Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
そして、お待たせしてしまった割に今回は短いです。
冬の寒さが肌を刺し、しかし強烈な太陽の光が暖かさを感じさせる西日本のとある空港。そこに、今し方到着した一匹の雪の妖精と、それと対を成す色彩をしながらも、髪の色だけは似た感じを持つ色黒の執事服を着た男が舞い降りた。
「凄かったわね、空の旅は。あ、セイヴァーにとっては珍しくも無い事だったかしら?」
「君の言葉通り、珍しくは無い。無いが、この様に堂々と飛行機に乗り、そして降りるのは久々なのでね。新鮮な空気は味わえたさ」
「堂々とって・・・セイヴァー、もしかして生前疾しい事でもあったのかしら?」
「ほぅ?何故そう思うのかね、お嬢様?」
クッと、シロウが腰に手を当ててお得意の皮肉込みスマイルをかます。端から見れば、執事服を着た男がお嬢様をからかっているかの様な光景。否、事実としてシロウはからかっている。
第五次聖杯戦争の結末で、色々と嘗ての
衛宮切嗣によって、知識だけは色々と仕込まれていたからか。それとも、言葉の意味をそのまま受け取る様な素直さはなかったからか。何れにせよ、アイリスフィールはシロウの投げた質問を正しく理解し、したが故にむすっと外見に似合わぬ仕草で小さな怒りを表した。
「もう、馬鹿にして!生憎ですけど、そこまで愚鈍ではなくってよ、セイヴァー」
「これは失敬。何、君を見ているとつい余計な言葉が口から出てしまったね」
「性格悪いわよ、セイヴァー。全く、育ての親が見てみたくなっちゃうわ」
そんなアイリスフィールの可愛らしい怒りの言葉に、貴女の夫です等と正直に言ったらどんな反応を示すのか。一瞬、そんな何処ぞのアカイアクマ的思考が頭を過ぎったが、言葉には出さなかった。この程度の事は、流石のシロウでも理解できる。言えば最後、されたくない事までとことん追求されるであろう。
シロウはそんな嫌な考えを頭の中から追い払うと、わざとらしく辺りを見渡し、あたかも周囲を警戒しているかの様に装う。その仕草は、わざとらしく見えつつも行動だけは真面目だったからか、アイリスフィールから言葉が飛んでくる事はない。
尤も、イリヤスフィールによく似た感じのジト目で、シロウを牽制するのだけは辞めなかったが。それから三分程、歩きながら聖杯戦争とは何の関係も無い話で歓談を続ける二人。やがて、空港を出口のゲートが見えてそれを潜ると、手筈通りに手回ししておいたアインツベルンの使いの車が、ロータリーにあるのを見つける。
そこで、シロウはアイリスフィールを立ち止まらせると、怪しい気配が感じられないか念入りに、しかし手早く辺りを見渡す。周囲への警戒はものの数秒で済み、現時点でアイリスフィールへの危機は感じられないとシロウは悟る。
しかし、何時までも立ち止まっている訳にはいかない。幾らアイリスフィールを目立たせる目的があるとは言え、危険に晒している事には変わりないのだ。公衆の面前でどうこうというのは、衛宮切嗣でない限り無いと考えられるが、それでも可能性が無い訳ではない。
ここが冬木の地と離れているとは言え、危険性は何処にいても変わらないのだ。特に、御三家以外の連中である外来からの魔術師と鉢合わせ何て展開は、サーヴァントを連れているとは言え、好ましい展開ではない。それに、外来からの参加者を警戒している連中がいないとも限らない。
頭が回る人間ならば、楽して勝つためにとこういった場所に張り込んでいるか、それとも使いの者でも紛れ込ませるといった策が無いわけでもない。警戒しすぎるのもどうかとも思うが、シロウとしては警戒していなくてミスをして痛い目を見るなんて事は、生前だけで十分だと考えていた。
念入りに確認を終えたシロウは、手早くアイリスフィールを車に乗せ、自身も又乗車すると運転手に合図を送りその場を颯爽と後にする。シロウが警戒を緩めたのは、車が走り始めてから五分ほどたっての事だった。それでも、バックミラー越しに背後を、気配探知でサーヴァントの気配を念入りに探るのは、シロウの性とでも言うべきか。
表情にそれを出さないだけ立派だが、口も開かず無言が支配する空間というのは何かと気まずいものがあった。そして、その空気に耐えられなくなったのは、此方に来てからというものの、見るもの全てに対して目を輝かせて観察していたアイリスフィールだった。
「凄いわね。切嗣から日本の事は聞いてはいたけど、実際見てみると感動を言葉に表せないわ」
「見慣れた者からすれば、無粋な長大な鉄の塊が伸びているだけだと思うがね。真っ白な光景ばかりとは言え、自然に囲まれていたあの城に住んでいた君からすれば、冒涜的な光景だと思うのだが」
「そんな事は無いわよ。確かに自然が少ないとは思うけれど、それでも凄い高度な文明だって言うのは伺えるもの。まるで、別の世界に迷い込んだみたいだわ。冬木に着くまではまだ時間が掛かるみたいだし、それまでは窓の外の景色でも楽しむとしようかしら」
「まぁ、外に出るわけでもあるまいし危険も無いので構わんがね。仕方がない。私は君が見て理解できないものを、丁寧に解説でもしてみるとするさ。私も、ただ車に乗っているだけというのも暇なのでね」
「本当!?じゃあ、さっそくだけど――――」
そうして、アイリスフィールは目を輝かせて様々な物に対して質問を繰り返した。その様は、まるで始めて旅行に来た子供が大人に尋ねる様を見ているようで、シロウは内心微笑ましく思いつつも、先の言通り丁寧に解説を続けた。そんな事を、一体どれだけの時間繰り返したであろうか。
やがて、シロウが正面を向いた時に電柱に貼り付けられた冬木市の標識が目に入る。標識には、あと10km程で目的地へ到着すると記されている。そこで、シロウは一旦言葉を切り頭を切り替えた。そして、冬木到着の旨をアイリスフィールに伝える。
「いよいよ着くのね」
「緊張しているのかね?」
「それはまぁ、少しはね。でもそれ以上に、私は貴方を信頼しているから。私を、私達を守ってくれるんでしょう?セイヴァー」
アイリスフィールのその言葉に、シロウはクッと喉を鳴らして笑う。答えるべき言葉など、当然決まっている。
「当然だ、アイリスフィール。衛宮切嗣は勿論の事、君との契約の儀で言った言葉を私は違える気など無い。何より、この身は最強のサーヴァントなのだ。他の連中になど、遅れはとるまいさ」
「ふふ、ありがとうセイヴァー。それじゃあ、精々私達も気を付けないと」
シロウの、私が殺られるとしたらそれは二人が殺られた時のみだと、言葉には出されなかった真意を正確に理解していたアイリスフィールは自信満々に笑う。シロウも、そんなアイリスフィールの反応を見て満足そうに頷く。
そして、会話の間に入っていた冬木市の光景を横流しに見ながら、ここだと思った所で運転手に声をかけ車を止めた。
「ここらで私達は降りるとしよう。冬木市を知っているとは言え、細部が異なっていないとは保証できないのでね。戦う者としては、直接その目で地形を確かめておきたいところだ。それに、君もずっと座ったままでは疲れるだろう?」
「あら?エスコートしてくれるのかしら、セイヴァー?」
「お望みとあらば、な。何、この身は元より
「それじゃあ、是非お願いしようかしら。窓の外を眺めているだけなのには、丁度飽き飽きしていたし」
実に楽しそうに笑うアイリスフィールの表情を見て、チクリと僅かばかりの罪悪感を抱くシロウ。それというのも、やはり彼女の容姿がイリヤスフィールに重なって見えたからだろう。顔に出せば気を遣わせてしまう為に、シロウは表情にこそださなかったが罪悪感を抱かずにいられる程、心の方は丈夫ではなかった。
しかし、何時までも過去に思いを馳せていても禄な目に遭わないのは確かであるし、この世界のイリヤスフィールは未だ無事なのだ。それを思えば、今は気丈であるべきだと自身を叱咤し、格好に似合った笑みを浮かべてアイリスフィールと冬木の街へと溶け込んでいった。
アイリスフィールとシロウが冬木の地に辿り付いて間も無く。同じく、冬木市のとある場所にあるどこにでも有る様な寂れたビジネスホテル。そのホテルの一室に、聖杯戦争の参加者でありシロウの真のマスターである衛宮切嗣は、申し訳程度に部屋に備え付けられた椅子に腰掛けていた。
冬木市に辿り着いて早々、当たり前の様にホテルに備え付けられていた自販機で煙草を買ってしまったのは、禁煙してからだいぶ時間が経っているとはいえ、ヘビースモーカーだった頃の名残からか。自身でも、殆ど無意識の行動だった為、その実気付いたら購入していたといった所だった。
チラリと切嗣が灰皿に視線をやれば、既に何本もの揉み消された吸殻が積み重ねられている。この部屋に辿り着いて、未だ三十分と経っていないというのに、その量は異常な程だった。このままのペースで行けば、あと一時間もしないうちに残りの分を吸い終え
てしまいかねない勢いだった。
そこで漸く、切嗣は頭の中を切り替えるように大きく溜息を着くと、ずっと手に握り締めていた煙草の箱をテーブルに放り投げ、ベッドの上の荷物に視線をやった。そこには、ホテルにどころ、現代の日本において不釣合いな物騒な物が、所狭しと陳列してい
た。
これ以上は無いとさえ思える、様々なアタッチメントを付けられた高性能な狙撃銃に、マシンガンや手榴弾、予備の弾倉やナイフやその他の装備も数えると、圧巻される光景である。そのどれもが、列記とした生物を殺す為の兵器であり、切嗣の武装であるのだ。
魔術師としては異端ながら、魔術師殺しである衛宮切嗣にとってはこれ以上とない相棒となる存在だった。そんな異常な装備の中、一つだけ異常な存在感を放つ木箱のケースが静かに横たわっている。そのケースの中身こそが、魔術師殺しの専用武装であり切
り札のトンプソンコンテンダーだ。
その銃から放たれる弾丸、起源弾こそが衛宮切嗣唯一無二の概念武装なのである。嘗て、その弾丸一発たりとて無駄弾を消費したことのないそれは、何処か底知れぬ存在感を放っていた。しかし、今の衛宮切嗣の目には、嘗ての相棒の事など視界に入っていない。
何故なら、それ以上にとんでもない代物の事で頭が一杯だったのだから。その代物は、同じく物騒な装備が陳列しているベッドの上に鎮座していた。
一見すると、それは何て事のないコピー紙の山だった。使われている紙も、五百枚一セットで売られている、ごく普通の用紙である。故に、問題であるのは紙自体ではない。そこに記された記述こそが、衛宮切嗣が聖杯戦争に参加した理由を根底からひっくり返す内容だったのだ。
そこに書かれている記述を全て読み終えた時、今度こそ衛宮切嗣は自身が召喚したサーヴァントの言葉を完全に無視できなくなり、思わず切嗣が来るより前にいた女性、久宇舞弥を八つ当たり同然に部屋から追い出してしまった。普段の彼を知る者からすれば、信じられないほど感情を顕にして。
今や、いつもの無表情に近い能面の様な表情は崩れ去り、丸で思春期の少年が意味もなくイラついているかの様な表情を顔に作っていた。
「第三次聖杯戦争で、アインツベルンが喚び出した第八のサーヴァント
何処か草臥れた声色で、切嗣はポツリと呟いた。自身の吐く一言一言が、まるで呪いを帯びているように感じられる。今、切嗣を襲ってくる虚無感はかつて否応なしに抱かされてきた物と、同じものだった。否、漸く叶うと思った願いが音を立てて崩れ去っていく事を考えれば尚酷い。
切嗣とて、この資料を読んで全てを納得できた訳ではない。ここに書かれているアヴェンジャーとやらの事は真実でも、聖杯が汚染されているというのが真実かどうかは、未だ自身の目で見てもいないのだ。故に、本の少しばかりの希望は抱いてもいた。しかし、それ以上に絶望の予感が大きいのは事実。
何より、これがもし本当であったのならば、衛宮切嗣は全く無意味な戦争で最愛の妻と娘を両方失うかも知れないのだ。アイリスフィールは、今は未だ聖杯として完成されていない。しかしそれも時間の問題である。
もし、セイヴァーの告げた事が真実であれば、時間は一刻の猶予も残されてはいない。それどころか、現時点をもってしても最悪その内の一人、アイリスフィールの犠牲は確定しかかっているのだ。聖杯が汚染されていなかったのなら、その犠牲も無駄ではないだろう。だが、汚染されていたらどうか。
そして、汚染されていると理解できても、行動が遅れたらどうなるのか。その被害は、最早アイリスフィールやイリヤスフィールだけではすまない。聖杯が降臨する場所がどこであれ、多大な被害は避けられなくなるだろう。
「僕は一体・・・どうすればいいんだ」
切嗣は湧いてくる疑念と、残されているかもしれない本の僅かな希望に板挟みにされていた。シロウの話は鵜呑みにはできないが、無視することもできない。時間が経てば、聖杯戦争が進めば答えは見えてくるのかもしれない。しかし、それでは時既に遅しと
なる可能性もある。
魔術師殺しとして、自分の人間としての心を完全に殺していた男は、生来の優しさ故に機械になりきる事が出来ないでいた。これが、何時もの作業に等しい行為であればこんな風にはならないだろう。しかし、今回のは規模が違った。
己の悲願の為に費やした年月と、その為に抱いた覚悟はそう簡単に切り捨てられるものではなかったのだ。いつの間にか、握り締めていた手のひらは爪が深く食い込み、少なくない流血をもたらしていた。その痛みは、決して無視できない程のものとなっているが、それでも切嗣の頭はそれを認識していない。
「僕は・・・どうすればいいんだ」
同じ様な言葉を呟いて、切嗣は項垂れる。頭の中では、最愛の妻と娘の姿がチラついては消え、チラついては消えを繰り返していた。明かりが点いていない部屋で、男は一人自問自答を続ける。そんな姿を、地下駐車場の車の中、念の為に仕掛けておいた小型の隠しカメラで見つめていた女は居た堪れなさに瞼を閉じ、映像を映していた機器の電源を落とした。
悲痛の時間は続くが、時は止まってくれないのだ。同じ冬木市、しかし違う場所では段々と争いの気配が近づいている。それを、放っておくわけにはいかない。様々な納得できない感情を抱えながらも、三十分も経てば切嗣と舞弥は行動を開始するのだった。
episode3終了です。
次からは、戦闘がちょっと入るかなと思われます。
一応、最後の方の展開はもう決まっているのでそこら辺は大丈夫なのですが、前半から中盤までがプロットがまだ完全にできていないので、ちょっと時間がかかるかもしれません。
後、ランサー戦は色々と個人個人で考えや解釈が違う方が出てこられると思います。なので、この小説ではそういう解釈なんだなぁと思って、次回読んでいただけると幸いです。