―――――
「あのー」
「ん?」
高月が1年前の思い出に浸っていると月光学園の制服を着た青色の長い髪をした少年に声を掛けられた。
不思議な感じがする人だな、よくはわからいけど、高月は興味深そうに少年を見つめている。
「高月さん、ですか?」
「そうだよ、君は有里くんかな?」
「はい」
少年、有里 湊こそが高月が待ち望んでいた来客だ。
事前に顔写真も渡されてなく、制服を着た青髪の少年としか聞いてなかった高月だが、目の前の少年はまさしく聞いた通りの少年である。
有里は先ほどから周りをチラチラと横目で見ているのに気付くと、自身も周りを見渡す。
時計の針は既に12を指し、止まっていた。
今は適性ある者のみが体験する時間、影時間だ。
影時間中は余り外にいないほうがいいし、早めに彼を送るか。
高月はガードレールから降りると棺のオブジェを見つめていた有里に笑いかける。
「不気味なオブジェだろ?センス悪いって君と同年代の後輩が言ってたよ」
「確かに、悪いですね」
クスリ、っと笑う有里を見ていると高月は不気味な一瞬感覚に駆られる。
1年前、刈り取る者に感じた以上の感覚に。
……気のせいか、っと結論づける。
こんな後輩に刈り取る者以上の力なんかあるはずない。
「今日はもう遅いし、明日は始業式なんだ。早く寮に行こう」
「わかりました」
「あっ、寮迄の道案内はするけど、少し用事があるから俺は手前の道で別れるよ」
「用事ですか?わかりました」
折角だし、今日はエリザベスに会いにいこう。
高月が歩きだすと有里はその隣に立ち、歩く。
4/6・月曜日
それは、始業式前日の日
有里湊が初めて寮に訪れた日だった。