暇潰しにでも楽しんでいただければありがたいです。
天月と言う少年は俗に言う、天才ピッチャーであった。プロ野球選手である父を持ち、天賦の才に加え、日々の厳しいトレーニング、そして果てには超人揃いの少森寺塾での修行、小学生時代では負けなし、中学に入ってからは大きな期待を受けた。
それも当然であろう。この時には既に彼の野球能力は並の高校生を優に超えていたのだから。
しかし、彼の栄光への道は早くも壊される。県大会決勝、彼はそれまでの全ての試合で先発を努めてきた。そうして、彼は気づかぬ内に疲労しきっていたのだ。
いくら恵まれた能力を持つとは言え、所詮中学生、その上彼の前に立ち塞がったのは名門中学の化け物染みた選手達。
キレの無くなった変化球、普段ならば重いストレートも通用せず、全力を出し切った過去最高速度の球でさえ、スタンドへ叩きつけられた。
そして彼はこれまでの無理がたたり、右肩が……壊れた。
それ以来、彼はボールを投げる事に恐怖を覚え、肩が完治した今でもボールに触れていない。
野球をやる楽しさも、逆境の中で燃える闘志も、見る影も無くなった。そして、自らを見失い、悪戯に時間を使う中、彼は出会う。昔の自分そっくりに笑う、赤帽子の少年に。
勝鬨 勇雄と言う少年はどうしようもなく不器用だ。それは彼の暮らしている環境に問題がある。
梁山泊塾、塾長、郷田川の指導方針は絶対的な勝利にある。勝利以外の結果を是とせず、勝利のみを求め、手段を問わないデュエル。楽しさ等を無駄と笑し、汚い方法を有用とする闇のデュエル。
彼はそれを学んだ。それが強くなれると信じて、今では顔も朧気な両親に会えると信じて、だけど分からない、分からなくなってしまったのだ。
コナミの言葉を聞いて、自分が何をしたいのか、このデュエルは正しいのか、両親が自分のデュエルを見て、笑ってくれるのか。
昔、公園で見た親子のデュエル、あんなデュエルが出来るのかと、あの時、光輝いて見えた少年のゴーグルがコナミのゴーグルと重なる。胸がどうしようもなく締め付けられる。
――お前は本当に、見つけてくれるのか?――楽しい、あの親子のようなデュエルを――
――――――
「さぁ、オレのターンだ」
皆が息を飲み、その一挙一動に注目する中、コナミが口元に弧を描きながらその右手をデッキトップに翳す。
「……」
「……」
「何が来るのかドキドキハラハラするな」
「いいからさっさと引け!」
「そう急かずとも……ドロー!」
勝鬨の叱咤を受けつつ、カードを引き抜くコナミ、一堂が汗を垂らし、生唾を飲み込む、誰もが緊張した雰囲気を発する中――コナミが薄く笑った――。
「これだから、デュエルはやめられないんだ」
途端、勝鬨と天月に電撃が駆け抜ける。味わいたい、分かってしまう。そのドキドキが、そのワクワクが。
(ああ――そうか、デュエルをするのは――それが知りたいから――)
(そうだ――同じなんだ。デュエルも――野球も――良いカードを引いた時の嬉しさ、良い球を投げた時の喜び――)
自然とその視線はデッキへと移る。あの時見た親子の笑顔、デュエルの楽しさ。
あの時失った胸の高鳴り、逆境への挑戦。求めていたものは、欲しかったものは、すぐ近くにあった。
気づかなかったもの、忘れてしまっていたものが2人のぽっかりと空いた心にパズルのようにカチリと嵌まる。
「魔法発動!『ギャラクシー・サイクロン』。セットされたカードを破壊する!」
「ーっ!させるか!手札を1枚捨て、パーフェクトエースの効果で無効にし、破壊する!」
星を散りばめた竜巻はパーフェクトエースの鉄腕から放たれる球によって掻き消される。効果は不発、だが、これこそがコナミの狙い。
「道は開いた、魔法カード『調律』。デッキより『ジェット・シンクロン』を手札に加え、デッキトップを墓地に送る。そして『ゴブリンドバーグ』を召喚!」
ゴブリンドバーグ 攻撃力1400
コナミの手札より現れたのは1ターン目でも姿を見せた玩具の飛行機に乗ったゴブリン。その飛行機からはコンテナが吊るされており、中よりキィィィィィィィィンと耳鳴りが聞こえてくる。
「『ゴブリンドバーグ』の効果、手札より『ジェット・シンクロン』を特殊召喚し、このカードを守備表示にする!」
ジェット・シンクロン 守備力0
『5番、『ジェット・シンクロン』』
火炎を上げ、コンテナより飛び出たのは青と白のカラーリングの愛らしいジェットエンジンを思わせるモンスター。
「星4の『ゴブリンドバーグ』に星1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!シンクロ召喚!!『ジェット・ウォリアー』!!」
ジェット・ウォリアー 攻撃力2100
『6番、『ジェット・ウォリアー』』
背のエンジンより火を吹かせ、ジェット推進により高速度でバッターボックスに降り立つは、その名の通り、ジェット機を思わせる機械戦士。
彼が刃の如き足で降り立った地は一部だけ抉り取られた形になっている。
「『ジェット・ウォリアー』がシンクロ召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を対象に発動する!俺が対象とするのは……『U.A.パーフェクトエース』!そのカードを手札に戻す!さぁ、降板して貰うぞ!」
「っ!?罠発動!『スキル・プリズナー』!パーフェクトエースを選択し、対象として発動したモンスター効果を無効にする!」
「そう来るか……バトル!『ジェット・ウォリアー』でビクトリー・バイパーを攻撃!」
ビクトリー・バイパーの砲門より、野球ボールが発射され、『ジェット・ウォリアー』に迫る。天より降る高速のボール、そのボールを打とうと、『ジェット・ウォリアー』がバットを振るう、しかし。
「ッ!ホップした!?」
突然、そのボールがまるで段差を上がるかのように1段上へホップする。その様は獲物を狙う。
「クックック、行くでやんす!ハブボール!」
時既に遅し、『ジェット・ウォリアー』はバットを振ってしまった――。しかし、背のエンジンより炎が噴射し、その体勢は大きく変わる。バッターボックスを1回転し、バットはボールの前へ、クリーンヒット、甲高い音を鳴らし、ボールは高速でビクトリー・バイパーへ迫り、槍の如くその翼を貫く。
「いや……攻撃力は上だし、これはデュエルだ」
打ち落とされるビクトリー・バイパー。スタンドへは運べなかったが、『ジェット・ウォリアー』は既に三塁へ。
「だがまぁ……デュエルも野球も、楽しんで諦めなければ、道は開けるかもな」
「ッ!」
コナミの視線が天月へとぶつかる。目は口程にものを語る。全くその通りだと天月は苦笑する。
「希望皇ホープでマイティースラッガーを攻撃!」
スラッガーの手よりボールが投げられる。やはり、パーフェクトエースには劣るが、充分に速い、だが、この皇に膝をつかせられるのは青きエースのみ、皇の背後に燃え盛る炎が舞い、黄金のバットは灼熱を纏い、更なる輝きを放つ。
「元々の攻撃力よりも攻撃力の高いモンスターが相手フィールドに存在する場合、『燃える闘志』を装備したモンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍となる!」
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000
「罠発動!『ダメージ・ダイエット』!このターン、自分が受ける全てのダメージを半分にする!」
更に速度を増すボール、しかしまだだ。まだ皇の足元にも及ばない。確かに重いストレート、だが甘い。皇は金色のバットを振り、真芯で捉える。
風を引き裂き、強烈な打撃音がスタジアムに響き渡る。バットに当たったボールには熱が移り、爆発を起こす。ボールは更に加速し、マイティースラッガーごとスタンドへ運ぶ。特に意味は無いがスポーツではよくある事。マイティースラッガーはスコアボードにぶつかり、その軌跡は見事なアーチを描いた。圧倒的ホームラン。その余波は天月達を襲う。
天月&札田 LP4000→3400
「オレはカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900
フィールド 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)
『燃える闘志』セット1
手札0(コナミ) 手札2(勝鬨)
「オイラのターン、ドロー!カードを2枚セットして、ターンエンドでやんす……天月君、頼んだでやんすよ」
天月&札田 LP3400
フィールド『U.A.パーフェクトエース』
セット2
手札2(天月) 手札1(札田)
天月に向かい、目を配らせる札田、その視線にどのような意図があるかは分からない。だがその眼鏡の奥の瞳には信頼が見て取れる。
「……自分のターン……」
勝鬨がその手をデッキの上に翳す。怖い、今更になって恐怖が沸いてくる。こんな自分がデュエルを楽しんでいいのか?デッキは応えてくれるのか?――デュエルを、楽しめるのか――?
「勝鬨」
そんな中、コナミが勝鬨に向かい、声を掛ける。優しげで暖かい声音、コナミは勝鬨に向かい、拳を突き出し、笑う。
「かっとビングだ」
「かっと……ビング……?」
「勇気を持って一歩踏み出せ、諦めずに困難にぶつかれ、目の前のワクワクを躊躇ったら、勿体無い、確かに失敗するのは怖いかもしれない。だけど挑戦しなければお前は今のお前のままだ」
勝鬨の凍てついた心がまるで雪解けのように溶けていく。それでも怖い、今でもカタカタと勝鬨の右手は震え続けて止まらない。
「それでも怖いなら――、オレも共に、挑戦しよう。言っただろう?共に見つけると」
コナミの右手が勝鬨の右手と重なる。――もう、震えは止まった――、むしろ早くカードを引きたいと言う気持ちが心の底から込み上げてくる。そうだ、このデッキの中には、このドローには、ありったけの希望が詰まっている。
だからこそ、最初の挑戦は、この戦友と共に引き抜こう。顔がニヤける、鼓動が高鳴る。ふと、あの時公園で見た親子の姿が頭を過る。
ああ――そうか、これが――楽しいって事なんだ――。
「「かっとビングだ!!自分(オレ)達のターン!ドロー!!」」
光の線が走る、引いたカードを見て、勝鬨が笑う。応えよう、今までの人生に、デッキに。
「魔法カード『死者蘇生』!!墓地より、『覇翔星イダテン』を特殊召喚する!!」
「手札を1枚捨てて、パーフェクトエースの効果により、無効にするでやんす!」
札田の渡したカードが野球ボールに変化し、パーフェクトエースの手により投げられた球は勝鬨の『死者蘇生』を貫く。だがまだだ、まだその瞳は諦めてはいない。
「装備魔法!『再融合』!800LPを払い、墓地のイダテンを特殊召喚し、このカードを装備する!」
コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900→1100
覇翔星イダテン 攻撃力3000
バッターボックスに立つのは勝鬨の切り札、紫の兜と甲冑を纏った誇り高き武人。今、勝鬨の想いに応えるべく、フィールドに顕現する。
「バトルだ!希望皇ホープでパーフェクトエースを攻撃!パーフェクトエースの攻撃力がアップしている為、『燃える闘志』の効果が適用される!」
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→5000
対峙する黄金のバッターと青きエース。飛び散る火花、今、互いの誇りを賭け、2度目の対決が始まる。まるで呪縛の如く絡みつく緊張感、その糸を断つように、パーフェクトエースの鉄腕より、剛球が放たれる。
肉眼では捉えきれないであろう、稲妻が走るような球、それはホープの目の前で急激な伸びを見せる。正に光速、しかし、皇も負けてばかりではいない。その身に纏う炎を更に燃やし、バットが更なる光を放つ。球種は……ストレート。赤き眼を見開き、バットを振るう、スタジアム中に響く炸裂音、ボールは真っ直ぐにパーフェクトエースに向かい、その右肩を貫く。
「っ!」
その光景に思わず顔を歪める天月、それはまるであの時のような出来事。
「『覇翔星イダテン』で攻撃!」
漆黒の槍を構え、目にも止まらぬ突きを放つイダテン、その槍は札田達のライフを大きく削り取る。
天月&札田 LP3400→400
「くっ……うっ!」
「『ジェット・ウォリアー』でダイレクト・アタック!とどめだぁっ!」
背部のエンジンが唸り声を上げる、火炎を背に、凄まじきスピードで札田に迫り、その黒き拳でこのデュエルに鉄槌を下そうとする。
「罠カード『奇跡の残照』!このターン、戦闘で破壊された『U.A.パーフェクトエース』を特殊召喚するでやんす!」
U.A.パーフェクトエース 守備力2500
しかし、後一歩と言うところで再び、マウンドに守護神が青き翼を翻し、降り立つ。その手には『ジェット・ウォリアー』の拳が握られており、何が何でもこの場を退かぬ気迫を感じさせられる。
「くっ、バトルを中断する!メインフェイズ2に移行し、カードを1枚を伏せ、ターンエンドだ」
コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900
フィールド 『No.39希望皇ホープ』(攻撃表示) 『覇翔星イダテン』(攻撃表示) 『ジェット・ウォリアー』(攻撃表示)
『燃える闘志』セット2
手札0(コナミ) 手札0(勝鬨)
天月達の前に並び立つは紫、白、黒と3種のモンスター、種類の違うモンスターがここまで揃うなど壮観と言えよう。今まで天月達がデュエルを続けてきて、ここまでの光景が眼前に広がるのは初めてなのだから。
今すぐにでも膝をつき、デッキの上に手を置き、サレンダーをすれば楽になれる。
そう、今までの彼ならば考えていただろう。だが、天月の心には絶望は無い、あるのは唯、燃え盛り、暴れ狂うような挑戦の意志。
コナミが笑った。楽しいからデュエルはやめられない、と。知っている忘れていたあの感覚を味わいたくて堪らない。
勝鬨が見せた。恐怖を打ち払い、新たな道へと、足を踏み入れた。負けていられない、自分も自分自身の可能性に賭けてみたい、弱い自分を乗り越えて、もう1度あのワクワクを手にして見せる。
そして札田が、親友が託したのだ。こんな弱い自分に、情けないこの身に、1人じゃない、皆が見ている。
マウンドに立つエースは1人、だけど、ボールを投げた先には彼がいてくれた。何時だって、どんなボールだって受け止めてくれた。背後にも同じチームの皆がいた。1人じゃない、1人だけで闘ってきた訳じゃない。確かに、状況は最悪だ。まるであの時のような満塁状態で笑えてくる。こんな絶望的なのに、勝ちたくて、勝ちたくて仕方無い。
「俺のっ、ターンッ!!」
楽しくて、笑ってしまう。
「手札を1枚捨て、『ライトニング・ボルテックス』発動!相手フィールド上の表側表示のモンスターを全て破壊する!」
轟雷がコナミ達のモンスターを貫く。焼け焦げた跡や匂いが辺りに立ち込め、コナミの顔が歪む。
「『U.A.ファンタジスタ』を召喚!」
U.A.ファンタジスタ 攻撃力1200
3度、電光を散らし、フィールドに現れるファンタジスタ、まだだ、勝利へのピースはまだ足りない。
「『U.A.スタジアム』の効果により、『U.A.マイティースラッガー』を手札に加え、選手交代!ファンタジスタを手札に戻し、マイティースラッガーを特殊召喚!」
U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300
「っ!自分は罠カード『エクシーズ・リボーン』を発動!希望皇ホープを特殊召喚し、このカードをORUとする!」
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500
並び立つ両雄、白き翼を広げ、金色の鎧を纏いし希望の皇がその右手に野球ボールを握り、必殺の強打者を睨みつける。
対する4番打者、マイティースラッガーは光放つバットを握りしめ、バッターボックスに立つ。火蓋は切って下ろされる。
「アクションマジック!『ハイダイブ』!希望皇ホープの攻撃力を1000アップする!」
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500→3500
フィールドを駆け、コナミがアクションカードを拾い上げ、自らのデュエルディスクに叩きつける。何かの拍子でマイティースラッガーの攻撃力が上がった時の為だろう。あのモンスターの前では、ホープの効果も無意味なのだから。だが、強敵だからこそ、燃え上がる。
「バトル!マイティースラッガーでホープを攻撃!」
こんなところで止まってられない。熱き炎が闘志に宿る。大丈夫だ、恐れる事は無い、自分には――。
「罠発動!『燃える闘志』!」
託してくれる仲間がいる。
U.A.マイティースラッガー 攻撃力2300→4600
ホープが投げた球が打ち砕かれる。熱風が天月の頬を撫でる。心地良い感覚、ああ、何故こんな楽しさを忘れてしまっいたのだろう。思わず頬が緩むのを感じる。勝ちたい、彼等に、仲間と共に。
コナミ&勝鬨 勇雄 LP1900→1000
「ターンエンド!さぁ、かかって来い!」
天月&札田 LP400
フィールド 『U.A.パーフェクトエース』(守備表示) 『U.A.マイティースラッガー』(攻撃表示)
『燃える闘志』
手札1(天月) 手札0(札田)
形勢逆転、あそこまで有利な状況が見事ひっくり返される。何が起こるか分からない、何が起こってもおかしくない。互いに笑顔を貼り付け、その熱く燃え上がる闘志に、更なる炎を灯す。
「オレのターンッ!!」
勢い良くデッキトップよりカードを引き抜くコナミ。引いたカードは逆転の一手。
「魔法カード『死者蘇生』!墓地より希望皇ホープを特殊召喚する!」
「甘い!忘れたか!パーフェクトエースの効果!手札を1枚捨て、その効果を無効にし、破壊する!」
パーフェクトエースの剛球がコナミに迫り来る。確かに、コナミらしからぬプレイングミス、そう、考えるだろう。
「いや、信じてたのさ」
ニヤリと笑うコナミ、その背後より、1つの影が出現し、ボールを蹴り上げた――。
「アクションマジック『ヒートアップ・サウンド』その効果を無効にする」
その正体こそ、コナミのパートナー、勝鬨 勇雄。彼は自らの身体能力を活かし、物理的な意味でも天月の妨害を防いで見せた。これこそが勝鬨にしか出来ないデュエル、モンスターと闘う、妨害を妨害するデュエル。
成程、確かにこれが彼らしいデュエルなのだろうと、コナミは苦笑し、ホープを召喚する。
No.39希望皇ホープ 攻撃力2500
傷つき、倒れながらも立ち上がる皇。倒れる訳にはいかない、自分の握るバットこそが、彼のエースの全力を打ち破り、自らの主に勝利をもたらすのだとその身を奮い立たせる。
身に纏う気迫は先のターン、『燃える闘志』を装備していた時より変わらない。いや、むしろ今までのものを超えているように見える。彼の皇の狙うは唯1人、完全無欠のエースのみ、コナミもそれを分かっているのだろう。皇に最後の指示を飛ばす。
「希望皇ホープでパーフェクトエースを攻撃!」
右手に持ったバットをパーフェクトエースへ、スタンドへ向けてホームラン予告をするホープ。対するパーフェクトエースは獰猛な笑みを浮かべ、投球フォームを構える。
そして――刹那、雷が駆け抜ける。電光をバチバチと散らし、今までの球速を遥かに超える青き稲妻、それを見てホープもバットを短く持ち替える。眼前に迫る雷は急激に伸び、光となる。だが。
「罠カード!『ストライク・ショット』!ホープの攻撃力を700上げ、守備表示のモンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える!」
勝鬨が託したカードが発動される。光を打ち砕くはもう1つの光、バットに希望の光が集束し、振り抜かれる。食らいつく光速のストレート。
だが折れない。その意志は、その闘志はひび1つ入らない。
ガキィィィィィィィィンッ、甲高い音が響き、光が今、スタンドへ叩きつけられる。
「ホープ剣・逆転満塁ホームラン!!」
天月&札田 LP400→0
ゲームセット、デュエル終了のブザーが今、鳴り響いた。
「……負け、たか……」
「……天月君……」
「何でだろうな、負けたのに、悔しいのに、今すぐ練習したい、野球がしたくて堪らないんだ!」
「天月君っ!」
清々しい笑みを浮かべ、札田へ振り返る天月、その瞳にはもう、迷いは無い。
「どうだ、勝鬨?」
「……コナミか……ふん、こんなにもデュエルは楽しいのだな……悪くない」
肩に手を置くコナミに対し、憑き物が落ちたような笑顔で返す勝鬨、そこへ。
「どうです?勝鬨君、もし良ければこの塾へ入りませんか?」
観客席で座っていたホンフーがニコニコと笑い、誘う。しかし勝鬨は苦笑を1つ浮かべ、ふるふると首を横に振る。
「申し出はありがたいが……それは自分が自分に決着をつけてからにするとしよう」
「……そうですか、――そうそう、善人は悪い事をしてはいけませんが――悪人は善い事をしても良いらしいですよ?大人からの忠告です♪」
勝鬨と同じように苦笑し、その場を離れるホンフー達、一方で勝鬨はコナミに向き直り、真剣な面差しをする。
「コナミ、自分は1度、梁山泊塾に戻り、今までの自分と決別しようと思う」
「……そうか、助けは必要か?」
「いや、大丈夫だ。塾長は確かに厳しい人だ。だけど自分にとって父親も同然なんだ、だから、お前と見つけたデュエルで、親子水要らずで楽しいデュエルをしたい、塾長にも知って欲しいんだ。デュエルは――」
――楽しいものだと――。
――――――
「いやー、良かったッスねぇ、2人共迷いを振り切ったみたいで、流石兄貴っッスよぉ!」
「格好良かったです!コナミさん!」
時は過ぎ、遊勝塾へ戻る道すがら、暗次とねねはコナミを褒め称えていた。コナミとしてはくすぐったいのか、それでも満更でもないのか、苦笑している。
「看板を取れなかったのは惜しいがな――ん?あれは――」
そんな中、何かに気づいたコナミが早足で駆け、後を2人が追う。その先にあったもの、いたものは。
「……柚子――と、猿?」
倒れ伏し、目を回すポニーテールの少女とデュエルディスクを背に背負った猿であった。
「うぐっ……腹が減った……バレットとははぐれたし……むっ?先生!?何故先生がここに!?まさか自力で起床を!?」
「キッ!?キキー!?」
コナミを視界に収めた途端、ガバリと身を起こし、顔を輝かせ、抱きつく少女と猿。コナミとしては意味が分からず、頭に幾つもの?マークを浮かべてしまう。
「待てっ、柚子、何を」
慌てて少女を引き剥がし、少女を見つめるコナミ。紫色の髪を黄色のリボンで後ろで1括りし、所謂ポニーテールで纏め、赤い上着とスカートを履いた少女。
その顔立ちはコナミの知る少女、柚子と酷似しており、見間違えるのも無理はないだろう。少女は名を間違えられた事に苛立ったのか、ムッと眉を寄せ、発育の良い胸に手を当て、コナミに自慢げな顔を向ける。
「酷いぞ先生!忘れたのか!私は先生の1番の教え子、セレナだ!!」
カチリ、――また、歯車の狂う音がどこかで響いた――。
と言う事で勝鬨君はモンスターと闘うアクションデュエル(物理)に目覚めました。いいよね!別に!(錯乱)
次回は番外編を予定してます。
セレナ……一体何サーの姫なんだ……?