Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
今回は、ちょっと説明がくどい回になってしまいます。
なので、適当に流し読みしてくれても構いません。
ドイツの奥深くにあるアインツベルンの本拠地。その城にある荘厳な雰囲気を漂わせる聖堂の中、そこに集う三人は奇しくも同じ表情、そして感情を抱いて固まっていた。理由は言うまでもない。衛宮切嗣とアイリスフィールは、喚び出した英霊の容姿を見て。
対する喚び出された英霊であるシロウは、呼び出した男の姿を見て。それぞれ、驚きの違いはあれど、驚きの程度は同じものだった。暫しの沈黙が、三者の間で流れる。その間、誰一人として言葉を交わすことはなく、気まずい沈黙がその場を支配していた。
そんな空気の中、それを払拭する為に口を開いたのは、切嗣でもなければ喚び出されたシロウでもなく、聖杯の器であるアイリスフィールだった。
「えっと・・・一応尋くけど、あなたが私達が呼び出した英霊なのよね?」
確認するかのような彼女の一言は、額面通りの意味を指すのではない。魔法陣が起動し、魔力の発露があった以上、今目の前にいるのは呼び出された英霊に違いない。何せ、纏う雰囲気や感じる気配が、人間のモノとも、人造人間のモノとも決定的に違っている。
その辺り、同じ人外であるアイリスフィールにはその違いというものが明確に理解できた。どの様な素性の者であれ、アレは存在そのものが異質なのだと、直接頭に理解させられる。だからこそ、聞いているのは英霊なのかという問いではない。
即ち、呼び出した英霊が目当ての英霊であるのかという確認だった。アインツベルンが此度の英霊召喚で用意したのは、紛れもなく一級品と呼ぶのさえ劣るのではないかという程の代物だった。
何せ、聖遺物その物が第二魔法の概念や、正当な持ち主が扱えば不死の概念さえ宿る代物だ。これ程の聖遺物であれば、呼び出される英霊は紛れもなく目当ての者となる筈だった。
その考えについては、誰も疑問を浮かべないだろう。寧ろ、疑う事の方が難しいレベルの疑問だ。とは言え、今目の前に存在する男を見て、何の疑問も浮かべず目当ての者。つまり、全て遠き理想卿の持ち主である、アーサー王だと言えるかどうかと言えば、それは難しいものがあった。
感じる畏怖や、その体躯は問題がないだろう。しかし、その顔を見てしまえば問題が無いとは言えなくなる。現代でさえ、アーサー王と言うのはその名が知れ渡った英雄だ。この世界において、千五百年前にブリテン国を統治し、円卓の騎士達を纏め数々の英雄譚を築き上げた、伝説の騎士王。
その詳しい容姿こそ、今でも分かっていないものの、その人物は紛れもない西洋人である筈だ。故に、喚び出される英霊は、アーサー王であるならば少なくとも西洋人でなければならないのだ。
だが、今目の前にいる英霊はどうか。髪の色は色素が抜け切った、銀色とも白色とも取れる色で、肌の色は浅黒く、何よりその顔はどこをどう見ても西洋人の作りには見えない。寧ろ、顔の作りだけで見れば、英霊を喚び出した本人である切嗣に近いのではないかと思える程だ。
結論から言えば、どう足掻いても西洋人ではなく、東洋人にしか見えない。それ故に、今目の前にいるのがとてもではないがアーサー王とは思えなかった。切嗣とアイリスフィールの二人にしてみれば、アーサー王が女性だったと言う方がまだ信じられる話である。
だが、現実はそんな話ではなかった。万全の機会と、万全の準備を期して行ったその結果。召喚されたのはアーサー王とは思えない、何処の英霊かも解らない謎の存在だったのだ。これには、さしもの魔術師殺しも言葉が出なかった。
先程まで浮かんできた問題が、可愛く思える程の失態だ。一方で、喚び出された側の英霊であるシロウも、その内心は複雑を通り越して余り有るものだった。彼とて、己が生まれる以前所か、神話の時代や太古の時代に呼び出された事さえある存在だ。
それも当然。何故ならシロウは守護者という、霊長の存命のみを重視する存在だ。時間軸など無視して、あらゆる時代に召喚されるのは常日頃の事だった。そこから考えても、無い可能性の話ではない。だが、それは可能性の話だ。それも、超極小の。
確かに、ついちょっと前に、自身が存在していた時代に、聖杯戦争にサーヴァントとして喚び出された。だが、その聖杯戦争にしても、呼び出されるのは第五次のものであり、それ以外は有り得ない筈だ。
否、可能性としては有り得るかもしれないが、それにしても衛宮切嗣がマスターに成る事は有り得ない筈なのだ。何せ、触媒となる物を衛宮切嗣は持っていない。第五次聖杯戦争で、遠坂凛が無意識の内に触媒として利用していたペンダントは、今はまだ本来の持ち主である遠坂時臣が保持者のはずだ。
仮に、万が一の可能性があったとして、そのペンダントが遠坂時臣の手を離れようと、宝石魔術に際立った適性がない衛宮切嗣には必要の無い物だ。衛宮の家が、そんな魔術を得意としていた覚えはない。
その為手に入れたとして、保持し続ける理由はないだろう。それに見る限り、衛宮切嗣が宝石を所持している様子はない。故に、あのペンダントを触媒に呼び出したとは考えられない事だった。
そうなると、一体どういう事なのか。シロウは眉を顰めて、一瞬閃いた親子の関係性を疑るが、その可能性は直ぐに霧散して消える。何せ、衛宮切嗣と衛宮士郎は本当の親子ではない。
衛宮士郎にとって衛宮切嗣は、血の繋がりのない養父であり、衛宮切嗣にとって衛宮士郎は血の繋がらない養子なのだから。魔術にしてもそうだ。衛宮士郎と衛宮切嗣の扱う魔術は全くの別物であり、関連性は無い。
そんな考えの中、唯一有り得る可能性というのが、正義の味方という要素。だが、衛宮士郎は兎も角として、衛宮切嗣は明確にそれを諦めている。その為、それは絶対に適応されない筈なのだ。何より、それは触媒というには余りにも無理があった。
では一体何がと、頭に手を置いた瞬間、先程のアイリスフィールの疑問の言葉を思い出す。そして、直ぐに気付かなかった自分の愚かしさに戯けと、内心で自分を罵った。考えてみれば簡単な事だった。
自身が人間だった頃、第五次聖杯戦争でセイバーを喚び出せたのは何故だったのか。それは、衛宮士郎の体に埋め込まれた聖遺物、全て遠き理想郷があったが為だったのだ。そして、セイバーは言っていた。
第四次聖杯戦争で、セイバーは衛宮切嗣に喚び出されたのだと。となれば、今回にしても衛宮切嗣が英霊召喚に使用した聖遺物は、全て遠き理想郷である筈なのだ。勿論、用意した聖遺物が全く別の物だったという可能性もある。
何せ、衛宮切嗣がいるとしても、ここが全く同じ世界であるとは限らないのだ。別の可能性があったとしても、可笑しくはない。だが、事此処に至ってはそれは有り得ないだろう。その理由は、先程のアイリスフィールの疑問が答えだ。
先程の問いは、明らかに別の意図を含んだ物だった。先程は茫然自失していた為、すんなり頭に入ってこなかったが、多少は冷静になった今であれば理解できる。あれはつまり、そういう事なのだから。
故に、シロウ側の疑問は殆ど晴れたと言ってもいい。全て遠き理想郷で自身が召喚できたのも、可能性が無い話ではないし、何よりここに来る前の出来事を思い出す。あの時、セイバー、否。アルトリアは、あの黄金の輝きをシロウに押し付けていた。
自身の体を解析してみると、全て遠き理想郷こそ存在しないものの、完全に否定できない物が自身の奥底に眠っている。
「(成程。理由は分からないが、あの時にアルトリアが何かしたのか。となると、彼女は俺が呼ばれるのを知っていた・・・否、まるでそう仕向けたかのように思えるが、さて)」
ふむと、シロウは目の前の二人そっちのけで考え込みだした。そこで漸く、切嗣がハッとなってシロウを睨んだ。気を落ち着ける為、一度大きく深呼吸をすると、スイッチが切り替わったのか、動揺を完全に消し去って表情を作り直し、口を開いた。
「答えてもらおうか。お前は一体、何者だ。僕が喚び出したのは、伝説の騎士王アーサー・ペンドラゴンの筈だ。だが、お前はどう見てもアーサー王には見えない。西洋人所か、僕には僕と同じ東洋人にしか見えないが」
「・・・ふむ、成程。突然のアクシデントに驚きはしても、きちんと自体は把握していると見た。頭はちゃんと回る様で何よりだよ」
シロウのその言葉に、ピクリと切嗣の眉が動く。隣で見ていたアイリスフィールは、そんな夫の姿を見て内心焦るが、同様を口に出したりはしない。そんな事をすれば、即座に目の前の英霊に何か言われると直感で悟った。
切嗣はそんなアイリの様子も相まって、尚更シロウに好き勝手喋らせるのはマズイと悟った様だ。最早睨み殺さんとばかりに、目の前の存在を睨みつけ、しかし言葉は荒げずに再び聞く。
「もう一度聞く。お前は何者だ、サーヴァント。セイバーでは、アーサー王ではないのか?もしそうならば、クラスは。貴様の真名は何だ」
「やれやれ、こうも一度に聞かれると、何から答えていいのやらわからんのだがね」
「・・・質問に答えろ。それとも、お前は僕に令呪を使わせたいのか?」
「・・・・・・」
切嗣の脅しの言葉に、遂にシロウは黙り込んだ。尤も、答える気が無いというわけではない。こんな馬鹿げた事で、令呪を使わせるわけにはいかないのだ。それはついこの間に経験したばかりなので、勘弁願いたい。ここは最早、黙っている場合ではないなと判断すると、小さくないため息をついて頭を切り替えた。
「お察しの通りだよ、マスター。私は、君が喚び出そうとしたアーサー王ではない」
「ぁ―――」
「アイリ!」
シロウの言葉に、アイリスフィールが小さくよろめくと、右手で口を抑えて椅子に寄りかかった。切嗣はそんな彼女を気遣おうとするが、それよりも今は他にすべき事がある為に、彼女を無視する事にする。
気遣う事など、慰める事など後にでもできる。それより今は、目の前の存在を確かめることこそ切嗣にとっては重要なのだから。それはシロウも解っているからか、敢えて口を出したりはしないで、切嗣が立ち直ったのを見て再び口を開く。
「続けていいかね?」
「当たり前だ。先ずは答えろ。お前は一体誰なんだ」
「私が誰か・・・か。そうだな、先ずは一つ謝っておこうか。悪いが、私の名前を君達に教えることはできない」
シロウがため息をついて言うと、切嗣は隠そうともせずに舌打ちをして、令呪の宿る腕を見る。このままでは埓があかない。それならば、いっそこいつを使うべきかと悩んだところで、シロウから制止の声がかかった。
「説明が足りなかったようだ。私が言いたかったのは、私の真名を告げることに意味はないと言う事だ」
「どういう意味だ?」
「何、至極簡単な事さ。私の名前など、君達に告げた所で絶対に意味など為さない。何せこの身は、この時代より更に数十年の後に英霊となった、未来の英霊なのだから」
「何・・・だって」
シロウの言葉に、切嗣は勿論の事、椅子にもたれ掛かって聞いていたアイリスフィールも愕然としてシロウを見つめた。それは、一見信じられない事実だった。とは言え、聖杯戦争の英霊召喚のシステムを、嫌というほど頭に叩き込んだ切嗣と、その始まりを担う一家の一人であるアイリスフィールは、不可能ではないと判断した。
聖杯戦争で喚に出される英霊とは、そういうものなのだと。現在過去未来、時間の概念すら超越する存在。人間以上の存在であり、そのあり方こそ亡霊に近いものの、存在としては精霊に近い規格外の霊格を持つ霊魂。
それが、英霊の正体だ。聖杯戦争とは、その規格外の存在を使い魔として使役して、命をかけた殺し合いをする質の悪いゲームなのだ。それならば、未来の英霊を召喚するというのも、確率的には限りなく低いものの、有り得ない事ではなかった。
ただ、それはあくまでも理屈。机上の上での事だ。普通であれば、それがサーヴァントの口から齎された正体だとしても、簡単に鵜呑みにする事はできない。そう、できない筈なのだ。だというのに、何故なのだろうか。
その生き方から、他人を疑い、自分を疑い、全てを疑う事を常としていた切嗣が、目の前の男の口から漏れた言葉に、何の根拠もなくそれを受け入れ、これ程までに深く考えてしまうのは。
理屈ではなく本能が、目の前の自称未来の英霊の言葉を紛れもない真実だと受け入れてしまったのは。
「(僕は一体何を考えているんだ)」
知らず知らずの内に、切嗣は自身の根拠のない愚かな思考に対して、苛立ちを隠そうともせずに舌打ちする。その一方で、アイリスフィールの方はというと、奇しくも切嗣と似たような考えを抱いていた。
尤も、それは完全に同じという意味ではなく、根拠が無いというわけではない。敢えて言うのならば、アイリスフィールの目には、信じられない事に目の前の英霊と、切嗣の姿が何処か被って見えたのだ。
召喚した直後から、マスターである切嗣に皮肉をかまし、二人を混乱させたサーヴァントを、どうにも他人とは思えなかった。勿論、そんな事を口に出すわけにはいかない。幾ら会話をしていないとは言え、アイリスフィールとて衛宮切嗣の妻である。
言葉を交わさずとも、今の切嗣が複雑な心境を抱いている事くらいは、顔色を見れば窺えた。そして再び訪れる、沈黙。しかし、いつまでもこのままでは話が進まないと悟ったのか。
シロウは二人の心境を、完全には理解できずとも複雑な思いを抱いている事は理解できたのか、先んじて話の続きを勝手に話し始めた。
「君達の心境が複雑なのは理解できるが、先に話すべきことは話させてもらうがいいかね?」
わざわざ訪ねたのは、自身の言葉に耳を傾けてもらうためか。兎も角、そのおかげで二人は内心は兎も角として、再び話を聞くべくシロウの顔を見る。それを確認すると、一度頷いて渦中の人物であるシロウは話を続けた。
「君達の不安な点は、私としても理解できる。だが、それが戦力として使えるかどうか、という疑問であるのならば安心していい。自分で口にするのは複雑だが、曲がりなりにも私とて英霊だ。実力の程は保証しよう」
「・・・随分な自信じゃないか。何か根拠でもあるのかい?」
「疑われているな。まぁ、無理もないことだが。何、簡単に話してしまうと、私は白兵戦は一級品の英霊には劣るであろうが、それを埋めるだけの要素は持っていると言っておこうか」
「白兵戦で劣る・・・だと?待て。お前は
驚きを隠そうともせずに、切嗣が顔を顰めて言うと、シロウはわざとらしく肩を竦めて頷く。
「残念ながら、な」
「ではお前のクラスは何だ?そんな成りをして、
「本質的には、大凡間違ってはいないだろうが、そうではない。私のクラスは・・・」
と、そこでシロウの口が大きく見開かれて固まった。突然のサーヴァントの豹変ぶりに、疑問を浮かべて言葉を待つ切嗣とアイリスフィール。だが、そんな二人の様子にシロウが気付く事はない。
それどころか、確認した自分のクラスを見て驚愕の表情を浮かべ、ブツブツと何かを呟き始める。それに、こいつは大丈夫なのかと、切嗣が割りと真剣に頭を悩ませ、アイリスフィールは若干頬を引きつらせながら見守る事数秒。
二人の自分を見る不審な視線に気付いたからか、それとも冷静さを取り戻したからか。何れにせよ、一度大きく咳払いをすると、シロウは頭を振って口を開いた。
「見苦しい姿を見せてすまない。どうにも、自分でも少し不可解な事実があったものでね。少々混乱したようだ」
「つまらない言い訳はいいさ。さっさと、答えるべきことを答えろ、サーヴァント」
「クッ、了解したマスター。では答えるとしよう。私のクラスは
「セイヴァー?剣士ではなく、救済者だと?それではお前は―――」
「お察しの通り、どうやらイレギュラークラスだという事だ。いやはや、これにはこちらも驚きを通り越して余り在る事実だったのでね。つくづく、自身の幸運ランクの低さが嫌になる」
やれやれと、両手を上げて自嘲するシロウ。だが、嫌になるのはこちらの方だとばかりに、切嗣は大きな舌打ちをした。もし、ここにいるのが己一人だったなら、頭を抱えて項垂れたい気分だと、内心で毒を吐く。一体全体、何故こうも予期しないイレギュラーが続くのかと。
それでも、表面上はそこまで崩さないのは、魔術師殺しの意地か、それとも妻の前であるのだから情けない姿は見せられないというプライド故か。アイリスフィールが声を掛けてこないのが、辛うじて切嗣の理性を止めていた。
「重ね重ね申し訳ないね。どうやら、今回のマスターにも心労を重ねる事態になりそうだ」
「クッ・・・こいつ!!」
「だが、安心していいさ。先程も言ったが、私は一つの事を極限まで磨き上げた一流ではない。だが、それ故に持っている手札の数は、一人を除けば最も多いと自負している」
「・・・いいだろう、話してみろ」
挑発するかの様に言うシロウに、同じく挑発的に言った切嗣。柄にもなくそのやり取りを楽しんでしまうシロウだったが、いつまでも不毛なやりとりを続ける訳にはいかない。先ずは兎も角、目の前の男に告げるべき事を告げなければならないのだ。
「了解した。最初に言っておくと、私の本質は魔術師だ」
「魔術師?では、お前は
「いや、残念ながら正当な魔術師としては三流でね。本来であれば、私の該当するクラスは
「何だそれは・・・」
シロウの言い分に、余計に頭を痛める切嗣。だが、それ以上の文句は言わない。目の前のサーヴァントは、まだ何か言うべき事を隠しているように映った。ならば、文句を言うとすればすべてを聴き終えて、それでも尚不満があった時だ。
今はまだ、静観するべきなのだから。切嗣はそう決めると、心を静めて言葉を待った。
「続けよう。私の本質は魔術師だと言ったね?」
「ああ。だが、その腕前は三流なんだろう?だったら、お前の強みは狙撃という事か?」
「確かにそちらの面もある。だが、ただの弓矢が英霊相手に通じる事がないのは理解できるだろう?故に、私が真に弓兵として戦うのなら、使用する武器が必要になる。その武器を創り出すのか、私の能力の本質でね」
「武器を・・・創る、だと?」
「ああ。私が白兵戦を挑む時も、それがあって初めて成立する戦闘手段だ。長々と口舌を垂れるのは嫌なので、率直に言うがね。私は魔術師としては三流だが、私の扱う魔術の方は一流、否。異端なのだ。私に許された数少ない魔術、投影魔術による宝具の投影こそが私の強みだ」
その内容に、今度こそ本当の意味で衛宮切嗣とアイリスフィールは絶句した。言うなれば、なんと出鱈目なといった所か。それもそうだろう。セイヴァーの、シロウの言った言葉は、魔術師からすればとんでもない内容なのだから。
そも、投影魔術とは、現代においては殆ど使い道が無く、意味の見出せない魔術の一種なのだ。勿論、全く使い道が無いという訳ではない。時には投影魔術も必要とされるし、その使い様もきちんとある。
だがそれは、儀式に用いられるというのが多くの使い道であり、他の用途にしても大した使い道はない。何せ、投影魔術は使う魔力は膨大な癖に、生み出された物は長い間この世に留めていられないという、多大なデメリットを持つ魔術なのだ。
ましてや、英霊の持つ宝具の投影など以ての外だ。この世界は幻想を許さない。世界の法則に沿わぬ物は、例外なく世界の法則に従おうとする強制力によって塗りつぶされる。
解りやすく言うならば、存在そのものを拒否されるというべきか。幻想は幻想であるから成立し、故に幻想は現実には成立しないというのが世の常だ。仮に、幻想(それ)を認めてしまえば、世界はとんでもない爆弾を抱え込んでしまう事になる。
そんな危険物を、この現実世界は容認しない。故にこそ、切嗣とアイリスフィールの目の前にいる英霊が告げた内容は、とんでもない内容だったのだ。しかし、これは思わぬ誤算でもある。それも、とんでもないプラス方向への、だ。
切嗣達にしてみれば、今の言が本当であればジョーカーを手に入れたも同然なのだ。あらゆる宝具を投影可能ともなれば、それはあらゆる英霊の弱点を突くことが可能となる。それは、真名さえ分かってしまえば、相手の弱点を容赦なく突き大した苦労もなく勝利できるということ。
正に、聖杯戦争の勝利要素を体現したかの様な能力だった。それを知った切嗣とアイリスフィールは、知らずと溜め込んでいた唾を飲み込んだ。この戦い、勝てると。
「どうやら、僕は、否。僕達は、とんでもない切り札を手に入れてしまったようだね」
「え、ええ。でも、本当なの?セイヴァー。宝具を投影するなんて」
「信じられないのも無理はないだろうが、事実だ。そして、その投影魔術も私にとっては副産物でしかない」
「副産物?どういうことだい?お前には、まだ奥の手があると?」
期待を込めた目で、切嗣がシロウを見る。そんな目で見られると、柄にもなく照れてしまいそうになるが、そこは抑えて頷くシロウ。どうにも、衛宮切嗣にこういう目をされると、衛宮士郎は弱いらしい。
それというのも、最早大部分において忘却してしまった筈の記憶が、喚び起こされてされてしまうからなのだろうか。思わず、思考の海に飛び込みかけるシロウは、寸での所で立ち止まり、思考のスイッチを切り替えた。
「私の魔術の本質とは、実際の所投影魔術等ではない。私に使える魔術というのは、本来たった一つ。それだけであり、それ以外はそこから零れ落ちたものでしかないのだから」
「勿体ぶらずに言って欲しいね。それで?その魔術とは一体何なんだい?」
問いかけた切嗣の声は、柄にもなく震えていた。そこから察するに、本能的には既に答えが見えているのかもしれないなと、シロウは頭の片隅で思う。シロウは噂程度にしか知らなかったが、生前の切嗣を知る者から彼の使う魔術を聞いたことがある。
曰く、魔術師殺しの得意とした魔術は、己の内に固有結界を発動させ、体内時間を操作するものだったという。形や規模は違えど、固有結界を使える以上、その結論に至るのは不可能ではないのだ。フムと、シロウは一度頷いて答えを口にする。
「お察しの通りだマスター。私に許された本来の魔術、それは魔術師にとっての一種の到達点である大禁呪、固有結界だ。武器であるならば、オリジナルを見ただけで複製し貯蔵する。まぁ、オリジナルの物よりランクが1つ下がるのが難点なのだがね」
「固有結界って。魔法に最も近い大禁呪じゃない。何よソレ、何て出鱈目」
知らされたとんでもない切り札に、その場で頭を抱えるアイリスフィール。切嗣はその逆で、呼び出したサーヴァントの能力に、評価を上乗せして結論を出す。己が喚び出した英霊は、最強の、否。正に最巧のサーヴァントなのだと。その内心は、喜びと期待に満ち溢れていた。しかし、そんな二人とは裏腹にシロウは複雑な想いを抱いていた。
それも当然だ。何しろ、伝えなければならない事はまだ一つある。しかもそれは、この聖杯戦争を最悪な意味で覆しかねない真実なのだから。この世界でも、そうなっているという確証があるわけではないが、その可能性は限りなく高いと見ている。
その真実とはつまり、この世全ての悪による聖杯の汚染という事実。創造当初は無色の力であったそれは、第四次の時点で既に、望み主の願いを破壊という祈りでしか叶えない、地獄の釜となっているという事実を。
それを思えば、シロウの内心は複雑に尽き、その色は顔に現れてしまった。そしてそれを、目ざとく見つけてしまったアイリスフィールは、運の悪い事に嫌な予感を感じ取ってしまう。
「どうかしたの?セイヴァー?顔色が悪いようだけど」
「・・・・・・」
「セイヴァー?」
「一つ・・・聞いていいだろうか?」
解っていながら、シロウは無駄な確認をしてしまった。その言葉を受け取ったアイリスフィールは、唾を飲み込んで頷くと、遅れて切嗣に確認を取るように視線をやる。切嗣から、特に反論はない。それは即ち、そのままアイリスフィールに任せるという事に他ならない。
アイリスフィールは、無意識に溜まっていく不安を払うかの様に大きく頷くと、シロウに視線を返した。その瞳に、話してという想いを込めて。
「了解した。それでは話そう。どうか落ち着いて聞いて欲しい」
そうして、シロウは自身の知る真実を、目の前にいる二人に淡々と話した。話が終わった直後、聖堂内には二つの絶叫が響き渡り、シロウはそれを目を伏せて聞いている事しかできなかった。
終了です。
地の文が多すぎる話になってしまいました。
もし何か質問やおかしな所があれば、遠慮なく書いてください。可能な限り答えますので。
次回更新は、来週以降ですかね。もしかしたら、早くなるかもしれませんが、あまり考えないでください。期待してくれる方がいるかはわかりませんが、約束を守れなかったら申し訳ないので。
それでは失礼いたします。