Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
ドイツの吹雪舞う森の奥。吹き荒れる風は極限の寒気を帯び、それと共に辺りに散弾の如く突き刺さる雪の礫は、冷たさも相まって凶器地味た物となっている。そんな中にそびえ立つ、荘厳な雰囲気を漂わせる巨大な城には、しかし殆ど人気と言うものを感じさせない。それはまるで、その城の一帯だけが別世界に成っているといっても過言ではないだろう。
事実、その城に存在する生物というのが、一人を除いてその全てが人間ではなく、人間離れした容姿と気配を持つ人造人間であるのだ。そこは、異界と言って差支えがなかった。尤も、その一人の人間にしても、併せ持つ雰囲気と能面の様に無表情な顔を見れば、それがまともな人間ではない事は明らかだった。
その一人の人間の名前は、衛宮切嗣。嘗て、魔術師殺しと畏怖の念を抱かれあらゆる魔術師から嫌煙されていた、恐るべき殺し屋だった。その手段は、徹底して冷徹にして残虐。魔術師であるにも関わらず、相手を殺すのに魔術に拘らず、彼らが尤も忌み嫌う近代兵器を用いる彼の存在は、真っ当な魔術師であればあるほど驚異となったのだ。
加えて、相手を殺すのに一切の躊躇も油断もなく、只々単純作業をこなすかの如く、引き金を引き続けるその様は、殺戮機械とでも呼ぶ方が相応しい存在だろう。そんな恐るべき殺し屋だが、その根底にある思いは、誰よりも愚直であり、魔術師でなくとも理解し難いものであった。
誰も悲しまない世界、この世から戦争が失くなって欲しいという願い。それが、衛宮切嗣を無限に近い戦場へと駆り立てる燃料となっていたのだ。自身の命など勘定に入っていない。身近な者、親しい者であろうと、大きな意味を持たない。戦場で、或いは悲劇の場で、どうでもいい多くの他人と、片手の指で数えられる親しい者があったとすれば、多きを取り、少なきを捨てる。
通常であれば逆の方を取るべきを、男は数が少ないからという理由で、その命を捨て去るのだ。それが、例え自分の命であろうと、どんなに大切な者であろうと切り捨てる。それが、どんなモノであろうと例外はない。何故ならそれが、多くのモノを犠牲にして、衛宮切嗣の選んだ
故に殺したのだ。あらゆる戦場で、あらゆる悲劇の場で、彼は自分で選び殺し続けた。誰に恨まれようと、誰に糾弾されようと、夢見る世界を叶えるために、只管に殺し続けたのだ。そしてそれは、自身の命が尽きるまで続くであろうと、理解したくない現実を受け入れて、殺し屋を続けてきた。その度に、既に限界まで壊れた心を更に砕き、壊し、摩耗させながら。
だが、そんな永遠に続くであろうと思われた行動は、八年前に唐突に終わりを見せた。そう、聖杯戦争と言う、戦争の勝者の願いをなんでも叶えるという願望機を奪い合う戦いを知り、その管理者の一つである千年の歴史を持つ大家、アインツベルンに迎えられる事によって。
長い苦悩と、晴らされる事の無い
そこで、己にとっての最初で最後に得るであろう妻。アイリスフィール・フォン・アインツベルンと出会うまでは。しかし、彼女は人の身ではなく、アインツベルンによって作成された人造人間。つまり、人工的に作り出された人の形を模った人形だったのだ。それも、只の人形ではない。聖杯の器、それをその内に宿した人形。故に、切嗣にとってアイリスフィールは、理想を叶える為の道具として只使い潰される人形
となるべき筈だったのだ。
そう、通常であれば。しかし、そこで衛宮切嗣は決して犯してはいけない過ちを犯したのだ。機械として、殺人装置として存在していた男は、あろう事か人形である女を人間として愛してしまったのだ。そしてその末に、娘であるイリヤスフィールを産んでしまった。通常であれば、それは目出度いはずの事だった。しかし、それは通常であればの話。衛宮切嗣という殺人装置にとっては、一人は必然的に、もう一人は万が一の時に失うかもしれない重荷が増えてしまったのだ。
それは何という悲劇なのか。切嗣はそれに嘆き、苦しみ、しかし一人の人間の娘として愛したいという感情の板挟みに苦しめられた。結果的に言えば、それはアイリスフィールによって諭されたのだが、心の内ではいつまでも晴らされる事のない毒となり、切嗣の痼りとなって存在し続けた。そして今、切嗣はそれに押し潰されそうになりながら、薄暗い聖堂の長椅子に腰掛け項垂れていた。
「切嗣・・・」
そんな切嗣に、女、アイリスフィールは目を伏せながら言葉をかけた。それに対して、切嗣が答える事はない。耳には音が入っているのだろうが、それに対する返答は無い。尤も、それは悲嘆に暮れているのではない。彼の中で、人間衛宮切嗣から、魔術師殺し衛宮切嗣へとスイッチを切り替えているだけだった。
そしてそれは、それ程間を開けず完了した。アイリスフィールの見ている前で、一つ大きなため息を着くと、閉じていた双眸をスッと音もなく開いた。その瞳は、いつもの彼女が見ている暗いながらも何処か優しさを感じさせるモノではなく、何処までも冷たく冷え切った冷徹なモノとなっていた。
思わず唾を飲み込むアイリスフィールに気付き、それを若干ながら弛緩させる切嗣だったが、本質的に変えることはない。長椅子から立ち上がり、動きやすく改造された革靴でカツカツと床を叩きながら、床に描かれた巨大な魔法陣の前で立ち止まる。
「始めよう、アイリ」
「ええ・・・そうね」
アイリスフィールの返答を聞くや否や、切嗣は一度魔法陣の奥に置かれた裁断の上の聖遺物、全て遠き理想卿に目をやる。今から凡そ千五百年前、この世界に実在したと言われる騎士の中の騎士、全ての騎士の頂点に立つであろう騎士王の持った伝説の剣の鞘。それには、現在を持っても複製不可能な神秘が秘められた、最高の聖遺物。
これを触媒として使用するならば、呼び出される英霊は、間違いなく目当ての人物となるだろう。その事に不満はない切嗣だが、自身の戦い方と相性を考えるのならば、呼び出される人物との間に生じるであろう軋轢を考えれば、不安はあった。如何に最強の英霊を呼び出そうと、相性を含めれば最強は最弱にも成り果てるのだ。
「(とは言え、策が無いわけでもない。この際、事ここに至っては文句など言った所で、どうにもなる問題ではないか)」
「どうかしたの?切嗣」
「いや・・・何でもないよ、アイリ。それじゃあ、手筈通りに始めようか。召喚した後は、君がマスターと見せかけ行動すれば、問題はそこまで生じないだろうからね」
そこで会話を止めると、切嗣は視線を祭壇の上の聖遺物からアイリスフィールに移し、そして魔法陣へと移した。やる事は決まったのだ。最早、ここに至って迷うべき事はない。切嗣は集中の為に一度目を閉じ、それから魔力を自身の魔術回路に火を灯し魔力を循環させる。これで全ての準備は完了した。故に、英霊を召喚する最後のトリガーを引いた。
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する―――」
最初の一節を唱えた切嗣の言葉に呼応する様に、魔法陣の一番外側の線(ライン)に魔力が通う。描かれるのに使われた水銀が、魔力を帯びて怪しく光りだす。
「祖に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ―――」
第二節が唱え終わると、水銀はまるで生きているかの様に脈打ち、心なしか心音まで聞こえてきそうな程だ。途端に、切嗣の全身に焼けるような痛みが走るが、苦痛の声は漏らさず呪文を唱えるのは中断しない。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ―――」
第三節が終わり、魔法陣の水銀は全体を発光させ、後ろに立っていたアイリスフィールは片腕で目を覆う。切嗣を襲う痛みは更に増し、意識とは別に腕がプルプルと震えだす。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者―――」
第四節を唱え終わった瞬間、それまでとは別格の衝撃が切嗣を襲い、本の一瞬切嗣の視界がブラックアウトする。思わず倒れそうになる体を、刻まれた魔術刻印が意識を繋ぎ留めた。今この瞬間、衛宮切嗣はただ英霊を召喚する為の装置と成り果てる。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
そうして呪文は完成した。今まで切嗣を襲っていた激痛が、それが嘘だったかのように霧散し、魔力によって生み出された霧がエーテルの弾ける衝撃で、周囲の空気ごと払い去った。その衝撃に、切嗣とアイリスフィールは飛ばされそうに成りながらも、必死にその場で耐え忍ぶ。
その衝撃は、そう長くは続かない。魔力の奔流が収まり、元の穏やかさを取り戻していくと、切嗣とアイリスフィールの視界に一人の男の姿が飛び込んできた。体躯は大きく、英霊と呼ばれるに相応しい体を黒い鎧と赤い外套で包み込み、色素が完全に抜け切った白銀の髪を後ろに流した男。二人が感じる内包した魔力も、微塵の疑いもなく英霊だと告げていた。
しかし、その男を見た切嗣とアイリスフィールは唖然とした顔をして固まり、やがてゆっくりと目を見開くと真正面に立っていた切嗣を視界に入れ、大きく目と口を見開いて同じ様に固まった。
「じい・・・さん・・・?」
「お前は、一体・・・」
こうして、召喚は終わった。最高の聖遺物と、最強のマスターを揃えたアインツベルン。今その瞬間、その時をして、千年の歴史を誇るアインツベルンは四度目の聖杯戦争の始まりを告げた。
プロローグ2、切嗣サイド終了です。
こちらも色々ツッコミ所がありそうですね。申し訳ない。
呪文に関してですが、祖には我が大師シュバインオーグは入れたほうが正解なんですかね?よくわからないので、ここだけ抜かしてしまったのですが。
もしわかる方がいたら、教えていただけると幸いです。
次の更新は、決まっていません。ですが、来週中には出したいと思っていますので、ご了承ください。
それでは、失礼します。