遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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前回のあらすじ

黒咲「ははーん、デニス、さてはお前やろ?」


第118話 ゼロ・リバース

激しさを増し、サーキットに火花を散らす遊矢とジャックのエキシビションマッチ。モニター内で繰り広げられるアクションライディングデュエルを、1人の少年が選手控えで見守っていた。

彼の名はサム。ジャックから1枚のカードを受け取り、遊矢へと渡した小柄な少年だ。遊矢は様々なカード、様々な戦術を駆使し、強力なカードでフィールドを制圧するジャックに対し、必死に食らいついていた。会場の誰もがこんな接戦を予想していなかっただろう。

だが彼のデュエルは見事会場を熱狂させ、ジャックと互角に渡り合っている。

 

負ける――3ターン目、ジャックの『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』が登場した時は誰もその結果を疑わなかった。しかし今はどうだろう、誰も――デュエルの先が分からない、予測もつかない。

次は何を起こすのか、ジャックがエースカードを進化させ、『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』と言う切り札を出したにも関わらず、ここで遊矢が終わらないと、ある種の期待が、観客達から寄せられる。

 

ドキドキ、ワクワク、ハラハラする、正にデュエル。最早遊矢にエールが送られるのも不思議ではない。サムも両手を合わせ、瞼を閉じ、静かに祈る。

どうか――

 

(君に与えられた役目が、君に込められた想いが、遊矢さんを助けてくれますように――)

 

その願いは今、小さな光を灯す。

 

――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

--ええい、まだ無理だと言うのか、このうすのろっ!--

 

遊矢がデッキから1枚のカードを引き抜き、目を配らせると共に罵倒が飛ぶ。違う、心が求めているのはこのカードでは無い。だがこのカードにそれを言うのはカードに対して失礼だ。

このデッキを組んだ皆に対してもそれは言える。決して否定の言葉は吐かず、このカードにも出来る役割を考え抜き、戦術を立てる。どうする、どうすればいい、答えは――。

 

「良し……!俺は魔法カード、『シャッフル・リボーン』を発動!墓地より『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』を蘇生!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

墓地より呼び出されたのは反逆の牙、暴君に立ち向かうべく、その鋭いアギトを閃かせるが――その光は鈍く、見ただけで決して届きはしないと頷ける。

 

--成程、クク、面白い事を考えたではないか、うすのろ。だが貴様に引けるか?--

 

先程のドローで遊矢の手札に加わったカード、そして残りの手札3枚を見てか、声が愉快そうに笑う。この4枚の手札で、暴君を打ち倒す。まずは、この2枚。

 

「引くさ……!まずは『相生の魔術師』と『曲芸の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!ペンデュラム召喚!『EMリザードロー』!『EMファイア・マフライオ』!『EMインコーラス』!」

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMインコーラス 守備力500

 

呼び出されたのは3体のモンスターだ。スケールの間が3の為、呼び出せるのはこれだけ、だが今必要なものは、リリース要員、これで充分だ。

 

「俺はリザードローとインコーラスをリリースし、アドバンス召喚!『降竜の魔術師』!」

 

降竜の魔術師 攻撃力2400

 

「このカードの効果でこのカードをドラゴン族に変更!そして墓地の『シャッフル・リボーン』を除外、『曲芸の魔術師』をデッキに戻し、ドロー!」

 

榊 遊矢 手札2→3

 

--ほう--

 

「来た……!魔法カード、『波動共鳴』!タイラントのレベルを4に変更!」

 

「何……?」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント レベル10→4

 

発動されたのはフィールド上のモンスター1体をレベル4に変更するカード。それをこちらに使って来る事にジャックは警戒心を強める。一体、何を考えているのか、と。

 

「そして『相克の魔術師』をセッティング!『相生の魔術師』のペンデュラム効果発動!ダーク・リベリオンと降竜を対象にし、ダーク・リベリオンのランクを、降竜の数値と同じ7にする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ランク4→7

 

「更に『相克の魔術師』のペンデュラム効果でダーク・リベリオンをレベル7のモンスターとして、エクシーズ素材に使用可能!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!二色の眼の龍よ!その黒き逆鱗を震わせ、刃向かう敵を殲滅せよ!クロス・エクシーズ召喚!出でよ、怒りの眼輝けし龍!『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』!!」

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000

 

目には目を、歯に歯を、暴君には覇王を。2体のモンスターが光となって天上で交差し、爆発。立ち込める黒雲を裂き、白黒の竜が姿を見せる。背で輝く桜色の翼、工具のような腕、胸には竜の顔を模した装甲を、鋭いアギトを2本伸ばし、赤と緑の眼を輝かせ--遊矢の切り札が、フィールドに降り立つ。

これこそがダブルチューニング、シンクロの高みに肩を並べる、ペンデュラムの高み。エクシーズペンデュラム。2つの召喚法を瞳に宿す漆黒竜が今、紅蓮の竜を射抜く。

 

「エクシーズと、ペンデュラム……!?」

 

「『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』がエクシーズモンスターをORUとしてエクシーズ召喚した場合、相手のレベル7以下のモンスターを全て破壊し、その数×1000のダメージを与える!今、反逆の時!オーバーロード・ハウリング!」

 

「その為の『波動共鳴』か――!俺は手札の『レッド・ガードナー』を墓地に送り、タイラントを効果破壊から守る!」

 

「くっ、『復活の福音』だけと思ったら……!」

 

見事なコンボ、覇王黒竜の格上を破壊出来ない問題をサポートする遊矢だが、ジャックは手札のモンスター効果で防いで見せる。しかも墓地にはドラゴン族モンスターの破壊を防ぐ『復活の福音』も残っている。白黒の竜が放つ凄まじい怒号も盾によって届かない。

 

「これでタイラントは破壊されず、攻撃力3000のそのモンスターでは、攻撃力3500のタイラントには届かない!」

 

「それはどうかな?バトルだ!覇王黒竜で、タイラントへ攻撃!」

 

「何っ!?」

 

『遊矢構わず攻撃!何か策があるのか!?覇王と暴君がぶつかり合うっ――!』

 

遊矢は臆さず攻め、互いの切り札、2体の竜王が天高く飛翔し、螺旋状の軌道を描いて交差、ぶつかり合う。黒竜がアギトを振るえば、赤竜が掌底で弾き、暴君が咆哮を放てば覇王が怒号を飛ばして波紋が打ち消される。

切り札同士の派手なドッグファイトに会場が盛り上がり、2人は必殺の指示を出す。

 

「『降竜の魔術師』を素材としたモンスターがドラゴン族モンスターと戦闘を行う際、ダメージステップの間、攻撃力が倍となる!革命のイカヅチ!ライトニング・ストライクッ!!」

 

「何だとっ!?くっ、墓地の『復活の福音』を除外、タイラントの破壊を防ぐ!迎え撃て!獄炎のクリムゾンヘルタイドォッ!!」

 

天空を背に、覇王黒竜が桜色の翼を展開、巨大な花びらのようになった双翼を輝かせ、そこから来るエネルギーをアギトに乗せ、バチバチと雷を迸らせ、極太の線になった雷のブレスを放つ。

対するタイラントはバサリと巨大な翼を翻し、大気をアギトに集束、まるで太陽と見間違うような球体状のエネルギーを構成し、黒炎を纏わせて撃ち出す。

 

雷と炎はぶつかり、鬩ぎ合い、火花を散らし、炎を裂いて雷がタイラントに命中、その巨大な体躯を大きく吹き飛ばす。

 

覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン 攻撃力3000→6000

 

ジャック・アトラス LP7100→4600

 

「ぐうぅぅぅぅぅっ!?」

 

タイラントに着弾し、発生した爆風によってジャックのD-ホイール、ホイール・オブ・フォーチュンがクルクルと回転する。やっと、やっとだ。ジャックのLPを4000台に戻す事が出来た。

通じる。遊矢のデュエルはキングに通じ、倒す事とて夢じゃない。だが油断は禁物、何せタイラントには自分以外を破壊する豪快な全体除去効果があるのだ。

 

「カードを1枚セット、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP950

フィールド『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』(攻撃表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)

セット1

Pゾーン『相生の魔術師』『相克の魔術師』

手札0

 

『何と言う大迫力!宙を舞う2体のドラゴンの攻防!見るだけで熱くさせられます!正に最強のチャレンジャー!榊 遊矢!最強のキングはどう返す!?』

 

「俺のターン、ドロー!良いモンスターだ。しかし、俺のタイラントには勝てん!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外、墓地から『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

「タイラントの効果発動!このカード以外のカードを全て破壊!幾ら攻撃力を上げようと、これなら無意味!」

 

「くそっ――!」

 

獄炎が反逆の覇王を燃やし、破壊する。全体破壊だ、覇王黒竜の効果も使えない。

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』を回収、バトル!タイラントで攻撃!」

 

「墓地の『光の護封霊剣』を除外、ダイレクトアタックを防ぐ!」

 

「そろそろ手品が尽きた頃か?見事なものだったが、フィールドに残ったのは俺の切り札だ!カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

ジャック・アトラス LP4600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)

セット1

手札2

 

強い、強い、強い――。これがキング、ジャック・アトラス。切り札対決もジャックが寸での所で競り勝ち、頼みの綱の覇王黒竜が破壊され、遊矢のフィールドのカードは0、手札も0、勝てるのか?僅かな不安が込み上げる。

小さな小さなその思いは、染みのように遊矢の心を侵食する。負ける――このまま、負ける?何もせず、諦めて、ああ、それは何て甘いのだろう、楽になれるのだろう、だけど――それじゃあ、今まで闘って来た皆に、協力してくれた仲間に、会わせる顔が無い。

 

「まだ、だぁっ!無様でも、足掻くんだっ!ここで諦める程、俺と闘って来た皆のデュエルは、安くない!」

 

「……ッ!?折れない、だと……!?」

 

確かに『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』も、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』も、『覇王黒竜オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』でさえ、ジャックには届かない。だけど、それでも、闘うカードは尽きていない。皆の絆はここにある。それが遊矢を奮い立たせ、前を向かせる、背を押してくれる。

 

「あるんだ、ジャックを倒すカードが、まだデッキに残ってる!俺のターン、ドロー!」

 

引いたカードに視線を配らせる。このカードなら――。

 

「魔法カード、『金満な壺』!エクストラデッキの『慧眼の魔術師』、『EMギタートル』、墓地の『降竜の魔術師』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

「後、少し……っ!魔法カード、『マジカル・ペンデュラム・ボックス』!2枚ドローし、確認!ペンデュラムモンスターは1体だけ、1枚を捨てる!」

 

榊 遊矢 手札1→3→2

 

「『EMギタートル』と『EMブランコブラ』をセッティング!ギタートルの効果でドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→1

 

「来た――!」

 

--ん?このカードは……!--

 

「ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMオオヤドカリ』!『EMラディッシュ・ホース』!『EMファイア・マフライオ』!『EMインコーラス』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

EMオオヤドカリ 守備力2500

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMインコーラス 守備力500

 

5体同時召喚、ペンデュラムの本領発揮により、遊矢のフィールドが埋め尽くされる。呼び出されたのは小さな、タイラントに敵わないであろうモンスター達。しかし――このカード達が、ジャックを倒す鍵となる事を、遊矢は信じる。

 

「『EMペンデュラム・マジシャン』の効果でスケールを破壊し、『EMシルバー・クロウ』と『EMジンライノ』をサーチ!シルバー・クロウをセッティング!フィールドの『EM』の攻撃力は300アップ!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500→1800

 

EMオオヤドカリ 攻撃力500→800

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力500→800

 

EMファイア・マフライオ 攻撃力800→1100

 

EMインコーラス 攻撃力500→800

 

「オオヤドカリの効果!『EM』の数×300、ラディッシュ・ホースの攻撃力をアップ!」

 

EMラディッシュ・ホース 攻撃力800→2300

 

「ラディッシュ・ホースの効果!このカードの攻撃力分、タイラントの攻撃力をダウン!『EMペンデュラム・マジシャン』の攻撃力をアップ!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500→1200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1800→3100

 

「ほう……!」

 

『EMペンデュラム・マジシャン』のサーチ、オオヤドカリ、ラディッシュ・ホース、シルバー・クロウの攻撃力アップ効果を駆使し、タイラントの弱体化と『EMペンデュラム・マジシャン』の強化を行う。そして恐らくタイラントを撃破した後はファイア・マフライオの効果による追加攻撃を狙うのだろうが――インコーラスの存在が分からない。

防御を固める為か、それとも――。何にせよ、見事なプレイングだ、弱いモンスターが、あっという間にタイラントを越えて来た。

 

「バトル!『EMペンデュラム・マジシャン』でタイラントへ攻撃!」

 

「アクションマジック、『奇跡』!タイラントに戦闘耐性を与える!」

 

「アクションマジック、『ギャップ・パワー』!『EMペンデュラム・マジシャン』の攻撃力を、相手のLPから俺のLPを引いた数値の半分、1825アップ!」

 

「罠発動!『ガード・ブロック』!」

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力3100→4925

 

ジャック・アトラス 手札2→3

 

しかしまだタイラントはフィールドから退かない。これではまた、全体破壊で振り出しに戻されてしまう。

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド!」

 

榊 遊矢 LP950

フィールド『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMオオヤドカリ』(守備表示)『EMラディッシュ・ホース』(守備表示)『EMファイア・マフライオ』(守備表示)『EMインコーラス』(守備表示)

セット1

『EMシルバー・クロウ』

手札1

 

「俺のターンだ、ドロー!墓地の『レッド・ライジング・ドラゴン』を除外、『シンクローン・リゾネーター』と『ダブル・リゾネーター』を蘇生!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

ダブル・リゾネーター 守備力0

 

「ここだ!罠発動!『風林火山』!」

 

「何ッ!?」

 

ジャックの蘇生に対し、遊矢が発動したのはコナミの『エレメンタルバースト』と同様、発動が厳しい罠カード。ここでまさかの登場に、ジャックが目を剥き驚愕する。その効果は4つ、今遊矢が使うのは――。

 

「ジャックのモンスターを全て破壊!」

 

フィールドに火の手が迫り、ジャックのモンスターが全滅する。あっという間の大逆転。あのタイラントが見事に破壊された。

 

『遊矢凄い!ここで『風林火山』の発動なんて、一体誰が予測出来たでしょうか!?』

 

『全く、彼のデュエルには驚かされてばかりだ!』

 

「……俺は『シンクローン・リゾネーター』の効果で『ダブル・リゾネーター』を回収……成程、この5体のペンデュラムモンスターは、この為でもあったのか……!」

 

先のターンの戦闘補助も、ブラフだったと言う事か。一体何時からタネを仕込んでいたと言うのか、全くこの少年のデュエルには驚かされる。

 

「うまくいって良かったよ。また『レッド・ガードナー』とかでかわされたら、目も当てられない」

 

「ふん……!俺も腹を括らねばならんか……!魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、その枚数分ドロー!そして魔法カード、『死者転生』!手札1枚を捨て、タイラントをエクストラデッキに!更に魔法カード、『星屑のきらめき』!墓地の『ストロング・ウィンド・ドラゴン』と『レッド・リゾネーター』を除外し、合計レベル8のスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

今再び現れる赤き魔竜。相変わらず見事な腕前だ。このモンスターを中心とし、彼のデッキは構築されている為、当然と言えば当然とも言えるが。その当然が辛い。

 

「スカーライトの効果!このモンスター以外の、このモンスターの攻撃力以下の特殊召喚された効果モンスター達を全て破壊し、その数×500のダメージを与える!」

 

「墓地の『EMジンライノ』を除外、『EM』達の破壊を防ぐ!」

 

「まだだ!『チェーン・リゾネーター』を召喚!」

 

チェーン・リゾネーター 攻撃力100

 

「効果でデッキから『シンクローン・リゾネーター』を特殊召喚!」

 

シンクローン・リゾネーター 守備力100

 

「嘘だろ……!?」

 

--ここでダブルチューニングか……!--

 

スカーライトの効果を防いでも、ジャックは止まらない。直ぐ様新たなチューナーを呼び込み、2歩先を行く。

 

「レベル8のスカーライトに、レベル1の『シンクローン・リゾネーター』と『チェーン・リゾネーター』をダブルチューニング!シンクロ召喚!『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント 攻撃力3500

 

そして――魔竜に続き、暴君までもがフィールドに舞い戻る。最悪だ、折角『風林火山』で除去したのに――更にその上を行かれた。凄いと、遊矢は最早感心してしまう。

 

「面白い……っ!」

 

「『シンクローン・リゾネーター』の効果で『レッド・リゾネーター』回収、タイラントの効果発動!貴様のカードを全て破壊!バトルだ!タイラントでダイレクトアタック!」

 

「手札の『EMドラミング・コング』を捨て、バリアバルーンバクを蘇生!」

 

EMバリアバルーンバク 守備力2000

 

「ならばタイラントでバリアバルーンバクを攻撃!」

 

どれだけ危機に立たされようと、遊矢は諦めない。その根性で何とか踏み止まる。

 

「ふん、俺はこれでターンエンド。この瞬間、墓地に送られた『スカーレッド・コクーン』の効果でスカーライトを蘇生!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 攻撃力3000

 

『ここでジャックのフィールドに2体の『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が並んだぁーっ!全力全開、対する遊矢はフィールド0、手札0、流石に辛いかぁっ!?』

 

容赦無しと言わんばかりにフィールドに魔竜が2体並び立つ。これぞキングの全力、間違いなく、次のターンが遊矢のラストターンだ。

 

ジャック・アトラス LP4600

フィールド『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』(攻撃表示)『レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト』(攻撃表示)

手札1

 

絶体絶命、これ以上無き逆境。だけど遊矢は笑う。楽しい、デュエルが楽しくて堪らない。ビリビリと痺れる、アドレナリンが放出しっぱなし、ワクワクが止まらない。これから起こるリアルが全て――遊矢には鮮明に、輝いて見える。全てを、解き放つ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

--来ている、うすのろ!もっと深く!もっとアクセルを踏み込め!集中しろ!--

 

「魔法カード、『貪欲な壺』!墓地の『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』、『ブレイブアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、『EMガトリングール』、『EMセカンドンキー』をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札0→2

 

--を……んで--

 

微かに、遊矢の耳に何かが届く。これは、声だ。自身に呼びかける、カード達の声。溢れる想いが――遊矢の背を押す。

 

「待ってろ、直ぐに引き上げてやる……!魔法カード、『ペンデュラム・ホルト』!エクストラデッキに表側表示のペンデュラムモンスターが3体以上存在する事で、2枚ドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

更に加速、最後の踏ん張りでドローブーストをかけ、幾度も遊矢のデッキトップからアークが描かれる。全てを賭けた最後のドロー、カードの声は――。

 

――私を、呼んで――

 

「来て、くれたかっ!俺はスケール4の『EMウィム・ウィッチ』と、スケール0の『ペンデュラムーチョ』をセッティング!」

 

「スケール0だと!?」

 

--あっれぇ?スケール0……?えっ、うそぉん--

 

遊矢のペンデュラムゾーンに設置されたのは色っぽい猫のモンスターとノリの良いポンチョを纏った鳥のモンスター。スケール0、誰だろうと分かるその特別な数値を、遊矢は得た。

 

「ペンデュラム召喚!『時読みの魔術師』!『EMファイア・マフライオ』!『EMリザードロー』!『EMオッドアイズ・ユニコーン』!そして――『調律の魔術師』!」

 

「その、カードはっ――!?」

 

時読みの魔術師 攻撃力1200

 

EMファイア・マフライオ 守備力800

 

EMリザードロー 守備力600

 

EMオッドアイズ・ユニコーン 守備力600

 

調律の魔術師 守備力0

 

現れる5体の小さなモンスター達。攻撃力も守備力も低く、1つ1つでは誰もが使えないと評するカード達。だけど、遊矢は知っている。このカード達が、勝利を導く役目を持つと、サムに渡された遊矢の新たな仲間――『調律の魔術師』に目を配らせる。すると彼女は遊矢と目を合わせ、ウィンクをしてくれた。

 

「『調律の魔術師』の効果で相手は400ポイント回復し、俺は400ポイントダメージを受ける!」

 

ジャック・アトラス LP4600→5000

 

榊 遊矢 LP950→550

 

「あべしっ!」

 

白い法衣を揺らし、『調律の魔術師』がチロリと舌を見せ、遊矢を音叉で殴る。まさかこんな効果とは思ってなかった。400分のダメージとは思えないそれを受けながらも遊矢は何とか前を向く。

 

--ごめーん、ごすずん、でもこれ強制効果だからと言ってるな--

 

「そんな感じなんだ……」

 

--相手は元マスターなんだ、でもごすずん、心配しないでねっ、今のマスターはごすずんだから!それに私と元マスター手も握ってないし!とも言ってるな。どうやらドジっ娘スイーツ系か。まぁ、ドジっ娘なら俺の『クリアウィング』の方が可愛いがな!自軍のモンスターもたまに破壊しちゃう所が可愛くて可愛くて--

 

「何故元カレ風……」

 

「――何故お前がそのモンスターを持っているのか分からないが、これも運命と言うものか」

 

--えっ、何元マスター?そんな、今更戻れないわ!と言ってるな--

 

ジャックが格好良い事を言っているのにこのスイーツと中の人のせいで色々台無しである。

 

「ジャック、アンタをサムにこのカードを渡した理由、何となく分かるよ。『調律の魔術師』は確かに弱いかもしれない、だけど、俺の勝利に欠かせない、このカードもまた、切り札なんだ!」

 

--ヤダごすずん格好良い……!こんな私でも受け入れてくれるだなんてっ!と言ってる--

 

本当に台無しである。

 

「俺はっ、レベル3の『時読みの魔術師』と『EMリザードロー』、レベル1の『EMオッドアイズ・ユニコーン』に、同じくレベル1の『調律の魔術師』をチューニング!剛毅の光を放つ勇者の剣!今ここに閃光と共に目覚めよ!シンクロ召喚!『覚醒の魔導剣士』!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500

 

シンクロ召喚、『調律の魔術師』が1つのリングとなって弾け、明度を増して宙を舞い、3体の小さなモンスターを包み込み――閃光が貫く。直後にフィールドに光のリングが雷のように降り注ぎ、美しき白刃の煌めきと共に現れたのは――聖剣を抱く、魔導の勇者。

2本の剣を振るい、今――遊矢の初めてのシンクロ召喚、シンクロモンスターがフィールドに降り立つ。

 

『ここで遊矢、シンクロ召喚!新たに登場したそのモンスターの力は、ジャックに通じるのかーっ!?』

 

「通じるさっ!『覚醒の魔導剣士』のシンクロ召喚時、『魔術師』ペンデュラムモンスターを素材にしている為、墓地の魔法カードを回収する!俺が手札に加えるのは――アクションマジック、『ギャップ・パワー』!『覚醒の魔導剣士』に使用!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力2500→4725

 

「バトルだ!『覚醒の魔導剣士』で『レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント』へ攻撃!この瞬間、墓地の『スキル・サクセサー』を除外、更に攻撃力を800アップ!」

 

覚醒の魔導剣士 攻撃力4725→5525

 

「切ぃり……裂ぁけぇぇぇぇぇっ!!」

 

「迎え撃て、タイラントォォォォォッ!!」

 

狙うは王、ただ1人、ジャック・アトラス最大の切り札へと、『覚醒の魔導剣士』が剣を振るい、魔竜の放つ炎を裂き、突き進む。もっと強く、もっと速く。更なる高みへと――。2人の喉が枯れる程に叫び――その剣が、魔竜を切り裂く。

 

ジャック・アトラス LP5000→2975

 

「――っ!」

 

「『覚醒の魔導剣士』の効果により、戦闘破壊したタイラントの攻撃力分のダメージを与える!」

 

「……馬鹿な……!」

 

届く想い。その中にあるのは、決して遊矢1人のものだけじゃない。今まで闘って来た強敵、協力してくれた仲間達、背を押してくれた大人達、共に闘った、カードと、自身の中にいる誰か。全てをこの一撃に込める。これが――皆と繋ぐ、榊 遊矢のデュエル。榊 遊矢の、エンタメデュエル。最初から、勝負は決まっていたのかもしれない。

 

多くの人に囲まれる遊矢と、孤高の王者、ジャック。2人の道は正反対だ。ジャックに白刃が届く、その瞬間――2人は、一瞬の幻を見る。仲間と共に、笑い合う、キングでなくなった者の姿を。きっと――ジャックに時に競い合い、時にぶつかり合う仲間達がいたならば――このデュエルの結果は、変わっていたかもしれない。

 

ジャック・アトラス LP2975→0

 

『けっ、決着ゥゥゥゥゥッ!一体、一体誰がこの結末を予測出来たのでしょう!?フレンドシップカップ、エキシビションマッチ、その激闘を制したのは、無名のチャレンジャー、榊、遊矢ーっ!!』

 

今この瞬間、誰もが彼の名を、脳裏に刻む。小さな小さなエンターテイナー。彼は今、誰もが認めるデュエリストへと、成長した――。

 

――――――

 

デュエルが終わった後、遊矢へとインタビューを開始するメリッサ達を簑とし、ジャック・アトラスは逃げるようにピットへと戻って来た。情けない――あれだけ大口を叩いておきながらこの様か、ジャックは自身を鼻で笑い、愛機、ホイール・オブ・フォーチュンをカラカラと進める。どうして負けたのか、ジャック自身分からない。一体何故と視線を地面に落とした、その時だった――。

 

「無様なものだな、プラシドの言う通り、所詮、牙を抜かれ、爪を失った愚鈍な家畜と言う訳か。こんなものに俺が負けたと考えると苛立ちを通り越して呆れもしよう」

 

「――っ!?」

 

ジャックの眼前に、白いローブを纏った長身の男が現れたのは。何時の間に、と考えるその前に――ジャックは眼前の男の放つ気迫に呑まれる。

何だ、この男は。強いなんてものではない。放つ気迫は、圧倒的で、まるで王と見間違えるような――。

 

「ぬるいデュエルだった。特に貴様だ、貴様が弱過ぎる。あれでキングとは笑わせる。どうやったらあそこまでいや、ここまで腑抜けられる?」

 

「……何者だ貴様は……?自分が誰を愚弄しているのか分かっているのか?」

 

ギン、ここまで言われて引き下がるジャックではない。目付きを鋭くし、目の前の赤い瞳を睨むが――男は首をすくめ、やれやれと両手を上げる。

 

「知らんな、貴様が誰かなど、興味も無い、知り合いに似ていると思ったが、どうやらそっくりさんだったようだ。もう帰って良いぞ、キングでも、ジャック・アトラスでも無い者、元ジャックよ」

 

「良いだろう、そこまで言うなら俺自ら相手になってやる。名を名乗れ、墓標に刻んでやる」

 

尚もジャックを挑発する男に苛立ち、ジャックがホイール・オブ・フォーチュンからデュエルディスクをパージし、左腕に巻き付け、プレートを展開する。

対する男は名を聞かれた途端、待っていたとばかりに口角を上げ、纏ったローブを宙に放り投げる。宙に舞い、巧妙に男の姿を隠しながらゆっくりと地に落ちるローブ。その奥から覗く男の姿に――ジャックが目を見開き、言葉を失う。

 

「墓標に刻むのは、自分の名か?まぁ、良い、良くぞ聞いた――」

 

金に輝く明るい髪、赤く染まった両の眼。

 

「その脳髄に、特と刻め――」

 

本来の白から、灰に染まったジャケットに、王者を思わせる気風。

 

「我が名は――」

 

放たれるマシンボイスは、自身が最も聞き慣れたもの。

 

「ジャック・アトラス・D」

 

ジャック・アトラスが、そこにいた――。

 

「キングは1人、この俺だ。さぁ、宣言しよう、このデュエルで、貴様は真のキングをその目に目撃する!」




と言う訳で遊矢対ジャック、決着。かなり迷いましたがこの結果に。賛否両論あると思いますが、この結果を変える事はありません。今の2人の差を考えれば僅かに遊矢君に軍配が上がります。むしろ遊矢君が勝てるとしたらここしか無かったり。

おまけ

ジャック「ジャック・アトラス・大好きブルーノちゃん?」

ジャック・D「違う!ダッシュだ、ダッシュ!誰がそんなトンチキな名前にするか!」

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