遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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今更だけどレヴォリューション・ファルコンの爆弾投擲攻撃ってウ○コじゃね?


第102話 カモ~ン

「おーい、牛尾ー!牛尾はいないのかー!」

 

コモンズ達が居を構える下層エリア、そこにある狭霧探偵事務所にて、遊矢と零児、そして柚子に似た謎の少女、エヴァはクロウに連れられていた。

目的は柚子や仲間の捜索。確かに探偵ならば頼りになるだろう。

 

「?〝狭霧〟探偵事務所じゃないのか?」

 

「あん?ああ、ここには2人の探偵がいるんだよ。推理力が高い所長、狭霧さんとデュエルの腕っぷしが高い決闘探偵の牛尾っつーオッサンがな」

 

「誰がオッサンだぁ、クロウ」

 

と、遊矢の質問にクロウが答える中、前を見ていなかった為、ドンと背の高く、筋肉質な男にぶつかる。

男らしい、権現坂にも似たキリリと太い眉に細い目、浅黒い肌、頬に傷を負ったガタイの良い彼はニヤッと笑みを浮かべ、クロウの頭をむんずと掴む。

 

「げっ、牛尾」

 

「テメェ、げっとは何だ、げっとは……探してぇのか探したくねぇのかどっちだよ」

 

「用があるのは俺じゃねぇよ、ほら」

 

クロウが苦い顔をしながら牛尾の手を跳ね除け、顎で遊矢達を差す。同時に遊矢達もどうもと頭を下げて挨拶する。エヴァは相変わらずボーッとした眠そうな目で虚空を見つめているが。すると客がいる事を確認した牛尾がほぉと口をへの字にして顎に手を当てる。

 

「……何やら訳ありって事か、依頼なら落ち着いた場所で聞かなきゃな。ガキでも客は客だ、こっちへ来いよ」

 

くるりと背を向け、遊矢達を部屋まで案内する牛尾。門前払いは受けなくて済みそうだ。話しやすくもあり、何とも頼りになりそうな背中を見ながら、遊矢は案内された部屋のソファに座る。

 

「あら、牛尾君、お客さん?」

 

「ええ、そうなんスよ深影さん。どうやらクロウの知り合いらしくって」

 

「ふぅん、お茶、用意するわね」

 

部屋の奥から1人の女性が顔を出す。クロウの言っていた所長なのだろう。青い髪に金の瞳、スーツにシャツ、タイトスカートとカジュアルな衣装に身を包んだ、小柄ながら如何にも大人の女性の雰囲気を放つ彼女と顔を合わせた途端、牛尾の頬が緩む。

深影は兎も角、牛尾は彼女の事を想っているらしい。また奥へと引っ込み、ポットを沸かす深影の背から視線を外し、遊矢はぐるりと部屋を見渡す。

 

並ぶコピー機やシュレッダーの周りには何やら分からない資料のような紙が積まれ、深影の机にもファイルと共に山を作っている。その隣には磁石で紙を止めたホワイトボード。如何にも探偵事務所と言った空間だ。その中でも遊矢の目を引いたのは画鋲で壁に留められた1枚のポスター。

円を描いた奇妙な形をしたD-ホイールに搭乗した、白いライダースーツを纏った金髪の男。自信に満ち溢れた表情の、一目見て王者と言う2文字が過るその男の姿に、何故か視線が惹き付けられる。

 

「で、用件は何だ?」

 

「っあ、はい、えっと、人探しをしているんです」

 

ここで牛尾に声をかけられて我に返った遊矢が慌ててデュエルディスクを操作して1枚の画像を写し出す。舞網チャンピオンシップ開催前に遊勝塾の皆や友人達と撮った写真だ。遊矢はその写真の中から柚子や権現坂、コナミ、月影を指差しながらこの人達なんだけどと説明する。

もう1枚、特訓の最中に撮った写真に写った隼やデニス、アリトも加えてだ。

 

「ふぅん?この女の子はそこの嬢ちゃんの妹か何かか?」

 

「?」

 

「ああ、いや、確かに顔は似てるけど違います」

 

「ふぅん?まぁ良いや、何かお前さんとこの女の子の顔はどっかで見た事あんだけどなぁ……手掛かりは無いのか?」

 

「珍しいカードを使う事でしょうか」

 

「珍しいカードぉ?どんなカードだ?」

 

牛尾の尤もな質問に今まで黙っていた零児が口を出す。確かに彼等の行方には手掛かりが無い為、これ位しか言えないだろう。幸い零児の言う通り、皆このシンクロ次元では珍しいカード――融合やエクシーズ、ペンデュラムカードを持っている筈だ。

デュエルをしているならば誰かが見ていてもおかしくは無い。

遊矢はデッキから3種のカードを取り出して牛尾に見せる。

 

「こう言うカードなんですけど……」

 

「んん?何だこりゃあ、紫に黒……融合、エクシーズ、ペンデュラム?」

 

「はい、このカードを使ってデュエルをしているならば目立つかと、カードについて説明はしますが――」

 

「いや、そっちはそうだな、自分で相手して覚える」

 

零児が遊矢の取り出したカードについて説明しようとした時、牛尾が立ち上がってデュエルディスクを取り出して自身の右腕に装着させる。

見た事もないカードを見て、デュエリストとしての本能が刺激されたらしい。

 

「オッサン無理すんなって」

 

「うるせぇクロウ、こちとらまだまだ現役よ」

 

クロウが呆れて茶々を入れるも牛尾はもう闘う気満々だ。こうなっては仕方無い。遊矢もデュエルディスクを取り出そうとするが――。

 

「ここは私がやろう」

 

そこに零児が待ったをかける。零児が重い腰を上げるようだ。彼が積極的にデュエルをすると言う事実に遊矢が目を剥いて驚愕する。

 

「折角俺が出ようと思ったのに……」

 

「私としても君達のリーダーとして少しは働かねばならないからな」

 

チェッ、と唇を尖らせる遊矢を見て、零児が眼鏡を指で抑えながらかけ直し、薄く笑う。遊矢との対話で彼も思うところがあったのだろう。シンクロ次元に来てからロクな出番が無いなと考える遊矢を他所に、ランサーズのリーダーが立ち上がる。

 

「話はついたな。ついてきな、小さいもんだが、デュエルコートに案内するぜ」

 

牛尾と零児が遊矢とクロウを引き連れ、外へと出て行く。あとに残されたのは――茶を運んで来た深影と、ボーッと虚空を見つめるエヴァのみ。

 

「……折角お茶淹れたのに……男って何でこうなのかしら」

 

「……全くもう」

 

「あら、話が分かるわね」

 

「……お茶、いただきます」

 

溜め息を吐く深影に合わせ、エヴァが呟き湯飲みを手にする。こうして男4人とは別に2人の女性は語り合う。

 

――――――

 

「「デュエル!!」」

 

事務所の中に存在する簡素なデュエルコートにて、零児と牛尾、2人の声が木霊する。先攻は零児だ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、磐石の布陣を整え、迎撃に備える為の戦術を練る。

フィールドを支配する『DD』の力、先攻で出しておきたいのはまず、『DDD呪血王サイフリート』。このカードを召喚しておけば、ある程度相手の動きを封じる事が出来る。

 

「私は『DD魔導賢者』ケプラーを召喚」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

まずは下準備を。零児の手札から登場したのは機械の身体を剥き出しにした悪魔の賢者。天文学者である偉人をモチーフとしたペンデュラムモンスターだ。

 

「召喚時、デッキの『地獄門の契約書』をサーチし、発動。デッキより『DDスワラル・スライム』をサーチし、その効果を発動。このカードと手札の『DDラミア』を墓地に送り、融合を行う」

 

「お、早速か」

 

「自在に形を変える神秘の渦よ!未来に流される血よ!今1つとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!『DDD烈火王テムジン』!」

 

DDD烈火王テムジン 攻撃力2000

 

現れたのは焦げ茶色の鎧を纏い、深紅の剣を手にした炎の王者。『DD』において展開の起点となるモンスターだ。このモンスターでルートを張り巡らせ、狙いの布陣へと繋げる。

 

「私は墓地より『DDスワラル・スライム』の効果を発動。このカードを除外し、手札の『DD魔導賢者コペルニクス』を特殊召喚!」

 

DD魔導賢者コペルニクス 守備力0

 

ここで現れたのは太陽系を模した球体状のモンスター。ケプラーと同じくペンデュラムモンスター、レベルは4、これならば――。

 

「コペルニクスの特殊召喚時、デッキの『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を墓地へ!そして墓地の『DDラミア』の効果!フィールドの『地獄門の契約書』を墓地に送り、特殊召喚!」

 

DDラミア 守備力1900

 

お次は真っ赤な薔薇のような鱗を持ち、下半身が蛇となった青い肌に目隠しをしたモンスター。特殊召喚が容易なレベル1チューナー。尤もその条件は『DD』専用だが、使い勝手は良く、ルートを確保するには役立つカードだ。

 

「この瞬間、テムジンの効果により墓地の『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』を特殊召喚!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 守備力3000

 

墓地より蘇り、フィールドに降り立つのは玉座に座し、圧倒的な威圧感を放つ、頭部に山羊のように捻れた角を伸ばした異形のモンスター。『DD』においてキーカードとなる上級モンスターだ。

 

「そして私はレベル6のテムジンとレベル1のケプラーにレベル1のラミアをチューニング!その紅に染め上げられし剣を掲げ、英雄達の屍を越えて行け!シンクロ召喚!生誕せよ!『DDD呪血王サイフリート』!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

ここで零児の当初の目的であるモンスターがフィールドに呼び出される。ラミアの身体が1つの光のリングとなって弾け、テムジンとケプラーがその中を潜り抜け、一筋の閃光がリングを撃ち抜く。フィールドを覆う光、それが黒い軌跡によって切り裂かれ、現れたのは白い長髪を靡かせ、漆黒の鎧と大剣を持った騎士の王。攻撃力を2800、このシンクロ次元において『ゴヨウ』ラインと言われる一定の安心を持った数値だ。

 

「更に私は永続魔法、『魔神王の契約書』を発動。フィールドのアビス・ラグナロクとコペルニクスで融合!融合召喚!出でよ!神の威光伝えし王!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

更に展開、2体のモンスターが青とオレンジの渦に溶け、1体のモンスターとなって零児のフィールドに降り立つ。蝙蝠のような両翼を広げ、白銀の鎧を纏ったサイフリートとは対照的な女騎士。この2体ならば――安心感がぐっと上がる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

赤馬 零児 LP4000

フィールド『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD呪血王サイフリート』(攻撃表示)

『魔神王の契約書』セット1

手札0

 

「長過ぎるったらありゃしねぇ、俺のターン、ドロー!確かに厄介そうな布陣だが、なぁに、1つ1つ崩してやれば良いのさ。俺は永続魔法、『補給部隊』を発動し、『ジュッテ・ロード』を召喚!」

 

ジュッテ・ロード 攻撃力1600

 

牛尾の手から召喚されたのは新しい部類に入るポリスモンスターの1体。まるで奉行のような姿で十手を構えるモンスターだ。

 

「効果で『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

『ジュッテ・ロード』が御用だ御用だと叫び、部下である『ジュッテ・ナイト』を呼び出す。髷に眼鏡、着物を着て十手を構え、背に提灯を負った役人を思わせるチューナーモンスターだりその効果は単純なものだが――この状況では実に効果的。

 

「『ジュッテ・ナイト』の効果でお前さんのサイフリートを守備表示に変更!」

 

「くっ――!」

 

「上手い……サイフリートは魔法、罠しか無効に出来ないからモンスターで……!」

 

「牛尾はそんな事気づいてねぇだろうな。長年培った勘って奴だぜ」

 

上手い、牛尾のプレイングを的確に表すならばこの一言に尽きる。クロウの言う通り、彼は経験を頼りにした勘で零児を追いつめる。正に探偵、鼻が利く男だ。だが――彼が上手いのはここからだ。

 

「レベル4の『ジュッテ・ロード』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!荒ぶる獣の牙持て捕獲せよ!シンクロ召喚!『ゴヨウ・プレデター』!」

 

ゴヨウ・プレデター 攻撃力2400

 

今度は牛尾がシンクロ召喚。閃光が晴れ、カカンと音を鳴らしてフィールドに登場したのはレスラーのような覆面を被り、鋭い爪や尾を持った獣人のモンスター。その手に持った縄をブンブンと振り、先についた十手を回す。

 

「バトル!『ゴヨウ・プレデター』でサイフリートを攻撃!」

 

『ゴヨウ・プレデター』が守備表示として地に伏せたサイフリートへと十手を投擲し、縄がグルグルと回って捕縛し、牛尾のフィールドへと移ろうとする。不味い、零児は少しでも相手の有利に運ばせまいと右手を翳す。

 

「攻撃前にサイフリートの効果で『補給部隊』を無効に!更に破壊された事でフィールドの『契約書』の数だけLPを1000回復!」

 

赤馬 零児 LP4000→5000

 

「英断だな!『ゴヨウ・プレデター』の効果で戦闘破壊したサイフリートを特殊召喚!カモン!サイフリートちゃん!」

 

DDD呪血王サイフリート 攻撃力2800

 

「……確かに上手いとしか言いようがない」

 

「サイフリートでダルクへ攻撃!」

 

「サイフリートの効果で回復!」

 

赤馬 零児 LP5000→6000

 

コントロールを奪った上で追撃し、2体を相撃ちさせる。実に上手い戦術だ。あの零児がされるがままに舌打ちを鳴らす。相手のものを利用し、柔よく剛を制す。これ以上に厄介な相手はいない。

 

「こんなもんよぉ!ま、サイフリートの効果で『補給部隊』は次のスタンバイフェイズまで無効になるがな。折角ドロー出来る所だったんだがなぁ、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・プレデター』(攻撃表示)

『補給部隊』セット1

手札2

 

「私のターン、ドロー!この瞬間、『魔神王の契約書』で私は1000のダメージを受ける」

 

赤馬 零児 LP6000→5000

 

「罠発動!『DDDの人事権』!墓地のサイフリート、ダルク、テムジンの3体をエクストラデッキに戻し、デッキから『DDオルトロス』と『DD魔導賢者ニュートン』をサーチし、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

零児のデュエルディスクの両端に2枚のカードが設置され、虹色の光を灯す。ペンデュラム召喚、ここから一気に巻き返すにはこれしかないと判断したのだろう。彼の背後に光の柱が2本伸び、天空に線を結び、魔方陣を描き出す。

 

「次はこれか……」

 

「これでレベル4から9のモンスターが同時に召喚可能!我が魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて、闇を引き裂く新たな光となれ!ペンデュラム召喚!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!『DD魔導賢者コペルニクス』!『DDリリス』!」

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 攻撃力2200

 

DD魔導賢者コペルニクス 守備力0

 

DDリリス 守備力2100

 

振り子の軌跡と共に3本の柱がフィールドに降り注ぎ、轟音が鳴り響く。光が晴れ、そこにいたのは3体のモンスター。先のターンでも登場した2体に加え、薔薇の花弁のような悪魔が1体だ。

 

「コペルニクスの効果で『DDゴースト』を墓地へ、『DDリリス』の効果でエクストラデッキのケプラー回収、召喚」

 

DD魔導賢者ケプラー 攻撃力0

 

「ケプラーの効果で『地獄門の契約書』をサーチし、発動!デッキの『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』をサーチ。ここでケプラーをリリースし、アビス・ラグナロクの効果で『ゴヨウ・プレデター』を除外!」

 

「ほう……?」

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!この世の全てを統べる為、今世界の頂きに降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!『DDD怒濤王シーザー』!」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400

 

エクシーズ召喚、零児の眼前に星を散りばめた渦が発生し、コペルニクスとリリスの2体が光の線となって飛び込み、瞬間、渦は一気に集束して爆発を引き起こす。巻き起こる黒煙、銀の軌跡が突風と共に引き裂き、中より姿を見せたのは刺々しい鎧に身を包んだ紫色の魔王。その手に巨大な剣を握り、荒波の王が君臨する。

 

「これがエクシーズか……」

 

「シーザーのORUを1つ取り除き、効果発動!このターン破壊されたモンスターをバトルフェイズ終了時に可能な限り特殊召喚する。そして『魔神王の契約書』の効果で墓地の『DDゴースト』と『DDリリス』を除外し、融合召喚!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「更に除外された『DDゴースト』の効果で除外されたスワラル・スライムを墓地に戻し、再び除外して手札のヘル・アーマゲドンを特殊召喚する!現れよ!地獄の重鎮、『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000

 

まだまだ零児の手は休まない。モンスター効果を次々と繋げ、フィールドに呼び出されたのは零児のエースモンスター。振り子を模した手足のない巨大な魔王。

 

「アビス・ラグナロクとヘル・アーマゲドンでオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!2つの太陽が昇る時、新たな世界の地平が開かれる!エクシーズ召喚!現れ出でよ!『DDD双暁王カリ・ユガ』!!」

 

DDD双暁王カリ・ユガ 攻撃力3500

 

2体の王が1つとなり、新たな魔王が産声を上げる。悪徳を背負い、巨大な玉座に身体を預け、赤黒い鎧を纏った威風溢れる赤馬 零児の切り札。本気だ、零児は本気で牛尾を迎え撃っている。

 

「バトル!カリ・ユガでダイレクトアタック!ツインブレイクショット!」

 

「ならリバースカード……使えねぇ!?」

 

「カリ・ユガがエクシーズ召喚したターン、フィールドのカードは効果を発動出来ず、無効化される!」

 

「チッ、なら手札の『速攻のかかし』を捨て、バトルフェイズは終了!」

 

カリ・ユガが左腕に黒と紫の雷を帯び、牛尾へと撃ち出す。フィールドのカードも無効化された状態、確実にワンターンキルの準備が整えられた状況でも牛尾は舌打ちを鳴らして正解を取る。

 

「うへぇ、これを防いじゃうのか」

 

「妖怪かよあのオッサン」

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

赤馬 零児 LP5000

フィールド『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(攻撃表示)

『地獄門の契約書』『魔神王の契約書』

Pゾーン『DD魔導賢者ニュートン』『DDオルトロス』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!大体分かって来たぜ……魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『ジュッテ・ナイト』を特殊召喚!」

 

ジュッテ・ナイト 守備力900

 

「手札の『グローアップ・バルブ』を墓地に送り、手札の『パワー・ジャイアント』を特殊召喚!」

 

パワー・ジャイアント 攻撃力2200 レベル6→5

 

フィールドに召喚されたのは宝石で組み立てられたロボットのようなモンスター。『THEトリッキー』のような特殊召喚条件を持ち、墓地に送ったモンスターのレベルだけ自身のレベルを下げる。

 

「そしてデッキトップをコストに『グローアップ・バルブ』を蘇生!」

 

グローアップ・バルブ 守備力100

 

お次は植物に目が生えた不気味なモンスター。これでチューナーと非チューナーが揃った。合計レベルは……6。

 

「レベル5となった『パワー・ジャイアント』にレベル1の『グローアップ・バルブ』をチューニング!シンクロ召喚!『ゴヨウ・ガーディアン』!!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

ついに現れる牛尾のエースモンスター。歌舞伎の白化粧に赤い隈取り、髷に着物、十手を握った役人をモチーフとした強力なモンスター。彼の長年愛用しているカードだ。当然手強いが――。

 

「召喚したは良いが、この状況はオッサンにはキツいわ。若いもんに譲らねぇとな!レベル6の『ゴヨウ・ガーディアン』にレベル2の『ジュッテ・ナイト』をチューニング!お上の威光にひれ伏すが良い!シンクロ召喚!『ゴヨウ・キング』!!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800

 

そして――古き強者が新たな力を得て、牛尾の隣に並び立つ。白い髷に白化粧、赤い隈取りをした、日本刀を持った『ゴヨウ』系最強のモンスターにして、牛尾の切り札。その身が放つ威圧感は、決してカリ・ユガに劣らない。

 

「やれ!『ゴヨウ・キング』!シーザーへ攻撃!この瞬間、自分フィールドの地属性、シンクロモンスターの数×400攻撃力をアップ!」

 

「シーザーのORUを取り除き、効果を発動!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3200

 

赤馬 零児 LP5000→4200

 

『ゴヨウ・キング』が鋭き剣閃を煌めかせ、シーザーをその大剣ごと切り伏せる。更に瞬時に十手つきの縄をカリ・ユガへと投擲する。

 

「『ゴヨウ・キング』がモンスターを戦闘破壊し、墓地へ送った場合、相手モンスター1体のコントロールを得る!」

 

「ッ!シーザーの効果で『闇魔界の契約書』をサーチし、カリ・ユガのORUを取り除き、効果発動!フィールドの魔法、罠を全て破壊!」

 

戦闘破壊を切欠にモンスターを奪い取る強力な効果。これで自身よりも格上のモンスターだろうと関係なく強奪出来る。牛尾のフィールドに移るカリ・ユガ。まさか自分のモンスターがこうして敵となって立ち塞がるとは。

 

「成程ねぇ、このORUで効果を使う訳か。1つだがORUも残ってるし、お前のペンデュラムももうねぇ。追撃だ!カリ・ユガでダルクへ攻撃!」

 

赤馬 零児 LP4200→3500

 

「ぐっ――!」

 

カリ・ユガが左腕に黒と紫の雷を帯び、ダルクに向かって一気に解き放つ。雷に打たれ、地に突き落とされるダルク。自身の切り札が牙を剥き、零児に襲いかかる。これ以上に厄介な相手はいない。

 

「相手が強ければ強い程、牛尾は強くなる」

 

「……まるで柔道だ。あの零児が苦戦するなんて……」

 

上手い、やはりこの一言に尽きる。相手の強さを自分のものにするからこそ、零児は苦戦している。その事実に遊矢は目を見開き、舌を巻く。これだ、この相手の強さを自分のものにするデュエルは――遊矢のデュエルスタイルの1つの派生形。ジッと見つめ、吸収していく。

 

「バトルフェイズ終了時、シーザーの効果で自身とダルクを蘇生」

 

DDD怒濤王シーザー 攻撃力2400

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「ま、そうなるよな、俺はこれでターンエンドだ」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)

手札0

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、シーザーの効果で特殊召喚したモンスターの数×1000のダメージを受けるが――ダルクの効果で回復に変換される。ライフ・イレイション!」

 

赤馬 零児 LP3500→5500

 

「成程ねぇ、キリがねぇや」

 

「私は永続魔法、『闇魔界の契約書』を発動!その効果で墓地のアビス・ラグナロクをペンデュラムゾーンにセッティング!更に魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

赤馬 零児 手札0→3

 

「だがこれでお前は特殊召喚出来ない」

 

「誓約は承知の上!私は『DDケルベロス』をペンデュラムゾーンにセッティング!『クリバンデット』を召喚!」

 

クリバンデット 攻撃力1000

 

得意の特殊召喚は使えなくなったが、仕方がない。ここは場を固める為の作業に集中する。その意志と共に召喚されたのは黄色いスカーフを頭に巻き、眼帯を装着した目付きの鋭い毛むくじゃらのモンスター。

 

「シーザーを守備表示に変更し、バトル!ダルクで『ゴヨウ・キング』へ攻撃!オラクル・チャージ!」

 

「おっと、させねぇぜ!墓地の『仁王立ち』を除外し、攻撃対象をカリ・ユガに絞る!」

 

「ッ!バトルを中断する!」

 

恐らく『グローアップ・バルブ』のコストか何かで落ちたカードだろう、抜け目が無い男だ。これでは『ゴヨウ・キング』を破壊する事が出来ず、またコントロールが奪われてしまう。例え罠をセットしても――カリ・ユガの残ったORUで、発動前に破壊される。

 

「カードをセットしてターンエンド。この瞬間、『命削りの宝札』の効果を処理し、『クリバンデット』をリリースし、効果発動!」

 

「こっちもカリ・ユガの効果発動!」

 

カリ・ユガが全身より黒の雷を放ち、零児のフィールドを焦土と化す。これでペンデュラムカードも、『契約書』も、セットカードも失ってしまった。

 

「デッキトップの5枚を捲り、『地獄門の契約書』を手札に、そして墓地に落ちた『魔サイの戦士』の効果でデッキの『DDネクロ・スライム』を墓地に送る」

 

赤馬 零児 LP5500

フィールド『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(攻撃表示)

手札1

 

「俺のターン、ドロー!たんと味わえ!魔法カード、『死者蘇生』!墓地の『ゴヨウ・ガーディアン』を特殊召喚!」

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800

 

牛尾のフィールドに並び立つ、彼の切り札とエース、そして零児の切り札。圧倒的な布陣、とんでもない実力だ。

 

「バトル!『ゴヨウ・キング』でダルクへ攻撃!」

 

ゴヨウ・キング 攻撃力2800→3600

 

赤馬 零児 LP5500→4700

 

『ゴヨウ・キング』が日本刀でダルクを切り裂き破壊し、墓地に落ちたダルクを引き上げて牛尾のフィールドに引き摺り込む。

 

「『ゴヨウ・キング』の効果で戦闘破壊したダルクを奪う!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「まだまだぁ!『ゴヨウ・ガーディアン』でシーザーへ攻撃!ゴヨウ・ラリアット!」

 

更に追撃。『ゴヨウ・ガーディアン』の十手がシーザーを捕らえ、またもや奪い取る。

 

「シーザーの効果で『戦神の不正契約書』をサーチ!」

 

「こっちもシーザーを奪うぜ!」

 

DDD怒濤王シーザー 守備力1200

 

仁義無きモンスターの奪取。これで牛尾のフィールドには5体のモンスター、零児のフィールドは0、最悪も最悪、赤馬 零児最大の危機、味わった事の無いピンチが彼を追い詰める。

強い――デッキ、実力を合わせれば零児が上だ。しかし、牛尾はデッキ、実力に加え、相手の実力も利用する事で零児よりも優位に立っているのだ。

 

「カリ・ユガでダイレクトアタック!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外し、このターンのダイレクトアタックを防ぐ!」

 

カリ・ユガによる電撃が零児に襲いかかるも、零児の眼前に3本の光の剣が降り、攻撃を弾く。とは言え危い所だった。『クリバンデット』で墓地へ送られていなければ敗北していただろう。

 

「私がここまで不安定なデュエルをさせられるとはな……!」

 

溜め息を吐き出し、目を伏せる。ここまで不安定で危うげなデュエルは何時以来だろうか、恐らく――プロになる前、まだ遊矢と同じく、中学生だった頃か。

あの頃は今に比べれば実力も不足していて、だからこそ強くなろうと考え、デュエルが楽しかった。

 

だが今はどうだろうか、強くなったが――だからこそ、強敵に出会えず、楽しむ事は無くなった。安定を求め、挑戦する意志を失っていた。

停滞は退化も同然。零児は諦めが良い方だ。だが今は――みっともなく、足掻きたくなって来た――。

 

「へぇ、良い顔になって来たじゃねぇか……!正直、そこのゴーグルボウズ以外は明確な意志は見えなかったが……面白くなって来やがった。俺はこれでターンエンドだ!」

 

牛尾 哲 LP4000

フィールド『ゴヨウ・キング』(攻撃表示)『ゴヨウ・ガーディアン』(攻撃表示)『DDD双暁王カリ・ユガ』(攻撃表示)『DDD神託王ダルク』(攻撃表示)『DDD怒濤王シーザー』(守備表示)

手札0

 

状況は最悪だが、逆転の手はある。2枚の内1枚、それが引ければ勝利の方程式は揃う。だが――零児にはドロー運は無い。だからサーチカードや墓地肥やしを多く投入し、それらを補っているのだ。ここで引けるかは分からない。

ニヤリと口端が吊り上がる。面白い、面白いじゃないか。ここで逆転のカードを引かねば負ける。ギリギリの攻防、デュエルの醍醐味、熱い駆け引きが、新たな赤馬 零児を誕生させる。

 

「……くそぅ」

 

「?」

 

「零児を笑わせるのは、俺のエンタメデュエルって決めてたんだけどなぁ……」

 

不敵に笑う零児を見て、ガラにも無く、遊矢は牛尾に嫉妬してしまう。だけど――零児が楽しんでいるならばそれで良い。デュエルを楽しんでいる誰かを見れば、自分も楽しくなって来る。

 

「感謝します。貴方のお蔭で――僕は強くなる。僕のターン、ドローッ!!」

 

引き抜かれる1枚のカード、宙に描かれる燃えるような真っ赤なアーク。来た――彼がデッキからドローしたカード、それは――彼が最も信頼する、エースカード。

 

「永続魔法、『地獄門の契約書』と『戦神の契約書』を発動!地獄門の効果で『DD魔導賢者トーマス』をサーチし、セッティング!その効果でエクストラデッキのニュートンを回収し、セッティング!ペンデュラム召喚!『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』!!『DDD壊薙王アビス・ラグナロク』!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000

 

DDD壊薙王アビス・ラグナロク 攻撃力2200

 

振り子の軌跡で現れる零児のエースモンスター。『DDD死偉王ヘル・アーマゲドン』。このモンスターが、このデュエルに決着をつけるフィニッシュカードとなる。

 

「墓地のネクロ・スライムの効果でこのカードとコペルニクスを除外し、融合召喚!『DDD神託王ダルク』!」

 

DDD神託王ダルク 攻撃力2800

 

「そして『戦神の不正契約書』の効果発動!ヘル・アーマゲドンの攻撃力を1000アップし、『ゴヨウ・キング』の攻撃力を1000ダウン!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力3000→4000

 

ゴヨウ・ガーディアン 攻撃力2800→1800

 

「バトル!ダルクで『ゴヨウ・ガーディアン』攻撃!」

 

ダルクと『ゴヨウ・ガーディアン』が十手と剣で切り結び、共に胸を穿って爆散する。相撃ち――それだけではない。零児の狙いはここから先。

 

「ヘル・アーマゲドンの効果!自分の『DD』モンスターが戦闘、効果で破壊された場合、そのモンスターの攻撃力を自身に加える!」

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン 攻撃力4000→6800

 

ダルクのエネルギーがヘル・アーマゲドンの水晶に吸収され、その攻撃力を爆発的に上げる。これが――彼が選んだ、勝利への道。安定も何も無い。火力重視の手、彼の全力が、炸裂する。

 

「ヘル・アーマゲドンで、『ゴヨウ・キング』へ攻撃!地獄触手鞭!」

 

牛尾 哲 LP4000→0

 

ヘル・アーマゲドンが放つ閃光の鞭が『ゴヨウ・キング』を破壊し、突風が牛尾を襲う。ワンショット・キル――勝者、赤馬 零児。

 

 

 

 

 




人物紹介20

牛尾 哲
所属 狭霧探偵事務所
5D,sから参戦。元々深影さんと共にセキュリティのデュエルチェイサーのまとめ役であったが、深影さんが新長官となったロジェに疑惑を抱き、調査していたが為に解雇を受け、彼女についていくように自分から退職、深影さんが何かあった時の為に貯めていた金と彼が深影さんに送る指輪を買う為に貯めていた金を合わせ、探偵事務所を建てる事となる。
勿論深影さんには良い友人にしか思われて無い模様。泣ける。
しかしクロウと違い、女っ気が無い訳では無く、元同僚や依頼人の女性にはモテている。本人は気づいていないのだが。
事務所では深影さんには劣るが優秀な探偵をやっており、腕っぷしとデュエルではプロ顔負けの実力を見せる。ついた渾名は決闘探偵。
この人がセキュリティに残っていればお面ホイーラーも何とかなったかもしれない。
ロジェについては含む所はあるものの、その手腕は認め、尊敬している。
エンジョイ長次郎のファン。
使用デッキは『ゴヨウ』。エースカードは長年連れ添っている相棒、『ゴヨウ・ガーディアン』。

狭霧 深影
所属 狭霧探偵事務所
5D,sより参戦。上記の通りの人。牛尾さんからの好意に気づいておらず、良い人だなとしか思っていない。牛尾さんカワイソス。
推理力、洞察力は高く、牛尾さんと組んで様々な事件を解決している。番外編で決闘探偵牛尾をやっても面白そうである。
事務所では金銭面のやりくりもやっており、倹約家。彼女の淹れるコーヒーは絶品、どこかの電脳探偵の上司と違い、決してコーヒーに色々混ぜたりしない。
ジャック・アトラスの熱狂的なファン。
多分デュエルをする事は無いだろうが、使用デッキは『SPYRAL』。エースカードは『SPYRAL―ダンディ』。決して『カオス』ではない。


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