「おい、三上」
「あん?」
逆廻が声を潜めて話しかけてきた。どうしよう、大きな声出そうかしら。
まぁ、何かしら企んでいるようだし、聞くだけ聞くか。
「世界の果てに行かねぇか?」
「え゛え゛え゛。め゛ん゛どぐぜい゛」
「どうやって発音してんの、お前!?」
何やらとても面倒な事を告げてきた逆廻。
世界の果てなぁ・・・限りなく面倒臭そうだしなぁ。
「わかった」
「お、じゃあ行くか!」
「一人で行ってこいや!」
五寸釘バット降臨。そしてケツバット。
バレるわけにはいかないから無言で飛んで行ったが、中々にシュールだな。
「ゆー、きゃーん、ふらーい」
「何故かしら・・・そろそろ慣れてきたのだけれど」
「私も・・・」
「慣れるのはいい事じゃないか、お嬢様方。その調子で慣れていってくれたまえ」
「なんで上から目線なのよ・・・」
それはそれ、これはこれ。
さて、そろそろ着くかねぇ。
のんびり黒ウサギと3人は目的地まで歩いて行った。
「お疲れ様黒ウサギ。後ろの三人の方々が新しい仲間?」
「はいな♪このお三方がーーーあれ、もうお一人いらっしゃいませんでした?目つきが鋭く、いかにも”問題児です”といった方が・・・何気に三上さんはちゃんといらっしゃるのですね」
「おーい、何地味にディスってんの。ぶっ生き返すぞ」
「どういう状態の事なんですか!?いえ、それよりあの方はどこに・・・」
「十六夜君なら世界の果てに、三上さんのケツバットで飛んで行ったわよ?」
回答が斜め上だった。黒ウサギを始め、坊ちゃんーーージン=ラッセルというらしいーーーも、あんぐりと口を開けている。
「な、なんで、ケツバットしたのですが、三上さん!」
「そこに逆廻がいたから」
「どんな理由ですかっ!」
「じゃあどんな理由なら良かったんだ、おい!」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人をよそに、一人眉をひそめる坊ちゃん。
「黒ウサギ・・・」
「まったくっ!ーーーはい、箱庭の果てには強力な幻獣達が、たくさん跋扈しております!」
「あら?じゃああの二人はもうゲームオーバーなのかしら」
「始まる前からゲームオーバー・・・新しい」
「逆廻め、最先端を行くとは・・・羨ましい」
「そんな呑気に言わないでください!ジン坊ちゃん、このお三方を宜しくお願いします!黒ウサギはあの問題児様を連れ戻してまいりますので!!」
徐々に髪色が青から赤へ変化していく。つーかさー、どこが黒ウサギなん?青ウサギか赤ウサギじゃねぇの?いつまでかがんでんだよ、おい。
「つか、どうでもいいから早よ行けや」
「えっ、あっ、きゃぁぁぁぁあああああっ!!!!!」
おもむろに腕を引っ捕まえ、本日二度目の一本背負である。
音速で飛んでいき、見えなくなった黒ウサギに見向きもせず、坊ちゃんの方に振り向いた。
「さて、どうすんだ?坊ちゃん」
「は、はい・・・そうですね。天幕の中をご案内させていただきますので、ついてきていただけますか?」
「おっけー。それじゃあ行こうぜ」
天幕に入ると、なぜか太陽が見える。
若干薄暗いことに変わりはないが、どういう原理だろう。
「箱庭を覆う天幕は、内側に入ると外からは不可視になるんですよ」
「不可視に?ということは吸血鬼でもいるのかしら」
「はい、いますよ?」
「そう・・・」
冗談で聞いたのであろう久遠嬢は、引きつった笑みのままに頷いた。
吸血鬼なぁ・・・太陽を克服した吸血鬼がそういやいたような。
そうこうしているうちに、噴水のある広場に。広場にはたくさんの店が客寄せをしている。
「お勧めのお店はあるのかしら?」
「す、すみません。段取りは黒ウサギに任せていたので・・・良かったら、お好きな店に入ってください」
「あら、太っ腹ね」
四人は近くにあったカフェテラスに座る。
いやー、今日は運動したから、疲れたなー。
「いらっしゃいませー。ご注文はどうしますか?」
「三上、た○パンダになってる」
「やぺぇ、このままじゃ液化する・・・」
「三上さん、はい、水よ。飲んで復活しなさい」
水を飲む。生き返る。タレる。
「一瞬だったわね」
「えっと、紅茶四つと後はコレと・・・」
『ネコマンマを!』
「ティーセット四つにネコマンマ一つですね」
首をかしげる久遠嬢と坊ちゃん。
俺も首を傾げているが、果たして他の人がわかるかどうか。
「あなた、三毛猫の言葉わかるの?」
「そりゃそーですよ。私は猫族ですから」
「猫族、ね・・・」
「箱庭って凄いね。私以外に三毛猫の言葉分かる人がいたよ」
『来て良かったな、お嬢」
にゃーにゃーにゃー、としか聞こえんな。
なんか、すべての動物としゃべることができるらしい。
いいねー、ロマンだねー、ドラゴンあたりと喋ってみたいねー。
「おんやぁ?誰かと思えば、名無しの権兵衛のリーダー、ジン=ラッセル君じゃないですか」
声をした方に首を動かすと、ピチピチのタキシードを着た変態が居た。
え、坊ちゃん、こんなのと知り合いなの?今後の付き合い考えても良い?
「僕らのコミュニティはノーネームです。フォレストガロのリーダー、ガルド=ガスパー」
「黙れ小僧!「貴様にサ◯が救えるか」ーーーコホン。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである旗印と名を奪われて、よくも未練がましくコミュニティを存続できたもんだ」
そのままテーブルの空席に座ろうとする。
だが、テメェの席はねぇ!!
「!?」
「いや、ちょっと、変態と同席とか、マジ勘弁なんですけど」
「へ、変態ではないですよ」
「同席を求めるならば、まず指名を名乗ったのちに、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
「おっとこれは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ、六百六十六の獣の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、って誰が烏合の衆だ‼︎小僧!!!!」
ガルドの口は耳元まで裂け、牙をジンに向ける。
「自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか、理解できねぇのか?」
変態の言葉に反応し、般若が坊ちゃんに目を剥く。
「三上さん、失礼なこと考えてるでしょう。ーーージン君。私達のコミュニティが置かれている状況とは?」
「そ、それは」
だから怖いっていうのに。青筋浮かべるな。せっかくの可愛い顔が(ry
「貴方はコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら説明する義務があるんじゃない?」
「貴女の言うとおりだ。コミュニティのリーダーとして新たな同士に箱庭のルールを教えるのは当然の義務。よろしければフォレス・ガロのリーダーであるこの私がコミュニティの重要性と、小ぞ、ジン君のコミュニティについて客観的に説明させていただきますが?」
「そうねーーーお願いするわ」
つまりはこういうことらしい。
・コミュニティとは複数名で作られる組織のことであり、家族やら国やら群れやらと言い換えられる。
・コミュニティは活動する上で箱庭に名と旗印を申告しなければならない。
・特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのならば両者合意でギフトゲームを仕掛ければ吸収できたりする。
「続きましては淑女達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは数年前まで、東区最大手のコミュニティでした。先代は優秀な男だったようですよ。先代はね。しかし、この箱庭において最悪の天災と恐れられる存在に目をつけられてしまったのです」
「「天災」」
「最悪の天才・・・だと・・・」
「若干字が違うような気がしますが・・・。これは比喩でもなんでもありません。魔王と呼ばれる者達の事をいいます。魔王とは、この世界の特権階級を振り回し、コミュニティに襲い掛かります。ジン君のコミュニティは、そんな彼らの玩具として潰されたというわけです」
ふむ、やはり最悪の天才のようだな。
コミュニティを玩具として潰すとは・・・あれ?俺と魔王って気があうかもしれねぇ。
どーしよ、遊び行こうかな。でもなぁ、どこにいるんだろうなぁ。出てきてくんねぇかなぁ。
「彼は出来もしない夢を掲げて過去の栄華にすがる、恥知らずの亡霊でしかないのですよ」
どうやら旗とか名とか、結構大事なのね。
それがないと信用もされないし、そもそもノーネームってのは、そういったコミュニティの総称らしいし。
「単刀直入にいいます。私のコミュニティに来ませんか?」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの。春日部さんはどう思う?」
「別にどっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら意外。じゃあ私が立候補しても良いかしら?」
「うん。飛鳥はわたしの知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
なんか、友情が生まれている。
ガルドかわいそうだろ。口ぽかんと開けてるから。
「ありがとう。三上さんは?」
「俺ー?別にどこでも良いや。ただ、変態。テメェはダメだ」
ガルドは目を見開きながら、それでも何とか立て直しを図る。
「し、失礼ですが、理由も教えて頂いても?」
「だから間に合っているのよ。私は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってここにいるのよ。それを小さな地域を支配してるだけの組織の末端として加えてやると言われても魅力を全くないわ。」
「しかし・・・ジン君のコミュニティは」
「まだ私の話は終わってないわ。ガルドさんーーー『そこに座って、私の質問に答えなさい』」
ガルドの体が凄い勢いで、椅子にめり込む。
座る=めり込む。体重が相当重いとか?
「ちょ、ちょっとお客さん!揉め事は勘弁してください!」
走ってくるウェイトレス。それを涼しげに見て、久遠嬢はなおも続ける
「ちょうど良いわ。ここにいる人達に証人になってもらいましょう。面白い話が聞けると思うわ」
口元を歪ませ、変態に質問を開始する。
やっぱ般若じゃん。
「貴方は地域のコミュニティに両者合意で勝負を挑み、そして勝利したというわ。でもコミュニティそのものをチップとして賭けるのはそうそうあるものなのかしら?」
「や、やむを得ない場合は偶に。しかしこれはレアケースです。確かにどうしてでしょう。」
「強制させる方法は様々だ。簡単なのは、相手の女子供を攫って脅迫する事だ。」
「その子達は?」
「もう殺した。」
時間が止まる。その場が凍る。
久遠嬢や春日部嬢の胸中はわからんが、怒り狂ってるだろうなぁ・・・多分。
「初めてガキを連れて来た日、泣き声がうるさくて思わず殺した。それ以降、連れて来た子供達は殺す事にした。始末した後は「黙れ!」」
久遠嬢が叫び、ガルドの口がふさがる。
それにしても中々面白い余興だった。こりゃあ俺も何かせねばならんな。
「絵に描いたような外道ね。この男を裁く方法はあるのかしら?」
「厳しいです。彼が箱庭の外に出てしまえば、箱庭の法は効きません」
久遠嬢がパチンと音を鳴らす。拘束が解けたと思われるガルドは
一直線に久遠嬢に飛びかかった。
「この小娘がァァァァアア!」
「あーらよっ、でまーえ◯丁!」
「グガァアアッ!」
五寸釘バットが顔面に直撃し、一直線で壁に激突する。
この一撃でダウン寸前だが、近衛は構わない。
「おーいおいおいおいおい、まさかコミュニティのリーダーが、さっきの一撃で参りましたはねぇよなぁ?ほーら、動け動け。動かないとーーー死ぬぜ?」
「グ、ガァァァァアア!!」
ガルド目掛けて五寸釘バットが飛来する。それを必死な形相で避けたは良いが。
目の前には。
「しかし回り込まれてしまった!」
「グギャアッ!?」
かかと落としをお見舞いすると、地面にめり込んだ。
お前、今回はちょっとしたプレゼントだぞ、マジで。
「グ、グゥゥウウッ」
「動けない?ほら、頑張れ頑張れ!めり込んでてダメ?マジかよ?おーーい」
「三上さん?私の話先に終わらせても良いかしら?」
久遠嬢が後ろから冷たい目で見ていた。
なんだよー、ないちゃうぞー、ガルドが。
「私はあなたみたいな外道は、破滅すべきだと思うの。だから、ギフトゲームをしましょう?名と旗をかけて、正々堂々とね」
おっとこ前ーーー。