遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

118 / 202
多分今までに無くユーリ君が輝いてる回。


第113話 おばさん

アカデミアの上層部、その一部のみが知る暗き地下、その一角にある蝙蝠達が羽音を立てる、小さな中世の屋敷を模した建築物の前にて、ユーリとドクトルは立っていた。目的はこの屋敷に住む人物、ランキング7位、通称吸血姫、カミューラとのデュエルだ。

その為に彼女が住処とするこの屋敷まで交渉に来たのだ。

 

現在ユーリのランキングは21位、デイビットが退いた事で順位は1つ上がったが、それでも7位であるカミューラが相手にするとは思えない。加えて現在ユーリは丸々と太っている。醜いものを嫌うと言われるカミューラの事だ、屋敷に上げてすら貰えるかどうか。ドクトルは自分で誘ったものの、これ大丈夫なんでしょうか、と心の中で溜め息を吐く。

 

「うわぁ、悪趣味な屋敷。カミューラさんって人、本当に吸血鬼か何か?」

 

ユーリが城を飛び交う蝙蝠を見て、露骨な程に眉をひそめて吐き捨てる。確かに通り名と言い、彼がそう思うのも仕方無い。それに――彼の疑問は事実でもある。

 

「どうでしょうねぇ?私も良く知りませんが、彼女は本物の吸血鬼だ、と言う噂は良く聞きますよ。ランキングを駆け上がって来たデュエリストを悉く打ち倒し、血を啜る砦、彼女が存在する限り、滅多な事では順位は動かないのです」

 

「成程ねぇ」

 

「一説では中世から生き残ったヴァンパイアだとか。ぜひ研究したいですねぇ」

 

「アンタが言うと冗談に聞こえないよ……」

 

「おや?冗談では無いのですが」

 

「……」

 

最近常識人っぽい所ばかりを見て、忘れていたが、痩せこけた頬や、やや開いた瞳孔、目の下の隈等、見た目通りドクトルはマッドサイエンティストの一面を持つ。流石に彼とて倫理を外れた実験はしていないが。某動物愛好家のように育てている蟲に対し、愛おしそうに頬擦りをする、と言う不気味な行動をしているのを良く見かけられている。危険人物だと思われても仕方無いだろう。

 

ハァ、と溜め息を吐くユーリは知らない。彼自身もまた、良く八つ当たり気味にオベリスク・フォースを叩きのめしている事で危険人物扱いされている事を。

 

兎に角、今はカミューラだ。中世より生き残ったヴァンパイア。それ程までに恐ろしく強いデュエリストと言う事だろう。面白い飯が美味い事は良い事だ、とペロリと舌舐めずりをするユーリ。しかし――それと同時に、その噂に、ユーリは思う所があった。中世から生きていると言うならば――彼女の通り名には違和感がある。

 

「吸血姫、ねぇ。姫って言うにはババア過ぎるんじゃない?」

 

「誰がババアですって?」

 

相手が女性にも関わらず、デリカシーに欠ける発言をするユーリ。そしてそこに丁度良いのか悪いのか、噂をすれば何とやら。2人の背後に張本人が姿を見せる。

思わずユーリが重くなった身体を振り向かせると、そこにいたのは緑がかった長髪を腰まで流し、深紅のドレスを纏った目付きの鋭い美女、胸元や足を露出させた姿は確かにヴァンパイアと思える程に艶やかで色気があり、美しい。しかし同時に――この華美な美女が、そんな化物には到底思えないと言う真逆の思考を抱かせる。

 

「あら、ドクトルじゃない。こんな所で会うなんて珍しいわね。蝙蝠達が騒がしいから見に来たら……何なのこのブクブク太った醜くて口の悪いガキは」

 

しかし中身は見た目とは裏腹に性格が悪いらしい。口を開けば罵倒をして来る貴婦人、カミューラに対し、ムッと眉根を寄せるユーリ。

 

「お久し振りですねぇ、カミューラさん。相変わらず顔色が悪い人だ」

 

「貴方に言われたく無いわね……用件は何?採血はしないわよ」

 

「それは残念ですが、今回は別件ですよ。この少年、ユーリ君とランキング戦をして欲しいんですが――」

 

どうやら2人は知り合いらしい。とは言ってもそれ程仲が良い、と言う訳では無さそうだが。交渉事に向かないユーリに代わり、トントン拍子で話を進めるドクトル。有り難い存在だ。カミューラはふぅん?と鼻を鳴らし、ユーリを頭から爪先までジトリと見つめ――露骨に嫌そうに顔を歪め、身体をやや逸らし、目だけをユーリに向けて口を開く。

 

「ランキングは?」

 

「21です」

 

「ハッ!笑わせないでちょうだい。見た目もランキングも下、正直言ってゲテモノじゃない。そんなものの相手をしろと?」

 

やはりか――ドクトルが額を抑え、溜め息を吐き出す。こうなれば仕方無い。ダイエットとランキング上げをコツコツと繰り返してまた来るしかないと、ドクトルが諦めた時――ユーリが前に出て、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「逃げるの?」

 

「……挑発のつもり?益々つまらない男ね」

 

「そっちこそ、つまらないオバサンだね」

 

特大の爆弾が放り投げられ、一瞬空気が凍る。言ってはならぬ一言を、ユーリは言ってしまった。その事実にドクトルですら冷や汗を流し、カミューラの様子を見る。ぴくぴくとこめかみをひくつかせ、ユーリを睨むカミューラ。まだ、切れてはいない。しかし一歩手前の崖っぷち。

 

「今、何つった?」

 

「聞こえなかったぁ?年取ってるから耳も遠いんだぁ、おばあちゃん。無理しちゃ駄目だよ、僕別に、お年寄りをイジメる趣味無いし、無理ならやっぱり良いんだよ?ほーらお屋敷に帰ろうねー」

 

更に爆弾投下、地雷をタップダンスで踏み抜きまくるユーリに対し、カミューラの額にビキビキと青筋が浮かび上がり――その美しい顔を台無しにして、表情が怒り一色に染め上がる。

 

「上等よクソガキィッ!散々痛めつけて、最も不様に負かしてあげるわ……!」

 

正に怒髪天、頬が千切れんばかりに吊り上げられ、怒り狂う姿は吸血鬼と言うより口裂け女だ。ユーリはあながち吸血鬼ってのも嘘じゃないなぁ、と呑気に考えながら鼻を鳴らす。ここまでふてぶてしいと逆に清々しい。

 

「ありがとー、お年玉くれるなんて、おばあちゃんは優しいなぁ、でもまだお正月じゃないよぉ、ボケてるのかな?まぁ良いや、ほら行こうか、あっ、1人で歩けるぅ?」

 

「ぶっ殺!」

 

煽りながらてくてくと呑気に会場に向かって歩くユーリと対照的に、怒り狂いながらザッザッと早歩きで進むカミューラ。何とか勝負に漕ぎ着けたが――会場につくまでユーリは煽る事を止めず、ドクトルとしては生きた心地が全くしなかった――。

 

――――――

 

こうして場所は変わり、地下の中心にある金網が張り巡らされた闘技場へ。ユーリとカミューラは互いにデュエルディスクを構え、準備は万端。ユーリは相変わらず紅玉の左眼を細めてニヤニヤと笑みを浮かべ、カミューラはギリギリと歯軋りを鳴らす。随分と苛立っているが、デュエルに支障は無いのだろうか?

 

「血祭りに上げてやるわ……!」

 

「はぁーあ、全く嫌だねぇオバサンのヒステリックなんて。醜いったらありゃしない」

 

「アンタの腹に比べたら可愛いもんよ!って言うかオバサンじゃないっつーの!」

 

少し物を言えばユーリの口が煽りを滑らせ、カミューラのストレスが更に上がる。これではキリが無い。カミューラはギリッ、と歯軋りを鳴らし、デュエルディスクより蝙蝠の羽のようなプレートを展開し、それを見たユーリも剣型のプレートを展開する。これ以上ユーリと話していたら狂ってしまいそうだとでも思ったのだろう。手早く終わらせようと言うのが見てとれる。LPはユーリが4000、カミューラが14000。上位にしては少ないが――一体どうなるのか。

 

「「デュエル!!」」

 

こうして、デュエルが始まる。対戦カードは飢えた悪童と吸血鬼の女王。どちらが勝ってもただでは済まないだろう。先攻はユーリだ。彼は太ってしまった事で短くなった手を動かし、デッキから5枚のカードを引き抜いて手札にする。

 

「僕のターン、僕はモンスターをセット、カードを2枚セットしてターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド セットモンスター

セット2

手札2

 

モンスターとリバースカード、合計3枚のカードをセットしてターンエンド。随分と大人しい出だしだ。とは言え彼のデッキでは先攻に打ってつけのカードが余り無い為、仕方無いか。

 

「ふん、体重と同じでデュエルも重いのかしら?私のターン、ドロー!私は『ヴァンパイア・ソーサラー』を召喚!」

 

ヴァンパイア・ソーサラー 攻撃力1500

 

フィールドに現れたのは三角帽子とローブを纏い、蝙蝠を模した杖を握った青い肌の『ヴァンパイア』の魔導士。『ヴァンパイア』デッキのキーカードとなるモンスターだ。

 

「バトル、ソーサラーでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『捕食植物プテロペンテス』。守備力は2100、600の反射ダメージを受けてもらおうか」

 

カミューラ LP14000→13400

 

ソーサラーがセットモンスターへと魔球を撃ち出したその時、セットモンスターがくるりと身を翻して姿を見せる。食虫植物、ウツボカヅラと翼竜を合成したかのようなモンスターだ。プテロペンテスはその翼で魔力弾を弾き返し、ソーサラーを迎撃する。

 

「チィ――ッ!」

 

ビリビリと微量な電流がカミューラへと襲いかかり、舌打ちを鳴らす。吸血鬼である彼女からしたらこんな電撃、無いにも等しいダメージだが、苛立つ事には変わらない。折角の先制ダメージもユーリに取られてしまった。出だしを挫かれるのは彼女的にプライドに障る。

 

「そしてプテロペンテスがダメージを与えた事でソーサラーに捕食カウンターが乗る。このカウンターが乗ったモンスターはレベルが1となる」

 

ヴァンパイア・ソーサラー レベル4→1 捕食カウンター0→1

 

「焦っちゃ駄目だよ、まだデュエルは始まったばかりなんだから」

 

「ふん、ならエスコートしてもらえると有り難いわね。カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

カミューラ LP13400

フィールド『ヴァンパイア・ソーサラー』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!悪いけど好みじゃないなぁ、プテロペンテスの効果により、このカードのレベル以下のモンスター、ソーサラーのコントロールを奪う!」

 

「くっ!」

 

「うわ、僕が墓地に送るだけでサーチかぁ。しかもリリース軽減まで持ってる、融合素材にしようと思ったのになぁ。僕は『捕食植物コーディセップス』を召喚!」

 

捕食植物コーディセップス 攻撃力0

 

ユーリが自軍に加わったソーサラーの効果を確認し、愚痴りながら召喚したのは冬虫夏草をモチーフとしたモンスターだ。『ヴァンパイア・ソーサラー』は相手によって墓地に送られた場合、『ヴァンパイア』カードをサーチする効果を持つ。しかも墓地から除外する事で上級『ヴァンパイア』のリリース軽減つき、折角プテロペンテスの効果がエンドフェイズまでしか続かない為、融合素材にでもしようと思ったのだが、これでは迂闊にリリースにも出来ない。

 

「魔法カード、『置換融合』!フィールドのプテロペンテスとコーディセップスで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

融合召喚――ユーリの背後に青とオレンジの渦が広がり、2体の『捕食植物』が飛び込んで溶け合い、新たなモンスターが呼び出される。現れたのは悪臭振り撒くラフレシアをモチーフとした凶暴なモンスターだ。

 

「バトル、キメラフレシアとソーサラーでダイレクトアタック!」

 

カミューラ LP13400→10900→9400

 

「がふっ――!この……高くつくわよ、クソガキィッ……!」

 

キメラフレシアの蔦とソーサラーの魔弾がカミューラを貫き、4000ものダメージがカミューラを襲う。思わず苦悶の声と共にたたらを踏むカミューラ。彼女は忌々し気にユーリを睨み、悪態をつく。

 

「良いよ返さなくて。僕も返さないからさ。メインフェイズ2、キメラフレシアの効果でこのカードのレベル以下のソーサラーを除外、僕はこれでターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット2

手札1

 

ソーサラーを墓地に送らずに除外し、サーチ、リリース軽減まで奪うユーリ。俗に言う借りパクであろうか、見事な腕前だ。カミューラは舌打ちを鳴らし、次の手を考える。

 

「私のターン、ドロー!くっ、モンスターをセットしてターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド セットモンスター

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!遠慮無くやらせて貰うよ!僕はキメラフレシアでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスター、『ヴァンパイア・ソーサラー』が墓地に送られた事でデッキの『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』をサーチ!」

 

「ふぅん?僕はこれでターンエンド」

 

ユーリ LP4000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット2

手札2

 

「私のターン、ドロー!たっぷりお礼をしてあげるわ!」

 

「結構でーす」

 

「一々苛々させられる……っ!私は墓地の『ヴァンパイア・ソーサラー』を除外し、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』をリリース無しで召喚!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

現れたのは背に蝙蝠の双翼を伸ばし、銀髪を腰まで流した美しく、妖艶な少女。ロンググローブにブーツ、胸元と腰が開いた艶やかな衣装に身を包んだ彼女は紅い眼を輝かせ、ペロリと舌舐めずりをする。

 

「召喚時、キメラフレシアをこのカードに装備し、その攻撃力をこのカードに加える!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000→4500

 

相手モンスターの装備化に攻撃力アップ。中々に強力な効果だ。これではキメラフレシアの効果も使えない。ユーリのフィールドはがら空き、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』の攻撃力は4500、一撃で終わる数値だ。しかし装備カードとなるモンスターが『スターヴ・ヴェノム』が装備カードじゃなくて良かった。もしも『スターヴ・ヴェノム』が装備カードと化せば――。

 

「バトル、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』、その醜い豚を消しなさい」

 

「させないけど?罠発動!『ガード・ブロック』!ダメージを0にして、1枚ドロー!」

 

ユーリ 手札2→3

 

『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』がその指先を宙に這わせ、ハートを描き、吐息を吹き掛ける。するとハートはユーリへと向かい、途中で無数の矢に分裂して襲いかかる。だがユーリとて、ランキングは食費のせいで余り動いていないが、この地下で何戦も闘い、勝ち抜いて来た。難なくかわし、新たなカードを手札に呼び込む。

 

「チッ、そこそこ出来るみたいね、私はこれでターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット2

手札3

 

「全く、僕のデッキは『捕食植物』だって言うのに、ここに来てから逆に捕食されちゃうばかりだよ。僕のターン、ドロー!まぁ、結局僕が食べ尽くすんだけど。僕は『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

ここで現れたのは蠍を模した植物だ。根が身体、葉が尾となっており、鋭い針が伸びている。単体でも優秀な部類に入るが――とある1体と組み合わせる事で、その性能は跳ね上がる。

 

「召喚時、手札のモンスターを墓地に送り、デッキから『捕食植物ダーリング・コブラ』を特殊召喚!」

 

捕食植物ダーリング・コブラ 守備力1500

 

次は二又に別れた頭部を持つ、蛇を模したような植物だ。このカードこそがオフリス・スコーピオと抜群の相性の良さを持つカードだ。

 

「ダーリング・コブラが『捕食植物』モンスターの効果で特殊召喚された事でデッキの『置換融合』をサーチし、発動!フィールドのオフリス・スコーピオとダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「効果で『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外!」

 

「させるか!罠発動!『スキル・プリズナー』!『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を対象とするモンスター効果を無効!」

 

「ならバトル!キメラフレシアで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』へ攻撃!攻撃宣言時、相手モンスターの攻撃力を1000ダウンし、このカードの攻撃力を1000アップ!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力4500→3500

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

相撃ち狙い、玉砕覚悟の特攻、確かにこれならば『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を破壊出来る。モンスターを装備化するこのカードは早めに除去しておきたいと言う事だろう。それにキメラフレシアは墓地に送られた次のスタンバイフェイズ、『融合』系列のカードをサーチ出来る。が――ニヤリ、カミューラが笑みを浮かべ、その手を打ち砕く。

 

「甘いのよっ!罠発動!『ヴァンパイア・シフト』!デッキよりフィールド魔法、『ヴァンパイア帝国』を発動!」

 

「デッキからフィールド魔法だって!?」

 

リバースカードが発動され、カミューラのフィールドゾーンへと1枚のカードが設置される。味気無い金網のリングが中世の闇夜へと変わり、蝙蝠が飛び交う城がそびえ立ち、赤く輝く月が照らし出す。

 

「ダメージ計算時、アンデット族モンスターの攻撃力は500アップする!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力3500→4000

 

まるで妖艶な少女に誘い出されたかのように――キメラフレシアが蔦で吸血鬼を絡め取ろうとするも、『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』は自らの影よりキメラフレシアを呼び出し、迎撃、相撃ちさせるも、彼女のキメラフレシアは影の為、破壊されてもドロリと溶けて彼女の足下へと戻る。触手プレイ失敗である。規制は厳しい。

 

ユーリ LP4000→3500

 

「くっ――、カードを1枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP3500

フィールド

セット2

手札1

 

「私のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果で僕は『再融合』をサーチ!」

 

「無駄よ!どうせこのターンで終わる!私は『ヴァンパイア・レディ』を召喚!」

 

ヴァンパイア・レディ 攻撃力1550

 

次に現れたのは腰元から翼を伸ばし、紫のドレスを纏った女性の『ヴァンパイア』。攻撃力はこころもと無いが、数少ない『ヴァンパイア』の下級モンスターだ。

 

「バトル!『ヴァンパイア・レディ』でダイレクトアタック!」

 

「罠発動!『ピンポイント・ガード』!墓地の『捕食植物プテロペンテス』に耐性を与え、蘇生!」

 

捕食植物プテロペンテス 守備力2100

 

「ふぅん?カードを1枚セット、ターンエンドよ。どこまでもつかしら」

 

カミューラ LP9400

フィールド『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)『ヴァンパイア・レディ』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット2

『ヴァンパイア帝国』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!僕は装備魔法、『再融合』発動!LPを800払い、墓地のキメラフレシアを蘇生、装備!」

 

ユーリ LP3500→2700

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「魔法カード、『融合回収』!墓地の『置換融合』と『捕食植物オフリススコーピオ』を回収!そしてオフリス・スコーピオ召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「キメラフレシアの効果で『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、防ぐわ!」

 

「そう来るよねぇ、僕は『置換融合』を発動!フィールドのオフリス・スコーピオとプテロペンテスで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

キメラフレシア、3体目、これで全てのキメラフレシアを使い切った、後はゴリ押しするのみ。

 

「まさか――!」

 

「気づいたかな?2体目の効果で『ヴァンパイア・レディ』を除外!まずは1体目のキメラフレシアで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』へ攻撃!キメラフレシアの効果発動!」

 

「『ヴァンパイア帝国』の効果発動!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力4500→3500→4000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

ユーリ LP3500→3000

 

粉砕、玉砕、今度は『ヴァンパイア帝国』があって迎撃されるのを分かっていての特攻、無駄にも見える行為だが――。

 

「キメラフレシアの攻撃力ダウンはターン終了まで続く!さぁ、追撃だ!キメラフレシア!」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力3500→2500→3000

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

一撃で駄目なら二撃で、ゴリ押し戦法、強引な手で攻める。これで『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を撃破した。墓地に2体のキメラフレシアを送り込めたのも大きいだろう。しかし――。

 

「フフ、甘いわね!自身の効果で装備カードを装備したこのカードが墓地に送られた場合、復活する!」

 

「何――!?」

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

不死たる存在である『ヴァンパイア』は蘇る。折角倒したのに――これではキリが無い。面倒だなと唇を噛むユーリ。しかし同時に対策はしやすくなった。

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP3000

フィールド『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

セット3

手札0

 

「私のターン、ドロー!」

 

「キメラフレシアの効果で『再融合』をサーチ!」

 

「永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『ヴァンパイア・レディ』を蘇生!」

 

ヴァンパイア・レディ 攻撃力1550

 

「そして『ヴァンパイア・レディ』をリリースし、アドバンス召喚!『シャドウ・ヴァンパイア』!」

 

シャドウ・ヴァンパイア 攻撃力2000

 

チチチと城の影より蝙蝠が飛び交って集まり、1体のモンスターとなってフィールドに現れる。登場したのは中世の騎士のような鎧に剣、盾を纏い、紅い眼を輝かせた吸血鬼。

 

「このカードの召喚時、デッキより『ヴァンパイア・デューク』を特殊召喚し、更に『ヴァンパイア』モンスターを召喚した事でキメラフレシアを『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』に装備!」

 

ヴァンパイア・デューク 攻撃力2000

 

ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア 攻撃力2000→4500

 

騎士の咆哮に応え、フィールドに新たな『ヴァンパイア』が現れる。髪をオールバックに固め、紳士然とした衣装に黒いマントと正しく洋画にも出て来る『ヴァンパイア』と言った姿のモンスターだ。『シャドウ・ヴァンパイア』と共に守備力0、『悪夢再び』等のサポートを受けられる数値だ。

 

「デュークの特殊召喚時、魔法カードを宣言、相手は宣言した種類のカードをデッキから墓地へ落とす。貴方のデッキは融合を多用するらしいから、そこを突かせて貰うわ」

 

「お望み通り、僕は『融合』を墓地に送るよ」

 

「この瞬間、相手のデッキからカードが墓地に送られた事で『ヴァンパイア帝国』の効果発動!デッキより『ヴァンパイア・グレイス』を墓地へ送り、貴方のフィールドにある右のセットカードを破壊!」

 

「破壊されたのは『運命の発掘』!1枚ドローだ!」

 

ユーリ 手札1→2

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!リビングデッドをコストに2枚ドロー!」

 

カミューラ 手札1→3

 

「このまま総攻撃……と行きたい所だけど、残念ながら『シャドウ・ヴァンパイア』の効果を使ったターン、この効果で特殊召喚したモンスターしか攻撃出来無いわ。バトル!『ヴァンパイア・デューク』でダイレクトアタック!」

 

「させないよ、相手モンスターの直接攻撃宣言時、僕は手札の『捕食植物セラセニアント』の効果発動!このカードを特殊召喚する!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

ユーリの危機に登場したのは昆虫の背から草が放射状に伸びたモンスター。『捕食植物』の中でも貴重な手札誘発モンスターであり、それを差し引いても優秀なカードだ。

 

「このまま攻撃、と行きたい所だけど、そのモンスター、何かありそうね」

 

「さぁてどうかな?」

 

「ふん、話す気は無いって訳。なら私はメインフェイズ2に移行、『シャドウ・ヴァンパイア』と『ヴァンパイア・デューク』の2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』!!」

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 攻撃力2500

 

セラセニアントには戦闘したモンスターを破壊する効果がある。その危機を感知し、カミューラが2体のモンスターでエクシーズ召喚を行う。現れたのは『シャドウ・ヴァンパイア』と良く似た、しかしより鮮明となったモンスター。鎧、剣、盾は赤く発光し、美しき銀髪を靡かせた暗黒騎士だ。

 

「ブラムのORUを1つ取り除き、効果発動!貴方の墓地の『捕食植物キメラフレシア』を私のフィールドに特殊召喚!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「キメラフレシアの効果でセラセニアントを除外!カードを1枚セットし、ターンエンドよ」

 

カミューラ LP9400

フィールド『紅貴士-ヴァンパイア・ブラム』(攻撃表示)『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

『捕食植物キメラフレシア』セット1

『ヴァンパイア帝国』

手札2

 

「僕のターン、ドロー!装備魔法、『再融合』!キメラフレシアを蘇生!」

 

ユーリ LP3000→2200

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「永続罠、『闇次元の解放』!除外されているセラセニアントを帰還!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「まだまだ!『捕食植物サンデウ・キンジー』を召喚!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 攻撃力600

 

次に現れたのはエリマキトカゲとモウセンゴケを合成したモンスター。『捕食植物』らしく、相手を捕食する効果の他に『融合』を内蔵した効果を持っている。そして、このカードで呼び出すのは――。

 

「僕はサンデウ・キンジーの効果でこのカードとセラセニアントを融合!魅惑の香りで虫を誘う二輪の美しき花よ!今1つとなりて、その花弁の奥の地獄から、新たな脅威を生み出せ!」

 

瞬間、ユーリの眼帯に覆い隠された右眼が金色に輝く。明らかに異常な光景にカミューラですら瞠目し、額から汗を浮かべる。何が起こっている――思考が過る最中、ユーリの背後に出現した青とオレンジの渦が赤黒に染まり、バチバチと雷が囀ずって霧が広がり、中より細い皺だらけの腕が2本伸び、2体のモンスターを掴んで引き摺り込む。バキバキと噛み砕いて咀嚼するような音が鳴り響き、余りのおぞましさにカミューラの肌が粟立つ。

そして――黒雲を裂き、恐怖が降り立つ。

 

「融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

言葉が、出なかった。誰もが静かにフィールドに出現した竜の姿を見て、言葉を失う。現れた竜は余りにも変わり果てた姿になっていたからだ。

砕け散り、光を失った事で漆黒に染まった右眼、身体に纏った鎧のような鱗はくすみ、肉体は肉を全て削ぎ落としたような細く、皺だらけ、弱々しく、無惨な姿となった『スターヴ・ヴェノム』。だと、言うのに――このモンスターの姿は、どうしようもなく不安に駆り立てる。その癖、アギトから覗く並んだ牙は唾液に濡れ、爛々と輝いている。

正しく飢えた竜。そして――竜は大きく口を裂くように開き、大気をも震わせる咆哮を放つ。

 

「――っ!」

 

「お腹が減っているのかい?『スターヴ・ヴェノム』。良いよ、今日はご馳走だ。たぁっぷり召し上がれ!『スターヴ・ヴェノム』の融合召喚時、相手の特殊召喚されたモンスターの攻撃力を、このカードに加える!『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を選択!更に効果で墓地に送ったセラセニアントの効果で『プレデター・プランター』をサーチ!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→7300

 

オオオオオッ――と、激しき咆哮を上げ、『スターヴ・ヴェノム』の砕かれた筈の右眼が赤く、鮮烈に、放射状に発光、針の如く伸びて『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を貫き、エネルギーを吸収する。

 

「くっ――何なの……!?何なのよその竜は!?」

 

余りに異様、常軌を逸した竜の存在に、カミューラが金切り声を上げる。それもそうだろう、この竜の飢えは、それ程のものなのだから。

 

「『ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア』を除外、お次は効果食べちゃおう!キメラフレシアを対象とし、『スターヴ・ヴェノム』の効果発動!ターン終了まで、対象のカード名と効果を得る!良いよ良いよぉっ!ははっ、最っ高!」

 

ギン、再び『スターヴ・ヴェノム』の眼が発光し、今度はキメラフレシアに向かって弾かれたように駆け、大顎を開いて貪り食らう。暴れ狂う竜に最早理性は無い。

そして――激しきデュエルの影響か、それとも『スターヴ・ヴェノム』の力なのか、ユーリが汗を流し、痩せているように見える。

 

「なっ――!」

 

「魔法カード、『マジック・プランター』!『闇次元の解放』をコストに2枚ドロー!」

 

ユーリ 手札1→3

 

「LPを800払い、最後の『再融合』発動!キメラフレシアを蘇生!」

 

ユーリ LP2200→1400

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「バトルゥ!キメラフレシア同士で戦闘、『スターヴ・ヴェノム』でブラムへ攻撃ィ!」

 

「くっ、罠発動!『攻撃の無敵化』!バトルフェイズ中のダメージを0に!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→1500

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500→3500

 

紅貴士-ヴァンパイア・ブラム 攻撃力2500→1500→2000

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力7300→8300

 

バキリ――『スターヴ・ヴェノム』がブラムの上半身に飛びついて食らいつく。ダメージが0になっていると言うのに、竜が猛スピードで駆ける影響で突風がカミューラを襲う。危ない所だった。もしも『攻撃の無敵化』が無ければLPが全て削られ、敗北する所だった。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。さぁ、楽しませてよ――」

 

ユーリ LP1400

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)×2

『再融合』×2セット2

手札1

 

激しさを増す飢えた竜と吸血鬼による、化物同士が食らい合う闇のデュエル。有利なのはユーリだが――LPは未だにカミューラが上、更に彼女はまだ、奥の手を隠し持っている。果たしてこのデュエル、どちらが制すのか――。




スターヴ「ごす!ごすの体重は俺が食っておいたぞ!」

ユーリ「また食うだけだゾ」

スターヴ「」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。