Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
この度は、何番煎じになるかわからない、赤い弓兵さんのZero逆行小説になります。
至らない点が多くありますが、読んでいただける方、どうぞよろしくお願いします。
「答えは得た。大丈夫だよ、遠坂。俺もこれから、頑張っていくから」
ボロボロになった赤い外套を身に纏い、いつもは上げていた髪を下ろした男は、何時の間にか作るのを忘れていた心からの笑顔を浮かべて言った。それを真正面から見つめる少女は、目端に涙を浮かべながらも、瞬き一つせずにその言葉を忘れないようにと魂の内に刻む。
少年にとっての地獄に落ちても忘れられない光景が、とある騎士との出会いの場面であるならば、少女にとっては今がその場面なのだろう。しかし、それも長くは続かない。霞となって消えていく目の前の男の体が、遂に透明色の方が強く成り、その体で遮っていた登りかけの朝日が、少女の目に飛び込んだ。
それには、目を逸らさないと固く決めた彼女にも抗い様がない。それでも目だけは閉じまいと、疲労のたまった上げることさえ億劫な片腕で朝日を隠した少女が、突如吹いた風により無意識に翻りそうになるスカートを両腕で抑える。直ぐに風は止み、ハッとなった少女が前を向いた時には、既に男の姿は失くなっていた。
目の前に飛び込んでくるのは、朝の訪れを告げる目を焼く強い朝日の光と、連なる山々の姿のみが広がっている。そんな、いつもと変わらぬ風景の中に、消えた男の残滓。キラキラと、朝日に比べると力は弱いが、しかしそれと比べても見劣りしない美しさを放って、エーテルの光が少女の目の端で消えていった。
直後、少し遠いが背後から聴こえてくる、消えた男と似た音で少女の名前を呼ぶ少年の声。少女は目端に浮かぶ涙を拭い、パートナーだった男が得意げに浮かべていた皮肉の笑みを口元に浮かべ、後ろを振り向いた。視界に入ってくる少年の姿は、今し方消え去った男の姿にやはり似ていた。
身長も、髪の色も目の色も声質も、未だ被ってはいない。しかしそれでも、どこかあの赤い騎士を彷彿とさせる少年の姿。言葉は敢えて交わさず、代わりに少女に良く合う様なガッツポーズを浮かべて、堂々と少年の元へと歩きさっていく少女の背中は、どこかあの赤い騎士と被って見える物がある。
だからだろうか。少女は最後に、もう聞こえる筈の無い男のくぐもった笑い声を聞いた様な気がして、一度だけ後ろを振り返るが、そこにはやはり誰もいなかった。しかしそれでも、己が聞いたのは幻ではなかったのだと。少女は一人そう信じて頷く。そして、今度こそ歩みを止めず同じくボロボロの少年の隣に立つと、共に
「ああ、本当に君らしい」
フッと、現世の接触から切り離され元いた守護者の座に帰る瞬間、男は彼女の去りゆく姿を見て呟いた。直前に眼球に飛び込んできた、去っていく赤い後ろ姿は、どこか男の後ろ姿に似ていて皮肉を言われた気分になる。自然と、やってくれたという気持ちが湧き上がり、男の口元に皮肉を象った笑みが浮かびあがる。
そして同時に、心の底から安堵した。英霊にすら平然と啖呵を切る彼女が付いているのならば、最早微塵の心配も無い。あの少年、衛宮士郎がエミヤシロウの様になる事は、どのような結果になろうとも有り得ないであろうから。何より、あそこまで啖呵を切られて愚直なまでに叫ばれては、認める他は無い。
「誰かに負けるのはいい。でも、自分には負けられない・・・か。クッ、よもや若き日の。それも一番未熟だった頃の自分に教えられては、世話もないという事か。やれやれ、覚悟が無かったのは私の方だったようだ」
小さく笑声を漏らすと、緩く閉じていた瞼を開き、飛び込んできた光景を目を逸らすこと無くしっかりと見据える。見渡すばかりに広がる、無限の剣が突き刺さる緑広がる大地と、そこに錆びて落ちる歯車が転がる、何処か暖かな光景を。瞬間、男の目が限界まで見開かれ、硬直した。
「・・・・・・待て。これは一体、どういう事だ」
数秒経って、男は疑問の声を口にするが、返答が返ってくる事はない。それも当然だろう。なにせそこは、自身の帰るべき座であるのだから。普通なら、いち早く気づきそんな無駄な疑問など口にする事はない。しかし、今男の目に飛び込んでくるのは普通の光景ではなかった。
男は、今目にしているような、殺伐としながらも何処か暖かな空気を感じさせる光景など知らない。何より、ここは男自身の
「ッ!?」
突如、自身の目に飛び込んできた、眩い黄金の光の柱の輝き。その色に、感覚的にはつい先程止めを刺した、傲岸不遜な黄金の王の姿が一瞬脳裏に浮かんだが、刹那の内にそのイメージは消え去る。何故なら、その光景を見た男の
輝かしい様でいて、何処か儚く。強烈な力を感じさせるようでいて、まるで包み込むような慈愛に満ちたその光。その正体に、男は思い当たり、否。一つしか思い至らず、男は難しいことを考える頭を無視し、ただその光の元に向かって歩みだした。最初の二、三歩はゆっくりと、その後の数歩は早歩きで、最後にはその鍛えられた両足で、走るのを楽しむ少年の様に大地を走り出す男は、遂に目的の場所へと辿り着いた。
足が止まる。目力が抜けた。張っていた頬が緩み、口元が震える。言葉が出ない。飛び込んでくる光景に、懐かしさを禁じえない。何故ならその光景は、未熟だった嘗ての自身が、不遜にも心の何処かで望み、しかし叶えられる事は無かった無窮の幻想だったのだから。
その光景は、正に地獄の底に落ちようとも、奈落の海に飲まれようとも、忘れる事はない光景。その輝きは、どの様な豪勢な装飾に彩られた財宝よりも、強い色を魅せる輝き。男にとって、至高の存在だったのだから。
やがて、近づいてきた気配に気付いたからか。それとも、最初から気付いていてタイミングを見計らっていたのか。黄金の輝きを放つ、男より遥かに小柄な少女が目を開き、男の姿を瞳に映した。それに気付いた男は、何か言うべきだと考えたが言葉は出なかった。言おうとすると、喉が震えて上手く言葉を発せられない。
それを見て、少女は優しく微笑む。嘗ての様に、しかしその時の様な厳かな雰囲気ではなく、包み込むように右手を差し出して口を開く。
「お帰りなさい、シロウ」
たった一言。しかし、十分過ぎる程の一言だった。それで、頭の中を右往左往していた難しい言葉など吹っ飛んでいく。最早、答えるべき言葉など一つしか無い。男は格好悪く両目を右手で拭うと、差し出された右手をしっかりと握り締め、口を開く。
「ただいま、アルトリア」
同じく、告げられたのは短い一言だった。だが、その短い一言を聞くのに一体どれだけの長い時間を待ち続けたのか。シロウと呼ばれた男に、アルトリアと言われた少女は、これ以上は耐えられなくなった涙を目端から零し、小さいがこれ以上ない程に綺麗な笑みを零した。
それと同時、駆け寄って抱きしめたくなる衝動が少女の内から湧き上がるが、咄嗟の理性でそれを押し止めた。代わりに、湧き上がる衝動に負けんと、握り締めた拳をプルプルと震わせ、そしてゆっくりと解いていった。開かれた掌には、先程男が見た黄金の輝きが宿っていた。
それを、少女はゆっくりと男に向けると、その掌を鍛えられた胸板に割れ物でも扱うかの様に、優しく密着させる。その行動に、一体どんな意図があったのかと、男が問おうとするや否や、黄金の輝きが自身の躰の奥底へと吸い込まれていくのを見て驚愕する。
途端、躰を襲う異変。身を焦がす様な強烈な熱、魂を塗り替えるかの様な猛烈な光の奔流。しかしそれは、決して男を害するものではなかった。寧ろ、それは目の前の少女が持つ雰囲気と同等の、優しく包み込み、全ての物から男を守護するかの様に、男の魂を覆っていく。
その感覚には、覚えがある。そう。それは、未熟だった頃の自分が、幾度となく命を助けられた少女の聖遺物。目の前の彼女を呼び、そして最後には彼女に返還した、己が生み出せた偽物の中で、唯一本物と遜色ない出来で作り出せた物。
「これ、は・・・」
「それが、きっと貴方の助けになってくれる筈です」
「助け?待て、君は一体何を言って」
男が、目の前の少女の言動に疑問の声を上げた途端、再び異変は起こった。しかし今度のものは、先程のものとは違う。徐々に身を引き寄せる感覚は、忘れもしない慣れ親しんだ感覚。それでいて、理不尽な命令で呼び出される地獄の掃除でも無い。人の声、それも嘗て地獄の様な光景の中で掛けられたあの男の声であり―――
「ッ―――」
最早、その身を襲う力の奔流に抗う事は許されない。上げようとした声は、魔力の奔流に呑まれ音を発せず、消え去っていく。それでもと、必死の抵抗で伸ばした腕で目の前の少女へと手を伸ばす。しかし、それは届かなかった。男を包んでいた魔力の奔流がパッと弾け、同時に男の姿が霧散する。後に残されたのは、数秒前まで男がいた場所をジッと見つめる少女が独り。
「いってらっしゃい、シロウ」
その言葉を最後に、少女の姿も黄金の輝きを放ってそこから消えていく。完全にその姿が消え去った後、そこにあるのは緑広がる大地と、そこに突き刺さる剣、そして崩れ落ち砂と成って風に散っていく歯車の残滓だけだった。
「ぐっ・・・・・・」
突然の浮遊感と、何処かに引き摺られる感覚にシロウは堪らず呻き声を上げた。その感覚には、覚えがあった。何しろ、それを体験したのは1月も経たない過去に経験した事だからだ。尤も、それを無しにしても、シロウはその感覚を常日頃から味わっているのだから、今更疑問の声が上がるわけではない。しかし、驚愕はあった。当然だろう。何せ、今回のその感覚は、いつもの欝になりそうな仕事をする為の呼びかけではなく、先程終えたばかりの戦い。
聖杯戦争と呼ばれる、魔術師同士の規模こそ小さいが起こる悲劇は決して小さくない戦への、呼びかけだったのだから。だからこそ、驚きはあった。可能性としては無いわけでは無いだろうが、まさか連続で聖杯戦争に召喚されるとは思ってもいなかったのだから。しかし、それについて驚こうが嘆こうが最早どうにもならない。何せその身は、もはや現界仕掛けているのだから。吹き荒れるエーテルが、幽体である自身の偽りの肉となり形作り、それにやや遅れて五感が定着していく。
やがて、エーテルの嵐が完全に止むと、その余波があたりに広がり、周囲の空気を殴りつけた。波紋が円形に広がっていき、霧となった陰惨な空気を纏った水蒸気が一気に晴れると、シロウはゆっくりと大きく深呼吸する。内心、今回はまともに召喚されたなと、少しばかり安堵し、小さな笑みを口元に作り瞼を開いていく。
瞼の裏では、あの赤い少女を幻視しながら、答えを得た今度こそは、その期待を裏切らない様にと心に決め、完全に目を開いた。そして、目の前に在る人の姿を見て、恒例の皮肉の一つでも言ってみようかと、口を開きかけてその双眸と口を大きく開いて固まった。
「なっ・・・・・・」
そこに居たのは、赤い少女、遠坂凛ではなかった。かと言って、全く見知らぬ人間というわけではなかった。寧ろ、ある意味においては、遠坂凛よりも深い関係を自身に持つ存在。黒くボサボサとした、全く手入れの行き届いていない髪に死んだ魚の様な目をしていながら、その眼窩の奥には何よりも強い意思を宿した男。自身の知る彼とは違い、何処か凶器じみた雰囲気を纏うその男の名は、衛宮切嗣。
「じい・・・さん・・・?」
嘗ての憧れの養父にして、今は複雑な念を抱くその人物だった。
エミヤ側のプロローグ終了です。いきなり、つっこまれる要素満載だった気がするプロローグです。
これからの事ですが、更新は基本遅めとなっております。できれば週に1本は上げたいところですが、あまり急いでも文が乱れまくりそうなので、このペースでいきたいです。
尤も、プロローグに関しては、もう一つあって切嗣側の方は完成しているので、そちらは上げたいと思っています。
それ以降は、更新未定ということでお願いします。
fate/zeroなのに、所々コメディが入る事があるかもしれないので、それが苦手な方はこれ以降お気をつけください。
誤字の指摘、ここは解釈が違うという点があれば、どうぞ感想欄にご記入ください。尚、稀に作者独自の解釈が入ることもありますので、その点に関しては多めに見ていただけるとありがたいです。