Fate/Zero Emiya's answer 作:旅人X
少し投稿遅れてしまいました。
出来の悪い文章となってしまいましたが、どうぞご一読ください。
それでは、本編どうぞ。
冬の夜の海辺。冷たい波風が髪の毛を攫い、露出した肌を刺激する寒さの中。裸足で砂浜を駆け回り、バシャバシャと子供の様に海水を騒がす、白鳥の如き乙女がそこにはいた。
白鳥、アイリスフィールは初めて見る海の姿に、感動を隠せない様子でここに着くなり楽しそうに駆け回っていた。外見こそ、二十歳を超えた淑女に見えるものの、実年齢を考えれば仕方の無い事と言えるかもしれないが、季節を考えれば流石に非常識と言わざるを得ない。
故郷のドイツを思えば、日本の冬の寒さなど大した事は無いのかもしれないが、シロウからすれば止めて欲しいというのが偽らざる本音だった。
「全く・・・君にはもう少し気をつけて欲しいのだがね」
「あら?それはマスターとしてかしら?それとも淑女として?」
「両方だ。仮にも名家のお嬢様であるならば、もう少し優雅にだな」
「それを言うなら、セイヴァーこそなってないわよ。召使いなら、お嬢様の行動を黙って見守るものじゃない?」
茶目っ気たっぷりな笑顔で告げるアイリスフィールに、シロウはただため息のみを漏らした。昼間の冬木でのはしゃぎ様にも手を焼いたが、まさか冬の夜の海を裸足で駆け回るという奇行だけは予想もつかなかった。
正直、シロウとしてはサーヴァントとしてではなく、一人間としてその様な行動は慎んで欲しいというのが本音だ。何より、冬の水辺は橋と同等以上にシロウにとって鬼門だ。
生前、よく似た二人組のアクマによって真冬のテムズ川に叩き込まれるという、人によってはショック死も有り得なくない事態に襲われたという、二度とは経験したく無い記憶がある。
自身の幸運ランクを考えれば、今まさにその再来が起こるのも有り得なくはなさそうなのだから。いつの間にか、シロウは昔の事に思いを馳せる。生前の事は、正直な所余り覚えている部分は少ない。
だがそれでも、倫敦にいた頃の事は不思議と思い出せた。その内容というのも、実際の所赤い少女にとんでも無い目に合わされた記憶が多いのだが、不思議と不快感は無かった。
今思えば、アレが己にとっての青春期というべきものだったのだろうと、シロウは柄にも無い事を考える。それ以外にも、様々な出来事があった。幸福だった事や不幸だった事、摩耗した記憶の中に埋もれずに残っている様々な出来事。
それを思えば、存外自身の生前というのは決して悪いことばかりでは無かった様な気になる。何より、そんな気持ちで未知の聖杯戦争に飛び込もうという自分がいて、思わず笑みを漏らしてしまう。
「どうかしたの?何か楽しそうな顔をしてたけど」
「・・・イヤ、何。少しばかり昔を思い出してな。それを思うと、生前に自分が行っていた事も今の君とそう大差が無い気がしてな」
いつの間にか直ぐ傍にいたアイリスフィールに、皮肉を含ませた物言いをするシロウ。言われた側のアイリスフィールは、ムスッとして頬を可愛らしく膨らませるも、決して怒っている訳ではなく、やがてそれを証明する様にクスクスと笑みを漏らした。
「全く、変な所で意地悪よねセイヴァーは。こんな事じゃ、生前は女の子を無自覚に泣かせてたんじゃないの?」
「さて、な。生憎と、生前の事は記憶が曖昧でね。その様な事は思い出せん」
「嘘つきなさい。絶対、泣かせてたんだから。女の勘を余り嘗めない事ね」
「クッ、確かにな。その手の勘だけは、男である私には持ち合わせない無い物だ。いやはや、これは一本取られたな」
そんな、軽い冗談を言い合う二人の様子は、端から見れば従者と主というより、姉と弟の絡み合いに見える事だろう。しかし、そんな和気藹藹とした雰囲気に水を差すように、ふととある特徴的な感覚をシロウは感じた。
瞬間、ピクリと眉を弾ませ、首ごと45°左に傾けて視線を投げる。姿は見えない。しかし、確かに視線の方角には気配の主がいた。
「もしかして、サーヴァント?」
「その様だ。この好戦的でいて、何処か獰猛な精練された殺気。どうやら相手は三騎士の中の誰か、否。相手は
「凄いわね!気配でそこまで分かるものなの?」
「完全にはわからんさ。だが、これほど堂々とした気配ともなれば推測は立つ。
淡々というシロウに、アイリスフィールは少しばかり感心しつつ、自身のサーヴァントの戦術眼に万全の信頼を寄せる。そして、ここまでサーヴァントとしての在り方を見せられては、アイリスフィールが言うべき言葉は最早一つしか無い。何より、聖杯をどうするにせよサーヴァントの詳細は欲しい所なのだ。故に。
「それじゃあ、お招きを受けるとしましょうか」
「了解だ、マスター。何より、ここで退いては相手の機嫌も損ねると言うもの。君と衛宮切嗣がどんな答えを出すにせよ、相手を知るのもまた必要な事だ」
シロウはそう言うと、自身の魔力を発露させ服装を戦闘用の物へと切り替える。即ち、赤い聖骸布で作られた衣と黒い鎧を纏った、戦士としての姿へと。正直、アイリスフィールの事よりも、今この場にいない衛宮切嗣の事がシロウは気に掛かっていた。
だが、そんな思いを抱いたままではこれより先の戦いには臨めまいと判断する。今は何にしても、情報を集める事と戦って生き延びる事が最重要事項なのだから。何より、
「この身に敗北は一度のみ。何処の誰ぞかは知らんが、少しは相手の鼻を明かしてやらねば気が済まんといったところだしな」
「ふふ、期待しているわよセイヴァー。貴方を信じた私を、最後まで信じさせて頂戴」
「無論だ、マスター。君こそ、心の準備は万全かな?」
セイヴァーの問いかけに、アイリスフィールは言葉を返さない。だが、何よりも口元に浮かべられた笑みと、強い覚悟を秘めた眼光が答えを返していた。それを見て、最早シロウも無粋な返事は返さない。
これより先、無駄口は一切無用。自身の価値は、成果で示すより他ない。アイリスフィールの為、イリヤスフィールの為。そして何より、衛宮切嗣や自分自身の為にも、それは必要な事なのだから。
シロウは胸の内で、自身が抱いた誓いを思い浮かべ確かな一歩を踏み出した。これより先の、未知の闘争の渦へと飛び込む為に。これから起こるであろう悲劇を回避する為の、確かな一歩を踏み出す為に。
殺気に招かれ、相手方が指定する場所まで招かれた二人は、コンテナが山と積まれた集積場でその男と邂逅した。二本の槍をその手にぶら下げ、殺気を纏わせながらもその端正な顔に静かな笑みを浮かべる長身の細身の男。
その姿を目視した瞬間、シロウとアイリスフィールはその正体を悟る。目の前にいるのは、紛れもないサーヴァントだと。相手方も、それは当然の様に悟っている。何せ、殺気を振りまいてシロウを誘った張本人なのだから。
だからこそ、シロウ達がそういう存在であるか等と、そんな無駄な問答は相手の口からは漏れなかった。漏れたのは、心の底から嬉しそうでいて期待のこもった音を持った言葉だった。
「良くぞ来た、我が期待に応えし兵よ。今日一日、この街を練り歩いて来た者の、俺の誘いに乗ってくれたのはお前だけだ。他の奴らは、どいつもこいつも穴熊を決めて臆したまま。正直、最早誘いに乗ってくれる猛者はいないかと落胆していたがな。どうやら、それは早計だったらしい」
「クッ、全くだ。他の連中がどうだかは知らないが、私の方はこうもあからさまに馬鹿にされて黙っていられるほど、殊勝な身ではないのでね。ここで退いてはサーヴァントとして、我らが主に対する侮辱にもなろう。ああ、それはサーヴァントとしても、男としても黙ってはいられないさ。何より、この身は最強のサーヴァントだ。それが、何処の誰とも知らない相手に臆して逃げるなど、世迷言も甚だしい」
「最強のサーヴァントとは、大きく出たな。ならばその看板、今ここで降ろすことになるが構わんな?
「そちらこそ。敗北する覚悟は十分かな、
皮肉と煽りを込めた言霊を交わし合う、二騎のサーヴァント。ランサーの言ったセイバーという言葉に、誤りこそあったが相手がそう思っているのであれば今は未だ何も言うまいと、シロウは判断する。何気なしに、後ろにいるアイリスフィールに視線をやると小さく頷いている。訂正の必要性は無いと、言葉も無く告げていた。
すると、シロウの視線の動きに遅れてランサーがアイリスフィールに視線を移す。それに対し、アイリスフィールも改めてランサーの姿を見直し、途端その美しい顔を険しく歪めた。
「
そのアイリスフィールの言葉に、ピクリとシロウの眉が動いた。尤も、それは別に怒っているという訳ではない。重要なのは、そこではなかった。だが、ここは未だ口を出す場面ではないと、シロウは黙ってランサーとその手に持つ槍に視線をやった。そして糾弾されたランサーの方はと言うと、苦笑して只肩を竦めた。
「これは失敬。だが、持って生まれた呪いの様なものなのでな。こればかりは、如何に糾弾されようとどうしようも無い。悪いが、女に生まれた己を恨むか、もしくは俺の出生を恨んでくれ」
「ほぅ・・・」
ランサーのその言葉に、今度こそシロウは言葉を漏らした。そればかりか、口元に笑みを貼り付け胸の前で腕を組んでランサーを眺める。そんな相手を馬鹿にした様なシロウの態度に、ランサーの眉がピクリと動いた。
「何か可笑しい事でもあるのか。セイバーよ?」
「いや、これは失敬。何せ、君の今の言に少々心当たりがあるものでね。つい、言葉を漏らしてしまっただけだ」
「ほう?」
シロウの言葉を受け、ランサーの槍を握る手に力が入った。どうやら、その言葉の意味を理解したらしい。つまり、自身の正体に心当たりがあると言う事を。
「クッ、これも因縁というものか。仮に、君が私の思い浮かべている者だとしたら、つくづく自分の因果を疑いたくなる」
「面白い。ならば、お前の言う因果とやらが正しいか、我が槍を持って確かめてみるか?」
「構わんさ。そうなれば、現段階では予想の者が、確定するだけの事。元より、口舌で語るのは我らの性分ではあるまい」
「上等ッ!!」
ガンッと、右手に握った長槍の柄でコンクリート張りの地面を叩いた。瞬間、甲高い音を立てて罅割れ砕け散る地面。柄を叩きつけた衝撃から一メートルの範囲は、小さなクレーターを作り上げていた。
それを見て、小さく笑みを漏らすシロウ。そして、自身もまた愛用の獲物をその両手に出現させる。右の陽剣、左の陰剣。干将と莫耶。二振りで一対の双剣を、その両手にしっかりと掴んだ。
それを見て、驚きを示すランサー。それは、何もない場所から武器が現れた事にではない。奇しくも、己の相手が二槍ならぬ二刀使いだったからか。自然と、ランサーの口元を笑みが象る。そしてそれは、シロウも同じ事だった。
「まさか、この様な展開になるとはな。初戦からしてこの嗜好、中々どうして面白いものがある」
「クッ、全くだ。私も、よもや二槍使いの相手と殺り合う事になるとは、流石に想像していなかった」
「予想だにしない展開、それも又世の常という事かな。それより」
「ああ、前口上はこれで十分だろう」
シロウが言葉を投げかけると、ランサーは歯を剥き出しにして笑みを漏らした。槍を握る手に力を込め、地を踏みしめる足をバネを引き絞るように沈めさせていく。シロウもそれを見て、双剣を握る腕をダランと緩ませ、その実一切の違和感を感じさせない構えを取った。
その眼光は、構えとは真逆に鋭く研ぎ澄まされていた。刹那、全くの静寂が訪れる。それと同時、海の方から潮風が二人の間を通り抜けた瞬間、同時に空気は爆発した。
「「いざ!!」」
ガンッと、互いの獲物である剣と槍の刃が激突した。瞬間、人外の膂力を持って振るわれた武器の激突で、生み出された破壊の余波が辺りを打ちのめす。たった一撃。されど、たった一撃のぶつかり合いとは、信じられない一撃だった。しかしそれは、次の一撃で更なる余波を生み出し、続く二撃三撃で破壊の範囲を広めていく。
ぶつかり合っているのは、槍と剣だというのに、破壊の規模だけで見れば手榴弾があちらこちらで爆発している様なものだ。そんな中で、唯一無事でいるのが爆心地の中心で猛威を振るう二騎のサーヴァントだった。
「せいッ!!」
「ハッ!!」
短い掛け声と共に生み出されるは、人間であれば喰らえばお釣りが来るであろう破壊の嵐。しかしそれを、お互い人外の力で持って弾き、交わし、いなしていく。右の長槍を右の剣で、左の短槍を左の剣で。
お互い、二振りの獲物を攻撃と防御に分け、互いの体目掛けて打ち合っていた。そして、そんな常人からすれば息もつかせぬ戦いの中で、シロウとランサーは互いに相手について思考する。
「(成程、流石に殺気を振りまいて挑発するだけの事はある。実力は申し分ないようだな。正直、まともに打ち合っては火力の面ではこちらが不利は否めないか)」
内心、舌打ちをしながらも素人目からみれば余裕を持って、ランサーの攻撃を受け続けているシロウは、実際の所不利な状況に追い込まれていた。それも当然といえば当然である。
基本ステータスの面で、シロウはランサーには及ばない。未来の英霊であるシロウは、知名度によるステータスの向上は望めず、加えて戦士としての才能という面では圧倒的に劣っている。
まともに打ち合えば、火力で言えば第五次聖杯戦争で対峙したランサー、クー・フー・リンさえ凌いでいるサーヴァントなのだ。それを考えれば、真正面からバカ正直に受けるだけでは打ち負けるのは道理だ。だが、戦いというのはバカ正直に打ち合うものだけではない。
筋力で劣る相手が、筋力で勝る相手に勝利する為には、それ以外の要素が必要となる。それは即ち、技量であり技術。十の力を十の力で受けるのではなく、六や七の力で当て残りの技量で攻撃を逸らす。それは、第五次聖杯戦争においてアサシンがセイバーと対峙した時に行っていた戦闘方法。
元々、剣士としては二流であるシロウは、まともな剣の修行ばかりを行っていたのではない。寧ろ、劣る相手が勝る相手に対した時、どうすれば勝てるかというのを想定して数々の無茶な鍛錬を続けてきたのだ。
それ故の技術。天性の物ではない、凡人がたどり着ける極地がシロウの技術を底上げしていた。とは言え、それでも不利は否めなかった。シロウは伺い知れない事だが、対するランサーもシロウと同じ心眼(真)のスキルを所持している。
それを考えると、通常であればシロウではランサーに白兵戦で打ち合えるというのは考えられない事だった。そしてそれは、戦士としては格上である相手側のランサーが一番理解していた。故に疑問が浮かぶ。
「(ここまでで数十合打ち合って来たが、正直白兵戦での打ち合いは俺が優っているといっていい。技量も技術も大した物だが、それでも総合的に見て俺が上と言えるだろう。だというのに、こちらの決定打が決まらないとは)」
ランサーが内心舌打ちをし、重心の乗った一際強い突きを繰り出す。まともに受ければ、シロウは防げずその一撃を受ける事だろう。受け流すにしても、衝撃で体勢を崩して打ち込むには十分な隙が出来る筈だ。だが、
「フッ!!」
烈火の気勢と共に振るわれる、力だけでない華麗な一撃は見事その一撃を捌いて見せ、更に反撃まで見せてくる。ランサーはその眼光を細め、左手の短槍で危うげなくそれを受けると、その衝撃を活かして一度大きく後ろに下がった。シロウの方もそれを追う気は無かった。必然的に、両者の間で十数メートルの距離が開ける。
武器の打ち合う音が消え、誰も言葉を交わさないため暫しの沈黙が訪れるが、それを破ったのは小さく笑みを零したランサーだった。
「成程、言うだけの事はある。打ち合っている最中、俺が総合的に優っていると確信したが、それでも討ち取れんとはな。俺も双剣の扱いに関しては少々心得があるが、中々どうして巧い奴だ」
「お褒めに預かり光栄だ。だがいいのか?それならば、こんな無駄口など交わさずさっさと私を討ち取ればいいものの。認めるのは癪だが、私のステータスは君には及ばないのだ」
「確かにな。だからこそ解せん。貴様、本当にセイバーか?」
ランサーは訝しげに顔を歪め、右の長槍をシロウに向けて言い放った。それを聞いても、シロウは表情を変えなかった。アイリスフィールも、内心動揺してしまうがそれを表に出すことは無い。
そんな言葉を聞いて、動揺を見せる弱者等この場にはいなかった。だが、それでもランサーは確信を持っていた。目の前にいるサーヴァントが、セイバーのクラスではないと。
互いの名を言い合えないのは、仕方ないと理解している。しかし、そのクラスまでも言わないのではなく偽られていたとあっては、騎士として面白くないものがある。それがランサーの本音だった。
「出来れば答えてもらえると嬉しいがね」
「答えるまでも無いだろう。君が感じた全てが答えだ。敢えて口にはしないがね」
「・・・成程。確かに、俺とした事が役割を弁えていなかったらしい。貴様の真名を暴くのも、そのクラスを暴くのも、我が槍であって口ではなかった。どうやら、これはこちらの不徳だったようだ」
「全くだ。元より、我らはサーヴァント。口舌を垂れるだけの戦いなど、我らがする事ではあるまい」
クッと、皮肉を込めた笑みを零すシロウ。それを受けるランサーも、らしくない事をしたと照れ隠しをするかの様に笑みを零した。
「中々に妙な業を使うサーヴァント、手合わせできたのは光栄と言った所か」
「何、そう大した物ではないさ。君達天才と違って、凡才の身である私にはそれ以外の技術が必要だったのでね。まぁ、君の槍を捌くのは苦労したさ。正直、君の槍の筋の源流とでも言うべきかな?奴は二槍ではなかったが、君の槍筋には似通った部分がある。君の槍をここまで流せたのは、そのおかげでもある。それを考えれば、一応は感謝すべきなのか」
「奴・・・だと?」
「君には改めて言うまでもない名前だろう。何せ君は、彼のアイルランドの光の御子と同郷の英霊だ。であるならば、奴の伝承や物語に憧れ、残っていたのならその槍筋を目指し己の身を研磨する、何て事をしていたのではないかな?」
クッと、挑発する様にわざと感の触る言い方をするシロウ。対してランサーの方はと言うと、名も知らぬ男から出た己の憧れの人物の名前と、真命を看破されていると思われる発言に、頭を一瞬真っ白にした。そして、頭が晴れた時に浮かび上がった感情は怒りではなく、一片の紛れもない歓喜だった。
槍を手にしたまま、倒すべき相手を目前にしながらも、あろう事か油断とも言える隙を晒して笑い出す。
「ハハッ・・・ハハハッ!!そうか、貴様。俺の、否。我らが尊敬するあの光の御子と、死合った事があるか!!」
「偶然の産物、というには因縁がありすぎる関係だがね。それより、君の方こそそんな事を認めてしまって良いのかね?今の発言は、遠からず君の真命を肯定する事になったと思うのだが」
「否定して通じる相手ならばそうするが、貴様はその手の嘘が通じるタイプではないだろう」
笑いながらも、向けられる眼光は鋭い殺気を宿していた。正直な所、宝具を開放もしない内に真命を看破されただろう事は、ランサーにとって痛くはないと言い難い事実だ。ランサーのマスターにとっても、それは変わらない事実だろう。
しかし、致命的な弱点を晒したというわけではない。何せ、ランサーの真名が明らかになる事で晒す弱点というのは、その手に持っている宝具が明らかになっただけだ。宝具の能力が知れしまった事は、確かにランサー陣営にとっては痛手だ。
だが、それで戦闘能力が下がる訳ではない。これが、特定の武器には弱い、その身に何らかの弱点因子を抱えている等ではない以上、直接戦闘に優れた能力しか持ち得ないランサーに、それ以上の不利は存在し得ないのだ。
故に、ランサーとそのマスターは真名が露見した事については、重きを置かない。置くとすれば、それはただ一つ。そしてそれは、ランサー自身も、ランサーのマスターも理解していた。
「俺とした事が、正体相手の正体に疑いを持った事で攻め手が緩くなっていたという事か」
「おかげで、最後の方の打ち合いは命拾いしたがな。もしあのまま続けていれば、否。もしくは君が長槍一本に切り替えた戦いに徹すれば、ステータスの面もある。まともに打ち合っては、私のほうが押されていただろう」
「ほぅ。俺が真名を否定しない事を指摘した割には、貴様こそ随分と簡単に手の内を晒すのだな。今の発言は、俺以上に迂闊な発言ともとれるぞ?」
「そう思うのなら、さっさとかかってきたらどうだね?私は逃げも隠れもしないから、遠慮なくかかってくればいい」
シロウの決して嘘ではない余裕の言葉に、ランサーは内心嬉しそうに舌打ちをした。舌打ちをしながらも、嬉しいという反面の感情が沸いているのは、第一戦目から強敵と出会えたことによる歓喜の念故か。
この戦いの早期決着こそが、ランサーにとってマスターへ捧げる最大の奉仕だというのに、私情を交えてしまう程、手応えのあるものだった。ランサーの本音を言えば、もっと交えていたい相手の一人と言えるだろう。しかし、そこでランサーのマスターが痺れを切らした。
『戯れ合いはそこまでだランサー。いつまで、その無駄なおしゃべりを続けている?』
突如として、何処からか降ってくる男の声。この状況では、誰にとってもその声の持ち主は丸分かりの状況だからか、隠しもしない肉声での一声だった。それでも流石と言うべきか、その声の発生元こそ悟られぬ様に高度な幻惑をかけている。
対魔力が低いとは言え、サーヴァントであるシロウにもその発生元を悟らせないとは、中々の魔術の腕前と言うべきか。尤も、その腕の高さ故に正体が理解できてしまうというのも、考えものではあるのかもしれないが。
「ランサーのマスターね」
「そのようだ。加えて、中々どうして単純ながらも極めて巧妙な魔術。となれば、マスターは知れたな」
正直、自分から正体を明かす様な真似をするランサーのマスターには、理解できない点が多いが、大方は魔術師としてより本人の自尊心の問題であろう。だとすれば、挑発には弱いタイプかとシロウは顔色を変えずに思案する。
シロウの予測では、ランサーのマスターはこの時代時計塔では天才と名高い、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。自身の名誉の為に戦いに挑んだという経歴から察してはいたが、どうやら本当に情報通りの人物らしいと、少々内心ではランサーに同情してしまう。
どうやら、歴代の槍の英霊は幸運に関しては逆らえない運命にある様だと。シロウ自身も、幸運ランクが同じ程度な為に何とも言えないが、居た堪れなさは感じてしまう。だが、それと同時に場合によっては与してくれる相手であるともとれる。
現段階では何とも言えないが、魔術師として技量が高いのは事実だ。切嗣との問題が解決した際には、もしかしたら手を貸してくれる相手にはあるやもしれないと、評価を改める。とはいえ、それもここを生き抜いてこそだ。真実を知らない今の相手が、どういった行動に出るか予測するのは、将棋で次の相手の一手を読むより易い。
『これ以上の戦いの長期化は好ましくない。宝具の開帳を許す。他の邪魔者が現れぬ内に、真名を看破したとほざく目の前のサーヴァントを、速やかに始末しろ』
「了解した、我が主よ」
「やはり、そう来たか」
嬉しくない予想の的中に、しかし殆ど分かっていたからか苦笑を浮かべて、両手にある双剣を握る力を強めるシロウ。覚悟しろ、本当の死闘はこれからだと、自身の心の内に暗示をかける。それを見て、ランサーの方も、宝具を開放しても容易く打ち取れぬ相手ではないと悟り、より一層殺気の篭もった笑みを深めた。
「その意気、その覚悟に賞賛をもって応えよう。正体の知れぬ謎のサーヴァントよ。そしてその身に刻め、我が槍の真価を」
「ああ、来るがいい槍の英霊。我が全力を持って、その期待に答えるとしようか」
「是非もないッ!!」
ランサーの気炎万丈の気合に応じてか、燃え上がるように散っていく両方の槍に巻かれた、槍の機能を封じる呪符。完全に消え去ると、その機能を回復した事を告げるように、右の長槍と左の短槍が、怪しく赤色と黄色の魔力の光沢が迸った。
それと同時に、シロウの鷹の様に鋭い双眼がその武器の機能と真価を解析し、自身の答えに確信を持つ。だが、その正体を告げるより前に、槍を構えたランサーの方から声が掛かった。
「フィオナ騎士団が一人、ディルムッド・オディナ。これより貴様の首級を貰い受けるべく、全力を持って応戦する。覚悟はいいな?そのクラス、真名共に知れぬうサーヴァントよ」
「構わんとも。魔を断つ赤槍、呪いの黄槍。どちらも気を付けねば、こちらの命が持っていかれるか。精々、気をつけるとしよう」
「それでは、今度こそ全力で行かせて貰おう。その首級、貰い受けるぞ!!」
「ああ、私に討ち取られなければな、ランサー!!」
こうして、今度こそ全力で持って応戦せんと、互いの闘士は膨れ上がった。黒の闘士と、赤の闘士。それは今、漸く十全の気を発露させ、衝突させた。
終わりました。
戦闘描写はやはり難しい。思い浮かべるのは簡単だが、文字で動かすのは非常にこんなんですね。
早速のシロウさん苦戦なのですが、これから本領発揮と行くのだろうか・・・
おまいうなどのコメントは、遠慮しておくのよ?
ここからは、ちょっとした解説です。尤も、公式で発表されてるので、そちらを見た方が正確ではありますが。
スキル:心眼(真)
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す"戦闘論理"
ここまでが、ランク補正外での心眼の説明です。ランクが上がるほど、その能力は強力になっていきます。ここでは、Bランクの説明となります。以下をどうぞ。
Bランクの心眼(真)
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
以上です。ちなみに、シロウとディルムッドは心眼持ちで、ランクも同じです。なので、恐らくですが第五次でのランサー戦法を使うのは分が悪いと思われます。
余談ですが、作者の考えでは、ディルムッドは本来心眼のレベルはもうちょっとあってもいい気がしますが、心眼はあくまで鍛えられる技術なので、戦士として才能が有りすぎるディルは別の方面に強化されてるんじゃないかと思います。
後、全く関係ない余談ですが、書いている途中、シロウとアイリが絡んでいる所を想像したら、正直シロウがアレに思えてしまいました。アイリは外見的にセーフ(夫持ちなので本質的にはアウト)だけど、イリヤに興奮するのはちょっと・・・犯罪的かな?
ま、作者が一番好きなのはイリヤなんですけどね☆彡
ロリコンじゃないけど・・・