最初はΩRASとのクロスを考えましたが、出てくるポケモンや登場キャラを考えて上でカロス地方の話にしました!
ご覧ください。
嗚呼、退屈だ。
何時までも何時までも降り続けては、やむことを知らない雪。
雲の割れ目から時々指される月光が、降り積もった雪に反射して美しい輝きが表れる。
そんな光輝く白銀の世界の山頂で一人の赤い帽子、赤い服の青年は思った。
退屈だと。
もうここに来て何年経ったのか分からない。一年程しか経ってないような気がするし、もしかしたら十年以上過ぎたのかもしれない。雪の降り止まないこの山に過ごしていたら、何時しか時の流れが分からなくなるくらいにこの場所に青年は立っていた。
青年は空を見上げながらこれまでことを思い出す。
今までに数多くのトレーナー達とのバトルをやりあってきた。胸が高鳴り、全身という全身の血が騒ぎたて、炎のように熱く、燃え上がるような。あの感覚が。
その感覚が気持ちよくて堪らなかった。
勝っても負けても良いバトルの後ならなんとも言えない高揚感が体が満たしていた。
勝ってば次の相手を探し求めて旅をして、負けたら修行してリベンジバトルと、それを繰り返してきた。
誰だってそうだ。強い奴、弱い奴関係なく、あの感じを知っている者ならば誰だってそれを繰り返しすのは。
永遠とやっても飽きることなく、ただただ無我夢中で戦い続けた。
もちろん、自分一人の力でやってこれたとは思わない。
ここに自分を信じてくれる、仲間が、相棒が、友達が、ライバルが、家族が、皆がいてくれたから何処まで強くなることができた。
だからだろう、
俺は
今
酷く
退屈している。
青年は強くなりすぎたのだ。
少年の頃から戦うことに夢中になり旅をし修行を重ねていき、そして、最年少でカントーリーグを優勝し、チャンピオンとなった。
ライバル達との幾多数多の熾烈なバトルとバトル。勝てば勝つにつれて、より激しく、より燃え上がる展開が繰り広げられるという、夢のような時間。
チャンピオンになった、少年はそれが永遠に続けばいいと思っていた。
そして、それは叶うことになる。
チャンピオンになった彼に待っていたのは次々とやってくる強力な挑戦者達。見たことのないポケモンに、まだ知らない技の数々。
そのことに少年の心が踊り、たまらず戦い続けては、勝ち続けた少年。
気が付いたとき少年が辿り着いたのはーーー誰もいない頂点。
強くなりすぎた彼は、誰も挑戦者が来なくなり、永い永い夢から覚めたように彼の心の火を急激にさめていく。
しかし、それでも強さを追求する彼は、凶暴で強力なポケモンが生息している危険区である、この白銀の世界ーーーシロガネ山へと。
危険区であって野生のポケモンくらいしか存在せず、そこのポケモン達と戦い続けたのは二年近く続いた。
その二年間の間は誰も少年と戦ってくれる相手がいなくなっとのは。
そして、再び戦える日が来たのは。
『僕はゴールド!あなたを倒しに来ました!』
オーダイル使いのワカバタウンからの挑戦者。ジョウトリーグを勝ち抜いてはチャンピオンのワタルを倒しては、更にカントー地方のジムをも制覇したトレーナーだった。
久しぶりに心が踊る予感をさせる相手であり、事実、バトルは一進一退の白熱な戦いだった。
その日境に再び数々の挑戦者が現れる。
ジョウト地方のオーダイルを連れた少年、
ホウエン地方のジュカイン使いの白い帽子の少年、
シンオウ地方のゴウカザル使いの赤いコートの少女、
イッシュ地方のダイケンキ使いの少年、
ジャローダ使いのツインテールの少女。
数々の地方を強者集い、彼へと挑戦する。
が、
(満たされないんだよ!その程度じゃあ!!)
可能性を持った挑戦者らは、所詮は可能性のみの実力だった。
彼の心に再び、火を灯すことをすることができてもそのまま炎へと昇華させてるところまでは逝かなかった。
彼の強さは絶対だった。
(嗚呼、……頼むよ。頼むからもう一度、俺に火をつけてさせてくれよ。全身の血が騒いで沸騰するかのように、熱く燃え上がらせてくれよ!
でなきゃ)
退屈のあまり
気が
狂ちまう。
最強であることの苦痛。
不完全燃焼による絶望。
対等の者のいない憤怒。
彼を悩ませていたのは。
彼の心は何時しか、この白銀の世界のように冷たくなっては、完全に消沈しかねていた。
しかし、それでも彼の心の灯火が完全に消えないのは………
。
「……ピカチュウ」
「ピカー!!」
ふいに、腰のボールを取り出してはポケモンが現れる。ボールから表れたポケモンは黄色い体のネズミポケモンーーーピカチュウだった。
「"かみなり"」
青年の指示に即座に反応したピカチュウは指を上空に向けて、そのまま振り落とす。
すると、上空の雲からは雷雲でないのにゴゴゴと、唸りあげる強力な電圧を秘めた雷がピカチュウの指差す方へと落雷した。
雷が完全に落ちる前に落下位置から一瞬、雪の中から黒い影が現れて動き、消えた。
落雷した瞬間、降り積もった雪が弾けて飛び、景色は煙のような粉雪が舞って辺りは見えなくなる。
煙が晴れたあと、その場所はとてもピカチュウが放ったとは思えない、かみなりで焼け焦げた黒い地面と走る電流の波。
しかし、その場所には何もいなかった。
「ピッカ!」
「分かっている」
警戒体制をとったピカチュウのかけ声に反応して視線を移す。
移した視線の先にいたのは一匹のポケモン。全身は黒であるが、鶏冠のような部分と耳の部分だけは赤く、鋭利な爪が特徴的なポケモンーーーかぎつめポケモンのマニューラだ。
「マニュ!」
仁王立ちに不敵な笑みを浮かべながら自慢の爪でチョイチョイと、挑発的なマニューラ。
青年は安い挑発とは思いつつも考えた。
(何がしたいのかよく分からないが丁度いい、退屈していたところだ。乗ってやるよ、お前の挑戦に!)
「ピカチュウ、"ボルテッカー"」
「ピッカ!」
ピカチュウは地を蹴り出して駆ける。
「ピかピカピカ、ピッカ!」と雄叫びを上げながらぐんぐんと、加速し続けるピカチュウ。
加速することで起こる摩擦力から作り出される静電気とピカチュウの本来持つ電気が交わり、ピカチュウの全身は電気を纏った。
高速の速さと纏った電気を直接ぶつける。ただ、単純な攻撃にして、ピカチュウにとっての最強の矛といってもいい、その技は"ボルテッカー"。
ピカチュウのボルテッカーはマニューラへと一直線へと向かう。
「マニュ!」
「ピカ!?」
高速のスピードで放たれたボルテッカーはマニューラはギリギリ接近を許しながらも、斜め後ろへと跳んで回避される。
「逃がすな!」
「ピカ!!」
ピカチュウは強引に軌道を曲げてマニューラの方へと駆けて、マニューラに命中させた。
「マニュー!?」
ボルテッカーを直撃したマニューラは吹き飛ばされた。
「ーーーッピカ!」
技を決めたピカチュウだったがその表情少し歪ませていた。
ボルテッカーによる反動のダメージだ。
ボルテッカーは最大電圧を纏って高速のスピードで繰り出される強力な技であり、その反面発動の際に反動のダメージを受けることになる。
「マニュ」
吹き飛ばされたマニューラはダメージを堪えて、地面に落ちると同時に地中の中へと潜った。
地中の中を掘り進んで行く、その技は"あなをほる"。
先程、青年がピカチュウに"かみなり"を放ったのは、"あなをほる"で雪の中から移動して青年へと明白な狙いを定めた攻撃だったからだ。防衛としての"かみなり"だ。
「ピカチュウ、どこからくるか探り当てろ」
「ピカ」
ピカチュウは五感の全てをフル活動させての極限の集中力を発揮させた。
目で移動中で微かに揺れ動く雪を観察し、耳で掘り進んで行く地面を聞き分けて、鼻で空気流れを感じとり、肌で地面の振動を察知させる。
……………………ボコッ。
そして、ピカチュウの右後ろ足の地面が微かに動いた。
「跳べ!」
地面を蹴り出して大きく跳躍する、ピカチュウ。
地面から自慢の爪をアッパー気味で飛び上がってきたマニューラ。しかし本来当たるはずだった"あなをほる"は直撃する前にジャンプしたピカチュウには不発で終わる。
「マニュ!?」
「"アイアンテール"」
ピカチュウの尻尾は鋼のように光沢が現れ、輝き、硬い鋼の尾ができ上がる。
鋼の硬度を持つ尻尾は弧を描き、そのままマニューラの額へとクリーヒットする。
悪、氷タイプのマニューラにとって鋼の技である"アイアンテール"は効果は抜群。
たまらずにマニューラは地面へと叩きつけられて、その後起き上がる気配などない。
戦闘不能。
青年のバトル終えた後、はぁー、と白い息を吐く。
(駄目なんだよ、こんなじゃあ……。ちっとも燃え上がれないんだよ)
青年の心は勝利の要因よりも、勝負そのもの終えた失望感の方が大きかった。
青年の灯火が辛うじて消え去らないのは、強者であることを知りつつもそれでもなお挑む者が存在するからだ。
それがトレーナーであろうと、野生のポケモンであろうと。
故に青年は思う。
(誰でもいい! 誰でもいいから俺に)
ーーー敗北をくれ!!!
パチパチと、静寂な白い世界に拍手の音が響く。
「いや~、凄いね君! 野生のマニューラ相手にピカチュウでノーダメージで勝つなんて。ホント、見事なお手前だよ~」
「………………」
ゆっくりと青年は声のするの方へと振り向く。
そこにいたのは白い空間には圧倒的な異色を醸し出す、黒ダッフルコートを着た青年と同い年くらいの人間。顔はフードを被っていて見えないが、抑揚のある高い声からして、それが女性だとわかる。
「……お前の指図か」
「ん~、何のことかな?」
青年は質問に白々しく、とぼけて返す彼女。少年は目を細目ながら言う。
「このマニューラに指示をして襲わせたのはお前か、と聞いている」
青年はありとあらゆる相手と幾千と戦い続けてきた、百戦錬磨の強者。
戦うのことに磨き懸けてきた彼にとって、相手のポケモンが野生か、トレーナーのポケモンかを見抜くことは動作もない。
時々いるのだ。
彼を倒すために野生のポケモンに見せかけて不意討ちで勝とうとする輩が。
(まぁ、その時は大抵様子見だったり、不意討ちの一匹を相手取っているときにもう一匹出してくるだがな)
なので青年は彼女のことを不思議に思った。もう一匹も出さずに姿を堂々と現したのは。
対して、彼女はというと。
「ありゃりゃ、バレちゃったか~。"ふいうち"ならぬ不意討ちで勝とうと思ったのに」
調子抜けにおちゃらけながら自信の行動を不意討ちのあることを白状した。
ハハハ、と実に愉快そうに笑う。
「ーーーでも、その強さは噂を証明したことになったね。赤い幽霊さん」
「………………」
「いやぁ~、何でも『シロガネ山住む、赤い幽霊!?』ってゴシップ雑誌の表紙を見てさ。それで暇潰しがてら色々調べてみればあれやこれやで噂の根掘り葉掘り出てくるわ。『敗北を知らない』とか『地方のトレーナーを泣かせた』とか『ピカチュウの枠を越えた、雷獣使い』とか全部、嘘くさい情報でさ、正直、信じてなかったけど」
もう、特にピカチュウは噂なんて信じてなかったけどね。ホント、お腹が痛くなるくらい笑った笑った。と、思い出すかのようにさらに笑う彼女。対して一切表情を変えないに青年は沈黙を保つ。
「けど、実際に存在したんだね。ねぇ、ーーーマサラタウンのレッド君」
「…………」
雪が止み、空気の流れが変わる。冷たい風が彼らの二人の頬を凍てつかせるかのように吹く。
しかし、それを無視するかのように青年、レッドは黙って聞き、彼女は続ける。
「赤い幽霊の正体は、君だったんだね」
「…………で」
口を閉じていた青年、レッドの口が開く。
「で、お前は俺に何のようだ。まさか、噂の真偽だけを確かめにきたってわけじゃないんだろう?」
「う~ん正直、ホントにそれだけを確かめにきたってところは否定しないな」
私ってこう見えてけっこうミーハーな女だよ、と誤魔化すよう笑う。
まるで近くのフレンドリーショップに立ち寄ったから道具を買っていこう、というくらいの軽い調子で言う彼女。
だが、そんな軽い気持ちで来れる場所では決してない。
ここはシロガネ山。
カントー地方とジョウト地方の間に挟まれて存在する危険区域。通常の野生のポケモンよりも、凶暴な個体が多く存在する場所。入れるのは四天王クラスの実力を持つものしか許されず、並みのトレーナーでは足を運ばれないように警備所が設けられるくらいの場所だ。
故に彼はこの場所に居座り、彼に挑戦するトレーナー待っている。
噂話程度の真偽確かめるためだけに簡単に来れる場所ではないのだ。
「…………気まぐれでここまでくるなんて相当変わっているな」
「えー、こんなところに住んでいる君には言われたくないな~。というか、君寒くないの?」
何でこの雪山の山頂でそんな薄着で平気なの、もしかしてホントに幽霊じゃないの?
冗談半分本気の心配半分で聞いてくる彼女に対して、レッドは「どうだろうな」と返す。
「もし、仮に俺が幽霊だとしてそうなったらお前はどうするつもりだ?」
「そうだったら、ん~。良心的な優しさで君をここで成仏させてあげよっかな~♪
ーーーねぇ」
背筋を凍らすほどの、ゾクッとするような声色。
彼女の微笑みが先程とは得って変わり、年齢に似合った妖艶な笑みから嗜虐的で暴力的な悪魔のような笑みになる。
グッ、と空気が重くなる。止んでいた雪が再び降り始めて、今度は強く強く吹雪が荒れる。
極寒の寒さのなか呼吸することすら辛い、困難な空間のなかで彼は思った。
(灯った……)
自身の心の奥底にある、灯火が不思議に反応したことに気づいた。
そして、第六感がけたたましいくらいの勢いでアラームが告げてくる。
彼女は自分にふさわしい相手だと。
思わず、頬が緩みそうになるのを押さえつける。
(嗚呼、この感じ、久しぶりに来たな。火が灯る、この感じ。でも、駄目なんだよ。灯るだけじゃダメなんだ。もっと熱く、もっと獰猛に、もっと荒々しく、もっともっと!)
燃や
し
てくれ
よ
!!!
久しぶりの強者の予感に全身が疼いてくるレッド。
それを見た彼女は「いいね。それ」と言う。
「やっぱり幽霊なんかじゃないね。君は正に……そう、"本物"だね」
素敵な顔だよとクスッと今までにない、可愛らしい笑顔で答えた。
「…………なあ、幽霊でないなら、俺とバトルしてくれないのか?」
自分で言っておきながらまるで子供が駄々をこねるようだなと思った。
彼女は返す。
「いいやするよ。幽霊なんかの君よりも、今の君の方が素敵だからね。だからーーー」
ーーー壊れるまで遊んであげる。
彼女の背後から新たな黒い影が現れる。
マニューラとは違い、大きくて浮かんでいて、凶悪そうな顔をしたポケモンが。
そのポケモンの一番の特徴はまず頭が3つと六枚の黒い翼。まるでどこかの神話にででくる天使が堕天するかのように強調し禍々しさ醸し出す、破壊の化身のようなポケモン。
きょうぼうポケモンのサザンドラだ。
「ギャアアアアァァァァーーーー!!!」
地が震えるかのような雄叫びが響き、それを合図としてバトルが始まった。
「ピカチュウ、"アイアンテール"!!」
先制をとったのはレッドだった。
雪原の地を高速の速さで駆け抜ける黄色の影。
サザンドラに接近し、高々と跳んでは頭上を獲る。
「ピッカー!!」
銀色に輝く、鋼の尾がサザンドラの脳天に直撃してたまらず雪の地面に落ちる。
「ピゅ~、やるね~。それホントにピカチュウ?」
改造とかゴリチュウとかじゃなくて?と、自分のポケモンが一撃をもらったことを気にせず、呑気そうに訳のわからないこと言ってくる。
「正真正銘、トキワの森出身の何処にでもいるピカチュウだ。"かみなり"!!」
まだ空中にいたピカチュウは指を空に向け、降り下ろす。
ゴゴゴと、唸りをあげる雷鳴が白き大地にへと落雷する。
「ーーーサザンドラ、"だいもんじ"」
雪の中から三頭の六枚羽の黒き翼竜が飛び上がり、上空へと"大"の文字を描いた炎の塊が打ち上げられる。
地より押し上がる高温の炎と、上空より落ちる高電圧の雷がぶつかりあい、相殺する。
威力は互角。
凄まじい衝撃ができ、爆風で視界が遮られる。
爆風が修まると同時にレッドはピカチュウの位置を確認をとる。ピカチュウはまだ空に浮かんでいた。
爆風の衝撃でさらに上空へと飛ばされたのだ。
「アハハ、"そらをとぶ"まで使えるなんて君のピカチュウはどれだけ万能なのよ」
あと、なみのりとかも使えるじゃないの?とおちゃらけに言ってくる。
でも。
「でも、本当に空を飛べるならこれは避けられるよね」
「ーーー!」
いつの間にか爆風で噴き上げられたピカチュウよりも高く、飛翔したサザンドラが攻撃体勢に入っていた。
「"りゅうせいぐん"」
サザンドラが
ピカチュウへと目掛けて。
「ピカ!?」
驚きの声をあげるピカチュウ。
ドラゴンタイプの技の中でも究極技として極地に現存する、"りゅうせいぐん"のそれを。あろうことか最大の数量と最高の速度で最大威力の状態を完全にコントロールしているのだ。
彼女とサザンドラ実力の底は計りしれない。
そして、現状で空中で落下しているピカチュウはじたばたしているだけで身動きはとれず、回避はできない。
先ほど彼女が言った"そらをとぶ"を覚えているなら話は別だが。もちろんそんな珍しい技を覚えたピカチュウなどでなく、あくまでも地を這って生きる黄色の電気ネズミでしかない。
"りゅうせいぐん"の直撃を免れーーー。
「"アイアンテール"」
本日、三度目の鋼の光沢がピカチュウの尾に帯びた。
飛来してくる龍の形をした緩急のある隕石を次々へと鋼の尾で凪ぎ払う。
落ちては払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い、落ちて払い……。
それを繰り返してはサザンドラの領域へと入った。
「ギャス!!?」
「ピッカ!!」
"りゅうせいぐん"を凪ぎ払った時に出来る衝撃を利用して上昇を遂げた、ピカチュウは得意気に笑う。
『"そらをとぶ"はなくともお前の聖域には到達できるんだぞ』と告げるように。
そして長年の付き合いからか、パートナーたる彼も皮肉を込めるように言う。
「空を飛べるんならこれは避けられるよな。ーーー"かみなり"」
場所は上空。電気タイプの技"かみなり"は威力が高く、そのぶん命中力が欠ける技。
その多くの原因は場所や天候にとらわれるためだ。 "かみなり"はその名の通り、雷。自然界に存在する雲を利用して雷を喚び、落とす技。
雲のない場所や晴れ渡った天候時にでは使えないわざ。
そして、技"かみなり"のもうひとつの特徴は空を飛んでいる相手にも命中が出来ることだ。
通常の技は自身から放電する電撃の技が殆どであり、故に一定以上の射程距離が存在するがかみなりの場合、自然界の雷雲から雷を落とす技。
どれだけ天と地から離れようと雲があればかみなりの射程内だ。
ピカチュウは指をゆっくりと振り落とす。
轟く雷鳴、光る雷光、落ちる雷がサザンドラへと落ちる。
「"まもる"」
瞬間、サザンドラが周囲にバリアーが張られて雷は防がれる。
「ピカ!?」
「チッ!」
ピカチュウは驚き、レッドは小さく舌打ちをする。その様子を見た、彼女とサザンドラは大変愉快そうだった。
「ふぅ~、危ない危ない。まさか、"りゅうせいぐん"を使ってサザンドラまで上り積めるなんて。ホント、君のピカチュウはバグか何かじゃないの?」
「…………」
タイミングは完璧だった。
りゅうせいぐんを防ぎ、その上領域内へと侵入したことで完全にサザンドラの動きを止めての不意を突いた"かみなり"だったが、ここでまさかの防御技。
最大の一撃を外されたことによることで逆にピカチュウは膠着させてしまう。
彼女はその隙を逃さない。
「サザンドラ、"はかいこうせん"」
サザンドラの口から禍々しい黒色の強力な光線がピカチュウに目掛けて放たれる。
空中で身動きがとれないピカチュウは回避することもちろん、光線であるため"アイアンテール"で防ぐこともできない。
ピカチュウはなす術がなく、はかいこうせんが直撃し、地へと叩きつけられ、あえなく戦闘不能に。
「ピッカ…………」
「戻れ」
レッドはピカチュウをボールへと戻して次のボールへと手に掛けて、止まる。
(ホントかよ。……震えてやがる)
彼の体は震えていた。手には汗がでてきて、心臓の鼓動がいつも以上に高鳴っている。そして、そんな興奮状態なのは彼だけでなく。
ガタガタ、ガタガタ。
(分かっているよ、お前らも一緒なんだろ)
腰のボールの中にいる相棒達も、ボール越しとはいえ、今の攻防の余波は完全に伝わっていた。
彼女等は対等に闘うに相応しい相手だと。
スーハー、スーハー………。
深く、呼吸する。
今にもボールから破って出てこようする仲間たちと自身の高揚感を宥め、しかし心の中に灯火が完全に燃え上がる炎へ変貌したものをさらに強く燃焼させるように、呼吸する。
彼は笑った。
心から笑ったのは何時ぶりのことだろうかと思えるくらいに笑うことを忘れていた彼が笑った。
「どうしたの? ピカチュウが倒れたのに笑っちゃうなんて……寒さで壊れちゃった?」
「いや、違うな。むしろ、温かい…………熱いくらいだ」
汗をかくのは本当に久しぶりだ。膝はガクガク笑っているし、喉が渇く整ったはずの呼吸が乱れて頭がクラクラする。
なのに、力が湧いてくる!
(嗚呼、久しぶりだ……。この緊張感は本当に久しぶりだ)
初めてバトルをしたあの日を境に何度も味わってきた最高の感覚。
この感覚を、この感情を、彼は言葉で表すには当てはまるものを知らない。
絶頂、娯楽、快楽、興奮、高揚、悦楽、狂喜…………どれもこれもがこの感情を表すには相応しくない。
「……なあ、お前の名前の教えてくれよ」
普段なら相手の名前など知ろうとしない彼だったが、これだけ感情を高ぶらせてくれた彼女のことは素直に知りたいと思った。
彼女は「ん~」と迷ったような唸りを上げる。
「そうだな~。普通に教えるとつまんないから、賭けをしよっか」
「賭け?」
「そう。君が勝ったら私の名前を教えてあげる。で、私が勝ったら一つだけ言うことをきくってのはどう?」
さも、名案とばかりに言ってくる彼女。
賭けの対象があまりにもリスクが高く、釣り合わないものだった。方や名前を教えてもらうという、簡単な自己紹介で済ませば終わることをあろうことか、一つだけとはいえ、『言うことをきく』という、一歩間違えれば人生を狂わせてしまうくらいの大変リスク高いものと同価値とされているのだ。
あまりにも不相応な賭けに対して彼は。
「いいぜ」
即答で返す。
「へぇー…………、よくこんな頭の悪い賭けに受けられるね。言っておくけどここで『言うことを聞く』というのは文字通りの言うことを聞くじゃなくて『命令したことを実行する』での意味合いだよ。私が『死ね』といえば死んでもらうし、『全財産頂戴』といえば全財産もらう意味なんだけど」
「分かっている」
「別に、軽い、ちょっとしたお願いをしてくると思っているならそれは勘違いだから。私は基本的に有言実行かつ現実主義だから人権とか平気で無視するお願いをするつもりだけど、いいの?」
「ああ、構わないな」
「アハハハハ! ホント凄いね。流石、原点にして頂点立った、最強のトレーナーだね。負ける気がしないってやつだ!それってほんとーーー」
ーーー突き落として、地べたへと這いつくばせあげたくなるな~。
フードの突き間から垣間見た、瞳は妖艶で嗜虐的で暴力的な、虚ろな目で微笑でいた。
それにレッドも笑いながら返す。
「お前こそ最高だな。だからーーー」
ーーー本気でやれる。
腰のボールを手に取り、二匹目のポケモンを出す。
最強のトレーナー、レッドの久方となる相手は彼の全力を引き出すにはふさわしき相手であり、彼はこの戦いにおいてに久方の敗北を味わうことになる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バトルは両者揺るらずの一進一退、正に白熱な戦いであった。
レッドの二匹目となるポケモン、エーフィは悪タイプをもつサザンドラに対して相性の悪さを覆し、勝利を納める。
その後、メタグロスとのエスパー同士でなり得る、サイコ感での戦い。
ケッキングとカビゴンの重量型のパワー勝負。
トドゼルガとフシギバナの相性の悪さを覆し天候を操る、知略を回す策略戦。
激戦となる彼らのバトルは三時間に綿って繰り広げられていた。
戦いのなか、レッドの心にいつの間にかぽっかりとできていた空洞のような虚無感はなくなり、変わりに現れたのは。
幸福だった。
凍りついたような冷たくなった、心は自然に溶けてゆき、温かく満たされていた。
春が訪れて、雪が解けていくように。
(本当、最高の気分だ。この感覚は。…………もっとだ、もっとやろうぜ!)
ボルテージが最高潮にまで高まった彼はこの時間(バトル)が永遠に続けばいいと思った。
ようやく、自分と対等にやりあえる人間と巡り会えたのだ。まだ終わるのは惜しい。
しかし、そんな彼の気持ちとは無視するように終わりは当たり前のように訪れる。
「メタグロス"ギカインパクト"!」
「カメックス"ロケットずつき"!」
メタグロスとカメックスが全身の力を振り絞って突撃する物理技が激突する。
今日何度目になるのか分からないくらいの雪煙が舞い、視界が遮断される。
煙が晴れたあと、そこにはあったのは体力を使い果たして倒れ、起き上がることのない二匹の戦闘不能となったポケモンたち。
両者ともに互いのポケモンをボールに戻す。
五体のポケモンは倒れ、残りのポケモンは一匹に。
(もう終わるのか……)
レッドの心は少々、憂鬱な気持ちになり始めていた。
久方の本気を出せるポケモンバトルが終わるのが惜しくて堪らない。
これが終わると再び、あの退屈で空虚な時を過ごすことになると考えると気が滅入ってしまう。
「終わりたくねぇな」
吹雪に欠き消されてしまうような小さな呟き、レッドの本音が漏れる。
(……まぁ、今考えても仕方ないか。今は最後の対決に全力を尽くす!)
切り換えて彼女を見る。
この極寒の寒さの中、黒のダッフルコートを身に付けている彼女だったが、バトルに熱中しているせいかフードの隙間から見える頬から汗が落ちるのが見える。
フードくらい脱いでもいいものをそれをしないのはレッドに表情を見せたくないのだろう。バトルのためか、それとも別の理由か。
「ねえ」
と、彼女は言う。
「次で最後の一体だけど、いいの?」
「?」
咄嗟には質問の意味がわからなかったが、少し考えて理解した。
たぶん、賭けのことだろう。最終直面、次の戦いで勝者が決まる。勝った場合は名前を教えてもらうことになっているが、負けた場合は無条件で命令を一つだけきくことになっている。
そんな不釣り合いな賭けについて彼女も思うことがあるのか、聞いてきているのだとレッドは思った。
すこし、考えてから口にする。
「……そうだな。賭けについて少し追加させてくれ」
追加の要求をした。
「なに?」
「俺が勝ったら名前を教えくれるのと、またバトルをしてくれ」
それが彼の答えだった。
周囲からみれば、あまりにも一方的で不釣り合いな賭けであることには変わりないが、彼にとってはそれが十分な対等で釣り合った賭けいや、逆に自分の方が良好な条件だと思っている。
それに対しての彼女の返答は。
「いいよ、賭けの追加。君とのバトル面白いし」
「成立だな」
最後の一匹を互いに出し合う。
レッドの最後の一匹はバトルが始まってからずっとボールの中で暴れていた一匹でレッドにとっての古株で最も強力なポケモン。
全身が炎のように熱い色をしたオレンジ。体に爪に翼に尾のがある、竜のような肉体、尻尾の先に強く象徴する炎が強く帯びている。その炎から今まで数多くの修羅場を潜り抜けてきたの語るように燃え上がっている。
かえんポケモンのリザードン。
レッドの初めてのポケモンだった。
それに対して彼女が出したポケモンは。
「お前かよ……!」
険しい表情になるレッド。しかしその表情からは何処か、懐かしむ友と再開したときのような嬉しさのようなものがあった。
そのポケモンは一言で言うならば白。絶対な白。
姿はポケモン中でも人型に近い形態であったが人にない紫の尾がある。
何者にも恐れられる鋭い眼光から伝わるもの人とに対する恨み、憎しみ、憎悪の感情。
強者は戦うことだけに存在し、己の存在を貫き通しては何人たりとも相手に対して蹂躙してきた、絶対の白。
いでんしポケモンのミュウツー。
かつて二度、レッドは戦ったことがある相手だった。
『…………レッド。……久しいな』
頭の中に声が響く。ミュウツーのテレパシーによって人と話すことを可能としているのだ。
「ああ、まさかお前がトレーナーのものになるとはな。……人間嫌いは克服したのか?」
『違う。前にもいったが、人間のように欲にまみれては己の私利私欲尽くすだけにポケモンたちを見下し、傷付け、道具のように扱うだけの、低脳な下等生物に生きていく権利はない』
ーーー故に滅ぼす。
ミュウツーの瞳に迷いなどなく、確かなる強い意志秘めているものだった。それが昔から変わらないものだと、知っておりまたレッドは理解していた。
「なら、何で捕獲されているんだ?」
『…………ある事からの利害の一致だ。それ以外にない』
冷たく吐き捨てる。それ以上のことは語りたくないのか、無言で圧力をかけてくるミュウツー。
そして、レッドも悟ったようにその話題をやめて、彼女の方に視線を変える。
「話はもういいの?」
「ああ」
「そう。なら再開しよっか」
その一言でバトルは再開される。
まず、最初に動いたのはミュウツーだった。リザードンへと高速な速さで接近する。
移動中にミュウツーの持つ超能力で造り出される"スプーン"が形成される。
そのスプーンを使い、リザードンへと一閃する。
「"ドラゴンクロー"」
リザードンの鋭い爪が美しい色の蒼い竜の爪となり、スプーンを弾く。
『ーーー!』
弾かれて体勢を崩すが即座に立て直し、スプーンで再び攻める。
切り込み、払い、突き、凪ぎ……洗礼された動きのスプーン裁きはまさに、達人の技といっても過言ではないものだった。
ドラゴンクローで応戦をしていたリザードンも防ぎきれずに後方へと吹き飛ばされる。
「そのまま飛翔して距離をとれ!」
吹き飛ばされたリザードンは尻尾を地へと叩きつけては勢いを殺して強引に上へと軌道を変え、飛ぼうとうするがそれは阻止される。
ミュウツーのスプーンが十全と伸びてはリザードンの脚を捕まえて、地へと叩き落とされる。
(相変わらず、嫌なスプーンだな)
過去、二度の戦いにわたって苦しめられたスプーンに苦しめられた思い出がよみがえる。
ミュウツーのサイコパワーで創造されたスプーンは伸び縮みすることはもちろんのこと、戦闘に応じてはフォークやナイフへと形変えることも可能。
倒れ落ちたリザードンに追い討ちをかけるかのようにスプーンを構え直して接近する。
(スプーンのラッシュが来る!)
レッドが避けるように指示を出そうとするが、その前にそれを察知したかのようにリザードンは再び飛翔してスプーンの魔の手から逃れる。
しかし、ミュウツーはリザードンを追い宙へと浮き、飛び回るリザードンへと襲い掛かろうとする。
(空中戦でもリザードンを上回るところは流石だな)
リザードンが飛行する場所をあらかじめ予想したかのように先回りしては攻撃するミュウツー。
ミュウツーからの猛攻から抗おうと爪や牙、尾を使って対抗する。
ぶつかり合う度にキーンと鳴る甲高い金属音のような嫌な音が響く。
ポケモンの技のぶつかり合いでなく、純粋なポケモンとポケモンの身体能力だけの勝負。
先程のケッキングとカビゴンのパワーゲームがあったがそれとまた違う意味での戦いだった。
しかし、肉体面だけをみるならばリザードンが押せるはずだが、百戦錬磨のミュウツーにとっては関係なく、スプーンを自らの身体のよう一つのように操り、押してくる。
(本当に厄介だな、仕方ないな。…………ぶっ壊す!)
「"フレアドライブ"」
瞬間、リザードンの体に焔が纏いつく。その状態でそのままミュウツーへと突進する。
ミュウツーは避けられないと判断したのか、スプーンを使って防御の体勢に入る。
「"ドラゴンクロー"」
焔に身に纏った状態でさらに爪の部分に竜爪が現れるが、フレアドライブの効果せいか蒼き竜爪でなく、紅い、紅の竜爪が出来上がる。
「"はがねのつばさ"」
『なっ!』
翼部分が銀色と輝く翼になり、それがフレアドライブの焔に焼かれて、たちまち業火を纏った翼も現れる。
そのあまりの出来事に思わず、ミュウツーは驚愕し、声が上ずる。
それもそのはず、ポケモンが技を出すときは基本的に一つだけで同時に複数の技を使うことはない。
使うとしても実際に仕様できることのはごく稀である。
狙ってするようなものでない。
フレアドライブ、ドラゴンクロー、はがねのつばさ、の同時に放ったリザードンは灼熱で焼き付くすほどの煉獄の体、鋭利な紅き爪、業火に燃える強大な翼。
ポケモンの技を超えた技がそこにはあった。それはまさに火竜(サラマンダー)そのものの姿だった。
「…………"サラマンダー"」
火竜化を遂げたリザードンがミュウツーへと猛進する。
それに対してミュウツーはスプーンを捻り回すように、回転させて始めた。すると念動力で出来た竜巻が完成させられる。
『
ミュウツーを中心に軸とした巨大な竜巻と豪炎の火竜がぶつかり合う。
「クッ!」
「わあ!」
凄まじき衝撃の余波と熱風が二人を襲い、視界が遮られて飛ばされそうになるの必死で堪える。
地は震えて、山頂が崩れるのでないかと思わせるほどの絶大な激突。バトルが始まってから止むことなかった猛吹雪もあまりの威力に吹き飛んでしまう。
しばらくしてようやく視界が晴れてきて映った光景は、互いに息絶え絶えとして満身創痍状態の二匹。
しかし、どちらのダメージが大きいかというそれはやはりリザードンの方であった。
心の中で小さく舌打ちする。
(スプーンとサイコウェーブは突破できたが、やはり"サラマンダー"の負担は大き過ぎるな)
合成技、"サラマンダー"は三つの技を同時に使うこと出来上がる強力な技。それ故に通常の技を使う時よりも負担が大きい。
また、ベースとしている技、"フレアドライブ"は使用後に自分にもダメージが返ってくる技であるため、負担の大きい原因もまたここにあるだろう。
(あと使えるのは一度だけ。あの状態での時だけだな)
深く思案しつつ、ポケットに手を入れてそれを確認する。
よし、と気合を入れ直す。それに気づいて笑ってしまった。
(気合をいれるなんてホントに久しぶりだな。コイツと会えたことはどこの神様の悪戯だ。
ーーー感謝しきれねぇじゃねーか!)
レッドの心にぽっかりと空いていた穴はこのバトル中に埋まっていた。
バトルにおける緊張感、次々と先読みして互いに練り合う策、鍛え上げられたポケモン達が思う存分戦えること、それが嬉しくたまらなかった。
いつの間にか、感じられなくなった感情の高ぶりを彼女は思い出させてくれたことに感謝をせずにはいられなかった。
そんなレッドの気持ちを知ってか知らずか、彼女はミュウツーと話す。
「ホオー、まさか百戦錬磨の君がここまで追い詰められるなんてね。どうするどうする?」
『………五月蝿いぞ、人間』
息絶え絶えな様子でありながら、主人である彼女に今にも殺すぞと、殺意を込めたような目で冷たく吐き捨てる。
一般の人間ならばそれだけで卒倒しそうな重圧に対して彼女は。
「彼はレッドで、主人である私は人間、か……。パートナーにそんなことを言われるなんてご主人様ショックだわ~」
おろおろと、などと泣き真似をする。
「ま、いいけど。一応、私達協力関係であるけど、ここで負けて貰っちゃったら困るんだけどなぁ~、…………君が、ね♪」
『ーーーチッ、この女狐が!』
悪態つきながら、ミュウツーの体が光出す。
『"じこさいせい"』
温かい神秘的な光に包まれたミュウツーは先程受けた"サラマンダー"で負った、傷や火傷がみるみると癒えて回復していく。
じこさいせいによって全快近くまでまで治癒されたミュウツーは忌々しそうに彼女にいう。
『おい、アレをするぞ』
一瞬、何を言ったのか理解できずに呆けた顔をする彼女だったが、ニヤニヤしながら聞き返す。
「へぇー、アレを要求するんだ。…わざわざアレをしなくても回復したんなら勝てるんじゃないの?」
今まで何一つ言うことも自らの要求することもしなかった、ミュウツーが意外な要求をしてきたのが興味深そうに尋ねる。
ミュウツーは苛立ちを隠そうにせずに答える。
『レッドを甘く見るな。 奴はかつてこのオレを二度、倒した男だ。今のように追い詰められた状態から奴は本領を発揮してくる』
過去の二度の戦いの経験からかよく理解している。
レッドの恐ろしさを。
ポケモン達との絆の強さを。
今まで人間を低俗でゲスな下等生物として見てなかった、ミュウツーが唯一認めた人間。
『アイツとの賭けに勝ちたいなら、やるしか方法はないぞ』
今まで拒んできたアレを自らの進んでいく提案してくるミュウツーにはそれだけの真剣さと気迫で訴えてくるにはもっともな理由だった。
彼女は「OK」と短く返事して
「……試すにはちょうど良い機会だ」
とだけ呟いた。
先程の衝撃で飛んでいった綺麗な夜空だったが雪雲はいつの間にか、曇りはじめて粉雪が始めている。
それを合図に両者の視線が合う。
「互いに作戦会議は終わったようだな」
「うん、というか、負けた後の君に何をお願いするかを話していたくらいだよ」
「ソイツはこえぇーな。いったい何を命令する気だ?」
「すぐに分かるよ。負けるから」
「勝つから迷宮入りになっちまう」
最後となる軽口の言い合い、しかしそこには軽口で済まさない二人の本音があった。
負けない、勝つのは自分だ、と。
粉雪が徐々に強まり、あられと化する。冷たい雪、暗い空間、最後の一戦となることへの緊張感、それにともなり大きくなる鼓動。
それを振り払うように手を空に上げながら両者は叫ぶ。
「「メガ進化!!」」
レッドの手にもった虹色の玉と彼女の腕輪が輝き、それをシンクロするかのように両者のパートナーにも虹色に光輝く。
進化を超えた進化、メガ進化。それはポケモンとトレーナーの絆に力。
メガ進化したリザードンの姿は全身はこころなしか少しばかり大きくなり、全身が炎のような色をしたオレンジから漆黒の色となり、口元に牙のような静に燃える蒼い炎。尻尾の炎も同じく蒼くなっていた。
メガリザードンX。
黒竜と言われるにふさわしい力強さをもった姿だ。
それにたいしてミュウツーはというと一言で言うならば、丸るくなった。
人間のようなに近い体型であることの胸筋や足腰の肉質、肩や肘膝などの関節部分の丸みが帯びたことでリザードンとは対極に全体的に縮んだと感じられる。
頭は長髪のよう長やかに伸び、鋭く尖っていた眼も開かれて綺麗な紅い瞳。その瞳には確かな意思強さを宿っていた。
メガミュウツーY。
ミュウツーのメガ進化には神秘的な美しさと底知れない力強さを秘めたものだった。
両者は空に飛んだ。
できるだけ高く高く、ギリギリ雲を超えられないくらいのラインで。
メガ進化したことで両者のパワー、スピード……といった能力値が全面的に上がったのだ。
互いの実力をよく把握しているがゆえに自身らのトレーナーにできるだけ巻き沿いを食らわないように距離をとったのだ。
「リザードン!」
「ミュウツー!」
最大火力で放たれる、最後の一撃を。
「"サラマンダー"!!」
「"サイコブレイク"!!」
蒼炎の火竜と念力の塊でできた波動が激突する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
賭けである、彼女が勝利した『何でも言うことを聞く』に対する命令はレッドにはおおよその予想はできていた。
"最強の座を寄越せ"だと。
しかし、それに関してはレッドは別にどうでもいいと思っていた。
むしろ、このバトルは彼女が勝ってしまうことの方がいいとまで考えていた。
忘れていたバトルで熱くなる感覚を、空っぽのだった空白の時間を、呼び覚ましてくる彼女ならばこの勝負には負けてもいいと。
そうすれば、再び彼女への再戦の機会が迎えられてこの感覚を忘れらずにすむ。
しかし、それは全力を尽くさないというわけでない。
勝負である以上は手を抜かない。たとえ本気になれないバトルでもあっても、ポケモンバトルは真剣勝負であることに変わりはないことはレッドにはよく理解している。もし、手を抜くことがあるようなことは相手に侮辱に値する。
故に、どんな戦いであってもレッドは全力で勝ちにいく。
メガリザードンの合成技、"サラマンダー"とメガミュウツーのミュウツーのみが覚える、"サイコブレイク"の激突は、このバトルの中で一番の衝突だった。
どちらが戦闘不能になってもまた、どちらも戦闘不能になっていても可笑しくない展開。
しかし賭けをしている以上、両者、後者の展開など一寸も望んでいない。
どちらも戦う以上は勝ち負けをはっきりさせなくてはならないという性分。
そして、立っていたのはーーー。
「ゴゥオオオオォォォォーーー!!!」
勝利の雄叫びをあげる、黒き蒼炎の竜。
レッドのリザードンだった。
その背後にはメガシンカが解けたミュウツーが倒れていた。
レッドの、リザードンの勝因をあげるとするならば、やはりメガシンカが大きく関わってくるだろう。
メガシンカしたことで種族値や特性が変化し、リザードンの特性が"もうか"から"かたいツメ"に変わった。
かたいツメは物理技の威力が上がる特性。
合成技、"サラマンダー"は"フレアドライブ"、"ドラゴンクロー"、"はがねのつばさ"の三つの物理技が合わせてたできた技であり、またメガリザードンは基礎種族値として攻撃力と防御力が大幅に上がる。
反対にメガミュウツーは種族値も上がるが、防御力は下がることになる。その上、"サイコブレイク"は特殊技でありながら、特防でなく防御力の方を相性で考えている技。
防御力の上がったリザードンはギリギリで耐え抜き、かたいツメと上がった攻撃力で繰り出される、"サラマンダー"の威力にミュウツーは耐えきれなかった。
それが勝因のはずだった。
「俺の勝ちだぜ」
勝利の喜びを噛み締めながらを少女の方に視線を向ける。
いいバトルだった。久しぶり全力を尽くすことができた、満足のいくバトルだった。
「じゃあ約束を果たしてもらーーー
「何をいっているのかな?」」
レッドの台詞は遮られる。
クスクスと愉しそうな笑みをこぼしながら彼女は告げた。
「この勝負、私の勝ちだよ」
「はぁ?何を言ってーーー」
ドタッと何かが倒れる音がする。
振り返ってみると、そこにはメガシンカが解けたリザードンが倒れていて、また新たに表れたポケモンがいた。
そのポケモンは体の五体は顔だけしか存在しない体。岩できた体を氷の鎧で覆い隠すに纏っており、大きく発達した顎に三本角が特徴的なポケモン。
メガオニゴーリだった。
リザードンを倒した相手。
彼女は呟く。
「実証完了。キーストーンを二つ持っていれば、メガシンカは二匹同時に可能、っと」
左手に嵌めたメガリンクとは別に、右手に持っていたキーストーンを見せびらかせるように出す。
(メガオニゴーリだと!? 二匹目のメガシンカに、リザードンが……いやでも!七匹目のポケモン!?しかし、 ボールの開閉スイッチが)
一気にレッドの頭のなかで激しい混乱が訪れる。そんな表情を見てか愉快そうに言ってくる。
「だからいったでしょ。『最後の一体だけどいいの?』って」
「ッ!そういうことか……!」
レッドの敗因は相手が六匹全てを出していたと思い込んだことにある。
『最後の一体だけどいいの』の一言は、『もう勝負が終わるけど、賭けの賞品はそれでいいのか』という追加要求のことでなく、『君のポケモンはあと一匹で私は二匹いるよ』という暗喩だったのだ。
マニューラ、サザンドラ、メタグロス、ケッキング、トドゼルガ、ミュウツー。そして、オニゴーリ。
ここまでの戦いの中で彼女が使ってきたポケモン。本来トレーナーが六匹以上を手持ちに加えられることはできない。
もし、六匹以上をもったとき自動的にボールの開閉スイッチが完全に締まり、最後に手持ちに加わった七匹目から開閉できなくなる。
それなのに七匹目、オニゴーリの存在。
だが、明らかに可笑しいポケモンが二匹いた。
一匹は紛れもなく、ミュウツー。
ミュウツーは戦闘の際にメガシンカ後はともかく、その前は彼女から指示を一切されずに独自で判断し、立ち回っていた。
しかし、それはミュウツーの人を怨み、軽蔑しているからだ。人と馴れ合うことを嫌い、歩むことを拒んでいるからである。
だからミュウツーでない。
となると、実際におかしかった必然的にあのポケモンになる。
「あのマニューラは、野生だったんだな」
「そう。正解~♪」
違和感があった。
なぜ、あのとき直接近づいてボールの中へと納めたのか。ボールへと納めるだけならば、わざわざ近づく必要性はない。
通常、ポケモンを戻すならば、ボールから放たれるビームがでるのでそれで戻せばいい。
しかし、それをしなかったのは、しなかったのでなく、できなかったから。
自身の手持ちでなく、野生のポケモンだったから。
そのうえ、瀕死になったポケモンはボールに戻してしまったらバトル中ならば二度と出すことは基本的にない。
こうして、必然的に七匹目の手持ちが完成される。
また、本来戦いの申し子である、レッドが不意討ちの戦いにも精通していために余計にこの策は効いてしまったのだ。
これがレッドの敗因に当たる。
「卑怯なんて言わせないよ。何せ、最強を相手取ってるんだから」
これくらい許容範囲だと思うけどな~、と言う彼女。
「あぁ、そうだな」
そして、レッドはそれを認めた。
実際に許容範囲も何も、このバトルに対して彼女は何一つ違反を犯していない。
彼女がしたのは野生のポケモンの捕獲。何も可笑しいところはないのだ。
そもそもこれは野外バトル。正規ルールに基づいて設定されたバトルではないのだ。不意打ち、闇討ち、指定量の技(4つ以上)の使用、二匹以上の同時出し、道具の使用、その他諸々何でもありの野外バトル。
これまで来た挑戦者ら何人かも、そのような手を使うことは稀にあったが、ーーーここまで手の込んだ方法を使ってのバトルは初めてだった。
「お前、……本当に面白いな」
そこには皮肉も怒りも何もない、ただ素直な称賛の言葉だった。
バトル前に予感はあった。
自分にふさわしい相手だと、久しぶりに本気のポケモンバトルができる相手なのだと。
そして、それは見事に的中した。
身体中の血が騒いで熱くなり、次々と予想できない目まぐるしい展開、なのに頭は冴え渡っては思い付いていく作戦の数々、大声をあげての指示で喉が痛くなり、カラカラ乾く、バトルが続くに連れて気力体力限界近づくのにますます燃えて上がっていく闘志。
長いこと忘れていたそんな感覚を呼び覚ましてくれた。
そして、久しぶりに味わう敗北は悔しさよりも嬉しさの方が上回っていた。
勝ち続けることに疲れていたわけでない、戦い続けることが嫌になっていたわけでない。
ただ、
(ただ、単純に楽しめるバトルをしたかったんだよ。俺は)
強さを伴っていく上で何処かで薄れていく、バトル本来の感動。
それが今まで、レッドが探していたものだった。
(これで思い残すことないな。これでやっと……)
「ちょいちょい、 何一人で勝手に悟ったような顔して、今にも成仏するような空気になってちゃうの?君、幽霊じゃないんでしょ」
「ああ、わりぃわりぃ。なんか空気に流されて」
「え、何その軽い感じ? この環境でのその格好といい、君ってバカなの?」
「まぁ、バトル馬鹿ではあることは否定しない」
「アハハ、それはそれは言えてるわ。バカバカバカ、バトル馬鹿!! ウケる!!」
腹を押さえながら、苦しそうながらも楽しそうに笑う彼女。
久しぶりのバトルの高揚からか、レッドもそれに釣られて笑いだしてしまう。
これまでの張り積めていた緊迫感が嘘のように消え、同年代の間によくあるような緩いやりとり。
満足いくまで笑ったあと、ついに彼女が本題を切り出してきた。
「アハハ、……ふぅー。…………じゃあ、早速聞いてもらおっか。お・ね・が・い♪」
「…………ああ」
ついに賭けの賞品である、『何でも言うことを聞く』の命令が下される。
このときのレッドの心情と言えば、実のところ下される命令はどんなものでもよく、それよりも次回以降のバトル、『再戦をどうするか?』の点のみ深く思考していた。
バトルで負けたならば、修行して再戦に備える、そんなシンプルな考えでいた。
(バトルの修行そのものは今までもやってきたことだが、敗北してからの再戦に備えての修行となるとやはり意味が変わってくるな。とりあえずシロガネ山から下りて、旅にでも出るか。シンオウかイッシュ辺りをまわっーーー)
「余裕だね」
「ッ!」
これからのことを考えていたせいで、いつの間にか近づいてきた彼女に驚いた。
「なに? 私に何をお願いされるのか考えてた?」
「いや別に」
「嘘つけ。こんな美少女にお願いされるなんて嬉しいくせに。このこの~♪」
「つつくのやめろ」
コノコノ、と指でレッドの頬を突っついてくる彼女。バトルが終わってからの興奮から妙に馴れ馴れしい。と、よく考えてみたら始まる前から若干馴れ馴れしかったな、と思い返す。
しつこく突っついてくる指を払いながら言う。
「美少女って、自分で言うか?」
「事実だし。ほらほらこんなかわいい子、中々いないよ♪」
「いや、フード被ってるからよくわかんねぇよ」
「あ、そっか。それじゃあ分かんないよね~」
ほれ、とフードをとった。
戦いのなかで幾つもの衝撃で吹き飛びしまいそうになるのを押さえていたフードを、意図も容易く、簡単に、呆気なく、普通にとった。
フードの中から露になった彼女の素顔はそれは、可愛いというよりも美しいの表現の方が的を射ていた。
バトルが終えた後なのに一切の乱れのない肩近くまで伸びた黒髪。しっとりと大きく吸い込まれそうになる濡れた瞳。顔もモデルのような整っており、雪のように色白い頬はバトルの高揚からか、ほんのりと熱を帯びては官能的な美しさが滲み出ている。
そんな彼女をレッドは思わず見惚れてしまった。
「ねぇ、レッド君ーーー」
まるで女神が微笑みかのよう神秘的な笑み、何者も聞き惚れるような抑揚のある誘惑的な声で彼女は告げる。
「ーーー私の彼氏になって」
「ーーーああ」
場所はカントー地方とジョウト地方を挟む、危険区シロガネ山。
原点にして頂点、最強の代名詞の青年、レッドと、
絶対不尽の魔王、最凶の代名詞の彼女、雪ノ下陽乃の、
カップルがここに成立した。
それはレッドの新たな物語。
彼は新地、カロスへと。
最弱と出遭うことになる。
思ったよりも長かった……。
プロローグにあった通り、レッドとはるのんの出逢いのお話でした!
ミュウツー様は完全にポケスペスペックの方です!
また、作中にあった"サラマンダー"ですが
オリ技といわれると正直微妙です。
三つの技を合わせただけなので、オリ技というよりも"合成技"とさせていただきます。
アニポケの"氷のアクアジェット"や"カウンターシールド"とか、ポケスペの"はっ…葉カッター! ダイヤスペシャルマッハワンアンドオンリー!!"と同じような感じで考えました。
次回からヒッキー視点でいきます!
ご愛読ありがどうございました!!