遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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書いてて楽しいカードはドクロバット・ジョーカー。毎回どんな手品にしようかと頭をひねりますがそれも楽しいので。次点でDDD覇龍王ペンドラゴン。これは何となく。何でだろ?最下位はバオッキーです。




第43話 ミルクでも貰おうか

「飲み物、何が良い?」

 

「ミルクでも貰おうか」

 

スタジアム外の整備された空間。遊矢とユートはベンチに座り込み話していた。話をするに当たってユートが場所を移したいと切り出したのだ。

遊矢は飲み物が必要だと思い、自動販売機に200円を投入し、自分のお気に入りのスポーツドリンクと牛乳パックのボタンを押し、取り出し口の牛乳を拾ってユートへと渡す。

 

「ありがとう」

 

「いいさ、再会出来た記念に乾杯ってね」

 

「……フッ、そうだな」

 

ニカッと爽やかな笑みを向ける遊矢に頬を緩めるユート。案外気配りが出来、茶目っ気もある少年だ。自分の周りのバカにも見習って欲しいな。と考える。

どうしてこう周りの事を考えず、話を聞かずに進んでいくのか、常々彼等には頭を悩まされている。

 

「それで、話って何?俺に出来る事なら協力するけど」

 

悟い。ユートは少しばかり驚く。まだ何も話し込んで無いのに、詳しい事は分かってないのだろうが“そう言う話”と気づいているのだろう。

実際、遊矢は昔から他人の顔色を見て来た為、表情を見ただけで察し、気遣いが出来る少年だ。大雑把に言うと空気を読む事には長けている。

 

「……そうだな、単刀直入に言おうか」

 

余り遊矢の時間を取るのも気が引ける。遊矢は選手としてのこの大会に出場しているのだ。ユートは立ち上がり、決心した表情で切り出す。

 

「遊矢。俺とデュエルして欲しい」

 

――-―――

 

「ここで良いか……始めようか、遊矢」

 

「本当にやるのか?」

 

少しばかり歩き、2人は立派な時計台のある広場へと来ていた。チャンピオンシップを見に行っているのか、人っ子1人いない。

デュエルをするには丁度良い。ユートは爪先で煉瓦を軽く叩きながらデュエルディスクを構える。

 

「ああ、君の実力を見てみたい」

 

「……分かった。試合まで時間はあるし、良いよ、やろう。デュエルを挑まれたら断れないしね」

 

そう言って遊矢もデュエルディスクを構える。準備は万端。2人は互いに闘志を燃やし、デュエルへ臨もうとする――その、時だった。

頭上の時計台より影が差し込み、その男が姿を見せたのは。

 

「面白そうだね、僕も混ぜてよ。ユート」

 

その場に介入する第3者の声。無邪気な笑みを掲げ、時計台より降り立つ少年。思わずハッとなり彼へと振り向く。

天に逆立つような銀髪に緑のメッシュ、細身の身体に緑のジャケットとブーツ、そう、その男は、ユートにとっての因縁の相手――八雲 興司。

 

「八雲……!」

 

「やぁ、ユート。元気そうで何よりだ」

 

「……知り合いか?」

 

「……敵だ」

 

遊矢が神妙な顔つきでユートに問いかける。それに対してユートは厳しい表情を保ったまま答える。

どうやら何か複雑な事情があるのだろう、遊矢はその答えに黙り込む。当の八雲は肩をすくめ、おどけた態度で苦笑いし流暢に喋り出す。

 

「冷たいなぁ、友達じゃないか」

 

「よくもぬけぬけと……!」

 

何とも不快感を拭えない言葉遣いと態度だ。ヘラヘラと笑いながらも微量の闘気が溢れている。そのチグハグな様子に遊矢は思わず顔を険しくする。

一体何者なのか、何が目的なのか、遊矢はその秀でた観察眼でじっくりと八雲を見る。と、そこで――目が合った――。

遊矢の事を視界におさめた途端に八雲は目を大きく見開いてニヤリと醜悪な笑みを浮かべ、眼前まで近づく。

 

「っ、遊矢!」

 

「君が遊矢、ねぇ……うん、確かに彼の言った通り、ユートやユーリに良く似ている」

 

「ユー……リ……?」

 

何処かで聞いた事があるような――遊矢がそう思った瞬間、八雲はタンッ、と後ろに飛んで距離を取り、その左腕にデュエルディスクをセットし、ディスクから伸びるソリッドビジョンのリングが巻きつく。そして左腕を振るうと共にソリッドビジョンで作られた光のプレートを出現させ、構える。

 

「遊矢、デュエルをしようか」

 

「え――?」

 

「待て八雲!彼を巻き込むな!デュエルなら俺が相手になる!」

 

「はは、混ぜてって言っただろう?当然君の相手もしてやるよ。あ、後」

 

ビュンッ、八雲のデュエルディスクより蜘蛛の糸のようなワイヤーが2本伸び、遊矢とユートのデュエルディスクへと絡みつく。

突然の事に驚き、ブンブンとディスクを嵌めた腕を振る遊矢だが見た目以上に頑丈なようだ。千切れない処かうんともすんとも言わない。

仕掛けた八雲は目を皿のように細め、その口元に弧を描く。

 

「君達2人に拒否権は無いよ」

 

「……!どう言うつもりだ……!」

 

「面倒だからね。2人纏めてデュエルだ。ルールはバトルロイヤル、その方が面白そうだ」

 

「いいよユート」

 

「遊矢……!?」

 

意外にも、闘志を剥き出しにして即答したのは遊矢だ。彼は状況が分かっているのかいないのか、目を吊り上げてニンマリと笑う。

その身を乗り出すような様子にユートは動揺して遊矢の名を呼ぶ。

 

「良く分からないけど、挑まれたデュエルは断れないって言ったろ?どんなデュエルでも、俺は逃げないよ」

 

「……分かった。すまないな遊矢、巻き込む形になって」

 

「最初からデュエルはする予定だったんだ。1人増えただけだろ?それにショーを見せるんだったら観客は多い方が良いってね」

 

堂々とディスクを構える遊矢を見てユートは苦笑する。どうやら彼も親友と同じデュエルバカらしい。早くデュエルしたいとウズウズしているのが見てとれる。

だからこそ――心がズキリと痛む。そんな彼を巻き込みたく無かった。だがこうなっては仕方無い。ユートもディスクを構え、眼前の八雲を射抜くように睨む。

どうやら相手も待っていたようだ。悠々とディスクを構えて此方を伺っている。

 

「準備は出来たようだね。それじゃあ――」

 

斯くして――決闘の火蓋が、切って下ろされる。

 

「「「デュエル!!」」」

 

3人は互いにデッキより5枚のカードを引き抜く。バトルロイヤルルールではどのプレイヤーも最初は攻撃が不可能な為、出来る事は限られる。

それでも、先攻は有利だ。それを取った八雲はニヤリと笑い、1枚のカードをディスクへ置く。

 

「僕は魔法カード、『手札抹殺』を発動。全てのプレイヤーは手札を捨て、その数だけドローする」

 

新たに引かれた4枚のカード。遊矢達もいきなりの『手札抹殺』に警戒しながらも手札を交換する。特にユートに対してはこのカードを安易に使用する事は危険だが――八雲が知らない筈がない。何のつもりだとユートは眉を寄せる。

 

「よい手札だ。僕は『コアキメイル・ビートル』を召喚」

 

コアキメイル・ビートル 攻撃力1900

 

現れたのは鋼核をその身に宿したカブトムシだ。巨大な角を持つ甲虫の姿を見てユートの顔が歪む。

彼のデッキにとっては厄介なモンスターだ。八雲もユートの苦虫を噛み潰したかのような表情を見て口端を吊り上げる。

 

「どうしたんだいユート?あぁそっかぁ、君のデッキは闇属性モンスター中心だっけぇ。ビートルがいると君のモンスターは守備表示になっちゃうねぇ」

 

「良く言う……!」

 

「そう睨むなよ。僕は永続魔法、『大樹海』発動。カードを1枚セットしてターンエンド。そしてこの時、『コアキメイル・ビートル』を維持するコストとして、手札の昆虫族モンスター1体を公開する。良い手札は自慢したくなっちゃうねぇ」

 

そう言って八雲は残る1枚の手札を翳し、ユートに見せびらかすように公開する。確かに昆虫族モンスター、しかしそのカードを見た瞬間、またもユートが歯軋りをする。

何故ならそのカードも、ユートの動きを封じるカードだったからだ。

 

「『飛翔するG』」

 

「君のターン、君はレベル3の『幻影騎士団』と特殊召喚可能なサイレントブーツを揃え、ランク3のブレイクソードをエクシーズ召喚するつもりだったんだろう?例え守備表示になってもブレイクソードはORUを1つ取り除いて互いのカードを破壊する効果を持つ。ブレイクソードとビートルを破壊、ブレイクソードの第2の効果によって2体のレベル4となった『幻影騎士団』でダーク・リベリオンを出すって所かな?友達相手にそのガチッぷりは引いちゃうなぁ」

 

クックッと笑いながらユートを煽る八雲。完全に自分の手を読んだ戦法にユートはどうすれば良いのかと自分の手札を見て考え込む。

特殊召喚した光と闇属性モンスターを守備表示にする『コアキメイル・ビートル』に此方が召喚した時にユートのフィールドに送り込まれるだろうエクシーズ召喚を封じ込める『飛翔するG』。2段構えの手、ユートのデッキでは対応は難しい。

 

八雲 興司 LP4000

フィールド『コアキメイル・ビートル』(攻撃表示)

『大樹海』セット1

手札1

 

八雲のターンが終了し、遊矢へと渡る。何やら2人の間には並々ならぬ確執があるようだ。友達ならば何とか取り持ちたいが……こうも事情が分からないと。

仕方無い、ここは何時も通り、自分らしくデュエルを楽しもうと意気込む。

 

「俺のターン、ドロー!ユート、俺の力を見せてやるぜ!俺は手札を1枚捨て、魔法カード、『ペンデュラム・コール』を発動!デッキから2体の『魔術師』ペンデュラムモンスターを手札に加える!時読みと星読みを手札に!」

 

「ペンデュラム……!?」

 

遊矢が発動したのはコナミから貰ったカードの1枚。その効果により彼にとっての始まりのペンデュラムモンスターをその手に掴む。

一方のユートは遊矢が手札に加えた聞き慣れぬペンデュラムに驚愕とデュエリストとしての興味の視線を送る。一体どんな戦術を披露するのか、八雲もその身を乗り出す。

 

「俺はスケール8の『時読みの魔術師』とスケール1の『星読みの魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!これでレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」

 

黒と白、2体の『魔術師』を包んだ光の柱が遊矢のフィールドから天に向かって伸びていく。更に空に光の線が結ばれていき、魔方陣と振り子が揺れる。その派手で華やかな演出は2人の度肝を抜く。

だが遊矢のデュエルはここからが本番、ペンデュラムの使い手は右手を魔方陣へと翳す。

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け光のアーク!ペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMギッタンバッタ』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMギッタンバッタ 守備力1200

 

遊矢のフィールドに2本の光が降り立ち、光の粉を散らしてその姿を見せる。1体は上級モンスターである王冠を被り、マントを靡かせた王者の気風を感じさせる大熊。もう1体は2つの顔を持つバッタだ。

 

「これがペンデュラム……!」

 

「……ふぅん、これが彼の言っていたペンデュラムか……面白いね……!」

 

「へへっ!まだまだショーは始まったばかり、俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(攻撃表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)

セット1

Pゾーン『時読みの魔術師』『星読みの魔術師』

手札1

 

「俺のターン、ドロー!」

 

ターンプレイヤーがユートへと渡る。エクシーズ召喚に繋げたい所だが八雲は『飛翔するG』を握っている。『コアキメイル・ビートル』だけなら何とかなったが……ニヤニヤと笑みと共に1枚の手札をチラチラ見せつける顔にグーで殴りたい気持ちを沈め、深呼吸をする。

やれる事をやるしかない。決心をし、行動を開始する。

 

「俺は墓地の『幻影剣』を除外し、墓地の『幻影騎士団ダスティローブ』を特殊召喚」

 

幻影騎士団ダスティローブ 守備力1000

 

「相手がモンスターの召喚、特殊召喚に成功した時、手札の『飛翔するG』をユートのフィールドに守備表示で特殊召喚する!ランク3を作るんだろ?手伝ってあげるよ、出来るものならね」

 

飛翔するG 守備力700

 

現れたる司祭のローブを纏った浮遊霊とぶんぶんカサカサと飛び回り、ダスティローブにピタリと止まる黒光りする虫。確かにレベル3だがこのモンスターがいる限りエクシーズ召喚が出来ない。一体どうすれば良い、そう考えた時。

 

「罠発動!『EMショーダウン』!自分フィールド上の表側表示の魔法の数まで相手フィールド上のモンスターを裏側守備表示にする!ペンデュラムカードはペンデュラムゾーンに存在する時、魔法として扱う!よって俺は八雲の『コアキメイル・ビートル』とユートのフィールドの『飛翔するG』の2枚を裏側守備表示にする!」

 

パタン、と音を立ててカブトムシとGが裏返る。その正体は遊矢の発動した1枚のカード。バトルロイヤルルールである以上3人は互いにとって相手として扱う。今回遊矢はそれを逆に利用したのだ。

突然のフォローにユートは思わず遊矢へと視線を送る。そこには「やってやったぜ」とウインクする遊矢。ありがたい手助け、タクティクス性の高いプレイングにユートは舌を巻く。

 

「残念ながら八雲!お前の茶番は幕を閉じたようだな!ここから先は俺のショーだ!自分フィールド上に『幻影騎士団』モンスターが存在する場合、手札の『幻影騎士団サイレントブーツ』は特殊召喚出来る!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

これでユートのフィールドには司祭を思わせるローブを纏った浮遊霊とボロボロの衣装を纏い、ブーツより雷を放つ戦士の魂が揃った。どちらもレベル3、今度は遊矢にユートの力を見せる時だろう。

 

「ペンデュラム召喚を見せて貰った礼だ、遊矢!君に本場のエクシーズ召喚を見せよう!」

 

「本場……?」

 

「行くぞ!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!戦場に倒れし騎士達の魂よ。今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ!『幻影騎士団ブレイクソード』!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

2つの戦士の魂が共鳴し、戦場に新たな騎士が駆け抜ける。黒鉄の黒馬と一体化した下半身、漆黒の鎧を纏い、首の無い隙間より青白い炎が燃え上がる上半身、そして右手に持ったその名の由来となった壊れた剣が鏡面のような妖しい輝きを放っている。

まるでその姿は空想上の死神、デュラハンだ。

 

「ブレイクソードのORUを1つ取り除き、俺のフィールドにセットされている『飛翔するG』と八雲のフィールドにセットされた『コアキメイル・ビートル』を対象として効果発動!対象としたカードを破壊する!セット状態で効果破壊する為、『大樹海』の効果はチェーン出来ない!」

 

ブレイクソードの周囲で回転するORUと『飛翔するG』が弾け、光となってその剣に集まり、元の形を取り戻す。

そしてブレイクソードは斬撃と共に戻った刃を飛ばし、『コアキメイル・ビートル』を切り裂く。

 

「クッ……!『大樹海』の効果を発動させない事まで見透かせてセット状態にしたのなら大したものだね……!」

 

(……知らなかった事は黙ってよう……)

 

「フッ、全くだ。遊矢、大した奴だよ君は」

 

「お、お褒めに預かり光栄です」

 

何やら遊矢の評価が勝手に上がっているが態々茶々を入れる事は無いだろう。彼は空気の読める男だ。エンタメ時の口調で恭しく礼をする。

 

「俺は『クリバンデッド』を召喚、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「おっと、『クリバンデッド』をリリースする前に罠発動!『裁きの天秤』!相手フィールドのカードと僕のフィールドと手札の差分ドローする!この場合相手は君達2人!よって合計の6枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→6

 

「っ、このエンドフェイズ、『クリバンデッド』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、その中から魔法、罠を1枚手札に加える。『ダーク・バースト』を手札に、それ以外を墓地へ」

 

八雲もバトルロイヤルルールを利用しての大量ドローをし、0枚の手札が初期値の5枚を越える。そのとんでもないプレイングに2人は目を見開く。

 

そしてユートの操る『幻影騎士団』は墓地から除外し、様々なアドバンテージを稼ぐカテゴリだ。

デュエルモンスターズにおいて墓地は第2の手札と言われる事があるがユートのデッキに関しては墓地が第1の手札とも言っていい。八雲の発動した『手札抹殺』や今発動した『クリバンデッド』の効果で大量の手札を手にした。

 

この事を警戒して八雲はメタとなるカードを投入したのだが……それは遊矢によって防がれた。しかし八雲も負けてはいない。

 

ユートLP4000

フィールド『幻影騎士団ブレイクソード』(攻撃表示)

セット2

手札3

 

「僕のターン、ドロー!僕は『電子光虫―センチビット』を召喚!」

 

電子光虫センチビット 攻撃力1500

 

八雲のフィールドに現れたのは基盤を繋げた機械のムカデ。漸く登場した八雲本来のモンスターにユートはデュエルディスクを構え直す。

 

「更に昆虫族モンスターがフィールドに存在する事で手札から『夢蝉スイミンミン』を特殊召喚!」

 

夢蝉スイミンミン 攻撃力300

 

「スイミンミンがこの効果で特殊召喚した時、自分フィールドの昆虫族モンスターを守備表示にする。センチビットを守備表示にし、センチビット自身の効果発動!このカードが攻撃表示から守備表示になった時、デッキからレベル3、光属性の昆虫族モンスター、『電子光虫―ウェブソルダー』を特殊召喚!」

 

現れるのは眠りに誘う唄を歌う捻れた角を持つ蝉と蜘蛛型のウイルス。次々と現れる虫達、その大量展開にペンデュラムの使い手である遊矢も目を見開く。

 

「まだまだこんなもんじゃないよ。スイミンミンを対象としてウェブソルダーの効果発動!スイミンミンを守備表示に変更し、手札の『電子光虫―コクーンデンサ』を特殊召喚!」

 

電子光虫―コクーンデンサ 守備力2000

 

次なる電子光虫はコンデンサの繭だ。これで4体のレベル3モンスターが出揃った。エクシーズ召喚の準備は万端、八雲は天に右腕を翳す。

 

「僕はスイミンミン以外の3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!『電子光虫―スカラジエータ』!」

 

電子光虫―スカラジエータ 攻撃力1800

 

3体の電子光虫が突如発生した星の渦に呑み込まれ、爆発を起こす。閃光が晴れたそこには放熱装置である輪を回す緑のスカラベ。

 

「ウェブソルダーを素材としてエクシーズ召喚に成功した場合、相手フィールドの表側表示のモンスターは全て守備力が0となり、守備表示になる!」

 

EMキングベアー 守備力1000→0

 

EMギッタンバッタ 守備力1200→0

 

幻影騎士団ブレイクソード 守備力1000→0

 

「バトルだ!スカラジエータでブレイクソードを攻撃!」

 

「罠発動……出来ない……!?」

 

「コクーンデンサを素材としてエクシーズ召喚したモンスターが守備表示のモンスターに攻撃する場合、君達はダメージステップ終了時まで魔法、罠、モンスター効果は発動できず、センチビットを素材としている場合、このカードは全ての守備モンスターに1回ずつ攻撃出来る!」

 

「何だって!?」

 

「ブレイクソードはダメージステップ中にその効果を発動する。残念だったねぇユート」

 

ニヤニヤと見下すようにユートを煽る八雲。これではブレイクソードで素材を展開し、壁や次のエクシーズをする事も許されない。厄介なものだ。

 

「さぁスカラジエータ!残るモンスターも破壊しろ!」

 

「ギッタンバッタは特殊召喚された場合、破壊されない!」

 

スカラジエータの力によりユートのモンスターゾーンががら空きとなる。強力な表示形式を操るカードと全体攻撃、そして効果を封じる効果。恐ろしいものだ。

 

「僕はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

八雲興司 LP4000

フィールド『電子光虫―スカラジエータ』(攻撃表示)『夢蝉スイミンミン』(守備表示)

『大樹海』セット2

手札2

 

「俺のターン、ドロー!2人を相手にこの強さ……面白いじゃないか!」

 

「遊矢……?」

 

2人のデュエリストを相手に優勢に立つ八雲のデュエルタクティクスを味わっても尚、その笑みを崩さず、むしろ深める遊矢。

その能天気さにユートは何を言っているんだと眉をひそめる。

 

「俺は既にセッティング済みのスケールでペンデュラム召喚!『EMキングベアー』!『EMペンデュラム・マジシャン』!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200

 

EMペンデュラム・マジシャン 攻撃力1500

 

「これは……破壊されたペンデュラムモンスター……!?」

 

「ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地に送られる場合、エクストラデッキへと送られる!そしてエクストラデッキのモンスターもペンデュラム召喚出来るのさ!さぁ行くぜ!ペンデュラム召喚された『ペンデュラム・マジシャン』の効果発動!ペンデュラムゾーンの星読みと時読みを破壊し、デッキより『EMギタートル』と『EMドクロバット・ジョーカー』を手札に加える!そして手札に加えたドクロバット・ジョーカーを召喚!」

 

ドクロバット・ジョーカー 攻撃力1800

 

遊矢のフィールドにサーカスの劇団のように次々とモンスターが現れる。大熊とバッタ、マジシャンに奇術師と色とりどりの団員がデュエルを盛り上げる。

 

「ドクロバット・ジョーカーが召喚に成功した時、デッキから『EMリザードロー』を手札に加える!」

 

フィールドに躍り出るドクロバット・ジョーカーがニヤリと笑い、自分の影へと手を伸ばす。

ズブリ、まるで水面に手を突っ込んだかのように波紋が波立ち、引き抜いたその手にはジタバタと尻尾を握られもがくリザードロー。ドクロバット・ジョーカーはリザードローを手に持ったトランプに無理矢理押し込んでそのカードを主へと投げる。

随分とコミカルでシュールな光景である。カードを受け取った遊矢も苦笑する。

 

「『EMギタートル』と『EMリザードロー』でペンデュラムスケールをセッティング!ギタートルのペンデュラム効果で1枚ドロー!リザードローの効果でこのカードを破壊し、更にドロー!」

 

榊 遊矢 手札1→3

 

次々と発動する『EM』の効果。それによって遊矢のフィールドと手札が騒がしくなっていく。

 

「さぁ、バトルだ!キングベアーでスカラジエータを攻撃!キングベアーの攻撃力はバトルフェイズの間、自分フィールド上の『EM』カード×100アップする!」

 

EMキングベアー 攻撃力2200→2700

 

「通さないよ。スカラジエータのORUを2つ取り除き、キングベアーを守備表示に変更する!」

 

「ならドクロバット・ジョーカーで攻撃!」

 

相討ち狙い、いや、ペンデュラムモンスターはエクストラデッキに送られ、何度でも舞い戻る為、一概にはそう言えないだろう。

 

「『ペンデュラム・マジシャン』でスイミンミンを攻撃!」

 

「『大樹海』の効果で『電子光虫―コクーンデンサ』を手札に加える!」

 

「俺は『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をペンデュラムゾーンへセット。カードを1枚セットしてターンエンド。この時、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊してデッキより『EMドラネコ』を手札に加える」

 

榊 遊矢 LP4000

フィールド『EMキングベアー』(守備表示)『EMギッタンバッタ』(守備表示)『EMペンデュラム・マジシャン』(攻撃表示)『EMドクロバット・ジョーカー』(攻撃表示)

セット1

Pゾーン『EMドラネコ』

手札2

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、僕は『増殖するG』を捨てる」

 

「そう来るか、俺は『幻影騎士団クラックヘルム』を召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

「墓地の『幻影翼』を除外し、墓地の『幻影騎士団フラジャイルアーマー』を特殊召喚する!」

 

幻影騎士団フラジャイルアーマー 守備力2000

 

八雲 興司 手札2→3

 

ユートのフィールドに揃う兜と手のみのモンスターと鎧のみのモンスター。どちらもレベル4で狙いすましたかのような組み合わせだ。

 

「更に墓地の『幻影騎士団ダスティローブ』を除外し、デッキより『幻影霧剣』を手札に!そして永続罠、『闇次元の解放』によってダスティローブを特殊召喚!」

 

幻影騎士団ダスティローブ 攻撃力800

 

八雲 興司 手札3→4

 

「魔法発動!『ダーク・バースト』!墓地のサイレントブーツを回収し、特殊召喚!」

 

幻影騎士団サイレントブーツ 守備力1200

 

八雲 興司 手札4→5

 

これでユートのフィールドにはレベル3とレベル4が2体ずつ揃った。一気に勝負を決める。そう意気込み、ユートは自らの背後に星空を出現させる。

呼び出すのは自らのエース、自身の分身。反逆の黒竜。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!」

 

星の渦より濃密な霧が広がっていく。その中で巨大で滑らかな尾が振るわれ、鋭い翼が羽ばたいて霧を晴らす。

荒々しき反逆の雄叫びを上げる黒き竜の登場にユートと遊矢の血流が駆け、鼓動が跳ねる。まるで竜と2人が、共鳴するように。

 

「ッ!エクシーズ召喚!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』ッ!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

八雲 興司 手札5→6

 

紫の体躯からバチバチと赤き雷をスパークさせ、刃物のような独特の形状をした両翼、角、腕、尾を唸らせる竜。アギトより見るものを吸い込みそうな妖しい輝きを放ち、解き放たれた竜は天に向かって咆哮する。

 

大気が震える程のそれは遊矢とユートの心の臓を焦がすような、何か超常の力を纏っている。

 

「ダーク・リベリオン……!これを待っていた……!」

 

「あ……ぐぅ……!?この、竜は……!?」

 

「俺、は……っ、ダーク・リベリオンを対象とし、ダスティローブの効果発動……!ダスティローブを守備表示に変更し、ダーク・リベリオンの攻撃力を……800アップする!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→3300

 

「更に……2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!2体目のブレイクソードッ!」

 

幻影騎士団ブレイクソード 攻撃力2000

 

八雲 興司 手札6→7

 

「ブレイクソードのORUを1つ取り除き、『闇次元の解放』と左のセットカードを破壊する!」

 

「こっちを選んじゃうかぁ、運が悪いねぇ。罠発動!『進入禁止!No Entry!!』。攻撃表示のモンスターを守備表示に!友達だろうと線は引かないとね。デリカシー無いなぁ、ユートは」

 

突如現れた幾つものテープが2人のモンスターを縛りつけ、無理矢理に叩き伏せる。フリーチェーンの上に彼の戦術に合った優秀なカードだ。

蜘蛛の巣のように動きを封じるカードと八雲の芝居がかった口調がユートの神経を逆撫でる。逆鱗に触れられているのにその牙は未だ届かない。

 

「くっ……!俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「あ、もう一方のカードも教えて上げるよ。罠発動、『デビル・コメディアン』。どっちにしろフリーチェーンのカードだねぇ」

 

「なっ!そのカードは!?外れればどうなるか分かっているのか!?」

 

八雲の発動した罠カード、『デビル・コメディアン』。それはタロット……では無く、コイントスをし、当たれば相手の墓地のカードを全て除外すると言うユートの『幻影騎士団』にとっては天敵とも言えるカード。

だが外れれば相手の墓地の枚数分、自分のデッキを墓地へ送る何処かの裏の流儀がデッキを撒き散らしそうなカードだ。ハズレの場合も大量に墓地を肥やせる可能性があるものの、ユートのデッキは逆に言えば大量のカードを墓地に送るデッキ。

諸刃の剣である。しかもこのデュエルはバトルロイヤルルール、遊矢も相手として扱うのだ。正気の沙汰とは思えない。

 

「当てれば良いんだよ。例え確立半々でも、50%で君が嫌な思いをするなら僕は躊躇わない。あ、表を宣言するねー」

 

「動機は不純だけどエンタメってるなぁ」

 

『デビル・コメディアン』のカードよりソリッドビジョンのコインが出現し、弾かれて宙を舞う。重力によって落下したコインはカラカラと回り、パタンと音を立てて倒れる。結果は――表。

 

「ははっ!これで君達の墓地は全て除外される!1から頑張ってねユート!」

 

2人の墓地のカードが全て失われる。こんな事ならダスティローブ等の効果を発動すべきだったと後悔するユート。勿論遊矢も『EMジンライノ』等のカードを失って痛手を負った。

 

ユート LP4000

フィールド『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』(守備表示)『幻影騎士団ブレイクソード』(守備表示)

セット2

手札1

 

次々と自身に襲い来る蜘蛛の糸に雁字がらめに取られ、歯噛みするユート。1つを突破してもまた1つ、これではきりが無い。

このままでは反逆の牙まで錆びてしまいかねない。そんな彼とは裏腹に、この状況で笑みを崩さぬ者が1人。その名は――榊 遊矢。

 

「へへへ……!」

 

屈託の無いその笑いにユートは反応する。この逆境でおかしくなったか――いや、違う。

彼の目にはまだ燃え尽きぬ、この状況で燃え上がる闘志が宿っている。眩しく照らす太陽のような明るさが輝いている。その折れない心に八雲は訝しむように鼻を鳴らす。

 

「へぇ、随分余裕だねぇ、遊矢。君、この状況分かってる?」

 

「分かってるさ、だからこそ楽しいんだ!」

 

「……はぁ?」

 

答えにならぬ答えが八雲を混乱させる。一体この状況に、何処に楽しい要素があるのか。

 

「次々とこっちの上を行く戦術、2人を相手にしてこの強さ!どれも面白くてワクワクする!だけど、それを越えるともっと楽しいだろ!?」

 

ニィッ、口の端を吊り上げ、笑う遊矢。ユートはその笑みを見てフッと笑う。呆れる程のデュエルバカ。

だからこそ、この少年ならと期待できる。やはり、自分の目は狂って無かった。これこそがエンタメデュエリスト。これこそが榊 遊矢。

自分と似た顔を見て、ユートも闘志を燃やす。負けてられない。どうやら自分も――デュエルバカのようだから――。

 

 

 

 

 

 




人物紹介3

ユート
所属 レジスタンス
不屈の闘志を持つデュエリスト。エクシーズ次元にてアカデミアと激闘を繰り広げ、瑠璃を拐われた事により、アカデミアに対抗するべくスタンダード次元へ来た(詳しくはアニメかぎゃっきょうぐらし!にて)。
エクシーズ次元に居た頃も気苦労が絶えない日々が続き、黒いのによって更に叩き落とされた今作一番の被害者。スタンダードで行動する今も2人の黒に悩まされている(むしろ酷くなっている)。ユートは泣いて良い。
だがそれでも2人の事も大事な仲間と思っており、心配しているレジスタンスのオカンにしてぐう聖。
遊戯王作品でもちゃんと話を聞く常識人枠であり、余程の事情が無い限り親切に接する。黒いの達はもうちょっと労ってあげるべきである(他人事)。
因みにチャンピンオンシップに出場する黒咲さんのお弁当を作っている。
デッキは墓地発動主軸の9期らしい『幻影騎士団』。エースカードは『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』。



と言う訳で今回はバトルロイヤル。柚子対真澄についてはアニメ通りの展開をやるのもあれなので省きます。少しでも展開を早くしたいので。
だから魔界劇団がデュエル出来る位公開されない限り出番無いよ沢渡さん。



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