遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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コナミ「……そろそろ出番欲しいなぁ!主人公なのになぁ!」


第45話 いずれ分かるさ、いずれな

それは八雲が『No.』を召喚した直後の事だ。アリトは自分の試合が来るまでの時間を持て余し、フラフラと辺りを歩いていたのだが、突然彼の頭に沈痛が走り、本能的なものが何かの出現を感じ取ったのだ。

ボーッとしていた顔も険しいものへと変わり、アリトは気配のする方向へと振り向く。

 

「……何だ今のは――?……俺の試合はまだか……何だか分かんねぇが、ちょっくら確かめに行くか――!」

 

獣染みた直感を便りに、アリトは覚悟を決めて走り出す――。

胸が騒ぐような何か宿敵を見つけたような、本能が自然と闘志を剥き出しにする感覚。まるで何処かで味わった事があるような感覚だ。

もしかしたら、アリトはニヤリと口角を上げる。

 

「もしかしたら……記憶を取り戻す切欠になるかもしれねぇな……!」

 

記憶喪失。それが今のアリトの状態だ。気がついたらこの舞網市で倒れ、現在所属しているボクシングデュエルジムの会長に保護されたのだ。

学校まで通わせてくれた会長への恩返しとして潰れかけたジムを有名にしようと6連勝し、この大会に出場したのだが――同時に、記憶も取り戻さなければと思っている。

現状は楽しいが、何時までも会長に世話をしてもらうばかりではいけないだろう。

 

「っと、ここか……何だぁ?誰かがデュエルしてやがる……ん、んん?ありゃあ榊 遊矢じゃねぇか!」

 

考え事をしている内に大きな時計台のある広場へ出た。その中心ではフィールド魔法の影響だろう、電子板が光を放ち、黒いドーム状の結界が張られている。

中では3人のデュエリストがいるが――アリトはその内の1人を見て、目を見開く。

 

榊 遊矢。彼が舞網市で目覚めた時、ジムのテレビ越しに見たデュエリストだ。

彼の扱うペンデュラム召喚、そしてエンタメデュエル。それは記憶を失ったアリトでも深い感動を受けた素晴らしいものだった。

画面越しに映る彼がアリトの目には純白の翼を広げた天使に見え、地球の上で彼の顔をした朝日が昇る錯覚まで見た。

 

率直に言うと一目惚れ。アリトは彼のエンタメデュエルに魅了され、ファンになってしまったのだ。

 

「Oh……天使……!」

 

アリトの口から感動の吐息が漏れる。初めて生で見る遊矢。必死にデュエルをし、眩しい笑顔を見せる彼がアリトの目には輝きに満ち溢れ、その背中に天使の両翼が見える。

控え目に言って馬鹿である。そんな彼の視界に異物が入り込む。何だよ邪魔すんじゃねぇよと念じる彼の瞳が捉えたのは、オレンジと紫の極彩色の巨大な蜘蛛。

 

そう、八雲の『No.』、35の称号を持つラベノス・タランチュラである。その強大な存在を認めた途端、アリトの胸がドクンと高鳴る。

あれだ、あれが、自分の記憶の欠片に違いない。実際は別の人の記憶なのだがアリトはそう確信し、ずんぐりとした巨体を、静かに、不気味に呼吸し上下するラベノス・タランチュラを睨む。その時。

 

「まだだ……!まだ終わってない……!俺はまだ、諦めない……!」

 

遊矢より、熱い想いが籠った叫びがアリトの耳に入り、そして胸を打つ。届いた闘志にニヤリとあどけない笑みを浮かべ、アリトはその腕にデュエルディスクを装着し、デッキから5枚のカードをドローして駆け出す。

 

「よし、これなら……!」

 

天使がピンチなら助ける。3対1でも味方したい方に味方する。熱い意志を宿し、アリトは大きく跳躍して黒いドームの壁を蹴り破る。口に出すのは、記憶を失っていても尚、覚えていた誰かの言葉。

 

「かっとビングだ……俺ぇ!」

 

斯くして――神をも砕く拳が、物語へと参戦する――。

 

――――――

 

「アリト、だっけ?いきなりやって来た割には『仁王立ち』を墓地に送っているなんて姑息だねぇ君ぃ」

 

「へっ悪かったな。別にサシでやってやっても良いんだぜ!」

 

「まぁ、いいよ。どうせ結果は変わらないからね」

 

「何だとコイツゥ!」

 

突如現れ、遊矢達の窮地を救ったアリト。八雲は自分の邪魔をしたその少年へ苛立ちを覚え、ネチネチと煽る。当然と言えば当然か。あと少しで止めを刺せると言う所で邪魔をされたのだ。不機嫌にもなる。

そんな彼等のやり取りをポカンと眺める遊矢とユート。

 

「……えっと、アリト?」

 

「おう!何だ天使!」

 

「天使……?いや、えーっと、色々言いたいけど、助かったよ。ありがとな」

 

未だに混乱している遊矢だが何とか言わねばならない言葉を絞り出す。正直に言えばあの状況、本当に打つ手が無く、どちらかが敗れる所だったのだ。

アリトが助けてくれたお陰で何とかなった。

 

「俺からも礼を言う。恥ずかしながら2人でも苦戦していた所だ」

 

「良いって事よ!ん?天使が2人いる……!?」

 

遊矢とユートを交互に見て動揺するアリト。同じ顔の人間を見れば少しばかり驚くのは無理も無いが彼の場合は何か違う。

 

「そんな事はどうでも良いんだよ!早く『仁王立ち』の対象モンスターを選んで貰おうか!」

 

と、ここで呑気に話し合う3人にとうとう痺れを切らしたのか八雲が右腕をバッ、と振り、急かす。

そう、今はあくまでデュエルの最中、ただでさえ乱入されたのだ。遅延行為までされては堪ったものじゃない、と青筋を立ててこめかみをピクピクと動かせる。

敵である人物にルールにうるさくされるとどうにもいたたまれなくなる。

 

「おう!俺が『仁王立ち』の対象にするのはエクシーズモンスター、『BK拘束蛮兵リードブロー』だ!これでお前はこいつしか攻撃出来ねぇ!」

 

「攻撃力2200ねぇ……大丈夫かい?そんなモンスターで。言っておくが君が増えたお陰で僕のラベノス・タランチュラの攻撃力も上がるよ」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力3500→5500

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力6100→8100

 

八雲がアリトのフィールドに存在するエクシーズモンスター、『BK拘束蛮兵リードブロー』を見て鼻で笑う。

その姿は首枷等で身動きを拘束されており、お世辞でも『No.』に対抗できるとは思えない。しかもアリトが参戦した事で八雲のモンスター達の攻撃力まで上昇してしまった。

 

「はっ!俺のリードブローはそう簡単にダウンしねぇぜ!」

 

「……言うじゃないか。なら君から倒してあげるよ!ライノセバス!その趣味の悪いモンスターを破壊しろ!」

 

「させない!俺は速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動!ラベノス・タランチュラの効果を無効とし、攻撃力を400アップする!」

 

「ナイスだぜ天使!更に『BK』が破壊される時、代わりとしてリードブローのORUを取り除く!そしてリードブローのORUが取り除かれた時、攻撃力を800アップする!」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力5500→700

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力8100→3200

 

アリト LP2000→1000

 

BK拘束蛮兵リードブロー 攻撃力2200→3000

 

リードブローが攻撃表示の為にライノセバスの効果封殺が消え、遊矢がすかさず隙を突く。それによりラベノス・タランチュラの全体強化も消え、八雲のモンスターの攻撃力が大幅に減少する。しかもリードブローが拘束具を盾とした事で1つ枷が破壊され、その攻撃力を増した。

2回の破壊無効に決して少なくない攻撃力の上昇。厄介な効果だ。何より面倒なのは効果での破壊にも対応し、自分以外でも『BK』と言うカテゴリなら条件を満たす事。デッキによっては詰みかけないだろう。だがそれよりも八雲が苛立つ理由は――。

 

「榊……遊矢ぁ……!」

 

そう、強力なサポーター、榊 遊矢。彼の手により八雲の策は打破された。アリトもそうだが遊矢の行動は読めないにも程がある。彼の存在が八雲を苦戦させる。

 

「そんな顔するなよ、デュエルは楽しむものだぜ!」

 

「……その笑顔、何時までもつかな?僕は魔法カード、『エクシーズ・ギフト』によりラベノス・タランチュラのORUを2つ取り除き、2枚ドロー!」

 

八雲 興司 手札0→2

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

八雲 興司 LP2200

フィールド『No.35ラベノス・タランチュラ』(攻撃表示) 『電子光虫―ライノセバス』(攻撃表示)

セット2

『光虫基盤』

手札0

 

「俺のターンはここに来るまでに終わってる。天使!お前のターンだ!」

 

「ああ!お楽しみはまだ終わらない!かっとビングだ、俺!」

 

アリトの激励を受け、遊矢が勢い良くドローしてアークを描く。相手のフィールドには強力な効果を持つ『No.』とその強化を受けたライノセバス。

中々お目にかかれない逆境だ。だからこそ――エンタメデュエリストの本能が、燃えると言うものだ――!

 

「まずは魔法カード、『強欲で貪欲な壺』を発動し、2枚ドロー!『EMオッドアイズ・ユニコーン』をセッティング!さぁ、揺れろ!ペンデュラム召喚!『EMペンデュラム・マジシャン』!『EMオオヤヤドカリ』!雄々しくも美しく輝く二色の眼!『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!」

 

「無駄だよ!カウンター罠、『神の警告』!2000ポイントのライフを払い、その特殊召喚を無効にする!」

 

八雲 興司 LP2200→200

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力2500→4500

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力7100→9100

 

特殊召喚を無効にされた上にラベノス・タランチュラの効果でモンスターが強化される。だがまだまだ。遊矢のエンタメデュエルは終わっていない。

 

「通らないか――なら!さぁさぁご注目!取り出したるは1枚のカード、このカードで電子の世界に魔法を見せましょう!」

 

「おおっ、エンタメデュエルか!どうするんだ!?」

 

遊矢のエンタメデュエルに驚く程食いつくアリト。実に見せがいのある客だ。ユートもフッ、と薄く笑い、八雲も訝しげだが興味はあるようだ。

 

「ではご期待に応えましょう!魔法カード、『オッドアイズ・フュージョン』!エクストラデッキのオッドアイズとドクロバット・ジョーカーを融合!融合召喚!出でよ!秘術ふるいし魔天の龍!『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』!!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000

 

暗き電子の空を、魔術の力を秘めた深紅の竜が駆け、咆哮する。右目を金属で覆い、背に金色に輝くリングを負った遊矢の切り札とも言えるモンスターが今、顕現した。

 

「ライノセバスのORUを取り除き、ルーンアイズを破壊する!」

 

「速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動!効果は知ってるな!?ライノセバスの効果を無効とし、攻撃力を400上げる!」

 

電子光虫―ライノセバス 攻撃力9100→9500

 

「チッ、だがどうするつもりだい?ルーンアイズの攻撃力は3000。僕のモンスターには届かない!」

 

「どうするつもりだって――?こうするのさ!ルーンアイズ!ライノセバスを攻撃!」

 

煽る八雲に笑みを見せ、遊矢はルーンアイズに指示を飛ばす。それを受けたルーンアイズは主を疑いもせずに宙を飛び、背のリングより光線をライノセバスに向かって放つ。

無謀、無茶、無理――誰もがそう思うだろう、しかし、それを覆してこそ、エンタメデュエリストと言うもの。

 

「速攻魔法、『決闘融合―バトル・フュージョン』!その効果により、ルーンアイズの攻撃力はライノセバスの攻撃力9500分アップする!」

 

ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力3000→12500

 

「攻撃力12500……!?くっ……!罠発動!『攻撃の無敵化』!このバトルフェイズ中、戦闘ダメージを0にする!」

 

「だけどこれでライノセバスは破壊される!シャイニーバースト!」

 

迸る3つの電撃が膨れ上がり、重なって1つの極太の線となりライノセバスの頑強な鋼の甲殻を穿ち、貫く。

これで厄介なモンスターは破壊した。後は、ユートが八雲を、『No.』を破壊するのみ。

 

「俺はこれでターンエンド。さぁ、では本日の主役にこのデュエルの幕を下ろして貰いましょう!」

 

榊 遊矢 LP2200

フィールド『ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』(攻撃表示)『EMリザードロー』(守備表示)

Pゾーン『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMドラネコ』

手札0

 

バッ、と手を広げ、ユートを指差しウィンクする遊矢。その様子にユートは目を見開く。そう、会って間もないユートの事を、信頼しているのだ。

だからこそユートにターンを回し、主役を譲った。このデュエルに決着をつけるのはユートだと、ならば――その信頼に、応えねばなるまい。

このターンで勝たねば負けるのはこちら、全く、危ない橋を渡る。ユートはニィッと笑みを浮かべ、デッキより1枚のカードを引き抜く。

 

「お楽しみは、これからだ!!」

 

互いの言葉を交換し、その想いに応え、勝利を導く。3人の力は集束し――光輝く、眩き明日を、シャイニング・ドローを創造する。

 

「魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地のブレイクソード2体、クラックヘルム、ラギッドグローブ、『クレーンクレーン』をデッキに戻し2枚ドロー!墓地のサイレントブーツを除外し、デッキから『幻影剣』を手札に加え、魔法カード、『手札抹殺』!手札を捨て、2枚ドロー!更に墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、ダーク・リベリオンをエクストラデッキへ戻しドロー!」

 

ユート 手札0→2→3→2→3

 

「さぁ、勝利の方程式は整った!俺は『終末の騎士』を召喚!」

 

終末の騎士 攻撃力1400

 

召喚されたのは闇属性のモンスターを扱うデッキにとっては必須と言えるモンスター、ゴーグルを装着し、錆び付いた鎧とボロボロのマフラーを靡かせた黒い騎士だ。

 

「召喚時効果によりデッキのクラックヘルムを墓地へ送り、墓地の『幻影剣』を除外して特殊召喚!」

 

幻影騎士団クラックヘルム 攻撃力1500

 

「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!今、降臨せよ!エクシーズ召喚!現れろ!『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500

 

雷鳴を轟かせ、漆黒の竜が闇より尾を振るい登場する。ユートのエースモンスターにしてこのデュエルに反逆の狼煙を上げるカードの咆哮を受け、遊矢とアリトはニィッ、笑みを見せる。

 

「ダーク・リベリオンの効果!ORUを2つ取り除き、ラベノス・タランチュラの攻撃力を半分にし、その数値分攻撃力をアップする!トリーズン・ディスチャージ!」

 

「だがラベノス・タランチュラの攻撃力アップは永続効果!攻撃力は元に戻る!」

 

No.35ラベノス・タランチュラ 攻撃力4500→2250→4500

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 攻撃力2500→4750

 

紫電が駆け抜け、ラベノス・タランチュラの力を自身の翼へと吸収するダーク・リベリオン。しかしラベノス・タランチュラの食欲は旺盛だ。

奪った力を大気中より吸い込み、再び『No.』たらしめる力を取り戻す。

だが、これで充分。

 

「……馬鹿な……!?」

 

「反逆の!ライトニング・ディスオベイッ!!」

 

ダーク・リベリオンが天高く飛翔し、赤い雷が暗闇にスパークする。ド派手な応酬、シンプルで豪快な戦略、見るものの目を奪い、心を踊らせるユートのエンタメデュエル。

深紅の雷が闇を引き裂き、地面へダイブ、抉る牙が激しい轟音を響かせ――その鋭きアギトが――強大な『No.』を今、貫く。

地へ降り立つ黒竜。その背では巨大な蜘蛛が膨れ上がり、爆発が電子の世界を砕く。勝者は、決した。

 

八雲 興司 LP200→0

 

砕け、眩い光の粒子となって散るフィールド。その中で八雲は崩れ落ち、倒れ、デュエルディスクからラベノス・タランチュラがユートの手に渡ろうと飛んだ瞬間――。

 

パシッ、乾いた音と共に、ラベノス・タランチュラのカードを手に取り、八雲を支える男が、現れる。

 

「……」

 

白い、真っ白な何も描かれていない、目出し穴のみがくり抜かれた仮面を被り、同じく白いフードつきのマントを羽織った男。背丈は遊矢達と同じ位か――。

音もなく忍び寄った彼。その登場に驚くのも束の間、男を視界に入れた途端、遊矢とユートの胸の奥からズキリ、と激しい痛みが駆け、身体中が熱く燃え上がる感覚が襲い、思わずよろめいてしまう。

一体、この男は――。

 

「ッ……!何……者だ……!貴様は――!」

 

遊矢の瞳に赤い波紋が広がり、ドスがかかった、彼のものとは思えない声が漏れる。その急激な変貌にアリトが声を詰まらせるが男の方は何処吹く風だ。

予測していたかのように溜め息を吐き、遊矢を、ユートを見据える。

 

「――悪いが、“お前の方”には興味が無い。しかし、その顔――余り、見たくないものだ。嫌な事を思い出す」

 

「……何を……ッ!貴様……!」

 

トンッ、男が遊矢の、いや、何者かの胸を人差し指で押す。瞬間、彼の周りに漂う威圧感が弾け、霧散する。

そして遊矢が意識を取り戻して息を切らし、たたらを踏んでしまう。異様な光景、その中でユートは警戒心を上げ、男を睨む。

 

「お前は……何者だ……!」

 

「……何者か……いずれ分かる、いずれな……」

 

「何を言って――!」

 

「ぐっ、う……君か……すまない、手間をかけて……」

 

「計画に支障が出るからこう言った事はやめて欲しいんだが――まぁ、上手くいったようだ。今回だけは不問にしてやる」

 

と、ここで八雲の意識が戻る。やはりと言うか、仲間だったらしい。男は八雲に溜め息を吐きながら支える手を離す。

 

「まさか、七皇が出てくるとは思わなかったが――」

 

「ッ!?お前、俺の事を知ってるのか!?」

 

男がアリトをチラリと見て呟いた途端、アリトが目を見開いて食いつく。当然だろう、彼は記憶喪失、そして記憶の手懸かりが掴めると言うのだ。

しかし男はアリトの様子を訝しみ、1人でうんうんと頷き、答えを出す。

 

「そう、そうか……まさかその事まで忘れるとは――無理も無いか、奴等もあの状態――しかしお前がいると言う事は――チッ、後6人いるか、まぁ良い」

 

「何1人で言ってんだテメェ!一体俺の何を知ってんだ!」

 

「フン、知るか。八雲」

 

アリトを一瞥し、八雲を顎で急かせる男。八雲はそれで察したのか、デュエルディスクのパネルを操作し、ボタンを押す。

その行動にユートはしまったとばかりに駆け出し、2人を止めようとするが――遅い。2人は光の粒子に包まれ――。

 

「――だからお前は、何も守れないんだ」

 

フッ、男の言葉を最後に、2人の姿が溶けるように消失し、ユートの右手が空を切る。後に残ったのは、勝利の余韻から到底かけ離れた、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた不快感。

行き場所を無くした右手を握り締め、ユートは歯軋りする。耳に残る、男の言葉。

 

「……ッ!奴は……何を知っている……!?」

 

「ユート……?」

 

「ッ!……遊矢か……すまない」

 

そんなユートを見かね、アリトに支えられた遊矢が心配そうに眉を伏せ、声をかける。

始めは彼とデュエルをするだけの筈だったのに、妙な事に巻き込んでしまった。申し訳なさと感謝と複雑な気持ちが混ざり、ユートもまた眉を伏せて向き合う。

 

「何で謝るんだよ!色々あったけど……すっげー熱くて、面白いデュエルだった!アリトもありがとな!お前がいなきゃ負けてたよ!」

 

「俺はちょっと出ばっただけだ。それより、お前等2人の真っ向からぶつかるデュエル、見ていて楽しかったぜ!」

 

しかし、目の前の2人はそんな事気にしていないとばかりに子供のような眩しく無邪気な笑顔で讃え合う。

その様子にユートは毒気を抜かれ、苦笑する。やはり――遊矢なら、いや、アリトも加わってくれればと思ってしまう。

だけどそれはダメなのだ。確かに遊矢はどんな状況でも折れぬ芯を持っているのかもしれないが――それでも、危険な目に合わせる訳にはいかない。

だが、せめて友人ではいたいとは思う。

 

「……遊矢、もし、君が良ければ――友達になってくれないか?」

 

あわよくば、もし良いのなら、僅かな希望を抱いて右手を差し出し、握手を求めるユートに、遊矢とアリトはポカンと呆ける。何か不味い事を言っただろうか?ユートは仕方無いかと手を下ろそうとするが――。

 

「ははっ、俺もう友達だと思ってたよ。友達だから信頼したんだぜ?案外抜けてるなぁ、ユートって」

 

「デュエルすれば皆友達ってな!あの八雲とか言う奴も友達になってやっても良いぜ!」

 

ガシッ、それを遮り、2人が笑いながらユートの手を取る。今度はユートが呆気に取られてしまった。悪戯が成功したように笑う2人を見て、ユートもまた満面の笑みになる。

 

「デュエルすれば友達!良いなそれ!」

 

「だろ?俺ってば良い事言うなー」

 

「ははっ、確かにな。受け売りっぽいが」

 

「何だとう!?」

 

笑い合って、喧嘩をして、デュエルをして、何処までも普通な彼等のやり取り、まだ見ぬ敵は確かにいるのだろう。

それでも、ユートはこの瞬間を大切に思う。昔、目付きの悪い少年やその妹、姉のような存在と日常を過ごしたかのように、きっと何時か――その日常を取り戻し、その中に――黒い帽子の少年と、八雲がいたら良いなと思いながら。

 

「そうだユート」

 

「ん?」

 

突然、思い出したように遊矢が声をかけ、右手を突き出し、人差し指と中指をこちらへと向け、太陽のように暖かい笑みを浮かべる。

 

「良いデュエル、楽しいデュエルをした後にさ、こう言うんだ。ガッチャ!良いデュエルだったぜ!」

 

――ガッチャ、勲章もののデュエルだった――。

 

その言葉を受け、呆気に取られるユート。頭に過るのは、強く、大切な事を教えてくれた、尊敬すべき男の背中。

ユートは薄い笑みを口元に描き、目を細め、遊矢に倣うように右手の人差し指と中指を突き出す。

 

「ああ――ガッチャ、良いデュエルだった――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとアリトの出番が少ないけどVs八雲終了。アリト君の出番はこれから出していきたいと思います。彼もランサーズに入る予定なので。
次回は権ちゃんと刃のデュエルの予定です。主人公は座っててね。

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