真剣でアッガイになった。【チラ裏版】   作:カルプス

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【第18話】 Q.嫌いなもの A.甘い物

 東西交流戦も各地で本格的な戦闘が開始された。部隊長の敗北は戦闘結果に直結すると言っても過言ではない。影響の大きさを考えれば、部隊長に抜擢された者達の責任というのは非常に大きく重いものである。故に各地での部隊長同士の戦闘は、見る人が見ればまさに激戦と呼べるものとなっていた。

 

 川神陣営本陣付近では川神学園部隊長達とゴッグ、ゾックの戦闘が。交流戦の舞台である工場地帯中央では川神学園部隊長の川神一子、クリスティアーネ・フリードリヒと天神館部隊長である大友焔、さらにアッガイ勢の一人、ズゴックによる三つ巴の戦闘が行われている。天神館本陣近くでは天神館副将の島右近とアッガイ勢のアッグガイ、ジュアッグが戦い続けていた。

 

 そんな中、戦場に大きな変化が訪れる。天神館大将の石田三郎は副将である島の帰還を待たず、進軍し始めたのだ。本陣に残っていた全戦力を引き連れて、である。本人からすれば一気に戦線を押し上げて他部隊と合流、数的有利をもって敵進軍部隊を撃破、その勢いのままに川神学園本陣を落とすつもりであった。そんな簡単に、都合よく行く筈がないのだが、石田には負ける筈がないという自信があったのだ。それは自分の奥義と呼べる技であり、最悪の場合にはそれを使用してどうにでもなる、そう思っていた。

 

 しかしそんな石田の計画はすぐに狂う事となる。何故なら、今まさに、目の前に敵が現れたのだから。

 

 

「呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン! 川神一の愛されゆるキャラ、アッガイ!」

 

「よくもまぁノコノコと姿を現したものだ! 切り伏せてくれるわ!」

 

 

 石田は自身の武器である刀を抜き放ち、アッガイに斬りかかる。間合いに入る速度や刀を振る早さは、流石西方十勇士の大将であると言わせる程の技量を持っていた。しかしその攻撃はアッガイのアイアンネイルによって阻まれ、傷を付ける事は叶わない。

 

 

「まぁそもそもダメージが入る事も無いと思うんだけどもね! でもちゃんと受けるよ! 敵大将との戦闘は必要なシーンだからね!」

 

「何をゴチャゴチャと……!」

 

「大将、美しく下がるがいい!」

 

「っ! 毛利か!」

 

「フガッ!」

 

 

 鍔迫り合いの状況から一度アッガイを押し退けて後方に距離を取る石田。石田が後方に下がった直後、弓矢がアッガイの頭に直撃した。弓矢を放ったのは西方十勇士が一人、毛利元親である。自分自身を愛するナルシストで天下五弓の一人。頭も良く、美に関しては他を寄せ付けない拘りと知識を持つ。だがナルシスト、でもナルシスト。アッガイは衝撃で頭が後ろに仰け反り、体勢を崩しているが更に天神館の攻撃は続く。

 

 

「ヌゥラァァァ!!」

 

 

 頭を射抜かれて体勢を崩しているアッガイに向かって突撃する長宗我部宗男。恵まれた体格、そこにオイルを浴び、オイルレスラーとなった彼の突撃は凄まじい破壊力を誇る。真正面からアッガイに掴みかかった長宗我部はそのまま頭をしっかりとホールドし始めた。本来ならば首を絞めて気絶させる事も出来るのだが、アッガイには首と呼べる部分が無いので、直接頭を圧迫しているのだ。

 あまりの状況にさすがのアッガイも叫び声を上げる。

 

 

「ギャァァァアァァ!」

 

「どうだ! 俺の強烈な腕力!」

 

「野郎に抱き締められるとか最悪すぎるぅぅぅ! しかもヌルヌルしてて気持ち悪いぃぃぃ!! 仄かに感じるレベルじゃない体温が嫌ぁぁぁ!!」

 

 

 そう、なによりも野郎に触られる事が大嫌いなアッガイには、まさに地獄と呼べる状況だった。そんなアッガイの叫びを無視して長宗我部は更に力を入れる。

 

 

「これじゃあ婦女子が僕に触るのを躊躇うだろうが! そうなったらどう責任取るんだコラ!」

 

「安心しろ。俺は四国でモテモテだぞ!」

 

「女心ってなんだろう! お前と僕じゃ支持層が違うんだろうよ! こうなったら見せてやるよ、アッガイの拳を!!」

 

 

 そう言うとアッガイは掌から炎を噴出させた。オイルを被っている長宗我部はこのまま掴んでいては自分に引火するであろう事を即座に予測した。そしてこの状態とアッガイを離して距離を取る事を天秤に掛け、判断する。

 

 

「小賢しい奴よ!」

 

 

 そして長宗我部は勢いよくアッガイを弾き飛ばし、自身も後方まで後退した。

 ダメージが入っているのかもよく分からない状態、しかも炎に対する耐久性はロボの方が人よりも優れているのは明らかである。ジリ貧になる前に、石田、毛利と共に攻撃した方が良いと長宗我部は判断したのだ。

 と、長宗我部の顔に向かって大きめの【何か】が飛んできた。弓矢よりも圧倒的に遅く、しかし金属的な、攻撃的な刃にも見えず、長宗我部はそれを掴んだ。それは普通では有り得ない大きなサイズの【サングラス】だった。しかしその一瞬、アッガイから視線を外したのが不味い。

 

 

「長宗我部!!」

 

「――ッ!?」

 

 

 石田が叫んだ。長宗我部は石田に何事かと視線を向けようとして、見てしまった。アッガイが既に自分の目の前にまで来ているのを。

 『いつの間に』。そんな言葉が長宗我部の頭に浮かんでいる間にも、アッガイは動き出す。

 

 

「……行くぜ。オラオラオラァー!」

 

「ぐおぉぉぉ!?」

 

 

 【アッガイチェーンドライブ】、凄まじい両手両足による乱舞、乱打。長宗我部は咄嗟に腕をクロスさせて防御するが攻撃範囲が大きすぎて攻撃に被弾してしまう。

 

 

「どうした? あぁ!?」

 

 

 これまでよりも更に重い一撃が長宗我部をガードの上から弾き、体を下がらせる。しかしこれまでの乱打と違って攻撃がそれ以上来ないのだ。重い一撃にパターンを切り替えてきたならば攻撃と攻撃の間隔が広がって反撃できるかも知れない。そう長宗我部は考えて視線を前に居るであろうアッガイに向けた。

 

 しかし――

 

 

「アッガイだよ……アッガイ!」

 

「!?!?」

 

 

――アッガイの声は自分の後ろから響き、長宗我部は自身の真下から発生した爆発に飲み込まれて意識を失った。こちらの技は【クリムゾンアッガイロード】である。注意しておくが、どこぞの格闘ゲームのキャラクターとは一切関係ない技の筈だ。関係があったとしても参考だとかちょっと真似たとか、実はほぼ一緒とかそういう事は多分、きっと、ない。

 

 

「ちょ、長宗我部ーーー!!」

 

 

 石田の叫びも虚しく響き、長宗我部の体は力無く地面へと落ちる。西方十勇士が、しかも真正面から向き合えば相当な実力を誇る長宗我部がこの短時間で撃破された事に衝撃を受ける石田と毛利。石田は格下だと思っていたアッガイにここまでの実力があるとは思わず、未だに倒れた長宗我部を呆然と見てしまっていた。その状態を危険だと判断した毛利は即座に【三連矢】をアッガイに放ち、牽制する。三本の弓矢はアッガイの行動を阻害し、時間を作った。

 

 

「大将!」

 

「っ! クソッ!」

 

 

 刀を構えながらもアッガイから距離を取る石田。その顔は苦々しいという感情が露になっている。毛利は即座に弓矢を放てるように用意しており、牽制でも攻撃でも石田に合わせられるように集中していた。

 

 

「ジオン宇宙の支配者、僕こそ最強。見事超えてみせよ!!」

 

「お前なんぞに遅れを取るとは……! こうなったら奥義をもってお前を――」

 

「なりませぬ御大将!!」

 

「!? 島っ!?」

 

 

 気を高め、大技を繰り出そうとする石田。それを止めるように天神館副将の島が合流してきた。必死に走ってきたのか、呼吸は乱れて肩で息をしている。更にその後方からドタバタと足音を立ててやってくる者達がいた。

 

 

「逃げるなーおじさんー!」

 

「逃ーげーるーなー」

 

「アッグガイにジュアッグじゃないか! なんだよ折角いいシーンになる所だったのに! 逃げたのかよオッサン!!」

 

「某は! お、おっさんではなくゴホッゴホ!」

 

「話している場合か島! 下がれ! ソイツは先程、長宗我部を倒したのだ! 奥義を持って葬るしかない!」

 

「な、なりませぬ御大将! 確かにこやつらは勢力の一つなれど、未だに川神との戦いは続いているのですぞ!?」

 

 

 石田は律儀に反論しようとする島に叫び、自身の奥義でアッガイ勢の大将首であるアッガイを倒そうとする。しかしそれに待ったを掛けたのが島だ。各地で戦闘が繰り広げられている中、いまだにどこの戦場からも各勢力部隊長の勝利敗北の報は来ていない。だが現実には既に天神館の長宗我部が敗北してしまっている。そんな中で博打とも言える方法で一気に勝負を付けようとするのは早急に過ぎると思っているのだ。

 しかし石田の考えも上手く行けば上等である。ここでアッガイを倒せば大将敗北によってアッガイ勢の負けは確定。川神学園との対決へと集中できるのだ。例え長宗我部の敗北が伝わってもそれ以上に士気を高める事が出来る。そしてアッガイを倒した勢いのままに他の十勇士と合流。流れを自分達のものと出来る。

 

 

「確かにここでこやつ等を倒せば勢いと流れは天神館に圧倒的有利。しかしこの者達がここに居るという事は、川神へと攻撃しているロボ達をこちらが労力を掛けて倒す事と同じ! 川神の戦力を削ぐどころか川神の手伝いをする事になるのですぞ!? 奥義の使用はお止め下さい!」

 

「どちらにしても倒す事に代わりないわ! 敵が目の前に居るのに臆するとはそれでも天神館副将か!!」

 

「! 大将! 島!」

 

「ヤベッ、ばれた!! でもアッガイは急に止まれない!」

 

「僕もー!」

 

「もー」

 

「うおぉっ!?」

「御大将!」

 

 

 なにやら揉めているようなのでボコボコにしてやろう、そんな考えでいたアッガイ達は攻撃態勢で石田に近付いていたのだ。しかし毛利に察知され、二人に注意を促されてしまった。それによって石田はかなり際どいタイミングではあったが、なんとかダメージを負わずに防御する事が出来た。

 いや、副将である島のおかげだろう。何故ならばジュアッグの放ったロケットは石田に確実に命中する軌道であったからだ。それをギリギリで、自らの得物である槍を使ってどうにか打ち落とした。だが無理矢理に体を動かした代償も少々大きい。

 

 

「ぐうぅ」

 

「島! お前腕をやったのか!?」

 

「……そこまで痛みはありません。が、しかしこの戦ではもう本来の力で攻撃する事が出来るか……」

 

 

 両手掌を見ながら島は答える。その手は意識せずに震えており、ジュアッグのロケットの衝撃を物語っていた。奥歯を噛み締めて悔しさを滲ませる島。そして信頼する副将が自分を守って負傷した事に大将である石田は怒りを燃やす。そもそもの攻撃を仕掛けた目の前のロボット共、そして島に守らせてしまった自分自身の不甲斐無さに。

 

 それとは反対に喜びムードなアッガイ達。敵が負傷しただなんて喜ぶ以外にどんな感情を示せばいいのか、という具合である。

 

 

「ジュアッグ、グッジョーーブ!」

 

「やったねジュアッグ!」

 

「わーい、やったどー」

 

 

 ハイタッチしながらキャッキャと騒ぐアッガイ達。それを苛立ちと怒りの眼で石田は睨みつけた。しかしながら状況は最悪。長宗我部は敗北し、副将である島も負傷してしまった。弓兵の毛利は居るが、如何せんアッガイ達相手では攻撃力の不足は否めない。攻撃力に関して言えば石田、そして彼の持つ奥義を使用すれば戦闘を有利に進める事が出来るだろう。だがここにはアッガイとアッグガイ、ジュアッグの三体が居るのだ。見た限りでは連携も出来ているし、押さえ込むにしても数が足りない。

 一気に天神館敗北の可能性が高まり、石田はこれまで以上にアッガイ達を警戒する。そしてそんな石田の心境を察してか、負傷している島も石田を護衛するかのように斜め前へと移動した。後方から支援射撃をしていた毛利も、動きがあればすぐにでも射撃できる態勢でいる。

 

 そんな窮地の石田達を救うのは、同じく天神館の仲間であった。誰もが意識を向けていなかった、故に【彼】は自由に、大胆に行動する事が出来たのである。

 

 

「ヌゥゥガアァァァァァァ!!」

 

「わっ!?」

「わー」

 

「ちょっ! アッグガイ、ジュアッグー! ってかなんでお前!?」

 

「俺に! 四国への愛を縛る理性はいらない!!」

 

「断空砲、フォーメーションだっ! って違う! 弟達よー!?」

 

 

 そう、長宗我部宗男だ。彼はアッガイの攻撃を受け、爆発によって意識を失った。しかし彼は再び立ち上がり、友の危機を救う為に決死の突撃を敢行したのだ。

 

 長宗我部の強烈な突撃によってアッグガイとジュアッグは吹き飛ばされ、工場の柱に激突。激突の衝撃によって立て掛けられていた建材の柱が雪崩落ちてくる。

 

 

「うわー!?」

「重いー」

 

 

 アッグガイとジュアッグはその建材の下敷きとなってしまい、一生懸命に手足を動かそうとするのだが、どうにも抜け出せない。

 これにはアッガイが焦った。余裕綽々、天神館フルボッコで決勝リーグ進出な感じだったのに、倒したと思った奴に反撃されてアッグガイとジュアッグが行動不能。助ければ十二分に動けるのだろうが、助けている間に攻撃されるのは目に見えている。

 

 焦る頭で考え出した結果は……。

 

 

「チクショウ覚えてろーー!!」

 

「兄さーん!?」

「兄ちゃーん」

 

 

 アッグガイとジュアッグを置いての撤退だった。背を向けて走り去っていくアッガイ。その速度はかなり速く、工場の構造を利用してすぐに視界から消える。石田達天神館組は追撃しようにも間に合わなかった。しょうがないので残されたアッグガイとジュアッグに近付いて確認を取る。

 

 

「おいお前ら。そんな状態だがまだやるか?」

 

「あ、すいません降参で」

 

「でー」

 

「某があんなにも梃子摺った二体が、このような結果になろうとは……」

 

 

 石田の問い掛けに二体は即座に降伏宣言した。さすがに身動きが取れなくなってまで戦闘が出来るとは思っていない。石田の隣に居た島は、開戦直後から戦っていた相手がこのような方法で、しかも降参する事になろうとは思っておらず複雑な心境であった。しかしながらアッガイ勢の二体を倒した事には違いない為、安堵の方が勝っている。

 

 

「お前達、すまんが後は任せたぞ……」

 

「!? 長宗我部!」

 

 

 しかしながら天神館も無傷とはならなかった。やはりアッガイの攻撃が相当にキツイのか、長宗我部が二体の降参宣言を聞いて安心したような、悔しいような表情のまま、再び倒れたのだ。咄嗟に島が長宗我部の体を支えるが、完全に意識は無くなってしまった様子である。

 

 

「長宗我部……俺はお前の事を四国の事しか頭に無い、戦闘事以外ではちょっと距離を置きたい奴、そんな風に思っていた」

 

(御大将、それは別に今言わずとも……)

 

「だがお前の根性は、正に天神館の誇る西方十勇士の見せるべき姿そのものだった。誇れ長宗我部。お前の作った勢いは天神館を勝利へ導くだろう……。島、長宗我部を医務係に任せ、俺達は進軍するぞ!」

 

「承知!」

 

「天神館が西方十勇士、その一人長宗我部宗男! アッガイ勢がロボット二体、見事に討ち取ったり!! この大将石田に続け! ロボに川神、恐るるに足らず!!」

 

『オオォォォーーーー!!』

 

 

 天神館の咆哮は工場地帯に響き渡った。士気は非常に高く、勢いに乗っている。例え西方十勇士の一人が倒れても、その心意気はしっかりと受け継がれたのだ。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「Holy shit! なんてこった! まさかアッグガイとジュアッグをこんな所で失うなんて!」

 

 

 一方、アッグガイ達を置いて走り去ったアッガイは、予想外の状況に頭を抱えていた。アッガイの予定では開幕攻撃から相手の部隊を誘引しつつ撃破、さらに本陣まで進軍して華麗な戦闘を繰り広げ、更に中央戦線も撃破して川神学園か天神館のどっちかを先に潰し、残った方に総攻撃を仕掛けて大規模にフィナーレを迎える筈だったのだ。

 しかし天神館の島は大将進軍を見て開幕攻撃していたアッグガイとジュアッグを放置して合流。そもそもアッガイ自身も中央戦線でズゴックと殲滅戦をする予定だったのだ。しかし弾薬爆破で何故か流星になり、天神館大将の目の前へと落ちてしまった。予想外に予想外が続き、全然予定通りに進んでいない。

 

 想定外の最たる原因はアッグガイ達を戦闘不能に追い込んだ天神館の長宗我部である。そもそも彼はアッガイの攻撃で気絶していた筈。それが何故あんなにも早く、意識を取り戻して突撃できたのか。

 

 

「完全模倣から一時的模倣にしたせいかな? だけど完全模倣は色々と問題あるし……」

 

 

 アッガイは自分の想像をある一定の領域にまで上げる事で、その能力を自分のものとして使用する事が出来る。以前にゲーニッツというキャラクターを模倣しヒュームと激闘を繰り広げた、あの時のように。

 しかしながらあの能力にも限度というか使用限界がある。そもそも完全に【成りきった】状態では約20分が限界。限界に近付けば近付く程に集中力が失われ、模倣を維持出来なくなるのだ。

 故に今回、アッガイは低リスクで強力な攻撃を発動させる為、一時的に模倣出来るようにちょっとした修行を異世界にて行っていた。攻撃時のみに特定のキャラクターの技を模倣し、強力なダメージを相手に与える。そんな予定だったのだが。

 

 

「やっぱり完全模倣よりも格段に威力が落ちてる? じゃないとあの四国マッチョがあんなに早く回復するなんて考えられないし……。こうなりゃ気絶した後にも攻撃加えるか? いやでもそれやると鉄心氏とかナベちゃんから怒られそうだし……」

 

 

 もう気絶した後にも攻撃加えよう、やっぱ怒られそうだから止めておこう、そんな風に考え続けるアッガイ。天神館側へはもう誘引させる人員もいないし、中央のズゴックと合流して川神学園側にいるゴッグとゾックとも合流。一時海中へ避難するか何かして川神学園と進軍した天神館が争う際に機会を見て、再び漁夫の利作戦を実行しようと考えた。

 

 

「しかし皆大丈夫かな。【良いシーン】は撮れてるかな……。血風連も見た目だけだからなぁ……いやマジで」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 その頃、中央戦線のズゴック。

 

 

「ふんっ!」

 

「また止められた!」

 

「犬っ! 下がれ!」

 

「大した速度だ。だが俺には届かない!」

 

「くうっ!」

 

「その大筒もだ!」

 

「!? 大友の動きを予測した!?」

 

 

 一子とクリス、更には大友焔を相手取って圧倒的な技量差を見せ付けていた。一子の薙刀はあっさりと受け止められ、クリスの高速の一撃も避けられる。隙を突こうとする焔の大筒は予測された牽制射撃によって撃つ事も出来ない。接近戦、射撃戦共にズゴックに一撃も与える事が出来ずに時間は過ぎていた。

 

 

「まだまだ未熟だな」

 

「言い返したいけどアイツ強いわ!」

 

「私の突きを、ああも簡単に回避されるとは……」

 

「ふん。ちゃんとした連携ならば俺は既に何回も被弾している事だろう。しかし被弾していない。それは何故か、分かるか?」

 

「大友が弱いと言うか!」

 

「個々の力がいくら強くても、それを発揮出来なければ意味も無い。発揮出来ないように戦闘を進めるのも技術の一つ。お前達はあわよくば隙を突いて俺ともう片方の敵を狙っているのがバレバレだ。目の前の戦闘以外に目を向けるのはいいが、目の前に集中しないで実力を発揮できるとでも?」

 

 

 そう、確かに一子にクリス、焔は実力がある。それぞれが部隊長に任命されている事からもそれは周知である事が分かるだろう。しかしながらそれはあくまでも個人の力での話であり、実力者同士の戦闘の駆け引きは含まれていない。ある意味で純粋、ある意味で未熟。経験不足と言える。

 彼女達はクリスと一子の場合、ズゴックと焔を標的に。焔の場合はズゴックとクリス、焔を狙っていた。しかしその狙いが明らかに露呈してしまっている。そして露呈してしまっているが故に、決定的な攻勢を掛けられずにいたのだ。深く攻め込めば攻撃が当たる。しかしそこを相手に狙われるのでは、という疑心によって実行できずにいたのだ。

 

 

「さぁ、無様に踊るがいい!」

 

 

 考えている間にもズゴックの攻撃がやってくる。クリスと一子、そして焔は未だに大きな決断をする事が出来ずにいた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 そしてこちらは川神学園本陣付近。ゴッグとゾック対川神学園本陣で待機していた部隊長達が戦闘を繰り広げている。川神学園は京に岳人、忠勝、マルギッテに小雪、そして心が攻撃を仕掛けていた。

 

 

「せいっ」

 

「甘いっ!」

 

「そいやっさー!」

 

「あぶねぇ!?」

 

 

 京の弓矢をゾックが叩き落す。ゴッグのアイアンネイルを岳人がギリギリで避ける。京は予想通りという表情で素早く反撃を喰らわない為に建物の影に移動。岳人は冷や汗をかきながらも近距離で粘る。

 

 

「おらっ!」

 

「んだ!? またこんなもん投げてきただよ!」

 

「シッ!」

 

「さすがにそろそろ鬱陶しくなってきたぞ、赤髪!!」

 

 

 間髪入れずにゴッグに向かって鉄パイプを忠勝が投擲。京の弓矢に気を取られているゾックにマルギッテが強襲。既に何度も鉄パイプを投げ付けられてきているのか、ゴッグは怒っているような声を出す。同じように何度も不意打ちを受けているゾックもまた、苛立たしさを隠さずに声を荒げた。

 

 

「おりゃー!!」

 

「んごぁ!?」

 

 

 忠勝に向かって腕をブンブンと振って攻撃意思を存分に示していたゴッグ。そこに空中から勢いをつけた小雪が降ってきた。ゴッグの後頭部に綺麗に決まった蹴りはゴッグの体勢を大きく崩し、ゴッグは前のめりに倒れこむ。そこに更なる追撃が迫った。

 

 

「にょほほ! 貰ったのじゃー!」

 

 

 倒れたゴッグの腕を取り、関節技を極めようとする心。しかしながらこのMS達の装甲は堅牢にして重厚。

 

 

「う、動かせぬのじゃぁー!?」

 

「そんな細っこい腕でオラは動かせないだよ! そぉれ!」

 

「にょわわぁー!?」

 

 

 関節技を極めようとして一気に吹き飛ばされる心。その距離は最早【お星様】になるレベルである。工場地帯の空を飛び、心は消えていった。ゴッグは少し苛々していた事もあって力を出しすぎてしまったのだ。心を飛ばしてからゴッグは『あ、やっちゃった』と思い、焦り始めた。

 

 

「怪我させたら大変だーよ!? 待つだぁぁ!!」

 

「!? おいゴッグどこへ行く!」

 

 

 ゾックの静止の声も聞かず、ゴッグは心の飛んで行った方向へと猛然と駆け抜けていく。その突撃と言えるような強烈さには京の射撃や忠勝の投擲すらも意味を無くし、何も無かったようにゴッグはいなくなった。

 突然の事態に全員が呆然とする中、忠勝が逸早くある事実に気が付く。

 

 

「おい不味いぞ! 不死川が飛んで行ったのはうちの本陣の方角だ!」

 

 

 そう、ゴッグが向かう先は川神学園本陣。そこでは軍師役二人と総大将、そしてその護衛が居る。しかし戦力として期待できるのは大将の護衛であるあずみのみ。大将の英雄も拳法が使えるが大将という立場からあまり戦わせたくない、というのが軍師達の意見だった。

 つまり飛んでいった心が戦闘不能になっていなかったと仮定しても、まともな戦力は二人しかいない事になる。本当ならば今すぐここにいる誰かを救援として本陣に送りたい所だ。

 

 

「…………」

 

 

 しかしここに居るゾックをどうするか。ハッキリ言って攻撃がまともに当たるゴッグと比べてゾックはかなり手強い。中途半端な攻撃は持ち前の装甲で意味が無く、マルギッテの強烈な連打にも対応してくる。射撃にもビームを発射して対応できているし、そもそも装甲がある故に無視する場合もあった。

 

 

「……私見ですが、あのゴッグというロボットよりもこのゾックというロボットをどうにかする方が良いでしょう」

 

「なんでー?」

 

 

 マルギッテの意見に小雪が問う。小雪だけは焦りもせずに純粋に楽しんでいるようで、表情は明るい。

 

 

「ゴッグは能力が高くとも戦闘に関してはこちらが主導できます。しかしこのゾックはこちらの攻撃に対応してくる。ゴッグだけならば女王蜂だけでもなんとか出来るでしょう。……ですが」

 

 

 そこまで言ってマルギッテは両手のトンファーを力強く構える。瞳は好戦的に輝き、獣のように牙を見せて笑う。

 

 

「天神館の部隊長が本陣まで来れば話は別。女王蜂と言えど数的不利では危ない。ならばやる事は唯一つ。このゾックを早急に倒し、本陣へ帰還します」

 

「……そう簡単にやれると思うか? 赤髪」

 

「ふふふ、簡単では面白くもないでしょう。ここからは――」

 

 

 そう言ってマルギッテは自分の片目を隠す眼帯を取り払った。

 

 

「――【狩り】の時間なのですから!!」

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

「あーもう、いいなーーーー!!」

 

「ひゃうぅ!?」

 

「百代。叫びながら一年の体を弄るなで候」

 

 

 川神学園の観戦席。そこでは既に戦闘を終えた一年と三年の生徒達が二年の戦いを観戦していた。そしてそこで不満を一年の同性の体にぶつけているのが武神、川神百代である。弄られているのは一年で同じ風間ファミリーに所属する黛由紀江。百代を諌めるのは同じ3-Fのクラスメイトである矢場弓子だ。

 二年の戦闘が始まってから事有る毎に由紀江の体――主に胸と尻――を揉みまくる百代。そんな彼女のせいで由紀江はずっと顔を真っ赤にしており、息も荒くなっている。ちなみに当初は男子諸君がそんなやり取りを間近で見ようと近付こうとしたのだが、百代が殺気を放って退散させた。さすがに後輩である由紀江のそんな姿は見せないように気を遣ったのか、それとも独占欲からなのかは分からないが。

 

 

「もうやめてー! やるならオラをやれー!」

 

「今の私が握ったら松風が粉々になりそうだぞ?」

 

「チクショー、オラはここまでだー!」

 

「松風ーー!?」

 

「……まゆっちはホントそういう所を別の部分に活かせれば友達できると思うぞ? しっかし良いよなー。なんだよあのロボット達。私も戦いたいなー。終わったらアッガイに問い詰めてやる」

 

「確かにとんでもない実力、いや能力で候。椎名の射撃もほとんど牽制と妨害にしかなっていないで候」

 

 

 三つ巴の戦いを見ながらも冷静に実力を見定めようとする弓子。百代からすればとにかく戦いたくてしょうがないのだが、彼女は彼女で気付いた事がある。

 

 

(確かに装甲は固そうだけど、あのゾックってのを見てると特定の攻撃だけ意識的に防いでるんだよなー。射撃は無視してる時もあるから射撃は無駄だな。打撃、それも一定以上の攻撃力を持ったやつだけを防いでる。一定以下だと射撃と同じ感じだな)

 

 

 一定以上の攻撃力をもった【打撃】が鍵。百代はそう思いながら戦闘を見ていた。

 

 

  ◇◆◇◆◇◆

 

 

 激しい戦闘が行われている工場地帯に、夜の闇を切り裂きながら進む一つのヘリコプター。そこに乗っている一人の少女は、自分の武器である日本刀を握り締めて目を閉じていた。普段から凛々しくも美しいその顔は今、戦いに向かう一人の戦士となっている。

 

 

(アッガイ……もうすぐ、もうすぐ義経が行くぞ!)

 


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