遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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カイザーVSデイビット 後半戦です。今年までに遊矢VSジャックまで辿り着きたい……!


第112話 俺は……飢えている!

アカデミアの一部の者にしてか知られていない地下深く、荒くれ者共が集う世界の中心、金網を張り巡らせた闘技場にて、最強のデュエリスト、カイザー、丸藤 亮と、オベリスク・フォースを率いる部隊長、デイビット・ラブによるデュエルは続く。

 

デイビットのLPは約3分の1が削られたものの、未だに70000以上ある。対する亮は回復こそしたが、2000少し、デイビットのLPの前では塵にも等しい。だが――亮には自身のLP程どうでも良いものは無い。彼にとって、LPは1でもあれば良い。

 

そして現在、デイビットのターンは終了し、亮のターンへ。亮の猛攻を大量のLPで何とか凌ぎ、漸く逆転に出て来たデイビット。

彼のフィールドには光属性で構成された亮の『サイバー・ドラゴン』メタのシンクロモンスター、『A・O・Jカタストル』と機械族の中でも優秀な大型モンスター、『マシンナーズ・フォートレス』が1体ずつ、そして戦闘破壊、効果破壊された時の保険として『機甲部隊の最前線』と2枚の『補給部隊』が存在している。セットカードは2枚。つまり魔法、罠ゾーンが埋まっていると言う事だ。この状況では新たな魔法、罠は使えない。フリーチェーンのカードか否か、いずれにせよこのセットカードが鍵を握っている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「永続罠、『リビングデッドの呼び声』!墓地の『A・O・J D.D.チェッカー』の特殊召喚!」

 

A・O・J D.D.チェッカー 攻撃力1700

 

やはりか、デイビットが発動したカードに亮は鼻を鳴らす。先程のターン、『サイバー・ドラゴン』を除去する為とは言え、簡単にこのモンスターを手放した事から何かあるとは考えてはいたが、魔法、罠ゾーンを圧迫する永続罠だったとは。

 

だがこれで、亮の光属性モンスターの特殊召喚を封じた。亮からすればこんなもの、間抜けを通り越して滑稽でしか無い。たかが光属性の特殊召喚を封じられた程度。光属性以外の特殊召喚は可能であり、光属性も通常召喚は可能。それだけで充分過ぎる。

サイバー流は史上最強、小細工等捩じ伏せる。

 

「おめでたい頭だ。自分で味わっておいて、この程度で俺を止められるとでも思ったか。俺は『プロト・サイバー・ドラゴン』を召喚!」

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

現れたのは下級であり、フィールドで『サイバー・ドラゴン』として扱うモンスター。このカード1枚で、デイビットの対策は無力と化した。

 

「っ、しまった――!」

 

「気づいたか、俺はこのカードと貴様の機械族モンスター全てを融合!融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力4000

 

そしてデイビットのモンスターを吸収し、呼び出されたのは闇属性、『サイバー・ドラゴン』をベースとした合成機械竜。キメラテックシリーズの1体だ。どちらもこのデュエルで1度は呼び出されたカードなのに――何故忘れてしまっていたのか。これでは間抜け言われても仕方無い。

 

「対策は良い、戦略も基礎は作られている。だがツメが甘い。バトル!キメラテック・フォートレスでダイレクトアタック!」

 

デイビット・ラブ LP76100→72100

 

「おごぉぉぉぉぉっ!!」

 

キメラテック・フォートレスの円盤状の身体4つから竜の首が伸び、熱線が放たれ、ダメージと電流がデイビットの身体を駆け抜け、くの字に折れる。甘かった――この男は多少の小細工では止まらない。止めるならば、それこそ大がかりのものを幾重にも張り巡らせなければ話にならない。

 

「6度目、ターンエンドだ。さぁ、どうする?またカタストルを出してもこのカードは闇属性、『A・O・J』では突破は困難だ」

 

丸藤 亮 LP2700

フィールド『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

『サイバー・ネットワーク』セット1

手札2

 

「くっ、Meのターン、ドロー!罠カード、『貪欲な瓶』!墓地のラヴァ・ゴーレム、『火炎地獄』、ファイヤー・フォース、命削りの宝札、リビングデッドを回収し、1枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札1→2

 

「永続魔法、『一族の結束』を発動!Meのフィールドにモンスターが存在しない場合、手札の『太陽風帆船』を特殊召喚!」

 

太陽風帆船 守備力2400→1200

 

フィールドに現れたのは『サイバー・ドラゴン』と似た効果を持つ機械族モンスター。上下共に帆を広げ、カジキのような長い角を伸ばした船型のモンスターだ。

 

「そしてチューナーモンスター、『ブラック・ボンバー』を召喚!」

 

ブラック・ボンバー 攻撃力100→900

 

お次は鋭い目と歯が並ぶ口がデザインされた丸い爆弾のモンスターだ。

 

「召喚時、墓地のレベル4の闇属性、機械族を効果を無効にし、守備表示で特殊召喚可能だが――使用しない!」

 

「む……」

 

墓地のモンスターを蘇生出来、1枚でシンクロが可能となる優秀な効果だが、その効果は使用されない。ここで使えば、次のターン、コアによって『サイバー・ドラゴン』が呼ばれ、キメラテック・フォートレスの素材となると考えたのだろう。

 

「レベル5の『太陽風帆船』にレベル3の『ブラック・ボンバー』をチューニング!シンクロ召喚!『A・O・Jライト・ゲイザー』!」

 

A・O・Jライト・ゲイザー 攻撃力2400→5200

 

シンクロ召喚、再び異次元の召喚を使い、呼び出されたのは宇宙人のような奇妙な形状をしたモンスター。首、足の無い人型をしたロボットの腰周りに、リングが回転し、目、手、下半身、リングと様々なヵ所から発光したカードだ。攻撃力は爆発的に上がり、5200、キメラテック・フォートレスの攻撃力を一瞬で追い抜いた。

 

「ライト・ゲイザーの攻撃力は、Youの墓地の光属性モンスター×200アップ!Youの墓地には10体の光属性モンスター。よって2000アップし、『一族の結束』の効果で更にアップ!バトルだ!ライト・ゲイザーでキメラテック・フォートレスへ攻撃!」

 

丸藤 亮 LP2700→1500

 

「ッ――!」

 

ライト・ゲイザーが全身からレーザーを放ち、合成機竜を打ち砕く。強烈なダメージと共に亮に流れる電撃、しかし亮はそれも気にも止めず、むしろ好戦的な笑みを浮かべている。

 

「ふん、そうだ、これでこそ生きていると実感出来る……!」

 

漸く面白くなって来た。ダメージを受けるからこそ、彼は戦場で生と言うものを実感し、楽しめる。正しく求道者。闘いのみを生き甲斐とする修羅だ。

 

「ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP72100

フィールド『A・O・Jライト・ゲイザー』

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2『一族の結束』『リビングデッドの呼び声』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『サイクロン』!『機甲部隊の最前線』を破壊!墓地のコアを除外し、デッキから3体目の『プロト・サイバー・ドラゴン』をリクルート!」

 

プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力1100

 

「貴様のライト・ゲイザーと融合!融合召喚!『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』!」

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000

 

「バトル!キメラテック・フォートレスでダイレクトアタック!」

 

デイビット・ラブ LP72100→70100

 

「ぐぅっ……!」

 

「7度目、ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)

『サイバー・ネットワーク』セット1

手札2

 

「Meのターン、ドロー!モンスターをセットし、ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』『補給部隊』×2『一族の結束』『リビングデッドの呼び声』

手札0

 

「俺のターン、ドロー!この瞬間、発動後、3回目のスタンバイフェイズを経た『サイバー・ネットワーク』は破壊され、除外されている光属性、機械族モンスターを特殊召喚する!来い!『サイバー・ドラゴン』!『サイバー・ドラゴン・ドライ』2体!『サイバー・ドラゴン・コア』!」

 

サイバー・ドラゴン 攻撃力2100

 

サイバー・ドラゴン・ドライ 攻撃力1800×2

 

サイバー・ドラゴン・コア 守備力1500

 

現れる4体の『サイバー・ドラゴン』。効果は発動出来ず、バトルフェイズも行えなくなるが、光属性、機械族専用の『異次元からの帰還』と言えるカードだ。

 

「その後、『サイバー・ネットワーク』の効果で俺の魔法、罠カードは破壊される。魔法カード、『置換融合』!フィールドのドライ2体とコア1体で融合!融合召喚!『キメラテック・ランページ・ドラゴン』!」

 

キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻撃力2100

 

3体の機械竜を素材とし、新たなキメラテックシリーズの1体が降臨する。『サイバー・ドラゴン』、ツヴァイ、ドライの3体の竜の頭部を持つ合成機竜。しかしそのステータスは3体のモンスターを素材にしておいて低く、『サイバー・ドラゴン』と同じステータスだ。一体どのような効果を持っているのか。

 

「融合召喚時、素材の数まで魔法、罠を破壊!『一族の結束』と2枚の『補給部隊』を破壊!」

 

「何ッ!?」

 

これでデイビットの魔法、罠ゾーンのカードは置物と化した『リビングデッドの呼び声』のみ。がら空きの状態だ。リカバリー手段のカードが破壊された事で防御が手薄となった。

 

「ランページの効果でデッキから『サイバー・ドラゴン・ツヴァイ』を2体墓地に送る。カードを1枚セット、ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札1

 

「ぐぅっ……Meのターン、ドロー!……ハッ、残したのが仇となったネ!魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→2

 

「永続魔法、『機甲部隊の最前線』!魔法カード、『命削りの宝札』!3枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→3

 

「カードを2枚セットしてターンエンド!『命削りの宝札』の誓約で、残った1枚を捨てる」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド セットモンスター

『機甲部隊の最前線』セット2

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ランページの効果により、デッキから『サイバー・バリア・ドラゴン』と『サイバー・ジラフ』を墓地に送り、攻撃回数を2回増やす!バトル!キメラテック・フォートレスでセットモンスターに攻撃!」

 

「永続罠発動!『DNA移植手術』!フィールドのモンスター全てを光属性に変更!そしてセットモンスターは『A・O・Jブラインド・サッカー』!戦闘を行った光属性モンスターのエフェクトを無効!『機甲部隊の最前線』のエフェクトで『A・O・Jコアデストロイ』をリクルート!」

 

A・O・Jコアデストロイ 守備力200

 

キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力2000→0

 

「ほう……ターンエンドだ」

 

丸藤 亮 LP1500

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(攻撃表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(攻撃表示)『サイバー・ドラゴン』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

「Meのターン、ドロー!一気に攻める!リバースカード、オープン!魔法カード、『ダークバースト』!墓地の『ブラック・ボンバー』を回収し、召喚!」

 

ブラック・ボンバー 攻撃力100

 

「召喚時、D.D.チェッカーを蘇生!」

 

A・O・J D.D.チェッカー 守備力1200

 

「レベル3のコアデストロイと、レベル4のD.D.チェッカーに、レベル3の『ブラック・ボンバー』をチューニング!シンクロ召喚!『A・O・Jディサイシブ・アームズ』!!」

 

A・O・Jディサイシブ・アームズ 攻撃力3300

 

現れたのは『A・O・J』の切り札。最終決戦兵器の異名を持つ超大型モンスターだ。青と金のボディには幾何学模様が浮かび上がり、両腕にはレーザー砲が、頭部にあたる部位には巨大な大砲がそびえている。異星からの侵略者を根こそぎ殲滅すべく、小さな者に生み出された正義の使者が今、デイビットのフィールドに君臨した。

 

「最終決戦兵器か……」

 

「どうだい亮?これならば満足も出来るだろう!さぁ、正義の裁きを受けろ!相手フィールドに光属性モンスターが存在する場合、ディサイシブ・アームズのエフェクト発動!相手フィールドのセットカードを破壊!」

 

「チェーンして罠発動、『レインボー・ライフ』。手札を1枚捨て、このターンのダメージを回復に」

 

「チッ、だがモンスターは別!ディサイシブ・アームズ!『サイバー・ドラゴン』へ攻撃!」

 

丸藤 亮 LP1500→2700

 

ディサイシブ・アームズの砲門に眩き光が集束し、巨大な球体状のエネルギーが青白く輝き、明滅する。そして――ドシュゥゥゥゥンッ!激しき轟音が響き、極太のレーザーが突き進み、大地を焦がして『サイバー・ドラゴン』を丸呑みにする。正に決戦兵器。圧倒的な力が振るわれる。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンドだ!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド『A・O・Jディサイシブ・アームズ』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『DNA移植手術』セット1

手札0

 

「俺のターン、ドロー!ランページの効果でデッキから『サイバー・ジラフ』と『サイバー・ヴァリー』を墓地へ。2体を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

「この瞬間、Meは速攻魔法、『終焉の焔』を発動!自分フィールドに2体の『黒焔トークン』を特殊召喚!」

 

黒焔トークン 守備力0×2

 

2体のキメラを守備表示にし、ターンエンド。あれだけ猛威を奮っていた帝王がすっかり大人しくなってしまった。これは良い、ニヤリとデイビットはほくそ笑む。流石にカイザーと言えどLP100と100000の差では勝てなかったと言う事だろう。こうなってしまえば勝負は貰ったも同然、デイビットはプライドを持ち直し、歪んだ笑みを表情に張り付ける。

 

丸藤 亮 LP2700

フィールド『キメラテック・ランページ・ドラゴン』(守備表示)『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』(守備表示)

手札2

 

「Meのターン、ドロー!魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『A・O・Jライト・ゲイザー』、『太陽風帆船』、『ブラック・ボンバー』、『A・O・Jコアデストロイ』、『A・O・Jブラインド・サッカー』の5枚を回収し、2枚ドロー!」

 

デイビット・ラブ 手札0→2

 

「2体の『黒焔トークン』をリリースし、現れろMeの切り札!プラネットシリーズの1柱!アドバンス召喚!『ThebigSATURN』!!」

 

ThebigSATURN 攻撃力2800

 

ここで――2つの黒焔を握り潰して糧とし、新たなモンスターが呼び出される。世界に1枚しか存在しないとされる、太陽系の惑星をモチーフとした、プラネットシリーズの1体。土星の名を冠する巨大な鐘のような身体を持ち、剛腕を振るう黒い機械族。

これこそがデイビットの真の切り札、彼が最も信頼する自慢のエースだ。このモンスターを召喚した事により、デイビットが酔いしれるような表情を浮かべている所からもその事を窺える。また、このモンスターも闇属性、機械族、このモンスター自身はリクルート不可能だが、『A・O・J』にデッキをシフトした事による恩恵を受けている。

 

「更にディサイシブ・アームズの効果により、手札を全て墓地に送り、相手の手札を確認!その中の光属性モンスターを墓地に送り、攻撃力の合計分のダメージを与える!」

 

「残念だが、俺の手札にモンスターはいない」

 

「チッ、命拾いしたか、バトル!ディサイシブ・アームズとSATURNでモンスターへ攻撃!AngerHAMMER!」

 

ディサイシブ・アームズの砲門から極太のレーザーが、SATURNの剛腕が火を吹いて亮のモンスターを殲滅する。圧倒的パワー、他を寄せ付けない力が振るわれる。正に兵器。鉄騎兵達が亮を襲う。

 

「貧弱、貧弱ゥ!どうだ亮!これがMeの力!パワーイズジャスティス!Youのモンスター程度じゃ勝てないって事さ!」

 

アカデミアの中でも彼の軍隊のように計算された戦略、そしてこのパワーは強力と言える。余程の腕自慢なのか、高笑いをするデイビット。しかし――彼は愚かにも、本物の最強に、力で挑んでしまった。

カイザー亮。彼のデュエルでは相手の策をも真っ向から捩じ伏せる戦略ばかりに目を取られがちだが――彼の真に恐るべき力は、戦略にあらず、確かに戦略もアカデミア内でトップクラスであるが――彼とデュエルした者は、口を揃えてこう言うのだ。

カイザーは、途方も無い、〝力〟の権化だと。

 

「Meはこれでターンエンド!」

 

デイビット・ラブ LP70100

フィールド『ThebigSATURN』(攻撃表示)『A・O・Jディサイシブ・アームズ』(攻撃表示)

『機甲部隊の最前線』『DNA移植手術』

手札0

 

「もう良い、分かった」

 

「ん――?」

 

ポツリ、亮が小さな言葉を溢し、溜め息を吐く。話にならない。そもそも、こんなにも有利な条件で今まで亮を倒し切れない時点で気づくべきだった。確かに、基礎は作られている、対策も練られている。充分な武器もある。一流とも言って良い。だが――足りない。足りないのだ。一流程度では、亮は倒せない。届かない。この狂おしい程の、闘いへの渇きを、潤す事は無い。彼の闘争心を、満たせない。

彼のエースモンスターを見つめる亮。巨大で強大、誰もがそう思うだろうモンスターが――亮には、矮小に思えて仕方無い。こんなものでは、自身を脅かすには至らない。それを知らしめる為、亮は右手をデッキトップへと翳し、勢い良く引き抜く。

 

「俺は飢えている!闘いに!俺のターン……ドロォォォォォッ!」

 

引き抜かれる1枚のカード、それに追従する激しき突風がデイビットの頬を撫で、観客席にいるユーリの髪まで揺らす。何と言う気迫、凄まじいドローを前に、誰もが額からを汗を伝わらせる。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、キメラテック・フォートレスをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

丸藤 亮 手札3→4

 

これで手札は4枚。全てが緑色のフレームをしているが――このデュエルを終わらせるには充分なカード達だ。

 

「速攻魔法、『サイバネティック・フュージョン・サポート』!このターン、機械族の融合モンスターを融合召喚する場合、1度だけその素材を手札、フィールド、墓地から選んで除外し、素材に出来る!そして魔法カード、『パワー・ボンド』を発動!墓地の『サイバー・ドラゴン』と機械族モンスター、24体!計25体を素材に、融合召喚!蹂躙し、焦土とかせ!『キメラテック・オーバー・ドラゴン』ッ!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力20000→40000

 

現れたるは暴虐の帝王。25体もの素材を喰らい、25本の首を伸ばす黒金の身体を持つ、力がそのまま形となったような合成機竜。その登場と共にフィールドは火に包まれ、爆発したかと思う程の咆哮が25のアギトより放たれる。攻撃力、40000。これこそが亮の真に恐るべき力。

そう、力だ。純粋に強い、ひたすらに強い、ただただ強い。それだけで――彼は勝利を刻んで来た。戦略も何も必要無い。この圧倒的な力こそが、帝王を帝王たらしめているのだ。その全てを捩じ伏せる力を前にして――デイビットが呆然と立ち尽くす。

 

「……馬鹿な……」

 

「このカードの元々の攻撃力は素材の数×800となり、『パワー・ボンド』の効果で元々の攻撃力分、攻撃力をアップ。そして、このカードは素材の数だけモンスターに攻撃可能!散るが良い、速攻魔法、『ハーフ・シャット』!SATURNに戦闘耐性を与え、攻撃力を半減する!」

 

ThebigSATURN 攻撃力2800→1400

 

一縷の望みさえも与えぬ帝王の睨み。それがプラネットシリーズであるSATURNをも怯ませ、フィールドに貼りつける。最早逃げ道も無い。待っているものは――蹂躙のみ。

 

「速攻魔法、『リミッター解除』!キメラテック・オーバーの攻撃力を、更に倍に!」

 

キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力40000→80000

 

更に強化、攻撃力、80000による25回攻撃――SATURNの攻撃力を引いても、その数値は1965000。LPが10万あっても――勝利へは届かない。

 

「28回、7度と合わせ、35度、地を舐めろ。SATURNへ攻撃、エヴォリューション・レザルト・バースト、20、グォレンダァッ!!」

 

デイビット・ラブ LP70100→0

 

眩き閃光が竜のアギトより放たれ――デイビットを呑み込む。瞬間、デュエルディスクによるセーフティがかかるも――電流は彼の肉体を焦がし、白目を剥き、デイビットは悲鳴も上げられず気絶する。

勝者、カイザー、丸藤 亮。しかし――そのデュエルを見た者は、誰もが声を出せなかった。ただ1人――。

 

「……面白い……っ!」

 

眼帯の奥から、金色の光を灯す少年を除いて――。

 

――――――

 

「ねぇ……おじさん」

 

「……何ですかユーリ君?」

 

数刻後、会場の入り口にて、口を閉じ、黙りこくっていたユーリが漸くドクトルヘ口を開く。もう彼の手には飢えを止める為の食べ物は無い。彼の表情に浮かんでいるものは――有り余る、デュエルへの闘争心。あれ程の闘いを見せられて尚、この少年は心が折れる所か、踊ってさえいるのだ。

 

「僕が、カイザーに勝てると思う?」

 

「思いませんねぇ、今の貴方も、前の貴方も、デイビット君のようになるだけですよ」

 

「だけど――僕は、カイザーを超える」

 

それは揺るぎなき挑戦への意志。眼帯に覆われていない紅い眼に決意を灯し、少年は囀ずる。今は誰が聞いても馬鹿馬鹿しいと花で笑うような台詞だ。だが――今は、それでも良い。だけど必ず、そう遠く無い内に、暴虐の帝王を地に沈める。最強に勝利して見せるとユーリは口にする。恐れ多く、愚かな挑戦。しかし、ドクトルはそれを待っていたとばかりに口角を上げ、目を開く。

 

「ならばやるべき事は1つ!ユーリ君、貴方はこの地下のランキング上位に君臨する化物達とデュエルし――勝利するのです!」

 

その先を経て――初めてカイザーと渡り合えるでしょうと、ドクトルは笑う。ユーリが倒すべき者達、それはこの地下でもカイザーに並び、化物と称されるデュエリスト共、今ここに――ユーリの魑魅魍魎を相手としたデュエルが始まるのだ。

 

「上等……やってやろうじゃないか!」

 

「クフフフフフッ!まず目指すべきはランキング8位!吸血姫、カミューラさんといきましょう!」

 

相手は闇夜を支配せし、鮮血の魔嬢。闇のデュエルの幕が、今上がる。

 

 




ユーリ君とドクトルさんと言うキ○ガイコンビ、何だかんだでこの2人仲が良くて書いてて楽しいです。ドクトルさんはマジでヤバイ人なんですけど。

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