遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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シンクロ次元はバカばっか。


第3章 NEXT CHALLENGERS
第95話 昇進確定だ!


それは、雲1つ無き、青空の下での出来事だった。近未来的な建築物が並び立つ中、長いデュエルレーンと繋がれた、巨大なスタジアム。どこもかしこも観客で満席、街中には中継が写されている中、人々は、忘れられていた伝説を目撃する。

スタジアムの中心のサーキット、人々の目が釘付けとなっているのはそこに立っている3人のデュエリストの存在。

 

1人は、長身の男、金髪にライディングスーツ、鋭き眼光はまるで王者を思わせ、並外れた威圧感を放っている。

1人は箒のような髪型をした小柄な男。バンドで髪を留め、額にはM字のマーカーや、それらと同じようなマーカーが顔中に刻まれている。

そしてもう1人は――。

 

人々はこの衝撃的な光景をその目にし、記憶に刻みつけ、忘れる事は無いだろう。誰もが彼等を見て、脳裏にある言葉が過る。

 

――ライディングデュエル。それはスピードの中で進化したデュエル。そこに命を賭ける伝説の痣を持つ者を、人々は――。

 

第3章 NEXT CHALLENGERS

 

――D-ホイール。デュエルディスクを進化させたそのマシンを駆使し戦うライディングデュエルは、スピードとスリルに溢れた最高のショーであり、自由の象徴であった――。

 

――――――

 

シンクロ次元、シティの上層トップスと、下層コモンズを隔てる橋のようになった公道――今はライディングデュエルの為に変形したレーンにて、2人の少年と少女を乗せたD-ホイールを、シティのデュエル警察、セキュリティの隊員である2人が追っていた。

少年の名はユーゴ。白いライディングスーツに同色のD-ホイールに乗った彼はセキュリティを一瞥して舌打ちを鳴らす。

もう1人、少女の名は柊 柚子。ユーゴから受け取ったヘルメットを被り、セレナのものであるアカデミアの赤いジャケットを纏った彼女は何故こうなったのだろうと戸惑う。

 

彼女は元々スタンダード次元の人間であり、どうして自分がここにいるのかさえあやふやだ。文化が違うシンクロ次元のこの光景も彼女を混乱させる。

そもそも――こうなってしまったのは一種の事故だ。故意のものではない。

 

スタンダード次元、舞網チャンピオンシップの会場にて、黒コナミとユーリのデュエルが終了した時、ユーゴがそこに通りかかった事で柚子のブレスレットが光り、2人はここに転移させられたのだ。

そして転移先はトップスが住む高層エリア。不法侵入と勘違いされ、通報されて今に至ると言う訳である。

更に追って来たのは2人のセキュリティ、1人ならまだしも2人となってはユーゴも不利だ。柚子にダッグを組ませようにも後ろに座る彼女を参戦させるのは危うい。

野次馬が沸き、上空にはマスコミ、メリッサ・クレールと言ったか、女性がユーゴの気も知らず、実況するヘリが一機、セキュリティを纏める長官が治安維持局のウィンドウ越しで「勝ったな、Dこれやって来るわ」と呟く始末の劣勢。

 

そこに――コモンズが憧れ、トップスが恐れるヒーローが現れる。遥か上空、夜空にキラリと輝く星、それは流星の如く飛来し、姿を見せる。

 

「空を見ろ!」

 

「何だアレは!?鳥か!?」

 

「飛行機か!?」

 

流れる一筋の星を見て、コモンズトップスを問わず目を見開いてその正体を見定める。白とミントグリーンのカラーリング、先端が二又に分かれた独特の形状をした戦闘機のような物体が翼を展開し、飛来する。それに登場したのは、白いジャケットを纏い、同色の帽子を被り、そして――竜をモチーフとしたお面を着けた男。

 

「いやフユーン……D-ホイールだ!」

 

「お面ホイーラーだ!」

 

お面ホイーラー。それはまるで流星のように空を駆ける巨大なD-ホイールに乗り、デュエルある所に現れる謎の糞迷惑D-ホイーラー。

主に犠牲者がセキュリティの為、後何か格好いい為、コモンズは支持し、トップスのチビッコ以外が恐れる存在である。この男の登場にユーゴは「生のお面ホイーラーじゃん!マジ?サイン!色紙あったっけ!?」と騒ぎ立て、柚子は白い目でお面ホイーラーを見る。セキュリティは背後に着地した巨大なD-ホイールに事故られるのを恐れて顔を青くし、治安維持局の長官は「んもぉぉぉぉぉっ!!お面ホイーラー、ふっざけんなよぉっ!!」とキャラ崩壊して叫ぶ。

 

長官にとってレーンを破壊し、セキュリティをバッタバッタと倒すお面ホイーラーは天敵である。厳しい彼も、お面ホイーラーに敗北したセキュリティは彼はもう終わりですねをしない事が物語っている。と言うかそんな事をすればキリが無いのである。

 

「ゆ、柚子!お前色紙持ってない!?いや、いっそD-ホイールに……!」

 

「私がリンって子なら間違いなくぶっ飛ばすわよそれ」

 

「2対1とは天下のセキュリティが情けない、情けなくない?ユーゴ!手を貸そう、タッグライディングデュエルだ!」

 

「はっはい!?何でお面ホイーラーが俺の名前を……!?やるやるぅ!」

 

セキュリティの遥か背後に着地、翼を折り畳み、フライングモードからライディングモードへと切り替え、ユーゴへと助け船を出すお面ホイーラー。そんな彼に嬉しそうに答えるユーゴ。これで2対2、まともな勝負となりそうだ。セキュリティも覚悟を決め、こうなったら返り討ちにしてやろうと息巻く。

 

「「「「ライディングデュエル、アクセラレーション!!」」」」

 

こうして始まる、タッグライディングデュエル、ライディングデュエルの特徴であるスピードワールド・ネオが発動され、ユーゴが先攻を取る。ターンはユーゴ→デュエルチェイサー227→お面ホイーラー→デュエルチェイサー110となる。ユーゴは憧れのヒーローに格好いい所を見せる為、鼻息荒く戦術を練る。

 

『ついに始まったライディングデュエル!お面ホイーラーも参戦し、このデュエルはどうなるのでしょうか!?お面ホイーラーがまたセキュリティを狩るか!?それともセキュリティが意地を見せるか!?実況はこの私、メリッサ・クレールがお送りします!』

 

「俺のターン、俺は『ゴブリンドバーグ』を召喚!」

 

ゴブリンドバーグ 攻撃力1400

 

スピードを上げるユーゴのD-ホイールに並走し、現れたのは玩具の飛行機に乗った『ゴブリン』。残念ながら『スピードロイド』の核である『SRベイゴマックス』は引き込めなかったが、手はまだある。

 

「『ゴブリンドバーグ』の召喚時、手札の『SR―OMKガム』を特殊召喚!自身を守備表示に変更!」

 

SR―OMKガム 守備力800

 

お次はガムのケースが変形した小さなモンスター。これでチューナーと非チューナーが揃った。ユーゴ得意の高速シンクロ、シンクロモンスターを呼び出そうと手を翳す。

 

「レベル4の『ゴブリンドバーグ』にレベル1のOMKガムをチューニング!その躍動感溢れる、剣劇の魂。出でよ、『HSRチャンバライダー』!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000

 

OMKガムの身体が光のリングとなって弾け飛び、『ゴブリンドバーグ』を包み込む。更に一筋の光がリングごと『ゴブリンドバーグ』を貫き、新たなモンスターを呼び起こす。刀を模したバイクの下半身を持った、鋭き侍のモンスター。攻撃力は低いものの、それはこれから補われる。

 

『少年がいきなりシンクロ召喚!彼も中々侮れません!』

 

「OMKガムがシンクロ素材として墓地に送られた場合、デッキトップを墓地に送り、『スピードロイド』モンスターならこのカードを素材にシンクロ召喚したモンスターの攻撃力を1000アップする!デッキトップは『SR三つ目のダイス』!よって攻撃力アップ!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力2000→3000

 

攻撃力3000、これならば上級モンスターだろうとそうやすやすと突破出来ないだろう。初手としては充分のモンスターだ。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『HSRチャンバライダー』(攻撃表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札5(お面ホイーラー)

 

『さてさて相手の場には攻撃力3000のシンクロモンスター、セキュリティ組はどう攻略するのか!?』

 

「お面ホイーラーが相手……!だが奴を倒せば昇進確定!俺のターン、ドロー!手札の『サスマタ・ガードナー』の効果発動!相手フィールドのシンクロモンスター、チャンバライダーの攻撃力を500ダウンし、このカードを特殊召喚!」

 

HSRチャンバライダー 攻撃力3000→2500

 

サスマタ・ガードナー 守備力2000

 

227のターンに移り、彼が手札から特殊召喚したのは歌舞伎や時代劇に出て来るような白い化粧に赤い隈取り、そして身体には真っ赤な鎧を纏い、巨大な盾と刺股を持ったモンスター。

 

「『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

次に召喚されたのは羽織に袴、十手を持った役人のようなモンスター。セキュリティの扱うポリスモンスターの中で『切り込み隊長』の役割を果すカードだ。

 

「『ジュッテ・ロード』の召喚時、手札の『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

更に展開、現れたのはマスコットのような小柄な身体に髷と眼鏡、十手を持ち、背に提灯を負ったチューナーモンスターだ。

 

「『ジュッテ・ナイト』の効果により、チャンバライダーを守備表示に変更!そしてレベル3の『サスマタ・ガードナー』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!地獄の果てまで追い詰めよ!見よ!清廉なる魂!シンクロ召喚!出でよ!『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900

 

今度はデュエルチェイサーのシンクロ召喚、現れたのは『ジュッテ・ナイト』を成長させたようなモンスターだ。歌舞伎の白化粧に赤い隈取りと髷、十手を持ったモンスター。攻撃力は低いものの、その効果は厄介だ。

 

「バトル!『ゴヨウ・チェイサー』でチャンバライダーへ攻撃!」

 

「墓地の三つ目のダイスを除外し、攻撃を無効!」

 

『ゴヨウ・チェイサー』が十手につけられた縄をブンブンと振り回し、十手をチャンバライダーに投擲する。これを受けては不味い。直ぐ様ユーゴは墓地の三つ目のダイスを使い、D-ホイールを横に倒して三角形のバリアを展開する。

 

「ならば『ジュッテ・ロード』で追撃!」

 

「墓地に送られたチャンバライダーの効果で除外された三つ目のダイスを回収!」

 

『チャンバライダー撃破!流石セキュリティ!巧みな手管で見事攻撃力3000を越えました!』

 

しかし相手はデュエルチェイサー、追跡者の名は伊達ではない。猟犬のようにどこまでも追い、獲物を逃さず食らいつく。折角攻撃力を上げたチャンバライダーも見事なプレイングで突破された。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ジュッテ・ロード』(攻撃表示)

セット2

手札1(227)手札5(110)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『ついに来ましたお面ホイーラーのターン!チェイサー達のフィールドには『ゴヨウ・チェイサー』と『ジュッテ・ロード』の2体!さぁ、どう出るのでしょうか!』

 

お面ホイーラーのターンと共に上空のヘリからメリッサの実況が飛ぶ。チェイサー達のモンスターの攻撃力はそう高く無い。だからこそ、2枚のセットカードに何かがある筈だ。

 

「俺は手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

お面ホイーラーの手札を撃ち抜き、現れたのはテンガロンハットを被ったガンマン人形。銃より吹く煙をフッ、と消し飛ばし、クルクルと回転させてガンホルダーへと戻す。

 

「そして『クリア・エフェクター』を召喚!」

 

クリア・エフェクター 攻撃力0

 

次に登場したのは煌めく黒髪を流し、民族衣装に身を包んだ女性のモンスター。レベル2のシンクロ素材としては実に優秀なモンスターだ。

 

「レベル2の『クリア・エフェクター』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし思いがここに新たな力となる。光差す道となれ!シンクロ召喚!燃え上がれ、『ニトロ・ウォリアー』!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

お面ホイーラーもシンクロ召喚。シンクロ合戦に名乗りを上げたのは戦士と言うには異質な宇宙人のようなモンスターだ。緑色の体躯を持ち、爆弾の如く膨れ上がった尾を持っている。お面ホイーラーの扱うシンクロモンスターの中で戦闘能力が高いカードだ。切り込み役としてはこれ以上に向いた者はいない。

 

「『クリア・エフェクター』がシンクロ素材となった事で1枚ドロー!」

 

お面ホイーラー 手札3→4

 

「更に『クリア・エフェクター』をシンクロ素材にした事で『ニトロ・ウォリアー』は効果破壊耐性を得ている……!」

 

「その通りだ!魔法カード、『調律』を発動!『クイック・シンクロン』をサーチし、デッキトップを墓地に!墓地の『ADチェンジャー』を除外し、『ゴヨウ・チェイサー』を守備表示に!」

 

「攻撃力で勝っているのに守備表示に……?」

 

「そっか、柚子は知らねぇもんな。『ニトロ・ウォリアー』は相手モンスターを破壊した時、相手の表側守備表示のモンスターを攻撃表示にしてもう1度攻撃出来る効果があるんだ」

 

お面ホイーラーの操るモンスターを知らない柚子が疑問を発し、ユーゴがそれに答える。お面ホイーラーのファン、そして知り合いにお面ホイーラーと良く似たデッキを使う者がいる彼はそのモンスター達の効果を良く知っている。

 

「成程、だから――」

 

「しかも自分ターンに魔法カードを発動した場合、『ニトロ・ウォリアー』はダメージ計算時、攻撃力を1000アップする。こいつぁ中々強いぜ」

 

「バトル!『ニトロ・ウォリアー』で『ジュッテ・ロード』に攻撃!ダイナマイト・ナックル!」

 

「やらせるか!罠発動!『セキュリティー・ボール』!『ニトロ・ウォリアー』を守備表示にする!」

 

だがそうは問屋が下ろさない。お面ホイーラーも強力なデュエリストだが、デュエルチェイサーに選ばれた227も非凡なデュエリスト。効果破壊が出来ない。攻撃力が高いだけなら幾らでもやりようがあり、セキュリティにとってはお手の物だ。これもその一種、戦闘破壊を可能とする為、低い守備力を狙い撃つ。

227を守るように出現した黄色く発光する赤いボールからレーザーの縄が飛び、『ニトロ・ウォリアー』を守備表示に張りつける。

 

『ここで227防ぐ!これは上手い!』

 

「チッ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『ニトロ・ウォリアー』(守備表示)

セット2

手札3(ユーゴ)手札3(お面ホイーラー)

 

「私のターン、ドロー!チューナーモンスター、『トラパート』を召喚!」

 

トラパート 攻撃力600

 

110の手札から召喚されたのは円を中心とし、上下にかかしのような魔法使いが生えた奇妙なモンスター。彼等の使うポリスモンスターの1体であり、『ジュッテ・ナイト』と共に良く使用されるチューナーだ。

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』にレベル2の『トラパート』をチューニング!出でよ!荒ぶる獣の牙もて捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2200

 

当然シンクロ、登場したのは『ゴヨウ』シリーズの1体、獣か魔人のような角を持ち、強靭な肉体に獣の体毛や尾を振るう凶暴なモンスター。攻撃力は2400、所謂帝ラインに達したカードだ。

 

「更に!自分フィールドに戦士族モンスターが存在する事で手札の『キリビ・レディ』を特殊召喚!」

 

キリビ・レディ 守備力100

 

カチカチと火打ち石を鳴らして頭巾と着物を纏ったたらこ唇の少女が現れる。

 

「魔法カード、『二重召喚』!再び得た召喚権で『ジュッテ・ナイト』を召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 攻撃力700

 

「レベル1の『キリビ・レディ』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の力を思い知れ!シンクロ召喚!現れろ!『ゴヨウ・ディフェンダー』!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2200→2500

 

2回連続シンクロ、現れたのは今までとは違い、レベル3のシンクロモンスター。他の『ゴヨウ』とは一風変わった、卵のような形をした『ゴヨウ』モンスターだ。

 

『110、2回連続シンクロ!追い詰めるぅー!』

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で自分フィールドのモンスターが戦士族、地属性シンクロのみの場合、エクストラデッキの『ゴヨウ・ディフェンダー』を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2500→2800

 

「シンクロモンスターが4体……!」

 

「本来は2体目の効果も使う所だが……今はやめておこう」

 

恐るべき展開力、条件は厳しいものの、『ゴヨウ』によっては達成はしすやく、最低フィールドにこのモンスターのみで乗り越えられる。そして『ゴヨウ・チェイサー』の攻撃力もアップした。

 

『110恐るべき展開力!これは勝負あったかー!?』

 

「バトル!『ゴヨウ・プレデター』で『ニトロ・ウォリアー』に攻撃!シンクロ素材とした『トラパート』の効果でダメージステップ終了まで罠の発動を封じる!更にプレデターの効果で破壊した『ニトロ・ウォリアー』を自分フィールドに特殊召喚!」

 

ニトロ・ウォリアー 攻撃力2800

 

これが『ゴヨウ』モンスターの真に恐るべき効果だ。墓地を通したコントロール奪取、これで強力な『ニトロ・ウォリアー』がそのまま敵となってしまった。墓地を経由した為、破壊耐性は失われたが、このモンスターの爆発力はお面ホイーラー自身良く分かっている。

 

「『ニトロ・ウォリアー』で攻撃!『ゴヨウ・プレデター』の効果で特殊召喚したモンスターが与えるダメージは半分となるが、それでも充分だ!」

 

「何が充分だ?俺は手札の『速攻のかかし』を捨て、攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する」

 

しかしこんなに簡単に彼を倒せるならば治安維持局長官はとっくに胃薬を手放している。『ニトロ・ウォリアー』が110のフィールドに現れ、その拳がお面ホイーラーに襲いかかる中、長官は「おお!」と嬉しそうな顔をして立ち上がり、ワインレッドのサングラスをかけたかかしがその拳を受け止めた瞬間、無表情で席に戻る。

 

「くっ、カードを1枚セット!ターンエンドだ!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『ニトロ・ウォリアー』(攻撃表示)

セット1

手札1(227)手札1(110)

 

ハイウェイで繰り広げられるライディングデュエル。ユーゴと227、110は猛スピードで飛ばし、お面ホイーラーはその巨大なD-ホイールの為、低速でジリジリと走行する。ターンは一周し、ユーゴの2ターン目、後ろで自身のD-ホイールに必死にしがみつき、うひゃあうひゃあと悲鳴を上げる柚子を一瞥し、ユーゴはデッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「しっかり掴まってろよ柚子。俺のターン、ドロー!まずは『SRアクマグネ』を召喚!」

 

SRアクマグネ 攻撃力0

 

ユーゴの手から登場したのは青く、丸い物体にU字の磁石が3つついた何とも奇妙なモンスターだ。

 

「アクマグネの効果!自分メインフェイズに召喚、特殊召喚した場合、相手モンスター1体とこのカードでシンクロ召喚する!俺はレベル5の『ゴヨウ・チェイサー』にレベル1のアクマグネをチューニング!十文字の姿持つ魔剣よ。その力で全ての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、『HSR魔剣ダーマ』!」

 

HSR魔剣ダーマ 攻撃力2200

 

敵モンスターを巻き込んでのシンクロ召喚、正規のものの為、モンスター自体に縛りがあれば召喚も不可能であり、風属性モンスターしかシンクロ召喚出来ない為、使いにくいが召喚してしまえば後の縛りは無い。これで攻撃力が膨れ上がった『ゴヨウ・チェイサー』を除去出来た。

 

『これは凄い!相手モンスターを除去してからの展開!しかし『ゴヨウ・チェイサー』は墓地に送られても未だにチェイサーのフィールドには攻撃力2800の『ニトロ・ウォリアー』と攻撃力2400の『ゴヨウ・プレデター』が存在します!』

 

「罠発動!『リサイコロ』!墓地の『スピードロイド』チューナー、『SR―OMKガム』を特殊召喚!」

 

SR―OMKガム 守備力800

 

「そして運命のダイスロール!出た目は――1だ!OMKガムのレベルは1となる!変わってねぇがな……!」

 

『ここで運任せー!?』

 

まさかの運に任せたプレイングにメリッサが大声で叫ぶ。響き渡るハウリング、しかしこれこそがユーゴの戦術だ。その場のノリと勢い、直感が彼の最大の武器。

 

「上手くいったぜ……ここで俺は『SRタケトンボーグ』を特殊召喚!」

 

SRタケトンボーグ 守備力1200

 

更に展開、次に現れたのは竹トンボの状態からロボットに変形した小さなモンスター。『スピードロイド』において軽い特殊召喚条件を持つカードであり、ユーゴも重宝している1枚だ。

 

「レベル3のタケトンボーグにレベル1のOMKガムをチューニング!幾千の顔を持つ迷宮の影よ、その鋭き刃で混沌の闇を切り裂け!シンクロ召喚!『HSR快刀乱破ズール』!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

タケトンボーグにOMKガムをチューニング、合計レベルは4、光を裂き、現れたのはパズルをモチーフとした不気味なモンスターだ。攻撃力は1300、いささか頼りない数値ではあるが――。

 

「OMKガムの効果でデッキトップを落とす!ビンゴ!『SR赤目のダイス』!よってズールの攻撃力は1000アップ!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2300

 

「……ズールは特殊召喚されたモンスターと戦闘する際、攻撃力を倍にする……」

 

「へへ、お面ホイーラーの言う通り!さぁ、バトルだ!ズールで『ゴヨウ・プレデター』へ攻撃!」

 

「甘い!罠発動!『進入禁止!NoEntry!!』フィールドの攻撃表示のモンスターを全て守備表示に!」

 

しかしこれも受け流される。空中に渦が発生し、中より飛び出したテープが全てのモンスターを縛りつける。フリーチェーンの表示形式変更カード、単なる除去ではなく、この手のカードを投入しているのは『ゴヨウ』モンスターとるコンボを狙っているのだろう。

 

「また表示形式を……ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『HSR魔剣ダーマ』(守備表示)『HSR怪刀乱破ズール』(守備表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札3(お面ホイーラー)

 

「俺のターン、ドロー!プレデターと『ニトロ・ウォリアー』を攻撃表示に、バトルだ!『ゴヨウ・プレデター』で快刀乱破ズールへ攻撃!」

 

「くそっ、ズールが!」

 

『ゴヨウ・プレデター』がズールに襲いかかり、荒縄を巻きつけて捕縛する。これでズールまでも相手の手に渡った。

 

「『ゴヨウ・プレデター』の効果でズールを特殊召喚!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300

 

「ズールでダーマへ攻撃!」

 

「ぐっ――!」

 

HSR快刀乱破ズール 攻撃力1300→2600

 

奪われたズールがダーマへと襲いかかり、その刃がぶつかり合う。折れるダーマの剣、自身のモンスターの効果を思い知らされるのは何とも屈辱的だ。

 

「『ニトロ・ウォリアー』でダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、手札の『SRメンコート』を攻撃表示で特殊召喚し、相手モンスターを守備表示に!」

 

SRメンコート 攻撃力100

 

『少年防ぐ!危機一髪!』

 

ここでユーゴの手札から火炎を吹かし、1枚のメンコがフィールドに叩きつけられ、チェイサーのモンスターが全て引っくり返る。このターンも何とか凌いだが――以前不利には変わらない。

 

「くっ、メインフェイズ2、ディフェンダーを攻撃表示にし、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(守備表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×2『ニトロ・ウォリアー』(守備表示)『HSR快刀乱破ズール』(守備表示)

セット1

手札1(227)手札1(110)

 

「俺のターン、ドロー!手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

お面ホイーラーが召喚したのは彼のデッキにとって代表的なチューナーモンスターだ。オレンジ色の所々へこんだガラクタのボディに丸眼鏡、背にはバーニアを負ったモンスター。

 

「召喚時、墓地の『チューニング・サポーター』を特殊召喚!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

ここで登場したのは中華鍋を被り、マフラーを風に靡かせた小さなモンスター。シンクロ素材としては優秀なモンスターであり、『クリア・エフェクター』と互換になるカードだ。

 

「レベル4のメンコートとレベル1の『チューニング・サポーター』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。光差す道となれ!シンクロ召喚!粉砕せよ、『ジャンク・デストロイヤー』!」

 

ジャンク・デストロイヤー 攻撃力2600

 

天に浮かぶ星が1つ輝き、凄まじいスピードでフィールドに飛来する。呼び出されたのは巨大なロボ。額で輝く黄金の角、胸部にはオレンジ色と緑の珠、4本の腕にX字の白い翼、まるで勇者王のようなスーパーロボットが降り立ち、大地を震撼させる。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!『ジャンク・デストロイヤー』のシンクロ召喚時、素材となったチューナー以外の数だけフィールドのカードを破壊!『ニトロ・ウォリアー』とセットカードを破壊!」

 

お面ホイーラー 手札1→2

 

『ジャンク・デストロイヤー』がその腕に光を集束させ、2つのエネルギー球を作り、チェイサーのフィールドにある2枚のカードを破壊し、爆風が吹き荒れる。クルクルと回転するチェイサーのD-ホイール。しかし227は体勢を立て直し、破壊されたカードをオープンする。

 

「舐めるな!破壊された『荒野の大竜巻』の効果で『ジャンク・デストロイヤー』を破壊!」

 

『おおっと227反撃!こちらも負けてはいない!』

 

やはり一筋縄ではいかないらしい。パッと見、同じ顔をした集団の為、雑魚として見られがちのデュエルチェイサーだが、その実力は確かだ。『ゴヨウ』モンスターを主軸に置き、その効果を活かす為のサポートカードの数々、お手本のようなデッキ構築と戦術は厄介な事この上ない。

 

「墓地の『ボルト・ヘッジホッグ』を特殊召喚!」

 

ボルト・ヘッジホッグ 守備力800

 

お面ホイーラーのフィールドに渦が広がり、登場したのはレベル2のモンスターだ。自分フィールドにチューナーが存在する場合蘇生出来るモンスターであるが、この効果を使えば墓地に送られる場合、除外される。針の代わりにボルトが背に打ち付けられたネズミだ。

 

「レベル2の『ボルト・ヘッジホッグ』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光差す道となれ!シンクロ召喚!吠えろ、『ジャンク・バーサーカー』!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700

 

2回連続『ジャンク』モンスターのシンクロ召喚。今度は真っ赤に染まったボディを輝かせる1本角の鬼神だ。背に伸びた翼を広げて飛行し、その手に握られた巨大な斧がガリガリと地を抉る。

 

「バトル!『ジャンク・バーサーカー』で『ゴヨウ・プレデター』へ攻撃!」

 

『ジャンク・バーサーカー』が雄々しく咆哮し、尋常じゃない速度で『ゴヨウ・プレデター』に肉薄し、巨大な斧を軽々と降り下ろす。これで厄介なコントロール奪取源を断ち切った。『トラパート』の効果で罠の発動も封じられる為、このカードは早めに破壊しておくべきだ

 

「ターンエンドだ」

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット1

手札2(ユーゴ)手札2(お面ホイーラー)

 

「私のターン、ドロー!私は『アタック・ゲイナー』を召喚!」

 

アタック・ゲイナー 攻撃力0

 

現れたのは赤髪を靡かせたマスクの戦士。レベル1のチューナーであり、使用されるのは珍しいカードだ。

 

「レベル4のズールにレベル1の『アタック・ゲイナー』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・チェイサー』!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力1900→2500

 

「『アタック・ゲイナー』の効果で『ジャンク・バーサーカー』の攻撃力を1000ダウン!」

 

ジャンク・バーサーカー 攻撃力2700→1700

 

「そして『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で3体目を呼び出す!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2500→2800

 

「バトル!『ゴヨウ・チェイサー』で『ジャンク・バーサーカー』へ攻撃!」

 

「断ち切らせはしない!罠発動!『くず鉄のかかし』!その攻撃を無効にし、このカードをセットする!」

 

再び襲いかかる『ゴヨウ』モンスターの十手、またしてもモンスターがお縄につき、奪われるのを防ぐ為、お面ホイーラーがリバースカードをオープンし、フィールドに登場したガラクタのかかしが攻撃から『ジャンク・バーサーカー』を守る。今まで罠を封じる『ゴヨウ・プレデター』がいた為、発動出来なかったカードだ。

 

「硬過ぎる……カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000

フィールド『ゴヨウ・チェイサー』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

セット1

手札1(227)手札0(110)

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『一進一退、未だ削られないLP!果たしてどちらが先制するのか!』

 

「長引いて来たな……!俺は『SRバンブー・ホース』を召喚!」

 

SRバンブー・ホース 攻撃力1100

 

「効果で手札の三つ目のダイスを特殊召喚!」

 

SR三つ目のダイス 守備力1500

 

「レベル4のバンブー・ホースにレベル3の三つ目のダイスをチューニング!その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て!シンクロ召喚!現れろ、『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』!!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500

 

ユーゴが勝負に出る為、自らが最も信頼するエースカードを呼び起こす。青と白のカラーリングのボディにミントグリーンの透き通った美しい両翼を広げ、雄々しく咆哮するのは召喚法を名に刻んだドラゴンだ。どこか自身の幼馴染み、榊 遊矢の持つエースカード、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を思い起こす姿に柚子がポカンとする。

 

『おおーっと!ここで少年がエースカードらしきモンスターを召喚ー!勝負に出たかー!?』

 

「一気に行くぜ!まずは『ジャンク・バーサーカー』の効果!墓地の『ジャンク・シンクロン』を除外し、『ゴヨウ・チェイサー』の攻撃力を1300ダウン!」

 

ゴヨウ・チェイサー 攻撃力2800→1500

 

「『ジャンク・バーサーカー』で『ゴヨウ・チェイサー』へ攻撃!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP4000→2800

 

ここで初めてダメージが入る。後は『ゴヨウ・ディフェンダー』だけだが――実質、厄介なのはこちらの方だ。『ゴヨウ・ディフェンダー』の攻撃対象となった場合、他の地属性、戦士族シンクロモンスターの数×1000攻撃力をアップする。つまりは攻撃力3000の壁。折角折角召喚したクリアウィングもこの効果はレベル5以上のモンスター効果では無い為、カウンター出来ないのだ。だがクリアウィングは出しておくだけで相手の行動を制限する。出しておいて損は無い。

 

「ターンエンドだ」

 

「罠発動!『トゥルース・リインフォース』!デッキからレベル2以下の戦士族モンスター、『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

ユーゴ&お面ホイーラー LP4000

フィールド『クリアウィング・シンクロ・ドラゴン』(攻撃表示)『ジャンク・バーサーカー』(攻撃表示)

セット1

手札1(ユーゴ)手札2(お面ホイーラー)

 

――――――

 

一方、治安維持局の長官室にて、長官であるジャン・ミシェル・ロジェは見るからに憔悴していた。折角今日は仕事を早めに切り上げ、今日は朝まで日常系アニメを見ようと言う予定が台無しである。

部屋の片隅に置いた、ごちうさのブルーレイのパッケージで少女達がロジェに笑いかけるも、ニコリとも出来ない。サブカルチャーにまみれた長官は溜め息を吐き、目の前のモニターに視線を移す。

市民の平和を守る為!と言う建前、本音は高画質でアニメを見たいが為に新調したモニターだ。人、それを横領と言う。そこに写っているのは巨大な戦闘機のようなD-ホイールを操縦する、竜を模したお面を被ったデュエリスト、全ての元凶、お面ホイーラーだ。

 

「それもこれもこいつのせいだ……!貴様が……貴様が突然現れたりとするから私は休めず、何度も道路を破壊するからその修繕費が私の給料から飛んでいく……!お蔭で侵略が全く出来ん上、悪党の筈なのに市民に慕われる始末……!違う!なんかこれじゃないっ!あの時のコモンズの幼女の笑顔が眩しいっ!」

 

ロジェは自らも認める程の悪党である。にも関わらず、お面ホイーラーのせいで悪事が全く出来ない。むしろ市民に貢献し、支持率は驚く程高い。良い事なのだが悪党としては納得出来ない。

この間なんてお面ホイーラーがぶっ壊した道路を直したらその道を利用するコモンズ達に感謝されたではないか。何がその調子で格差社会も直してくれだ。突き放しても「おっツンデレ~」と言われる始末。幼女がいなければあのシンジ・ウェーバーと言う男をブン殴っていただろう。横のトニーとかデイモンとか言う男もムカつく。特にトニー。

 

「あいつに負けたチェイサーを切っていったらキリが無いから罰を無くしたらチェイサーにも慕われるし……もうやだ……アカデミアに帰りたい」

 

ついには膝を抱え、泣き出してしまう長官。ダメな完璧人間である。せめて方向性が悪党じゃなかったらどれだけ楽か。そんな彼の背後に、音もなく1人の男が現れる。

 

「……何をしている」

 

「ぬおっ!?びっくりしたぁ……プラシドか……」

 

プラシド、白いケープを被って顔を隠し、腰に1本の剣を差したこの男の名だ。神出鬼没、こうして音もなく現れる彼はロジェにとって上司にあたるものだ。尤も、それはアカデミアの地位だが。ロジェもこの男の言う、予言のようなものには滅多に外れがない為信頼をおいている。

 

「なぁ、お前、お面ホイーラーを何とか出来たりしないか?」

 

「……何とも言えんな」

 

プラシドならばもしかすると、と思い、ロジェは疑問をぶつけるも、彼の返答にはどうだろうな、と言うものしかない。

 

「まぁ、もしかすれば――」

 

「?」

 

顔を上げ、ケープに隠された視線をモニターに移すプラシド。そんな彼の様子を見て、思わずロジェは首を傾げる。

 

「何とかなるかもしれん――」

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!俺は『サムライソード・バロン』を召喚!」

 

サムライソード・バロン 攻撃力1600

 

227の手より召喚されたのはポリスモンスターの1体、両手、そして背から刀を伸ばした侍のモンスターだ。

 

「レベル4の『サムライソード・バロン』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

ここでついに『ゴヨウ』モンスターの代表格が登場する。歌舞伎を意識した白い面に赤の隈取り、その身に着物を纏い、十手を握ったモンスター。

長い間このカード自身が御用となっていたが、つい最近制限カードへと緩和されたのだ。レベル6で攻撃力2800と同じ種族、属性、レベルのガイアナイトを蹴り飛ばすステータスと加え、『ゴヨウ』特有のモンスターを奪う効果。尤も守備表示だが――デメリットなし、元祖に相応しい強力な性能だ。

 

「シャバの空気は美味いだろう!バトル!『ゴヨウ・ガーディアン』で『ジャンク・バーサーカー』へ攻撃!」

 

「罠発動!『くず鉄のかかし』!」

 

だが彼は忘れていた。彼等のフィールドにこのカードがセットされている事を。折角出した切り札の攻撃が打ち消され、気不味い空気がその場を支配する。

 

「……お前、何がしたかったんだ?」

 

「う、うるさい!セットカードが変わってないか確認しただけだ!」

 

思わず心配するユーゴに対し、227は顔を真っ赤にして反論する。

 

「クソゥ、カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2800

フィールド『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『ゴヨウ・ディフェンダー』(攻撃表示)×3

セット1

手札0(227)手札0(110)

 

『おおーっと227痛恨のミス!これは恥ずかしいぞー!』

 

「うっうるさい!それ以上いじるなっ!」

 

実況するメリッサもこれには苦笑い。ミスをつつき、227をいじり倒す。

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『調律』を発動!『ジャンク・シンクロン』をサーチし、デッキトップを墓地に!そして召喚!」

 

ジャンク・シンクロン 攻撃力1300

 

「『チューニング・サポーター』を吊り上げる!」

 

チューニング・サポーター 守備力300

 

「更に墓地からモンスターを蘇生した事で手札の『ドッペル・ウォリアー』を特殊召喚!」

 

ドッペル・ウォリアー 守備力800

 

次は銃を持ち、黒い装備に身を包んだ戦士族。『ジャンク・シンクロン』とは抜群の相性を誇るカードだ。

 

「まずはレベル1の『チューニング・サポーター』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!『アームズ・エイド』!」

 

アームズ・エイド 攻撃力1800

 

ここで現れたのは黒光りする赤い爪を伸ばした右腕のみのモンスター。

 

「『チューニング・サポーター』の効果でドロー!」

 

お面ホイーラー 手札1→2

 

「そして『アームズ・エイド』を攻撃力1000アップの装備カードとしてクリアウィングに装備!」

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力2500→3500

 

ガシャン、『アームズ・エイド』が宙を舞い、クリアウィングの右腕へと装備される。これでクリアウィングは戦闘においても頼りになる1枚となった。

 

「手札のモンスターを捨て、『クイック・シンクロン』を特殊召喚!」

 

クイック・シンクロン 守備力1400

 

「レベル2の『ドッペル・ウォリアー』にレベル5の『クイック・シンクロン』をチューニング!集いし叫びが木霊の矢となり空を裂く!光差す道となれ!シンクロ召喚!『ジャンク・アーチャー』!」

 

ジャンク・アーチャー 攻撃力2300

 

更にシンクロ、次に登場したのは鳥帽子を模した頭部にオレンジ色のボディ、そして弓矢を持った弓兵のモンスターだ。

 

「効果発動!『ゴヨウ・ディフェンダー』を除外する!やっちゃってアーチャー!ディメンジョン・シュート!」

 

「ぐっ!」

 

「更に『ジャンク・バーサーカー』の効果で『ジャンク・シンクロン』を墓地から除外し、『ゴヨウ・ディフェンダー』の攻撃力をダウン!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力1000→0

 

「バトルだ!クリアウィングで『ゴヨウ・ガーディアン』に攻撃!」

 

「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターンのダメージを半分に!」

 

クリアウィングがその翼に風を逆巻き、烈風を纏って『ゴヨウ・ガーディアン』に突撃する。薄く鋭い翼は刃となって『ゴヨウ・ガーディアン』を切り裂き、爆発を起こす。

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2800→2450

 

「『アームズ・エイド』の効果で『ゴヨウ・ガーディアン』の攻撃力分、ダメージを与える!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP2450→1050

 

「ぐおぉぉぉっ!?」

 

「『ジャンク・バーサーカー』で攻撃力が下がったディフェンダーに攻撃!」

 

「『ゴヨウ・ディフェンダー』の効果で攻撃力アップ!」

 

ゴヨウ・ディフェンダー 攻撃力0→1000

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP1050→200

 

「とどめだ!『ジャンク・アーチャー』でディフェンダーに攻撃!スクラップ・アロー!」

 

デュエルチェイサー227&デュエルチェイサー110 LP200→0

 

『決まったー!長きに渡る激闘に幕を下ろす一撃!勝者は少年とお面ホイーラー!』

 

木霊の矢が2人のLPを貫き、この激闘を制す。モニター越しにこの光景を見る長官も溜め息を吐き出す。デュエル以外で拘束しようとしてもあの巨大なD-ホイールを止められる訳が無い。敗者は大人しく手を引くのみ。ユーゴ達が逃げ、お面ホイーラーが空に帰っていくのを目で追いながら、今日も長官は処理に追われるであろう未来を想像し、膝を抱えて泣いた。

 

――――――

 

パチリ、と目を覚ます。目の前に広がるのは廃墟のような薄暗く、ひび割れた空間。ここはどこだろうか、少年、コナミは考える。

トレードマークの赤帽子を深く被り直し、その上に装着されるゴーグルが外からの日差しで光を反射する。確か自分はブルーノとデュエルをして――シンクロ次元へ――。

そこまで考え、この場所に察しがつく。

 

「シンクロ次元……なのか……?」

 

疑問を浮かべながら立ち上がり、外へ向かって歩み出す。外からの光に慣れてないせいか、眩しく、思わず手で目を守りながら徐々に慣らしていく。そこにあったのは――自分のイメージとは駆け離れた、近未来的な建築物の数々。しかしコナミには分かる。ここが――シンクロ次元だと。

 

「起きたか……」

 

と、ここでコナミの背後から声がかけられる。そうだ、自分は元々ランサーズのメンバーと共にここに来たのだ。仲間がいてもおかしくないと振り返り、その表情を驚愕に染める。何故ならそこにいたのは――。

 

「ユー……ト……?」

 

実体を持った、ユートの姿だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここのロジェ長官はセルゲイと仲良く日常系アニメを見ます。

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