遊矢「主人公って何さ」
コナミ「躊躇わない事さ」
黒咲とセレナの激闘に決着がついた頃、コナミは氷山エリアにて、その者達と対峙していた。巨人を模した仮面を被り、青い軍服に身を包んだ3人組のデュエリスト。コナミの姿を視界に収めた後、激しく狼狽える彼等を見て、コナミは小首を傾げた後、ポン、と手を打つ。
「あぁ、あの仮面が言っていた刺客」
「な、何故貴方がここに……!」
「い、いや待て!もしかしたら、あの殺意溢れる黒いのが赤に機種変したのかもしれん!」
「黒いのは嫌だ、黒いのは嫌だ、黒いのは嫌だ……!」
それぞれ反応は違うが、コナミに怯えているのは共通している。一体何があったのか、トラウマを掘り起こされたかのように、小刻みに震える仮面の男達。
しかしコナミにはそんな事は関係無い。彼は知った事かと言わんばかりに左腕に装着した黄金色のデュエルディスクを構え、光のプレートを展開する。その流れるような素早い動作に3人組は「ひぃ」と小さな悲鳴を上げ、後退りする。
「く、黒い方だ……」
「少なくともこっちでは無いな」
「黒いのは嫌だぁー!」
最早プライドをかなぐり捨て、吠える3人組。だが彼等は皆、デュエルに勝利すべく訓練を受けた戦士達。
恐怖心を振り払い、闘争心を振り絞って、盾型のデュエルディスクを構え、剣の形状をしたプレートを展開する。
「我等はアカデミアの精鋭、オベリスク・フォース……!エクシーズ次元の残党等には屈しない!」
「凄いなお前……」
「よし、ここはお前に任せて先に行く!」
「待ってぇ!1人にしないでぇ!誰か手ぇ握っててぇ!」
まるで漫才である。闘おうとする1人に怯え腰の2人。だが1人では荷が重いと思ったのだろう、1人目が2人を引き留める。「ええー」と語気を伸ばし、嫌々と言った風に並び立つ。
「俺……帰ったら好きな子に告白するんだ……」
「俺、ここに来る前に妹と喧嘩しちゃってさ……仲直りしねぇとな……」
「やる気あんの!?お前等真面目にやる気あんの!?生まれる時は違えど死ぬ時は一緒って言ったじゃん!」
死亡フラグを重ねる同僚の態度に青筋を浮かべ1人目が声を荒げて叱りつける。意外と余裕があるのでは無いだろうか?3人は何とか気を引き締め、眼前でスタンバイする赤帽子へと臨戦態勢を取る。
「準備は良いか――往くぞ!」
斯くして始まる。コナミとアカデミアの闘い。冷たき氷山がそびえ立つ中、熱き決闘の火蓋が今――切って下ろされる。
「「「「デュエル!!」」」」
先攻はコナミだ。彼はデッキから5枚のカードを引き抜き、その中の2枚をオベリスク・フォース達に見せるように翳した後、デュエルディスクに叩きつける。
「オレは『曲芸の魔術師』と『慧眼の魔術師』でペンデュラムスケールをセッティング!更に慧眼を破壊する事でデッキの『賤竜の魔術師』をセッティング!そして賤竜のペンデュラム効果でエクストラデッキの慧眼を回収!」
「ペンデュラム……!?」
天に2つの光の柱が伸び、上空に魔方陣が輝く。その幻想的な光景、見た事も無いカード達にオベリスク・フォースが仮面の奥の瞳を見開き、ざわざわと動揺する。
「速攻魔法、『揺れる眼差し』!ペンデュラムスケールを破壊し、その枚数の数だけ効果を適用する!1つ目!相手に500のダメージ!」
オベリスク・フォースA LP4000→3500
オベリスク・フォースB LP4000→3500
オベリスク・フォースC LP4000→3500
「2つ目!デッキからペンデュラムモンスター、『刻剣の魔術師』を手札に加え、手札の慧眼と共にセッティング!慧眼を破壊し、『竜穴の魔術師』をセッティング!これでレベル3から7のモンスターを同時に召喚可能!揺れろ、光のペンデュラム。虚空に描け魂のアーク!ペンデュラム召喚!『慧眼の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『賤竜の魔術師』!『貴竜の魔術師』!」
慧眼の魔術師 守備力1500
曲芸の魔術師 守備力2300
賤竜の魔術師 攻撃力2100
貴竜の魔術師 守備力1400
虹色の輝きに導かれ、次々とコナミの『魔術師』モンスターがフィールドに降り立っていく。正しく魔術のような召喚法、融合次元のデュエリストを前に、振り子が揺れる。
「さぁ、次だ!レベル5の『曲芸の魔術師』にレベル3の『貴竜の魔術師』をチューニング!星海を切り裂く一筋の閃光よ!魂を震わし世界に轟け!!シンクロ召喚!!『閃光竜スターダスト』!!」
閃光竜スターダスト 攻撃力2500
7つの星が空に並び、竜の形となって凍てつく大地へと咆哮を上げて降り立つ。雪のように白く眩い星屑を纏う、白銀の竜。
シンクロモンスター、これも彼等にとっては見慣れぬモンスター、召喚法だ。驚愕を浮かべるも、逆にそれが彼等に余裕を取り戻させる。
「エクシーズしない……黒いのじゃないのか……!?」
「殺意が来ない……い、生きてるんだ!」
「ゆ、油断するな!希望を抱かせ、それを奪う、それが奴のデュエルだ!」
言いたい放題である。本当に彼等はどんなデュエルを経験して来たのだろうか?
「オレは『クリバンデット』を召喚し、ターンエンド。この瞬間、『クリバンデット』をリリースし、デッキの上から5枚を捲り、魔法、罠カード1枚を手札に加える。オレは『アームズ・ホール』を手札に加え、墓地に送られた『E・HEROシャドー・ミスト』の効果で『E・HEROブレイズマン』を、『妖刀竹光』の効果で『黄金色の竹光』を手札に加える」
コナミ LP4000
フィールド『閃光竜スターダスト』(攻撃表示)『慧眼の魔術師』(守備表示)『賤竜の魔術師』(攻撃表示)
Pゾーン『竜穴の魔術師』『刻剣の魔術師』
手札3
「俺のターン、ドロー!よ、よし、やるぞ……!俺はカードを魔法カード、『打出の小槌』により、手札を2枚交換、2枚セットし、フィールド魔法、『歯車街』を発動!」
オベリスク・フォースAが発動したカード、そのフィールド魔法の影響により、氷の大地が割れ、クレバスから古びた歯車の音が響く街並みが浮上していく。
『歯車街』、コナミも良く知っているカードだ。妙な言葉遣いの恩師が使っていた、『アンティーク・ギア』と言うカテゴリにおいて必須とも言えるカード。コナミはこの古びた街並みを見て、故郷を思い返すように目を細め、感傷に浸る。
「そして自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分フィールドの表側表示で存在する『歯車街』を対象として、魔法カード、『古代の機械射出機』を発動!対象のカードを破壊し、デッキから『古代の機械飛竜』を召喚条件を無視して特殊召喚する!」
古代の機械飛竜 攻撃力1700
轟音を立て、崩れ行く歯車の街、氷上のフィールドに錆びたついた銅の身体を持つ機械の飛竜が現れる。
血色に輝く眼、身体の歯車を回転させながら、不気味な音を鳴らす古びたワイバーン。
しかしまだ歯車は回る。崩れ行く街の中、バチバチと桃色の雷が桜のように舞い散り、恐竜のような恐ろしい咆哮が響く。
「飛竜の効果で『古代の機械巨人』をサーチ、そして破壊された『歯車街』の効果により、デッキから『古代の機械熱核竜』を特殊召喚する!」
古代の機械熱核竜 攻撃力3000
ギシギシと破れ、ひびが走った翼を広げ、機械竜が上空に飛翔する。胸に熱を帯びたコアを埋め込み、妖しく輝く針のような脚を持つ古代の機竜。その背には金色のリングがバチバチと火花を上げている。これで攻撃力3000が2体並んだ。
「……知らないカードだな……」
「更に『古代の機械猟犬』を召喚!」
古代の機械猟犬 攻撃力1000
次に召喚されたのは今までとは一風変わった『アンティーク・ギア』モンスター、錆びる事無く、青銅の輝きを放つ、太い牙を持った猟犬型のモンスター、これもコナミの知らないカードだ。一体どのような効果を有しているのだろうか。
「効果で相手に600ダメージを与える!」
コナミ LP4000→3400
オベリスク・フォースB LP3500→2900
オベリスク・フォースC LP3500→2900
「そして自分フィールドにこのカード以外の『アンティーク・ギア』モンスターが存在する場合、『古代の機械猟犬』の効果発動!このカードを含む融合素材を手札、フィールドから墓地に送り、融合召喚を行う!俺はフィールドの『古代の機械飛竜』と『古代の機械猟犬』、そして手札の『古代の機械巨人』を融合!融合召喚!『古代の機械究極巨人』!!」
古代の機械究極巨人 攻撃力4400
巨人と猟犬、そして騎士が混じり合いて、脚部が4つ足となった巨人がフィールドを震撼させる。紅蓮に染まったモノアイ、研ぎ澄ました爪を装備した腕、究極を名を有するモンスターがこの序盤に登場する。
「……まさかあの人以外のデュエルでこいつを見れるとは……融合軸の『アンティーク・ギア』か……」
「ターンエンドだ」
オベリスク・フォースA LP3500
フィールド『古代の機械究極巨人』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)
セット2
手札0
「俺のターン、ドロー!」
続く2人目のオベリスク・フォースのターン、一体どのような戦術を取って来るのかとコナミは期待を寄せる。何せ1ターン目からロマンカードを出した上で攻撃力3000のモンスターを隣に並べるようなデュエリストが相手だ。同じ姿をしている2人目の、3人目も見た事が無いカードを扱うに違いない。
「俺は魔法カード、『古代の機械双造』を発動!自分、相手の墓地から『アンティーク・ギア』モンスター2体を対象とし、効果を無効にして特殊召喚する!このデュエルはバトルロイヤルルール!仲間も相手として数える!墓地の『古代の機械猟犬』と『古代の機械飛竜』を蘇生!」
古代の機械猟犬 攻撃力1000
古代の機械飛竜 攻撃力1700
1枚のカードから2体のモンスターの蘇生、単純ながら強力な効果だ。例えアドバンス召喚を軸にしていても対応出来る。その効果により、猟犬と飛竜、デザインが異なる2種の『アンティーク・ギア』が復活する。
「そして『古代の機械飛竜』を対象とし、魔法カード、『融合識別』を発動!エクストラデッキの『古代の機械参頭猟犬』を公開し、このターン、対象のモンスターを融合素材にする場合、公開したカードの同名モンスターとして扱う!そして魔法カード、『融合』!フィールドの『古代の機械参頭猟犬』となった飛竜と猟犬を融合!融合召喚!『古代の機械究極猟犬』!」
古代の機械究極猟犬 攻撃力2800
現れる2体目の究極。胸に巨大な顎を開き、3つの頭を持つケルベロス。背には6本の骨が飛び出し、3つの尾を伸ばしたワインレッドのボディの猟犬。
本来なら5枚ものカードを使用してやっと登場するモンスターなのだが、『沼地の魔神王』等の融合代用系のカードを使う事で一気に簡略化出来る。そしてその効果は『アンティーク・ギア』の中でも特に豪快。
「『古代の機械究極猟犬』が融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする!」
コナミ LP3400→1700
オベリスク・フォースA LP3500→1750
オベリスク・フォースC LP2900→1450
「……おい」
「……バトルロイヤルルールだからね、仕方無いね」
その効果は確かに凶悪だった。何せ自分以外のLPを見境なく半分にするのだから。デュエルがバトルロイヤルルールと言う都合上、当然、相手の中には自分以外の全てのプレイヤーが含まれる。その結果がこのシュールな光景と言う訳である。実はこの3人組、ただの漫才トリオでは無いだろうか。
「……いやマジごめん、こうなるとは思って無くてさ」
「気をつけろよお前マジで、相手が相手だぞ」
「やめようぜ、ほらそのモンスター3回攻撃出来るしさ」
ついには敵を前にして慰め合う始末、真面目にやっているのだろうが、どうにも面白い。
「俺は『トロイホース』を召喚!」
トロイホース 攻撃力1600
次に現れたのは地属性専用のダブルコストモンスター。巨大な木馬だ。
「魔法カード、『二重召喚』発動、『トロイホース』をリリースし、アドバンス召喚!『古代の機械熱核竜』!」
古代の機械熱核竜 攻撃力3000
「ターンエンドだ」
オベリスク・フォースB LP2900
フィールド『古代の機械究極猟犬』(攻撃表示)『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)
手札0
「俺のターン、ドロー!魔法カード、『手札抹殺』!手札を全て捨て、5枚ドロー!次は魔法カード、『暗黒界の取引』!1枚ドローし、1枚捨てる。そして魔法カード、『シャッフル・リボーン』発動!墓地の『トロイホース』を蘇生!」
トロイホース 攻撃力1600
「『トロイホース』をリリースし、アドバンス召喚!『古代の機械熱核竜』!」
古代の機械熱核竜 攻撃力3000
「俺は永続魔法『王家の神殿』を発動!カードをセット、永続罠発動!『リビングデッドの呼び声』!墓地の『古代の機械巨竜』を特殊召喚!」
古代の機械巨竜 攻撃力3000
天空に舞う2体の古代機竜。雄々しく翼を広げる巨大な竜、獰猛な唸り声を鳴らす狂犬、錆びた歯車を回転させる巨人。集う大型モンスター達を前に、コナミはゴクリと喉を鳴らす。
「ターンエンドだ」
オベリスク・フォースC LP1450
フィールド『古代の機械熱核竜』(攻撃表示)『古代の機械巨竜』(攻撃表示)
『王家の神殿』『リビングデッドの呼び声』
手札0
「オレのターン、ドロー!面白いじゃないか……魔法カード、『アームズ・ホール』を発動!デッキトップを墓地へ送り、装備魔法、『妖刀竹光』をサーチ!スターダストに装備し、魔法カード、『黄金色の竹光』を発動!2枚ドロー!」
コナミ 手札2→4
「そして儀式魔法、『オッドアイズ・アドベント』を発動!」
「儀式だと!?」
コナミが発動したカードは儀式魔法、儀式モンスターを召喚する為のカードだ。この舞網市では使い手が限られており、扱いが難しいカードとされている。
その理由は儀式モンスターがエクストラデッキのモンスターでは無く、メインデッキに入るモンスターと言うのが大きいだろう。
強力なモンスターでは無く、扱いやすく、召喚が容易いモンスターこそが求められているのだ。重要なのは汎用性の高さと言った所か。コナミには関係無い事であるが、このカードこそが赤馬 零児から受け取ったカードの1枚だ。
「フィールドのペンデュラムモンスター、慧眼と賤竜をリリースし、墓地のドラゴン族儀式モンスター、『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』を儀式召喚!」
オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン 攻撃力2800
今顕現し、氷のフィールドで咆哮を上げる大地の竜。重々しい轟音を鳴り響かせ、その2色の双眸を輝かせる。背に黒き大山を伸ばした巨大な儀式竜。
このカードこそが、赤馬 零児から受け取ったカードの2枚目。新たなる『オッドアイズ』の背に跨がり、コナミは更なる手を打つ。
「『オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン』が特殊召喚に成功した場合、相手の魔法、罠カードを全て手札に戻す!」
「くっ、ならば発動――出来ない――!?」
「残念だったな、この効果に対し、魔法、罠、モンスターの効果は発動出来ない」
禁止カードに指定されている『ハリケーン』を強化して内蔵した効果。その強力な地鳴らしがオベリスク・フォースのカードを弾き飛ばす。
だがこれだけでは勝利は遠い。何せ攻撃力3000以上のモンスターが4体も存在しているのだ。グラビティ・ドラゴンだけでは荷が重い。
「ペンデュラム召喚!『賤竜の魔術師』!『曲芸の魔術師』!『E・HEROブレイズマン』!」
賤竜の魔術師 攻撃力2100
曲芸の魔術師 守備力2300
E・HEROブレイズマン 守備力1800
続いて振り子の軌道で現れる3体のモンスター、『魔術師』と『HERO』、コナミのデッキの2本柱がフィールドに集い、大地の竜が吠える。まだまだ終わらぬコナミの手、休まる事無く展開されていく。
「ブレイズマンの効果で『置換融合』サーチ!そのまま発動!フィールドの風属性モンスター、『賤竜の魔術師』と『E・HEROブレイズマン』を融合!融合召喚!『E・HERO Great TORNADO』!」
E・HERO Great TORNADO 攻撃力2800
吹き荒れる風は冷気を帯、猛吹雪となりてフィールドに舞い降りる。烈風を司る英雄。コナミが属性『HERO』の中でも頻繁に扱うモンスターだ。対戦相手達が大量の大型モンスターを使う為だろう。
英雄は周囲に竜巻を発生させ、まるで弾丸の如く『アンティーク・ギア』へと撃ち出す。
「Great TORNADOの効果により、相手フィールドのモンスター全ての攻守を半減する!タウンバーストッ!」
古代の機械究極巨人 攻撃力4400→2200
古代の機械究極猟犬 攻撃力2800→1400
古代の機械熱核竜 攻撃力3000→1500×3
これで対処出来る範囲に収まった。だがそれでもモンスターの数が足りず、総攻撃力も心もとない。何せここまで大型を簡単に出す者達だ。取り零せばコナミの身が危うい。
しかしコナミはこのターンで相手のLPを全て削り切るつもりなのだ。それだけの手数は揃っている。
「オレは手札を1枚捨て、墓地の『ジェット・シンクロン』を特殊召喚」
ジェット・シンクロン 守備力0
次なるモンスターはジェットエンジンを模した、青と白のカラーリングが特徴的な『シンクロン』モンスター。その名の通り、チューナーモンスターをカテゴリとした1枚だ。
レベル1で自己蘇生が可能なチューナーと言うだけでその優秀さが分かるだろう。そしてこれからコナミが行うのは勿論――シンクロ召喚――。
「オレはレベル5の『曲芸の魔術師』にレベル1の『ジェット・シンクロン』をチューニング!星雨を束ねし聖翼よ!!魂を風に乗せ世界を巡れ!!『スターダスト・チャージ・ウォリアー』、シンクロ召喚!!」
スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000
星屑の雪が舞い散り、風が運んでいく。コナミのフィールドの閃光竜が咆哮すると共に星屑は人の形を作り、自身の分身であり、仕える従者が構成されていく。
竜と同じ頭部を模した兜と鎧、腰より伸びた左右合計6本の刃、コナミが白コナミとの戦いの中で発現したモンスターが今、竜へと頭を垂れて現れる。
「『スターダスト・チャージ・ウォリアー』がシンクロ召喚した時、デッキから1枚ドローする!」
コナミ 手札1→2
「そして魔法カード、『ミラクル・フュージョン』を発動!墓地の『E・HEROシャドー・ミスト』と『クリバンデット』を除外し、融合!融合召喚!『E・HEROエスクリダオ』!」
E・HEROエスクリダオ 攻撃力2500→2700
ドプリ、地面に水面のような漆黒の影が波打ち、人の形を作り出す。現れたのは正に闇の英雄。左腕は鋏のような鋭い刃、右腕は鈍い輝きを放つ鉤爪、腰からは曲刀が伸びており、全体的に鋭利なフォルムのモンスターだ。
「エスクリダオの攻撃力は墓地の『E・HERO』モンスターの数×100アップする。ダークコンセントレイション」
「馬鹿な……!」
「確かに奴とは違う……だが……!」
「やはり、強い……!」
集う5体のモンスター。その強力な布陣を見て思わず後退るオベリスク・フォース達。ペンデュラムに儀式、シンクロに融合と一見して纏まりの無いカードを束ねたデッキ。
だがそれこそがコナミの強み。状況に応じたカードを使いこなす事で、その可能性は大きく広がる。その事実が――オベリスク・フォースの眼前に立ち塞がる。
「墓地の『スキル・サクセサー』を除外し、『スターダスト・チャージ・ウォリアー』の攻撃力を800アップする。そしてこのカードは特殊召喚された全てのモンスターに攻撃出来る」
スターダスト・チャージ・ウォリアー 攻撃力2000→2800
追い撃ちをかけるように明かされるその効果に、オベリスク・フォース達の顔色が絶望に染まる。魔法も罠も失われ、自慢のモンスターも弱体化された今――彼等に、勝機は無い。
「バトル――『スターダスト・チャージ・ウォリアー』で1人目の熱核竜に攻撃――流星乱射!」
「がふっ……!?」
オベリスク・フォースA LP1750→450
襲い来る刃の嵐、斬撃が竜の歯車を砕き、崩れ落ちる。一瞬の出来事、まるで悪夢のような光景が彼の目に焼きつく。あれだけ強力なモンスターがいとも容易く破壊されたのだ。
「2人目に攻撃」
「ぐっおぉぉぉぉっ!?」
オベリスク・フォースB LP2900→1500
「最初はお前か……TORNADOで3人目の熱核竜を攻撃、この瞬間、速攻魔法、『禁じられた聖杯』を発動。攻撃力を400アップ」
E・HERO GreatTORNADO 攻撃力2800→3200
「スーパーセル」
「がっ、あぁぁぁぁっ!」
オベリスク・フォースC LP1450→0
下される攻撃が3人目のオベリスク・フォースを襲い、その刃が全てを切り裂く。ズザザと冷気が上がり、1人目の脱落者が倒れ伏す。
倒れた彼は残った意識でふるふると小刻みに手を震わせながら、その口元に薄い笑みを描き――。
「へ……へ……!妹に……謝りたかったなぁ……」
ガクリ、その言葉を最後に、意識を手放す3人目のオベリスク・フォース。無惨に散る仲間の姿を目に、2人のオベリスク・フォースは唖然とした顔で呆ける。倒れた彼から目を離せず、彼等の脳裏に3人で過ごした思い出が、走馬灯のように流れていく。
3人でアカデミアに入学し、勉強にデュエルと励んだ日々。共に協力し、リレーで1位を取った体育祭。赤馬ランドで様々なアトラクションを楽しみ、プロフェッサーの像をハゲと小馬鹿にした修学旅行。皆で準備して、成功させた学園祭。色々な思い出が、シャボン玉のように浮かんでは消えていく。
「お、おい、しっかりしろ!おい、嘘だろ……?オベリスク・フォースC!Cィィィィィッ!」
「何でだよ……!お前、ここに来る前は元気に妹への土産を買ってたじゃないか!妹にちゃんと届けろよ!」
彼等にも、今までに過ごして来た日常や背景、熱いドラマがあるのだろう、友の倒れる姿に涙を流し、何度も呼びかけるオベリスク・フォースAとオベリスク・フォースB。
こんなふざけた事があって良いのかと運命を呪う2人。だが――そんな事、コナミに関係無い。
「次は、お前だ」
「ひ、ひぃ――!」
静かに右腕を上げ、その指先で次なる死刑宣告をオベリスク・フォースBに下す。その無情なる様は正に悪魔。血色に彩られたマントを翻した悪魔が、冷徹に鎌を降り下ろす。
「エスクリダオと『スターダスト』で攻撃――Darkdiffusion、流星閃撃」
オベリスク・フォースB LP1500→300→0
「告白……出来なかったぜ……」
「オベリスク・フォースBィィィィィッ!」
黒き影が魔物を生み出し、3つ首の竜を模したそれは『スターダスト』と共にBのフィールドのモンスターを食らい尽くし、鋭い牙がBのLPに突き立てられる。
何故、あんなにも一途な彼がこんな理不尽な目に合わなければならないのか、ドサリと倒れるBに駆け寄り、抱き起こすA。その仮面の赤い目からは熱い涙が溢れ、頬を伝う。
「チクショウ……!死亡フラグなんて立てるからそうなるんだ……お前が朝食ったおにぎりが鮭だったからチクショウ!」
「バトル」
まだ攻撃は終わってない。膝を落とし、Bを抱き起こすAへと、赤い悪魔が追撃をかける。その背には――大山を背負った2色の眼の竜。
絶対的な存在を目にし、Aはその闘志を粉々に砕かれる。
勝てる訳が無い。こんな化物を相手に、挑んだ事が間違いだったのだ。
ああ、きっとこれは天罰なのだろう。今までエクシーズ次元を襲い、人々をカード化して来た報い。彼等もきっと、今の自分のように、絶望したに違いない。叶うならば、彼等に、贖罪をしたかった。
「グラビティで、攻撃――!」
オベリスク・フォース LP450→0
カラン、究極巨人と共に、仮面が砕け、氷上へと落ちる。勝者はコナミ。3人の勇者は健闘空しく――敗北を喫した――だが。
「良い、デュエルだった――」
ヒーローは遅れてやって来る。
崩れ落ちるオベリスク・フォースの身体を受け止め、新たなるデュエリストがその場に姿を見せる。音も気配の一切も無く現れたその男の姿に、コナミは帽子の奥の目を見開き、呼吸をする事さえ忘れ呆然と立ち尽くす。
その原因は勿論、今登場したデュエリスト。紫のジャケットを纏い、左腕に巻かれている黄金のデュエルディスクが光を反射する。迸らんばかりの闘志をその身から放つその男の頭上には、紫色の、帽子。
「〝K〟……!」
「仇は取る」
ボロボロに傷ついたオベリスク・フォースを優しく地面に寝かせ、Kと呼ばれた男はコナミへとデュエルディスクを構え、剣型のプレートを展開する。
コナミもその口元に笑みを描き、対抗するように左腕のデュエルディスクを振るい、空気を裂く。
「「デュエル――!」」
今ここに、激闘の火蓋が、切って下ろされる。交錯する赤と紫、勝者は――どちらか。
――――――
時は少し前に遡る。コナミがオベリスク・フォースとデュエルを繰り広げる中、LDSに所属するエンタメデュエリスト、デニス・マックフィールドの助力を得て、竹田と梅杉を退けた遊矢もまた、遺跡エリアにて、同じ仮面をつけたオベリスク・フォース達とデュエルを行い、勝利したのだが――遊矢は現在、黒い霧を漂わせ、もがき苦しむように叫び続けていた。
「あがっ……ぐぅ、おおおおおっ!デュエル!デュエルデュエルデュエルゥゥゥゥゥッ!!」
「落ち着け遊矢!遊矢!」
権現坂が後ろから羽交い締めにし、何度も呼びかけるも、遊矢には届かず、両の眼を血のような紅に染め、暴れ狂う。
理由は不明だが、原因はオベリスク・フォースとのデュエルだろう。彼等とのデュエルの途中、遊矢の隣にいたユートが怒りを露にし、それが伝染したかのように遊矢の意識を乗っ取ったのだ。だが一概にユートのせいとは言えない。何故ならばユートも何者かに取り憑かれたように姿を消してしまったからだ。
そしてデュエルの最中、遊矢の手に2体の新しい『魔術師』モンスターが発現し、『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』と『ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン』が共鳴、そして2体は新たなる存在へとランクアップを果たしたのだ。
怒りの黒に染まり、逆鱗に触れられたように暴れる竜と共に暴走する遊矢。
どうするべきか――権現坂が思案に駆られた時、その場に力強い仲間が姿を見せる。
「退け、権現坂。自分が目を覚ましてやる」
その男の登場に、権現坂は目を見開き、良く来てくれたと口端を持ち上げる。
紫の癖毛に鋭い目付き、引き締まり、生傷が絶えない肉体には中華風の衣装と闘気を纏ったその男は――。
「勝鬨!」
来る友の救援に、顔を綻ばせる権現坂。この窮地に現れた、頼れる背中を持つ少年の登場だ。喜ばずにはいられない。遊矢も勝鬨の身体から溢れる闘気を察知し、行き場を無くした怒りの矛先を勝鬨へと向ける。
「勝鬨……来てくれたのか」
「無論だ、この自分のデュエルで、遊矢!お前の闇をなぎ払う!」
権現坂の手より抜け出し、勝鬨へとデュエルディスクと闘争の意志を向ける遊矢。それを受けて勝鬨もまた、デュエルディスクを構える。覇王と覇者、2人の覇気が今、ぶつかり、火花を散らす。
闇に生きた者と、闇に堕ちた者のデュエル。勝鬨は遊矢に、あの時の光を取り戻させる為、その拳とカードを振るう。
「よし、ならば俺も……」
「……いや、ここは自分1人に任せてくれ」
同じくデュエルディスクを取り出す権現坂を一瞥し、勝鬨はそれを拒む。一体何故――権現坂が視線を向け、勝鬨が答える。
「これはきっと、自分が越えなければいけない事だ。自分がやらなけばならない事だ」
「……」
その瞳に覚悟を宿し、権現坂に語りかける勝鬨。それを見て権現坂は――。
「……遊矢を頼む」
静かに語りかける権現坂。彼も本当は遊矢を救いたいのだろう。しかし、勝鬨の覚悟を前に、その意志を汲み取る。勝鬨は無言で頷き、遊矢へと向き直る。
相手の準備は万端、互いに闘志を放ち、ぶつかり合う。
「「デュエル!!」」
果たして、その想いは、闇の中に届くのか――。
アホデミアの精鋭、オベリスク・フォース敗れる。
遊矢を救うデュエルは権ちゃんにしようと思ったけどダイジェストで闘ってるので断念、彼にはこれからも主役回がありそうなので、次があるか分からない勝鬨君にしました。1度は闇に生きてますし。
では次回、勝鬨君の勇気が遊矢を救うと信じて!