遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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6連勝ボーナスステージ突入。


第36話 あれが未来のデュエルディスク?

この世には――出会ってはならない者がいる。明確に言えば巡り会ってはならない者か。

顔を合わせれば、どちらかが消えるまで存在意義を賭けて争う、生物の枠組みを外れた化物同士の戦争。その決闘――世界と言う箱庭は、余りにも小さい。

 

――――――

 

「――よし、完成だ」

 

「おぉー、カッケェ!」

 

遊勝塾の玄関前にて、7人と1匹の少年少女がある物を囲んで話し合っていた。遊勝塾メンバーである赤帽子とゴーグルを着用し、赤いジャケットをマントのように羽織った少年、コナミ。赤と緑のカラフルな髪にゴーグルを着用し、舞網第2中学の制服を羽織い、カーゴパンツと動きやすい姿をした少年、遊矢。同じく舞網第2中学特有の脇がざっくりと開いた制服を着た少女、柚子。

LDSの一員、黒蜜の髪を流し、アクションデュエルに適した動きやすい衣装に身を包んだ少女、真澄。

二階堂道場の門下生、緑の髪をバンドで止め、鼻に絆創膏耳にピアスをつけ、黒い道着をはだけさせ、さらしを巻いた暗次と茶髪のボブカット、きっちりと道着を着たねね。そして黄色いリボンでポニーテールを結び、コナミと同じように赤いジャケットを着た少女、セレナとその肩に乗っているのは黄色いリボンでデュエルディスクを背に負った小猿、SALだ。

 

「おお!何だコレは!?角が生えてるぞ!角が!」

 

「キー?」

 

セレナが興奮気味にポニーテールを揺らし、目を輝かせ、ぺたぺたとある物に生えた山羊の角のような物に触れる。肩に乗っていたSALも興味があるのか、ある物に飛び乗り、ペシペシと小さな手で叩いている。

 

「バイク……?でも何でデュエルディスクがついてるんだ?」

 

遊矢がカチャカチャとデュエルディスクのパネルを操作するコナミに話しかける。コナミの作成したそれ。と言っても暗次の持つ乗り物を改造したものだ。

黒い重厚なボディを持ちながらも流線状の美しいフォルムを保ったそれ。一般的にバイクと呼ばれる物のようだがハンドル付近にデュエルディスクがついている。

 

「これはD-ホイールだ」

 

「D-ホイール?」

 

前髪をいじりながら真澄がコナミの作ったD-ホイールを覗き込む。成程、デュエルの頭文字を取ってD-ホイールなのか、と納得する。決して大好きブルーノちゃんのDではない。

 

「これに乗って、スピードと一体化したデュエル、ライディングデュエルに命を賭ける者を、人々は5D'sと呼びますん」

 

「どっちだよ」

 

言いながらコナミはD-ホイールに跨がってハンドルを握っては放す。最終チェックをしているのだろう。ふざけた口調とは裏腹にその表情は随分と真剣なものだ。機械をいじる時には真面目なのだろうと柚子は考える。こう言ったデュエルに関した機械には詳しく、並々ならぬ手腕を持つコナミだ。

 

「でも危なくない?」

 

「アクションデュエルもそんなものだろう。それにデュエルに危険なんて付き物だ。……よし、少し街を走ってくる」

 

「夕飯には帰ってきてね」

 

「兄貴!ヘルメット!」

 

「そんなものより帽子の方が頑丈だ」

 

ブロロロロ、とエンジン音を響かせて走り去るコナミ。一体どんな素材で作られてんだよ。と暗次はコナミの帽子について考えながらその背を見送る。

コナミの背が見えなくなった所で6人は遊勝塾の中へと入っていく。と、ここで不意に真澄が柚子とセレナに視線を移す。

 

「……そう言えばあんた達、本当に似てるわね」

 

「む?真澄んも良く見れば遊矢と似ているな」

 

セレナが遊矢と真澄の顔を交互に見ながら答える。確かに目などは似ている。遊矢が中性的な顔つきをしている事もあるか。

 

「でも突然どうした?」

 

「……うーん、何て言うか、昨日夢を見たのよ」

 

「夢?どんな?」

 

うーん、と頭を抱え、目を閉じる真澄。一体どのような夢なのだろうか。皆が興味を示し真澄の顔を覗き込む。一拍の呼吸を置いた後、真澄は神妙な顔つきになり、それを言う。

 

「コナミに似ている奴に襲われる夢」

 

――――――

 

一方、D-ホイールの試運転に出かけたコナミは舞網市を外周していた。位置的には湾岸エリアに属するか。

目の保護の為に何時もは帽子の上にあるゴーグルも今は装着し、バサバサと赤いジャケットを風に靡かせている。

 

「……この街に来てからそんなに経っていないと言うのに……色々な事があったな」

 

フッ、と独りごち、薄い笑みを浮かべる。思い返せば色々な人と会い、色々な事をして、今の自分があるのだろうと苦笑する。

始まりはあの倉庫だったか。何時の間にかあそこで寝ていたんだよな。と倉庫があるであろう方角に思いを馳せる。

 

柚子と出会い、沢渡とデュエルをして、遊勝塾に入って――赤馬 零児と対決し、遊矢と誓い合った。チャンピオンシップに出場する為に荒っぽい事もした。

暗次やねね、刃、不器用な彼等のすれ違いを直す為にデュエルしたり――勝鬨と天月、好きなものを楽しいと感じられない彼等と楽しい事を掴み取って。真澄とマルコの師弟の形を見て。柚子の覚悟を試したり、北斗のスランプを脱出したり。日影と月影と闘い、新しいデュエリストやカードとの出会いに焦がれた。

 

「……ククッ、こんなにも充実しているのは何時ぶりだろうな……」

 

太陽が輝く、晴れた青空を仰ぎ見る。楽しい、そう、楽しいのだ。学生時代のような波乱に満ちた青春のように。スピードの世界で未来を開いた時のように。未知のカードを求め、挑戦し続いた頃みたいに。あの頃の相棒は何をしているだろうか、なんてニヤケながら。

 

「……もう、1人じゃない」

 

ギュッ、とハンドルを握り締める。不安を隠すかのように、固く、固く。前を見据えて、安心する。もう、あの■■た■■じゃない。

■い、■の■■ない、■■■■だけのあの頃とは違う。も■■ても、■■いても■も■■時とは違う。

 

「……そうだ。もう、あんな事はない。奴が言っていたじゃないか……」

 

唇を噛み締める。恐怖を忘れ去ろうとするように、きつく、きつく。不意に声が漏れる。それは――無意識に近かった。

 

「――待て……“奴”って、誰だ――?」

 

頭の中で、ノイズがかかる。モザイクがかかる。思い出せない。待て、そもそも何故気づけなかった。おかしいと思わなかった。何時も通りとは言え、あの倉庫にいた事を。自分は何をしていた、あの倉庫で寝ている前に。

 

「……思い……出せない……!」

 

何とも歯痒い。それだけではない。おかしい点はまだある。ガリガリと帽子の上から頭を掻き、口を真一文字に結ぶ。

 

「――オレは――“オレ”か――?」

 

何故、今まで気づけなかったのだろう。自分の間抜けさに嫌が差す。そうだ。確かに“オレ”は“オレ”であるのかもしれない。だが――果たして、自分は、“コナミ”なのか――?

 

「善悪の区別もある。喜怒哀楽も示せる。だが――“コナミ”は――」

 

――相変わらずお前は■■だな――

 

「ッ!?」

 

相棒達の声が脳裏に響く。まるで電流が走ったかのような衝撃に機体をふらつかせてしまう。気づいてしまった。自分が“コナミ”であって、“コナミ”ではない事に。

思い出した。■■であった理由も、■■■■■しない訳も。ついでに■■なのも。

 

「だが何故、“オレ”になった――?」

 

はぁ、と溜め息を溢す。思い出したのはあくまで“コナミ”の事のみ。基本的な事だけだ。肝心の部分が靄がかかったように、鍵をつけられたかのようになっている。どうにも気持ちが悪い。

 

「……ペンデュラム……」

 

ジッ、と視線をD-ホイールのハンドル部分と連結したデュエルディスク、その中のデッキへと移す。関係あるとしたらこれ位か。コナミも知らなかった未知の力。そして――。

 

「……『オッドアイズ』……か」

 

コナミにも分からない力を持つ、竜のカード。

 

「……はぁ……考えても仕方無いか……」

 

今日は溜め息ばかり溢れる。別段支障は無い訳だし、このままでも問題ない。デュエル、そう、デュエルが出来ればそれで構わない。新たなカードとの出会いがあればそれで良い。

 

「……いずれ分かるさ、いずれな」

 

思い出せないなら気にせず、放っておこう。何かの拍子に思い出すその日が来るまで。それまで今の暖かい日々に身を預けたままで良いのだろう。存外、コナミは今の日常を気に入っている。

 

「フフ……あの時のアイツもこんな気分だったのかもな……」

 

何もない虚空へと呟く。茶目っ気があるのに冷静で、仲間なのに敵だった二律背反な彼。今頃彼は何をしているのだろう。いや、野暮はよそう。デュエルを続けているなら、何時かきっと、何処かで会える。

 

「……ふむ。そう言えば良いエネルギー源はフォーチュンがあったか」

 

と、思い返す。このD-ホイールのエネルギーはモーメントではなくコナミの力を使っている。金はかからないしエコなのだがこれでは定期的にエネルギーを供給しなければいけないし、コナミ以外には使えない。後で変えておくべきだろう。

 

「……後はそう、飛行機能が欲しいな。これでは物足りない」

 

何やらどんどんおかしな方向に進んでいるが大丈夫なのだろうか?

 

「余り馬力が強すぎるとまた封印するし、連結した時ぶっ壊してしまうからな」

 

あの時は良かれと思って!封印を解いて協力したのだが結果的に悪い事をしてしまったな。と反省する。パワーが弱いのも、強すぎるのも困る。悩みものだ。

だが完成すればアクションデュエルにも使えるかもしれない。何しろ刃の竹刀がOKなのだ。未来のデュエルディスク位大丈夫やろ。と楽観的に考える。

 

「そうすると昔作ったD-ホイールが欲しくなるな。設計図でも良いんだが……ノリで色々機能増やしたからな」

 

飛行機能は勿論、潜水機能、レーザー発射やステルス、ドリルやらびっくりどっきりメカ、変型してロボ形態からのロケットパンチ、キャストオフにクロックアップと思い出せるだけの機能を頭の中で並べる。

何やら違和感が半端ないが全てD-ホイールの機能である。しゅごい。

 

「ドリルとロボ形態からのロケットパンチだけは何としてもつけておきたい所だ」

 

職人としてのこだわりがある。帽子の奥の瞳を輝かせ不敵に笑う。あれもこれもやりたい事を全部詰め込みたくなってしまうのはデッキを作る時も同じだ。

 

「デッキもチャンピオンシップまでには調整しておくか……40枚には絞り込みたいが……」

 

考え出すと止まらない。今から帰って思いつく限りの事をやりたくなる。時間が幾らあっても足りない。

毎日に色々な変化があって、飽きる事さえ許してくれない。充実した毎日、この先の未来に期待せずにはいられない。

 

「ん?何時の間にかこんな所まで来ていたのか……」

 

ハッ、と我に返って辺りを見渡す。海がすぐ側にあり、周りには複数のコンテナや倉庫、コナミが寝ていた場所だ。しかしどうにも違和感がある。前に見た時は目の前に白い壁など無かった筈だが。

 

「……待て、これは……壁か?」

 

「――俺のD-ホイールに、何の用だ――?」

 

「ッ!?」

 

不意に、声が降りかかる。恐ろしいまでに透明感のある、聞き慣れたその声に、コナミはまるで心臓を握り締められたかのような錯覚に陥る。

バクバクと鳴り響く鼓動。全身を焦がすように血流が早くなる。身体が熱い。対照的に冷たい汗を額から流しながら、コナミは焦点の定まらぬ瞳で、目の前を見上げる。ぼやけた視界に写るは真っ白な壁、いや、違う。これは――。

 

「……D-ホ……イール……」

 

それもとてつもなく巨大な、まるで戦闘機のような形の。白とライトグリーンを基調とし、先端が左右に分かれた独特の形状。それなのにコナミがこの機体がD-ホイールだと理解できたのは――見慣れて、いるから。

 

「……封印、した筈だが……」

 

何故これがここに、今だにぼやけた視界を更に上へと移す。慎重に、数ミリずつ。その度に胸が張り裂けそうな位に鼓動が早まる。それでも、抗うようにコナミはそれを視界におさめる。

太陽を背後にした人。ぼやけた視界と陽光が認識しようとするコナミの意志に邪魔をする。まるで、拒絶するように。

 

「――ほう――」

 

人より興味を含んだような声音が響く。やはりそれは聞き慣れた声――。“自分の声”だ。そう、そこに、コナミの前にいたのは――。

 

「――初めまして、コナミ」

 

それはどちらが言ったのか。白い帽子、白いジャケット、首からアクセサリーを下げ、穴空きグローブを着用した、その青年は――。コナミと、同じ姿を、していた。

 

「……」

 

コナミの開いた口が白いコナミを認識すると同時に、形を変えていく。口端が持ち上げられ、渇いた声にならぬ声が漏れていく。互いに言葉は無く、両者は白と黒のD-ホイールのハンドルを握る。そう言えば――。

 

「「ライディングデュエル……」」

 

自分と闘った事は――無かったな――。

 

「「アクセラレーションッ!!」」

 




デュエル無し回(ライディングデュエルをしないとは言ってない)。
漸くここまで来た感じ。元々コナミ君を入れたARC-Vを書こうと思って全体的なプロットを練ってたんですが、でもそうするとコナミ君が無双しちゃうし緊張感無いから敵にもコナミ君を使いました。……あれ?結局無双やん?

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