DECADE ~記憶を辿る旅~ 作:ソルラス
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…………貴方は、この世界に居てはいけない。
私達が愛したこの世界を護るため………消えてもらう。
なんでこんな………私を騙していたの!?
認めない………そんなことは絶対に認めない!!!
消えろ!消えろ!消えてしまえ!
これがお前の運命だった………それだけ。
ごめんね……こうするしかなかった。 ……………ごめんね。
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静かで穏やかな波の音が聞こえる。
心地よく吹く潮風は広い海原をゆらゆらと揺らしていた。
そんな青い海を見渡せる防波堤に一人の青年が寝っ転がり、海と空を見つめていた。
「……………」
青年は左手で本を抱え、右腕を枕にして規則正しい寝息を立て、眠っていた。
と、そんな彼に人影が静かに近づく。
「………来流さん。起きてください」
「ん…………ああ…」
声をかけられると青年はすぐに目を開く。
すると目の前に赤い傘を差した女性の顔があった。
「暇さえあればいつもここにいますね貴方は」
「ああ……俺の安息の場所だからな……心が落ち着くんだ」
海風に黒髪を靡かせながら青年―――来流はそう言った。
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自分の名前と知識以外の全ての記憶を失った。
自分は何処で暮らしていたのか?
家族は? 友人は?
あるべき記憶が全て消えている。何故こうなってしまったのかも分からない。
ただ、彼はその事に苦悩はしない。
よく言えば寛容。悪く言えば大雑把。
本来であれば重大な自身の記憶についても小さなことと判断してしまい、自己完結してしまっている。
加えて彼はこう言っていた。
「もしかしたら思い出さない方がいいことなのかもしれないな。すごいショックなことがあったのかもしれないしさ」
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来流が女性と共に帰ってきたのは海に隣接した白い基地風の建物。
通称、鎮守府である。
深海棲艦という異形によって人類が制海権を失った世界。
それに対抗すべく現れた嘗ての軍艦の魂を宿した少女達、艦娘。そして彼女達を率いる提督が日々戦っている。
此処の鎮守府は長年の激しい戦いを生き抜いた歴戦の地。
しかし、その激戦の傷は深く、現在は艦娘を育成し、他の鎮守府へ派遣する機関と化している。
来流はここに住み込ませて貰う代わりに雑務をこなし、鎮守府の手伝いをしている。
「………お前はまだ派遣されないのか? 大和」
「はい………まだ私を起用できる程の鎮守府は無いみたいですね」
大和。言わずと知れた最強の力を持つ戦艦。
来流と共にいる女性はその戦艦大和の艦娘なのである。
以前はその名に恥じない活躍していた彼女だがそのあまりの性能により、他の鎮守府では運用が出来ないのだ。
専ら今は来流の世話役を任されている(嘗てホテルと揶揄された故に家事能力も中々高い)。
「今は鎮守府には誰もいないみたいですね」
「皆出払っているみたいだな。提督はいるのか?」
二人は鎮守府で提督が普段居る執務室に向かう。
「提督。失礼します」
「ああ。お帰り」
鎮守府の提督、山口康紀。
六十近い高齢だが未だに有能な司令官である。
しかし、最近は老人らしく写真撮影などが趣味になっているらしい。
「皆はどうしたんだ?」
「もう他の鎮守府に向かったぞ。今居るのは儂と君達だけじゃな」
「そうなのか」
と、それを聞いた来流は反転し、執務室から出る。
「皆が帰ってくる前に掃除を終わらしておくから。あと夕飯の支度もやっておくな」
「あ、夕飯の時は私も手伝いますよ」
「ありがとう大和。じゃあまた後でな」
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廊下のモップ掛けをしながら来流は少し考え事をしていた。
「(………俺は何をしたいんだろうな)」
別に今の生活に不満などを感じている訳ではない。
ただ、この鎮守府に住んで既に二年が経った。
記憶が無いということを理由にするわけではないが彼は自分で何かやりたいと思った事がない。
記憶を取り戻そうと思った事もない。何か打ち込めることもない。
今までの人生が無駄だったとは思わないがそれでも空虚感ををずっと抱えていた。
「……………鳥とか魚はそんなことを考えることはないんだろうな」
窓から空を見上げ、そんな感傷のようなものに浸る来流。
と、直後。
「……………え?」
来流が見ていた窓に人の姿が映ったように見えた。
しかし、改めて見てみるとその姿は消えていた。
「…………気のせいか…?」
しかし、直後。
「…………力を取り戻せ」
「なっ……? なんだ…今の声は?」
耳を澄ませてみても声は聞こえない。
首を傾げながらも来流は掃除を再開した。
「…………あれ?」
とある部屋を除いてみるとテレビが点いていた。
「駆逐艦の誰かが点けっぱなしにして行っちゃったのか?」
そう呟いて消そうとするが、画面を見てその手が止まった。
『緊急ニュースです。突如として出現した異形の怪物が破壊活動を行っています! 既に日本だけでなく、世界中で発生しており、艦娘でも苦戦している模様です!』
「な………なんだよこれ……」
次に映った映像に思わず来流はテレビにしがみついた。
それは、鏡の中から現れる機械的なモンスターや妖怪のような化物、ステンドガラスのような怪人など、様々な異形が街を破壊している様子だった。
次に映された映像では艦娘達が自分の装備による砲撃を異形に撃ち込んでいくが、相手方は堪えず、次々に艦娘を襲っている様子だった。
「な……! 皆………」
もしかしたら自分と親しい艦娘も危機に晒されているかもしれない。
そう思った直後、激しい振動が起こり、鎮守府を揺らした。
「うおっ……!」
その衝撃でバランスを崩した来流は倒れる。
「大和……! 康紀さん……!」
慌てて立ち上がり、執務室に駆け込む。
と、二人とも一先ずは無事だった。
「来流さん!」
「康紀さん。状況は」
「もう分かっている。だが儂にはどうすることも………!」
ズドォン!!
「キャッ!!」
「大和!!」
より激しい振動が起き、倒れかけた大和を来流が支える。
そのまま窓から外を見ると彼らは絶句した。
「怪物………」
白い怪人や歪な獣、凶悪な悪魔達が鎮守府に攻撃を仕掛けていた。
先程からの振動はこれが原因だったのだろう。
「ッ……! 提督! 私の艤装を!! このままでは………」
「やむを得んか………工厰にあるから使え!!」
「分かりました! 大和、推して参ります!!」
そう言い残して大和は駆け出す。それを来流が追う。
「来流! おぬしは残れ!」
康紀の制止も聴かずに来流は走り去った。
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艤装を身につけ、出撃した大和。
無論、襲撃に来た異形は彼女に気付く。
「寧ろ好都合……此方に来なさい!!」
敵の狙いが鎮守府から自分に向けられたことで大和は艤装の主砲、副砲を起動させる。
「全砲門展開!! 薙ぎ払え!!」
自慢の46㎝砲を含め、全ての砲が火を吹く。
流石は最強の戦艦。その砲撃によって巨大な爆発が怪人達を飲み込む。
「………………えっ!?」
しかし、そのどんなに強力な深海棲艦ですら無事では済まないその砲撃を食らっても尚、変わらずに立っている怪人がいた。
「う、嘘………無傷なんて……」
誤解がないように言うと大和の砲撃が無意味だったわけではない。
傷つき、倒れ伏している怪人も何体か存在している。
「はっ! くうっ!!!」
呆然としていたところに怪人が放った攻撃が大和に当たる。
それでも彼女は自らを律して立つ。
「やらせはしません! 鎮守府はこの大和が守ります!」
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ひたすらに廊下を駆ける来流。
大和が強いことは彼も十分に理解している。しかしあの敵に対しては大和でも勝てないような気がした。
「急がないと………! うおっ!!」
またしても振動。
フラついて壁に当たる来流。
と、その時、
「ッ!! ぐうっ……!? 頭が………痛い…!」
突如襲ってきた頭痛。
余りの痛さに頭を抱え、踞る。
「うぐっ………ぐう…があああああああっ!!!」
「……………はっ!?」
気付くと、来流は異質な空間にいた。
宇宙のようだが地球が幾つも点在している。
加えてそんな空間であるにも関わらず呼吸ができている。
「…………ここは、どこなんだ……?」
「全ての世界の中心………といったところか」
「!?」
振り向くとそこにいたのは一人の男性。
茶髪で首からトイカメラを下げており、非常にクールな表情を称えている。
「……………お前は……?」
「俺はただの旅人だ。……今はそれどころじゃないけどな」
「は、はあ……?」
要領を得ない答えに困惑する来流。
だが男性はそんな彼にな目をくれず、点在する地球を見つめていた。
「………またこうなるのか」
「……? おい。さっきからなんなんだよ?」
「………見ろ」
男に促されて地球群を見る。
「…………な…」
その、15の地球は何か黒いものに侵食されかけていた。
じわりじわりと、地球を飲み込むように。
「世界の崩壊が始まっている。お前のいる世界も含めてな」
「……俺の、世界?」
「この世界はお前の本来の世界では無いってことだ」
直後、今度はそれぞれの地球に1つずつの小さな光が生まれた。
「今、あの世界達に対抗勢力として仮面ライダーが誕生した」
「仮面……ライダー?」
「世界を渡れ。そして彼らと共に全ての世界を救え。そうすればこの世界も護れる。……………お前の記憶もな」
「俺の………記憶!? お前!! 何か知って…………ウッ!!?」
男を問い詰めようとした時、眩い閃光によって彼の意識は途絶える。
「ベルトとカードは返してやる。後は自分で探してみろ。××来流」
「………はっ!!」
来流が気付くと異様な空間ではなく、鎮守府だった。
「………なんだったんだ……今の………ん?」
ふと来流は自分が何かを持っていることに気づいた。
レンズのついたバックルとカードホルダーのようなものだった。
「なんだこれ………。っそうだ大和!!」
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「あうっ!!!」
大和は怪人の攻撃で地面に叩きつけられた。
既に艤装も彼女自身も相当の傷を負っている。
「私が……やらなきゃ……! 皆が帰ってくる場所を……護らないと…!」
しかし、受けたダメージが大きく、重い艤装を背負っていては立ち上がることすらできない。
そんな彼女に怪人は持っていた槍を振り上げた。
「ッ!!!」
絶体絶命。その次の瞬間!!
「うおおおおおおっ!!! オラァ!!!」
ドガッ!!と駆けつけた来流が怪人を蹴り飛ばした。
「来流さん!? 危ないです!! 戻ってください!!」
「傷だらけのお前を置いて逃げられるか!!」
「私なら大丈夫です! だから」
「いいから黙ってろッ!!!」
声を張り上げて大和を黙らせる。
そして来流はゆっくりとバックルを構えた。
「世界がどうとか、化け物がどうとか、よく分からないけど……ようやくやりたいことが出来た! 大和………お前を守る!!!」
バックルを腰に当てると、サイドからベルトが伸びて装着される。
そしてカードホルダーから一枚のカードを取り出し、構える。
「変身!」
[KAMEN RIDE DECADE]
カードをバックルに入れ、装填。
すると来流の周囲に15の幻影と紋様が浮かび上がり、それが体に重なって姿を形作る。
更に飛び出した七枚のプレートが顔に突き刺さる。
全身が白と黒とマゼンダに染まり、完全な姿へと変わる。
「ら、来流さん……?」
当然ながら大和は驚いていたが来流本人も驚いていた。
しかし、彼の脳裏に1つの言葉が浮かんだ。
「仮面…ライダー…ディケイド………そうだ。俺は『仮面ライダーディケイド』だ!!」