遊戯王ARC―V TAG FORCE VS   作:鉄豆腐

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ユーリ君覚醒回。


第92話 負けたくないぃぃぃぃぃっ!

アカデミアの上層部しか知らない、暗く閉ざされた地下にて、ユーリとマッドドッグ犬飼のデュエルは続いていた。ダメージを負えば電流が走り、エキサイトする異常な闘い。LPの差は1万以上と言うハンディキャップを抱えながらもユーリは口元に歪んだ笑みを浮かべ、デッキからカードを引き抜く。

 

「アンタを倒して、僕は上に行く!僕のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果でデッキから『融合』をサーチ!これで3枚目だ、僕は『プレデター・プランター』のコストを払わず破壊する!」

 

「今更怖じ気づいたのか!」

 

「そんな訳無いじゃん!罠発動!『活路への希望』!」

 

「何っ――!?」

 

『プレデター・プランター』のライフコストを支払わないユーリを見て、襲い来る電流に怖じ気づいたと笑う犬飼だが、直ぐ様その考えは彼方に吹き飛ばされる。発動されたのはユーリが大嫌いとなった希望の名を持つカード。今更こんなものにすがるなんて皮肉なものだとユーリが鼻を鳴らす。

その効果は今この状況だからこそ輝く、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようなものだ。

 

「LPを1000払い、お互いのLPの差2000につき1枚ドローする。ぐっうぁ……!LPの差は14400……!よって7枚のドロー!」

 

ユーリ LP1300→300 手札4→11

 

「手札を確保する為とは言え、少ないLPを削り、この電流を知って尚、受けに来るか……狂ってるな小僧……!」

 

迸る電流の痛みに堪え、デッキから7枚のカードを引き抜くユーリ。その恐ろしい胆力を見て、歴戦を潜り抜けた犬飼ですらゾクリと背筋を冷たくする。

 

「テメェみたいにイカれた奴は帝王以来だぜ……!」

 

「へぇ、おじさん、帝王と闘った事あるんだ」

 

「……昔の話だ。俺を倒せないお前では、奴には勝てん!」

 

「僕は誰にも負けないさ!もう、誰にも負けちゃいけないんだ!僕は『捕食植物オフリス・スコーピオ』を召喚!」

 

捕食植物オフリス・スコーピオ 攻撃力1200

 

「召喚時効果により、手札の『捕食植物フライ・ヘル』を墓地に送り、デッキからスピノ・ディオネアを特殊召喚!」

 

捕食植物スピノ・ディオネア 攻撃力1800

 

「スピノの効果でコブラに捕食カウンターを乗せる!」

 

グレイドル・コブラ 捕食カウンター0→1 レベル3→1

 

「永続魔法、『超栄養太陽』!オフリス・スコーピオをリリースし、デッキから『捕食植物サンデウ・キンジー』を特殊召喚!」

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

大量の手札に物を言わせ、次々とモンスターを呼び出していくユーリ。召喚されたのはエリマキトカゲのように成長したコケ類の植物だ。このモンスターも『捕食植物』の名を連ねるだけあり、効果は実に凶悪。

 

「永続罠、『捕食惑星』を発動!サンデウ・キンジーがモンスターゾーンに有る限り、捕食カウンターが置かれたモンスターは闇属性として扱う!そして第2の効果発動!このカードと、捕食カウンターが置かれたコブラを融合する!」

 

「何っ――!?」

 

「融合召喚!現れろ!飢えた牙持つ毒龍。『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』ッ!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

ここで漸く姿を見せる、ユーリのデッキ、最強のエースカード。紫色に染められた体躯に赤と黄の珠を散りばめ、背に牙を持つ器官を伸ばし、空腹だと言わんばかりに唾液を落とすおぞましき竜。その圧倒的な威圧感に、会場の誰もが息を呑む。

 

「これが僕の切り札さ!『捕食惑星』の効果で『捕食植物セラセニアント』をサーチ!スターヴ・ヴェノムの効果!融合召喚時、『グレイドル・ドラゴン』の攻撃力吸収!」

 

「墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、防ぐ!」

 

相対する合成竜、『グレイドル・ドラゴン』からエネルギーを食らおうとする。バリアで防いでもガリガリと飢えた餓鬼の爪のように光の壁を引っ掻くは何とも不気味だ。

 

「かわしたか……!でも残念、捕食カウンターの置かれた『グレイドル・ドラゴン』をリリースし、墓地のドロソフィルム・ヒドラを特殊召喚!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

ついに犬飼のモンスター全てを捕食し、ユーリの悪意が剥き出しとなる。『グレイドル・ドラゴン』も『グレイドル・コブラ』も、破壊によって効果を発動するモンスターだ。融合やリリースされては堪ったものじゃない。

 

「『捕食接ぎ木』を発動!墓地のセラセニアントを特殊召喚!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「『融合』を発動!フィールドのセラセニアントと手札の『捕食植物モーレイ・ネペンテス』で融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「セラセニアントの効果で『捕食生成』をサーチ!そして魔法カード、『融合回収』!墓地のスキッド・ドロセーラと『融合』を回収し、発動!手札のプテロペンテスとキメラフレシアを融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴタスペリア』!」

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700

 

並び立つ2体の融合モンスター、雄々しきドラゴン達が宙を舞う。合計攻撃力は8100。ドロソフィルム・ヒドラが戦闘に参加しない事を考えれば少々落ちるが、それでも充分な数値だ。

 

「バトル!スターヴ・ヴェノム、ドラゴタスペリア、スピノでダイレクトアタック!」

 

「ぐっおぉぉぉぉぉっ!?」

 

マッドドッグ犬飼 LP14900→12100→9400→7600

 

一斉攻撃、3体の竜が口から放ったブレスを合わせ、1本の熱線として犬飼を貫く。7300のダメージが電流となって彼の身体を駆け抜ける。

成程、確かにLPが多い方が有利だが、それに伴う痛みはより強大だ。思わずたたらを踏み、震える腕でデュエルディスクを構える犬飼。これで倒れないのは流石と言うべきか。

 

「凄いねおじさん」

 

「ク、ククククク……この程度、何て事は無い……!」

 

「ふぅん?僕はカードを3枚セットし、ターンエンド」

 

ユーリ LP300

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物ドラゴタスペリア』(攻撃表示)『捕食植物スピノ・ディオネア』(攻撃表示)『捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ』(守備表示)

『捕食惑星』セット3

手札4

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズ、キメラフレシアの効果でデッキから『融合回収』をサーチ!」

 

「俺は魔法カード、『命削りの宝札』を発動!3枚ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札0→3

 

「運が良い、俺は更に魔法カード、『貪欲な壺』を発動!墓地の『グレイドル・イーグル』、『グレイドル・アリゲーター』2体、『グレイドル・コブラ』2体をデッキに戻し、2枚ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札2→4

 

ここで大量の手札を確保する犬飼。ユーリの戦術は彼にとって天敵と言える為、このドローラッシュは嬉しい誤算だ。これで手札は4枚、ここまで増えた手札をどこまで使えるか。

 

「俺はモンスターをセット、カードを3枚セットし、ターンエンド。エンドフェイズ、先に『命削りの宝札』の処理をし、『グレイドル・インパクト』の効果で『グレイドル・スライムJr.』をサーチ」

 

マッドドッグ犬飼 LP7600

フィールド セットモンスター

『グレイドル・インパクト』セット3

手札1

 

「僕のターン、ドロー!成程ね、確かにセットモンスターなら捕食カウンターは置けないし、『グレイドル』モンスターならコントロール奪取に繋がる訳だ」

 

「ふん……」

 

ニヤリ、口元を吊り上げて笑みを深めるユーリに、面白くなさそうに鼻を鳴らす犬飼。確かにセットモンスターならば捕食カウンターを置かれて処理される事は無い上、『グレイドル』モンスターと警戒させる事も可能だ。

 

「ま、焦る事は無いさ、僕は『融合回収』を発動!墓地のセラセニアントと『融合』を回収。セラセニアントを召喚」

 

捕食植物セラセニアント 攻撃力100

 

「そして『融合』を発動!フィールドのセラセニアントと手札のダーリング・コブラで融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

「セラセニアントの効果で『プレデター・プランター』をサーチ、墓地の『スキル・プリズナー』を除外し、スターヴ・ヴェノムを守り、バトルだ!スピノ・ディオネアでセットモンスターへ攻撃!」

 

「セットモンスターは『グレイドル・イーグル』!ドラゴタスペリアのコントロールを奪う!」

 

「構わないさ!キメラフレシアでドラゴタスペリアに攻撃!」

 

「罠発動!『デストラクト・ポーション』!ドラゴタスペリアを破壊し、その攻撃力分LPを回復!」

 

マッドドッグ犬飼 LP7600→10300

 

ここでLPを回復するカード、成程、確かにこのカードならば『グレイドル・コブラ』の起動条件となる

 

「キメラフレシアでダイレクトアタック!」

 

「ぐおおおおっ!」

 

マッドドッグ犬飼 LP10300→7800

 

再び犬飼の身体に駆け抜ける電流、強烈なダメージ、回復した分、その反動も大きい。

 

「スターヴ・ヴェノムで攻撃!」

 

「永続罠、『グレイドル・パラサイト』!『グレイドル・コブラ』を特殊召喚!」

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

「メインフェイズ2、キメラフレシアの効果でコブラを除外。ターンエンド」

 

ユーリ LP300

フィールド『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)『捕食植物スピノ・ディオネア』(攻撃表示)

『捕食惑星』セット3

手札5

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、『シャッフル・リボーン』!墓地の『グレイドル・コブラ』を特殊召喚!」

 

グレイドル・コブラ 守備力1000

 

「そして罠発動!『グレイドル・スプリット』!コブラに装備!」

 

グレイドル・コブラ 攻撃力1000→1500

 

「そのまま墓地に送り、装備モンスター破壊!デッキから『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・アリゲーター』を特殊召喚!」

 

グレイドル・イーグル 攻撃力1500

 

グレイドル・アリゲーター 守備力1500

 

「コブラの効果でスターヴ・ヴェノムのコントロールを奪う!」

 

「くっ、スターヴ・ヴェノム……!酷いじゃないかおじさん!」

 

「聞く耳持たんな!」

 

流れるような見事なプレイング、2体のモンスターを展開し、自身のエースモンスターを奪う犬飼へと、ユーリが眉根を寄せて非難する。無論そんな事思っても無いが。

 

「『グレイドル・インパクト』の効果!アリゲーターと左のセットカードを破壊!アリゲーターの効果でスピノ・ディオネアのコントロールを奪う!」

 

「そんな……っ!スピノ・ディオネアまで……!」

 

「ククク、これだけで終わるものか……!フィールドの『グレイドル・イーグル』と『グレイドル・アリゲーター』を破壊し、墓地の『グレイドル・スライム』を蘇生!」

 

グレイドル・スライム 守備力2000

 

「アリゲーターを破壊した事でスピノ・ディオネアは破壊され、スライムの効果で『グレイドル・アリゲーター』蘇生!破壊されたイーグルの効果でキメラフレシアのコントロールを得る!」

 

グレイドル・アリゲーター 守備力1500

 

「く、キメラフレシアも……!」

 

「まだだ!レベル3のアリゲーターにレベル5のスライムをチューニング!シンクロ召喚!『グレイドル・ドラゴン』!!」

 

グレイドル・ドラゴン 攻撃力3000

 

ユーリの融合モンスターを奪った上、犬飼のフィールドに彼のエースモンスターが降臨する。流石にここでのこのカードは不味い。ユーリは額から汗を伝わせ合成竜を睨み付ける。

 

「ドラゴンの効果で『捕食惑星』とセットカードを破壊!」

 

「速攻魔法、『捕食生成』!手札から『捕食植物セラセニアント』、『捕食植物スキッド・ドロセーラ』、『プレデター・プランター』を公開し、相手フィールドのモンスター3体に捕食カウンターを乗せる!」

 

グレイドル・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 捕食カウンター0→1 レベル8→1

 

捕食植物キメラフレシア 捕食カウンター0→1 レベル7→1

 

「フリーチェーンのカードだったか、だが結果は変わらん!やれ!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』!主に引導を渡してやれ!」

 

スターヴ・ヴェノムが背から赤く輝く木の枝のような線を描き、強大なエネルギーを放出しながらユーリに迫る。最悪の展開、このままだとユーリのLPが削られ、敗北してしまう。会場中がエキサイトし、誰もがそう思った時――ユーリは必死で食らいつく。

 

「罠発動!『威嚇する咆哮』!」

 

ゴウッ、瞬間、ユーリの小さき身体、その背から激しき突風が吹き荒れ、その行く手を遮る。間一髪、すんでの所で逃れた。

 

「チッ、墓地の『シャッフル・リボーン』を除外し、『グレイドル・インパクト』をデッキに戻し、ドロー!」

 

マッドドッグ犬飼 手札1→2

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。『シャッフル・リボーン』の効果で手札を1枚除外」

 

マッドドッグ犬飼 LP7800

フィールド『グレイドルドラゴン』(攻撃表示)『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』(攻撃表示)『捕食植物キメラフレシア』(攻撃表示)

『グレイドル・イーグル』『グレイドル・コブラ』『グレイドル・パラサイト』セット1

手札0

 

頼みの綱、自身のエースモンスターを奪われ、モンスター0、圧倒的な不利な状況に、ユーリの胸が激しく脈打つ。

これは――恐怖だ。黒コナミとのデュエルにより、ユーリに刻まれたトラウマ染みた恐怖の記憶。それを思い起こし、ユーリの身体から嫌な汗が流れ、その呼吸が荒くなっていく。

 

怖い、負けるのが。あの時の恐怖が鮮明に蘇り、それを拒絶しようと胸の奥から何かが暴れ出す。熱い、会場中のもっともっとと急かす声を聞き、黒い何かがユーリを蝕む。

力が、欲しい。全てを壊す、圧倒的な力が。その望みに応えるように――ユーリの右の眼が、紅く燃え上がり――黄金の輝きを放つ。

 

『――力が、欲しいか』

 

欲しい。全てを捨てても力が欲しい。だから――ユーリはその、悪魔の囁きに、手を伸ばす。

 

「欲しい……力が欲しい!僕は、僕は……負けたくないぃぃぃぃぃっ!!」

 

ゴウッ、胸の奥から膨れ上がった力を解放し、漆黒に染まった波動がその身体中から放出されていく。契約は成された。ユーリは溢れる快感に身を任せ、その深紅の眼と黄金の眼、2色の虹彩、オッドアイで犬飼を睨む。

 

「何だ……何が起こっている……!?」

 

目の前で起こる異常、台風の中にいるような感覚に犬飼が目を見開き、その背に冷や汗が流れる。これは――恐怖。生物の原始的な本能が黒い雨となって降り注ぎ、この場にいる全ての者に伝染していく。

それは――この場だけでは無い。遠い次元、離れた地、覇王の依代が何かが目覚めた産声を聞く。

 

――――――

 

「ぐっ……う……!何だ……この感覚……!?」

 

『……ぁぐ……胸の奥が、締め付けられるような――』

 

スタンダード次元にいる、エンタメデュエリストである少年と、黒き地のデュエリストへと。

 

――――――

 

「ぐぁ……っ何だ、こりゃあ――クリアウィングがまた――」

 

シンクロ次元にいる、D-ホイーラーへと。

 

――――――

 

彼等の脳裏に、巨大な竜と、それに対峙する、涙を流す少女の姿が写っては消えていく。これが一体何かは分からない。

だが3人は――3人の意志は、自分が倒さねばならない者の産声だと、確かに感じ取っていた。1人の依代を除いて――。

 

「クク、フフフ……力が溢れ出て来る……最高、最高だよこれ!これなら――怖いもの、全部壊せる!」

 

『壊して壊して壊し尽くす……我を望んだお前達を!その望みに、絶望で応える!』

 

ユーリの口から、2人の声が聞こえる。ユーリ本人の声と、何者かの声、喜色に溢れたそれはユーリから発せられ、身に纏う黒の障気を右腕へと集束していく。

 

『さぁ、我の!』

 

「僕のターン、ドロォォォォォッ!!」

 

そして右手をデッキトップに翳し、勢い良く引き抜く。ゴウッ、カードは宙に放物線を描き、更に暗黒に彩られたアークが追従し、ユーリを中心として暴風が吹き荒れる。突如起こされた激しき突風、犬飼はそれを両腕をクロスさせ、両の足を踏ん張って堪えようとするも、後方に吹き飛ばされて金網へとぶつかる。

 

「ぐ――!」

 

ジンジンと、金網に背を打ち付けた事で痛む。上半身に何も着用してない為、当然の痛みだが鍛えている為、出血はしない。ドローだけでこの風圧、その恐るべき変化に犬飼がギリリと歯軋りを鳴らす。

 

「僕は永続魔法、『プレデター・プランター』を発動!セラセニアントを蘇生!」

 

捕食植物セラセニアント 守備力600

 

「スターヴ・ヴェノムをリリースし、ドロソフィルム・ヒドラも蘇生!」

 

捕食植物ドロソフィルム・ヒドラ 守備力2300

 

自身のエースモンスターだろうと容赦無し、一瞬黄金の眼が悲痛に揺れたが、これでスターヴ・ヴェノムがユーリの手元に戻った。だがまだだ、ユーリはその手を進める。

 

「墓地の『置換融合』を除外し、スターヴ・ヴェノムをエクストラデッキに戻し、ドロー!」

 

ユーリ 手札5→6

 

『『捕食植物プテロペンテス』を召喚!』

 

捕食植物プテロペンテス 攻撃力300

 

『その効果でキメラフレシアを奪う!更に永続魔法、『超栄養太陽』!プテロペンテスをリリース、『捕食植物サンデウ・キンジー』をリクルート!』

 

捕食植物サンデウ・キンジー 守備力200

 

「魔法カード、『融合回収』!『融合』とキメラフレシアをエクストラデッキに!発動!セラセニアントとドロソフィルム・ヒドラで融合!融合召喚!『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』ッ!!」

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800

 

再びフィールドに現れる『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。ユーリの切り札が雄々しき遠吠えを天へと放つ。身に纏いたるは漆黒の障気、その圧倒的な力の負荷か、スターヴ・ヴェノムの右目がパキリとひび割れ、深紅の光を放射状に放つ。より恐ろしく、おぞましく隻眼となった竜が喉を唸らせる。

 

『効果発動!『グレイドル・ドラゴン』の攻撃力を奪う!』

 

スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン 攻撃力2800→5800

 

ギュルリ、スターヴ・ヴェノムの右目から放たれた光が『グレイドル・ドラゴン』の全身を貫き、エネルギーを奪う。失われた隻眼が今度は白い光となってフィールドを照らす。

 

「セラセニアントの効果で『捕食生成』をサーチ!そしてサンデウ・キンジーと『グレイドル・ドラゴン』で融合!融合召喚!『捕食植物キメラフレシア』!」

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

『まだだ!墓地の『捕食惑星』を除外し、フィールドのキメラフレシアと手札のモーレイ・ネペンテスを融合!融合召喚!『捕食植物ドラゴタスペリア』!』

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700

 

「魔法カード、『手札抹殺』!手札を入れ換え、速攻魔法、『神秘の中華なべ』!ドラゴタスペリアをリリースし、攻撃力分、LPを回復!」

 

ユーリ LP300→3000

 

「装備魔法、『再融合』2枚と『捕食接ぎ木』!ドラゴタスペリア2体とキメラフレシア蘇生!」

 

ユーリLP3000→1400

 

捕食植物ドラゴタスペリア 攻撃力2700×2

 

捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

 

オールフュージョン、ユーリのフィールドに5体の融合モンスターが集う。隻眼と化し、邪悪なオーラを纏った『スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン』。

竜の姿を模し、巨大な翼を広げる『捕食植物ドラゴタスペリア』2体。

悪臭を撒き散らす巨大な花弁を咲かせた『捕食植物キメラフレシア』2体。

とんでも無い布陣が犬飼を睨む。だが大丈夫だ、犬飼は内心汗を流しながらも安心感があった。彼のセットカードは『聖なるバリア―ミラーフォース』。攻撃された時、全ての攻撃表示モンスターを破壊する、攻撃反応系でも強力なカード、なのだが――。

 

『バトル、この瞬間、速攻魔法、『封魔の矢』!ターン終了時まで、互いに魔法、罠の効果を発動出来ない!』

 

その希望も――漆黒の絶望に呑み込まれる。ユーリの手札から発動されるカードにより、2本の矢が飛び出して犬飼のカードを地に縫い付ける。

これでは――『グレイドル・パラサイト』も発動出来ない。

用意周到、僅かな甘ささえも見逃さないプレイング。これは帝王――いや、覇王のデュエル。今このアカデミアに、2人目の覇王が生まれたのだ。

 

「ク、フハハハハ!何て奴だ!お前ならばきっと――帝王まで、届く」

 

「素晴らしい!予想以上ですよユーリ君!」

 

恐怖を力へと変え、全てを叩き伏せる王のデュエル。力を渇望する貪欲なる修羅を見て、犬飼とドクトルが喜びの声を上げる。

新たに地下に登場したルーキー。それは、このデュエルを見ていた帝王の口角を上げるに充分なものだった。

 

「全てのモンスターで攻撃!グォレンダァ!」

 

マッドドッグ犬飼 LP7800→0

 

漆黒の閃光が犬飼を呑み込み電撃が駆け抜ける。合計ダメージは16200。だが――ユーリには、余りにもお粗末な数値。彼は右眼を本来の紅に戻し、笑いながら気絶する犬飼に背を向け、デュエルをフィールドから去っていく。

これでユーリのLPは5400。ランキングは50位。まだ修羅の道は――遠い。

 

――――――

 

アカデミアのとある一室にて、そこではプロフェッサー、赤馬 零王を含む数人の幹部達が揃っていた。とは言え誰も彼もが顔が見えないローブを纏い、それっぽい雰囲気を出している。重厚な甲冑を纏う者までいる始末だ。

零王は相変わらず、雰囲気だけはそれっぽいなぁと思いながらも各々に視線を移す。

 

「全員では無いか、総司令はどうした?」

 

「またエクシーズ次元じゃないか?あそこはもう、うん、魔境になっちまっているのに……」

 

零王の問いに答えたのは灰色のローブに黒い仮面を纏い、魔術師のような出で立ちをした男、アムナエルだ。仮面越しでも分かるような深い溜め息を溢し、やれやれと首を振っている。

 

「バレットは謹慎、プラシドはシンクロ次元……バリアンはエクシーズ次元として、〝彼〟はどうした?」

 

「私ならここにいる」

 

スッ、キョロキョロと辺りを見渡す零王の背後より、真っ白なローブと仮面を被った男、アムナエルがボスと呼ぶ男が現れる。心臓に悪い登場だ。流石の零王も肩を揺らして口元を引き吊らせる。

 

「すまない、遅れたか、零王」

 

「あ、ああ、いや、問題ない」

 

この会話から2人が対等な関係にあると伺える。アカデミアのボス、プロフェッサーと肩を並べる彼は何者なのだろうと、一部の者から興味は尽きない。当然――それが面白くない者もいるが。

 

「貴様、プロフェッサーにその口の聞き方は何だ!」

 

そこで彼等の関係を知らないからか、2本の触覚のような髪を伸ばし、口髭をたくわえ、軍服を纏った男、サンダースが鞭を突きつけて怒りを露にする。

彼からすればプロフェッサーの尊敬よりも自分の知らない新入りがプロフェッサーに馴れ馴れしいのが気に食わないのだろう。男がサンダースよりも若いのもその一因かもしれない。

 

「良いんだサンダース。彼は私と志を同じくする者、彼の言う通りにすれば失敗はない」

 

「ぐっぬぅぅ……!」

 

零王にこうして嗜められては引き下がるしかない。納得はいかないと言った様子でぐぬぬと鞭を曲げ、怒りの矛先を失って着席する。騒がしいおっさんだな、とアムナエルは欠伸を堪え、虚空を見つめる。

新入りと言えば彼もそうだ。それに零王が呟いたプラシドとバリアンも。彼等は正確にはプロフェッサーの部下では無く、白仮面のボスの同士としてアカデミアに力を貸しているに過ぎない。

 

「退屈そうね、アムナエル」

 

「……響先生か」

 

そんなアムナエルに声をかけたのは隣に座った美女、響姉弟の姉、みどりだ。彼女も退屈そうに溜め息をつき、その隣に座り冷たい目で黙る弟、紅葉を見つめる。

アムナエルとしては彼等がアカデミアに手を貸しているのが不思議でならなかったが、紅葉のこの変貌を見て、今は納得している。

 

そんな中だった。プロフェッサーの隣にソリッドビジョンのウィンドウが開き、切れ長の目に高い鼻を持った男性が写り出されたのは。

 

『赤馬氏、午後からはD-ホイールこれくしょん、Dこれの協力プレイと言っていたでしょう。私とエクシーズ次元の彼も待ちわびているのですよ』

 

「おおそうだった!」

 

何やってんだこのおっさん。その場全員が考え、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。

 

「何やってんだこのハゲ」

 

否、漆黒の、刺々しい甲冑を纏った男、覇王だけは思わず口に出してしまっていた。後で減給である。

話を戻す。ウィンドウから現れた男、名はジャン・ミシェル・ロジェ。アカデミアにおいてシンクロ次元の担当を任された男だ。つまりシンクロ次元においてのアカデミアの行動の権限は彼が持っている。こうして会話していれば分かるが、彼と零王はネトゲ仲間である。どうでも良いが。

 

『全く、会議があるならそう言っていただきたい、で、今回は一体何なのですか?』

 

「すまないロジェ氏、今回は対ランサーズ小隊の設立と――」

 

娘これくしょんの再収集だ――。

 

キレ気味に真顔で言い放った零王に――その場の空気が凍りついたのは言うまでも無いだろう。

 

「何言ってんだこのハゲ」

 

――――――

 

一方、スタンダード次元、自身の娘これくしょんのついでのように対小隊の設立案が出されているとは思ってもみないランサーズのメンバーは、ついに全員揃って次元移動を開始しようとしていた。

目的地は――シンクロ次元、これはアカデミアに対抗する為、シンクロ次元で仲間を集める事にある。そしてもう1つは、シンクロ次元に向かったと思われる、柊 柚子の奪還。アカデミアの目的は柚子達、ならば彼女こそが優先事項だ。

 

「皆、丸太は持ったな!?」

 

「持つか!」

 

こんな状況だろうとボケをかますコナミに対し、沢渡がツッコム。相変わらず緊張と言う言葉を知らない2人を見て、遊矢がクスリと微笑む。確かにこれからどんな事が起こるか分からない。

それでも――ここにいる皆なら、どんな逆境だって乗り越えられそうだ。榊 遊矢、コナミ、赤馬 零児、赤馬、零羅、権現坂 昇、沢渡 シンゴ、風魔 月影、デニス・マックフィールド、黒咲 隼、セレナ、アリト、何故かついてきた柿本、山部、大伴。この3人がいないと沢渡が弱体化してしまう為、仕方なく非戦闘員として赤馬が入れたらしい。

 

何にせよ――遊矢は楽しみなのだ。まだ見ぬ強敵、まだ見ぬ仲間、彼等との出会いが遊矢をワクワクさせる。さぁ、行こう――シンクロ次元へ――。

 

「ゲートオープン!シンクロ次元へGO!」

 

ランサーズは、新たな世界へ飛び出す――。

 

――――――

 

気がつけば、コナミはどこかも分からない真っ暗な空間に放り出されていた。ああ、また何時もの夢かと思うが、次の瞬間、それは否定される。

ここは真っ暗な空間ではない。上下左右、全てが闇、しかしその中で輝く点。遠くで炎を吹き上げる真っ赤な球体。そして――母なる青い星。

 

「宇宙……!」

 

そう、宇宙。何故コナミがここにいるかは分からない。意味不明で混乱する。次元移動の際にスペースコナミに進化するドン!とか思ったのがいけなかったのだろうか、そうなんだろうなと呑気な事を考えながら、自身の立つ透明な道を進む。

ここが本物の宇宙なら脱出不可能。閉じ込められた!のだが、ここには空気も道もある。ようするにハリボテなのだろう。出口を探し、コナミは進む。そんな、時だった。

 

「モォォォォォメントッ!」

 

コナミの目の前にアホそうな男が現れ、アホそうな台詞をほざいたのは。

 

 




人物紹介18

マッドドッグ犬飼
所属 アカデミア
やたら頑丈な身体を持った気の良いおっさん。アカデミアの地下でチュートリアル的なものの担当、過去4回位LPが0になっているがそのタフさで何度もデュエルをする辺り、地下の人間の逞しさが見える。
過去に新人時代の帝王を追い詰めた事があるものの、それが原因となって帝王はヘル化されて現帝王となった。しかし自分のお蔭で新人が覚醒する事については誇りに思っている様子。教官とかに向いているのかもしれない。
使用デッキは『グレイドル』。エースカードは『グレイドル・ドラゴン』。

と言う訳でランサーズには沢渡さんの子分もついてきます。この3人がいないと沢渡さんが拗ねるから……。ブリーチにいたマスキュリス?みたいな感じです。子分が応援して沢渡さんは真の強さを発揮する的な。いざデュエルとなれば沢渡さんに任せてやいのやいの応援します。尚自分達はデュエルを仕掛けられないように逃げる模様。ある意味無敵です。

蛇足な話、アカデミアの教科担当は以下となってます
コンマイ語 覇王
実践訓練 バレット
経済 ハゲ
英語 総司令
生物 ドクトル
数学 紅葉
国語 みどり
体育 サンダース
歴史 地理 キャプテンソロ
因みに勲章おじさんがいない間の実践はサンダース担当です。この人はバレットさんをライバル視していますが、相手にされてません。
その他にも教員はいますし、何人か謎のエンタメおじさんにより、ヘッドハンティングされ裏切った人もいます。
アカデミアはプロフェッサー直々に教鞭を取り、優秀な人員を育てる所。ハノイの何ちゃらよりオベリスク・フォースとなり、仮面の奥に紳士的な心を隠した貴方を待っています。


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